短編『魔法少女達の奇妙な物語』
(ドラえもん×多重クロス)



――なのは、フェイト、スバルは並行時空のミッドチルダへ飛ばされ、なのはの提言でその時空の自分の貯金を使ってホテル暮らしした。だが、案の定というべき流れでその時空の自分たちに事態が露呈。自衛措置で戦闘に突入した。

「うわあっ!?」

ドアを開けたフェイトはいきなり砲撃に包まれた。見覚えのある桜色の光。威力も。思い当たるのはなのはのディバインバスターかエクセリオンバスターのみ。だが、なのはは自宅にいるはずなのでそれはない。防御なしで壁に盛大に叩きつけられる。

(この抉られるような威力……!で、でも…
…)


なのははこれでフェイトを気絶させられればよしとして、エクセリオンバスターを室内で放った。過剰な破壊をしないように、40%以下の低出力に抑えてある。しかし心象としては本意ではない。

「ねぇ、フェイトちゃん。これで気絶させられると思うかい?」

「いいや、これで落ちたらお笑いものだ。たぶん煙に乗じてインパルスフォームに変身してるだろうな」

なのはの傍らにいるほうのフェイトは新フォームを纏って、テーブルに置かれている酒を飲み干していた。一見してふざけているようだが、顔や態度はすっかり戦闘モードに入っている。


「やれやれ……。自分自身と戦りたくはないんだがな……。」

フェイトは自分自身との交戦には乗り気ではないが、バルディッシュ・アサルトを天羽々斬モードにしている。今、戦っている自分自身と見分けをつけるためだ。

「バルディッシュ、ドアの外の反応は?」

『反応、急速に増大。バリアジャケットを展開したようです』

「まぁ、いきなり撃たれたらそうなるだろうな」

至って冷静な物言いである。声の感じもこの世界の彼女自身と比べると『ドスが効いている』印象を受ける。そこがなのはにとって、見分けをつけるポイントだ。

「私は時空管理局執務官、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。あなた達に聞きたいことがあります。隊舎までご同行願います」

「こんな郊外までわざわざご苦労さん。で、どういう意味かい?」

会話を聞くと、なのはが遊んでいるのがわかる。恐らく、壁の向こうまで吹っ飛んだ後に自分はバリアジャケットを纏って仕事を遂行しているのだろう。分かりきった事だが、これは多分詐欺罪の名目で調べに来たのだろう。。ただし並行時空の別の自分が自分のカードを使ったという場合はどうなるのか?それは未来世界の航時法(タイムマシン使用に関する法律)にもない事項だ。判断できるのだろうか。


「…事情を聞かせてください。あなたは何で高町なのは一等空尉の名を騙ったのですか」

「……別に騙った訳じゃないさ。それがあたしの名前だからさ。別に同姓同名の別人っていう奴じゃない。本当に『そうだから』」

「それはどういうことです?」

「煙が晴れた今ならあたしの姿が見えるはずだよ?目ん玉かっぽじてよーく見てくれよ」

その次の瞬間、フェイトはあまりの衝撃に呆気にとられ、開いた口が塞がらなかった。穴越しに見える被疑者の姿は紛れも無くなのはそのものだったからだ。

「えっ……?な、なのは……!」


バリアジャケットの意匠やレイジングハート……。全てがエクシードモード時のなのはと酷似していた。ただひとつ違うのは、彼女の背丈がなのはのそれより高いことだろうか。

「そう。色々とややこしいけど、あたしは“高町なのはだよ、『フェイトちゃん』」

――その声は紛れも無くなのはの声そのものだった。だけど……なのはは今、家にいるはずだ。変身魔法だろうか。いや、いくら外見や声を変えたところで、態度や仕草までは変えられないはずだ……。

フェイトはこの時空でもなのはを心の拠り所としている。それはフェイト・テスタロッサという存在がある限り起こる必然かも知れない。故に目の前にいる人物が自分の知るなのはではないことを直観的に理解した。

「いや……あなたはなのはじゃない!」

フェイトとしては、目の前の人物はなのはではないと断じたい気持ちから発した言葉だが、言われた方の当人からすれば予想通りの展開であるもの、精神的に来たらしかった。

(予想通りだけど……なんか精神的に堪えるなぁ、これ)

当人からすれば、同じ『なのは』なのだが、親友に否定されると精神的に堪える。だが、普通に考えれば同じ人間はクローンやコピーでもなければいないので、分からないわけでもないのだが。

「はぁっ!」



フェイトは壊れた壁越しにプラズマランサーを放つ。威力は室内用に抑えている。必殺のタイミングで放たれたそれは速度的に室内では避けようがないレベル。防御も間に合わせない最大速度で放ったそれは直撃するはずだった。

「でぃぃぃや!」

なのはの更に後ろから同等のエネルギー量を持つ電撃の衝撃波がプラズマランサーを相殺し、爆発を起こす。ややこしいが、なのは側のフェイトが参戦したのだ。

「やはりこうなると思っていた。なのは、ここは私に任せろ」

「いいの?Xファ○ル的な状況になるけど」


「この状態じゃいくら説明しても聞き入れてもらえないだろうから取り敢えずは戦うしかない。それに、接近戦じゃ私相手には相性悪いだろう?」

フェイト(なのはサイド)はバルディッシュ・アサルトの天羽々斬モードを構え、戦闘態勢に入る。当人としては、本来の歴史とまったく異なるこのモードを晒すのは嫌なのだが、自分の事は自分が一番よく知っている。なので、敢えてその姿を晒したのだ。

「いざ、推して参るッ!」

天羽々斬を構え、そう言い放つ姿はフェイトが良くも悪くも『武士』である事を示している。これは師の影響がなのは以上に大きく出ている。そして、飛天御剣流の心得で以って戦闘を開始した。


「取り敢えず話は寝床で聞いてもらう!」

彼女は有無をいわさない先手必勝の太刀を見舞う。これは飛天御剣流の心得を得た事で、地上戦での瞬間的速度はこの時空の自分自身を上回っているために可能な所業だった。攻撃を受けた側はバルディッシュをハーケンフォームにしていた。この斬りかかりの際に壁を盛大にぶっ壊したので、ホテル側としては修理が大変だろう。なので、あとで時空管理局に損害賠償請求が送られるだろう。

「あ、あなたはいったい……!?」

「そんな事はあとでいくらでも説明してやるさ……だが、今は闘いあるのみッ!」



フェイト(なのはサイド)は内心で異世界の自分と対面した事に歓びを感じつつも、天羽々斬を振るう。別の成長を遂げた自分がどんなものか試す意味合いも多分に含まれている。試しに袈裟懸けに相手方のバリアジャケットを防御ごと斬る。飛天御剣流の心得を応用した電光石火の攻撃である。防御側の自分はあまりの疾さに反応できなかったようで、目を白黒させて動揺している。



(仕方がないが、今の私の剣はシグナムでも見切るのは至難の業くらいに疾いからな。まぁ、私もこうなるなんて夢々にも思わなかったけど)

思わずそう独白するフェイト。高校時代に比古清十郎にこれでもかと食い下がいまくって根負けさせた記憶を思い出す。

――思えば、あの時からだっけ。自分で道を選んだのは……。それまでは他人に示されたレールの上を走ってただけだったし…。

高校時代に自分の今後の人生を左右するであろう選択を、初めて自分の意思で選択した。比古清十郎は剣を教える前に、『お前が欲しがる力はそれまでの物とは明らかに別の種類のモノだ。今でも軍隊の一個大隊や中隊を容易に返り討ちにできるし、戦国の頃には戦場を支配しただろうと伝承されている。それを選んでどう生きるかはお前自身が決めろ』と言っていた。これは過去に緋村剣心が比古のもとを飛び出していってしまった事を踏まえた上での発言だったそうだ。肉体年齢は20代半ばから後半ほどを保つ若々しい彼だが、実年齢は明治初期の時点で40代中盤に差し掛かっている。精神的には歳相応の熟成されたところを見せていた。(人間嫌いとの事だが、酒に目がないらしく、普通に酒屋などには姿を見せているらしい)フェイトはその後、飛天御剣流の力を得ることを選択し、最終的には一子相伝の奥義とその関連技を除く全てを体得した。そのため、剣速、身体能力では彼女に分がある。

(ぐっ!疾くて……お、重い……!シグナムでもない限り、私の動きには対応できないはずなのに……!それにあのデバイス……どう見ても細身の剣なのになんでここまで……!)

対峙している側のフェイトは自分とほぼ瓜二つの姿を持つ少女のデバイスがバルディッシュ・アサルトと対等に渡り合えることに驚く。日本刀的な細身の刃でありながら、バルディッシュ・アサルトのザンバーモードに当たり負けしない強度がある。そしてあまりの疾さに動体視力が追いつかず、防戦一方になる。



「私を前にして隙を見せるとは!」

そう叫び、ハーケンフォームの刃を払い、天羽々斬を振るう。その姿はまさに獅子奮迅。

――今の彼女は魔法を使わなくとも、並の戦闘機人やベルカ式魔導師であれば完封できる戦闘能力を誇る。その証拠がここにはある。別の自分が振るうハーケンフォームの刃を避け、振り切ったところに足払いを入れ、バランスを崩させる。すると思いがけないほど相手はあっさりこけた。そこへ一撃を入れる。驚き、応戦に戸惑いを見せる別の自分。同情したくなるほどに狼狽えているのが表情から読み取れた。


「あなたは何者なの!?私や『お姉ちゃん』と同じ姿だなんて……!まさか!?答えて!」

「違う違う。確かに私は君と同じ姿だが、君の考えてるような出自じゃないさ」

別の自分の言葉をすぐに否定するフェイト。スカリエッティがアリシアか自分の細胞か何かを使って作ったクローンとでも思ったのだろうが、それは違うからだ。正確に言うなら『並行時空において異なる人生を歩んだ自分自身』そのものであるからだ。もっともそんな事をぶっきらぼうに言ったところで信じてはもらえないが。

「なら教えて。あなたの事を」

「いきなり言ったところで信じてはもらえないだろう。管理局においても前例がないことだからな」

「どういうこと?」

「全ては戦い終えたあとだ。その後ならゆっくり話すよ」


これは腹を割って話すには戦う必要があると判断した故であった。ドモン・カッシュも言っていた事だ。ドモン曰く、『とりあえず拳を交えてみろ』らしい。それを実践したのだ。

「ふんっ!」

逆立ちしながら横回転し、某スト○ートファイターのスピニングバードキックを思わせる蹴り(逆羅刹と後に命名)を入れ、とりあえず相手との距離を取る。そして、カートリッジをロードしておく。



























――この人は私やアリシアと同じ姿をしてるけど、戦い方が違う。シグナムとも。言うならば、日本の武士とかみたいだ。時代劇のドラマとか映画で見たことあるけど、あれのようだ!

フェイト(この世界の住人の)は自分と同じ姿を持つ、この目の前の長身の女性(背丈が160後半はあるので、そう表現したのだろう)の剣技は自分やシグナムとは別種のモノであると理解した。自分やシグナムのそれは地球における西洋圏の刀剣術に近いが、この女性の戦い方は完全に東洋の剣術、それも日本の剣術だ。

(そう言えばマンション暮らししてた時に近所のおじいさんが日本の剣術の流派やってたっけ。確か……)


そう考察するフェイト。確かに目の前の女性(実は自分自身なのだが)は日本の剣術独特の構えを見せている。戦国から江戸期に多種多様な剣術が発達したと伝わる日本では時たま迎える動乱において、白兵戦では無類の強さを見せた。日本が1945年以前に経験した近代戦ではいいところ無しともされるが、白兵戦では米軍も畏れたほどだという。ならばそれに応えるのが礼儀だ。

「バルディッシュ」

カートリッジをロードし、ハーケンフォームからザンバーフォームに変形させる。次にバリアジャケットをパージし、真・ソニックフォームになる。通路内ではそのスピードは完全には発揮できないが、スピードで相手を超えれば決着はつく。次いで、ザンバーを二刀流のライオットザンバー・スティンガーにする。これは彼女のフルドライブ状態の一種だ。















「……真ソニックフォームか。やはり考えるのは同じということか」

「え!?どうして真ソニックフォームを知っているの?」

「言っただろう?全ては決着がついてからだと。全てはその後だ」

同じく、天羽々斬を持つ方のフェイトもフルドライブ状態に移行する。こちらは刀身と柄伸長させ、大太刀の発展形である長巻に近い形状に変化させる。彼女の場合は飛天御剣流と示現流の心得がある(示現流の心得がある理由は、師の一人の黒江が示現流の使い手であった事に由来する。黒江は九州の出であり、故郷にいた時に示現流の道場に通っていた。秘剣・雲鷹の名の由来は示現流の教えに由来する。『二の太刀要らず』、あるいは『一の太刀を疑わず』から、一撃必殺技とした。その弟子であるフェイトも示現流を勉強したのは当然である)ので、その方向性を目指したフルドライブ形態ができたというわけだ。

――空中でのトップスピードこそ、対峙する別の自分に及ばないが、瞬発力と一撃の重さでは自信がある。防御を一切考えずにスピードに特化した自分、速さをある程度捨てて、防御力と攻撃力を強化した自分。どちらも、『フェイト・テスタロッサ・ハラオウン』という存在の可能性の一つである。もはやどちらが強いという次元の話ではない。

「おおおおおおッ!」

二人は同時にホテルの通路を駆けた。スィートルームの階は貸し切りなので、文句をいう輩はいない。言うとすればホテルの従業員くらいのものだ。(当然だが)トップスピードでは真ソニックの方の彼女が優っている。

(このスピードなら……もらった!)

トップスピードからスティンガーを振るも、体を捻られて避けられる。その一瞬に隙が生じた。その一瞬を天羽々斬を持つ彼女は見逃さなかった。そこから飛天御剣流の技を放った。全てをかけた乾坤一擲の攻撃を。

(二の太刀いらず……そして……龍の如し神速の一撃!)「飛天御剣流……!」

その技は神速。同じ自分でも反応しえぬ程の疾さを持った“彼女が得た力。自分の無力を嘆き、かけがえのないモノを守る力を追い求め、血反吐を吐きながらも手に入れた剣技。その名も……。

『龍巻閃(りゅうかんせん)ッ!』


別の自分の背後めがけて放ったその一撃は神速の速さと天羽々斬の攻撃力によって、一撃必殺となった。もちろん、非殺傷設定なので昏倒させる以上の心配はない。だが、彼女も先ほどの一撃でバリアジャケットを一部斬られていたので、痛み分けと言ったところか。この間、スバルはホテルの従業員に事情を説明していた。誤魔化しによる口八丁も含まれていたが、嘘も方便である。











――フロント

「お客様、困りますよ!盛大に最上階の壁を破壊してくれちゃって!損害賠償金を請求してもよろしいですな。当ホテルとしましてもあなた方を訴えたくはないのですが……」

「執務官の公務中のことなのですが、戦闘が発生したのはこちらとしても予想外だったので…。損害賠償金は時空管理局本局の財務課に請求してください。直ぐ対応してくれるはずです。ホテルに損害が発生した件、深くお詫びします」

ホテルの最上階で何が起こったのかは分からないが、騒音に当然ながら他の階の客からいろいろと苦情が出、ホテルはその処理に追われていた。スバルと話しているのはオーナーである。その後、機動六課へ連絡が行ったのは言うまでもなく……。

『……は?高町一尉とハラオウン執務官がホテルで大暴れしてホテルの壁を盛大に破壊したぁ!?本当なのですか?』

『ええ。今しがた執務官の同僚の方からお詫びを受けましたが、損害賠償金を請求する都合上、部隊長のあなたにお伝えする必要がありますので……』

これにはやては頭を抱えたが、フェイトはともかくもなのはは自宅にいるはずである。どういう事なのか。ホテルとの電話を終えるとなのはの自宅へ電話した。当然ながらなのはは寝耳に水であった。開口一番に驚きの声が上がった。




『ええぇ〜、わ、わ、私がホテルで大暴れしたぁ!?何かの間違いだよ、今日はずっと家にいたんだよ!?』

『ホテル側の話だと、何日か前から泊まってて、筆跡もバッチリ一致してるそうや。支払いも口座からきちんとされとる。話がいまいち飲み込めへんから今からホテルに行く。なのはちゃんも行く?」

『う、うん!』

二人はシグナムの運転の車に乗り、ホテルへ向かった。なのはは自宅から乗り込んだ。郊外のホテルなので、数時間かかった。ホテルにつくと……。




『いやあ本当に申し訳ない……』

『執務中とは言え、戦闘は困りますなぁ』

「他のお客に私からそれをお詫びに……宜しくお願いします」

やりとりが聞こえてくる。聞き覚えのある声が響いてくる。一人は見慣れないバリアジャケットを着ているフェイト。もう一人は……。視認した瞬間、なのはの顔が青ざめ、シグナムは驚きのあまり目を目開き、はやてに至っては茫然自失して腰を抜かしてしまった。そう。その人物こそ、この騒動の原因たる、なのは当人であった。エクシードモードと思しき(正確には細部が違うが)バリアジャケットを纏い、ホテルのオーナーにペコペコ詫びている姿は当然だが、はやて達を驚愕させるのに十分だった。

「ああ、なのはが放心状態に!気をしっかり持て〜!」

「わ、私が……もう一人いる……ドッペルゲンガー?……は、ハハッ、これは夢だ。そう、悪い夢だよね……」

完全に真っ白になって、魂が抜けかかった様相を呈し、うわ言を呟くこの世界のなのは。シグナムが服の襟を掴んで揺さぶるが、完全に放心状態に陥っている。ホテルのオーナーへのお詫びが終わった二人がはやて達に気づき、駆けてくる

「はやて、それにシグナムと……」

「あたしか……いざ自分の顔を他人視点で見る羽目になるとは……あまりいい気分はしないな」


「ふ、二人共!これはいったいどういうことや!?それになんで背の高さが違っとるんや!?」

「あー、‥…それはこれから説明する。部屋に来てくれ」

「う、うん」

二人は部屋についてバリアジャケットを解除し、着の身着の服装を見せる。次いでスバルも戻ってきて、説明に加わる。説明は難航した。なのは(この世界のなのは。仮になのはBと呼ぼう)がパニック状態なので、それをなだめたり、フェイトB(なのはと同上。区別をつけるための便宜上の呼称)を起こしたりと忙しかったからだ。三人は服装がこの世界に転移した時の服装なので、ある意味コスプレとしか言いようがない服装だったのもある。

「と、いうわけで……つまり、あなた達は別のミッドチルダから来た、もう一人のなのはちゃんにフェイトちゃんに……スバルつー訳やでって……納得行くか―――ッ!」

「いやそれが真実だから」

「だから同じ姿であぐらかかないでよぉ〜!」

涙目になるなのはBをよそに、なのはAはマイペースである。あぐらをかいて女子かしらぬ仕草を見せる。これにシグナムとはやては呆気にとられて開いた口が塞がらない。


「ん?お前、腕と体のその傷……どうしたんだ」



シグナムがここで二人のなのはの最大の違いに気がついた。それはなのはAの体と腕に残っている古傷だ。背丈や態度の違いもそうだが、もっともわかりやすい差異である。

「これですか?これは11歳の頃に負った傷です。敵と戦って……負けた時のね」

「……お前もやはりガジェットドローンに?」

「いや、あたしを落したのはそんなチャチな玩具じゃあない。なんと言おうか……そう。一言で言えばスーパーロボットかな?」

「スーパーロボットって……アニメとかでよく見るヒーローロボのたぐい?」

「そう、それ。アニメみたいな話だけど……死ぬかと思った。あれほど後悔したのはあれが初めてだった」

それはなのはAとフェイトAにとって、運命を変えた元凶となった一戦。ゲッターロボ號との交戦。その瞬間から運命の歯車が組み合わせを変えていったのだ。そこから起こったことを順に話していく。未来世界の事、ミッドチルダ動乱のこと、そしてヒーローたちの事を。

「ぐ、軍人って……そんな……軍隊に入ることがどんなことかわかってるの!?」

「わかってるさ。父さんや母さんたちの想いを裏切って、因果な事してるって事は。一歩間違えば死ぬような商売だしね。戦闘機乗りとして戦ったことも多々ある。生き残ることが先決だから」



軍人をしているという言葉に声を荒らげるなのはBに、なのはAは淡々と返す。人の死を見るのは戦場にいる軍人として、どうしても避けられないことだとも告げる。ただし魔法少女となった時の根本的な想いは捨ててはいないことも付け加える。それになのはBは安心したようだった。

「それであなたは何処の軍隊にいるの?」」

「未来世界の地球連邦宇宙軍。宇宙戦艦とかの時代だから海軍と言ってもいい。そこの独立部隊に籍をおいてる。こんな宇宙戦艦が本当にある世界さ。……スバル」

「はい」

なのはAはスバルから受け取った写真をなのはBに見せる。それを見たなのはBとはやてはびっくり仰天した。

「う、う、う……宇宙戦艦ヤマトぉぉぉぉ(やんけ)!?」

そう。その写真にはなのはBの地球でも70年代に一大ブームを引き起こしたSFアニメの主役艦と細部や大きさなどは違うが、基本的デザインは同一の戦艦が写っていた。周りに写ってるのは横須賀の軍港だ。

「そう、宇宙戦艦ヤマト。これがモビルスーツとかスーパーロボットと共存してる世界でさー色々カオスだよ」

「確かにこんなのの横をモビルスーツとかが飛んでたらカオスや……。やっぱり第三艦橋は死亡フラグなの?」

「うん」

そう。ヤマトに配属される兵士や将校が寄ってたかって嫌がる部署が第三艦橋である。明らかに設計ミスとしか思えないほど接合部が脆く、度々第三艦橋がぶっ飛ぶ損害を負っているからだ。花形がコスモタイガー隊と戦闘班、技術班なら、第三艦橋は黒子に等しい扱いだ。なので第三艦橋配属と言い渡しがあった者は阿鼻叫喚の様相を呈するのは連邦軍では周知の事実。

「そこまで忠実でなくていいやん!第三艦橋が何したっーねん!」

「あたしに言われても…。で、モビルスーツのほうはアニメでいうところのいろいろな年代のがごった煮的に共存状態。ザクやドムの上空をZガンダムとかF91にV2アサルトバスターが飛んでるよ」


「カオスっとる……カオスっとるで……」

はやてはもうごった煮の鍋を見た気分らしい。アニメオタクやフリーク達が聞いたら泣いて喜ぶ世界なのは間違いないだろうとため息を付いた。

「で、所属部隊の名前はなんや?」

「ロンド・ベル隊だよ、はやてちゃん」

「何やてぇ――――ッ!し、主役級やんけ!」

「はやてちゃん?さっきからオタク発言多いよ。ほら、シグナムさんとかあたしが話についていけずにぽけ〜となっちまってるじゃないかぁ!」

「ハッ…いかんいかん、私としたことが……」


妙にノリノリに話を変な方向に持っていくはやてに関西漫才張りのハリセンによるノリツッコミを入れるなのはA。別の自分のノリの良さと、おちゃらけさとシリアスを持ち合わせるギャップの大きい姿にぽけ〜と呆気にとられながらもいつしか笑っているなのはB。しかしこの後、彼女が一番、精神的に堪える発言があった。それは。

『言い難いんだけど、あたしとフェイトちゃん、高卒なんだ』

「え、えぇええええ!?」


高校卒業済みのなのはAとフェイトA。高卒という単語は中学卒業後にミッドチルダへ移住したなのは&フェイトBにはつらーい発言であった。花の高校ライフを楽しんでいた事を意味するからだ。そこがお互いのなのは&フェイトの人生の大きな違いであった。



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