短編『ブルートレインはのび太の家』
(ドラえもん×多重クロス)



――北海道にたどり着くまで、スネ夫は車掌役を楽しんでいた。声の調子もはまり役だったらしく、ウィッチ達から大受けだった。北海道にたどり着くと、バダン北海道支部からの襲撃を受けたが、スネ夫はお得意のメカいじりにより、バダン戦闘員が乗り付けてきた車と、戦闘員の死体に埋め込まれていた発信機をドラえもんの道具で解析し、北海道支部の場所を突き止めた。

「電波の発信場所は……ここだね」

「港のあたりか。随分と辺鄙な場所に構えてんだね」

「悪の組織にありがちだね。いやぁ、さっきはやばかったね。バダンの第一陣は」

「ディーゼル機関車で追っかけてきたもんな」

――北海道にたどり着く直前、青函トンネルに近くなった時、バダンの最初の襲撃があった。

――数時間前

「のび太!後ろからディーゼル機関車が来てるぞ?」

ジャイアンが携帯電話で連絡を入れてくる。

「ディーゼル機関車?ねぇ、スネ夫、この路線って、ディーゼル機関車通った?」

「貨物用は通ってるはずだけど、時間的におかしいな」

「うわぁ!撃ってきやがったぞ!あいつら、バダンだ!」

「なんだって!?」

「あいつらはバカか?トンネル内じゃ換気の都合で、電気機関車にしてるんだけど、予算不足か、ハイブリッドか?」

「悪の組織の都合なんて知るかよぉ!とにかく、こっちに応援をよこしてくれ!あいにく、オレ様の手元にはガバメントしかなくてな」

「スネ夫、ウィッチの皆さんに連絡して。トンネルで戦闘になると不味い。手っ取り早くケリをつけよう」

「そうだな。ぼくも応援に行くよ」

「大丈夫かい?」

「なーに、お前ほどじゃないけど、射撃の自信はある。バウワンコ王国の時は鳴らしたもんだ」

「そうだったね。ほいっ。M19」

「M29はないのかよ」

「あいにく、ドミニカ大尉が使ってるんだ」

「次元大介の真似させようってか?粋だな」

「ハハ、弾はそこの棚に入れてあるから、好きに使って」

「あいよ」

――44マグナムは、のび太の他はマルセイユ、ドミニカが使っていた。のび太はこの時のサイドアームはスーパーレッドホークだが、ドミニカはドラえもんもあまり持っていない『M29』を見つけた。バレルがロングバレルであったため、惚れ込んでしまった。ドミニカは以前、ボクシングをしていたため、パンチ力を重視する傾向であり、マグナム弾に行き着いてしまったのだ。また、ドミニカからすれば、西部開拓時代はそう遠くない昔(祖父母の代に相当する)であるため、西部劇かぶれののび太とはウマが合う。そのため、のび太の連絡を受けると、女房役のジェーンを連行して、いの一番に撃ち合いを始めたという。スネ夫はその後に駆けつけ、コンバットマグナムを操り、のび太ほどの早撃ちではないものの、高精度で当たる。

「へへ、大魔境の時以来だけど、存外、体は覚えてるもんだ」

「おい、大丈夫だろうな?途中でヘタれて、『ママァ――ッ!』はごめんだぞ」

「見くびらないでくださいよ、大尉。これでもいざという時はスイッチ入りますから」

スネ夫はコンバットマグナムを撃ちながら、ドミニカに言い返す。なのはやフェイトもだが、スネ夫は『ママァ―ッ』のイメージが強く、知り合った者の多くに『マザコンのヘタレ』という印象を持たれる。仕方がないが、冒険の際に、いつも尻込みをしたりする事が、次元世界を超えて有名なためだ。その風評被害を受ける当人はたまったものではないが、冒険のお約束なため、指揮経験者は煽る事で、潜在能力を引き出させている。ドミニカもそのクチだ。

「ならば、その口ぶりがハッタリでないところを見せてもらおうかの?」

「ハインリーケ少佐、来てたのか」

「ワルサーPPKが故障しての。代わりにルガーP08を探してもらっておったのでな」

「だから、何故そうなるんだ?ワルサーP38とかの選択肢があったろう?」

「PPK系はのび太が好きじゃないらしく、あまり持ってないそうな。しずかでさえガバメントだしのぅ」

「で、前時代のそれか?」

「うむ。まぁ、基本はそんなに変わらんし、妥協したわ」

撃ちながらいう。ウィッチは基本、対人訓練の密度は通常兵士より薄い。これが『1945年』では問題になり始めていた。当時はティターンズの攻勢期であったため、各国本土への上陸作戦が本気で危惧されていた。その抵抗兵力の主力と期待されたウィッチ達に、『撃てませ――ん!!』と対人戦闘を忌嫌する風潮がある事が露呈したのだ。そのため、各国上層部の予想に反し、ウィッチ部隊が総崩れとなり、まとめて投降したという『恥の上塗り』な事もアフリカで起こった。それをハインリーケやマルセイユは許せなかった。マルセイユは圭子から託されたアフリカを守りたい意志から、ハインリーケは、貴族としてのノブレス・オブリージュの観点から、人殺しへの躊躇を捨て去った。そして。

「黒江中佐がどこからか持ち出して来おった、この剣をメインにするつもりじゃ」

「姫様、剣術の訓練は?」

「妾を見くびるなよ、ドミニカ大尉」

「だからって、連邦軍の連中から送られた、コスプレ衣装なんて着るやつがあるか?」

ハインリーケが手に持つ剣は、よく見てみると、なんと天秤座、ライブラの剣だった。実はライブラの前資格者である、『天秤座の童虎』の残留思念が、纏う資格を有している黒江へ天秤座の聖衣を送り届けていたのだ。これは黒江も想定外であった。

――出発前――

『お主がフェイトの師にして、次代の山羊座の黄金聖闘士か』

『あ、あなたは!老師・天秤座の童虎!?死んだはずじゃ!?』

黒江の前に姿を見せたは、かつての天秤座の黄金聖闘士『天秤座の童虎』だった。その姿は、死した際の肉体年齢通りの若々しい姿だ。

『儂はたしかに、嘆きの壁を砕く際に消滅した。だが、魂は永遠不滅じゃ。死してエイトセンシズに目覚めた儂らにとって、人間界と冥界の壁など、些細なものじゃ』

童虎は魂だけの存在となったが、人間界に現れる際は、生前の肉体の姿を取る。そのため、聖衣を纏った姿だ。ハーデスを討ち果たす一端を担い、結果としてオリンポス十二神に逆らった彼らだが、ハーデスを制裁する必要を認め、娘のアテナを溺愛するゼウス自らの許しが下り、魂が他の神々に封印されることがなかったのだ。

『ゼウスが直々に我らを許してくれたのじゃ。本来、儂らはオリンポス十二神を一時的にしろ滅した大罪人じゃ。じゃが、弟のハーデスのナルシシズムに嫌気が差していたゼウスが、制裁を自らに変わって下す形となった我らを、アテナの陪神とする事で、罪を許した。おかげで、儂らは永遠無給の再就職じゃ』

『老師、若返ってるとフランクですね……』

『楽しまくてはやってられんよ』

老師・童虎は、18歳当時の姿である。そのため、生前に260年もの月日を生きたというのは、口調でしか判別できない。

『お主に我が聖衣を貸し出そう。紫龍の許可は取っておる』

『いいんですか?私は本来、山羊座ですよ?』

『背中を見てみればよろしい』

『背中?』

山羊座の聖闘士である黒江だが、長い人生の中では、負傷した紫龍の代理で『天秤座の聖闘士』として戦う時もあった。その運命の暗示である虎の紋が浮かび上がっていた。これは、黒江は『天秤座の聖闘士になり得た』可能性がどこかの下位世界には存在する証でもあった。

『嘘ぉ!?』

『お主は山羊座にも、天秤座にもなり得た。その可能性の発露だ。紫龍が戦えん時は、お主が纏うが良い』

『しかし老師……』

『纏う聖衣や手にする武器は問題では無い、アテナの聖闘士としてどう闘うかが問題なのだ。お主に問う。聖闘士しての覚悟はあるか?』

『あります!!新参者ですが、アテナの聖闘士の端くれです!』

『ならば良い。星矢とて、射手座の聖衣を幾度となく纏ってきた。聖闘士として戦う意思があるのなら、聖衣の違いなど、些細なものに過ぎん』

『老師……』

『次代の聖闘士よ。今の意思を忘れんでないぞ』

童虎は天秤座の聖衣を置き土産とし、去っていく。そのため、野比家トレインには2つの聖衣が存在し、天秤座の武器があるのだ。ハインリーケに持たせたのはソードであり、怪人も一太刀のもとに倒れ伏す威力である。

「これがライブラのソードか……。星をも切り裂くという、戦女神の加護を持つ剣……確かに、妾の魔力と感応しておる……やれるぞ!」

ハインリーケは貴族の子女である都合上、家庭教師にサーベルでの剣術も、ある一定のレベルまで習っていた。俗に言う貴族のたしなみという奴だ。ハインリーケは軍入隊後は『あまり意味のない技能』と侮っていたが、現在では必須技能になりつつある事を『習っていて』良かったと考えるようになった。そのため、乗り込んでくる戦闘員を斬り捨てていく。

「妾に、氷や風を操る能力があればのぉ」

「恐ろしい事言うな、アンタ」

「ただ斬るだけでは物足りんのじゃ、大尉」

「アンタ、あと数年で上がりだろ?リウィッチになったらミッドチルダでベルカ式でも学んできたら?」

「おお、その手があったか!」

手の平をポンと叩くハインリーケ。彼女は実際にその後、上がりを迎える前に処置を受け、50年代以後もリウィッチとして軍に残り、ベルカ式魔法を身につけるのである。リウィッチとなった後は、陸戦をコスプレ衣装で行うこともあり、その姿から『騎士姫』と渾名されたという。ジャイアン、ハインリーケ、ドミニカ、スネ夫、更にのび太も加わり、戦闘員の運転する機関車にダメージを与える。

「ん?おい、のび太、ジャイアン!」

「どーしたスネ夫!」

「確か、この先に切り替えポイントがあるはずだよ!しずかちゃんに、スピードを上げるように言って!トンネルに入る前にケリをつけよう!」

「よしきた!」

「のび太、狙撃出来るか?」

「軽いもんさ」

「援護は任せろ」

「妾の一命にかけて、援護しよう」

「よし!」

のび太達はそれぞれの役割を果たすべく、散る。のび太は、空気砲の本格戦闘用改良型『ハイパー空気砲』を取りに行く。これは、23世紀の警察組織がドラえもんから提供された空気砲をリバースエンジニアリングした上で改良し、エネルギーカートリッジ式にしたものだ。用途は暴徒鎮圧用だが、破壊力はドラえもんのオリジナルの比でなく、並のMSを一発で大きく吹き飛ばし、転倒させるほどの風圧を発射可能である。だが、鉄の塊である機関車に直接撃つと、威力が拡散する。

「直接じゃ威力が逃げちゃうから毛布か何か撃ってぶつけよう!」

「分かった!」

のび太はかつて、自らが使っていた子供用の毛布をハイパー空気砲の弾体として撃つ準備を整える。ドミニカとハインリーケは、それぞれ戦闘員を倒し、環境を整える。

「のび太、そろそろポイントだ!こっちが通過した瞬間に、空気砲を撃て!こっちのほうがスピードと安定性は圧倒的に上だ。相手の機関車は、この速度でポイントを切り替えられたら脱線、横転は間違い無しだ!青函トンネルに入る前に、なんとしてもケリをつけろ!」

「わかった!!」

のび太とスネ夫、それとジャイアンは幼少期からの以心伝心の仲である。幾多の冒険でも熱い友情を見せ、知った者の全てを感動させる。ウィッチ達も、のび太達の友情に、理想像を見出す者が多い。(その典型例が歴史改変後のスリーレイブンズ)ただし、ジャイアンに関しては、普段の暴君ぶりは、周囲に顰蹙を大いに買っており、ジャイアンの人間性に変化を起こすきっかけの一つになる。また、ジャイアン自身も流竜馬や兜甲児などの姿に憧れていた事、中学と高校の野球部でしごかれた事で、冒険時の姿を普段でも維持するようになり、子供時代の暴君ぶりは16歳までに鳴りを潜め、大学は意外にも経営学部を専攻、子供の頃にツチノコを発見した事でのネームバリューを長じてから活用、起業に成功する未来を勝ち取る。なお、歌の趣味の破壊力は青年期の声変わりで多少は緩和され、演歌に傾倒していた趣味も、スネ夫にもらったレッド・ツェッペリンのTシャツをきっかけに、小学生時は毛嫌いしていたロックナンバーも、青年期以後は嗜むようになったという。(ウォーカー・ブラザースやイーグルス、クイーンなどの第二世代ロックバンドが主)また、ジャイアン自身の悪癖である『人のものを永遠に借りる』事は、2005年前後に、駅前に大型スーパーが進出し、家の経営が苦しくなったり、お得意様の野比家が元の場所から、駅近くの新築マンションへ引っ越した事により、のび太と会う口実を作るため、家の手伝いを、嫌々ながら行うようになった事で無くなったとの事。

「のび太、ポイントだ!」

「よし!!ドッカーン!!」

空気砲は、毛布を勢い良く撃ち出し、ポイントのてこにぶつかり、てこを動かす。野比家トレインはポイント切り替え前に通過しており、それに気づいたバダン側は非常ブレーキをかけようとするも、時、既に遅し。曲がりきれずに脱線、横転の後、機関車に積んであった弾薬が誘爆したか、派手な爆炎を上げる。

「よっしゃあ!!」

「やったぜ、のび太!」

「良くやった、見直したぞ」

「うむ。毛布を弾体にするのは、見事なアイデアじゃ、褒めてつかわす」

「いやあ、まいったな〜アハハ」

スネ夫は女性陣に褒められたのが嬉しかったのか、照れる。この時に第一陣が壊滅した事が、連絡が行かなかった事による、バダン北海道支部の増長に繋がり、支部長は戦力の算定ミスを犯す。そして、彼らの忌むべき二大宇宙刑事の介入を招くのであった。


――数時間後 北海道

「へぇ。のび太くんはスーパーレッドホークか。君、もしかして、ドーベルマン刑事見た?」

ギャバン=一条寺烈がのび太に言う。

「ギャバンさん、あれはスーパーブラックホークで、これと別物ですよ。メーカー同じだけど、あれはシングルアクション、こいつはダブルアクションですよ」

「地球の銃器はあまり詳しくないんだよな。バード星に居るほうが多くなって」

「俺のほうが詳しいかな?元は日本の森林パトロール隊にいたから、密猟者とドンパチする事もあったから」

シャリバン=伊賀電が言う。前職が森林パトロール隊であったので、銃器に詳しいらしい。

「そう言えばシャリバン、お前の前職は森林パトロール隊だったな」

「ええ。現役の頃はモーターショップのテストドライバーを隠れ蓑にしてましたけど」

「そう言えば、シャイダーの奴は何してたんだ?」

「大学生の時は考古学者みたいな事を、で、現役の頃は小次郎さんの家のバイトだそうです」

「小次郎さん?あの大山小次郎さん?ルポライターの?」

「そうそう。実家がペットショップで、シャイダーが現役の頃、兄弟が継がなかったからとかで、実家を継いだそうなんです」

仮面ライダーらに立花藤兵衛、谷源次郎がいるように、宇宙刑事らには親しい友人の大山小次郎がいる。奇しくも、三人の宇宙刑事と関わりを持ってしまったため、シャイダーが去った後、ペットショップを畳み、エネルギー研究所の所長を稼業にしていたところを、ギャバンが銀河連邦にスカウトし、23世紀時点では、銀河連邦のサイバー捜査官となっている、波乱万丈な人生を送っている人物だ。転職はルポライター→ペットショップ店長→エネルギー研究所所長→銀河連邦警察で、連邦警察への転職の際には、親戚から子供達を何人か引き取り、バード星に連れて行ったとか。

「なるほどねぇ〜」

「ギャバン隊長、自分でスカウトしたのに、知らなかったんですか?」

「フーマとの戦いの時は激戦だったから、地球に行けなくてな。小次郎さんと会ったのは、シャイダーの奴に呼ばれた時のついでだったし」

三代の地球担当刑事が勢揃いしたのは、フーマ壊滅直後、シャイダーに先輩二人が呼ばれた時が最初である。ギャバンの助太刀で魔王サイコを倒したシャリバンと異なり、シャイダーは独力で、魔王サイコやドン・ホラーを超える実力を誇った大帝王クビライを倒したため、先輩刑事の助太刀は入らなかった。もっとも、フーマ戦役は銀河連邦そのものの存亡に関わる大戦争であり、その余裕が無かったためでもあるが。

「これから先は、バダン北海道支部が動き出す。俺たちもここで寝泊まりするよ」

「いいんですか?地球でのお仕事は」

「ちゃんと休暇届けだしてあるよ。俺は乗馬クラブ、シャリバンはテストドライバーだから、前々から予定練ってあるんだよ」

笑う一条寺烈。腕にはちゃっかりとあんぱんが握られている。その面はそっくりさんであるデンジブルー=青梅大五郎と同じで、思わずシャリバンも苦笑いだ。

「隊長、青梅さんよろしく、あんぱんですか?」

「せっかく買ったんだぞ、木村屋のあんぱん!」

「それいうと、ますます見分けつきませんよ」

「青梅さんに薦められて食うようになったが、悪くないぞ?どうだ?」

ギャバン=一条寺烈のそっくりさんはスーパー戦隊側に二人いる。曙四郎=バトルケニア、青梅大五郎=デンジブルーの二人で、これは仮面ライダーV3=風見志郎が新命明=アオレンジャー、ビッグワン=番場壮吉と似ている事例に次ぐ。なお、風見志郎同様、全員が同じスーパーヒーローの職なので、服装でしか見分けがつかないと、他のメンバーから嘆かれている。

あんパンを割って差し出す烈。それを受け取る伊賀。なんだかんだで先輩後輩の関係は強固なのだった。




――スネ夫はバダンの戦闘員の脳に記憶されていた情報を解析し、なんとバダンは、日本軍にいたシンパを戦後も使い、戦時中の与太話とされた『大東亜縦貫鉄道』を地下と海底ルートで完成させていた事を突き止めた。

「大東亜縦貫鉄道?」

「日本軍がまだ攻勢をしていた、大戦の前半に提案された与太話だよ。戦前の日本の国力は今の一般人がバカにするよりも高かったから提案されたけど、計画が壮大すぎて、夢物語だった。だけど、バダンが長い年月をかける事で完成させていたとはね」

「バダンの秘密輸送ルートの一つなのか?」

「おそらく。海底と地下を活用する事で、潜水艦とかのあらゆる探知手段から逃れるための輸送路なんでしょう。ナチスと日本がお互いに考えてた横断鉄道網を悪用したと言っていい」

「その後、ナチス残党が逃れていった南米にターミナル駅があり、そこは『ゲルマニア』というコードネームがついているようです」

「ゲルマニア?大仰な名前じゃの」

「アドルフ・ヒトラーという男を知ってますか?」

「ああ、ここの世界で世界大戦を引き起こしたという、ちょび髭の伍長上がりの子男じゃろ?」

「そのヒトラーが戦争に勝った暁に、ベルリンを大改造して名付けるはずだった名前ですよ、ゲルマニアというのは」

――ゲルマニア。ナチスがもし、ソ連を打ち倒した場合に世界首都とした際のベルリンの姿である。ナチスドイツ残党と日本陸海軍過激派残党の後身とも言えるバダンは、制服や規律、技術面でナチスの面影を、見上げた敢闘精神は日本陸海軍の面影を持つため、日独軍の残党が混じり合い、大首領というカリスマのもとでまとまった集団という推測も成立すると、スネ夫は言う。しかし、元来、陛下への崇拝心の強い日本陸海軍がナチスに与したのかという疑問も浮かぶ。

「ん?ちょっと待て。なんで日本陸海軍が独主体の軍団に加わるんだ?」

「負けた直後、旧軍人達は社会不適合者扱いされてましたからね。銅像は倒されるわ、自分を『学校の誇りだ』なんて送り出した教師が、自分を『人殺しめが!』って罵倒する事が日常茶飯事だったそうです。それで問題になったんですよ、旧軍人達の取扱い」

「ああ、聞いたことある。特攻くずれとか言うんだっけ?」

「そうです。それで893に入る者、反政府活動に染まるもの、共産主義者になった者が続出。時の政府は治安の悪化を恐れて、朝鮮戦争を名目に再軍備を始めたんです」

スネ夫が大まかに語る、戦後直後の旧軍人達の立場。数百万の軍人が職にあぶれたため、治安の悪化を恐れた日本政府は、旧軍人を一部でも復権させる事で、反乱防止を図った。これが警察予備隊の設立理由だ。他には、進駐軍が朝鮮戦争に動員されるという、思わぬ誤算により、治安維持部隊が必要とされたためだ。旧軍人はなるべく呼ばれなかった(熟練者を必要とする空海は別)が、結局は内務官僚では荷が重いため、実務面を旧軍人が仕切る事になった。これが陸上自衛隊の起源になる。その歴史を知った扶桑陸軍の中堅層は、軍備を奪い、都合が悪くなったら与えるアメリカ/リベリオンへ憎悪を募らせ、亡命リベリオン軍人を公然とリンチする参謀も出ている。

「そっか、それで合点がいったぜ。俺が止めたんだが、ある日、参謀本部の中尉だかが捕虜のウィッチをリンチしてたのよ。俺がそいつを半殺しにして止めさせたけど、そいつ、『神州を犯す醜悪なる……』なんて、過激なこと言うから、骨の数本をへし折って黙らせたんだけど、もしかして、日本から知識が入り込んだせいか?」

菅野がいう。

「でしょうね。軍人が戦後の自分達への扱いを知れば、その元凶なアメリカを恨むでしょう。バダンに入った日本軍残党も、似たような気持ちだったんでしょう。守ろうとした国から爪弾きにされたんですから」

「吉田茂公は、そのことを掴んでおったのやもしれぬな。話を聞くに、朝鮮戦争を名目に再軍備を進めたと言っても、早すぎる。航空部隊と海上部隊を含めた再軍備はそう簡単なものではないからの」

カールスラントは海軍を第一次世界大戦で消耗しているため、1945年になっても未だ海軍小国に成り下がったままである。そのためか、保安隊→自衛隊の流れは性急に思えるのだろう。

「戦後は戦艦が必要とされなくなったから、フリゲート艦主体で間に合うんです。だから、長らく空母型は持ててないんですよ、自衛隊」

「自衛隊はちょっと見学してみたが、貧乏海軍にしか見えぬぞ。戦艦や重巡洋艦も持ってないなど」

「まぁ、今の時代、大型水上艦自体が絶滅危惧種ですから」


いずも型護衛艦、ひゅうが型護衛艦が竣工するのは、この時代から9年以上の月日を必要とする。そのため、第二次大戦時の海軍の印象を持つハインリーケにしてみれば、『貧乏海軍』に見えたのだ。そのため、ある護衛艦を見学した彼女に応対した自衛官は、現在戦闘艦の戦闘術たる、ソフトキルを説明したという。(ちなみに、直接戦闘に於ける装甲の価値が見直されたのは、統合戦争に於ける海戦での事で、戦乱の世になってからだったという)


――2005年以後の話だが、扶桑からすると、重巡洋艦も持ってない自衛隊は貧乏海軍に見える。日本にしてみれば、イージス艦や戦後型空母を有していながら、何故、前時代の遺物と言える戦艦や超甲巡といった、旧式大型戦闘艦を持っているのか?という疑問がある。そのため、扶桑にとっての新鋭艦である大和型戦艦を戦艦というだけで、『旧式』呼ばわりする、日本のマスコミに疑問を呈する艦政本部。2009年以後、中国などの間で領土問題が発生した時、偶々に親善航海中の大和型戦艦『甲斐』がその真の能力を見せ、日本のマスメディアをギャフンと言わせた。また、21世紀には絶えて久しい、砲撃戦についての見解を問われた、当時の甲斐艦長『松田千秋』少将は『交戦距離とか装薬量とか弾道加速性は、時と場合により異なりますので、個々のカタログスペックでは戦艦は図れません』とコメントを出したとか。



「それで、スネ夫。バダンの輸送ルートは分かったのか?」

「シベリアとアラスカ経由でアメリカ大陸に繋がってます。おそらく、頑丈な地盤などの関係でしょう。南米を終点に、ニューヨーク、ロス等が大規模集積地になってるようです。シカゴとニューオーリンズのバックアップでしょう」

黒江にスネ夫が切り返す。バダンはショッカー時代のヨーロッパ方面の集積地を一号ライダーにあらかた潰されたため、ヨーロッパ方面は意外に集積地は少ない。ショッカー時代に使用され、爆破されたのも多いのだろう。

「北海道は重視されていないのか?」

「九州や四国のほうが重視されてるらしく、北海道は迂回ルートで繋がってる程度ですね」

「北海道民が聞いたら怒るぞ、それ?ショッカーまで素通りなんてよ」

肩をすくめる黒江。だが、北海道出身である圭子は大いに憤慨する。

「何よそれ〜!北海道は田舎だってーの!?」

「石炭以外の資源、殆どね〜だろ。つーか、お前、一応は北海道民だっけ?今の今まで忘れてた」

「ぐぬぬ……!見てなさいよ、バダン!」

と、妙な闘志を燃やす圭子だった。意外だが、武子と同郷の仲であり、それがつるみ始めた理由だったりする。もっとも、アフリカ生活が長いため、マルセイユでさえ、『北海道とお前とに、どこに繋がりがある?』という程の認識であり、今回の黒江の言葉は相当なダメージだったようだ。

「だってオメー、北海道のあの時計台、がっかり観光地の……」

「……」

しょげる圭子。黒江のこの一撃が止めとなったようで、一同はどっと笑いに包まれる。このショックからか、圭子は1946年、久しぶりに帰省するが、今度は同じく帰省した、次兄から髪と瞳の色を突っ込まれ、またも黒江に泣きつく事になる。同じことが二年連続だったため、流石にお祓いしてもらったという。この次兄こそ、圭子の後継者『澪』の祖父に当たり、圭子と交流が比較的多い兄弟だったので、昨年の時より落ち込んだとか。


「今日は冴えてるよな、スネ夫」

「いやあ〜、これでやっと本領発揮ですよ。さて、壁紙格納庫でちょっと仕事があるんで、ぼくはこれで」

と、スネ夫は壁紙格納庫へ入っていく。

「スネ夫は何をしてるんだ?」

「ああ、人数分のジープを用意してるんですよ、あいつ。人数が予想より膨らんだから、チョロQのオープンカーモデルを改造するとか」

「チョロQぅ?随分懐かしいの選んだな。あいつのことだから、ラジコンカーの改造かと」

「ジャイアンいるし、ラジコンカーベースだと、ぶつけて壊すの警戒したんですよ、きっと」

「ああ、あいつのラジコンカーの操縦、荒いからなぁ」

「去年だったか、入り込みミラーU使った時、スネ夫の家のポルシェを廃車にしてますからね」

「マジかよ!?」

「ドラえもんが直したんですけど、ジャイアン、かーちゃんに凄く怒られたそうです」

「どうしてバレたんだ?」

「ジャイアンの良心が咎めて、ボソッと言ったんだそうです。まぁ、スネ夫が半分悪いですけど」

「普通に直したら、有に100万単位で金が吹っ飛ぶからなぁ。ドラえもんが居て良かったな。ん?おい、ヒガシ。たしかお前の知り合いにいたな?フレデリカ・ポルシェ技術少佐だが、中佐だか」

「ええ。知り合いだけど?」

「そいつ、私の予測が当たってれば、ポルシェ博士の同位体だよ!」

「あ、あ――!そう言えば!身近すぎて気がつかんかった!!こ、今度聞いてみるわ!」

圭子はこの後、フレデリカに問い合わせ、軍人の傍ら、自動車会社を興しているという事を確認、ちゃっかりとポルシェ社とコネを持ち、戦中・戦後とフラッグシップを乗り継ぐのであった。また、黒江も戦後、バイトでテストドライバーとして働くのだった。また、フレデリカ自身も、圭子のツテで、スネ夫の父が買った中古の『ポルシェ964』を試乗する機会に恵まれ、その際には、ポルシェ社を直接訪れ、当時の幹部らとディスカッションしたという。

――なお、智子は著名度が高いため、国産車メーカーからプレゼントされる事が多く、50年代終わり、本来より10数年前倒しで発売された『2000GT』を二台プレゼントされ、しかも一台はオープンカーモデルであり、黒田に『ボ○ドカーですよ、ボ○ドカー!』と大受けで、その流麗さから受けがよく、一台を保存用、オープンカーモデルを乗りつぶすのだった。(黒江からは『アホー!!なんでそっちなんだよ〜!!』)と思い切り嘆かれたという。当人曰く、『三台もコピーしてるわよ!』との事だが、黒江は気が気でなく、「私が運転する!」と言い張り、喧嘩になる事もあったという。この2000GT騒動の発端は、太平洋戦争中、ポルシェを乗り始めた圭子、カウンタックを乗り回し初めた黒江に対抗心を持った智子が、『あたしもスーパーカーほすぃ』とぼやいたのを聞きつけた国産メーカーが、日本の同位メーカーの技術援助で2000GTを前倒しして作り始めてしまった事が始まりである。これで後に引けなくなった智子は、仕方がなく、2000GTを受け取る。だが、性能面では、流石に日本が産んだ名車。当時として圧倒的高性能。日本では市販されなかった2300ccモデルも生産され、当時の扶桑人に多大なセンセーショナルを起こし、智子が乗っているというネームバリューもあり、限定生産でありながら元が取れ、日本に渡った車両も存在したという。『2000GT・フソウモデル』と、日本の生みの親たちからはそう呼ばれた車は、ウィッチ世界に燦然と輝く軌跡を刻み、扶桑のモータースポーツの隆盛を導く役目を果たしたと記録される。また、日本に輸出されたものは、扶桑の平均技術が史実60年代日本を超えているという事実の証明となり、日本でセンセーショナルを起こすのだった。なお、扶桑でF1グランプリが初めて開催されたのは、1960年、ベトナム戦争の足音迫る時代だったという。



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