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滝野純一物語 第5話「残響の恋慕」
作者:こー   2025/09/29(月) 18:01公開   ID:5OJ6yzoy51A
滝野純一は、中世古香織に抱いている恋愛感情、妄執にも似た感情を捨て、新たな未来へと進むと決意した。しかし、どうしても忘れられない。
当たり前だ。同じ部活に所属していて、しかも向こうは目立つんだ。忘れられるわけが、ない。
さすがに、香織や吉川優子から優しくされる頻度はなくなってはいないものの、いくらかは減った。香織と有子の優しさ、これが罪悪感を掻き立てられる。
「よう滝野。最近元気ないな。何かあったか?」親友の石井英洙いしいひであきが、滝野にそう話しかける。
「いや、別になんでもない」と返すと、英洙は「そうか。滝野って、いつでも元気かと思ったが、そんなことないんだな」と言った。
部活中も、身が入らない。コンクール出場に向けて、練習が厳しくなっているというのに、ボケーッと遠い目になってしまう。
電車の中。滝野は夢の中にいた。「お前、中瀬古香織さんに告白したらしいな。よくやるわ。でもな、香織先輩には、彼氏いるだろうよ」そんな声が聞こえてくる。
「明日から生きづらくなるな、滝野…滝野…」そんな声が聞こえ、目を開けると、グレーのブレザーを着た、青みがかったミディアムヘアの女がいた。
「…き、清原さん…」
清原志織きよはらしおり、滝野の中学時代の同級生で、一時期席が隣だったこともある。別々の高校に進学したが、今でも親交はある。
「あんた、もう最寄り駅よ?いい加減起きなさい」
志織のこの言葉に、滝野の眠気は吹き飛び、電車を降りる。
駅のホーム。純一は、ベンチで志織と話している。
「疲れてるの?」
「まあ、ちょっとね…うちの部活、新しく来た顧問のせいで大変なんだよ…。練習で、大変だしさ」嘘は言っていない、「嘘」は。
「いつも元気な滝野が、居眠りするなんてね…。練習、頑張りなね?」
「ありがとう、清原さん」
「またね、滝野」そう言って、颯爽と去っていく志織。
「やれやれ…寝てしまったようだ…」志織が去った後、そう独り言ちる滝野。確かに、この数日間で、様々なことがあった。そりゃあ、眠くもなるだろう。

翌日、滝野は同級生でクラス会長の天白昶てんぱくあきらとともに、学食で食事をしながら話していた。
「にしてもこの唐揚げうまいな。北宇治の唐揚げ本当にうまい」
「そうだな。月見そばもいいぞ」
「はは。食べてみるよ」
「なあ天白。昨日はオレ、電車の中で居眠りしちゃってさ…。たまたま居合わせた中学時代の同級生に起こされた」
「ああ、解る。お前、初犯か?」
「初犯…だな…。最近ちょっと疲れてたから」
「俺は何回かあるよ。いつだったか、駅に着いて目が覚めて、ドアが閉まる寸前で急いで出てったよ…」
「お前は常習犯かwお前のその話、昨日のウチみたい…。というか、ウチを超えてる…」
「でも、良かったじゃないか。起こしてもらえたんだから」
「そうだな。幸運だった」
「あ、やべぇ、次の理科の授業、移動教室だったんだ。お前も早く準備しろよ〜。早くしないと鍵がしまっちゃうぞ〜」そう言って、天白は去っていった。

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翌日の4時間目の終わり。隣席の塚原奏汰つかはらかなたが、滝野の肩を叩き、話しかけてくる。
「ねえ滝野。今日の昼休み、ちょっと屋上に来てよ」
屋上には、釣り目に茶髪のポニーテールが似合う女―中川夏紀と、青みがかった長髪の、繊細で儚げな印象をたたえている女―鎧塚みぞれがいる。
滝野は、やや動揺しつつも、いつものように明るく振る舞う。夏紀だけ、みぞれだけだったら、ここまで動揺はしてなかったかもしれない。だけど、吹奏楽部員が2人もいる。だが、この二人、しかもこんなプライベートな空間で何を話すというのか。
動揺を悟られまいと、純一は無理にいつもの明るい笑顔を貼り付けた。
彼が抱える恋の悩みや、疲労や、中学時代の同級生との邂逅が、一気にこの屋上の光景によって、新しい予感のざわめきに塗り替えられようとしていた。
早速、奏汰は夏紀に近づく。
「わたし、夏紀さんにずっと憧れてるんだ。ほら、中学校の時、同じ塾に通っててさ。覚えてない?消しゴム忘れちゃった私に、消しゴム貸してくれたじゃんか。あの時は嬉しかったな〜」
夏紀の顔が、少しほころびる。
「あー、そんなこともあったね。覚えててくれてるんだね。ちょっと嬉しいわ」
「忘れるわけ、ないじゃないの〜」
奏汰が夏紀から受けた心温まる思い出、という名の惚気話のろけばなしを話している。仕方なく滝野は、みぞれに話しかける。
「ねえ、鎧塚さん」
「…どうしたの?」普段は滅多にしゃべらないみぞれ。喋ることは当然だが、驚いてしまった。
「塚原、中川さんのこと好きすぎでしょ…」
「そうね。私から見ても」
「消しゴム貸してくれたの、確かにいい話だけど、それだけで、ここまで好きになるかな?」
「それだけで、十分だと思うよ。私も、気にかけてくれる人に、すごく感謝してるしさ」
「吉川優子…かな?」
滝野がそう言うと、みぞれは無言でうなずいた。
「吉川、俺にとっちゃ怖くて嫌な女だよ。香織先輩のこと好きすぎてさ…」
「確かに、そう思うかもしれない。だけど、私にとっては、優しいクラスメイト。優しい子って書いて優子。名は体を表すって、本当なんだね」
一方の奏汰は、夏紀に対して、似たようなことを言っていた。
「わたしの何が好きなの?」夏紀はそう問いかける。
「まず顔。クールでかっこいい感じでしょ。次に性格。気遣いができるじゃんか。まあ、それぐらいかな…」
「顔と性格って、もう全部じゃん」
「図星だ〜…」
「私のことを追いかけて、北宇治に入ったの?」
「違うよ。だけど、入学式の時に『中川夏紀』って名前を聞いたとき、嬉しくなった。運命だと思ったね、あの時は」
「憧れてるんだね、私に。それがひしひしと伝わってきた」
「この高校に入ってよかった。だって、夏紀さんと同じなんだもん」
「そこまで言う?嬉しいけどさ」
「言っちゃうよ〜いつか夏紀さんと2人きりで遊びたいな〜」
「なんか…ありがとう。私のことをこんなにも好きになって」普段のクールな表情が、少しだけ崩れていた。
その夏紀の表情を見て、笑顔に満ちる奏汰。「私、夏紀さんに憧れてる」

放課後。滝野は奏汰に「今日、一緒に帰ろう?」っと言われる。今日は部活が休みの日。断る理由は滝野にはなかった。
「お前、中川のこと好きすぎだろがよ〜」
「滝野、あんたがあの時の私と同じ状況に立ったら、絶対に夏紀さんのこと好きになってるよ〜」
「それは…まあ確かに…なるかもね…」
すると、そこで校内放送が流れる。「今日も本日も、下校の時間となりました。速やかに下校しましょう」
「ねえ、放送部の中北智花なかきたともかさんって知ってる?」
「まあ、名前だけは。うちの学校、放送部も強いからな…」
「この声がその中北さんの声だよ〜。あの人、中学時代から放送委員でさ、私は中北さんの声が好きだったよ」
「そうなんだ、実は俺も、中北さんの放送、好きなんだ」
「本当?嬉しい」
香織先輩にはフラれてしまったが、塚原奏汰との何気ない会話に代表される穏やかな毎日が、続いていくと思う滝野なのであった。


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