短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)



――太平洋戦争がその激しさを増す中、魔力と気力を並用する事で、戦闘力を『倍加』させる方法は敵味方問わず行われた。1947年のある日。次元震パニックに伴い、他国の転移ウィッチを扶桑に集積させる事になったが、そこへティターンズの刺客が送り込まれたのだ。


――とある軍港

「ぬぬぬぬ……ぬああああああっ!ば、馬鹿な!?私が力負けを!?」

バルクホルンBが力負けしていた。魔力発動状態にも関わらず、力比べで負けているのだ。これは初めてのことだった。

「馬鹿な……こ、この力は……に、人間業ではない……!」

「フ、フフ……」

ティターンズの将校は不敵に笑い、バルクホルンBを更に押しこむ。それは圧倒的までの力の差だった。

「ぐあああああっ!」

「そうか、あの力……お前、『強化人間』かっ!?」

「差別的な物言いだな」

ハルトマンAはその男の力の秘密に気づいた。その男は『強化人間』だったのだ。

「エーリカ、強化人間って?」

「未来世界で研究されていた、対ニュータイプ用の兵士だよ。投薬や刷り込みとかの非人道的手段で能力をニュータイプに対抗し得る水準に引き上げたとか……」

「あいにく、俺は純粋なティターンズではない。旧ジオンから連邦に転じ、ジオン時代の初期の技術で強化された。だから、自分で言うのもなんだが、ティターンズ製の強化人間共とは違うのだ」

そう。ネオ・ジオン(アクシズ)やティターンズの強化人間はニュータイプに対抗する事(主にカミーユ・ビダンやジュドー・アーシタ)にほぼ特化した強化が施されたため、精神面は破綻寸前に陥り、幼児化が進行した者さえいた。だが、ジオン公国時代の初期型強化人間は23世紀初頭現在知られる『強化人間』とは異なり、『兵員不足を補うため、子供や女性を短期間で、熟練エースパイロットと同等の戦力にする』ために純粋な身体能力を強化する方向性だったのだ。彼はその試験体の一人であり、ジオンにシンパシーを感じていなかったので、連邦に転じたのだ。

「如何に、貴様が魔力で能力を強化しようとも、基礎能力値が俺に根本的に劣る以上、無駄な努力だ」

――そう。バルクホルンのような、魔力での身体強化には魔力値に応じた『限界値』が存在したりする。だが、骨格の補強や器官の増設などを科学的に施された強化人間が、『気』をそこから極めれば、熟練したウィッチの魔力を超える力を発揮する事がある。彼の場合はそれだったのだ。

「この世界で既に滅んだ『中国』という文明では、人間の肉体に宿る生命エネルギー、また、それが可視化したものを応用した力を指して『気』と呼んでいた。その一端を見せてやろう」

「!?」

バルクホルンBの魔力によるオーラを飲み込まんとする勢いの、気のオーラが可視化した。それは魔力を持たぬ人間の努力が魔力という『天賦の才能』を凌駕した瞬間でもあった。次の瞬間、バルクホルンBは彼の拳によって、ノックアウトさせられる。

「逃げろ……ハルトマン…」

「逃げるだって?冗談。伊達に鍛えてたワケじゃないさ」

そう。ハルトマンAは、まだ現れていないハルトマンBと根本的に異なる点がある。それは基礎的な『戦闘力』だ。ウィッチは1939年以後は訓練期間が短縮された事もあり、軍人として必要不可欠なCQB訓練を受けていない例が一般的であった。(例外として、逆行時の黒江達の手で訓練を受けた飛行64Fがある)それが情勢が差し迫ったミーナやバルクホルンの世代以降は常態化していたため、ウィッチは単独の肉弾戦に持ち込まれると、意外と脆い側面が露呈する事が多かった。その盲点に気づいた者は、そこを重点的に鍛え直す事で、未来世界の軍人との『人間としての戦闘力の差』を埋めようとした。ハルトマンもその一人だった。

「さて、ちょい懐ネタな上に、マニアックだけど、あの技を試すか!」

ハルトマンAは気を拳に集中させ、のび太の家にあった青年漫画(中学以後ののび太自身から小学生のび太が借りた)に登場する必殺技を放つ。

『蛇矛!!連還ッ劈拳!!』

蛇矛連還劈拳。これは要するに、気を込めたストレートを相手に叩き込むというシンプルなものだが、纏った気が相手を貫くため、馬鹿にできない威力を持つ。飛天御剣流の心得を得たハルトマンAの持つ『素手での隠し玉』の一つがこれだ。

「うぉっ!?」

ティターンズ将校はこの一撃で大きく吹き飛ぶ。バトル漫画さながらの光景であった。

「ミーナ、今の内に急いでトゥルーデを運んで!強化人間でも、今の一撃ならそう易易と動けないはずだよ!」

「分かってる!」

ミーナはバルクホルンBを急いで、船へ運ぶ。傷を負いながらも、彼女はハルトマンAが自分の知るハルトマン当人と『別人である』と改めて実感するのだった。






――扶桑では、歴代仮面ライダーと怪人軍団の対決がクライマックスを迎えていた。歴代仮面ライダーらの必殺技と、黒江Aのエクスカリバーにより数を大きく減らし、今や、あと数体のみとなった。

『超電!ドリルキィィィクッ!!』

ストロンガーの超電子ドリルキックがゴルゴム怪人を貫き、スカイライダーの投技が炸裂する。

『99の技の一つ!!竹トンボシュート!』

そして、RX最大最強の決め技『リボルクラッシュ』が炸裂する。

『リボルケイン!!』

RXのサンライザーの左のタイフーンから光の剣が出現し、それを引きぬき、構える。(正確に言うと『ケイン』は杖の意味なので、ライトセイバーに近い武器である。しかしながら、斬撃できないわけでないので、レイピアなどに近い性質を持つのが分かる)

「トゥア!!」

RXは怪人の脇腹にリボルケインを跳躍した勢いで以って突き刺す。そこから膨大な破壊エネルギーを注ぎ込む。

『この世に光がある限り、俺達仮面ライダーは不滅だ!!』

そう言い放つRX。誇張でもなんでもない彼らの圧倒的な強さ。リボルケインを引きぬき、RXの文字を描きながら決めポーズを決める様はかっこいいことこの上なく、坂本Bはチャンバラ映画のファンであったため、双眼鏡越しの顔がニヤけていた。

「おぉぉ〜〜!かっこいい……」

と、感想を述べる坂本B。それに苦笑する竹井B。竹井Bの考えるところは別の所にあった。

(この世界は加速度的に兵器が進化している。いくら未来人による介入があったにしろ、異常な速さだわ。僅か数年で1500HPあれば良かった航空エンジンが、超音速を実現できる推進力の噴流推進器に飛躍している、戦車砲の主流が90ミリから120ミリに飛躍している。どういう事なの?)

そう。本来あるべき姿となった兵器の発達スピードは、ウィッチ世界が本来、10年以上かけて達成する進化を、僅か数年で達成させる(史実太平洋戦争と朝鮮戦争で起こる進化をいっぺんに起こした)ほどの飛躍を見せた。竹井Bには異常な速度にしか思えないが、史実を知っていれば、充分に『許容範囲』である。竹井Bは凄惨な殺し合いの様相に回帰している、この世界に恐れを抱いていた。ウィッチ同士で銃や剣を向け合うという光景を『異常』と感じる彼女の感覚からすれば、人同士で殺しあうのを躊躇しなくなっている黒江A達の感覚を『異常』とさえ思えるのだ。

(それに、人を殺すための技能を磨くなんて……正気の沙汰とは思えないわ。何故なの、何故……)

竹井はこの世界で巻き起こっている戦争に、圧倒されていた。ヒーロー達のヒロイックな活躍の裏で展開される凄惨な殺し合いを憂いていた。



――最前線

「火炎放射をぶっこめ!」

リベリオン本国軍は情け容赦ない殺戮を行っていた。兵やウィッチが立てこもる地下壕に火炎放射を行い、兵士やウィッチを皆殺しにする。彼らはティターンズから与えられた火炎放射戦車を使い、地下壕を焼き払うという、凄惨極まりない戦術を多用していた。更に扶桑軍兵士を恐れさせたのが、M134ガトリングガンを手持ち武装としたウィッチの一斉掃射である。『無痛ガン』と言われる、このガトリングガンを人間が喰らえば。『生身の人間が被弾すれば痛みを感じる前に死ぬ』。如何にウィッチと言えど、これを複数方向から浴びせられれば、防御の間もなく、為す術もなく死亡する。

「何よ、何よこれ!?火力が違いすぎぃ!!」

扶桑陸軍装甲歩兵は三八式歩兵銃などを愛用するケースが多いのだが、この戦線では敵との火力差がモロに生じ、命からがら逃げ帰ってくるケースが後を絶たなかった。更に、リベリオン本国軍が多用した『多数の艦砲射撃による沿岸部陣地と沿岸部都市潰し』の被害を受けることも多かった。


――扶桑陸軍は本来、戦前より構想していた『大陸領奪還作戦』で使用するはずの兵力をこの戦線で使い潰す形となるのを恐れたが、吉田茂が激昂し、陸軍の司令官らを、天皇陛下の前で『南洋島を防衛出来ない陸軍に存在意義はない!!』と断じ、現在は彼に指揮権がある事もあり、優秀部隊はどんどん前線に送られ、戦線を戦っていた。

「おい、こっちだ!来い!」

ミッドチルダ動乱で鍛えられた、歩兵第1連隊は当時の最新装備の供給を受けた部隊の一つであり、史実初期の陸上自衛隊よりも充実した装備を有していた。そのため、彼らは戦前装備を残す部隊に代わり、防戦の矢面に立っていた。

「おーし、今だ!」

89mmスーパー・バズーカを構えた兵士が一斉に弾頭を放ち、M48の側面を打ち抜く。扶桑軍は対戦車ミサイルなどの普及までの対策として、ライセンス生産したバズーカで急場凌ぎを行う施策を取った。リベリオン軍はバズーカ対策の対策の金網を張るようにした部隊もいたが、それを嫌う部隊が多かったため、予想以上の損害を負っていた。白兵に持ち込まれたら、その分野で世界最強を誇った扶桑陸軍の敵ではない事も知られていたので、『大火力で皆殺しにせよ!』というドクトリンで行動していたが、第一連隊はミッドチルダでゲリラ攻撃を学び、ハラスメント攻撃を得意としていたため、大した効果はなく、戦車の苦手とする市街戦に持ち込まれ、リベリオン本国軍機甲部隊は大苦戦していた。

「クソ、フソウの忍者共はどこに隠れている!」

苛立つリベリオン軍将校ら。だが、この市街はウィッチあがりのスナイパーが配置され、大尉級を多数殺傷していたため、『大尉の墓場』になっていた。史実ベトナム戦争のベトコンを思わせるゲリラ攻撃を行う扶桑軍。その様相は『壮絶』としか言い表しようがなかった。

「へっ。火炎放射は曳火弾撃ちゃ一発ってののを、ここの連中は知らんからな。焼かれるのも無理ない。こちとらミッドチルダで地獄を見てきたんだ、物量頼りの連中なんぞ目じゃないぜ」

ウィッチあがりの狙撃兵が、この日もリベリオン軍の指揮官を狙撃しまくる。このウィッチあがりの狙撃兵らはリベリオン軍をして『魔弾の射手』と恐れさせるほどの殺傷率であり、調子がいい時は、敵歩兵連隊の最先任が軍曹になるまで殺害したという。そのため、近接航空支援機の開発を急いだものの、中々上手く行かず、彼女らの活躍を妨害するには至らなかったという。


「新しい戦車はまだかね、全く、町中で隠れるのも飽きてきたぜ」

――扶桑軍はこの頃から機甲戦闘での不利を挽回せんと、新式中戦車の開発を急いだ。それが七式中戦車とも呼ぶべき第二世代MBTである。74式戦車のコピーであるため、技術的課題が大きかった。レーザー測距儀や弾道コンピュータ、砲のスタビライザーなどの技術的課題が重くのしかかり、1947年度の量産は不可能であった。だが、宮菱重工業の総力を挙げた研究により、着々と課題を克服し、原型よりも多少装甲圧が増えた試作車両が完成したのは、この年の冬に差し掛かる頃であった。そこからの洗い出しなどもあり、結局、量産は1949年の開始、前線配備は1950年にずれ込む。しかしながら、急場凌ぎの五式改二型の大火力に釣り合う防御力を持つ車体を持つ点が前線で高く評価された事、史実では間に合わなかったオートマチックトランスミッション搭載、行進射でも命中が望めるなどの利点から、瞬く間に主力としての地位を得るのだった。その裏には、日本戦車の父と呼ばれた『原乙未生』中将の、『此度の主力戦車の実用化は皇国軍の悲願である!』とし、自ら開発現場を視察する力の入れようで、騎兵閥と対決し、開発予算を勝ち取った彼の努力があったのも忘れてはならない。

――また、敵の大火力に恐怖した装甲歩兵から、生存率アップと火力アップの要望が出ているが、現有技術では『ティーガー』のような大型ストライカーにならざるを得ない上、速度も遅く、現在の敵に対しては機動力不足であった。そこで考えだされたのが、空軍の一部ウィッチが購入した未来の戦闘用パワードスーツの輸入だった。これはISなどの購入を軍が大々的に行うと、軍需産業が不満がるので、最前線ウィッチの要望という形での受注生産の形が取られた。空軍がISなどを運用しているのを大義名分とした陸軍は、最前線ウィッチらの要望を連邦に提出し、連邦側がオートクチュールの要領で、月に3機の割合で生産され、行き渡る一方、陸戦ストライカーの後継はティーガーの小型化が主眼に置かれ、フレデリカ・ポルシェ技術中佐が中心となって開発し、既にプロトタイプが流通していた『センチュリオン』と『ティーガー』の長所をMIXさせ、更に連邦と時空管理局の提案で、パワードスーツ工学からのフィードバックで戦闘脚と腰部のターレットをフレーム結合した「シャーシスタイル」が提案され、『レオパルト2AV』という形で、50年5月に試作が完成する。従来の軽量スタイルを好む現場の反発もあり、実用化は終戦前年の1952年までずれ込むが、最終決戦となるハワイ上陸戦でその高性能を示したのだった。


――また、ティターンズも1953年に未然撃破を狙い、生起したハワイ沖海戦に主力を投じた影響もあり、ハワイ上陸の際に使える機動兵器が量産型サイコガンダムと旧型の鹵獲機『ビグザム』しかないという有様だったが、その二機種が扶桑軍を恐怖に陥れるのだ。特にビグザムのメガ粒子砲は直撃すれば、キングジョージX級を一瞬で焼魚にし、陸軍部隊の多くを区画ごと薙ぎ払った事から、扶桑陸軍の戦意を喪失させる効果を産んだという。また、扶桑海軍も、ハワイ沖海戦の最後で、玉砕覚悟で突っ込んできたリベリオン戦艦群に圧倒され、補助軽空母の多くが砲弾で轟沈、戦巡以下の艦艇の大破続出、まさかのラムアタックで相打ちになった軽巡、自爆して空母を炎上させた重巡などもあり、損傷艦だらけにされ、満足に上陸軍の援護が出来ない状況に陥り、連邦の救援を仰いだという。また、この時に鹵獲されていたアルザス級戦艦の一隻が出港不可能になった引き換えに、沿岸砲台として奮戦、大和型と三笠の集中打でも三時間持ちこたえ、ガリアの戦艦設計の確かさが証明され、冷戦後に残存艦が返還された際に歓喜を持って迎えられたという。





――戦争には勝ったものの、軍に大打撃を受けた扶桑軍は旧型になった装備を連邦の軍事博物館などに払い下げして外貨を稼ぐ一方、ベトナム戦争に備え、軍備再建を急ぐが、戦後に空軍司令となった三輪という男がミサイル万能論に傾倒したため、その努力が殆ど水の泡となった扶桑空軍は、当時の総理大臣『池田勇人』直々の指令で、当時には事務方で手腕を見せていた江藤敏子を第4代空軍司令に抜擢、ベトナム戦争の期間、彼女は軍再建に尽力した。その流れは、彼女の元部下であった三羽烏と武子が江藤の後を継いで、1970年代前半から1986年まで『第1F時代』と呼ばれる黄金期を築くのであった。


――余談 数十年後の1986年 

「これで軍生活ともお別れか。長いようで短い数十年だったな」

退役式典を終えた黒江。当時は64歳。普通ならば老人の齢だが、聖闘士であるため、外見は変わっていない。

「さて、これからどうするかな。空自もあと10年で退役だし、聖闘士に専念するかな?」

と、呑気な事を言っている黒江。そこに電話が入る。

「はい。……あ、兄貴?どうしたんだよ……おお、生まれたって?そりゃ良かった」

この日に生まれた、黒江の大姪。この大姪が黒江の後半生における唯一の直接の血縁者にして、聖闘士としての跡継ぎとなる子となるのである。

「綾香、お前もそろそろいい年なんだし、いい加減に隠居したらどうだ。来年で65だろ」

「兄貴、冗談はやめてくれよ。60代なんて、まだ若いぜ。それに外見は若い時から変わってないんだからさ」

「はっはっはっ、そうだったな。それと、兄貴が『綾香の服装だが、もっと年を食った感じにしろ』とか言ってたぞ」

「兄様が?兄様、そこ気にすんの?」

「兄貴が言うには、いつまでも20代の服装をするな。せめて30代半ばくらいの服装にしろと」

「え〜。兄様、年食ってもうるさいんだから」

そう。見かけが若々しいため、服装も若々しいのだが、長兄(亡くなる7年前だった)からその服装の若々しさを咎められたのだ。長兄の顔を立てるため、黒江はそれから7年間は30代の服装を通した(長兄が亡くなったため)。そして次兄も1999年晩冬に死去、最後まで残った三兄が長命を保った(孫が出来たため)。三兄が死去したのは、次兄が亡くなった17年後(80代後半)であったという。一番慕っていた三兄の死去は、自身で『身内で一番ショックだった』と語るほどのショックで、亡くなってからしばらくは「兄貴ぃ……」と、兄の手を握りしめながら号泣していたという。

「坂本の奴の行方は、とうとう掴めなかったな……。あいつ、今頃、娘と一緒に何してるんだろう」

坂本は軍退役後の1979年頃を最後に、完全に隠棲したらしく、芳佳や竹井、西沢、菅野、下原すらも消息を掴んでいなかった。そのため、1986年現在は『消息不明』であった。黒江はずっと気にかけていたが、軍退役の日まで消息は掴めなかった。それを残念がった。

「さて、ヒガシの家に行くかな。最近は射撃競技に精を出してるから、いないか?」

メルボルン五輪で金メダルを取った後、圭子は射撃競技に力を入れ、退役後の80年代にはそちらもカメラに次ぐ趣味としていた。黒江が退役を迎える数年前に退役し、今は悠々自適の隠居生活を送っていた。

「おーい、ヒガシ〜、いるか?」

「あ〜、黒江ちゃん?ちょっと待って〜今、大姪の面倒見てるから」

「大姪?お前の兄弟、子供いたっけ?」

「二番目の兄貴の孫に当たる子なんだけど、両親が今年の飛行機事故で死んじゃってね。それで血縁が近い私にお鉢が回ってきたのよ」

大姪にあたる生後数ヶ月の赤子をあやす圭子。まさか自分が子育てするとは思わなかったようだ。

「見かけが若いって言ったって、この歳になって、子育てなんて思わなかったわ」

「確かに。私も大姪が生まれたって電話があってさ、これでソイツがウィッチなら、後継ぎに出来るんだが……」

「最低でも1993年以降になんないとわかんないわよ?ウィッチの覚醒は6歳から7歳がボーダーラインだし。それに、この子や黒江ちゃんの姪っ子が、私達の才能を受け継いでいるか限らないし」

「だよなぁ」

二人はそう話すが、幸いと言うべきか、圭子の大姪に当たるこの子は長じた後に、ウィッチとなって空軍に入隊。大叔母の再来と言われ、同期入隊の三羽烏の残りの大姪と共に、2000年代中盤以後、『二代目・空軍三羽烏』と謳われる撃墜王らに成長するのだった。


――時は進み、2006年

「ねえ、聞いた?今度、ウチの部隊に入ってきた子……」

「報告は受けてるわ。あの『坂本美緒』大佐の孫娘らしいわね」

「へえ……大叔母さんが言ってたあの人の」

「噂通りなら、面白くなりそうだな」

彼女らはそれぞれ、智子の大姪、武子の孫娘、黒江の大姪、圭子の大姪である。当時は20歳前後。彼女の世代だと『リウィッチ』になって、職業軍人として生きる道が当たり前となったため、あがり=退役は遠い昔の話になっていた。奇しくもこのやり取りは、かつての初代三羽烏と武子が、坂本らの着任時に交わしたやり取りとほぼ同じであった。

「申告します!『北郷百合香』少尉であります!本日、飛行64戦隊に着任しました!」

北郷百合香。坂本の孫娘であるが、母である坂本の子が母の師がいる北郷家に嫁入りしたため、北郷性を名乗っている。そのため、血統としては北郷と坂本の両者の血を受け継ぐサラブレッドだ。

「部隊長の加藤美奈子中佐です。あなたの事は宮藤少佐から聞いているわ」

「いやあ、まぐれですよ、まぐれ」

『宮藤少佐』とは、彼女を育て上げた教導ウィッチで、宮藤芳佳の次女『剴子』が長じた姿である。現場に近い立場なので、ベトナム戦争後はあまり出世していない。彼女の母である芳佳は感覚で飛ぶウィッチであったため、教導の道には進まなかった。そのため、子である剴子が、母に代わって軍の要請に応えた形だ。

「あなたも知っての通り、ウチの部隊は太平洋戦争以来、実戦部隊で鳴らしてきました。明日より第三中隊『天誅組』で訓練を受けてもらいます。」

「はいっ」

64戦隊の執務室は、初代三羽烏の使用していた時代と電子機器などで変化があるものの、往時の姿を留めていた。壁に額入り障子に入って飾られている歴代戦隊長の写真には、もちろん初代三羽烏が含まれており、これまでの変遷を忍ばせる。

「美奈子、そろそろ上との会議の時間だぜ」

「ああ、ありがとう、翼」

シニヨンヘアーのこの副官こそ、黒江の大姪にして、二代目魔のクロエでもある『黒江翼』である。彼女は黒江の狂奔の側面を強く受け継ぎ、鬼気迫る戦いぶりを見せる事から、『スエズの稲妻』とも呼ばれる。スエズ運河に怪異が出現した際に、大叔母から受け継いだ聖闘士としての才覚を覚醒させ、右手の聖剣を『アロンダイト』としている。この事から、聖闘士としても黒江の後継ぎなのだ。

「この子が新任の?」

「ええ。北郷少尉。坂本大佐と北郷中将閣下の血を受け継ぐサラブレッドよ」

「そうか。私は黒江翼少佐。副官をしてる。宜しく」

「こちらこそ」

髪型以外は往年の黒江と生き写しの翼。

「でも、『調教されぬ名馬は駄馬にも劣る、鍛練を怠るべからず』だぞ、翼」

「澪か」

加東澪。圭子の大姪である。彼女は直接の孫というわけでもないのに、髪にヘアピンをしていて、アホ毛がある以外は1943年以後の圭子と瓜二つの外見を持っていた。性格面は大叔母というよりは、往年の黒江に近い。

「お前の中隊に回すから、鍛えてやれよ」

「分かった。ビシビシ鍛えるから、覚悟しておけよ」

そう言って、その場を去る澪。圭子と瓜二つの外見ながら、言うことが往年の黒江に近いため、大叔母よりは黒江の影響が出ているのが分かる。

「麗子の奴はどうした?」

「あいつなら、今、スクランブルの最中だ。第一中隊を率いてる」

――穴拭麗子。智子の姉の孫であり、智子の大姪である。容姿はツインテールだったりサイドテールだったりするなど、髪型を気分で変える癖があるが、往年の智子瓜二つである。性格は圭子に憧れたため、圭子に似て大らかであるが、戦闘時は冷静沈着に振る舞うため、大叔母がマフラーにしていた『剛勇穴拭』の文字が『沈着穴拭』となっているなど、大叔母と対になっていた。また、大叔母が字が下手であるのに対し、麗子は母と祖母の教育の賜物、達筆である。

「そうか。最近は怪異も小康状態だし、実戦経験積む機会もめっきり減ったからな。大叔母さんたちみたいに未来に行くか?」

「それしかないかな。実戦一回は10回の訓練に勝るとは、圭子叔母さんの言葉だし」

彼女たちは大叔母達同様に、未来へ往くことを考えていた。それには、この時代でも『連邦軍人』としては現役である大叔母達の力を借りなくてはならない。この頃の未来世界はヤマト復活に伴う『大ウルップ星間国家連合』との戦いが勝利に終わった西暦2212年を迎えており、それでも大星団ゴズマの別働隊やバダンとの戦いは続いており、戦乱は続いていた。

「綾香叔母さん、ちょうど向こうに行くとか言ってたから、頼んでみよう。往年の第一中隊、第二中隊の面々も連れて行くようだし」

そう。黒江らは戦乱期が一段落した2205年からの2209年までの時期は未来世界にはいなかったのだ。その間に元の世界で数十年の月日を過ごしたのだ。

「え?どういうことですか?」

「私達の研修先の話だ。最近は往年から腕が鈍っていると、退役軍人から文句が出ているんでな」

――そう。冷戦後の時代におけるウィッチの実働までの平均飛行時間は増えたが、実戦経験をあまり積めない時代故、64Fといえど、往年に比すると『平均レベルが低い』と退役軍人らから文句が出ていた。そのため、彼女らは『昔年のレベル』に戻すために大叔母らの力を借りようとしていたのだ。この新旧飛行64F主力の饗宴は未来世界で旋風を巻き起こすが、それはまた別の話。

――麗子、翼、澪ら『二代目三羽烏』を筆頭とする、彼女ら若き次世代ウィッチを地球連邦軍はこう呼んだ。『ネクストジェネレーションウィッチ』と――



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