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滝野純一物語 第3話「優しさに包まれて」
作者:こー   2025/09/14(日) 00:37公開   ID:5OJ6yzoy51A
例の告白以降、滝野純一は、中世古香織が今まで以上に自分に優しく接していることに、薄々気がついていた。それは練習後の帰り道、偶然二人きりになった時だったり、楽器の手入れの仕方を教えてくれる時だったり、以前よりも頻繁に、そして香織はより親密に話しかけてくれるようになっていた。
「香織先輩…もしかして、僕を振ったことに、罪悪感を抱えているんじゃ…。いや、そんなわけはない。僕みたいなやつが香織先輩とは釣り合うわけがない、それだけの話だ。そんなはずはないと信じたい…」1人ごちる滝野は、携帯で「興味のない人からの好意」と調べる。
(クズの本懐か…耳に痛いタイトルだな…。俺のことかと思ってしまうねぇ…)
それからも、滝野は香織に優しくされる。かすかな罪悪感を覚える滝野。
「俺のこと、気持ち悪いって思ってるのかな…。いや、香織先輩に限ってそんなことはない。そんなことはないと信じたい…」
北宇治高校吹奏楽部は、全国大会に向けて、一同が練習している。そんな中、滝野は影を潜めようとしているが、異様な雰囲気はやはり目立つ。
トランペットパートの1年生・高坂麗奈が、同パートの加部友恵に話しかけている。
「滝野さん、どうしたんですか?」
「滝野?ああ。何日か前に、香織先輩に告白したらしいよ。結果は…言うまでもないね」
麗奈の顔からは「なんて身の程知らずなことを…」という言葉が浮かんでくるようだった。
(チェッ。香織先輩に告白するって、まるで重罪みたいだな…。何の罪だ…。不敬罪か?まあ確かに不敬罪だろうが…)

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そんな日々が続いたある日の休み時間。純一は、隣の席の塚原奏汰つかはらかなたに話しかけられる。奏汰は、いわゆるメガネっ子であり、ツインテールの三つ編みで、黒縁眼鏡といった出で立ちである。親友の石井英洙いしいひであきや、アニメ好きで古いアニメにも詳しい小倉哲夫おぐらてつおらと、アニメ部に所属している。
「ねえ滝野。好きな子っている?」今一番聞かれたくない質問をされる滝野。動揺を隠しながら、平然としたふりをして答える。
「え?なんでそんなこと聞くの?」
「なんか、最近の滝野くん、ちょっと悩んでる感じがするからさ…。どうなのかな〜って思ってさ」
自分の気持ちを的確に言い当てられている。滝野は、意を決して答える。
「まあ…いるよ…。部活の先輩。だけどさ、俺ごときじゃあの人とは釣り合わないよ。そういう塚原さんは、いるの?」
「私?進学クラスの中川夏紀さん」
よりにもよって、吹奏楽部のメンバーか…。そう思う滝野。俺から見ても、中川夏樹はカッコいい雰囲気を漂わせている。こういうタイプは女子にモテるとも思う。
「中川さん…か…。どこで知り合ったの?」
「前に同じ塾に通ってたんだ。勉強教えてもらったし、すごく優しかった。かっこよかったしさ」塚原の声は弾んでいて、本当に嬉しそうだった。
「中川さんが好きなんだ…」
「中川さんの魅力は、男子には分からないか。女子たちはね、ああいうかっこいい感じの女が好きなのよ」
自分が考えてること、当てられてるじゃねえか!
「そうなんだ。オレ、中川さんと同じ部活だけど、やっぱり羨ましい?」
「まあね。もしかして、中川さん狙ってる?」そう探りを入れる奏汰。
「いやいや、そんなことないよ…」
「憧れてるの?」
「うん。中川さんに憧れてる」即答する奏汰。
「あーあ、私、吹奏楽部に入ればよかった…。あの子に好きって言いたくて、吹奏楽部に入った女子、きっといると思うよ?」
「はは、そうかもね…」
(いやそれ俺!まさに俺!俺は中世古香織という人に憧れて、吹奏楽部に入ったんだ。恋愛目的で吹奏楽部に入った男が、あなたの目の前にいますって…!)

音楽室。トランペットパートの面々―高坂や加部からの哀れみの視線が、滝野に突き刺さる。麗奈の目からは「香織先輩にはきっと彼氏がいるはずだ、いないわけがない。見てるこっちまで気の毒になる」と、友恵の目からは「滝野、あんたは馬鹿だね…」との声が聞こえてくるようだった。
陰鬱な気分の部活が終わった後。滝野はすぐに昇降口に、やや駆け足気味に直行していた。昇降口に差し掛かったところで、滝野は優子に呼び止められた。
「ねえ、滝野」
優子の声は、告白の日の冷たさとは違い、どこか優しく、そして憐れむような響きがあった。
「やっぱり、あのこと?」
「うん。香織先輩に告白するなんて馬鹿なことしたけど、これで目が覚めたでしょ?」
「ああ…。本当に、周りのやつらの視線がすごくて…」
「当たり前よ」優子は、滝野の方に優しく手を置いた。
「何かあったら、私に相談しなさい。私にできることなら、何でもするから」
優子の手は温かく、その言葉には、滝野の想像をはるかに超える優しさが込められていた。それは、滝野の恋を否定しながらも、その心に寄り添おうとする、優子なりの精一杯の気遣いだった。

電車の中。イヤホンを装着し、携帯電話で「ハレ晴レユカイ」を聞く滝野。あるキャラの声が、誰かに似ている。そんなことを思う。
「ああ…学校行きたくねぇな…でもな…オレ、明日からどんな顔して学校行けばいいんだよ…」そうつぶやいている。
まあ、俺ごときでは、香織先輩には釣り合わない。例のオーディションの時も、優子は拍手できたけれど、俺は出来なかった。そんな俺に、香織先輩に関わる資格はないんだ、そう自分に言い聞かせる。
夏場とはいえ、薄暗くなっている。薄暗い外が、今の自分の気持ちを表している気がした。
滝野は、中世古香織と吉川優子という二人の女の優しさに、深く感謝しつつも、押しつぶされて圧死してしまうかもしれないと思うのだった。


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