短編『魔法少女達の奇妙な物語』
(ドラえもん×多重クロス)



――さて、シグナムと模擬戦を開始したフェイトAであったが、その戦いぶりはシグナムをも瞠目させるほどのものだった。

「ハァッ!」

日本刀の形状へ変形したバルディッシュから衝撃波が放たれる。その衝撃波は地面を深く抉り取る。それを飛び上がる事で避けたシグナムであったが、そこに飛び蹴りを入れられる。足先がピーンと伸びた足刀とも言えるキレで胴体に一撃もらう。しかし彼女自身の闘志は旺盛だ。態勢を立て直して距離を取る。

「ほう……中々の攻撃だ。相当鍛え上げたようだな」

「こっちじゃこの8年間は剣技や体技を鍛えるのに費やしましたからね。中高は剣道部に入ってましたし」

「こちらでは管理局の仕事の関係で高校には行かなかったと聞いているが……そちらでは行けたのか?」

「なんとか勤務状況とか調整できたんで……内部進学条件満たすの苦労しましたよ。私たち文系弱かったんで……」

「う、う〜む。そうだろうな……」

フェイトAは中学二年時の夏までの平均成績を内部進学に足る成績にまで引き上げるのになのはA以上に苦労したらしく、苦笑いを浮かべる。パラメーター的には体育会系寄りである彼女がミッドチルダとは全く違う地球での勉強をするのは大事であったのが伺える。思わずシグナムも同意する。


「さて、ウォーニングアップも終わったし、そろそろ本気で行きます!」

フェイトAは再び空中に飛び上がり、大量のプラズマランサーを生成する。それはフォトンランサー・ファランクスシフトを応用したもの。発生数を対軍団用に増加させ、効果範囲をジェノサイドシフトよりも飛躍的に伸ばした代物。これまで一貫して攻撃魔法に地球でいうところの西洋風の名前をつけてきた彼女だったが、『ジェノサイド』以上の語感のいい言葉が考えつかなかったので、趣向を変えて和風にしたという。その名も『千ノ落涙』。これはフェイトがたまたま日本でとあるアニメを見ていたことからそこから頂いたとの事。


「!!」


シグナムもこれには驚愕した。あり得ないほどの数のプラズマランサーが広範囲に渡って降り注ぐのだ。しかもその破壊力はフェイトBのファランクス・シフトを上回っており、辺りを徹底的に破壊していく。シグナムの防御力から言って、耐えられるだろうが、かなりのダメージは負うだろう。その様子を視察していたはやてはなのはAに思わず聞いてしまう。

「なんやあれ!なのはちゃん、説明しいや!」

「う〜む。ファランクス・シフトの発展形なんだけど、違うのは一発あたりの威力を飛躍的に強化してるのと、範囲を軍団規模用に拡大してる点かな」

「軍団規模か……そっちじゃ一対多の戦闘多かったんやね」

「ああ、色々と大変なんだ、こっちは。統制の取れた軍隊とドンパチしてきたから一個師団から軍団と渡り合える魔法が必要になったんだ。何せ平気で44マグナムとか撃ってくるんだから。バリアジャケットを着てなかったら腕の骨砕かれてたなんて事もあったよ」

「容赦無いなぁ……骨折ったことはあるの?」

「11歳の時に暴徒鎮圧用の弾を詰めたショットガンを浴びちゃって一回、16の時にジオン残党の鎮圧してた時にマグナム弾を撃たれて肋骨の5,6本いった事一回……バリアジャケット着てたんだけどそれでも逝ったよ」

「バリアジャケットなら銃弾程度防げそうなんだけど?」

「いや、甘く見てたら痛い目見るよ。特にマグナム弾を近距離から撃たれりゃ貫通しないにしろかなりでかい衝撃が直にかかるんだ。それに魔力を弾頭に詰めれば普通に貫通するよ」

「うへぇ……そんなのがあるん?」

「実際に私達の世界の管理局がそれで痛い目見たからね。侮ってて負けるっていう常道のパターンが結構各地で見られてね……それで涙目になった部隊多かったんだ」











そう。バリアジャケットの利点は『銃弾程度なら如何なものも貫通を許さない防御力』というカタログスペックである。だから旧体制崩壊後に純粋科学を押しのけて魔術的要素が科学と混じりあった『魔法』がミッドチルダの力になったのだが、過信もよくない。ナチス・ドイツの侵攻の際に対策が施された銃弾が使われ、魔導師が多数戦死したし、なのはA自身、ジオン残党狩りなどで撃たれて負傷している。管理局そのものが科学主体の軍隊に押され、首都喪失という失態を犯したという事例もある。

「だから『侮ってると痛い目見る』よ、はやてちゃん。ご先祖様達が太平洋戦争の時のミッドウェーでポカしたように」

「妙にミリタリーな例えや、なのはちゃん?」

「軍人だからね、こちとら」

なのはAの落ち着きは、はやてには不気味に思えた。何処か達観しているようにも思えるが、はやて側の彼女自身よりもズボラな面も見受けられる。まずは髪の毛だ。ボサボサの髪をそのまま結ったかのようなポニーテール。服装は拘っていないらしく、着のみ着の道着だか、山僧のような格好。見かけは細いが、ガッチリしたボディ。そして左腕に残る古傷。

(本当、遺伝子学的には『別人』というだけで『同一人物』が同じ場に存在できるもんやな……しかも戦いになれば、こっちのなのはちゃんより落ち着いてフェイトちゃんを観察できとる……。これは期待出来そうや)




はやては友人であるなのはBとフェイトBを実際のところ、第三者として見ると『互いに依存しあっている関係である事を『知っていた』。これはリンディ・ハラオウンが懸念している、義理の娘とその友人の『弱さ』でもあることは機動六課設立前にリンディから聞かされた。

――なのはBとフェイトBはお互いの置かれていた家庭環境において『自らの存在意義』に疑問を抱いていたと。










なのはの場合は、一見して仲がいい家族のように見える高町家であるが、なのはは父が『仕事』で重傷を負って生死の境を彷徨っていた時期に幼少期を過ごしたのが原因で、ある一種の強迫観念に囚われていた節があると、11歳の時の撃墜事件の事を伝える時に、なのはの父である士郎や母である桃子からリンディが聞かされたこの事実。はやても自分なりに推理してみた。そうして浮かび上がってきた答えは『幼少期に寂しい思いをさせてしまった事に両親は罪悪感を感じていて、それが末娘が得体の知れない力である魔法を得たことをあっさり容認する要因となった』と。

(思えば士郎さんと桃子さんは見抜いてたんや……末娘のなのはちゃんが自分を押し殺してでも『いい子』で言おうと振る舞っとるのを。その片鱗は今でも見え隠れしとるし……)


なのはBは品行方正な『模範的な教導隊隊員』であろうと振る舞い、そして自分の教導を無視して無茶をしたティアナに言い方を悪く言えば『制裁』を加えた。その事を何のお咎めもなしにしたのは、はやてなりのなのはへの思いやりであった。なのはをその件で厳しく咎めれば心のトラウマが呼び起こされ、業務に支障が出かねないという冷めた側面と、なのはの幼いころの苦労を知るものとしてはそれを新人らには味わってほしくないという老婆心の側面がある。なのはAはそんな強迫観念の殻を破って『本当の自分』を見出したと思しき言動を見せているために、『強迫観念を振り払って、彼女の生き方を見習って欲しい』と感じていた。





――フェイトの場合は更に深刻で、『アリシア・テスタロッサ』を模した人造生命体というのが本来の出自からか、自らに『フェイト・テスタロッサ』、現在は『フェイト・T・ハラオウン』としての命を与えてくれたなのはや今の義理の家族に依存仕切っている。その外見からか、彼女とアリシア・テスタロッサを訝ぶ者も高齢の幹部級を中心にいる。若き日のプレシア・テスタロッサと在りし日のアリシア・テスタロッサと面識があった者であれば尚更だ。フェイトの秘密は今や機密認定されている。敏腕執務官が罪状は釈されたとは言え、かつて犯罪を起こした者というのは、管理局の国民への建前上、いくらなんでも不味いからだ。(実際には慢性的な人手不足の解消と組織の寛大さを示すための材料として、容認されているが、『本音と建前は一応違う』のだ)



(しかしこうも違うもんやろか?向こうのフェイトちゃん、あれじゃまるで中二病……いや、ここは顔を立てて『武士』と言っておこう。実際、強いし)

はやてはフェイトAの戦いぶりを『武士』という風に表現した。バルディッシュが変形した刀を自分の一部のように操り、高い身体能力を活かしてシグナムとほぼ互角に渡り合っている。二人共、戦いを『愉しむ』表情をしている。中二病とも評したのは、フェイトAが叫ぶ飛天御剣流の技の名前の数々が『わかってはいるが、ツッコミどころ満載なセンス』だからだろう。





『飛天御剣流“龍槌翔閃(りゅうついしょうせん)ッ!』

フェイトAは空中から一気に急降下し、龍槌閃を見舞い、更に龍翔閃へ繋げ、連撃を披露する。シグナムもこの連撃には流石に対応が遅れ、直撃を食らって盛大に吹っ飛ぶ。この様子にフェイトBは驚愕し、目を見張る。自分は10年間、シグナムには常に及ばなかった。なのに、別の自分は自らを遥かに超える身体能力と未知の剣術で対等に渡り合っている。対抗心と羨望が燃え上がるが、よくよく考えるとあそこにいるのはバリアジャケットこそ大きく違うが、『自分自身』なのだ。可笑しく思えてしまうとフェイトBは思った。





「いいぞ、テスタロッサ!私をもっと頼ませろ!ここまで血が滾るのは久しぶりだぞ!」

シグナムはバトルマニアである。その側面を表に出して斬り合いを演じる。互いに手加減なしの完全なる闘いは達人しか立ち入ることさえ出来ない程の凄まじいもの。互いのバリアジャケットは勿論、アンダーウェアもズタボロになっていく中、他の防御魔法を敢えて使わずにいる姿はティアナやスバルB達を困惑させる。

「あ、あの……なのはさん……で、いいですよね?」

「同一人物なんだ、呼び方は同じで構わんさ」

「そ、それじゃ……。なのはさん、どうしてフェイトさんは防御魔法を使わないんですか?」

「元々、シグナムさんの攻撃力は高い。フェイト隊長の防御力じゃ焼け石に水だ。それに斬り合いに防御魔法は野暮ってもんだ」

「そう……なんですか」

「ああ。特にああいうのはな」

(同じ人のはずなのに、声の感じとかが違う……こっちのなのはさんよりドス効いてて低い感じなんだ。だからだ)

ティアナはここで二人のなのはの違いに気づいた。まずは声のトーンの違いだ。Aはどこか落ち着いた感じの多少低めの声で、Bは子供っぽさを残した、高めの声だ。元の世界で苦労しているらしく、なのはAからは中間管理職の悲哀も見え隠れしている。年齢は同じだと言っていたが、外見が若々しく見える反面、苦労が多い分、精神的にBよりも成熟しているようにも思えたのだ。

(あっちのなのはさんってどうも感じが違うんだよなぁ。仕事モードとプライベートモードの切り替えがハッキリしてるってのもあるんだけど……割りとフランクだなぁ)

スバルBはなのはAの態度が『お固い』ようで、フランクところが多々ある事で違いを実感したようである。それに同じ人物とは思えないほどにズボラなのも大きかった。髪のまとめかたをひとついとっても、Bのようにきちんと手入れしたサイドテールではなく、この日は単に結いただけのポニーテールであるし、スバルとしてはおっぱい星人なので、どうしても胸のほうに視線が行ってしまうのだ。

(胸のサイズはBカップから良くてC程度……うむ。こっちのなのはさんよりもみがいありそうだ)

スバルのこの癖は万国共通のようであるが、実はなのはAの胸のサイズが拡大したのは別の自分自身が子供の頃のなのはAの胸をもみまくった末の成果であったりする。その邪な思念を感じ取ったなのはAは『いや〜な予感!』と悪寒を感じ、内心で涙目となったのは言うまでもない。エリオが『またか』と呆れるのも無理は無いと、そっとため息を付いたなのはAだった。










――なのはBは別のフェイトがシグナムと激しく剣を交え、しかも互角に渡り合っているのに驚きを見せた。なのはBはAと違い、10年の訓練と実戦で運動神経をある程度向上させはしたもの、なのはAのように接近戦を得意とするまでには至っていない。だが、教導隊にいる都合上、どうしても技量を磨く必要があったので、見切りの技量を中心に鍛え上げた。以前にスバルの拳を見切れたのはそのためだ。そのためにフェイトの剣術が卓越したものであるのを理解できたのだ。

(すごい……対応してくるシグナムさんもだけど、フェイトちゃんの剣術……速いんだっ!身のこなし、相手の動きを見切る速度、剣の速度……どれも一級品。お兄ちゃんやお姉ちゃん達とも戦えそうだっ……)



なのはの家族は実はなのはを含め、母親の桃子除き、ほぼ全員が超人級の戦闘能力を誇る。なのはは魔法でカウントされるのは言うまでもないが、兄や姉(また別の世界では恭也とは異母兄妹、美由希とは従姉妹に当たるという情報があるが、それがなのはAやBの時空で当てはまるとは限らないとの事)達とも戦えそうだと踏んだ。世界と時代は違えど、御神流と同じく『最強』を目され、裏で伝えられてきた剣術があり、奇しくもそれをなのはAが習得しているなど、この時のBはまだ知る由もない。(もっとも、フェイトがそれを今、披露しまくりだが)その間にも戦いはHEAT UPする一方であった。






『飛天御剣流“龍巣閃”ッ!』

「何ぃっ!?こ、これは!馬鹿な……見えん!」

これは本来は急所狙いの乱撃であるが、模擬戦故、きちんと急所は外して放った。バリアジャケット周りの効果でダメージは軽減されるものの、斬り刻まれることでかなりの打撃を与えられたシグナム。飛天御剣流の速度は正統継承者であれば達人でも視覚すら困難になるレベル。フェイトはスピード面であれば正統継承者らに伍するレベルに到達している(パワー面では劣るとの事)ので、シグナムに反応すらさせないレベルのスピードの斬撃を撃てるのだ。無論、彼女は緋村剣心や13代比古清十郎と違い、『九頭龍閃』や『奥義・天翔龍閃』は放てない。完全習得は飛天御剣流の継承を意味する。一子相伝の秘法なため、比古が許さないし、フェイト自身も恐れ多く、習得は諦めている。なので、彼女の奥義は必然的に師である黒江綾香が使う『秘剣“雲耀”』となる。これは黒江の世界においての示現流最大奥義に属し、黒江は若き日にこれで飛行要塞型ネウロイを真っ二つにした武勇伝を持つ。これを19歳時には伝授されていたのだ。少なくとも今の段階では飛天御剣流の疾さと示現流の豪剣とを組み合わせて放つこの雲耀がフェイトAの格闘戦における切り札である

「さて……そろそろ終わりにさせてもらいますよ、シグナム!」

カートリッジをロードしたバルディッシュ・アサルト『天羽々斬』が一旦、二つに分裂して二振りの刀へ変形する。それを更に柄を繋ぎ合わせて、俗にいう『ツインブレード』形態とする。金色の輝きを強くする『天羽々斬』形態の刀身に『奥義の発動』を直感したシグナムも残るカートリッジを全てロードし、残る力で構えをとる。『紫電一閃』である。本来であればシュツルムファルケンが最大破壊力を発揮する技であるが、一対一の模擬戦で使うべき技でもないし、隙もあるので接近戦に向かないからだ。






――そして。

『秘剣“雲耀”ぉぉぉぉッ!』

『紫電……一閃ッ!』

フェイトは大上段から袈裟懸けに振り下ろし、シグナムは横合いから薙ぎ払うように剣を振るう。その瞬間、互いの技がぶつかり合い、大爆笑を起こす。数十m以上離れていても強い衝撃波を感じるほどの凄まじいものだ。その結果はというと、相打ちであった。同時に互いの技が炸裂し、昏倒するだけのダメージを与えたのだ。それはスバルAの動体視力で確認された。

「それじゃ二人を回収して来ます」

スバルAが二人の回収に向かう。次の組み合わせは誰であろうか。はやては何かを含んだように、不気味に笑う。はやての思惑を察したなのはAは朝飯抜きだったのを思い出し、深く肩を落としたのだった。








――こうして第一幕から激戦が繰り広げられたが、その分、なのはAやスバルAにかかるプレッシャーは相当なもの。エリオやキャロは完全に目が輝いているし、シャーリーのメガネが光る。ヴァイスはヘリの整備士らとトトカルチョを始めている。自分にかかるプレッシャーを自覚しながら、なのはAはドモン・カッシュとの修行で身につけたあの境地を使う決心を固める。その名も『明鏡止水の境地』。修行で死にそうになること複数、ゴッドガンダム持ちだされて攻撃されることもあった、修行に打ち込むあまり、高校のある年度の、ある学期の出席日数が危うくなり、担任教諭に絞られた事もあったという顛末もある。その末に到達した境地。

(やるしかない、か)

気分を切り替えて戦いの場に赴くなのはAであった。



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