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滝野純一物語 第1話「エンジェルとガーディアン」
作者:こー   2025/08/31(日) 15:25公開   ID:5OJ6yzoy51A
北宇治高校吹奏楽部、夏が近づくにつれて熱を帯びる練習風景の中、滝野純一の心は別の熱に浮かされていた。中世古香織への秘めた想い。そして、その告白を阻む最大の壁──吉川優子の存在だ。
(まずい、優子に見つかったら終わりだ……)
滝野は心の中で呟く。滝野は、香織に憧れて吹奏楽部に入部している。しかし、相手は吹奏楽部のマドンナだ。告白したら、周りの部員に何を言われるか分かったものではない。滝野は香織への恋愛感情を隠しつつ、誰にも気づかれないようにキュンキュンしている。
しかし、優子の香織への執着は尋常ではない。まるで香織の周りに目には見えない結界が張られているかのようだ。あのリボンがレーダーになっているのではないかとさえ疑うほど、優子の香織への監視は徹底している。
告白は、優子に知られないよう、完璧な「隠密作戦」で実行するしかなかった。
部活中、滝野は優子を避けるように動いた。必要最低限の会話しかしない。それも、業務連絡のように簡潔に、感情を込めずに。
「吉川、譜面、終わったか?」
「……はい」
優子が訝しげにこちらを見ても、滝野は決して目を合わせない。すぐに視線を外し、別の作業に没頭するフリをする。少しでも視線が合えば、その奥に潜む企みを見透かされそうで怖かった。
休憩時間も同じだ。優子が香織の隣にいる間は、決して近づかない。遠巻きに様子を伺い、香織と優子が離れた一瞬の隙を狙う。だが、その隙はあまりにも少ない。優子は香織の影のように寄り添っているのだから。
(まるで忍者だな、俺……)
息を潜め、感情を殺し、ただひたすらに機会を伺う日々。周囲の部員たちは、最近の滝野の変化に気づき始めていた。「なんか滝野、最近元気なくない?」「やけに静かだよね」そんな囁きが聞こえてくる。だが、滝野はそれどころではなかった。全ては、香織先輩への告白のため。優子の鉄壁の守りを突破するためだ。
優子に気づかれずに告白する。それは、あまりにも困難なミッションだった。しかし、滝野は諦めない。香織への想いが、彼の隠密行動を支える唯一の原動力だった。

−−−−−

純一の隠密作戦は、結論から言うと奇跡的な成功を収めた。
ある日の放課後。部活の終盤、楽器を片付け、続々と部室を後にする部員たちの中に、優子の姿があった。香織先輩の隣で、いつものように会話を交わしながら、二人で帰路につくようだ。
(今だ!)
滝野の直感が告げる。優子が香織先輩から少しだけ離れた一瞬。優子が他の部員と挨拶を交わすため、ほんの数秒だけ視線を外したその隙を、滝野は見逃さなかった。
「中世古先輩!」
思わず、普段よりも少しだけ大きな声が出た。香織は振り返り、優子も釣られてこちらを見る。優子の視線が、滝野を射抜く。だが、優子が何かを言うより早く、滝野は香織の元へ駆け寄っていた。
「少し、お話が……」
滝野は、優子の存在を無視するかのように香織に真っ直ぐ向き直る。香織は、普段見せない滝野の真剣な表情に驚き、優子をちらりと見た。その時、優子の目が大きく見開かれる。
「あ、滝野……!」
優子が何かを察して動こうとするが、その動きはコンマ数秒遅かった。
「中世古先輩のことが、好きです!」
滝野は、誰にも聞こえないほどの小声で、しかしはっきりと告げた。その瞬間、世界から音が消えたかのようだった。香織は目を見開き、そしてゆっくりと視線を落とす。優子は、その場に立ち尽くし、信じられないものを見るかのように滝野を見つめていた。
数秒の静寂の後、滝野は深々と頭を下げた。優子の叫び声が聞こえる。しかし、もう遅い。告白は、優子の目を掻い潜り、確かに香織に届いたのだ。

帰りの電車。冷静になっていた純一は、1人ごちる。「ああ、明日学校へ行きたくねえな…」
今日は水曜日である。まだ学校が2日もあるのだ。当然 学年が同じ優子とは、ほぼ毎日顔を合わせることになる。何を言われるか分かったものではない。
「オレ、この後どうなるんだろうか…」そう思い、陰鬱な表情になる純一なのであった。

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