「シンフォギア世界の一つのIF」編 1
(ドラえもん×多重クロス)



――黒江がシンフォギア世界滞在中に小日向未来と良好な関係であった理由は、黒江が彼女を救出し、しばらくは行動を共にしていたからである。その経緯をまとめたレポートが黒江がシンフォギア世界を去った後の時期にまとめられた。それを見てみよう――

――黒江綾香は事故により、月読(現在は月詠へ表記を変更)調と入れ代わった。その際に月読調に宿っていたフィーネの存在は玉突きで追い出され、後にプリキュア戦士へ転生を遂げたという。かくして、月読調の立場に置かれた黒江綾香は武装勢力「フィーネ」から即座に離反。以後は当方の装者とフィーネの装者たちを手玉に取りつつ、風来坊のように振る舞っていたようだ――




――黒江は調のあどけない容姿になってしまったことにもめげず、離反後は風来坊として振る舞い、一時は第三勢力のように動いた。持ち出したシュルシャガナのギアは着の身着の持ち合わせが無い事もあり、殆ど普段着のように扱った。コスプレ喫茶でなんとか定期収入を得た後はシンフォギアを『コスプレ』と強弁することで仕事をこなし、響たちとニアミスはしても、運良く遭遇する事はなかった(黒江の強運によるもの)。とは言え、性分的に『売られた喧嘩は買う』ため、双方の装者たちに手痛い一撃を与える事もしばしばあった。風鳴翼は技の尽くを上回われた上、聖剣の餌食になった事もある。黒江の聖剣がエクスカリバーである事は早い内に知られたが、そのせいで、黒江の纏っているギアの元になった聖遺物の特定が当時の二課で大幅に遅れる原因となった。また、ギアの機能を活用する事なく、当時のシンフォギア装者を素で圧倒する戦闘ポテンシャル、『エクスカリバーを完全な形で持っている』ことから、双方が血眼になって捜索を行ったが、黒江は偶然にもその盲点を突いていた上、色々と目立ちつつも、ネット喫茶を転々としていた事により、双方の捜索をうまいこと逃れていた。小日向未来と出会ったのは、そんな生活が数ヶ月ほど続いたある日のことだった――





――ある日、小日向未来は親友の立花響とともに観光名所のタワーに遊びに来ていたのだが、ふとした拍子で響とはぐれてしまった。そこにノイズの襲撃が起こってしまい、ノイズに壁際に追い詰められてしまい、逃げ場を失ってしまうが……。

『ドリルプレッシャーパーーンチ!!』

その叫びと共に『ロケットパンチ』がノイズを貫き、消滅させる。そして、声がしたほうを振り向くと。

「あなたは……」

「間一髪だったな、お嬢ちゃん」

未知のシンフォギアを纏った装者がいた。(史実でも、この頃は調と未来は面識はない)見るからにあどけない印象で、目測で中学生くらいに見え、自分よりも幼いように見える。

「お、お嬢ちゃんっって……。」

「走れッ!」

「は、はいっ!」

黒江はとっさに未来の手を引いて走った。ちょうど、響が探していたのとは反対の方向に逃げた事になる。

「ま、待って!と、友達とはぐれ……」

「すまねぇが、今はそれどころでもないみたいだ!」

「え!?」

とっさに未来を壁に張り付かせ、自分も念の為に壁に体をつけて隠れる黒江。マリア達を暗殺、もしくは捕縛のために探していた米軍の特殊部隊に出くわしたのである。特殊部隊と素人目にも分かる格好であり、お世辞にも隠密任務向けの格好ではない。

「どわっ!……ここは日本だろ!?なんで、グリーンベレーだか、デルタ・フォースだかがこんなとこで公然と動いてるんだっての!?あ、もしかして、連中……?」

「自己解決しないで、私に説明して〜〜!」

「俺だってよくわからん!だが、狙いはこの手の格好の奴らだってのは確かだ。しゃーねー!この手の連中とやり合うのは、自衛隊の演習以来だが……!」

黒江は正面突破を選ぶ。お得意の格闘術などを駆使し、おそらくはマリアたちを探していたであろう米軍の特殊部隊とやりあった。(この時、黒江は史実での調がフロンティア事変当時には用いなかった『ヨーヨーのアームドギア』もノイズ対策で用いた。コン・バトラーVからのヒントだとは本人の段。後に、調本人もキュアミューズに教えられて使う)黒江は肘鉄で兵士一人を倒し、装備品を奪う。

「おいおい、ガバメントかよ。特殊部隊はSIGとか使うはずだろ?どうなってやがる」

と、愚痴りつつも、そこは百戦錬磨の軍人。ものの数秒で武器を使用可能にし、瞬時に敵の腕や足を撃ったりして動けなくさせる。

「このまま殺されるよりは、俺についてきたほうが安全だ!お嬢ちゃん、俺から離れるなよ!」

「わ、分かってるって〜!」

パニックになりつつも、黒江に必死についていく未来。同じ頃、響がシンフォギアを纏ってノイズを倒しながら必死に探しているが、ちょうど、その反対方向に逃げた事になる。黒江は状況に応じて戦法を変え、米軍特殊部隊を蹴散らし、なんとか外に出る。

「って、おいおい!?外も敵だらけか!」

「どうするの!?」

「今は逃げるが勝ちだ!バケモンはどうにかなっても、米軍の連中は目撃者を消しにかかるぞ!そうすれば、お嬢ちゃんの家族も巻き込まれる!」

「そ、そんな!?」

「しばらくは俺と一緒にいるしかないな……付き合わせるみたいで悪いが、家族や学校、友達ともしばらく連絡はできないぞ」

「そ、そんなぁ〜!」

「お嬢ちゃん、持ち合わせは?」

「10000円もないよぉ」

「俺は3000円もない。が、今は逃げるしかない」

「あ、あなたの名前をまだ…」

「黒江綾香。自分で言うのもなんだが、こういうロリな外見だが、一応は23だよ」

「私は小日向未来。よろしくお願いします」

「さ、行くぞっ!」

黒江は未来を運ぶため、シュルシャガナの技でもある『非常Σ式・禁月輪』を使って移動を始めた。元々、オートレーサーを趣味でしていた黒江なので、一輪車の要領で動かせるこの技は使い勝手が良かった。二人は中心市街地から離れた郊外までそのまま向かうことにした。未来はこうして、なし崩し的に事態に関わることになった。ただし、ギアの技で走行していたため、この後に切歌に捕捉され、交戦したが、例によって、切歌はあっけなく返り討ちにされた。切歌は連続の敗北と『調に邪険に扱われた』ことで余計に自身の勘違いをこじらせてしまう事になった。



――後で聞いた話だけど、綾香さんはあの時に未来を助けてくれた。あの時、はぐれた後に綾香さんに連れ出されて、そのまま一緒に行動してたらしい。なんて羨まし…い、いや、私の涙を返して〜!あの時、一晩中……――

立花響は事後、調査の際にでそう答えている。正確には、黒江は未来をノイズ発生現場から助けて連れ出し、そのまま行動を共にさせていた。米軍の特殊部隊を警戒した黒江は暫くの間、未来の面倒を見ることにし、行動を共にした。ネット喫茶に共に泊まる事になったのだが、未来はその時に黒江の陥っている現状と、平行世界の存在を知った。黒江が元は『別の世界の日本軍の将校で、生まれは1920年代始め』という事で、『私からしたら、ひいおばあちゃんくらいの差なんだ……』と率直な感想を答え、黒江を大笑させている。また、着の身着の持ち合わせがないため、シンフォギアを展開したままである事をありのままに話す。

「着の身着のままで脱走したもんだから、こいつが本来持ってた服は脱走の時に着てたのしかなくてな。服を買う金も無いし、こいつを使ってる。俺は元の世界でオリンポス十二神に仕えてるからか、こいつを使うことでの体への負荷はかからんらしい」

「響たちは技を使う時に負荷がかかるのに。なんでですか?」

「うーん。俺は第六感以上の感覚に目覚めてる上、これが玩具扱いのすごい聖遺物を使ってたからかな。本当は170cm超えのナイスバディなんだが、こいつの役目を果たすためだかで、姿が変わっちまったんだ。だから、あのガキに誤解されちまったらしい」

「姿がその子と同じになっただけって、普通はありえないですからね…」

「そうなんだ。俺の世界は平行世界と行き交いがあってな。その関係の仕事で、ある遺跡の調査に行ってたんだが、調査対象の遺跡を動かしちまったんだ。それでこのザマよ。本当は23歳だってのに、こんな鼻ったれのガキの姿になっちまったわけ。この時代からすりゃ、俺はとうに90超えのばーさまさ、ハハハッ」

黒江はこの事件をきっかけに、一人称を「私」から「俺」に切り替えた。当初は切歌に別人とわからすために使い始めたのだが、それがいつの間にか定着したわけだ。未来は黒江に助けられた恩もあるため、この日から行動を共にした。黒江の勧めで、周囲への連絡はしばしの間、否応なしに絶たざるを得なかったが、監視カメラなどに『謎の装者と行動を共にしている』姿は写っており、二課側は緊急で行方を追わざるを得なくなった。立花響は小日向未来がいなければ、過去のトラウマで精神がいっぺんに不安定化するからである。

「お前の友達だが、自分の力に依存してる節があるように見える。グングニルが元になった力のようだが……」

「はい。中学生の頃、友達は……響は……この世界で起こった事件に巻き込まれたんです。それで一命は取り留めたんですが、リハビリを終えた響を待ってたのは周囲の誹謗中傷。その誹謗中傷に耐えきれなかった響のお父さんは蒸発して、家庭は崩壊寸前。それで響は自分の居場所や自分の得たものに執着するように……」

「なるほどな。そいつは厄介だな」

「え?」

「自分の力の絶対性を信じてると、それ以上の力に滅ぼされるもんだ。だが、この世界では、グングニルがロンギヌスと同一視される風潮がある。そこがその子の危ういところだよ。俺はその子と戦ってみたが、自分の力で御せない力が信じられない様子だった」

「あなたはガングニール以上のモノを?」

「俺は戦の神であるアテナから、聖剣・エクスカリバーを授かっている。グングニルより上位の宝具だ。そういうわけで、エクスカリバーにはグングニルじゃ太刀打ちできないんだ。良く五体満足でいられたもんだ」

ネット喫茶の個室で黒江が明かしたことで、小日向未来は黒江が陥った状況を知った。この時に、真の意味での聖遺物はオリンポスの神々の間で『宝具』と呼ばれている事を知った。未来が後に調の出奔に手を貸したのは、黒江には響やマリアの頼みを『断る』権利があったが、無理を承知で引き受けてくれたという事情を知っていた事、調は既に前の生活には戻れない身の上であった事を知っていたり、黒江が引き受けてくれたのは、マリア・カデンツァヴナ・イヴと自分が『予め、一芝居を頼み込んでいた』ことによる。

「響を圧倒できたのは、貴方がプロの軍人だからですか?」

「軍人ったって、全員が強いわけじゃないが、俺は好きで鍛えてたし、親父や叔父貴にシゴカれたんでな。上に三人も兄貴がいたから、環境的に軍人になる時に鍛えられた。13の頃だ。それに俺は魔法が使えたからな。それで軍に入る事になった。歌劇団におふくろは入れたがってたがな」

黒江は家庭環境では、レイブンズで最も恵まれなかった。一見すると裕福だが、母親が自分の夢を押し付けるくせに母性本能が薄いタイプであったり、父親が厳格な性格であったなどの理由で、実のところは精神的に荒んでいた。現在のような好人物になったのは、赤松のおおらかで鷹揚な教育によるものが大きい。黒江の父親は赤松を母のように慕う娘の姿に、厳格であった自らの課した教育を悔やみ、軍への入隊を許したという経緯を持つ。黒江が野比家に入り浸るようになった理由はそこにあり、それを知った智子は自らの復権のための打算で、黒江との付き合いを再開した自らを恥じ、この頃には、新たなポジションを確立させつつあり、本来は『柄ではない』ことも引き受けるようになっっている。

「俺がいる世界は色々と歴史が違っててな。織田信長が幕府開いてたり、ムー大陸が日本領になってる。そんで、あのバケモノに似た怪物と魔女が古来から戦ってきた。そこに異世界との交流が始まったところ。俺は空軍のエースパイロットだから、特に交流に駆り出されてるんだ。23で大佐だしな」

黒江はシンフォギア世界への転移に遭遇した時、既に『大佐』になっていた。既に、出向先の自衛隊では将官になっていたが、扶桑軍は『ウィッチ出身者が将官になった例はない。将官にしてしまうと、現場にいさせずらくなるだけ』ということで、代将待遇の大佐で留め置かれていたが、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの冷遇への対処と、自衛隊で将官になっている事実の通告で生じた『あれこれ』への帳尻合わせの必要から、昇進と叙爵がなされるわけだ。ミーナの人物評はこの冷遇で地に落ちかけ、一時は下士官への懲罰的降格も取り沙汰される。だが、先行して降格したエディタ・ノイマンが鬱病に罹患し、退役願いを出してきたため、現場で混乱が起こったので、ミーナへの処分は再検討される。このシンフォギア世界への黒江の転移の出来事は501へ着任してから二週間ほどが経過し、時空管理局の仕事を手伝っていた時に起こった出来事である。

「さっきのガキはこの姿の元の持ち主の仲間だと思う。俺にとっては迷惑な話だが、いずれはこの姿の元の持ち主を演じる必要が出るかもな」

「まさか」

「お前の友達に協力する流れになるだろうから、それは起こり得る。俺にもこの事の責任の一端はあるからな。だが、それにはまだ早い。この世界の状況を掴んでねぇからな。不躾だが、協力してくれるか?」

「わかりました。私で良ければ」

黒江は後にそうなる予感がこの時からしていた。感がいいのも黒江の特徴だった。小日向未来の協力が得られたため、黒江は彼女を米軍が狙っていない事の確証が取れるまでの間は彼女を護る事にし、しばらくの間、自分の散策に付き合ってもらう事になった。とは言え、未来の持ち合わせも8000円とちょっと程度であったため、あまり贅沢もできない。この日も黒江はネット喫茶で飲み物を頼み、タワーで買っておいたお菓子などで腹ごしらえをし、この地区の外れにある銭湯でさっぱりするのだった。




――綾香くんの行動は当時の我々の裏をかくものだった。平行世界での旧軍の将校という経歴も驚きだったが、何よりも、その身に聖遺物の霊格を宿しているという事は我々の常識を壊した。アーサー王伝説の聖剣・エクスカリバー。我々の調査の範囲では現存はしていないとされたものだ。その切れ味は聖剣と呼ばれる範囲の剣では真に最強であり、ガングニールの力でも御する事は困難を極め、響くんは何度か昏睡状態に陥った。しかし、まだ力を隠しているように、俺には思えてならない。彼女は戦闘では『左腕』を使っていないのだから――

黒江は滞在中、戦闘で攻撃用途に左腕を用いる事はなかった。これは『左腕に乖離剣エア』を宿しているからで、世界そのものを切り裂いてしまうためであった。風鳴弦十郎は格闘技の巧者であったため、黒江が『実力を隠している』事に気づいていた。彼は響が黒江に反発した理由の一つが『自分達に全力を出してくれない』という僻みと『未来を連れ回した』という出来事への『子供じみた嫉妬』である事も悟っていたが、響の精神的問題には手出しが難しく、自発的に向き合わせる事で事態が解決するのを祈るしかなかった。彼の響への落ち度はその点にあったと言える。とは言え、黒江とシンフォギア世界で真に互角に渡り合えたのは、文字通りに彼のみであり、黒江曰く、『素で白銀くらいのポテンシャルはあるぞ?このおっさん』と称賛している。(流竜馬と声が似ているため、黒江も他人の空似とは思えねぇと述懐している)彼は姪のトレーニング相手を頼み込んでおり、黒江はそれを引き受け、滞在中は翼を鍛えながらも遊んだ。ちなみに、彼女の『祖父』の風鳴訃堂は黒江が『太平洋戦争での日本軍将校』という身分を以て威圧し、動きを封じたたのと、黒江が去った後に肉体的には天秤座の童虎に、精神的には乙女座のシャカに叩きのめされ、五感を剥奪されて廃人となり、収監されている。(その時に彼が光明結社の一派を手駒としていた事も公にされ、光明結社は天秤座の童虎に完全に叩き潰される事になった。その際にサンジェルマンやアダムといった幹部も彼に倒されたため、シンフォギアA世界では『AXZ』以降の出来事が起こるフラグが折れた事になる。ただし、出来事で得るはずだった要素はB世界との接触でもたらされ、各装者にもその世界線で起こった出来事の記憶が宿る。なお、A世界で童虎に倒されたサンジェルマンの魂はキュアダイヤモンド/菱川六花へと転生していたため、彼女にサンジェルマンとしての記憶がダイ・アナザー・デイの際に宿るという形で出会う。また、更に数年後に立花響がキュアグレースへ覚醒めたため、響は二つの世界では成し得なかった『サンジェルマンと和解した上での共闘』をお互いにプリキュアとなってから成し遂げる事になる)


「さて、風呂でも行くか」

「銭湯ですよね?」

「当たり前だ。外に出たら、『一輪車』すっから、ちゃっちゃと済まそう」

黒江は未来との共同生活で、シンフォギア『シュルシャガナ』の扱い方を完全に習得する。これがダイ・アナザー・デイ以降にシンフォギアをちょくちょく使う事になるきっかけとなった。

――道中――

「でも、いいんですか?シンフォギアを堂々と使っちゃって」

「俺はこの世界の組織に属してるわけじゃないし、そもそもがこの世界の住民じゃないからなー。そこは気にしてない。それに、元の世界で『もっとすごいの』使ってるからな」

「え、もっとすごいって」

「アテナから授かったオリハルコン製のプロテクターだよ。俺はその内の最高位である黄道十二星座の内の『山羊座』を掌る戦士を副業でしてる」

「ふ、副業って…」

「たぶん、こいつを使って負荷がかからないってのは、俺がそのおかげで普通の人間を超えてるからだろう」

「響達も使ってると負荷がかかるのに、それってずるくないですか?」

「まぁ、これは俺がイレギュラーだからだろうよ。俺の本当の力を全開放したら、こいつの機能がどこかイカれちまうかもしれんし」

「え、そんな人外なんですか、貴方」

「仕事が神の尖兵だからな、一応」

小日向未来は響たちで慣れたためか、黒江の身の上話にも動じなかった。むしろ、黒江の人外ぶりのほうが驚きに値するようだ。黒江はすっかり、『非常Σ式・禁月輪』の扱いに慣れたようである。

「あの、慣れましたね」

「元の世界で戦闘機乗りだし、趣味でオートレーサーしてるんだ。一輪車は初めてだが、コツは掴んだ。マン島レースとか知らねぇか?」

律儀に交通ルールは守りつつ、『非常Σ式・禁月輪』で銭湯へ向かう二人。普通に一般人に目撃されまくっているはずだが、シンフォギアを見かけても口外できない決まりがあったのと、黒江がギア姿で善行を働いていた効果もあり、気に留められる事はなかった。ただし、監視カメラなどは誤魔化せないため、二課や武装組織『フィーネ』はそれぞれ、様々な誤解と勘違いが入り交じる形で捜索の糸口を探る。二課は『エクスカリバーに関連するアームドギア、あるいはエクスカリバーと呼ばれる完全聖遺物を持つ、謎のシンフォギア装者』として、武装組織『フィーネ』は突如として離反したとされる調を捕縛するために。








――黒江はセブンセンシズを会得しているため、シンフォギアを聖詠無しで起動でき、使用で生ずるはずの身体的負荷も無い上、小宇宙で聖遺物の力を自然に引きだすためか、シンフォギアシステムを整備無しで恒常的と言えるほどに長時間の展開をしても、ギアの機能に異常が起きないという絶大な利点を発揮していた。更に、黒江が使用中である際のシュルシャガナのカラーリングや形状が史実でのフロンティア事変当時の暗色系主体のものではなく、魔法少女事変以降の時間軸で見られる暖色系主体のヒロイックなカラーリングと形状を先取りする形であった事、黒江が聖遺物の発するエネルギー反応を小宇宙で抑え込んだ事で、図らずもフロンティア事変当時の二課やマリア達の捜索には撹乱となった。ただし、切歌がまたも返り討ちにされた関係上、マリアは真偽を問うために血眼になっていたが、断片的に得られている情報で『突如として、ギアの適合係数が脱走直前と比較にならないほどに上昇し、ギアの形状が暖色系のカラーリングが増加した『高出力型』へ変貌していることが彼女達の頭脳的な役目を担っていた『ウェル博士』に指摘され、歯噛みせずにはいられなくなるマリア・カデンツァヴナ・イヴ――

「あの子に何があったっていうの!?まさか…あの子……いえ、口ぶりからはそれはないはず……」

この時には、黒江に返り討ちにされた事があるマリア。自分なりに得られた情報を必死に整理する。すぐにフィーネに人格を乗っ取られた線は否定した。何故か。調は元々、身長が152cm程度と小柄であったが、あの装者はどう見ても160cmを超え、本来の調より遥かに長身だった。姿は調をそのまま成長させたようだが、短時間にそんな変化はありえない。

「何らかの現象で調と同じ姿になった誰かがいて、ギアにも適合して入れ代わっている……」

「どうしたんです?」

「Dr.。貴方は平行世界を信じる?」

「これはまた突然ですね。多元宇宙論ですよ。理論的には充分にありえる話ですが?」

「あの装者……調の姿だけど、調ではない。そんな気がするの。突拍子もないと笑うかしら?」

「いえ、ボクもその可能性は考えていました。残酷なので、彼女には言ってませんが」

「それがいいわ。私がこれから立てようとする仮説は突拍子のないように思える代物だもの。それに…、あの装者はエクスカリバーと言っていた……。アーサー王伝説を裏付ける聖遺物はまだ発見されていないはずだし、完全聖遺物として残っているとも思えない。」

「ですね。そもそも、アーサー王伝説自体の起源は定かでないと言います。それを模した聖遺物が存在するかどうか」

アーサー王伝説そのものの起源は比較的に新しい上、様々な民間伝承などが入り混じっているので、定かでないと注釈をつけつつも、説明するウェル博士。だが、『今回のこと』は彼も真面目に調べるほどに気になっているようだった。

「でも、あの装者は明らかに使った。風鳴翼を容易く返り討ちにし、あのガングニールの立花響を以てしても、御する事のできないほどの光の奔流を奮った…。聖剣・エクスカリバー……。持つ者に勝利を約束する聖なる剣……。円卓の騎士が一人にして、ブリテン王『アーサー』を象徴するモノ……。実在したと言うの……?私達の言う完全聖遺物は先史文明が遺したモノ。だけど、それとは別に、神授の剣が伝説の通りに存在していたら…?」

「ありえます。神話の時代のことなど、誰にも分かりませんし、一説によれば、ギルガメッシュの英雄譚が他の神話の英雄譚の原型になったとも言います。我々の言う聖遺物は先史文明が遺した遺物ですが、もし、万が一、その元になったものがアナンヌキと別の存在によってもたらされているのなら……」

「調べてみる価値はありそうね…」

マリアはかなり真実に近い仮説を立てていた。その真の意味での聖遺物が他の世界では『宝具』と呼ばれている事、オリンポス十二神の実在を差し引いても、かなり的確であった。マリアが後に黒江の理解者になったのは、早い内に『調と自分の戦った装者は別人では?』とする推測に至っていたからである。切歌は『思い込み』を強くしていき、ついには他人がいようと、お構いなしに刃を振るった。これは由々しき事態である。

「切歌のギア使用は当面は禁止だと、マムからも言われたわ。覚醒めたら伝えて」

「わかりました。貴方は?」

「調べたい事があるから、出かけて来るわ。Dr.。万一に備えて…」

「用意しておきます」

「ありがとう」

それから程なくして、マリアは『調べたい事』のために出かけていく。ウェル博士は事態が『イレギュラー』のおかげで面白くなったとほくそ笑み、ひとまずはマリアに手を貸す事にするのだった。





――今次調査において判明した事項は以上である。なお、調査の継続の必要性を認めるものとする――

S.O.N.G司令:風鳴弦十郎



これが、シンフォギア世界の騒乱が終わった後、シンフォギアA世界の国連に提出された、『S.O.N.G』のまとめた『一連の騒乱に関してのレポート』の最初の『まとめ』である。フロンティア事変当時の二課などの動きなどが記されており、黒江が『月読調』の役目を担わされた時期に遺した爪痕の大きさが推し量れる。レポートが一回で終わらないあたり、国連が何を求めているのかも推し量れる。シンフォギアA世界にもたらされた衝撃は絶大であったのだ……。




※あとがき 今回の話は今回の話は私がハーメルンに掲載中の『ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版』にて掲載中の『回想〜シンフォギア世界改変編』をシルフェニア向けに校正したものとなります。



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