短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)



――元々、パラサイトウィッチの構想はB-17や連山での運用が想定されていたが、B-17は29に置き換えられ、連山は飛天に置き換えられ、ジェットストライカーの登場により、空中給油の技術が伝えられると構想は半ば頓挫していたが、MATで研究は継続され、太平洋戦争では敵味方共に、長距離飛行可能なジェット戦闘機とストライカーの登場までの過渡的戦術として用いられ、また、ダイ・アナザー・デイでのウィッチの存在意義証明のための手段としても用いられ、一個航空団(12人)を乗せて、編隊を護衛する手法が取られた。これは地球連邦軍や米軍/自衛隊のジェット戦闘機群にすっかりいいところを取られ、MATにウィッチが事実上、分派した事もあり、ダイ・アナザー・デイ時には予算も機材も不足気味の軍ウィッチ達はGウィッチの活躍にすべてを託すしかなかった――


――芳佳は烈風改を使用していた。元々、制空戦闘脚であったが、局地戦闘脚としてなんとか採用を狙っていたため、防弾装備は内蔵式になっており、基礎構造は頑丈になっていたが、根本的に次世代型の旭光ストライカーが実用化されつつあったためにその道も絶たれた烈風は、生産済みの200機がそれぞれのオーダーメイドでチューンナップされる機体としての道を辿った。芳佳の個体はその中でも最も先鋭的なチューンナップを施され、全固体で最高の馬力と二重反転呪符、全機の中で最速の速度を誇る。芳佳スペシャルとも言うべき内容で、B世界での震電に相当する立場の機体だ。B世界と違い、震電の量産が頓挫しているため、同じく調達中止の烈風をチューンナップして最後の海軍系在来型局地戦闘脚の地位になった。とは言うものの、200機程度であったのと、太平洋戦争が挟んだため、後世に残された個体はごく少数であった。また、烈風改はダイ・アナザー・デイでは、芳佳の個体しか使用されていないため、全ての戦果は不明である。また、戦果記録を海軍は残さない体質を叩かれ、パニックになった時期の使用という不幸もあり、後世ではあまり高評価ではない。黒江たちがきちんと戦果記録を残していた芳佳は烈風使用者中最高の戦果を残したが、それが後世、娘の剴子を少なからず苦しめたのも事実だ。また、この二刀流の映像が後に芳佳Bに強いカルチャーショックを与えたのは言うまでもない。芳佳はABの落差が黒江と同レベルに凄まじく、Bは多くの世界通りの性格だが、Aは狸かつ、互いが出会った時点で既婚者である。そのため、Bは腰を抜かし、普段着が大洗女子学園の制服に変化していたので、軍人になっていないかと思われたら、軍医少佐になっていたので、B世界坂本のど肝を抜いている。また、B世界はロマーニャ駐留時からの召喚であるため、全く人員も異なる。A世界の人材集中の異常さに目が行ったのは言うまでもない。また、ダイ・アナザー・デイでのレイブンズの活躍は陸戦にも及んでいたので、落差が一番激しい圭子は特に驚かれた。

――1947年 召喚された501Bの基地――

「うぅーむ……このイってる目してるのが加東か?」

「こっちじゃ『圭子』だけどな、あいつ。アフリカに行ったのはあいつだしな、ここは」

圭子は代替存在となった桂子が黒江の役目も一部担っていたため、髪の色などは若年時の黒髪のままなどの違いが顕著である。性格も元々の普段は温厚なものだったので、Aのガンクレイジーで粗野な性格は際立っている。

「あいつ、ここだと二丁拳銃振りかざして暴れるのか……。なんと言おうか、イメージに合わんな」

「あいつ、こっちだと『血塗れの処刑人』の異名取ってるぞ。」

「血塗れの処刑人!?」

「多分、そっちのは大本になるベースの世界の存在のクローンだから、性格が温厚なんだ。うちはそこから戦闘狂に針が振り切った派生存在だ。もちろん、オレも」

「大本になった世界?」

「理論上存在が予測される根幹世界ってオレ達は呼んでる。そこから色々な可能性が分岐した可能性がお前やオレだ」

「世界はいくつもあるのか?」

「基本ベースになる世界があるって理論で、他の世界からは観測もできないし、行くこともできないが、基本的にそうなるだろうって流れをたどる世界があるんだ」

「つまり、ウチの加東はその大本になる世界にいる奴の?」

「クローンみたいな存在だ。ウチは別の存在に近いけど、辛うじてラインは保ってる感じの存在だしな」

「それじゃお前も」

「そうだ。だが、オレは実質的にはそことは別の存在に等しいな。ウィッチを超えた存在になったしな」

「ウィッチではないのか?」

「ウィッチを超えたウィッチ。Gウィッチと呼ばれる存在にな。言わば、転生したウィッチだ」

「転生…だと…!?」

「仏教の輪廻転生を司れる様になった存在なんだ、オレたち。だから、生きた記憶は数回分の数百年あるし、寿命で死んだ記憶も二回はある」

「なん…だと…?」

「ここのお前もそうだ。余計に気苦労多いとかぼやいてるが」

「それもそうだろう。そんな事になっては…」

「宮藤やオレは別人28号だ。智子も似てるようで違うから、そこはお愛敬だ」

「お愛敬って…」

「オレはアフリカに行ってねぇし、宮藤も震電は使ってねえからな」

「うーむ。そこまで違うとは」

「仕方ねぇさ。俺が三羽烏の一人なのは、お前には信じらんねぇように、お前だって、自分が万年二番手なのは信じられないだろ」

万年二番手。クロウズがレイブンズと比較される上で避けては通れない道である。それは今回においてはレイブンズが前史の技能をフル活用し、クロウズは必要最小限に留めた故の差であった。

「二番手、か。私達とお前らは世代が違うだろ?」

「本当はな。だが、ここだとお前らは常にオレ達と比較されてた。絶頂の頃は特に」

「うーむ。お前らの絶頂の頃は事変だろ?私達は41年からの3年間だ。世代が違うだろ」

「お前は40年から43年までだろ。竹井と一歳違うはずだし」

「そうだったな…」

坂本は事変時に12歳であり、絶頂の頃は13から18歳までの5年だが、厳密に言えば、14から17歳だ。ウィッチは志願が遅い者では三年、早い者でも10年ほどしか戦士ではいられないという近代軍隊とは相性が悪い宿命があった。日本財務省が人員整理を目論んだのもそのことが大きく関係している。A世界で日本の財務省が人員整理を強く求め、防衛省の一部と結託して、試験という名目で篩い落としを目論んだのはそこであった。

「こっちだとな。色々遭って、ウィッチの人数が減ってな。その代りに職業化が進んできてる。20になっても退役しないようになった」

「なぜだ」

「別の世界の時をも操る科学で、ウィッチを若返らせるのさ。望んだ状態にな。望めばいつでも受けられる処置さ」

「どうしてそんな事を」

「世界情勢が世界大戦になったからだ。お前らから見りゃ馬鹿げた妄想かもしれんが。退役が延ばせるから、精鋭に絞っても従来の定数ギリギリは確保できる。怪異相手は軍から半分手が離れたし、狩猟ならともかく人同士の戦争に子供は連れて行けないしな」

「人同士の戦争だと?」

「そうだ。その真っ只中にお前らは放り出された。上はお前らを戦力としては半分見做していない」

「どうしてだ」

「人を殺せと命令されて、下の方の若いヤツ、特に宮藤は従うか?」

「…その通りだ」

「あいつは『戦争するためにウィッチーズに入ったわけじゃありません!』とか言いそうだろ?親父さんが死んだから、その傾向が強いからな。こっちの宮藤の広報用の影武者がせいぜいだろ」

芳佳Bは対人戦主体のA世界とはすこぶる相性が悪い。しかし、いざとなればやるだろうとは推測されている。これは芳佳の気質が基本的に温和であるが、自分の大事なモノを守ろうとする時の激情、芯が通った一本気なところがある事が理由だ。

「どうせレシプロじゃマトモな戦闘なんざ無理だから、救難任務でも与えておいても良いかもしれん」

「なぜだ」

「今は遷音速で巡航して、戦闘するジェットの時代だ。射撃機会はレシプロの四分の一もない。だから、スコアも倍公算でなされる」

「時速800キロから900キロか?」

「オレたちみたいに慣れれば、ドッグファイトもできるが、一から鍛えると、一年はいる。特に世代が進んで、爆撃迎撃特化だけが能でも無くなったしな」

「ウルスラ中尉が聞いたら目回すぞ?」

「こっちじゃメガネにヒビが入ったぞ。あまりの衝撃で」

「ん、あ、ケイのヤツがお前ンとこの宮藤を泣かせやがったぞ」

「あ、本当だ。宮藤のグズる声とリーネの抗議する声が聞こえてくる」

二人がそっと様子を見ると、いつもの粗野な態度のケイが芳佳Bを泣かせ、リーネが怒って抗議しているのが見えた。


「お前じゃ戦闘をかき回すくらいが関の山だ、鉄砲は護身用だけで医療バッグ抱えて負傷した味方の救難に当たれ、バディのリーネと負傷者拾い行ってこい」

「でも!」

「デモもストもねぇ!動きの知れねぇヤツは邪魔だって言ってんだよ!」

圭子の目が怖いのと、その雰囲気から、芳佳Bは完全に泣き崩れている。リーネが怒って抗議している。こういう時に芯が強いのがリーネだ。その芯の強さはA世界のリーネの変身体『美遊・エーデルフェルト』と共通している。

「連携の経験のねぇお前らを危険に晒さないためだ、それに命令より自分の意思を優先しがちと報告のある宮藤を前線に出すのは互いの安全に響く、それにお前ら“人を射った”事ねぇだろうし、やりたかぁねぇだろ?」

一応のフォローもするのがケイである。不服そうなリーネだが、それは本当だ。芳佳は模擬戦闘訓練すら銃を向けることに抵抗感がある。そればかりは反論できない。そこにリーネAが美遊として現れた。報告しにきたのだろう。

「ケイ姐様、501メンバーの飛行技能確認を完了しました」

「ご苦労さん、美遊」

言いながら、芳佳Bの頭をクシャクシャと撫でるケイ。芳佳Bは泣きじゃくりつつ、リーネBに抱きつきながら胸を揉む。

「あの、閣下。その子は……」

「ああ、こっちのお前自身だよ、リーネ」

「え!?」

「色々あって、今は別の名前使ってるがな」

「今は美遊・エーデルフェルトって名乗ってる。姿も変えてるけど」

リーネAはダイ・アナザー・デイ以来、美遊・エーデルフェルト(もっと正確に言えば、衛宮美遊である。そこまでいくとややこしい説明が絡む)として生活している。元々、とある世界でイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの立場にいたが、紆余曲折を経て、リネット・ビショップがその転生体に当たる事を知った黒田が実験でG化を起こしたら、本当にそうだったという経緯がある。そのため、今の彼女はリネット・ビショップであるよりも、『美遊・エーデルフェルト』としての存在を選んだ複雑な存在だ。そのため、別の自分自身であるリーネBと出会っても、ケイが息を呑むほどに冷静であった。

「貴方が…別の私…?」

「見かけはそちらのほうが年上だけど、実年齢はこちらが上だよ」

そう言って、一瞬、Bより成長した実年齢相応の姿に戻ってみせる。服装も同じだ。違うのは、表情に相応の落ち着きがあり、背丈が成長したくらいか。そこでまた姿を変える。

「なんで姿を変えるの?」

「今の私はこっちのほうがデフォルトなんだ、芳佳ちゃん」

「その姿だと、もみがいが…いや、なんでもないよ?」

「よだれ出てるよ」

呆れる美遊と、よだれを垂らして半分正気ではない芳佳B。と、そこへ。

「やあやあ。あたしにお披露目と行きたいんですけど、ケイさん、いいっすか」

「おう、やってやれ。古狸」

芳佳Aだ。ただし、声色と姿は角谷杏に変えている。見分けのためだろう。

「貴方は?」

「むふふ。君自身だよ〜宮藤芳佳ちゃん?」

「声は似てるけど…」

「ほらっ、こうすればわかるかな〜?」

「あ!」

「え!?」

こちらも素の容姿を見せる。若干成長し、表情に落ち着きと、イタズラ心が垣間見える。また、よく見てみると、左の薬指に結婚指輪をしていた。そこにリーネBが気づく。

「よ、芳佳ちゃん、それ!?」

「ああ、結婚したんだ。お父さんの弟子筋の技師と。ほら、これが旦那の写真。」

端末で結婚式の写真を見せた芳佳A。容姿は角谷杏に戻している。結婚式は洋式で、時代背景的にはハイカラだ。これは夫も芳佳もハイカラな結婚式を望みつつ、簡素にできる洋式を望んだからだ。

「あれ、洋式?」

「あたしも旦那も戦時下の結婚式だから、簡素にやりたかったんだけど、ばーちゃんの願いとの兼ね合いもあってね。ばーちゃんは和式望んだけど、軍隊でやるからって、洋式に」

結婚式はこの時代、和式を望む声はあるが、実情としては洋式のほうが好まれる。これは和服などの手間がかかるため、軍人などは洋式のほうが助かるのである。また、日本連邦体制下になると、生活様式の西洋化が始まったため、西洋式の結婚式は急増する。芳佳も吾郎もこの47年には南洋島に邸宅を構えている。戦時中なので、新京の中心地でも安く買えたのだ。ちなみによく見てみると、祖母との願いの兼ね合いか、神前式と西洋式結婚式の折衷であり、神父ではなく、神主になっている。そこは祖母が頑として譲らなかったらしい。

「あれ、これ神主さんだよね」

「ばーちゃんがそこは譲らなかったんだ。だから、両方の折衷になったっーわけ」

「おばあちゃん…」

「ま、ばーちゃん、60いってないけど、明治生まれだから、お硬いんだよね、微妙に」

明治はこの時代はそれほど昔でもなく、芳佳の祖母の代になると、明治半ばの生まれになる。扶桑皇国でも、この世代は愛国教育がなされた世代なため、西洋からの舶来文化にコンプレックスが残る最後の世代だ。そのため、芳佳Aは祖母に『別に無くてもええねんけど有っても邪魔にはならんし祈祷した持ち物を互いに授け合う御守りとして働くんとちゃうかな?』と日本の神職に回答を得た事を伝え、説得して、西洋式の指輪交換が組み込まれた。これは扶桑が鎖国していなかった幸運により、カトリックは禁止されても、プロテスタントは継続して信仰が許されていたためで、扶桑の十字教で新教が多数派なのはそのためだ。また、洋装化も明治からはるか以前の事であり、幕府が明治が始まる前に残っていたのは、惰性と、幕府が特に失政はしていなかったからである。扶桑の明治政府は大日本帝国政府としての明治政府と違い、戊辰戦争も経ていないため、維新の三傑の大久保が史実と違い、長命であった上、坂本龍馬の嫡流も続いている。そのため、日本の左派が喚く『軍国主義』どころか、合法的に、狡猾に、その勢力を広げた大国である。言うなれば、扶桑は大日本帝国のような極端なナショナリズムが煽られることはないのだ。

「結婚式はそれなりに大仕事だったよ。内輪で済ませたかったけど、軍の高官たちや政府要人が列席するからっていうから、基地ですることになってね…」

「なんで基地で?」

「様式が複雑になったから、結婚式場でやれなくなったし、ウチの庭じゃ狭いから、基地の爆撃機用の格納庫使ったのさ」

芳佳Aと吾郎技師の結婚式は欧州式と神前式の折衷になった上、山本五十六、源田実ら軍部高官、吉田茂、小泉純也などの扶桑皇国政府要人がズラリ列席したため、基地の爆撃機用格納庫で執り行われ、芳佳Aは世帯を持った。芳佳Aが第一子を妊娠するのはこの数年後の事。また、後に軍人としての芳佳の名跡を継いだ剴子は第二子であるので、当分先の事。

「それに数年経ったら子どもできるから、今から準備中さ〜」

「こ、子供ぉ!?」

「リーネちゃんが驚いてどーすんの」

「いや、その、純潔じゃないとシールドを…」

「それ、欧州の迷信だからね?」

「え!?」

「うちの一族の説明つかないよ。それだと。ばーちゃんもおかーさんもウィッチのままだしね」

「それに、私もいずれ、息子できるし」

美遊(リーネA)も同意する。純潔であることがシールドを張れる条件というのは迷信であり、実際は魔力の資質に由来する。また、Gはほぼ全員が直接かそうでないにしろ、子孫がいるので、それでその謎は解けている。

「まー、それはあたしらの辿る道であって、貴方がそうなるとは限らないさ」

「そう。基本世界以外はそれぞれ分岐していくわけだしね」

その通り。平行世界の中で、たとえ観測できても、干渉が不可能な基本世界以外は道が分岐していく。芳佳にしても、留学の頓挫した時にロマーニャで失われた力が蘇る世界、そうではなく、死亡した世界も存在するように。

「坂本さんにも、あたしの不手際で人型怪異にやられた時に戦死して、あたしがショックで阿修羅になる世界があるしね」

「あるの!?」

「無限にある平行世界の中には、そういう世界もあるってこと。今まで観測した中で最悪の世界線は、リベリオンとの戦争に負けて、海外領を取られて、軍が解体された途端に怪異が現れて、場当たり的に再軍備が指令されて人類が負けるENDだな」

「そんな世界が…」

「軍備解体は怪異がいると、ハイリスクでしかないってことだな、その世界線からの教訓は」

ウィッチ世界で最悪の世界は扶桑が太平洋戦争で敗北した途端に怪異が現れ、扶桑皇国軍を解体したリベリオン軍はその失策で極東を守れず、国際的非難を浴び、欧州とリベリオンのみの人類連合軍では防戦一方であり、やがて文明そのものが滅んだ世界。マジンガーZEROが滅ぼした世界を除けば、それがバッドエンドな世界であろう。その教訓で、日本連邦は今次大戦の勝利の暁には、緩やかな条件での講和条約発効を目指す方針である。

「平行世界を観測できるようになると、如何にして戦争に勝つかも一苦労する事になるよ。新型戦車や新型戦闘機が半年から一年のスパンで必要になるし、万以上の物量とやる羽目になる。特にあたしたちはね」

「万!?」

「人と殺し合いするってのはそういうもんさ。戦争に勝っても、不満ためて暴発じゃ意味ないんだ。リベリオンはそこがド下手で、どの世界、国の名前が違ってても、自分達に都合のいい軍隊を作ろうとして泥沼にしちゃうんだよ」

それは現在進行系で扶桑の足を引っ張っている日本の自衛隊を縛ろうとする政治家や財務官僚へのあてつけも入った芳佳A一流の皮肉であった。日本はアメリカ占領統治が成功したほぼ唯一無二のケースであり、イラク戦争も日本と同じノリでネオコン勢力が戦後処理を決めた感がある。残されたのは現地の混迷である。アメリカはベトナム戦争以来、戦後処理に失敗したり、戦闘に勝って戦争に負ける状態が続いた。その事への不満が統合戦争での暴発に繋がったのが未来世界での行末だ。

「リベリオンはこの世界だと、2つに別れて戦争し始めたけど、もっと分かれるかもしれない。リベリオンは瑞穂国を取り込んだ以上、東洋系が多いしね」

リベリオンはアメリカと違い、西海岸に存在した扶桑人国家『瑞穂国』を滅ぼして、合衆国を結成している。リベリオンの公式の戦史では『取り込んだ』だが、実際には相当な虐殺を行っている。その変わり、ネイティブ・リベリオンがかなり生き残っており、落ち延びた瑞穂人をアステカなどが匿ったりした経緯があり、リベリオンはかなり内憂外患の状態である。ルーズベルトが原爆で扶桑を倒そうとしたのは、瑞穂国の残党を恐れたから、とも。リベリオンは東洋系が史実よりかなり多いのは理由がある。リベリオンに移民した白人たちにはウィッチの発現率が低い一族しかおらず、その確保のため、東洋系を多めに入れたのだろう。200年ほどでようやくウィッチの安定供給が成ったと思えば、分裂である。しかもその内のエース級がほとんど自由リベリオンに与したことは、リベリオン本国最大の誤算だ。しかも、元々、ネイティブと瑞穂人を野蛮と決めつけ、虐殺した歴史があるため、元はヒスパニア、カールスラント、ロマーニャ移民の出が多いのがリベリオンウィッチ部隊のウイークポイントだ。しかも扶桑が強大化するにつれ、瑞穂系の住民を重用せねばならないという矛盾。それがリベリオン戦国時代と呼ばれる分裂時代を興す理由になる。

「下手すると南北戦争第二ラウンドもあり得るね。色々と矛盾があるリベリオンをまとめてたのは目標があったからだしね」

「あ、それ学校で習った」

「風と共に去りぬ、見てない?」

「チャンバラしか見たことないんだ…」

「うーん」

苦笑いの芳佳A。Aは智子、黒江、夫の吾郎が映画好きなため、その影響で映画好きになっており、扶桑の物価が安いのにかこつけて、週末は新京のシネコンで映画を見るのが楽しみである。南北戦争が舞台の映画といえば、風と共に去りぬであり、わかりやすい例えのつもりだが、別の自分がこれほど映画に疎いというのが衝撃のようで、頭を抱える。

「続・夕陽のガンマンはどうだ?」

「ありゃ同時代が舞台なだけです、ケイさん」

「南北戦争って映画にならねぇんだよな。暗部だし、西部開拓の一部だし」

「南部と北部のしこりは意外に違う形で残ってたりしますからね、映画にしにくいんですよ。ネイティブぶっ殺しまくったのを描いたソルジャー・ブルーなんて、古典的西部劇にトドメ刺した、なんて…」

「アレはちょうどナムと被る頃で、社会が変容する頃だからな。西部劇はあれからほとんど見なくなってねぇか」

「勇気ある追跡があるじゃないですか」

「ウェインの晩年の一本だろ?のび太が気に入ってるやつだ」

完全に映画マニアの会話である。圭子も映画が一種の娯楽である時代の人間であり、のび太の時代で映画を見たり、戦争勃発後は三人で金曜日に新京のシネコンで未来から入った映画を見るのが楽しみであった。

「あの、それって全部、映画のタイトルですか?」

「今週の金曜日にお前ら連れて、こっちの新京に連れて行ってやるよ。凄い変わりようだぞ?」

映画。未来世界ではチケットが一人1800円はするため、おいそれと足を運べなくなったとレイブンズは嘆いており、本国の映画会社を動かし、フィルムを輸入してもらい、本国で見るようになっていた。もちろん、自由リベリオン向けも兼ねていた。この頃、新京は再開発ですっかり高層ビルが建ち並ぶ近代的町並みになっており、B世界の大正ロマンの残滓が色濃い町並みとは一線を画する。新京中央駅こそ、辰野金吾が存命中に東京駅とほぼ同時期に設計した優美な建築を留めているが、それ以外は近代的になっており、B世界と別の街に等しい。21世紀世界の東京を扶桑に再現するための実験都市としての役目が与えられたため、電波塔などの形状は東京タワーを模している。新京は東京23区全体より面積が広いため、郊外も広めで、東京より土地のキャパシティに余裕がある。

「ちょうど、観光用の絵葉書があったな。ほれ、見てみろ。新京の中心地の絵葉書だ」

「な、なんですか、これ!?マンハッタンみたいな…」

「こうなったから、郊外や衛星都市の開発に移ったんだ。そろそろ新京の都心は開発限界で、地下も作ってるしな」

「たった二年でこうなったんですか?」

「色々と禁じ手使って短縮したんだ。戦争が差し迫った状態で都市開発どころかとクレームつける連中が文句つけようがないくらいに」

禁じ手とは、未来技術フル活用での都市建設である。その成果で新京の中心地はすっかりオフィスビル街に変貌している。都市計画そのものは扶桑が正規に承認しているプランだが、インフラや建築は民間出資という体裁で行われ、急ピッチで進められ、二年では中心市街地をビル街に置き換え、電波塔設置などの成果を挙げた。新京は内陸部の都市であるため、沿岸部に衛星都市を作る必要に迫られてもおり、戦争中でもそれだけは優先事項の一つであった。ただし、衛星都市の定義からは外れている遠目の沿岸部が候補地であり、黒江曰く、『第二州都のほうが言い得て妙じゃね』との事。鉄道の敷設、運河の建設など、課題も多く、47年時点では『南洋横断鉄道の高速化と電化』が新幹線の輸入で成功しつつある段階である。高速鉄道は戦争中は軍部・政府要人が主な顧客であり、一般層が大々的に使用するのは、戦後のこと。これは高速鉄道を戦争中の扶桑系大衆の多くが贅沢と捉え、使用を控えたという心情的事情、軍部が使用していたため、大衆車ではないと早合点した者が多かった事に由来する。大衆も使用できると知られたのは新幹線が走ってしばらくたった頃で、そこは扶桑鉄道省(当時は国鉄でもなかった)の怠慢であった。扶桑国鉄が史実と違う経営形態になることはこの時期には話し合いが行われており、日本国有鉄道の失敗を踏まえての経営計画が研究されている。それが鉄道省最後の大仕事だった。芳佳Bが持っている絵葉書に書かれている流線形の列車こそ、扶桑が日本から設計図を入手して製造中の100系新幹線であった。



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