短編『異聞・扶桑海事変』
(ドラえもん×多重クロス)



――過去へ逆行した黒江達。ネウロイを未来で得た技能と技で撃破していく。智子の電光剣・唐竹割りが炸裂したあと、黒江も自身が未来で得たミッドチルダ式魔法の応用で、日本刀を両手で持って天に掲げた。

「お、おい。あんた何を!?」

「よ〜く見てろ若本!人の想いは奇跡を呼ぶって事を教えてやる!」

空に雷雲が立ち込め、雷鳴が轟く。天候操作魔法などの応用である。フェイトから教わっていた事を実践したのだ。違うのは、雷鳴の電気エネルギーを意図的に切っ先に集め、そのエネルギーを高めている点だ。やがて、封じ込めきれなくなった電気エネルギーが迸り、電光とともに火花を散らす。

「なんだあれは!?」

「馬鹿な、扶桑式の魔法陣じゃないだと!?あいつは確かに念動系だが、そんな芸当は……!?」

上空の直掩である江藤が瞠目し、狼狽える。黒江は剣の切っ先に魔力を集中させられる才能の持ち主だが、雷槌を意図的に剣に集中させるような技能は持っておらず、現在のすべてのウィッチをかき集めても不可能な芸当なはずだからだ。それと、黒江の立っている地面を中心に展開されている魔法陣は扶桑式のそれではない別の何かであったにも効果倍増の要因だった。そんな江藤や北郷、坂本らの護衛についていたガランド(帰国が不能になったため、扶桑に留まった)らの驚きをよそに、黒江の持っている日本刀『雷切』(実家が、かつて戦国大名であった立花家と縁がある関係で取り寄せた。国宝級の代物である)の発する電気エネルギーは激しさを増す。

「さて、これでも喰らえ!!トールハンマァァァァブレイカァアアー!!」

「つか、なんでそこはカールスラント語とブリタニア語なんだよ!」

「いいんだよ、かっけーんだから」

日本刀を媒介にしている割には、カールスラントとブリタニア語な技に徹子が突っ込むが、黒江は意に介さず、トールハンマーブレイカーを使う。マジンカイザーの必殺技であるそれを再現したモノだ。威力面では光子力反応炉の膨大な出力を前提にしたカイザーとは比べべくもないが、それでもこの時期のネウロイの薄い外郭を貫いて、コアを破壊するのには十分な破壊力を発揮し、辺りに雷鳴を轟かせた。


「ざまーみやがれ!テメーらなんぞ敵じゃねーんだよ!」

と、中指をおっ立ててドヤ顔をする様は明らかにネオゲッターチームの一文字號からの影響であった。この時期の扶桑人としては不謹慎な行為だが、すっかり現在ナイズされている状態の黒江にとっては、何てことはない事だ。

「綾香、隊長たちが驚天動地で目が点になってるわよ?」

「そりゃ、この時代の常識からはかけ離れてる事をしてんだ。しゃーねーよ」

トールハンマーブレイカーにより、敵の進撃がわずかに鈍る。そこに撤退の好機を見出した圭子は、江藤に撤退を進言する。

「隊長、今の攻撃で敵の進撃が鈍りました。撤退するなら今です」

「分かった。ストライカーの換えを履いて来い。若本一飛曹は黒江に回収させる。殿はお前に託す」

「了解!」

圭子は基地に残っていた九六式艦上戦闘脚に履き替え、再度離陸する。武装は黒江から以下の物を受け取った。

・ゲッターレーザーキャノン

・真ゲッタートマホーク(サイトやランサーへの切り替え機能あり)

の二種類である。ISの武装として、ダウンサイジング化されたそれはISを纏った上での使用が前提なので、圭子の体躯からはいささか大振りなように見える。

「さて、心残りに付き合ってもらうぞ、ネウロイ共!ゲッターレーザーキャノン!」

ISでの使用を前提に、エネルギーカートリッジ式に改良されたゲッターレーザーキャノンは、連射性そのものはゲッタードラゴンの使用していたオリジナルより落ちている(ゲッターエネルギーの充填に時間が多少かかる)が、エネルギーの凝縮量自体は上なので、一発あたりの威力は向上している。トリガーを引くと、ゲッタードラゴンのゲッタービーム以上の破壊力を持つレーザーが発射される。ゲッター線への耐性が無きに等しい(真ゲッターのストナーサンシャインで、容易く巣が消滅した事で証明された。)ネウロイはレーザーキャノンの射線にいただけで、自己崩壊を起こす個体さえ現れている。圭子が両腕でレーザーキャノンを抱え、構える様は、九七式自動砲を抱える本来の姿を想起させるが、違うのは撃つものがゲッター線のレーザーであるところだ。レーザーなので、反動は無い。撃てる数には限りがあるが、ネウロイはゲッター線が自分たちの天敵であることを感じ取ったか、動きを変える。

「ん?ゲッター線を感じ取ったな。やっはり奴らはゲッター線に恐怖があると見える」

ゲッター線の放射はネウロイの外殻を崩壊させると同時に、再生能力を削ぐ。それは巣そのものが凝縮されたゲッター線の塊であるストナーサンシャインを浴びた際に、再構築さえ行えずに崩壊した事で証明されている。ゲッターロボを警戒したのか、1945年以後は目立った攻勢をせぬままでスエズ運河から駆逐されている現状を鑑みるに、ゲッター線はネウロイに有害か、相容れない何かがあるのだろう。20発ほど撃つと、蜘蛛の子を散らすように、ネウロイの姿は消える。

「よし。レーザーキャノンは使い尽くしたし、トマホークを持って撤退するか」

レーザーキャノンを持ちつつ、背中にゲッタートマホークを抱えながら離陸する。圭子が鉄拳オーラギャラクシーを使用した事や、黒江がトールハンマーブレイカーを使用した事は道中、年長組にこってりと問い詰められた。それらは未来で会得した技能故、元の時間軸に戻るまでの『期間限定』で使えるだけである事や、黒江が唯一、未来から持ち込んだ兵器は強力無比であるものの、補給が効かない武装が多く、一回しか全力投入は不可能であると伝える。


「お前ら、どんなところにいたんだ?」

「ほんのちょいと戦乱期な未来ですよ。こことは違う歴史を辿った、ね」

「ええ。そこにすっかり感化されて、綾香なんてこれですよ」

「確かにな。以前のお前なら穴拭達を止めてたのに、今となっては逆に悪ノリしてるし」

黒江の性格がフランクで、なおかつノリがいいものへ転換している事を江藤はこう評する。その世界では女性と男性の垣根がこの世界よりも更に薄くなっているのだろうかと、黒江のフランクな言葉使いから推測し、思いを馳せた。

「あの、貴方達の魔法は私達でも出来るんでしょうか?」

「今のお前らじゃ無理だ。絶対的な魔力量が足りん。あと数年は必要だな」

「そ、そうですか」

根掘り葉掘り聞かれ、それにいちいち答えるわけにもいかないので、坂本の言葉をそれらしく流す。しかし、その言葉が坂本の将来に強く影響を与えてしまう事になろうとは、この時の彼女は知る由もなかった。坂本が豪放な性格になった裏には、黒江のこの時の振る舞いが多少なりとも影響を与えていたのだ。若本は黒江に抱えられ、覚醒を発動させた反動ですっかり眠り込んでいる。坂本は若本や黒江の見せた力に以後、憧れを抱くが、それはまた別の機会に語ろう。







――呉 軍港

この時期の扶桑本土最大の軍港であった呉では、大和型戦艦の艤装が急遽、対空重視に替えられたせいで、副砲に使われるはずの砲塔と砲身が余ってしまったという事態に直面していた。この時期、既に大和型用の副砲塔は完成していたのだが、対空重視になったために『副砲は二個あればいい』(後の改装では全廃)との山本五十六などの提言通りに削減されたために、砲塔が余ってしまったのだ。

「この砲塔、どうするんだ?」

「今度の新戦艦には3個以上載せられないから、その次の比叡、霧島の代替艦(信濃と甲斐のこと)用に流用するそうだ」

「乙巡にまわさないのか?」

「条約が切れたから、みんな8インチ砲に強化するんだと。新型の伊吹型も空母に改造する予定が立ったそうだ」

造船艦は、この時期に進水済みの伊吹型巡洋艦も(史実より国力が数段あるために、建艦計画の進行が早い)空母化(その後の艦載機の大型化とジェット化により、航空輸送艦へ類別変更)されるため、砲塔が使われる見込みは薄いと説明する。

「これからは空母が優先されて、潜水艦以外の船はおざなりにされるかもな」


造船官は、空母至上主義になろうとする風潮に疑問を投げかける。このように、この頃から空母重視傾向になった扶桑海軍だが、結局、1945年以降の紫電改・烈風・流星改・彩雲の主力化により、軽空母の大半と正規空母の複数が陳腐化してしまう事態に直面する。更にジェット化により、大型空母以外の空母が『航空母艦』と呼べないという状況に陥ってしまい、空母の数は次第に絞られていく。その後に空母機動部隊の高コスト化が急速に進んだため、空母でのウィッチ運用は、この扶桑海事変と大戦のみで行われた(その後の戦争では、航空運用能力を持つ強襲揚陸艦が使われたため)のであった。







――彼らの眼下で建造が着々と進められる『一号艦』(後の大和)はこの時は最重要機密として処理されていた。他国との建艦競争を招いてしまう事が軍令部の懸念を抱かせたのだ。だが、ある世界で、大和の行き過ぎた機密処理が戦争に悪影響を与えた事を知らされた山本五十六は、他国との建艦競争を引き起こそうとも(実際にモンタナ級戦艦、ライオン級戦艦、アルザス級戦艦などが生まれる)、事変で長門や陸奥の戦没もあり得る故、国民の士気維持と昂揚のために一号艦と二号艦の存在を公表し、長門型の喪失が起きようとも士気に支障をきたさないようにすると持論を展開した。だが、当時の軍令部は、他国との建艦競争を懸念するあまり、山本五十六の提案は握りつぶされた。それでも諦めない彼は、米内光政元・総理(後に海軍大臣に復帰)や海軍の長老達に掛け合い、更に西園寺公望に相談。会談の結果、機密にした弊害を知らされた長老達の決議と、山本の要請をを受けた黒江と圭子が各メディアに情報をリークし、大和型戦艦の存在は『新鋭大型戦艦』として第一報が報じられた。この時のニュース映画のナレーションを一部紹介しよう。

――この度、軍令部が発表した新鋭戦艦の存在が明らかになった。長門型や紀伊型戦艦よりも巨大な65000トン以上の排水量を持つこの巨艦は、我が海軍力に一大打撃力を与えるであろう――

こうして、大和型は海軍内の紆余曲折の末に、存在が公表された。新聞の一面を飾った建造中の船体の写真に衝撃を受けた各国は、負けじと新造戦艦を競うように建艦していく。その嚆矢がリットリオ級(ヴィットリオ・ヴェネト級)である。次いでダンケルク級、ビスマルク級、キングジョージX世級などが続々登場するが、どれも大和型には及ばなかった。だが、大和型に匹敵する『モンタナ級戦艦』の登場によって建艦競争は再燃し、第二段に突入するのである……。大和型をきっかけに起きた建艦競争を、後世の人々は『ヤマト・ショック』と評したという。





――この年はちょうど、ミーナが軍に志願する一、二年前に相当した。カールスラントが戦火に飲み込まれておらず、オストマルクも平和だった。坂本らが12歳であったこの年、ウィッチの世代は戦間期世代から世界大戦第一世代へ移り変わりつつあった。


――ウラジオストクの前線基地

北郷と江藤は欧州で大戦争がすぐに起きること、その内に血みどろの『人同士の戦争』へ移行してしまう未来を本格的に知らされ、顔を曇らせた。しかも、その要因がイレギュラーと言える『来訪者』なのでは、余計に気まずい物があった。

「参ったわね。来訪者のせいで、戦争は殺し合いになっていくなんて」

「戦争を『ネウロイとの戦い』と解釈してる世代が主流になっていた時勢だったから、ウィッチに動揺が広まってまして、自主退役者も続出してるんです。そこで、引退していた私達の世代が呼び戻されたんです」

「自主退役、か……。確かに人同士の殺し合いなんて、1900年代を最後に、もう久しく起きてないからな。しかし、お前らはもうあがりを迎えてたんだろう?どうやって」

「来訪者の世界では、時間操作技術が確立されてるんです。それで体を最盛期の状態に若返らせた上で復帰したんです。それで向こうの世界に滞在してるうちに、あがりを迎えないように体質が変わったんです」

「体質が変わった?どういうことだ?」

「そこでは、ゲッター線っていう『生物に進化を促す』宇宙線が多く降り注いでいるんです。その濃度が高い環境にいたもんで、宇宙線に体がいつしか適応しちゃったんですよ。これは多分、ゲッター線で肉体に変化が起きたせいだと思います。ごくたまにいるでしょう?魔力が20代以降も減衰しない特異体質の一族が。たぶんこれで説明できるでしょう」

智子が説明する。平行世界に例外なく降り注いでいるゲッター線。その作用でウィッチとしての自身らが『進化』し、魔力供給器官が生成された結果、あがりを再度迎える心配がなくなったと。智子は『ごくたまに、あがりを迎えない体質の者が生まれる』のも、ゲッター線によって、特異体質になったせいではないかと推測する。同時にネウロイがゲッター線を苦手にしているであろう事を圭子が補足する。

「この宇宙線、人体には無害なんですが、敵は苦手にしているようなんです」

「本当か?」

「このゲッターレーザーキャノンをぶち込んでみたら、一瞬で自己崩壊起こしましたから。それと、ゲッター線を放射している事を悟った敵が蜘蛛の子を散らすように逃げていったので、たぶんゲッター線には敵の自己再生や増殖を阻害する効用があるかと思われます」

「随分ごつい火器だな……。光を攻撃に使えるなんて思わんかった」

「光学兵器自体は、この時代にはアイデアは出来上がってましたよ。確かウチの登戸がマジになって研究してるはずです」

「本当か?」

「ええ。怪力線なんてのが研究されるはずです」

「ずいぶんとオカルトだな……。さて、確認させて貰うぞ」

江藤は登戸という単語の意味を知っていた。陸軍科学研究所が抱えている部署の出張所であるからだ。生物兵器・化学兵器・謀略戦・風船爆弾・電気投石砲(後に超電磁砲と名称改定)などを研究するそこは、大抵の世界で後世に『日本軍オカルトの象徴』と評されるほどのSFチック・オカルトチックな研究に予算を割いていた。だが、その研究の一部は未来世界で『超人機計画』として結実しているという実績もある。彼女は『未来兵器』に興味を抱き、ゲッターレーザーキャノンを手に取って、その構造を確認する。砲熕武器と構造を異にする作り、エネルギーカートリッジやエネルギー残量表示計など、未来的な作りが成されている。大型な見かけに反して、意外と軽量なのも江藤の興味を引いた。

「ふむ……弾切れ起こしてなきゃ一発撃ってみたいくらいだな。章香、持ってみろ」

「よっと。おお……。こいつは凄いな。しかし、ここまで複雑だと模倣すら不可能そうだな」

「何せ光学兵器が戦場で飛び交ってる時代の技術で造られてますから。構成部材もそれ相応ですしね」

ゲッターレーザーキャノンは元・地球連邦軍きってのマッドサイエンティスト『敷島博士』が生み出した破壊兵器である。早乙女博士亡き後は神隼人に誘われて、ネオゲッターロボの開発に勤しんだ。その科学力の一端に触れた北郷と江藤はその高度さに息を呑む。まだ見ぬ未来。例えそれが地獄であろうと、突き進むのが使命であると改めて自覚する二人であった。



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