短編『ブルートレインはのび太の家』
(ドラえもん×多重クロス)



――ブルートレインが発車する。その感動に浸る黒江だが、そこで黒田から話しかけられる。

「先輩、ちょっといいですか」

「なんだ?」

「実は、行く前、私を東條元総理のお孫さんの一人が訪ねて来まして」

「東條のハゲチョビンジイさんの孫が?」

「はい。何十人かいる内の一人なんですけど、その子は、おじいさんや親達だけでなく、自分達の世代まで迫害されるのを怒ってましたよ」

そう。扶桑皇国の時空でも、東條英機は戦争指導の失敗を問われ、失脚。大陸領土失陥の元凶とされた。そこに『皇国解体の元凶の一人』という未来世界からの情報が入って来たため、東條家への迫害は更に強まり、孫の代まで迫害を受けているという。

「東條のジイさんは、擁護しようがないエピソードが多すぎる。それに、未来の日本人は東條家に『敗戦を招いた国賊』のレッテルを貼っている。東條のジイさんはこれから、『皇国を滅亡に追いやる選択を取った人物』の十字架を背負っていかなくちゃならん。その子孫らもそういう目で見られる。軍も、扶桑海の事、未来の自衛隊の連中や連邦軍からの目もあって、東條家からは滅多に人材を取らんだろうな」

黒江の言うことは確かだ。扶桑皇国に於いて、失脚した東條には、元から冷たい視線が向けられていた。だが、未来情報で、平行時空でも指導者として『無能』であると示されては、名誉回復の機会は0に等しくなる。子孫ならば就職の機会はあるが、当人は死ぬまで、レッテルに耐えなくてはならない。天寿を全うするまで。

「どうして、子孫までそんな……」

「気質なんだろうな。昔の中国の風習の名残もあるかもしれん。秀吉だって、晩年期の耄碌した時、秀次の一族郎党を粛清したろ?それを責められて、豊臣の子孫の一人が精神衰弱になったって、ニュースになったろ?日本人ってのは、連座で責任を取れという考えが根付いてしまってんだよ。子が失敗したら、いくつになっても、親が責任取る羽目になるってニュースに事欠かないだろ?」

「成功した社会主義って言われてるの分かる気がします」

「東條のその孫が怒るのは、自分達の前途が閉ざされたからだろ?東條家は中将や大将を出した家柄だってんで、名家扱いだったのが、今では犬畜生の扱いだしな。ウィッチが出ても、軍人になれる可能性がグンと減ったしな。次男や三男の家系ならなれるかもしれんが」


「直系は未来でもダメ、こっちでもダメ。と、なると外国に?」

「だろうな。スイスに逃げるかもしれん。実際、ここの記録だと、嫁入りして逃げた娘達も多い。男以外には優しい父親だったらしいから、ジイさんが邪魔者扱いされてる現状に同情してる若手軍人も多い。たぶん、こっちの秋になったら暴発するな」

そう。東條英機という人物は、人を見る目が絶望的にないが、直接の部下からは『慈悲深い上官』とされていて、東條の人間性そのものは、天皇陛下にも高評価されており、連邦からも、はたまた自衛隊からも『邪魔者』と見做され、迫害されている。その状況を陛下は憂いていたため、事変以来、覚えめでたい黒江に『東條を何処かへ匿ってくれ』と頼む程だった。黒江も、流石にその事へ即答は避けた。東條という人は、未来でも扱いに困る人物であり、忠臣であっても、太平洋戦争中の懲罰徴兵を行ってしまったという点では許しがたい点がある。そのため、銀河連邦に送り込む事を考えていた。

「暴発?」

「ああ。今の連邦の過激派や日本は、陸軍悪玉論を前提に動いてる。連邦は年数が経ってるからマシだが、日本は60年しかたってないからな。日本が特に酷いな。陸軍の参謀を全員追放しろとかいうんだぞ?旧内務省系の連中からは『シビリアンコントロールを徹底させる!警察官僚を入れさせろ!』なんて暴論もある」

「なんで警察官僚を?」

「奴らは、自衛隊作る過程で『旧軍参謀は敗北者であり、二度と国防には関わるな!』って増長してたんだよ。それで、警察予備隊時代の幹部を抑えたが、無能すぎて旧軍人が入れられる事になった時、徹底して抑えこもうとしたんだ」


「それが日本のシビリアンコントロールの始まりなんですよね?」

「そうだ。21世紀になっても、警察>軍事の力関係なのは、戦前の報復なのさ。文民統制ってのを理解してないのが日本なのさ。まぁ、追放の利点がないわけじゃないが。機械化は進むし、暁部隊は海軍に転出していったし、航空部隊は空軍になるし、海軍は海で勝つのを第一にされたしな。でも、それを快く思わない連中は多い。特に海軍の伝統を侵したっていう連中が多いんだよ」

そう。45年9月の事件に加担した海軍部隊の多くは、陸戦隊や基地航空であった。これは扶桑海で予め、強硬派の艦隊勤務者が追放されていたためである。一方で、反乱に加担した航空ウィッチ達も30名以上に上った。陸海双方の合計だが、その全ては山本五十六の密命を受けた343空と64Fによって鎮圧されるのだ。

(親父さんは、旭光の配備を急いでる。しかし、全部は間に合わん。隊長機に出来れば御の字だな。まあ、一機あれば1対5以上のキルレート出せるから、いいか?)

「暴発させて、どうするんですか?」

「鎮圧するしかない。連邦軍も自らの弾圧のし過ぎで、陸軍が暴発する危険は自覚してる。恐らくは、お上は連邦軍に間接統治を頼むな……前々から政治を嫌うようになってるから」

「近衛師団が反乱しますよ?」

「史実の事件から言って、当然だな。手はある。すでに第一近衛師団にロトを置いてある。それで鎮圧する。他の近衛師団には機械化装備は殆どないし、一瞬で終わる」

「どーやったんです?それ」

「シナプス艦長が、第一近衛師団を新しい近衛の中核にする案を1月に話してな。お上も第一近衛師団は忠誠心あるから、了承したんだそうな。それで極秘に装備の根本改編と、再教育がされてるんだよ」




そう。扶桑海でのクーデター以降、天皇陛下は『自分の名のもとに国が乱れる』事を恐れるようになっており、自らの持つ統帥権や政治的権限を内閣へ丸投げしたいという気持ちを側近へ吐露していた。また、極秘に日本で自分の地位になっている、自分にとっての皇太子(時間軸の都合、老境を超えている)と自分の皇居で面談し、大元帥の立場を放棄したいという気持ちを滲ませた。見かけの年齢差が逆転した親子の対談で、天皇陛下は、新憲法の広布と施行の大義名分を求めるようになり、その機会を伺っているのだ。これは、宮城事件の情報が入り、近衛師団すら信用できなくなった陛下が、自らが心から信用する者にしか漏らしていない重大事項でもある。なお、クーデターを警戒する陛下の要請で、日本からは皇宮護衛官が派遣されているが、それでもプロの軍人相手では不安があるので、彼等とは、別に空間騎兵隊が配置されている。無論、双方のうち、空間騎兵隊は23世紀の地球の組織なので、21世紀の日本の一組織の皇宮警察に干渉する事はない。近衛師団の改編も画策されているが、それは近衛師団内部の裏切り者が過激派にリークしており、近衛師団の一部が反乱に加わる要因となるのだった。その対策に、特に忠誠心が篤い第一近衛師団を『近衛連隊』の中核を担う部隊とし、極秘に再教育と装備の更新が進められた。その目玉が、装甲車の名目で配備されたMS『ロト』である。そのため、第一近衛師団は第二以降と別格の待遇を受けた。また、近衛師団が連邦軍との演習で敗北を喫していた事もあり、『負けるような近衛は要らないと言うのか!!』という怒りが青年将校の間で溜まっていたため、そのことも反乱の大規模化に繋がるのだった。


「おっと、すっかり話し込んじまったな」

「そうですね。のび太君、いまどこ?」

「今、ちょうど駅の前の踏切に入るところです。今、智子大尉達が合流しました」

窓を見ると、駅前商店街と、ススキヶ原駅が見える位置の踏切から線路に入るところである。その間、凡そ10分ほどだったが、話し込んでいたため、数分の感覚である。

「ふう。ちかれた〜」

「お、なんだよ。戦闘服できたのか?」

「馬鹿、神社の巫女服よ。これでも、巫女なんだから、あたし」

智子は汗だくであった。レールを牽く作業を手伝された上、その直前まで、神社の巫女の仕事をしていたので、意外にハードである。

「のび太、風呂借りるわよ〜」

「どーぞ」

と、会話をし、智子は風呂場がある展望車に向かっていった。いつものメンバーはここで合流した。

「おう、のび太。お前が運転手かよ?」

「三交代だよ。あ、ジャイアンはシフトに入れてないからね」

「んだとぉ?!」

「だってジャイアン、いつもスネ夫のラジコン、最高速でぶっ飛ばして、バッテリー上がらせるでしょ?」

「ぐぬぬ……」

ジャイアンは、いつも自分がしている事を、のび太に言われたのが悔しいらしい。スネ夫が車掌姿で現れると、一同は笑いに包まれた。余りにもサマになっていたからだ。

「ジャイアンは警備を頼みたいから外そうって、ウィッチの皆から頼まれたんだ、たまの休みだから頼られてあげてよ」

と、のび太がおだてる。ジャイアンはおだてに弱いため、あっさり引き受ける。

「任されよ!」

これである。


「ん、お前、なんか手馴れてるな……」

「なんか、こういう仕事に向いてるのかもね、僕」

スネ夫も車掌があっている気持ちなようだ。そして、ドラミがムードもりあげ楽団を出し、ミュージックをかける。それは『THE GALAXY EXPRESS 999』(映画版のあれ)であった。

「映画版か。TV版じゃないのかよ?」

「TV版はメロディが時代かかってますから。これのほうが合うと思って」

「映画版なら、こういう時はテイキング・オフのほーが合うだろー?」

「マニアックじゃないですか?」

「そういう問題じゃなくてだなー」

黒江は、行く前に『銀河鉄道999』を見ていたらしく、選曲が不満なようだ。こういうところは、若返った故に生じた無邪気さである。この面は若返る前には表面化していなかったので、その前を知る者からは驚きの目で見られることが多い。色々吹っ切った事もあり、16歳相当に再成長した今は、16歳の見かけ相応の振る舞いをしている。そのため、はやてに誘われて、メイド服姿で夏コミに参加した事もある。その時の写真は圭子に撮ってもらったが、これでナイフを構えてみると、意外にしっくりくるため、その時のコスプレが、ネットで有名になった事もある。(その時はヴィクトリアンスタイルであったが、フレンチ系もその翌年に披露し、これもその時に話題になったという。)

「竹井少佐が言ってたが、少佐ってもっと、腹黒くて、何考えてるかわからないと思ってたよ」

「にゃにぃ〜!アンニャロ、あとでシメてやる」

ドミニカにそう言われ、黒江はギャグ顔を見せる。竹井は11歳時の印象からか、黒江を『頼れるが、腹黒くて、真意がわからない』と思っていたらしく、ドミニカにそう言っていた事がバレたのだ。竹井は怒ると怖いが、自分には弱い事を知っていたので、『あとで、頬っぺたムニムニと摘まんでやる〜!』と決意するのだった。





――圭子は、客車で、ミーナと坂本が時たま垣間見せる『感情的な一面』を考えていた。ミーナは追いつめられると、ヒステリックと取れるほどに意固地になる面がある。坂本はウィッチとしての使命に純真であるあまり、周囲と衝突を起こす。一見して、大人であるような振る舞いの二人だが、精神的に未熟である面が、対人戦争で表面化したのである。それを源田実が危惧していたのを思い出す。

(親父さんが言っていたけど、あの二人はそれぞれが何かかしらの理由で歪さを持っている。ミーナは恋人を失ったからって理由で、隊員の男女接触を禁じる規則を作った。坂本は使命に純真過ぎる。シナプス艦長のおかげで、ミーナは考えを改め始めてるけど、こっちが強く出ると、ヒステリックになるのよね、あの子)

ミーナは、規則に縋るあまり、意固地になる事が多い。ガランドに諌められ、規則を改定した事もあるし、山本五十六が直々に仲裁し、黒江の進言を通した事もある。これは、三羽烏を、『家族』と思っている隊員の中に入り込んできた『他所者』(配属当初)と考えていた事、軍人として『合理的判断』をする黒江へ、軍人としての合理的判断より『ウィッチとしての使命』が先に立つミーナが反発していた事が大きかった。

(二人のスタンスの違いもあったのよね。黒江ちゃんは、ウィッチとしての力がほぼ無力に等しくなった状態と状況で、教え子を殺される地獄を見たから、ウィッチとしての力に懐疑的で、ミーナはウィッチとしての使命を全うせんとしてたから)

圭子が書いている回想録。ミーナと黒江の間にあったスタンスの違いからの口論も記録されており、当初は互いの関係が良くなかった事を示している。また、ある日のクライシス帝国の襲撃の際に皆の前で見せた、黒江と智子の別の面も記録していた。それはクライシス帝国の幹部らを前にして、黒江と智子が小気味良い啖呵を切り、真打ち登場と言わんばかりに仮面ライダー達が駆けつけた時の反応に戸惑った皆。

(クライシス帝国が初めて襲撃した時、坂本と竹井なんて、目を丸くしてたものね。智子と黒江ちゃんが先陣きって、チャップを蹴散らしていくわ、幹部を前にして、『テメーらなんぞに、私達の地球を好き勝手させねー!!』、『悪に生きる道はないと思い知りなさい、ボスガン!!』ってって啖呵切って、ボスガンに『ほう。元気のいい小娘共だ』と評価されていたっけ)

クライシス帝国の襲撃の時は、仮面ライダーを慕う二人が先陣を切り、その勇ましさをダスマダーとボスガンに評価されたが、流石に幹部相手には分が悪く、ダスマダーに巫女装束を切られ、負傷した二人だったが、仮面ライダーBLACKRX=南光太郎、仮面ライダーZX=村雨良、仮面ライダーストロンガー=城茂、仮面ライダーX=神敬介、仮面ライダーV3=風見志郎が駆けつけた時の安心した表情は、他のウィッチ達を驚愕させた。特に、先陣を切って登場した城茂を見た時の、黒江のちょっと涙混じりの安心した顔は、坂本と竹井をして、唖然とさせた。

(で、茂さんが『よく頑張ったな。あとは任せろ』と言って、手袋外して、変身した時の皆の顔ったら……)

口笛と共に現れ、ストロンガーへの変身を披露した城茂。もちろん、二人はヒーローの登場に大喜びであったが、彼が誰であるかを知る者を除いては、むしろ怯える者が多数派だった。彼が名乗りを上げるので、それはすぐに払拭されたが。

『天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!悪を倒せと、俺を呼ぶ!俺は正義の戦士、仮面ライダーストロンガー!』と。そして、それに続いて駆けつける他のライダー達。

『大・変・身!!』

『ムウン!!変身・V3ァ!!』

『変身ッ!!ゼクロス!!』

『変身!!』

5人ライダーの登場は、ウィッチ達に『異形のヒーロー』の存在を印象づけた。黒江と智子の口から、彼らが『改造人間』であると教えられ、更に、彼らの多くは数百年の月日を生きていると知らされると、皆はどよめいた。それは、戦いが終わった後、芳佳が治癒魔法をかけようとしたら、傷がみるみるうちに治っていくこと、茂の腕がコイルなことで証明された。更に、V3の1973年当時の写真と、2201年の写真で全く変化がないのと、一号と二号も現れ、改造手術の傷痕が残っている事も見せたので、納得した。欧州組の多くは『体の大半を機械に置き換えた』という点で嫌悪感を示した。
「好きでなった体じゃないがこの体に助けられた事も一度や二度ではない、今では機械の部分まで大事な俺の身体さ」

と、本郷が言った事で収まった。ペリーヌはその時に、ストロンガーの電気の力に圧倒され、自信を喪失した。更に超電子稲妻キックを目の当たりにし、決定的に自信が木っ端微塵になったらしく、抜け殻のように白く燃え尽きてしまっていた。

「ああ、ペリーヌさんが!」

と、芳佳が気づいたが、時既に遅し。完全に魂が抜けかかるほどの様相だった。これにリーネが言った。

「ペリーヌさん、トネールに自信あったから……」

「あ〜……」

トールハンマーブレイカーに続き、超電稲妻キックと来れば、トネールなど児戯である。ペリーヌは自信が木っ端微塵になり、うわ言を言っている。そこに、茂がぶっきらぼうながら、一応は慰めたが、『茂さん、慰めになってないって』と黒江に突っ込まれた。

「出力の差なんて気にすんなよ、な」

「茂さん、慰めになってないって」

「慰めてるつもりでしたの?!」

頭をポンポンする茂だが、決定的に力の差があるのは事実なので、ペリーヌはこの後、トネールを『エクレール』にする!と意気込み、電撃の出力強化に血道をあげる事になる。

「気にしてくれてありがとう、電気使いのよしみで以後よろしくお願いいたしますわ」

と、握手を交わした。



(ペリーヌは、この時から魔法の強化に血道をあげるようになったっけ。フェイトにミッド式天候操作魔法とか聞いて、それを実践してるっけ)

そう。黒江の場合は、エレクトロファイヤーを浴びた事による、リンカーコアの活性化と変質だが、ペリーヌはリンカーコアを活性化させるのに必要なきっかけが見つからないのだ。ミッドチルダの住民と違い、リンカーコアが不活性である、ウィッチ世界の住民は、リンカーコアを形成・活性化させるきっかけがないため、あがりという概念を産んだのだ。それが判明したのが、時空管理局からのレポートが送られてきたつい数日前で、三羽烏しか閲覧していない。この理由は、三羽烏が先任中隊長に収まったため、ミーナと坂本に上奏する前に、彼女らが確認するようになっているからだ。ミーナはこれにより、デクスワークの煩わしさから一部開放されたが、これにより、あることを見過ごす事になってしまう。この事をミーナは晩年、『人生で有数のミスだった』と振り返るのだった。


(親父さんいわく、私達全員を501に送り込んだのは、諏訪天姫と中島錦の504への派遣が時勢と、気質でボツになった埋め合わせだって言ってたな……天姫はいい子だが、この時勢じゃ、前線に送れないわな)

そう。三羽烏の全員が501に集結させられた理由は、本来、504へ派遣が予定されていた『中島錦』、『諏訪天姫』の両名の派遣が延期、後に破棄された埋め合わせにある。本来の対怪異戦争であれば前途有望だが、対人戦争には向かないと言わざるを得ない天姫の事もあり、ボツになったのだ。そのため、アルダーウィッチーズがストライクウィッチーズと統合される事が内々で決定された際に、対人戦争に慣れ、扶桑で最高レベルのエースでもある三羽烏に白羽の矢が立ったのだ、

(私達が集められた時、ミーナと坂本とで、反応に差があったっけ。まぁ、ミーナは事変後の志願だから、知らないのも無理ないか。これでも私、トップエースなんだぞ?ったく……)

そう。ミーナは圭子の赴任時、圭子の年齢から、一見して普通だが、実は冷ややかな反応を見せた。圭子はそういう事に敏感であるため、すぐに感じ取った。その時は顔には出さなかったが、心の中で『こ、このガキャ……あたしをあれか?ロートル扱いか!?』と呟いた。同時に、ふーん、単なるロートルだと思ってんのね。アフリカで飛んでる事くらい書類見て解んないのかしら?』とも考え、ニヤリとした。だが、圭子に出撃する機会が与えられる事は少なかったので、トップエースであった自負がある圭子は、この日から、『フフフ、ギャフンと言わせてくれる!』と、往年の技量を見せつけんと舌なめずりを始めた。これは、ストームウィッチーズには、マルセイユのワンマン飛行隊のイメージが強かったのと、圭子が腕を鳴らした絶頂期からは10年近くが経っていたためである。活躍した時代が1930年代では、『自分達は進化した怪異と戦ってきた』と自負するミーナから『敵が弱かった時代のウィッチ』と侮られるのも無理は無かった。だが、その侮りと裏腹に圭子はある意味で、『絶頂期以上の強さ』を持つようになっていた。それは『オーラパワー』を用いた格闘技を応用し、トンファーやトマホークで陸戦怪異を一撃で倒せるからであった。光戦隊マスクマンのレッドマスク=タケルから伝授されたゴッドハンド(オーラパワーの正拳突き)で、訓練中にバルクホルンを一撃で昏倒させた事で、ミーナも評価を改めた。

(そうそう。トンファーでマスキースラッシュして、ゴッドハンドでバルクホルンを気絶させたっけ。あれ、新技だからって、アキラさんも渋ってたな)

そう。圭子は光戦隊マスクマンと懇意なのだ。ゴッドハンドはレッドマスクから、マスキースラッシュはブルーマスク=アキラの新技を無理言って、教わった。ゴッドハンドの際には、九字護身法の印を結んだ上でのメディテーションを披露したので、周囲からは驚かれた。その際に、魔力でない力をオーラとして纏ったのも効果倍増だった。特に501の中では、腕っ節が有数に良く、タフネスさもあると自負していたバルクホルンを『ガ……ハ…!?』と白目剥かせ、昏倒させたのもショックだったらしい。

――回想録に記された、その時の様子。圭子がゴッドハンドを炸裂させ、バルクホルンが倒れ伏す瞬間の写真も添えられていた。

「お、そろそろ新宿ね」

回想録をまとめている間に、ブルートレインは新宿区に入っていた。新宿副都心のビル街に差し掛かっているらしく、新宿の近代的ビル街が見える。

「新宿も都会になったなあ。浄水場の面影ないし」

そう。圭子の知る新宿は、淀橋浄水場が存在する時代のそれだ。しかし、それより遥か後の副都心化した新宿のオフィスビル街は、圭子には新鮮だった。ちょっとしんみりする圭子。

――野比家ブルートレインは、外から写真は取れない(四次元にいるため)が、目視で視認できるので、ススキヶ原線の管理会社である小田急線の無線では。

「おい、またしても変なの走ってるぜwww」

「ああ、また野比さん家の子供達だな?手を降ってきたら挨拶はしてやれよー」

「各車両、ほっておけ、怪しいの走るけど気にすんな、ダイヤの隙間縫って邪魔しないからって上から命令されてる。だからお前らが遅延すんなよ?」

という、運行司令と車両の運転手、または運転手同士の無線が飛び交っていた。小田急電鉄の者達は、ドラミがオールマイティーパスで許可を得ていた事もあるが、ススキヶ原線の管理をしていた事もあり、ブルートレインな野比家が走っていても、普通に流す豪胆さを見せる。しかもサービスまで指令するので、小気味いい人物が運行司令であるのが分かる。そのため、路線変更をする際の休憩タイムには、小田急電鉄から差し入れがあったという。

「スネ夫、運転交代だよ」

「Ok」

運転がのび太からスネ夫に代わる。のび太は普段着に着替え、さっそく寝そべる。

「お前なぁ。列車になってんのに、寝れるんだな」

「慣れれば気持ちよく寝れますよ」

シャーリーの時代になると、列車といえば、ニューヨーク市地下鉄を指す事も当たり前になっている。そのため、地上を走る列車に馴染みが薄い。ましてや1940年代は全米鉄道旅客公社が存在しない時代でもあり、西部開拓時代はいざしらず、20世紀前半から半ばに差し掛かる頃となると、飛行機や自動車が多数派の米国(リベリオン)人には、通常の列車はあまり使わない乗り物となっていた。シャーリーはバイクか車を使うのもあり、日本式の列車はこの時が初めてであり、快適なのが新鮮なようだ。

「ダイヤが正確だし、ほんと、ウチの国と大違いだぜ。列車でこんな快適に過ごせるなんて……」

「アメリカは大雑把ですからねぇ。日本は世界一、ダイヤが正確なのが売りです。まぁ、通勤電車は地獄だけど」

そう。日本の通勤電車の混雑ぶりは外国人から見れば、ドン引きレベルだ。モーレツ社員が企業戦士と持て囃された時代ほどでないにしろ、日本の通勤電車の混雑ぶりは凄まじいのだ。

「そうなのか?」

「ええ。だよな、スネ夫」

「ああ。酷い時は乗車率が180超えますからね。のび太のパパなんて、日曜にも出勤する事あるから、見かけますけど、凄いもんですよ」

のび助の会社は、週休二日制が早くに導入された優良企業であるが、休日出勤もままある。そのため、のび太との花見の約束を破ってしまった事もあり、のび助が課長であるのも大いに関係している。それはのび助がそれなりに責任ある立場にあるからだが、ある時期には部長にパワーハラスメントをされ、挫けそうになった時期もある。(のび助が成果を出した現在でも、時たま嫌味は言われるらしく、ゴルフのコンペでは、雨男であると揶揄された)そのため、通勤電車に比べれば、個人の貸し切り列車など、天国である。

「さて、ここからは超特急ですよ」

――路線を乗り換えた、野比家ブルートレインは、新幹線以上の速度に加速し、北海道を目指す。そう。北海道だ――



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