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地味な男-今日も彼は挑戦する
作者:ナナシロダ   2023/02/27(月) 12:37公開   ID:xi3zt2izWVM
※本作は添え書きに元作品『変人さん』とありますが、当作品の概念及び要素のようなものを持ったオリ主であり、『変人さん』のキャラクター自体は登場しません。
少々下品な表現を含みます。
ご理解お願いいたします。

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シェアハウスーーそれは複数人でひとつの住居を共有することだ。
管理人且つ住人のシロダをはじめ、それぞれ何かしらの目標を持つ学生達が暮らす家で起きた、『7人目』の住人を巡る一騒動があった……
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「あっ、ヤバみな良きフレーズ閃いちゃった的な!」
リビングで食卓を囲む一同、機嫌良く声を上げたのはヘッドホンを首に掛けた女子・ミツバだ。
ロックを好む彼女は自身もミュージシャンに憧れ、作曲を思案することが多々ある。
「こーら。食事中なんだから後にしなさい。」
ロングヘアのアカネが苦笑交じりに嗜めると周りも笑う。
女優志望のしっかり者な彼女とのやり取りも日常の一つだ。
そして……
「そうそう、先ずは食うのが『いーと』思うぜー」
ほくろのある口元をニヤつかせながら青年・フジが言い放った瞬間だった。

・・・・

その場にいた一同が黙りこくり、空気が凍りついた。
芸人を目指す彼は度々ギャグを咬ますが、レパートリーは駄洒落ばかりで陽気ではあるがムードメーカーには成り切れていない前途多難な男だ。
大体はシロダが雑にあしらうなり、彼と腐れ縁の長髪を結った気怠げな青年・アイカワがだりぃと呆れるなりで終わるまでが日常茶飯事だが、その日はどうやら違うようで……

「ブッフ!!!」
ッ!?突如フき出す声が響き、一同は思わずそちらに視線を向ける。
本人も思うところがあったのだろう、繋げるように不自然に咳き込む彼に一層彼らは困惑した。
「ゴホッゴホッ!?ご、ごめん急に…!」
茶色いベストを着て眼鏡をかけた青年ーーさっぱりとした短髪とは裏腹に猫背気味でやや頭を垂れている彼は無理矢理咳で誤魔化しているが笑ったのがバレバレだ。
「ちゃ、チャギ?お前……」
「アッウッエッ、ごめごめんねいきなり笑って、気持ち悪かったよね!?」
いきなり!?万年スベり男フジがタイミングからして期待に顔を輝かせるも、しどろもどろな彼の言い分に困惑するとミツバとシロダが肩を叩く。
「んま、思い出し笑い的な?」
「涙拭けよ。」
「あっゴメンネ、本当に。またボクが余計なことしちゃって……」
「オロオロすんなよ、気にし過ぎだ……」
ガーンと残念そうな表情を浮かべるフジを尻目にアイカワが宥めるも、チャギは空になった食器を慌てて重ね立ち上がった。
「だ、ダイジョブダイジョブ。ご馳走様でした……みんな喉渇いてるよね?水持ってくるよ……」
えー!?彼の様子に声を上げたのは小柄な女性ユズーー漫画家を目指す傍らで住人全員の食事を含む家事をこなす面倒見の良い女子だ。
「も、もぅ終わり!?チャギ君もっと食べなよ!」
いつもながら折角の料理を殆どお替りもせずに済ませてしまう彼に思わずやや不服そうな口を開くが、当の青年は全員に水の入ったコップを配ると申し訳無さそうにそそくさと自室に戻ってしまった。
へたり込むフジに困ったように首を傾げるユズーーやや気まずい空気が流れる中、アイカワがやれやれと首を振る。
「たりぃなぁ、シロダ。この空気どうにかしてくれ。」
「あ、ああ……もう随分経つし悪い奴じゃないんだけどなぁ。」
「そうそう、なんだかんだお掃除とかも手伝ってくれるしね。」

実を言うとチャギは彼ら6人よりだいぶ後に入った者だ。
元々人見知りらしいがそんな自分を少しでも変えたくて入居を希望したと言っていた。
夢については特に聞いたことがないが、わざわざそのうえでシェアハウスを選んだところからしてさしずめ『他人に慣れる』と言ったところだろうか。
掃除やハウスメイトの用事を誰より率先して手伝うなど気が利く面を持つ一方で、口数が少なくおどおどと遠慮がちなその態度は、さながらサークル仲間のような距離感になっているシロダ達にとっては浮いていた。
前述の通りシェアハウスは他人同士が共同生活する場であり、他者との交流は必須となる。
確かに気配りができるのは良いことだが、やはり彼自身の動機も考えるともっと心を開いてもらった方が良いだろう。
本人の為にも、ハウスメイトの為にも、何より家の権利者であるシロダも彼が馴染んでくれる方が嬉しい。
さてどうしたものか……ハウスメイトもとい友人達もそれは同じだ。
どうにかもっと仲良く、チャギも楽しくここで暮らしてくれないものか……ややモヤついた空気が残るものの、彼らは食事を続けた……
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夕飯を終え、それぞれが思い思いに自室で過ごしている時に事件は起こった。

「うわっ!?!?」
バッターン!!

なんだ!?突然の絶叫と共にけたたましい音が響くと、咄嗟にシロダがドアを開け直接面しているリビングに躍り出た。
同時にガチャガチャとドアが開き他のメイトも出てくる。
「なんだぁ?……っ!?」 
騒々しい音に面倒臭そうに頭を掻きながら風呂場から出てきたのはアイカワ、そこにいた全員が音の原因らしき光景に困惑した。
「フジ・・・?」
「チャギ君?」
「どうしたの…?」
「あっ、えーーっと……」
「あっ、あの、ごめっごめ……」
倒れ伏すチャギと駆け付けた一同に気まずそうな顔をするフジ……見てみれば愛用の紫トレーナーがチャギの腰回りに被せられているではないか。
何事だと一瞬事態が飲み込めないが、よくよく目を凝らすとその違和感が鮮明となる。
見ればチャギのズボンの丈が妙に短く見えるではないか。
フジが被せたのであろう上着より低い位置から股下とベルトがチラつく光景……つまりはそういうことだろう。
途端、女性陣が血相を変え、
「うわっ、フジあんたマジで!?」
「チャギ君、大丈夫!?」
「フジ、お前……」
「待て待て待て待てぇ!?!?」
口々に言うアカネやユズ、シロダの言葉に思わず声を荒らげてしまった。


「さて、話せることから話してくれないか…?」
なんとも言い難い表情で6人が見守る中シロダが促すが、誕生席で正座をするチャギはその口元をワナワナと震わせ、全身から汗が止め処無く流れていた。
フジによれば、喉が渇きサイダーでも飲もうかとキッチンを目指したところ、目の前にはズボンを下げ尻を出したチャギが歩いていたらしい。
「うわっ、何してんだ!?」
「へぁ!?あっちょ!?!?」
思わずフジが叫び、突如呼び掛けられたチャギは慌てたところ足元が縺れて倒れてしまったらしい。
マズい……ガタガタと音が聞こえたフジは咄嗟に脱いだ上着を彼に被せることで、素肌の部分が女子に目がつかぬよう配慮したのが顛末とのことだ。
「だから俺が疑われるのは心外だぞ。」
「だからソレは悪かったってばぁ〜」
「何にせよ言いたいことはコイツみてぇに言っとけよ。出なきゃ俺らもお前のことが何もわからん。」
拗ねる彼をミツバが宥め、アイカワも付け加えるように促すと、肩を震わせていたチャギはやがて正座のまま一歩分後退するなり、
「ゴッ……ゴッ……」
両手を床につき……
「ごめ、ごめんなさいっ……!!み、皆を傷付けたり、イヤな思いさせたりするつもりは無かったんだよぉ…!」
目に涙を浮かべ、勢いよく頭をつける彼に本日何度目かもわからない困惑をするが、彼は姿勢を改めながら一息ついて口を開いた。

「ぼ、ボク……つい気が抜けちゃっててさ。完全に家みたいな感覚になってたんだ……」
彼が言うにはこうだ。
元々地味で目立たない性分のチャギはそれを変えたくてシェアハウスに入ったのは先述の通りだ。
卑屈な気質から遠慮がちでかしこまったような振る舞いの目立った彼だが、彼も彼なりに少しずつこの空気に慣れてきていたらしい。
そんな彼は実家で用を足す際に、手洗いより前からズボンを脱いでしまう癖があるらしく、ここに馴染んだことに加え、誰もいなかったのも相まってソレが出てしまったようだ。

「その、えと…ごめんね。人に馴染めないボクにも皆優しくしてくれるからさ……家のつもりになっちゃって……」
この変質者にどれ程の罵声が来るだろうか、チャギは怯えながら必死に頭を下げ続け、沈黙が続く……

と、

「ふっ、ははは!」
っ!?最初に沈黙を破ったのは家主でもあるシロダだ。
どうなるかと思えば何を言うよりもまず笑い出す彼に思わずビクリと肩が跳ねながら恐る恐る顔を上げると、一同も釣られるように笑っているではないか。
だがそこに嘲りは感じない。
寧ろ暖かくすら感じる空気が流れているのが肌で解る。
え……なんで……?困惑しながら見回すチャギにアイカワが呆れながら言う。
「ったく、次から気を付けろよな。」
「でも、嬉しいよチャギ。お前もこの家に馴れてくれてるのがわかって良かったよ。」
「こうして一緒に住んでるんだから、遠慮なんかダメよ。」
「そーそー、ハメを外さない程度で『俺の家だ"イェ"ーイ!』くらいにならねぇとな!」
続くシロダ、アカネ、フジ。
「ほんとほんと、いつも手伝ってくれてありがとね。あと、ご飯もちゃんといっぱい食べてよねっ!」
「曲聴きたいならうちがオススメ教えちゃうよ的なっ!」
ユズ、ミツバ……こんなにも温かい気持ちになれたのははじめてだ。
顔を上げたチャギは笑いながら口を開く。
「み、みんな……!!ありがとうっ!こっ、これからも、よろしく……!」
こうして、7人目を迎えたシェアハウスはより賑やかになっていった……

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―――――
――

この住民にはまだ"秘密"があるみたい。
このあとの様子をこっそり覗きませんか?

・・・

「へへ……友達って温かいなぁ……」
自室の片隅に座りながら、地味な男・チャギは1人ボソリと呟く。
「男の子は格好良いし、女の子は可愛いし、みんな優しいし。ここに来れてよかったぁ。」
先に言っておくが、彼が地味で人見知りなのもそれを治そうとシェアハウスに来たのも彼らの情に感激したのも嘘偽りではない。
だが……
「はぁ…困った。自分ながらなんでこんな余計なこと思いついちゃったんだろうなぁ……」
人見知りをどうにかするだけならいきなりシェアハウスなどハードルが高すぎる。
だが彼は、地味で目立たない自分故に後ろ暗い願望を燻ぶらせていたのだ。
「『どれだけ一緒に住んで打ち解けても根底は他人同士』の大前提から成るスリル。フックク、そんな、そんなの、絶対楽しいじゃないかぁ……」
フヒヒッ、そこまでこぼしてから口元を抑えながらチャギは笑い出す。
彼が先程手洗いに向かう段階からズボンをおろしていたのは家の癖と言ったがそうではない。
『皆が家にいて且つ誰の目にも触れないタイミングを見計らって部屋からケツを出しながらトイレまで行く』
彼はたまたま見かけたシェアハウスの情報から想像を膨らませ、いつしかその緊張感を楽しんでみたいと思ったのだ。
「今回はうまく行かなかったけど、次回は成功できるかなぁ……負けみたいだけど、最初はパンツくらい穿いとこうかなぁ。」
しかもこの男、ソレがある種『目標』となってしまった為に皆から温情に受け止めてもらえた今回の一件で思い留まれそうにはない。
どちらかと言えば『変態さん』
「イヤ、中途半端だと却ってわざとらしいか、じゃぁ見られても平気な海パン……見せる気満々だよこれじゃッ!やっぱ逃げみたいだけど、まずは上着を着て咄嗟に隠せるとこから始めてみようかな……」

・・・今日は最初ということもあり、事故として受け止めてもらえたこの『変人さん』、果たして成功できれば良いものだが、もしまた失敗したら……ましてや女子に目撃された時、彼に二度目はあるのだろうか……

Fin


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■作者からのメッセージ
いつも通りなんの気なくアプリ漁って面白そうと思ってやったグローバルギアの『シェアハウス』、まさか今更沼るとこまで来るとは思いませんでした(苦笑
因みにユズ推しです。
何よりキャラに惹かれた上で後味悪い寄りのビターエンドひとつしか結末が無かったばかりに彼らの幸せだったり楽しかったりおバカやったりの話を見てみたいという感情を乱されてしまいました。
さて、オリキャラ・チャギ(地味な男)の願望は単純に私自身がプレイ中シェアハウスに対して思ったことをそのまま反映して話を書こうと思ったのですが、こんな話のためにトンデモキャラは出しづらいなと。
そこで、もうひとつの推しグロギアアプリ『変人さん』の要素を絡めたネタなら行けるかなと思い書きましたがこれはひどい(汗)

しかしここじゃないかもしれませんが色々とシェアハウス系の創作は書いていきたいところ……

テキストサイズ:9320

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