短編『坂本美緒の珍道記』
(ドラえもん×多重クロス)



――ウィッチ達の内、未来世界と関係を持った者達は、自動的にのび太らと関係をもつ事となり、野比家にウィッチ達が常に数人常駐している状態であった。玉子がいつものように、のび太の部屋を掃除しようとすると……。

「のび太君のおかーさんですね?お邪魔してます。私、黒田那佳っていいます」

あんみつを食べようとしていた黒田と出くわしたのである。野比家は連邦軍によって、ウィッチの隠れ家として、連邦軍在籍である、セワシの孫によって(セワシの長男の長子)と公認されており、のび太もそれを受け入れた事から、いつの間にかウィッチ達のたまり場となっていた。

「留守番を頼まれてるんで、上がらせてもらってもらいました。先輩達待ちなので」

「それじゃ、あなたは綾香さんの?」

「後輩です」

黒田は機転が利くほうなので、玉子を上手くやり過ごす。のび太からは『うちのママ、手強いですよ』と言われているため、慎重に話す言葉を選ぶ。玉子が掃除を終えて去ると、大きく息を吐き出す。

「はぁ〜、疲れる〜。まっ、先輩からバイト代もらってるし、頑張ろう」

この時、既に506は解散状態にあり、黒田は黒江に『先輩、仕事見つけてくださいよ〜』と泣きついていた。そこで501に『黒江の秘書』として配属される内示が出ていた。ミーナにそれが知らされたのは、この数時間前のことだった。


――新501基地

「な、なぁ!?活動自粛中のノーブルウィッチーズから人員を引きぬいたぁ!?」

ミーナは報告を受け、素っ頓狂な声をあげる。一階級下でも、遥かに先任である黒江に翻弄されている感が強かった。

「部隊で問題が有ったとしても、問題に関係ない人員を遊ばせておくなら、それを有効に使うだけですよ、中佐」

「最高司令部の承認は?」

「アイゼンハワー閣下直々の承認です。ロザリー少佐からの手紙もそちらへ届いているはずです」

「あなたはいったい、何者なの……?黒江少佐」

「扶桑海・陸軍三羽烏が筆頭ですよ。スリーレイブンズ伝説の基になったウィッチ。それが私であり、穴拭であり、加東少佐です」

電話口越しに、ここで初めて、自分が『三羽烏伝説』の基になった当人であると示唆する。ミーナは若かりし頃に、佐官時代のガランドが言っていた事を頭の中で再生する。

『扶桑には、すごい三人のウィッチがいる。その三人さえ揃えば天下無敵、奇跡だって起こせる』と。当時、冗談めかして語っていた。その当時に既に恋人を失っていたミーナは、ガランドの言うことを話半分に聞いていたため、そのような奇跡を信じなかった。だが、坂本がある日、昨年に真ゲッターロボが見せた『ストナーサンシャイン』を、『あれはアイツの技だ!?』と思い出したように言い出したのをきっかけに調べ始めていたのだ。

「そ、それじゃ、あなたは……扶桑の記録に有る『黄金の鬼神』と渾名された……?」

「……そうです。もっとも、個人的には鬼神というより、風神と言って欲しいですが」

黒江は肯定する。ミッド動乱を挟んだため、黄金聖闘士になる運命は知っているからだ。

「あなたが……いえ、あなた達があのスリーレイブンズだと言うの……!?」

「そうとだけ申し上げておきます。私達を上層部の紐付と思っておられるようですが、その逆です」

「なっ……!?」

「私達が指を動かせば、ガランド空軍総監は愚か、山本五十六元帥海軍大将、果ては今上天皇陛下やウィンストン・チャーチル閣下が即座に動きます。逆に言えば、私達は上層部を黙らせられるだけの顔の広さがあるのです」

ミーナは、扶桑の天皇が絶大な権威を国内で持つことを知っていた。一国の国家元首、それに準じる地位の人間を動かす事はガランドにも不可能なので、三羽烏の顔の広さは、一軍人としては異常な広さである。

「……扶桑の皇帝までも、あなた達の手中だと?」

「そうです。もし、部隊に何かあったら、黒幕を国家規模で葬りますので、ご安心を」

それは嘘ではない。今上陛下は、扶桑海事変以後、自分すら排除しようとした輩を始末してくれた三羽烏を覚えており、彼女らが左遷に追い込まれたのを知ると、元帥・大将級の軍人らを皇居に呼びつけ、彼らに怒鳴りまくるほど怒り心頭であった。そのため、扶桑陸海軍は三羽烏の人事を『腫れ物に触る』ものとするようになり、未来世界に送り込んだ。それが結果的に彼女らの伝説を決定的にしたというタイムパラドックスがある。

「あ、ありがとう……(恐ろしいわね……。この人が味方にいるのが救いね。もし、敵だったら……)」

その後はアテナも後援者となるので、三羽烏は神の加護を501に与えた事になる。ミーナがアテナこと、城戸沙織と対面するのは、ここから随分と時間がたった後の事。その時は杖をかざすだけで建物を粉砕してみせた沙織に驚愕し、忠誠を誓う事になるのだった。


――さて、坂本はスーパーで、チンピラに絡まれたしずかを助けた。坂本の乱入に怒り心頭のチンピラは殴りかかるが、プロの職業軍人である坂本にはかすりもしない。

「てめえはすっこんでろ!」

チンピラは坂本に殴りかかるが、坂本はスウェーを使い、華麗に躱す。

「やれやれ、正論を言っただけでこれか。チンピラも質が落ちたものだな」

坂本の時代は任侠の心を持ち合わせる者も多く生き残っており、そこから国会議員になれた者も多い。そのため、20世紀後半以後の荒んだ裏社会の人間とは比較にならない。坂本はそれを知るため、『質が落ちた』と言ったのだ。

「なんだとぉ!!」

「でりゃあああっ!!」

坂本は瞬時にチンピラを投げ飛ばす。坂本ほどの身体能力があれば、柔道の一本背負いは容易だ。ズドンという音と共に床に叩きつけられるチンピラ。彼は衝撃で気絶している。

「ふう。君、大丈夫かい?」

「あ、は、はい。大丈夫です」

「しずかちゃ〜ん」

「のび太さん」

「しずかちゃん、大丈夫だった?」

「え、ええ……。のび太さん、この人は?」

「黒江少佐の後輩で、海軍の坂本美緒少佐だよ。」

「坂本美緒だ。君達の事は黒江から聞いている。よろしく」

「海軍の軍人さんが、どうして、陸軍の軍人さんと?」

「ああ、こっちはそういう問題があるのか。私の世界では、ここほどの対立関係はないんだ。一丸となって戦わないといけないバケモノがいるんでな」

坂本は、怪異相手に戦争する事で、陸海軍の政治的に対立が無くなった事を実感する。スーパーを出て、しずかを送る。

「それじゃ、黒江少佐とは付き合いが長いんですね?」

「アイツは私が君たちくらいの頃には、もう士官だったから、子供の頃はそれほど、こっちから話しかけられなかったけどな」

「士官と兵って、そんなに身分が違うんですか?」

「私達は下士官からスタートだが、軍隊っていうのは、君が思っている以上の縦社会なのさ。士官は兵や下士官をまとめる統率力も能力の一環とされるから、相応に教育を受けないと任官されない。だから、兵に偉ぶるのも多いんだが、アイツは気さくに接してくれたよ」

坂本は若かりし頃の『記憶』を辿る。最近はぼやけているところも多いが、黒江が気さくに接してくれた記憶はあるので、それを話す。実際はこの時、坂本に黒江達の歴史改変の影響が生じ始めたため、記憶が書き代わりつつある最中にある。そのため、歴史改変で消えた出来事の記憶と改変時の記憶がごっちゃになっている。ただ、はっきりとしているのは、休暇の時に酔っ払ってしまった際、黒江に介抱してもらった記憶が刻まれているだけだ。

(あいつの腕のぬくもり……姉さんと同じだったんだよな。あー、恥ずかしい話だ)

坂本ははっきりとしている記憶である、そのエピソードを回想する。坂本はそのエピソードにより、黒江に姉の面影を見ており、素直になれないものの、黒江が赴任した際に、ミーナを懐柔するのに一役買っている。


(ミーナは黒江達が来た時、私には不快感を見せたな。上層部の差し金で来たようなものだから、ウチを紐付にしようとするための監視要員と思ったんだろう。)

――黒江達の赴任から数日ほどたったある日

「上層部は私たちを監視するつもりなのかしら?」

「まさか。あいつらはそんな政治的策謀に加担するような奴じゃない。あいつらは私の直接の先輩で、共に戦った戦友だ。私が保証する。私が嘘をつけないのは知ってるだろう?ミーナ」

「あなたがそういうなら……」

「何なら、扶桑陸軍にあいつらの経歴を照会したっていい。あいつらは反骨精神旺盛だったんで、左遷されたんだから」

この時は三羽烏の内、智子と黒江がいたが、ミーナは二人の軍歴の長さ(ミーナ自身の入隊時には、士官として活躍していた世代)、上がりを迎えて久しいはずの者を現役復帰させる試みがなされている現状に疑問を持っていたため、二人の配属を訝しむ。


「素直には喜べないわ。二人の軍歴は長いけど、活躍した時代は戦間期から大戦初期なのよ?今はその頃とは怪異のレベルは全く違うのよ。いくら扶桑きってのエースと言われても、昔の話でしょう?」

「あいつらは口先だけの古参とは違う。特に黒江はその昔、『魔のクロエ』と畏れられたほどに情け容赦なしの戦いぶりで名を轟かせた。アイツが本気を出したら、次元も斬り裂けるぞ」

「ま、まさか」

「嘘じゃない。あいつが本気で剣を振るったら、次元が裂けたんだよ」

断空光牙剣で次元を斬り裂いたのを覚えていたらしく、それを引き合いにだし、黒江の事を説明する。他にも『手刀で怪異を落とした』(ライトニングクラウン、エクスカリバーなど)、『何が何だかよくわからないけど、拳を突き出したら、怪異が粉砕された』(ライトニングボルト)事を教える。坂本がいうことに嘘偽り無しなのは、長年の付き合いで分かっているため、なんとも規格外なのは認識出来た。しかし、二人の真価は作戦立案能力の高さでもあるが、作戦立案関連に疎いため、そっちには言及しなかった。それがずっと前線で戦い続けてきた坂本の『限界』であった。士官としての教育を受けてはいるが、戦時の短縮カリキュラムであったため、作戦立案実習は必要最低限しか受けておらず、その能力は前線で困らない程度のものでしかなく、大局を見据えての戦略は練れない。この世代からの数世代の問題点として持ち上がっているのである。ミーナとて、戦術家であり、戦略家ではない。これは、相手が人間ではないため、地形要因だけを考えればよかったためだ。そのため、23世紀の軍人からすれば、『リバーシやチェスチャンピオンのほうがマシ』と揶揄される作戦立案をしてくるウィッチが多く、連邦軍がそれを代行する局面も多くなっている。

「私たちは所詮、戦術家であり、戦略家じゃない。ナポレオン戦争以後も血塗られた殺し合いを続けてきた23世紀世界の人間達に比べて、どうしても劣る。そこを認めろ。そうでないと、この先は生き残れんぞ」

坂本は作戦立案能力が、23世紀の地球連邦の水準で言えば『リバーシが得意な一般人』と同レベルであることを自覚しているため、ミーナに忠告する。ミーナとて、23世紀世界の軍人が持つような戦略性は持ちあわせていない。ガランドやロンメルなどの将官が辛うじて、それを持っているに過ぎないのが連合軍の現状なのだ。

「美緒……」

「あいつらを信用しろ。未来でいっぱしの再教育を受けてるし、いざとなった場合のサバイバル能力は私達よりよほど上だ。それに、お上の覚えもめでたいから、物資もどうにかしてくれるさ」

坂本は三羽烏を擁護する。戦闘面からの擁護だが、あながち間違ってもいない。

「とり合えず、新人三人(ペリーヌ、リーネ、芳佳)と模擬戦やってもらってそれで実力を把握したらどうだ?」

「それがいいわね」


――という事で、その次の日、模擬戦が行われた。二対三の組み合わせで、芳佳達にハンデが付いていた。空戦センスはペリーヌらは期待の新人であるので、二人相手にも引けをとらない。

「おっと。なるほど、若手にしては骨がある。さすが青の一番だな」

ペリーヌは青の一番の異名を持つ、ガリアきってのエースである。そのため、四式戦闘脚を履く黒江の機動に追従してみせる。

「そちら、坂本少佐のご先輩と伺いましたが、本当に20代なんですの?どう見ても私と同じ年の頃にしか?」

「向こうの技術で若返ったからな。外見上は君とそんなに変わらないさ」

と、会話をしつつ、空戦機動を掛けあう。ペリーヌはガリアのトップエースであるが、いささか経験不足であり、次第に経験差が生じ、黒江に裏をかかれ、背後を取られる。

「私の背後を!?……リーネさん!」

「はいっ!」

リーネの援護が入る。黒江はリーネの射撃を避けつつ、褒める。

「ふむ。中々、いい狙いをする。磨けば光るぞ、君は」

「あ、ありがとうございます」

リーネを褒めつつ、黒江は智子に、リーネを襲うようにアイコンタクトし、智子はそれに応じる。猛然と突っ込んでくる智子にライフルを連射するリーネだが、圭子を知る智子に取って、狙撃用の対物ライフルの射手につきものである、ボルトアクション式である故の次弾発射までの隙をつくのは容易であった。が、ここでリーネは意表をつく。

「今だよ、リーネちゃん!」

「うん!」

芳佳とリーネが同時に機銃とライフルを撃つ。智子はここで『ニヤリ』と笑う。

「そう来たわね。だけど、あたしを誰だと思ってんの?」

智子は背中の刀を拔く。刀が光と炎を纏い、覚醒の片鱗のオーラが顕現する。

「でぇえいっ!」

弾丸をその力で斬り払う。ペイント弾とは言え、弾丸を消滅させるほどの剣技を見せた智子。それに驚愕する、地上のミーナ。

「な、何……剣に青い炎が……?」

「あれが穴拭智子だ。扶桑海の巴御前と謳われ、スオムスいらん子中隊の隊長でもあった。最も、あの力はスオムス時代には使っていなかったがな」

「スオムスの……!?そ、それじゃ」

「ああ。私達501の基になった飛行隊の隊長だったのさ、あいつは。もっとも、現役の頃は色々と苦労したようだがな」

そう。スオムスいらん子中隊はこの時代には伝説となっている。智子はそこの隊長であったと言われ、ハッとなるミーナ。

「そして、黒江綾香。元・505の教官にして、魔のクロエ。その力の真髄は雷撃だ!」

黒江が剣を天空に掲げると、ペリーヌのトネールが児戯に等しいほどの現象が起こる。いきなり空が曇天に渦を巻く。そこから雷槌が剣に降り注ぎ、剣にエネルギーが充填される。

『トールハンマーァァァブレイカーァァ!!』

と、叫びと共に突風を纏う雷槌が撃ちだされる。聖闘士としての風の属性、魔導師としての雷を組み合わせた一撃で、マジンカイザーの同名の技を模したものだ。魅せ技としても、実用技としても使う事が出来るこの技、ライダーストロンガーこと、城茂から電気の応用を教わっていたために編み出せた技である。

「なっ!?そ、そんなの反則ですわ、反則ですわぁ〜〜!?き、きゃあああああ!」

突風の渦に飲み込まれ、さらにそこで雷撃を食らう。元々、電気に耐性があるペリーヌだからこそ、雷撃に耐えられているのだ。これがリーネであれば大怪我しているところだ。

「ペリーヌさん!!」

「きゃあああああ…ぁ……ぁ……」

トールハンマーブレイカーの威力は凄まじく、ペリーヌは悲鳴を上げながら気絶してしまう。観測役のエイラが救出に赴く。なお、バックファイアをどうやって防いでいるかと言うと、剣を持っていないほうの腕で光線系魔導を使用し、電気の通り道を作っていたりする。

「これで一人っと。次は……お前か、宮藤」

「はいっ」

「さて、中佐の前だ。本気で来い!」

「行きますよ!」


黒江は芳佳と第二ラウンドに入った。黒江や智子、圭子が本国で鍛えたため、芳佳の機動はハルトマンやバルクホルンと比べても、遜色が無い程になっており、更に二刀流の剣技を用いたため、地上のミーナと坂本は唖然としてしまう。

「はああああっ!!」

「でぃぃぃや!」

時速600キロもの速さで交錯する両者。剣の鍔がぶつかり合い、叫びが木霊する。それは扶桑ウィッチならばの光景であったが、坂本は、芳佳が扶桑軍屈指の剣豪である黒江と渡り合えるほどに成長したのに感涙している。ミーナは目が点になり、うわ言を言っている。よほどショックだったようで、バルクホルンが介抱している。

「扶桑って、扶桑って……」

――この時からミーナは扶桑ウィッチへ諦感を更に強める。それは次の瞬間で明らかとなる。

『ツインブレェード!!』

芳佳は剣をつなぎあわせ、それを両側に刃を持つ得物とする。ツインブレード形態だ。

『アークインパルス!』

そこから黒江に一太刀浴びせる。X文字に巫女装束を斬り裂く。

「腕を上げたな」

その瞬間、白衣が飛びちり、上半身が小具足の籠手だけの姿になる。黒江は芳佳の剣技を賞賛する。

「お返しだぜ!!」

こちらは剣を天に掲げ、雷光のエネルギーを受けるが、今回はエネルギーを打ち出すのではなく、それを斬撃のエネルギーに変える。

『雷光ぉぉぉざぁぁぁん!』

オーラを纏い、そのまま突進。芳佳を峰打ちする。本気で繰り出せば、芳佳を両断してしまうからだ。その時に雷撃がストライカーにダメージを与え、芳佳の紫電一一型を吹き飛ばす。

「やべっ、うっかりぶっ壊しちまった」

「あたしが後で山西に連絡して、二一型以降の紫電を用意させるわよ。一一型じゃ不安定で、事故る可能性大だし。確か、純粋艦載機の三一型が烈風の代替で生産され始めてるはずだし」

「頼む」

――という理由で、芳佳が紫電から紫電改に乗り換えたのは、ミーナがブリタニアから持ってきた機体を壊してしまったため、その代替品として、次世代モデルを宛てがったのが真相だった。

(あの後、ミーナは頭を痛めてたな。せっかく持ってきた機材が一発でオシャカにされたからな。穴拭がすぐに次世代型の三一型と二一型を用意してくれたが、どうせなら、私に烈風を用意してほしかったな)

坂本は最終的に紫電改を使用するものの、烈風の配備を熱望したが、智子が本国に連絡を入れた時には東南海地震で、宮菱に烈風ストライカーを生産できる能力が失われており、調達は断念された。連絡を入れた曽根技師からは後日、謝罪の電話が入った。だが、もう一つの設計案が空技廠を通して筑紫飛行機に渡っており、彼らが心血を注いで、作り上げた震電。その更なる次世代のジェット化第二世代モデル『震電改二』が芳佳の紫電改に代わる愛機となるが、それはそこからちょっと未来の話。

「お〜い、坂本」

「黒江」

「今、スーパーマーケット行ったら、警察が来てたぞ。何かあったのか?」

「ああ、この子がチンピラに絡まれてたから、助太刀してな。最近のチンピラは任侠を知らんのか?」

「やっぱお前だったか。オバちゃん達が『モデルみたいな若い女の子がチンピラをぶちのめした』って話してたの聞いたから、もしやと思ったが。私がその場にいたら骨の数本はぶち折るんだが、今は問題は起こせん立場だしな」

「どうしてだ?」

「ああ、私、ここの時代の防衛大学校に入るつもりでな。願書書いてるとこなんだ」

そう。この時期、黒江は防衛大学校に潜り込む下準備をしていた。そのため、受験勉強と称し、野比家に下宿を頼んでいた。玉子は、のび助の代で借家から買い取ってから間がない家の維持費の問題から当初、難色を示した。だが、黒江は『お金はウチから仕送りがあるので、ご心配なく』と上手いことを言い、更に家事を手伝うという条件を出し、のび助を納得させた。玉子も夫に従い、黒江はこの時期から、野比家を第二の別荘とするのだった。また、防大入学はタイムマシンがある都合上、1999年度に潜り込むという反則技を使った。そのため、タイムマシンを使い、休日を活用しては三足のわらじを続ける日々となるのだった。(そのため、休日はタイムマシンフル活用と、ドラえもんの道具の時門を使用である)そのため、外泊が許可される2000年以後の土日は野比家にいるようになる。また、任官後もちょくちょくいる上、立場上、休暇が取りやすくなったため、休みの時はたいてい、いるようになるのだった。

――坂本は野比家滞在中、様々な事を勉強した。自分が携わった零式の戦闘機としての栄光と悲劇の軌跡、大和と武蔵の悲劇的最期などの歴史、近代的戦術に、人同士の戦争で必要不可欠な『戦略』など。黒江は、のび太の本棚に置いてある(玉子は漫画は定期的に懲罰を理由に処分するが、活字本は処分しないので、それを利用し、置いておいた)、自衛隊パイロットであったロ○ク岩崎氏の『最強の戦闘機パイロット』や、史実撃墜王(自分の同位体含め)達の回想録や戦記を読ませる。

「いつの時代も空戦の基本は変わらん、か。安心したよ。ミサイルが現れると、撃てば終わるって声が大きいしな」

「ああ、そいつらの言うことは真に受けるなよ。ミサイルは確かに便利だが、当たらない公算も多いから、巴戦の技量も大事ってされてるんだ。政治屋共の都合って奴もあるから、現場が振り回されるのさ」

「お前、やけに知ってるような口ぶりだな」

「そりゃ、23世紀でVF乗ってるし、MSも訓練受けてる身だぞ、私は。ジェットの取り扱いにゃ慣れとる」

「ハルトマンの妹のウルスラ中尉が必死になって研究してるものの行末も、今と変わらんか」

「ハルトマンや穴拭から聞いたが、『ジェットになれば、個人技能に頼らないで済む』と、ウルスラ中尉は考えていたんだ。ところが、実際はジェット同士の空戦でも、個人技能も重要な要素になる事、ミサイルは万能ではないと知らされたから、しばらくショックで呆然としていたそうだ」

そう。ジェットは旧来のレシプロに対して、『速度と火力で圧倒的優位にある』が、同じジェット同士で戦えば、従来と変わりない空戦となる。そこが欠落していた(そもそも想定外)ため、ウルスラはショックを受けたのだ。ジェットの利点も、同じジェット同士では、レシプロに対する利点は相対的に消滅する。それを知ったウルスラは、喧々諤々となった。実際に、テスト中のジェットストライカー(me262)で、ノイエ・カールスラントに現れた敵機を迎撃に出たところ、それがF-100だったため、利点が相対的に消滅してしまい、悠々と振り切られる事件も起こっていたからだ。

「そのきっかけはなんだ?」

「世代飛び越えたセンチュリーシリーズがノイエ・カールスラントを悠々と飛行したそうだ。それで、連邦軍のVFとかが更にそれを追って、現れたからだよ。あれなんて、極超音速まで一分もあれば到達するバ推力だからな。中尉が書類を落とすのも無理はない。私達の知るロケットより早いのが、轟音おっ立てて飛んだんだし」

「ああ〜、なるほどな。アレが飛んで来たんじゃな。確か、お前の愛機のエクスカリバーだっけか?は空力限界まで一分で到達できるんだったな?」

「そうだ。ミーナ中佐は使用の許可渋ってるんだが、なんでだ?」

「ああ、それは熱核タービンのことを知らないからだろう。あいつの名誉のために言うが、知れば使うはずだ。弾薬だけ心配すればいいんだし。気になれば調べるだろう。私達がともかく言うべきことじゃないさ。あれは我々からすれば『夢の機関』だ。しかし、宇宙に行かない限りは燃料要らずの機関など、私らの常識ではあり得んからな」

「実際には、反応物質を少量入れとく必要はあるけどな。一回反応物質を入れれば、有に数ヶ月は大丈夫だし」

そう。ミーナはこの時、地球連邦軍航空機の根幹となる技術『熱核タービンエンジン』を知らなかったのだ。それに言及し、ミーナを擁護する坂本。坂本は現場責任者であるため、連邦軍との交流がミーナよりも多かったからだ。

「お前らが乗ってきたマシン、高級機種ばかりだろう?しかも最新鋭機含めた。それもあるんじゃないか?あいつが躊躇うの。値段が我々の常識からすれば、国家予算並だし」

「経済学知ってるとは思えねーからなぁ。インフレとかデフレとの用語」

「しょうがない。我々は証券マンじゃなくて、一軍人にすぎんからな」

坂本はそういうと、ミーナの心労を考える。VFの動力源を知っていれば、どうという事はない事だが、知らないと胃炎は確実だからだった。


――新設の格納庫に集積されたVFは、新鋭機と改造機が入り交じるもので、最新鋭のYF-29、VF-25F/S、VF-19A/F/S、VF-22S、VF-9改などが整然と、ファイター形態で駐機されていた。どれもこれも、『大口開けてかっ飛ぶ』燃費の悪そうなジェット機であるため、ミーナは胃がキリキリと言う。

「あ、ミーナ。視察に来たの」

「え、エーリカ?なんであなたがここに?」

「注文しておいたVFが届いたから、その確認さ。ライセンス取ったんだ、あたし」

「……は?」

「あ〜もう、信用してないでしょ?これを見てこれを」

ハルトマンは、VFの操縦ライセンスをいつの間にか取得していた。そのライセンスをミーナに見せる。

「ほ、本物だわ……。それで、あなたのはどれなの?」

「あそこの菱型の主翼の奴さ。VF-22S『「シュトゥルムフォーゲルU』。ちょっと値段は張るけど、凄い性能だよ」

VF-22系統の機体は、この時代の製造技術では製造不可能な構造の主翼を持つため、外見上も見分けがし易い。他の統合戦闘航空団でさえも持ちえない超先進装備を持つ事への負い目、それでなければ、ティターンズが続々と送り出す戦闘機群に対応しきれないという事実。ここまで優遇措置を受けたら、他部隊から嫉妬を買うのではないか?という考えが過る。

「いいのかしら、こんな超先進装備を持ってしまって」

「ミーナは頭固すぎだよ。守れなきゃ、何もかも水の泡なんだよ?守るためなら、たとえ23世紀のオーバーテクノロジー使ってでも、やるべきさ」

「エーリカ、あなた……」

「あたしだって、いい加減に大人にならないといけない年頃だしね」

ハルトマンはこの頃までには、未来に行った経験を持つようになった。そこでグレートマジンガーの操縦者の剣鉄也に出会い、彼に仄かな想いを抱く様になった。そのため、彼の影響が多々出ていた。VFに乗るようになったのも、そのためだ。

「おーい、ハルトマン。お前が注文してた自動小銃とか機銃来てるぞ〜」

「あんがと、シャーリー。んじゃね。ミーナ」

「え、ええ」

ハルトマンはサイドアームもこの頃には、自分で新規に調達するものを選んでおり、歩兵戦で使ったりする自動小銃や、空戦用の機銃は概ね、ドイツ製のものが技術的な祖になったモデルを好んでいる。これは銃器に関しては、カールスラント製のそれの信頼性が高い事などからの事だ。成長を見せるハルトマンに安心しつつも、ミーナは書類を確認し、運びこまれた機種が、連邦軍にもそんなに出回っていない程に高価&高級機種とわかり、VFの運用経費に頭を悩ますあまり、神経性胃腸炎を発症してしまうのだった。



――元の世界で、このような事が起きているのを露知らぬ坂本は、黒江と共に野比家でしばし生活を送る。名目上は学生の『長期休暇』の思い出づくりであるが、坂本の心を解すには十分だった。坂本は野比家で生活を送る内に、幼い日同様に、黒江に姉の面影を見るようになる。

(昔は怖いイメージがあったが、黒江って、こんなに笑うんだな。昔の姉さんを思い出す。軍に入ってからは会うこと少なくなったし、嫁入りしてしまったからな)

坂本は、年が5歳前後離れた姉が一人いる。ウィッチではないので、普通に嫁に行ったのだが、坂本が軍に入ってからは会えない事も多く、最近は疎遠気味だった。坂本は親ともあまり連絡を取らないのだが、姉には、数年間会っていない事もあり、郷愁が湧いていた。未来での体験を経て、好人物に成長した黒江に、坂本は姉の面影を見、若き日の姉を重ねていたのだ。そのため、生涯、口では喧嘩しても、内心では、黒江を姉のように思っていくのだった。

「子供達は寝たか?」

「ああ。しかし、お前……ああいう表情できるんだな」

「お前、私をなんだと思ってたんだよ」

「なんとなく、腹黒くて、演技で人を籠絡してでも味方を作る、鎌倉時代の源頼朝みたいな……」

「おぃい〜、何だよそれぇ〜」

黒江は、坂本が人物評を率直に言った事にしょげる。扶桑海事変の際に抱いた印象に加え、戦後の風評も加わって、坂本は『頼りになるが、腹黒くて、何言い出すかわからないから、相談相手にはちょっと……』と思っていたのを率直に言ったので、心外らしい。

「そりゃそうだろ?若い時のお前、色々と手回して、物資とか環境整えてただろう?子供の目から見れば、『怖い人』にしか見えんぞ」

「そりゃまぁ、そうだが。おかげで飯は食いっぱぐれなかったろ?他の部隊はまともな飯すら手に入らないところがあったんだからな」

「陸は兎の肉すら食っていたというのは聞いてるが……」

「私が手を回して、某有名ホテルとかから融通したり、五十六のおっちゃんのコネで、小松や皇国ホテルから食料を回してもらったり……。その時は先方に頭下げたり、大変だったんだからな、あれ」

「そうだったのか……。それと、あの人達は今、何をしてるんだ?ほら……」

「ああ、大和達か。あいつらは連合軍の秘書官してるよ。扶桑艦しか現れてないから、連合軍内部の反扶桑論者を勢いづかせるのを警戒して、アイクのおっちゃんやニミッツのおっちゃん、五十六のおっちゃんとかの中枢部の高官の秘書官というのを隠れ蓑にしてる。ウィッチ閥からも敵視される要素たんまりだしな、あいつら。確か、最近は金剛型が現れたな。金剛、帰国子女だから、『〜デース!』な喋りかただった」

「う〜む……。確かに金剛はブリタニア製だが、扶桑で終始運用されたはずだぞ?」

「お前なぁ。戦艦だって、人間と同じで、パーソナリティがあるんだよ。金剛は最後の明治生まれで、尚且つ最後のブリタニア製軍艦だぞ?(竣工は大正期だが)それくらい当たり前だぞ。あいつらが戦艦で一番足が速いから、何かと重宝がられているしな」

「うん?大和型が最速じゃないのか?」

「大和型は他の世界だと、中速戦艦として造られたから、過負荷で28ノット前後な世界のほーが多いんだよ。ウチの世界みたいに、最初から29ノットなんてのは希少なんだ」

「本当か?スペックまで違うとは」

「そうだ。大和型は航空攻撃で沈められたから、戦後に悪く言われるところがあるが、こっちの連邦軍の象徴は大和型ベースの宇宙戦艦だから、何がどうなるかなんて、わからないのさ」

そう。大和型の再評価は、宇宙戦艦ヤマトの武功で以て始まった。移民船として計画されたのを宇宙戦艦に転用したのが始まりだが、その防御力は、『最初から宇宙戦艦として造られた』はずの主力戦艦級を上回るのも、高評価の要因だ。設計時は純粋な水上打撃力として造られた大和型に、アイオワ級のような汎用性を求めるのは、お門違いであると言える。それはミッド動乱の際にも、艦政本部側が指摘した。

「ミッド動乱、知ってるだろう?。その時から未来との軍事的交流が本格的になった分、用兵に変革が起こった。その時に大和型も汎用性が求められた。だから、改造で32〜3ノットが求められた」

「艦政本部は反対したろ?」

「空母は平均で30ノット以上になるから、その護衛も兼ねて、戦艦を弾除けにするって言う運用法だが、実質それはできてたし、平均技術も日本軍の数倍はあるから、日本軍の大和型の1943年次の対空兵装よりマシだった。が、未来人の比較対象がボフォースだから、『史実に毛が生えた程度だ!』と騒ぐわけだ」

「そりゃ怪異相手にも、25ミリは威力不足だから、換装は始まってたはずだが、大和型には回されていなかったしな」

「それで、最終的にファランクスとかRAMとかで自動化されたってわけだ。だから、乗員が余ったから、数百人くらいは他に移されたし、最終的には、CICから主砲管制もできるようになったから、私やお前でも撃てるぞ」

「自動化、か。何故、そこまでするんだ?」

「未来人、とりわけ扶桑の同位の国である、この日本にゃ、自分達が戦前に持たなかった技術で、かつて栄華を誇った軍隊が完膚なきまでに打ちのめされた記憶があるんだ。その要因が根本的な国力差と技術力の差だったから、そこを是正したがるんだよ。それと、戦後にアメリカの操り人形にされた事に反感を覚えた人間達は多い。特に、統合戦争で裏切った事への反感が大きくてな。ティターンズの奴らがリベリオンを分断したのも、史実で枢軸国の味わった辛苦を味わさせ、未来永劫、消えることない分断を味わらせ、更に、ロシアが経験した国家崩壊を体験させるっていう思惑は確実にあるだろうと、連邦は分析してる」

「リベリオンに史実のドイツとロシア、それと日本の辛苦を味あわせるために、こんなたいそれたペテンをするだと?」


「ティターンズの奴らだって、自分らが死んだ後は、組織の思想が絶える事は悟ってるはずだしな。かつてのジオン公国の思想が、ネオ・ジオンに全ては受け継がれていないようにな」

「じゃ、なぜ奴らはリベリオンを占領して、扶桑に戦争仕掛けるんだ?筋が通らんぞ」

「太平洋戦争は科学を進歩させた。なんやかんやで、平時の10年分を数年で達成するほどに。それを起こし、扶桑人数百万の生け贄と引き換えに、史実冷戦の進歩を起こそうとしているんだろう。筋は通る。ティターンズの首魁は、情報によれば、ロマノフ王朝の傍流の末裔だ。王朝が絶える事は、先祖が味わった地獄を繰り返すことになるからな。そこで、史実での今頃は滅亡に向かっている日本に照準を合わせたが、扶桑は日本帝国の数倍の国力がある。そこで、前途洋々であり、核兵器を造れるはずのリベリオンを土壌にする必要があったんだろうな」

――リベリオンで地盤を整え、人類全体の進歩のために戦争を起こす。それはティターンズ主体でならなくてはならない。そのため、ブリタニアと扶桑は邪魔な国である。ガリアを植民地と『分断』(アフリカ植民地を『独立』させた事で、ガリアを弱体化させた)させたティターンズは、その思惑に邪魔となるブリタニア連邦と扶桑の二大国を弱体化させる必要が生じた。この思惑こそ、今次大戦の真の開戦理由だった――

「世界はどういう感じになるんだ、黒江」

「戦後世界に限りなく近く、極めて遠い世界だろう。こっちは華族も貴族院も存続してるし、皇室も緊急権と言う形で、一定の政治決定権は残る手はずだしな(国家緊急権の維持は皇族軍人らと、扶桑海事変や1905年の戦争の際の御前会議の紛糾などを知る重臣達が、強く支持している。)全てが戦後日本と同じじゃないしな」

そう。後に日本と扶桑が国交を結んだ後、日本の左派からは『華族の存在』、『皇国の国号』などが原因で、批判を浴びる事になる。日本政府の公式見解は『彼の国へ内政干渉はしない』であるが、戦後日本が敗戦で失ったものを持つ同位国家への嫉妬、郷愁などが入り交じる論調が飛び交った。特にのび太の時代の時点では、既に参議院のカーボンコピー化が問題視されていたため、参議院とは別に貴族院を小規模で存続させ、参議院とは別の役回りを演じさせている扶桑の体制(1946年以後)に羨望を覚える政府関係者もいたという。

「この国は、平和が永遠に続くと信じている。危機に備えることを忘れているんじゃないか?」

「この国のこの時代にはいるんだよ。自分達だけおまんま食えればいいって、超えた馬鹿。安全保障も学園都市に丸投げしようなんて、平和ボケしてるんだよ」

「平和ボケ、か。扶桑海までの20年でも、かなりいたというのに、70年近くも戦乱がないというのは……」

「安全保障分野の組織がちやほやされるなんて状況は、なるべく起きてほしくないんだぞ?みんな。吉田公もこの世界で言ってた事でもある」

黒江は吉田茂の言っていた事を引き合いにだし、憮然とする坂本を諭す。それは拗ねた妹を姉が諭すような光景であり、坂本はこの日から次第に、若き日の思い出からか、どこかで警戒していた黒江に心を開いていくのだった。

「お、そうだ。思い出した。ミーナがお前らを警戒するんで、昔のことを思い出した。42、3年までの草創期の頃は、バルクホルンは妹のことで荒れてたし、心から頼れるのがハルトマンくらいしかいなくてな……」

そう。501は1945年時点で、既に創成期メンバーの多くが顧みられない事が多い。これは、未来のスラングを借りるなら、政治的にも、メンバー的意味でも黒歴史であり、創成期からいるメンバーのほぼ全員が創成期のことを語らない(芳佳加入後からしか、主だった写真などの記録がなされていない)事もあり、謎に包まれているのだ。

「噂にしか聞いた事ねーな、初期の501。どんなだったんだ?」

「入れ替わる前の連中は、練度はあったが、私がいうのもなんだが、精神的にまとまりがなかったんだ。ハルトマンがどうにかカバーしてくれてはいたが。だから、醇子に頼んで、宮藤を訓練学校から引き抜いて、ブリタニアに連れてきたのは、そういう事があったからなんだ。リーネが孤立していたしな、あの頃は。そのこともあって、お前らの着任に警戒心があったんだろう。」

坂本が布団にあぐらをかきながら語る、創成期501の情報。それを坂本が芳佳を以て、形にした。それが501が円滑に機能するきっかけであった。黒江達の着任を、『過去の二の舞か』と恐れたのだろうと告げる。

「それと。お前らはとっくのとうに上がってる年齢のエクスウィッチなのは経歴でわかるから、着任を訝しぶってたぞ」

「ああ、なんとなく雰囲気で分かったよ。歓迎はされてない風だったから。北郷さんの時はそうならなかったはずだがなぁ」

「先生の時はだな、私の師だからだよ。お前は『私の先輩』というつながりしかないだろう」

「そりゃそうだけど、部内じゃ有名人のつもりなんだけどなぁ。今でも、私が名乗るだけで、陸軍の航空関係者はブルるってのに……」

「お前、あの映画に出てないからだよ」

「バカ言え、ちゃんとモブでいたぞ、モブで!くそ、なんてこったぁ!」

「端役だからだよ。台詞もろくになかったし」

「クソ、今度の時は主役級で出るかなあ」

この時の坂本の宣告が、後に『来た、飛んだ、おっこちた』の映画化の際に、黒江が渋々ながらも、主役級で出演する動機となったかは定かでない。

「さて、寝るとするか。お前らの事はハルトマンがどうにかするだろう。あの時と違って、今はシャーリーもいるし、宮藤も、502の連中もいる。あいつらがミーナの心をほぐしてくれるさ」

――黒江が501に受け入れられるまでには、このような経緯があった。坂本の心をほぐす目的の研修ながらも、自分も同様に心をほぐされた黒江。二人の野比家での珍道はまだまだ続くが、また別の機会に語ろう。



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