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東京所轄刑事物語 第8話「呪いの村」
作者:悠一   2025/03/22(土) 18:17公開   ID:5OJ6yzoy51A
俺は上野中央署の署長室に来ていた。貫禄ある容貌の白髪が少し混じった角刈りの男性―署長の岩中大介さんがいる。「鬼のガンさん」と呼ばれる強面だが、人情味のある刑事だったらしい。
なんで俺が署長室にいるか。問題を起こして呼び出された……というわけではない。わけあって、有給休暇を使うためだ。
「休暇か。何かあったのか?」
「ちょっと実家のある、金沢のあたりに…」
「お前の実家、金沢か。いいだろう。ちょうど今は暇だから、お前ひとりが欠けても大丈夫だろう。気を付けて行って来いよ。」

署長室から出てくると、豊原さんが待ち伏せていた。
「今江くん?金沢に何しに行くの?」
瀬戸の野郎、豊原さんに喋りやがったのか…。
「ちょっと実家に…」
「実家?あんたの実家東京でしょうよ。」
しまった。前に親のこと話したことがあったんだった。
「あれ?そんなこと言いましたっけ…?」そう返したが、それが通用するわけもなく「何しに行くのよ。話しなさいよ。」と問い詰められた。
仕方なく、俺は本当のことを話した。
「……幼馴染から、助けを求める手紙が来たんです。」
遡ること二週間前、俺のマンションに手紙が届いた。「丘村志織」…聞きなれない名前だが…?ん?志織…幼馴染に佐伯志織というのがいたな。中学1年の頃に合唱練習で遅くなった時、一緒に家まで歩いて帰った。だが2年生の時、父親の仕事の都合で転勤していった…。
〈若林くん、警察官になったんだ。立派になったね。
前置きはこれぐらいにしますが、そんな若林警官に、助けてほしいことがあるんです。石川県の金沢市にある大森山のふもとにある笠穂村に来てください。〉
「助けを求める手紙…ねぇ。それはまた、ずいぶんと物騒な手紙じゃないの。」有子の口角がわずかに上がる。
「だから、個人的な要件ですから」俺は必死に抵抗する。
「個人的な要件で、わざわざ休暇まで取って金沢に?いいわ。で、空港にはいつ行くの?」
「まさか…豊原さんも…」
「当たり前でしょう?あんた一人で何かやらかしたら、後始末するのは私なんだから。それに、私も有休、溜まってるから。」
そう言った豊原の表情は、事件を嗅ぎつけた猟犬のようであり、厄介な弟の面倒を見る姉のようでもあった。

「明日の朝一で空港に行こうと思ってます…。」
そして、搭乗時刻よりも早めに空港に到着すると、チェックインカウンターの前でスタジャン姿の豊原さんが待っていた。当然のように、手には小さなキャリーケースを掲げている。
「早かったわね。今江くん。早くするわよ」
「豊原さん…。」
豊原さん、かっこいい…。そう思ったが、俺は平静を装う。
「金沢で何が待ってるか、この目で確かめに行くわよ。」

飛行機が小松飛行場に到着した。臨戦モードであるし、おそらく豊原さんもそうであろう。赤のスタジャン、攻撃的な心境を表した服そのものだ。

山のふもとにある集落だが、一応バスは通っているようだ。
「あ、すいません。ちょっと…」俺はそう言い、バスに乗った。
俺は「丘村」という表札を探し、ようやく見つけた。立派な門構えの和風の家だ。
奥から、黒のワイシャツの上からモスグリーンのカーディガンを着た貫禄のある黒ひげを生やした初老の男性が出てくる。
「あの…すいません…」
「ああ、あなたがお客さんですか。私が丘村家当主・丘村建夫おかむらたけおです。」
「あ、私…志織さんの幼馴染の今江と申します。」
「志織の…?」
「はい。」
「そちらの方は?」
「私、今江の会社の先輩の豊原です。金沢に一度行ってみたかったもので、無理を言って…」

そして応接間に案内される。応接室の外には、ラベンダーの花がプラントに植えられている。若い女と、彼女より数歳上であろう男が来る。
「あ、今江くん!」
「なあ志織。この人が前に言ってた…?」
「うん。」
「はじめまして。私は志織の夫・彰斗あきとです。」
「実は、ここ数日、周囲で変な出来事が起きてるんです。」
有子は、彰斗に話しかける。
「あのー、ちょっといいですか?」
「なんでしょう。」
「建夫さんは応接室に、ラベンダーの花を植えてますよね。誰かを待っているんですか?」
「…ここだけの話ですよ。親父の弟です。うちの親父の弟、25年前に麻薬密売の疑惑を掛けられて、失踪してるんです。だけど親父は、無実を信じてずっと待ってるんですよ。」

外。高そうな濃紺のスーツを着た中年男性と、彼より数歳下のように見えるグレーのパーカーを着た男が揉めている。
「ふざけんな!俺はお前らの手伝いするために、幸大建設を辞めたんだ!それもこれも、俺の人脈を利用するためだったんだろう!」
「何のことだよ、お前には関係ないだろ。貴様、従弟とはいえ、根拠のない中傷は許さない」
「幸大建設って…」
「かつて民自党の大物議員と癒着が噂されている、黒い噂の絶えない会社よ…」
「そうなんですか。」
庄司隆樹しょうじりゅうきって覚えてる?」
「誰ですか、その人」
「やっぱり知らないわよね…。幸大建設の元社長よ。庄司は、元民自党幹事長の建設族議員と大学の同級生だった。それがきっかけで、庄司は政界とパイプを作ったのよ。」
「彰斗さん。あのお二人は?」
「親父の弟の則彦さんと、その従弟の信也さんです。則彦さんは詐欺まがいのことで金もうけをしているという噂があって…。」

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翌日、サイレンの音で目を覚ます倫哉。丘村家近くの空き地で、パトカーのサイレンが鳴っているのである。まばらな野次馬に紛れ込む倫哉と有子。
現場に立っていたのは笠穂村の駐在警官・沼淵秀典ぬまぶちひでのりと、金沢北署の刑事・多加志魔慎也たかしましんや。沼淵は眼鏡を掛けた初老の男性で、多加志魔は相手を威嚇するような強面の男。
「あ、じゃあ、ワシはもう帰っても、良いですかね?」と言い、多加志魔に「今は事件中ですよ」と注意されている。
多加志魔「免許証から身元が分かりました。被害者は丘村則彦さん55歳、東京都内で不動産コンサルタントをしている男です。」
沼淵「経営コンサルタント?」
多加志魔「はい。と言っても、詐欺まがいの手段で金を稼いでいたという噂もあって、評判のよくない男です。とりあえず、怨恨の線で当たるとするか…」
そこに有子が割り込んでくる。
「ちょっといいですか?私も捜査に加わって」
「あんた、民間人でしょ。」
「いや、警視庁の刑事です。あなた方の邪魔はしません」
「警視庁…。まあ、一応は…」

多加志魔、今江・豊原を尾行する影が。尾行に気づいた豊原が、一本背負いで男を倒す。「いや、違う…違うって…」

男は、財布から名刺を差し出す。
《奥村自動車販売 社長 奥村俊輔》
「丘村なぁ…。高校時代は、優しい奴だったんだ。アイツが、詐欺まがいのことをしてたなんて信じられん。信じたくもない。ましてや、丘村の家は、25年前にも…。これ以上彼らの身に不幸が降りかかるのは、僕も見たくないですよ、本当に」
「25年前、則彦の兄が麻薬密売の疑惑を掛けられて失踪してるんです。」
「麻薬の、密売」そう言う多加志魔。
「ええ。則彦の代は3人兄弟だったんです。上から建夫さん、俺の高校の同級生だった文二、則彦の三兄弟で。だけど25年前、この街で麻薬が蔓延して、密売疑惑が浮上したんです。何者かが、丘村文二は麻薬の密売の犯人の一人だという密告電話が入ったらしくて。
だけど、俺は今でも、文二は無罪だと信じています。俺は文二の同級生だ。奴を信じなきゃいけない。そうじゃなきゃ、奴に顔向けできないよ。それに、もし疑惑が本当なら、遺族が気の毒ですもの…」
「では、どうして失踪したんですか?」と尋ねる豊原。
「さぁ…。しかし、当時は北朝鮮のスパイが暗躍してた頃です。もしかしたら、拉致だったのでは?と、思います…」

客間で考え込む今江と豊原。
「今回の殺人事件、則彦の死、大手ゼネコン社員の親戚を利用した闇ビジネス、25年前の麻薬蔓延事件、そして、麻薬密売の疑いを掛けられ失踪した、丘村文二…」
「一体、何があったんでしょうか…」と言いつつ、今江は豊原の方で眠ってしまった。
「倫哉。寝室まで運ぼうか」そう言って、寝室まで今江を運ぶ豊原。
(私、昔っから体育は得意だったのよね。身長も高いし、今でも梁川久美子ちゃんとボクシングエクササイズをやってる。今江くんぐらい簡単に持ち上げられるのよ)
寝室でも、一人考え込んでいた。
(丘村文二は、今どこで何をしているのか…)
そこで、あることに気づく。
(どうしてあの人、あんなことを言ったんだ…まさか、まさか…)

翌朝。豊原、豊原にたたき起こされた今江、建夫、彰斗、志織、信也、奥村。
「真相がわかりました」そう言う豊原に、彰斗が「誰なんです」と問う。
「まず、文二さんは死んでいます。そして、その犯人は、則彦さんも殺しています」豊原のその言葉に、建夫は悲しげで、どこか納得したような表情をした。
「犯人が、文二さんが死んだのを示唆する発言をしたからです」
信也「犯人って?」
「奥村さん、あなたは以前、文二さんが『遺族が気の毒です』と言いましたよね。遺族というのは死者の家族です。丘村家の人間ならともかく、あなたはなぜ『死んでいる』と断言できたんですか?」
「何を言ってんですか」
「25年前、この街では麻薬密売の噂があったそうです。」
「ああ、ありましたね。首謀者は『内海企画』の内海社長だって話ですけど、今となっては本当のところは…。」
「確かに首謀者は、内海社長でしょう。だけど、あなたも加担していた。動機も分かっています。25年前、あなたは父親から会社を受け継ぐ一方、パチンコや競馬にのめり込み、暴力団系の金融会社に借金をしていた。その暴力団というのは、内海が当時在籍していた地元の暴力団・敬洋会です。」
「待ってくれよ。だから…」
「文二さんは、事件とは無関係です。それどころか、事件を調べていたんです。誰の助けも借りず、たった一人で」と今江。
「あなたが、借金のカタに、敬洋会の麻薬密売を手伝い、その報酬を借金の返済に充てたんです。全ては貴方の犯行だったんですね」と豊原。
「奥村…取調室開けて待ってるぞ」続けて、多加志魔がそう言う。
「あーあ…」そう言いつつ、奥村は崩れ落ちた。
「全部…時効だったのに…。俺だって…この25年間、苦しんできたんだ…。親友の文二を、この手で殺した…。それなのに、則彦は俺のことを強請ってきたんだ。アイツは、死んで当然のクズだったんだよ。俺が殺してなくても、誰かが…」
「奥村さん。少なくとも、あなたには則彦さん殺しの罰が待っています。情状の余地のない、重い罰が…。」


その数日後、内海企画に強制捜査が入った。内海は25年経った現在でも、犯罪行為を繰り返しており、債権者への過剰な取り立て、在留期限切れの外国人への不法就労など、数々の悪事が明るみになった。そして、同じく敬洋会と繋がりのある産業廃棄物処理業者「真壁興業」社長・真壁英利も警察で事情を聞かれることとなった。

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数日後、倫哉は志織から送られた手紙を読んでいた。
「今江くん、ありがとう。当然、父さんは今回の件でショックを受けてる。だから、私たちが父さんたちを支えていかなければならない。これからも頑張っていくわ。今江くんも、頑張ってね」
「志織さん…」ニヤニヤする倫哉の椅子に、忍び寄ってきた豊原が蹴りを入れる。
「ちょ、何するんすか」
「丘村家は、ようやく日常に戻った。あの子も、自分たちでやっていけるわよ。私たちも、日常に戻りましょう?」
「…はい!」


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■作者からのメッセージ
前回は船で、今回は飛行機ですね…。
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