外伝その5


この日、501統合戦闘航空団がスクランブルに入っていた。高速型ネウロイが複数出現したからだ。
姿はかつての米軍の高高度偵察機`SR-71 ブラックバード`に酷似していた。


「レーダーにネウロイ反応あり。スピードはマッハ3を超えてます!!偵察機からの撮映によれば、姿はSR-71 ブラックバードに酷似す!!」

「総員、戦闘配備!!ミーナ中佐と坂本少佐を呼び出せ!!」
「了解」

シナプスはミーナと美緒を呼び出し、対策を練る。作戦室では連邦軍の高官達が対応を協議している。

「高速型ネウロイが出現したと!?」
「そうだ。マッハ3の速度でこちらへ接近している。……迎撃は可能か?」
「可能です。ウィッチに不可能はありません」

坂本は自信満々に言うと、今回の任務に501の中で適任者の名を言う。

「シャーリー大尉に迎撃させます」
「彼女なら今回の任務に最適です。P−51を装備してますし、何よりも彼女は速いですから」

ミーナもシャーリーのP-51Dの速度を信頼し、シナプスに推薦する。

「イェーガー大尉にか。グラマラス・シャーリーと言われる彼女なら大丈夫だろう。こちらも念のためストライクZの護衛をつけておこう。ジュドー君に連絡はしてある」

ストライク・ゼータとは、Zガンダムの追加試作機に大気圏内用の各種オプションパーツを付けた状態を指す。アナハイム・エレクトロニクス社がZ系の運用法の提案替わりに此度の補給で支給したぜいたく品で、テストも予ての出撃だ。

既にジュドーはZで待機中だ。シャーリーも命令が伝達されるとすぐに後部第3エベレータに走り、P−51を纏う。

「ジュドー・アーシタ、ストライクZ行きます!!」

ストライクZがカタパルトから射出され出撃する。負け時とシャーリーもお決まりの台詞をかっこ良くいう。

「シャーロット・E・イェーガー、出る!!」

2人はかっこ良く出撃したが、シャーリーが出撃していった甲板に慌ててルッキーニが出てくる。

「シャーリー、まさかあのままで……!?」

青ざめた顔でそういう。実はこの日の前の日の夜にルッキーニはうっかりシャーリーのP−51を発進促進システムから倒して分解してしまったのである。慌ててガワは元に戻したが、工学的知識がないルッキーニに完全に組み立てられるはずはなく、部品が余ったりした。それに気づいたのはストライカーユニットの整備をしていた連邦軍側のメカニックだ。

「おいこれ……」
「た……大変だ!!急いで中佐に報告だ!!ルッキーニちゃん、どうしたんだ青ざめた顔して」

何かあったことを察知した整備兵はルッキーニをミーナのもとに連れていく。無論、この後、坂本とミーナが多いに慌てたのは言うまでもなく……


『ジュドー、応答しろ!」
『はい、こちらジュドー。どうしたの慌てた声で」
『実はルッキーニのやつが……」

坂本はルッキーニが起こしてしまった事件を話す。それでジュドーの取った結論は……

『いや、そのまま加速を続けさせろ!』
『どういうことだ!?このままではP-51が空中分解してしまう可能性だってあるんだぞ!!』
『どっちみちこの速度じゃ減速は間に合わない!だったらいっその事、加速させてドリルミサイルの要領で敵をぶち抜いたほうが安全だ!!』

ジュドーは隣で猛然と加速するシャーリーと敵の相対速度をZのOSで計算し、無理やり止めさせて敵の的にさせる位なら加速を続けさせてドリルミサイルの要領で吶喊させたほうがむしろ安全だと説く。

『分かった。後はお前に任せる』
『美緒っ!?』

ミーナの大いに狼狽する声が聞こえる。ミーナからすればこの決断は無謀そのものにしか思えないからだ。しかし坂本はジュドーを信頼しているからこそ、この決断を下したのだ。

『シャーリーさん、音速を超えたところで悪いんだけど、敵が近づいてる」
『なんだって!?』
『止まるのは無理だ。そのまま音速を超えて突っ込めば敵をぶち抜けるはずだよ』
『で、でも……ぶち抜けって言ったって、あたしはルッキーニみたいな多重シールドは……』
『能力の有無くらいなんだ!世の中根性と努力、気合でどうにかできる。俺はそういう奴らを何人も見てきた。シャーリーさん、見せてやろうぜ。奇跡ってやつを』


これは歴戦の勇士のジュドーだから言える言葉だった。努力と根性でエースパイロットに上り詰めたガンバスターのメインパイロット「タカヤ・ノリコ」、
瀬戸際まで追い詰められても根性と愛の心で断空光牙剣を発動させ、悪しき空間を断った獣戦機隊の「藤原忍」……。彼(彼女ら)を見てきて、自らもハマーン・カーンとの戦闘で奇跡を起こした。
それだから言える言葉だった。

『……分かった。もうこうなったら一意専心!!』
『そう来ないとね。それとこういう突撃の時ってお約束のセリフがあってね……』

ジュドーはシャーリーに獣戦機隊から伝わるお約束のセリフを伝授した。そのセリフはもちろん……。

『うぉぉぉぉぉぉッ!!やぁぁってやるぜ!!』

…である。シャーリーは音速を超えたスピードでネウロイに吶喊し、コアを体当たりで討ち砕く。無理をさせすぎたストライカーユニットは彼女の足から外れてしまうが、シャーリーはジュドーのZに無事回収された。この突撃は後に艦隊の連邦軍兵士達の間で「どう見たってV-M◯Xだろあれは」 とか、「いいやあれはTRANS-◯Mだろ!!」……と無駄に白熱の議論が展開されたとか。

「ジュドーから通信だ。シャーリーは無事だそうだ」
「そう……よかった……本当に……」

ミーナは大きく息を吐いて、シャーリーの無事に安堵する。しかしあんな無茶をするのは隊長としてはヒヤヒヤもの。
坂本の肝っ玉が羨ましいと心のなかでそう漏らすミーナであった(今回の原因を作ったルッキーニがどうなったのかについては言及は避けたい)







−現時点での地球連邦軍による`1944年`への援助報告−

−『ティターンズ残党軍』による行動を鑑みた、先方の科学力を向上させる手法は成功しつつある。
ジェットストライカーユニットの生産型の完成は1945年度には間に合う。まだ直線翼機の段階だが、
47年までには`F−86`、`MIG−15`相当の後退翼機への移行も可能となるだろう……。
−同盟国の扶桑皇国には既に超大和型戦艦の図案(22世紀には超大和型の3面図と正式な諸元案が発見されており、連邦軍では2210年以降の計画である、ヤマトの後継艦などに応用する予定)を提供しており、同国の主力制空戦闘機はA7M`烈風`及び、N1K2-J`紫電改`、キ84`疾風`へ早期移行しつつある。その他はリベリオンへ`F4F`の提供、ブリタリアへはスピットファイアMK−Y、カールスラントへBf109Kを提供予定である−




(2199年時点での地球連邦政府は21世紀以降の米国の政策的失敗による失策による混沌、統合戦争当時の敵対国家に対して悪感情を持っており、大統領直々の指令で扶桑・ブリタリア・カールスラントへは大戦後期以降の高性能戦闘機の完成機もしくは図面とエンジンを提供するが、ガリア・オラーシャにはそれより一世代前のものを提供するようにと通達が出されていた。これは未来世界の統合戦争当時に連邦政府樹立を急いだ日本と英国に敵対した国家への嫌味もこめられている)




−陸軍軍備については目下、M1ガーランド及びM1タービンを提供し、各地に機動科のMS師団、機甲科の61式戦車10型及びガンタンクUの機甲師団を派遣予定である。



(`61式戦車10型`とは、連邦地上軍がエゥーゴ系とティターンズ系に2分されている中、エゥーゴ系の地上軍が戦力の一環として、
もはや退役間近と言われる61式戦車の最終生産型をさらに大規模に改造して生まれ変わらせ、従来型の代替として正式採用し、
残存していた生産ラインを再稼働させて生産した車種。デラーズ紛争までに戦場の花形がモビルスーツを始めとする人型機動兵器へ移った弊害で、旧態依然とした兵器体系である戦車の開発予算が打ち切られた為の苦肉の策。
主砲もモビルスーツの重装甲に対抗するために更に強力な200ミリ滑腔砲を装備した)






 −また、ティターンズの行動により、ネウロイの進化が懸念されており、その為にも陸・空双方のストライカーユニットの近代化を急がせるべきであり、またアフリカ戦線のティターンズ航空部隊の面々は皆、平時ならアグレッサー部隊に配属されてしかるべき人材であり、我が方もそれと同等の人材の派遣をすべきである−


これらが書かれた報告書を読む藤堂平九郎軍令部総長の表情は険しかった。ティターンズ残党軍・アフリカ戦線を張っている航空部隊の強力な人材の布陣が勇猛果断な彼をして、頭を悩ませていたのだ。

「まさか`彼`がアフリカ戦線にいるとは……」

彼をして悩ませる要因となっているのは`クルセイダー1`の存在。彼はグリプス戦役でネモやリック・ディアスをセイバーフィッシュで`鴨狩`したという逸話を持つほどのエースパイロット。白色彗星帝国との決戦で戦闘機乗りのエースを多く失った正規軍にとっては喉から手が出るほど欲しい人材。地球至上主義にも染まらず、自分の行き方を貫いた稀有な軍人。

「彼に対抗出来るのはそうそう今の連邦軍内にいない。こうなっては連絡を取るべきなのはあいつだ」

藤堂は彼が知る限りで唯一手空きで、クルセイダー1と対等に戦える腕を持つ一人のパイロットに連絡すべく、電話に手を伸ばす。
その結果、使命を帯びた一人の男が派遣された。その名は「メネシス1」。彼は藤堂の秘蔵っ子の一人とも目され、かつてはクルセイダー1と同じ隊にいた経歴を持ち、
好敵手でもあった。年はクルセイダー1よりは若いとのこと。







 −連邦軍財政課は予算のやり繰りに追われていた。安全保障会議終了と同時に訪れた、前大統領の任期満了に伴う選挙で勝利した新大統領(前大統領の対立候補が当選した)が初議会でぶちまけた`マル5再建計画`が議会に承認される見通しとなった事で、余った前年度予算を使いきらなければならなくなったからだ。

『課長!!宇宙軍がジャベリンの配備予算を申請してきてます!!』
『課長!!空軍が航空基地設備の新調予算を申請してきておりますが……』
『課長!!海軍がアクア・ジムとザク・マリナーの後継機開発予算を申請してきてます!!』
『ええ〜い、3軍の担当者を待たせておけ。どれを優先するかアミダで決める』
『は、はい!!』

財務局兵器課の長である宇宙軍少将は、その禿上がった頭を撫でながら中間管理職の悲哀に男泣きしていた。そして3軍の予算でどれを最初に執行させるか、
担当者を呼んでアミダくじをやらせ、買ったほうを優先的に執行する事を決めた。連邦軍財政局の夜は更けていった。



−連邦軍本部に扶桑海軍の悲報が届いたのはそれからすぐであった。
















−1944年の盛夏。連合海軍の主力を占めると思われる扶桑皇国に対し、ある作戦を敢行した。
「連合艦隊の本拠である呉を空母機動部隊による大規模空襲と艦砲射撃を敢行し、連合艦隊を崩壊に追い込む」というもの。
「全てを無に帰せよ」という苛烈な指令もあり、呉を灰にする勢いで鹵獲戦艦「モンタナ」、「ミズーリ」などを中心とする水上艦隊がミノフスキー粒子により、隠密行動を取りながら大胆不敵に敵母港に侵攻。全てを灰にせんと艦砲が撃ちまくられた。

凄まじい勢いで打ち込まれる艦砲の40cm砲や未来兵器たる、F/A-18E/Fの波状空襲。扶桑側も機銃や高角砲、艦砲などで激しく抵抗したもの、大戦期の装備では未来兵器への効果は限定的であった。

「フハハ!閣下の指令だ!呉を薙ぎ払え!!すべてだ!!」

と、ノリノリで呉を砲撃しまくるモンタナの艦長(ティターンズ海軍から選抜された)。一般施設と軍施設の区別などどうでもいいとばかりに全てを薙ぎ払っていく。連合艦隊も激しく抵抗したもの、この時、呉にいたのは紀伊型戦艦(扶桑皇国が政治的判断で地球連邦軍に存在を秘匿していた。司令長官が存在をシナプスに告げなかったのは軍令部総長の命で口止めされていたからである。)2隻、金剛型戦艦2隻、雲龍型航空母艦3隻などであるが、紀伊型戦艦を除く、どれもが対艦ミサイルなどに被弾していた。

「くそ、くそ、くそ!!落ちろ!!」

戦艦「榛名」の九六式二十五粍高角機銃が凄まじい弾幕を張るもF/A-18E/Fには無力であり、逆にM60バルカンの掃射で薙ぎ払られる始末であった。
これで扶桑は機銃の威力不足を身を以て実感するに至る。最もこの時代の機銃の威力としては高い部位に入るが、
バルカンやファランクスなどの掃射にある程度は耐えられるように造られているF/A-18E/Fには効果が薄かった。


「VT信管もついてねえJAPのヘボ鉄屑なんぞダーツの標的だぜ!!ターゲットロック!!行けェ!」

F/A-18E/Fが翼に敢行する対艦ミサイルが一斉に発射される。破壊が目的ではなく、横転、あるいは着底させるのが目的である。
実際、史実の呉空襲では多くの艦艇が空襲によりそのような最期を迎えた。それを再現させようというのだ。ミサイルは榛名の左舷、それも弱装甲部分に集中して命中。弱装甲部分の破壊が見るも無残で、浸水が発生する。



「ダメです!!浸水が止まりません!!傾斜、30度……40度…!!」
「総員退艦!」


榛名は弱装甲部分をミサイルで破壊された事による大浸水を止められず、史実以上に悲壮な最期−横転、着底を迎えた。巡洋戦艦として造られた事が仇となった。
更に辛うじて出港した扶桑の新鋭戦艦たる、紀伊型戦艦「紀伊」はかつて、扶桑海事変でウィッチを犠牲とした作戦を実行した報いを受けるかのように、モンタナの餌食となった。





「敵戦艦接近。艦型は……長門型の模様」
「フム。長門型か……モンタナの獲物には丁度いい。長砲身40cm砲の標的だな。全砲門、ガンダリウム弾(ガンダリウム合金を徹甲弾に用いた特殊弾頭。タングステンやかつての劣化ウランをも超える貫通力と打撃力を持つ)を使用!!長門型を倒し、
ビックセブンなど過去の遺物だということを教えてやれ!!」

彼等、ティターンズは紀伊型戦艦を長門型戦艦と誤認した。
しょうが無いことであるが、彼等の常識では八八艦隊の艦船は空母となった艦船以外は造られていないからだ。それに紀伊型戦艦は長門型と同じレイアウトを持つので長門型と誤認されても仕方なかった。

「撃てぇぇ!!」

モンタナ級戦艦の12門の主砲が火を噴く。未来世界の特殊弾頭はその破壊力を紀伊型戦艦に発揮した。
最初の一発が紀伊の長門型同様の艦橋に命中。艦橋にいた要員の全てが戦死し、戦闘不能に陥る。第二射は紀伊の機関部に命中。速力(公称30ノットであるが、実際は重量の関係で29.75ノット)を半減させる。

「甚振れ!!嬲れ!!地獄を見せてやれ!!モンタナに刃向かう恐ろしさを教えてやれ!!」

「モンタナ」の艦長はじわじわと紀伊型戦艦を嬲り殺す事にある種の快感を覚えているようだ。
彼は子供の頃にかつての米戦艦に憧れを抱いたアメリカ系の人物。「モンタナさえあればヤマトに勝てた」との持論も持つ。そのため
奪取後のモンタナの艦長に抜擢され、戦果を上げている。

「敵艦、発砲!!」
「ふん。ヤマトの砲撃にも耐えられるこのモンタナに20年代の水準で造られた長門型の攻撃など効くものかよ」

それはモンタナの防御力への自信の表れ。大和型戦艦とほぼ対等の防御力を誇るモンタナの前には長門型の41p砲など効かない(実際は紀伊型戦艦なので、門数が多いので攻撃力は長門型より良い。そして、建造年次が遅かったこの世界での紀伊型戦艦は史実の一三号型巡洋戦艦の要素が含まれているので、当初は46p砲艦として計画された)
ということを骨身に染みさせるのだ。


ガキィィィンと主砲の天蓋が砲弾を弾き返す音が響く。敵の砲弾はモンタナの重装甲を貫けないようである。

「いいぞ……だがお遊びはここまでよ、JAPのイエローモンキーめが」

高笑いしながら紀伊をなぶるモンタナの艦長。未来世界の装備が施されたモンタナにとって、扶桑戦艦では大和型戦艦に次ぐ、
次席の戦闘力を持つ紀伊型戦艦も敵ではなかったのだ。そして……紀伊の運命を決する一発が放たれた。




−大音響と共に紀伊の船体がまっ二つに割れ、沈没していく。原因は副砲塔に40cm砲弾が連続して命中、一撃で砲塔を破壊され、そこに運悪く別の砲弾が更に飛び込み、
弾薬庫付近で大破壊を起こし、その誘爆が41cm砲弾の弾薬庫にまで達したのが原因であった。

「艦長、紀伊が!!」
「おのれ!!せめてアイオワ級に痛打を与え、紀伊の将兵の魂を慰めん!!」


紀伊の僚艦「尾張」はアイオワ級3番艦「ミズーリ」と戦闘を行なっていた。ミズーリは長砲身40cm砲で攻め立てるが、
尾張は紀伊と異なり、武装が同級3番艦「駿河」以降の同型艦同様に新型の50口径41cm砲へ強化されており、また新任艦長へ代替わりしたばかりの紀伊と異なり、艤装委員長時代から着任し、
艦を熟知する熟練の艦長である「朝倉豊次」大佐が操艦している事もあり、ミズーリと対等の戦いを見せていた。


「だんちゃーく、今!!」

尾張の砲撃手らは50口径41cm砲の威力を確かめるべく、観測の報告を待つ。

「夾叉……いえ、命中!!敵噴進弾の砲台に命中した模様!」
「おっしゃあ!!」

尾張の放った41cm砲弾はミズーリのハープーンミサイルの発射台(未来世界の情報は伝わっているので、それがミサイルの発射機であることは理解していた)を吹き飛ばし、火災を起こさせる。熟練の技がテクノロジーを上回った瞬間であった。

「全砲、目標、アイオワ級!紀伊の仇を討つ!!てぇぇぇ!!」

尾張の41cm砲が全門斉射され、アイオワ級3番艦「ミズーリ」に命中する。だが,米軍から受け継がれしダメージコントロール術はミズーリを生きながらせた。傾斜を立て直し、全速で離脱していく。

「艦長、追いますか」
「いや、敵は33ノット以上のはず。本艦では追いつけんよ。それに敵旗艦の戦闘力は見ただろう?本艦では敵に勝てん。一矢報いただけでも上出来だ」


朝倉大佐は深追いしようとする部下を諌め、港に引き返すように指令を発する。モンタナも紀伊を屠った事を最上の戦果としたようで、引き返していく。



−上空のF/A-18E/Fは救援に駆けつけた地球連邦軍のF−14やコスモタイガーUに任せるとして……。

朝倉大佐は紀伊の将兵の冥福を祈ると同時に呉軍港の惨状に涙を流した。











−上空では救援に駆けつけた地球連邦軍とティターンズの激しい空戦が繰り広げられていた。地球連邦軍と共に迎撃に加わったウィッチの中には扶桑最強を謳われ、虎徹の異名を誇る「若本徹子」中尉の姿があった……。


「クソッタレぇ!!俺が間に合ってれば……あんな`蜂`野郎どもなんて……!!それになんでリベリオンの戦艦が俺達を!?」

徹子は伝えられた情報の「F/A-18E/F」を蜂と罵る。徹子には坂本からの手紙や電話である程度未来世界の情報は伝えられており、山本五十六海軍大臣が皇女殿下の名大として発した指令により急遽扶桑へ帰還しており、今回の事態に遭遇したのだ。(
ちなみに彼女のこの時点での配属先は雲龍型航空母艦3番艦「葛城」である)

そのため故郷の扶桑が焼かれていく光景、しかも同じ人の手で焼かれるのに我慢出来なかったのだ。そして呉を業火で焼き払っているのはリベリオン軍が新鋭といって誇る
アイオワ級と、もう一隻の「大和型にも匹敵する大戦艦」がリベリオンの国旗と軍旗を掲げている事への戸惑いを見せた。

「嘘だろおい……あれが実在するなんて」
「あ、あれってなんだよ!?知ってんのか!?」
「ああ。アイオワを更に拡大強化した幻の戦艦『モンタナ』。まさか実物を拝めるなんて……」
「モンタナ……!?」
「大和型と対等に渡り合える唯一の大戦艦といえば分かるか」
「大和とサシでやり合えるだと……!?それじゃ紀伊は……っ!」
「やられただろうな」
「ちくしょぉぉっ!!」

「熱くなるな中尉。ジェット時代の空戦は君の思っているものとは違う。甘く見たら刺されるぞ」
「……了解……!」

コスモタイガーUとF−14の混成飛行隊を率いる隊長からの通信にこう答える。だが、徹子の心の内は怒りに燃えていた。
今回のティターンズによる争乱で`扶桑海`時代の戦友たちも少なからず`靖国`に逝ってしまった。そして、かけがえの無い親友である坂本美緒や竹井醇子にまで逝かれたくはない、逝かせない。その決意が徹子を燃え上がらせていた。徹子は
兼ねてから試作中のジェットストライカー「橘花」を使っている。





−その他のウィッチで、エースクラスでは、陸軍の加藤武子も若返って間もない体ではあるが、参加していた。こちらは陸軍最新鋭の火龍を試験的につけていた。

(実戦は久しぶりね……ジェットストライカー……か。確かに綾香が惚れ込む理由もわかるわね。)

「……智子……あなたはいまどこで、何をしてるの……?」

ジェットストライカーはレシプロを遥かに超える出力を誇る。武子は黒江がそのスピード、パワーに惚れ込んだ事への共感を覚えると同時に、未来世界で戦っている親友の穴拭智子への思いを吐露する。既にあがりを迎えたはずの自分たちが戦わなくてはならないという事実への悔しさと、「親友がそばにいれば、今回の争乱で心のどこかに芽生えた怖さなど一発で散らせるのに」との気持ちが彼女の表情を曇らせていた。


−離れていて分かった「友」の大切さとそれを失いたくないという気持ち。私は……智子と……あの時のみんなで……また飛びたい……互いに背中を任せて戦いたい……。



離れ離れになって、互いに指揮官として名声を得るに至った武子と智子。戦友たちに遅れる形で「若返り」を選んだ理由はただ一つ。
あがりを迎え、不可能になったと思われた「あの時のように(飛行第1戦隊時代)、あの時のみんなでまた空を飛びたい、同じ空を戦いたい」という、少女としての純粋な願いであった。









「……比叡……雲龍……天城……みんな燃えてる……燃えてやがる……くそぉぉ!」

連合艦隊の主力を担い、海軍の誉であったはずの戦艦も、空母も、野別幕なしに炎上している。
なんとか無事であった葛城から発進した徹子であったが、呉の惨状は目も当てられぬほどに酷く、正にこの世の地獄そのもの。
そして今また、F/A-18E/Fが一機、攻撃ポジションをとり、炎上する天城(二代。雲龍型航空母艦)に追い討ちをかけようとしている。天城からは対空砲火は上がらない。要員が戦死してしまったのか、
火災と爆発で発射不能となったのか。

「めろ……っ、やめろぉぉぉぉっ!!」

徹子は無意識の内に叫んでいた。橘花の「ネ130」魔導ジェットエンジンを限界まで吹かし、F/A-18E/Fを追いかける。

そのF/A-18E/Fはウィッチがジェットを纏うようになった事へ多少の驚きはあったもの、なおも余裕であった。それはいくらF/A-18E/Fがジェット機の中では加速性能が悪いといっても、エンジンはターボファンエンジンなので、第一世代のターボジェットエンジンよりは圧倒的に加速性能は勝る。その点が橘花を以てしても追いつけない理由であった。

「なんて追いつけねえんだよっ……限度一杯なんだぞ!?」

橘花はネ130ジェットを搭載し、時速800キロの壁を突破しているが、F/A-18E/Fはそれを遥かに超えるマッハ1.6を発揮する。
しかもエンジンの加速性能が段違いに違うのが(第4世代ジェット戦闘機としては遅いが)なおもティターンズが優位性を保持している。

「落ち着け!追いつこうと思うな、機銃で一撃必殺を心がけろ!」
「わかってます!わかっちゃいるけど、戦闘脚のパワーが違いすぎて感覚が……!」

彼女かしらぬ焦りを感じ取ったコスモタイガーUのパイロットは無線越しに徹子を落ち着かせる。機銃で狙い撃つのにも見通し射撃の感覚が掴めないのだ。レシプロが1動くものなら、ジェット機は機種にもよるが、3か4は動く。ジェット機相手に通用すると思われる五式三十ミリ機銃は反動も二十ミリとは桁違いであるのも相まって、徹子は苦戦していた。

「落ち着け、相手の動きを読め……そうだ。あとは修正しりゃかってに当たってくれるはずだ」
「……ありがとさん!!」

コスモタイガーUのパイロットは無線で徹子に機銃を撃つ最適なタイミングを教えてやる。
これはしょうが無い事だが、扶桑で用いられる機銃の照準器は旧来の物の延長線上である。戦後世代のジェット機のようにジャイロ式照準器は装備もされてなければ扶桑ではまだ試作も行われていない。辛うじて新鋭機に光像式が装備されている程度。ウィッチ用の武装ではテレスコピックサイトが空気抵抗増大を承知で取り付けられている。だが、ジェット時代となると旧態化は否めない。未来世界に行っているウィッチ達の中には試験的に未来世界最新鋭のホロサイトやダットサイトが備え付けられた改造機銃が支給されている者もいるが、徹子達の航空隊はストライカーの支給が優先された結果、新機銃こそ用意はされたもの、旧態化した照準器の装備のままであるので照準はカンが頼り。無論、装備が全てではなく、シャーリーやエーリカなどのエースはスピード型相手にも戦果をあげているが、ネウロイと異なり、人間が動かす兵器相手には突発的な動きも行われるため、旧態化した照準器では当てるのは困難である。そのためコスモタイガーのパイロットは機銃をどうやってジェット機に当てればいいのかを即興でレクチャーしたのだ。徹子はパイロットに感謝しつつ五式三十ミリ機銃を撃つ。九九式二十ミリ以上に重く、鈍い音と強い反動を感じるが、威力は桁違い。ウィッチの魔力による強化もあり、F/A-18E(単座型)の装甲を穿っていく。

「何っ!?この威力は……20ミリじゃねぇ!」

パイロットは慌てて離脱を試みるが、操縦系が応答しない。どうやら電子系統や操縦系が今の一撃でやられたらしい。ヘッドアップディスプレイの表示が消える。

「ちっ!!」

彼は射出座席のレバーを引き、脱出する。空にパラシュートの仇花が咲く。彼はこの空戦初の非撃墜者となった訳であるが、徹子はこれでジェット機との空戦に自信を持ち、積極的に戦いを挑む。だが、彼女の前に強敵が現れる。艦載機部隊の戦闘機の大半がF/A-18シリーズなのに対し、一際異彩を放つ編隊がいた。

「なんだあの変な翼を持ってる奴は……動きがいいぞ……!」

徹子はその動きに思わず目を奪われる。コスモタイガーさえ叩き落すその手腕は遠くから見てても鮮やかであると唸らせるほどに美しい機動を取る。黒い機体はコールサインにも現れており、「Noir(ノアール)」である。

それはフランスのラファールM型を使うフランス軍系の部隊。その飛行隊はフランス空軍戦闘機空軍旅団の伝統を受け継ぎし部隊の一つ。ティターンズ設立時に存在していた地球連邦空軍の部隊の中では少数派のフランス派閥に属していたがため、フランス人であったジャミトフ・ハイマンの指名によりティターンズに引きぬかれた経緯を持つ。

「こちら`ノアール1`。動きがいいウィッチがいるぞ。次の標的はあいつだ。各機、いいな」
「OK、隊長」
「よし、全機`魔女狩り`だ」


ラファールMが5機、進路をまっすぐ若本徹子に向けて突撃してくる。マルチロール機である「F/A-18」とは段違いの速さを以て、「疾風」の名に恥じぬ動きで、徹子に急迫した。

「なんだこいつら……黒いぞ!?」

一瞬、ネウロイと思ったが、有人戦闘機である事を示すキャノピーが視認できたので戦闘機であるのは理解できた。黒の機体色と固有の黒獅子のマークはエース部隊である事を嫌でも教えてくれる。

「撃墜王のお出ましってわけか……!」
「気をつけろ!!そいつはそんじょそこらの`ライノ`なんかとは桁違いだ!!」

コスモタイガーなどを束ねる編隊長が通信でそう警告する。徹子はその通信に思わず冷や汗をたらしたという。



「あの黒いラファール……あの部隊マークは……、嘘だろオイ……!」
「あの部隊だ……噂には聞いていたが、ここに来てたのかよ」
「マジかよ……あ〜あ〜死んだわ、俺死んだ!!」

コスモタイガー隊の面々はその黒いラファールに驚愕し、口々にその部隊への畏怖を言い合う。その部隊はかつて、連邦空軍で10指に入る精鋭部隊であり、行方不明となったことで軍内で伝説となっていた欧州空軍の雄であったからだ。連邦軍は軍縮を戦間期に行うことが多く、空軍で一年戦争から存続している部隊はむしろ少数派である。もちろん、シナプス配下の艦隊の航空隊には山本明などの超精鋭などに代表されるように、現在の軍内でも練度の高い搭乗員が選抜されて送られてきているが、そんな彼等をも畏怖させるほどにそのラファールを駆る部隊は武勇を誇っていたのだ。

加藤武子はそんな連邦軍搭乗員達の通信を聞き、急ぎ徹子に加勢せんとフルスロットルで突撃を敢行し、立ち塞がるF/A-18Eを切り裂いていく。



-ジェットエンジンの轟音が当たりに響く。加藤武子は火龍と共に修羅と化し、その剣を振るって`ライノ`を退けていく。

「……っ!!邪魔をするなぁぁぁッ!」

武子は闘志を燃やしていた。故郷の国の街を、人を、動物を区別なく焼き払い、災厄に陥れた彼等を彼女は人一倍許せなかった。
そして呉には将来の配属のために航空母艦で訓練を受けていた新米ウィッチも多く配属されていた
「空を飛ぶ事を夢見ていた少女達が、その夢を果たせぬまま、下手をすれば死すら理解できぬままに冥府に送られた」。
それは武子にとって、卒倒するほどに慟哭する悲報であった。飛行教官となった自分に憧れて指揮下の部隊配属を望んでいた者も訓練のために、
多く搭乗していた練習空母「鳳翔」。その鳳翔は彼女の眼下で無残にも崩れ落ちろうとしている。

-私の責任じゃないのはわかっている。助けてあげられなかった。あの子達を……教え子も守れないで……何が扶桑海三羽烏よ!!陸軍精鋭よ!!

出撃直前、武子はそう叫んだ。教え子を大勢失ってしまったこと、自分が間に合わなかった事への自責の念が溢れでた瞬間である。だが、武子を勇気づけてくれた者がいた。
陸軍長老の「寺内寿一」元帥であった。彼はウィッチへの無理解者が多い軍部の中では珍しく、活用すべしと公言する男であり、史実ではゴーストップ事件やインパール作戦の黙認、芸者との豪遊を理由に、無能とも評される男ではあったが、この世界ではそれらの側面とは逆の、彼個人のいい側面のほうが多く出ており、扶桑海事変当時、ウィッチ独自の作戦立案を相手にせずにせせら笑う高官が多い中で、ウィッチ達を擁護する立場にたった数少ない高官の一人である。
その時の縁でめぐり合ったのだ。彼は武子を叱咤激励し、送り出してくれた。


-そして彼女はここにいる。

「もう……許さないわよ……あなた達」

加藤武子は……今やどこぞの誰がの言葉を借りるなら『阿修羅すら凌駕する存在』となり、`ライノ`に立ち向かった。

−「隼」。そう呼ばれた彼女は教え子を眼前で失ったことへの怒髪天を突かんばかりの怒りの炎に導かれるように、吶喊した。だが、その表情は怒りに燃えているようにも見えるが、
なおかつ悲しみさえ感じさせるものであった。怒りの表情に瞳に一筋の涙を浮かべるその姿は武子の怒り、そして悲しみを象徴していた。


















−シャーリーの一件の翌日  




−扶桑海軍 第一機動艦隊旗艦「大鳳」 


「……うむ。そうか」

ブリタリアに馳せ参じた連合艦隊の主力部隊の内の空母機動部隊「第一機動艦隊」に本土より一つの連絡が入る。それは未来よりさらなる増援が派遣され、補給物資が運ばれてくるという報である。司令部はこの報に歓喜。その補給物資の内容に艦隊司令長官「小沢治三郎」中将は久しぶりの明るい報に嬉しそうな声を出す。その補給物資と試作型ジェットストライカーや次世代型レシプロストライカーユニットであった。



「そういえば501はどうしているか?」
「ハッ、シャーロット大尉がZガンダムと共に高速型ネウロイを迎撃に出て、撃退した模様」
「ふむ。彼女たちなら心配は無用だったな」

小沢は参謀長の古村啓蔵少将の報告に頷く。この時、古村には「鬼瓦」とあだ名をとった小沢の顔が微笑んでいるように見えた。


この状況下でも、ブリタリアに補給物資を運んで行くのは連邦軍の主力輸送機「ミデア」の編隊。護衛はリベリオンに駐留し始めた連邦海軍所属の可変翼を有する`F−14Dスーパートムキャット`。そのトムキャットのエンブレムは星を象ったもの。そのパイロットは連邦海軍きってのエースとして名を馳せる男。彼のTACネームはギリシア神話に登場する女神`ネメシス`。ティターンズ・アフリカ戦線のエース`クルセイダー1`に対抗するために派遣された人材。


「ネメシス1、もうすぐイギリスです」
「そうか。ご苦労」

彼が守るミデアにはストライカーユニットの新型や試作機が積まれている。扶桑製ジェットストライカーはテストパイロット付きだ。そのテストパイロットは扶桑で`軍神`と謳われたかつてのエース。
そして坂本美緒や竹井醇子が師と仰いだ、大人物。その名は`北郷章香(きたごうふみか)`。その容貌は坂本美緒に影響を与えただけあって、ほぼ同じ。


そのミデアの機内では。

「さて……坂本の奴は元気にしてるかな?」

彼女はこの時期には20代終盤に差し掛かっている筈だが、若返りによりその最盛期である15歳ほどの肉体年齢となっていた。しかし若返っても彼女特有の妖艶さはいささかも失われない。むしろ若返ったことで増したというべきか。階級は復帰に伴い大佐へ進級している。


「あいつとも久しぶりだな。ええと……7年ぶりか。山本閣下も粋な事を……」

そう。彼女が派遣されたのは海軍大臣の山本五十六大将のの計らいである。
この時、ブリタリアにいる宮藤芳佳は思いもしなかった。まさか坂本美緒の更に師と会うことになるとは……。













―航空機はバルキリーなどが配備されている連邦だが、人型兵器の花形であるモビルスーツの高性能化も目覚しい。そんな世界の援助のもと、ストライカーユニットの近代化も進んでいた。


「本当スタイリッシュだよねぇ、このバルキリーとかジェガン」

エーリカ・ハルトマンである。彼女はここの所はのんべんだらりな生活を送っていたが、実はシャーリーに並んで、いち早く未来世界の文化に馴染んだ人間である。そして、名に恥じず、史実でのエーリッヒ・ハルトマン同様の戦果を挙げているエースである。格納庫に鎮座しているジェガンR型(ジェガンは未だ現役であった。繋ぎのヘビーガンを経て、後継となるはずだったジェムズガンが宇宙空間での評判が思わしくなかったために退役したため、宇宙用であったジャベリンが正式にジェガンの正統後継機の座を掴んだ。しかしジェガンの配備数は連邦軍歴代の汎用量産機ではジムやジムUをも遥かに凌ぎ、歴代主力機中第一位を記録しており、ジャベリンの配備で全てを代換するのは到底不可能な事だった。ジェガンはそのあまりの多さ故に延命策が施され、後継機のはずのヘビーガンとジェムズガンが消えていく中でも生き残った)を仰ぎ見る。薄い緑色の機体はスタイリッシュさに溢れている。
造形美とはこの事だ。単なる陸戦兵器でないのはこれまでの訓練で見てきている。
航空兵器は純粋なジェット戦闘機の他に母国語で言うところの`Valkyrie(ワルキューレ)`の愛称で呼ばれる3段変形できる凄い戦闘機が配備されているから、制空権の確保はこれらに任せているのだろう。これはかつての同僚のハンナ・ユスティーナ・マルセイユがいるアフリカ戦線に行った部隊が用いて戦果を挙げているとか、扶桑や母国のエース達の一部はこの兵器の操縦訓練を志願しているとの噂も耳にしている。

「`バルキリー`か……戦乙女って愛称って誰が考えたのかなぁ」

赤城などに配備されているのは任務の必要性からAVF及びVF−17が殆どを占め、普及量産機であるVF−11はむしろ少数である。当初はVF−171が多数の予定であったが、フロンティア船団での散々たる結果を鑑みて、この艦隊には偵察機仕様が配備されるにとどまっている。たまたまこの日は非番であったため、自由行動をしているが、これらを見てると機械の翼も進歩し続けると凄い事になるということを教えられる。今日は扶桑から補給物資が送られてくると聞いているが……。轟音が響いてくる。物資輸送のための輸送機が着陸するのだろうか。この時代のどの空母より大きいとはいえ、輸送機が着陸出来るのだろうか。それとも瓦礫が撤去された基地の滑走路を使うのだろうか。


轟音が響き、ミデア輸送機が垂直着陸を行う。着陸と同時に基地に各種物資が下ろされる。空母へ運ばれていく物資の中には新型のストライカーユニットがある。扶桑とリベリオンの物だ。そしてそれを届けた人員の中には驚くべき人物がいた。

「久しぶりだな、坂本」
「`先生`……、その姿は……?それに……」
「`若返った`のさ。軍のウィッチ不足は私のような`老兵`も復帰させないといけなくなったらしくてな……」

彼女の名は北郷章香。坂本美緒や竹井醇子の世代の師であり、黎明期に於けるエースとして名を馳せた人物である。扶桑海事変へ参戦した世代では最も高齢であった世代なのでブランクも長く、扶桑では最も再訓練を受けた期間が長い。(これは現役時代の機体と最新鋭機とでは性能差が大きいため)因みに容貌は坂本美緒とほぼ同じだが、常に海軍士官服の前を開いたままであるのが最大の特徴だ。

「でも先生、どうしてここに?」

坂本美緒は北郷章香を先生と呼ぶが、これは師範代として候補生時代の美緒達を導いてくれたためであり、その点で彼女は坂本美緒の人生を決定づけた人物と言える。

「ああ、山本閣下の計らいで新型を501に回すように言われてな。菅野の奴も使ってる`N1K1-Jb`「紫電」(史実のそれとは違って元から制空戦闘用として造られたので、航続距離は史実の紫電改よりも長く、零戦二一型並である)、と橘花だ」
「先生は菅野と面識が?」
「前に松山に行った時にあってな」

松山には精鋭の評がある第343海軍航空隊の基地がある。菅野直枝は史実では書類上でしか所属していないが、この時空では正式に所属し、欧州からの送還後の一時期に`新撰組`隊長及び`維新組`隊長を歴任している。その時に北郷は菅野と会っていたのだ。

「お久しぶりです、北郷さん」
「ああ。何ヶ月かぶりだな、菅野」

菅野がやってきて、北郷に敬礼をする。菅野は此頃には501にも馴染んでいて、宮藤を半分`舎弟`扱いにしているとか。(無論、同時にリーネとも仲良くなっている)

「紫電か……私は嫌いです」
「どうしてだ?坂本」
「あんな山西(史実での川西に当たる)などという二流メーカーのでっち上げは……私は零式の五四型とかの改良型、もしくは烈風が欲しかったです」
「零式に拘るのは分かるが……受け入れるんだ。この先、零式じゃ立ちゆかん。」
「しかし!!」

まるで子供が駄々をこねるように零式艦上戦闘脚に拘る美緒。それをなだめる北郷。これは史実でも紫電改を嫌い、零式にこだわり続けた彼女の並行時空での姿`坂井三郎`中尉とかぶっていた。
しかし時代の流れに零式は置いてけぼりにされつつある。これを受け入れなければならない。北郷は「こりゃ受け入れさせるのに時間がかかるな」と溜め息を付き、あっさりと紫電を受け入れた竹井醇子との落差は大きい。
だが、師の一声というのは効果抜群で、坂本は渋々ながらもテスト飛行を行なうことにした。










坂本が渋々ながらもテスト飛行で発進した後、北郷とミーナ達は雑談に入っていた。

「何?未来世界でウィッチが戦ってる?」

基地に伝わった話にバルクホルンは驚きを見せる。それは基地を訪れた坂本美緒の師「北郷章香」が伝えたもので、連邦軍の援助と引換の見返りにウィッチを未来世界に送り込むという内容。扶桑がいの一番に乗り出し、既に相当数のウィッチを送り込んでいるという。
派遣が取り決められたのは連合軍の政治的理由によるものだが、各国もそれに追従し、今では各国合わせて既に千人程度は送り込まれたとの情報もある。

「ええ。上と地球連邦軍の政治的取り決めらしいわ。既に千人程度が向こうに送り込まれて戦ってるらしいの」
「しかし何故そんな事……」
「大尉、簡単な事だ。こちら側のメンツを立たせるために政治家達が持ちかけたのさ。連邦軍が介入してこの方、向こうさんに助けられてばかりだから軍のお偉方のメンツはあったもんじゃない。だからなのさ」

北郷章香はバルクホルンに連邦軍と連合軍の間で政治的駆け引きが行われていることを説明する。連邦軍はティターンズ残党の掃討という軍務に加え、調査任務も負っている事から、連合軍の協力が欠かせないし、連合軍はティターンズに対抗するためには連邦軍の援助がなければ戦線の維持も覚束無い。単純な善意では無く、共同戦線は上にとっては双方の思惑の一致の産物であると。

「政治屋どもめ……!」

バルクホルンは政治屋達の駆け引きの材料としてウィッチが利用されたことに憤りを隠さない。ノイエカールスラントでも国王のフリードリヒW世の下位にいる政治屋達は国王を利用して国政のイニシアチブを握らんと策を練っている。いつの時代でも腐敗した政治屋や官僚は必ずいるものだが、こんな火急存亡の時まで何をやっているのだと、怒りが込み上げてくる。
「いつでもそういうのはいるものですよ」

部屋にシーブック・アノーが入ってきた。彼は歴代ガンダムパイロットの中では比較的落ち着いた性格であり、この艦隊でのツートップエース。その腕はミーナやハルトマンなどからも一目置かれるほどである

「シーブック君」

ミーナ達に一礼するとシーブックは話を続ける。

「まあ官僚主義的な輩はそういうもんです。政治家に極稀に優秀な奴がポツンと現れても`異端`扱いされ、排除される。だからそんな官僚や政治に絶望してテロを起こす輩が絶えないし、決起を起こす勢力もまたしかり」

シーブックは2190年代末で改善傾向はあるもの、民衆の間で問題となっている連邦政府機構の腐敗と疲弊、テロや決起について説明する。それは多くの勢力がたどる道。たとえ白色彗星帝国だろうがガミラス帝国であろうが同じことだ。

「地球連邦は銀河の移民星や船団、スペースコロニー、月面都市を地球から支配していますからね。政府の中にはこれを良しとせずに地方分権を推し進める改革派と中央集権を至上とする守旧派が対立して抗争が起きてますし、僕達を派遣した軍の諸提督達は前者の改革派閥に属してますから政府の官僚主義的な輩からは`異端`扱いされてます。この状況は`そんなだから一年戦争やネオ・ジオンの決起、ザンスカール戦争は連邦政府の身から出た錆みたいなもの`とスベースノイドは揶揄してます」
「それはいつの時代でも変わらんのか……因果応報か」

バルクホルンはシーブックの言う連邦政府の腐敗ぶりに溜息をつく。ミーナや北郷章香も同じようにうなづく。それは放っておけば連合軍を構成する各国がたどる末路になってしまうという危惧から来るもの。ミーナ達は改めて`余程優秀な御仁以外は政治屋を信用しない`と心に決めた。

「そういえば少佐はどうした?姿が見えんが」
「ああ、坂本ならさっき紫電のテスト飛行をすると言って発進した」
「例の扶桑の零式に変わる次世代型の?」
「そうだ。あれは零式とは別の思想で作られた奴だからアイツの得意とする巴戦は余り重視されていない。アイツにしてみれば`乗りにくい`ストライカーユニットだろう」

北郷章香は`紫電`をこう評した。現に紫電の形はリベリオン合衆国のF4F`ワイルドキャット`に酷似している。坂本美緒が開口一番に難色を示したのはその零式とは違うぶっ格好な形状と零式ほど旋回性能が期待できないからであり、坂本美緒の性格をミーナよりも把握している彼女は絶対に紫電を嫌うことは想定の範囲内であった。


この後、すぐに行われたテスト飛行では紫電に思い切りブーたれていた。特に旋回性能で零式に及ばない(それでも空戦フラップで他国のものよりは格段に小回りは効くが)事に腹を立てていた。

「ええい旋回半径がデカイ!!これだから山西なんぞに陸上ストライカーユニットを作らせるべきではないのにな……ああ、黒江とかが使ってる疾風が欲しい〜!!」

編隊空戦への理解がある醇子と違い、編隊の必要性は理解しているもの、あくまで巴戦を至上とする美緒にとって、零式より旋回性能が劣るというのは許せるものでは無かった。戦友達が次々に零式から紫電に機種変更を行っていく事は知っているが、彼女は正式後継の`烈風`までの繋ぎに、旋回性能と速度が両立された陸軍最新鋭の`疾風`を羨望している。
その想いが垣間見える。(西沢や菅野からもそれを心配されている)しかし、ジェット戦闘機の出現に伴って、巴戦の時代は急速に終息を迎えつつある。
それをなかなか受け入れられない彼女はある意味では`時代の流れに抗しようとしたサムライ`なのかも知れなかった。


















−地球連邦軍空母「赤城」




「ジャミトフの子飼いか……あ奴もとんだ置土産を残したものだ」

エイパー・シナプスは本国の部署「プリペンダー」から送られてきた報告書に顔を曇らせた。
ティターンズ残党を束ねるのが、かつてティターンズの中でもハプテマス・シロッコに次ぐカリスマ性を持つとさえ謳われ、彼がいればシロッコ死後のティターンズの瓦解は防げたと言われるほどの将校である事が判明したからだ。


ティターンズ残党を束ねている存在は誰であるのか。地球連邦の国防部署の一つ「プリペンダー」の調査により明らかになった。
1944年の各地域のティターンズ残党を束ねる首魁の存在が。かつてのジャミトフ・ハイマン子飼いの将校で、素養を見出され、ジャミトフに心酔している男。名はファーストネームだけ判明している。「アレクセイ」。家柄は大昔のロシア帝国皇室の伴流の名家出身で、ロマノフ王室とは先祖のどこかが関係していたというほどに遠い家柄だったのが幸いし、ロシア革命の惨禍から生き延び、亡命した家系。その後は可もなく不可もない歴史を辿ったが、彼の祖父の代に家がアナハイム・エレクトロニクス社と関係を持ったことで再興。彼の父の代には、旧・ワルシャワ条約機構系の地域ではかなりの影響力を持つに至った。彼は嫡男ではなかったのが幸いし、軍へ入隊。ティターンズが設立された際にはその家柄と彼の才覚に目をつけており、一年戦争時に彼の上官であったジャミトフ・ハイマンの目に止まり、ティターンズに抜擢された。その後はティターンズ地球方面軍の中東〜ロシア・中国方面軍を束ねるまでに立身出世。
彼が指揮下の方面軍ごと転移しているのなら、各地方に大規模に攻撃をかけられる理由にも説明がつく。

「彼は名指揮官として有名で、陸軍の奴らの間では将来を嘱望されていたな……タカ派であったのが残念なくらいに……」

シナプスはアレクセイの才覚をそう評した。彼はジャミトフ・ハイマンに魅入られ、バスク・オムなどのせいでティターンズが腐敗していく様を我慢ならなかったといい、彼は度々バスク・オムとその腰巾着らの排除をジャミトフに進言していたというほど、ティターンズの掲げた理想に燃えていたという。なのでティターンズが亡くなって、自分の故郷から消え、この世界に来てもなお地球人類をジャミトフの理想通りにティターンズの管理下に収めるつもりなのだろうか。

「コスモタイガー隊は呉についたか?」
「ハッ。只今空戦を繰り広げております。またこの戦闘で扶桑海軍の母港の呉は建造中の艦船こそ無事ですが、港湾施設や停泊艦艇にかなりの被害が生じた模様。只今扶桑政府に問い合わせ中です」
「ティターンズめ……やりおったな」
「それと重大な報告が。ティターンズはGP02をリバースエンジニアリングで復元を行なっており、複数機が建造中であるとの時空管理局の執務官から」
「ガンダム試作2号機だと……奴らめ……かつての核の悲劇をこの世界で繰り返すつもりか!?」

ガンダム試作2号機は核弾頭運用能力を有していた。それを以てしてこの世界の大国の主要都市を焼き払うつもりなのか。シナプスは背中に悪寒が走ったのを感じた。

「坂本少佐とミーナ中佐を呼びたまえ。この惨状を伝えなくてはならん」

呉への攻撃は扶桑皇国の海軍力に多大な損害を与え、連合艦隊はその威容を失った。だが、最新鋭艦たる大和型戦艦や大鳳型航空母艦は未だ健在である事が幸いし、国際社会での発言力低下は避けられた。同時に保守派や艦隊至上主義派などの人員は皇室の後ろ盾を得た米内光政大将、山本五十六大将を中心とする改革派によって粛清(報復人事含め)され、軍組織も改編され、海軍総隊が設立された。連合艦隊などの全ての残存艦隊は海軍総司令官の指揮下に置かれる事になった。同時に海軍総司令官は連合艦隊司令長官を兼任する事になり、豊田副武大将がそのまま横滑りで就任した。

「なんですって!!呉が攻撃された!?」

坂本は紫電のテスト飛行直後の呼び出しで伝えられた凶報に愕然とし、「ガクリ」とへたり込んでしまう。連合艦隊の母港の呉が壊滅的損害を被った事は扶桑皇国海軍にとってどれほど最悪なのか。海軍軍人たるものそういう事は認識している。

「そうだ。停泊艦艇のどれもが損害を被っており、バックアップ軍港の横須賀はパンク状態だ」

新鋭の大和型戦艦などの大型艦を受け入れられるドックを持つ海軍工廠は数える程度。
そのため横須賀はフル稼働でも追いつかなくなるほどの状態である。また呉には放棄され、鉄屑となった軍艦が放置されたままであり、
地球連邦軍がその浮揚・解体作業に取り掛かっている所とのこと。

「なんて事だ……電探で探知出来なかったんですか?」
「ミノフスキー粒子を多量に巻かれ、レーダー索敵不能にされ、偵察機はファランクスで落とされていたそうだ。我々の艦が駆けつけた時には呉はもう火の海だった」
「!!」
「美緒……」

世界に冠たる扶桑皇国の一大軍港がこうもあっさりと機能を喪失するものなのか。ショックのあまり、坂本は何も言えなくなってしまった。
ミーナも大胆不敵な敵の攻撃に感嘆せざるを得ない。呉を失った海軍に残された大規模軍港は横須賀や佐世保のみ。彼女は守るべき多くの人命が失われた事を嘆いた。














−アフリカ戦線などで連合軍を窮地に追い込んだジェット戦闘機。その威力は他戦線のウィッチ達の間でももっぱらの噂であった。

−欧州戦線

「ナポリが爆撃を受けた?」
「ええ。こちらが機材補充中のところを突かれたわ」

504は先の交戦にて打撃を受けており、竹井醇子はロマーニャやヴェネツィア公国の防衛の任を部隊として果たせない事実に落ち込んでいた。ジェット戦闘機は予想外の強敵であり、部隊は防空戦で人員が負傷した上に機材を相当数消耗してしまった。特にロマーニャ系の機材は予備含めて全損、醇子用に特別配備された新鋭の紫電一一型とリベリオンのP−51Bが辛うじて使える程度。だが、とても出撃の定数(書類上、実際含め)を満たす数ではない故に上層部に出撃禁止を申し付けられた。部隊再編のため、人員と機材補充待ちの状態なのだ。

「クソッタレ!まさかあんなイカみたいな奴らに遅れをとるなんて……」
「機材の性能差、火力の違いがここまでとは上層部も思ってなかったはず……何か対策を立ててくれるといいんだけど……」
「どうにかしてくれよまったく……」

ドミニカ・S・ジェンタイルはエースである自分がいくら未来で用いられるジェット戦闘機であろうが、どこの馬の骨とも知れぬ連中に遅れをとった事に憤った。彼女がイカのようなと罵ったのは、欧州に新たに姿を見せ始めた「ユーロファイター タイフーン」の事である。計画開始年月を遡ると冷戦が後期に差し掛かる1970年代に行き着く。第4.5世代機として後期に出現し、カナード翼を持つその姿はイカのようにも見えるが、俊敏な動きを見せる。彼女たちはSUの雄に加え、このタイフーンと対峙せざるを得なくなったおかげで、まさかの状況に陥ったのである。これまでジェット戦闘機は速度と火力に物を言わせる一撃離脱が戦法の主だった。だが、それまでの機体より大型かつ流麗なフォルムを持つ`新種`はドッグファイトも積極的に挑み、自分たちにも引けを取らない。それ故に激しい空中戦となることも多く、この一週間あまりの戦闘で504は機材の殆どを喪失、人員もほとんど負傷してしまった。飛べるのは戦闘隊長の竹井醇子の他にはドミニカ・S・ジェンタイル、ジェーン・T・ゴッドフリーしかいないという有様であった。部隊長のフェデリカ・N・ドッリオは魔力が減衰しているので、ほぼ地上任務のみなので、彼女を除くと戦闘要員は僅か3人しかいない。これではとても防空戦は戦えない。そう判断した上層部は504統合戦闘航空団に飛行禁止命令を発した。

この命令と同等の措置は各地で戦う他の部隊にも出され、メンバーは困惑するばかりであった。




−東部戦線 連合軍第502統合戦闘航空団「BRAVE WITCHES」


「何だって!?ウチらにも飛行禁止!?」
「ええ。上は機材の極端な消耗を恐れてるの。だから……」
「だからって激戦地のウチらまで!!」
「分かっている。地球連邦軍に支援に来てくれるように要請してる。間もなく返事が来るはずだが……」

ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン(ニパ)は拳を机にバンと叩きつけて憤慨する。激戦地であるこの地で502が飛行できなくなればどれほどの損失が出るのか。しかしティターンズ航空軍の攻勢に抗し切れず、地球連邦軍頼りになっている現況では彼等に頼るしか無い。全面的に支援を受けている501や第31統合戦闘飛行隊がなんとも羨ましい。彼女らへ地球連邦軍からの返事がモールス信号の電文で届いた。

502の隊長であるグンドュラ・ラルは部屋に入ってきたアレクサンドラ・I・ポクルイーシキンからモールス信号の電文を受け取る。すると地球連邦軍から支援の確約が得られたことが告げられた。

「`ズイカクヲへ派遣ス。到着マデマタレタシ。ナオ、貴隊ハズイカクの副次任務であるメンバーの捜索に協力サレタシ`との事です」

「505の捜索への協力が条件か……まあこれでイーブンだな」
「彼らでも505のメンバーが捕まっているか分からないんでしょうか」
「陸海空、どの手段で彼等の支配領域のどこに運びこまれたか分からないからじゃないか?
ティターンズは中東を中心にアフリカと欧州に跨るように地域を支配してる。ネウロイの支配地域の間を結うように分布してるからどこにいるのか……アフリカの『Valkyrie作戦』はその調査、あわ良くは一部でもいいからウィッチの救出を目論んでの作戦だけど……そううまくいくかな」



グンドュラ・ラルはValkyrie作戦の動きに不安を漏らした。思惑通りに行かないのが戦争である。仲間の中には敵側に寝返った者もいるという噂である。
その事への不安が温えないのだ。そしてその中には彼女の戦友も混じっているという事実が突きつけられるのはそれから間もなくであった。







−欧州 連邦軍空母「赤城」 艦橋

「ウィッチ達の捜索はどうか」
「ハッ、今のところはこれといった成果は……瑞鶴を502に合流させ、合同で捜索を行せます」
「ウム。Valkyrie作戦と並行しての調査……なんとしても成功させなくてはならん。ティターンズ海軍の動きも怪しいからな」

エイパー・シナプスは指揮下の各空母を各戦線に派遣させ、支援を行う一方で、ティターンズ海軍の動きを警戒していた。ティターンズ海軍の主力戦艦はティターンズがリベリオン海軍から奪取したモンタナ級一番艦「モンタナ」だということが判明したからだ。試験航海中に起こった不祥事なので、メンツ的な問題で、リベリオン海軍がひた隠しにしていたこの事実はシナプスが直接リベリオン海軍上層部に問い合わせて、明らかとなった。モンタナ級は大和型への対抗馬として造られ、実質的には大和型の攻撃にも耐えうる。扶桑海軍は連邦軍から知らされたこの事実に狼狽、「マル5計画」で計画され、建造開始された大和型戦艦5番艦〜6番艦(第七九八号艦及び第七九九号艦)を急遽、51cm砲搭載の強化型へ計画変更、工期の一年間延長を余儀なくされた。水上戦力がそれなりの充実を見た今や、ティターンズは連合軍に対し強気にでている。それを阻止させるために各軍軍備を拡張させざるをえない地球連邦軍。派遣部隊ゆえの悲哀がここで示されたのだ。

「豊田長官、モンタナ級は無事ですか」
「チェスター・ニミッツ大将によればオハイオとメインは無事とのことですが、ニューハンプシャーが行方不明になったとの事です。マズイですな」
「こちらの手持ちの大和型は武蔵と111号艦……「甲斐」のみか。どれだけ戦えるか。キングジョージV世級はモンタナ級相手には物の役にも立たないし、ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦は航続距離がない……これだからイタ公の作る戦艦は変な所で役に立たんのだ」

シナプスはイタリア戦艦への揶揄をぼやいた。航続距離のネックさえなければ有力な戦艦なのだが、その航続距離の問題がイタリア降伏後の連合軍を悩らせたが、それと同じ境遇にシナプスと豊田副武は陥っていた。2人が困っているのは大和型戦艦の護衛足りえる戦艦が足りないのだ。
大和型戦艦は前任の連合艦隊旗艦である長門型戦艦とは建造年度に20年の開きがあり、性能差が生じている。他の戦艦は老朽化が進んでおり、扶桑型戦艦亡き今、大和型戦艦の護衛を努められる戦艦は連合艦隊に限っていえば、長門型戦艦のみである。
しかし長門型戦艦も20年選手であり、奪取されたリベリオン軍「最新鋭戦艦」と事を構えるのは荷が重い。

「せめて八八艦隊の一三号艦〜十六号艦が完成していれば……」

豊田副武は軍縮の折に建造されずに終わった計画艦の名を言い、過去の艦政本部の決定をぼやいた。なんとか建造にこぎつけた天城型巡洋戦艦は空母に全艦改装され、しかも第一次ネウロイ大戦の折に失った大海艦隊の再建に狂騒していたカールスラントに恩を売るために「高雄」と「愛宕」は外貨獲得のための手段とされ、売却された。その決定の仇が今、扶桑海軍に降り掛かっているのだ。無論、ネウロイが再び活発化した折に戦艦の更新も兼ねて、紀伊型戦艦と大和型戦艦が四隻づつ建造されたもの、基本的にそれら新型は艦隊の旗艦として運用されるため、どれも四隻まとめての運用は連合艦隊は考えていない。
それ故、旗艦と`有力艦`との間に戦闘力の差が生じている。

「そこそこ使える艦がいないのが連合艦隊のアキレス腱となったようですな」
「ええ……」

この時、豊田副武は「○5充実計画が形になっていれば」と嘆き、連合艦隊の戦闘艦艇の年式(古くは大正期の初期)の混在の解消が出来ない現状を恨めしく思ったという。



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