外伝その14


 

−さて、アフリカ戦線のある日のこと。マルセイユが芳佳に聞かせた話。

この日は坂本の特訓の影響で時間か遅くなり、寝泊まりする事になったのでマルセイユのテントに呼ばれた時の事。

「ヨシカ、いい話を教えてやろう」
「何ですか?」
「ケイがいなくなる4日くらい前の事だ。アイツはちょうど61(飛燕)で出ていたんだが……」

マルセイユは語る。圭子はこの時、まだ連邦軍に呼ばれていなかったので`本来の姿`での
飛行であったと。それで帰還中に61に不具合が発生したと。

 

 

「!?」

ユニットがガクンと揺れ、オイルを吹き出す。和製「メッサー」と言われたキ61だが、エンジンの
信頼性は高いとはいえず、高性能とは言え、稼働率は決して良くはなかった。
たまたま扶桑でライセンス生産させたマ40(ハ40の魔導エンジン版)を積んだままだったため、
オイル漏れが発生したのだ。

「ああ、やはり!」

援護に来ている連邦軍戦闘第301航空隊の面々は「やっぱりか」と阿鼻叫喚状態だ。

「おい、やっぱりってどういう事だ!?」

先に帰投していたマルセイユが連邦軍戦闘第301航空隊の面々を問い詰める。
するとある隊員の一人が「俺の先祖が帝国陸軍航空隊の軍人だったんだが、
飛燕は飛ぶと壊れる機体だったと手記を残してるんだ」といった。

「何っ!?馬鹿な……帰投中にトラブルが起こるものなのか!?」
「飛燕なら有り得る。こっち側の歴史には`前線到着前に3割以上の機体を喪失`、
`エンジンや冷却系統にトラブルが付きまとう`って不名誉な記録もあるんだ。
恐れてた事が起こったな」

 

 

 

「えっ、加東さんどうなったんですか!?」
「なんとか着陸には成功したが、ユニットは全損してな。ケイの奴、その日はしばらく
落ち込んでな。私が上にユニット補給申請を出したが、3式は無くって、4式が代りに送られる
事になった。着陸する時にケイは昔のことが頭をよぎったのか、柄になく`怖かった`とか言ってな……」

マルセイユはその日の夜、`あわや`の事態にかつてのトラウマを蘇せてしまい、落ち込んでいる
圭子を励まし、なだめた。その次の日のことだ。

「次の日、シャーロットとパットンガールズ、ティアナ達が敵に包囲されてな。その日は
私はエンジン整備で地上待機中でな。それをケイに伝えたら……」
「伝えたら?」
「アイツ、あろうことか連邦軍のいる隊舎に走って行って、Zプラスを借りて出撃しちゃったのさ」

その時はマルセイユも仰天。何せ「モビルスーツを触ったこともないのにいきなり上級者向けの
可変モビルスーツを動かした」からである。

「やめろケイ!!操縦訓練も積んでないのにいきなりZ系は無茶だ!!」
『だからって他にあの子達を助ける手立てはある!?なんとか動かしてみせるわよっ!』

完全武装状態のZプラスA3型(ウェイブライダー形態)を格納庫から引っ張りだして、滑走路からなんとか飛ぶ。
その様子はヨタヨタだ。

Zプラスは「エースパイロット御用達にして、じゃじゃ馬」である。圭子が無理やり乗り込んだ機体はウェイブライダー
形態での空戦能力を向上させ、「戦闘機としても運用できるようにする」過程で生み出された試作機。D型に至るまで
の過渡期とも云うべき機体。その姿はD型とA1型の中間といったところで、モビルスーツ形態での姿はA1型とほぼ同じだが、
ウェイブライダー時の印象はコントロールフィンなどが増設されたせいか、多少異なる。この機体は宙に浮いていたのを
同隊が戦力に加えたものだが、それを分捕ったのだ。

無論、コックピットでは……。

「んんん〜〜!お、思ってたより加速度がっ……」

圭子はいつもの格好でモビルスーツに乗っていた。Gへの耐性は対Gスーツを着こむパイロットほどではないが、
高い部位に入っていたので、加速時に顔を多少しかめる程度である。シートには、
初心者向けにアナハイム・エレクトロニクス社が用意した、操縦マニュアルが置かれている。

Z系は「じゃじゃ馬」であり、例えベテランでも初めて動かすのには難儀するが、この機体は次世代機への
テストヘッドとして使われていた時期があり、リゼル同様にサポートプログラムが入っていたため、
離陸後にその存在に気づいた圭子は大慌てで起動させ、なんとか挙動を安定させた。

「これでひとまず良し……。後は急いで向かうだけか……」

この間に急いでマニュアルを読んで操作法を暗記し、モビルスーツの操作法を急いで覚えた。

 

 

 

 

 

「そのままZプラスもらっちゃったんですか」
「そーなんだよ。そのまま配備させて、格納庫増設して、整備スタッフも派遣してもらったんだ」

「MSZ」はエゥーゴが開発し、エゥーゴが官軍になったので連邦軍の可変MSの一大ブランドに落ち着いた
シリーズである。その優秀性は他の可変機にも影響を与えている。Zプラスも連邦軍が採用した後に型式番号は「MSZ」
へ統一されている。可変機は整備スタッフに熟練が必要であるので、連邦軍の整備スタッフが派遣されたわけ
である。(MS整備の教育も兼ねる)

「ケイのやつ、そのままシャーロット達を助けに向かって、被弾しまくったけど帰還してな。
その後はすっかりZ系にゾッコンだ」
「速いですもんね、Z系は」
「見てくれ。この間未来から送られてきた手紙に入ってたんだが……」

マルセイユは芳佳に写真を見せる。この時代では珍しいカラー写真で、何人かの戦友と共に未来でそれぞれ
得た愛機をバックに写っている。一人はVFを、圭子はZ系の別の機体だ。

「加東さん嬉しそう……あ、そうだ。マルセイユさん、
なんで向こうでもストライカーユニット使えるんですか?違う世界だと使えなさそうですけど」
「向こうもエーテルがあるらしいぞ。それでスーパーロボットには飛び蹴りを必殺技にしてるのがいるとか……」

それは最強のバスターマシン「ガンバスター」の事だ。それで宇宙でも衝撃波が伝播するので「イナズマキック」
が考えだされたのだが、ガンバスターの勇名はこの世界にも轟いているという事だろうか。

「ハンナ〜何してんの〜?」
「ハルトマンか?ちょうどいい、お前も入れよ。いい話を聞かせてやる」

ハルトマンがテントに入ってきた。マルセイユの話はますますボルテージが上がりそうだ。

 

 

−さて、話は戻って。坂本美緒は飛羽高之に頼み込んで飛羽返しの大特訓を開始していた。

「はぁっ!!」

坂本は持ち込んでいた真剣を素振りし、芳佳が辿り着いた境地に自分も達せんと奮闘する。

(あの時、宮藤は魔力を切っ先に集中させて刀を振るっていた。黒江の`雲耀`みたいなものか?)

脳裏に芳佳がこの間の戦いで見せた「飛羽返し」を思い浮かべる。

『飛羽……返し!!』

-そう。飛羽返しは飛羽は空気中の静電気を集め発動させる。芳佳はそれを擬似的に魔力で再現した。
秘訣は黒江の技とほぼ似たようなものだが、その魔力を集中させる素養を坂本はあまり持ち合わせていない。
それが坂本の飛羽返し習得への壁であった。

「くぅっ……何が足りないんだ……私に……」

坂本は無念で刀を振るいながら芳佳にあって、自分に無いものを考える。
それは「何かに魔力を集中させる才能」。彼女が「ある可能性の世界」(並行世界)で見せ、彼女のウィッチ
としての寿命を縮める原因ともなった禁技「烈風斬」もそうだが、魔力を切っ先に集中させる才能はこの世界の
ウィッチでは決して多くはない技能に入る。扶桑出身者で剣で名を上げたウィッチ達はその才能を持つ場合が多い。

(そうだ……後で久しぶりに黒江に連絡取ってみるか。この技を習得するきっかけにできるかも知れん)

坂本は飛羽に剣さばきの教えを受けながらかつての戦友である黒江に連絡を取ってみる事を思案する。
それは何かの運命か、黒江も似たような状況で特訓を行なっていた。

 

 

−2200年 欧州

「おりゃぁっ!!」

何かの運命か、黒江もまた、弟子のフェイトが以前に見せた「プラズマザンバーブレイカー」をモノにしようと奮闘していた。
一見すると魔法体系が全く異なるミッドチルダ式魔法を習得するのは難しいように思えるが、魔力さえあれば理論的には
出来るはずだとティアナからお墨付きはもらっている。幸い若返り、リンカーコアが身体に出来る過程で魔力を電気エネルギーに
変換出来る素養が新たに備わった(最もこれは若返って間もない時期に、仮面ライダーストロンガーのエレクトロファイヤーの
余波電気を受けてしまったためでもあるが)ために比較的楽だ。

その刀には電気エネルギーが魔力と一緒に乗っかっているために、時々火花を散らし、エネルギーが迸っている。

「ふう……まずはこのへんにしとくか。魔力放出の要領をなのはから聞いといてよかった」

演習場の地面には「そこそこ」の穴が開いているが、なのは達の「戦略級の威力」には到底及ばない。
最も「スターライトブレイカー」を誇るなのはや高速戦闘を得意とするフェイト達の才能が凄すぎるのだが。

「そういえばアンドラのウィッチには`斬岩剣`を使う奴がいるって前に聞いた覚えがあるな……私もやってみるか?」

黒江は海外で活動していた時期にその噂を耳にする機会があった。それで黒江もピンときたのだろう。
自らが師として、なのはとフェイトに影響を与えたように、
なのは達もまた、智子や黒江、ルーデルなどの師達に影響を与えていたのだ。
無論、なのは達はまだそれを知る由もないが。

「綾香さ〜ん、お昼にしましょう」
「何、もうそんな時間か?」

箒が弁当を持ってくるが、黒江はけげんそうな表情を見せる。

「な、何ですか?」
「お前、これ……ちゃんと調味料入れてるよな……?」
「当たり前じゃないですか」
「昨日、チャーハン食ったら味しなかったじゃないかぁ〜!!」
「あ、あれはたまたまですよ、たまたま!たまたま調味料入れ忘れて……」
「いや、調味料忘れないだろ……普通」

この日は箒が欧州についてからちょうど3日目辺り。箒は前日、この時代に来て緊張していたせいか、元の世界で犯した
ミスを再び犯してしまったのだ。織斑一夏も体験した「味なしチャーハン」の悪夢の第二の犠牲者となってしまった
黒江は箒の料理をあまり信用しなくなったのである。

 

「もうじきラー・カイラムが着くっていうし、これから大変だぞ」
「はい。それはわかってます」

2人で弁当を食べて腹ごしらえをしながら今後のことを話しあう。激しくなる戦いに身を投じていく2人の束の間の休息であった。

 

 

 

 

 

− 1944年 ブリタニア。

「閣下。WRの完成は間もなくとのことです」
「そうか……。見ておれ`魔女`どもめ」

シンパの協力で秘密兵器の完成にほくそ笑むトレヴァー・マロニー大将。ブリタニア空軍戦闘機軍団の中核に位置しながらティターンズの
走狗へ堕ちた彼の心には登山家として成功している実の兄への嫉妬が渦巻いていた。兄と比べられる弟。
彼が幼少時代から心のどこかに抱えていた「実兄への嫉妬」は、軍人として成功した現在でも消えていない事の表れであった。

「これさえあればあのような未来だかなんだか分からん奇天烈な輩に頼らずにすみ、私が世界のイニシアチブを握れるのだ、
うーはっはっ!!」

そう笑い飛ばすマロニー。彼は「戦争は男がするもの」との思考を持っており、そこをティターンズに浸け込まれ、彼等の走狗、傀儡へ堕ちた。その結果、
各航空団の行動をティターンズに通報する、機密情報を漏洩するなどの内通行動を行なっていた。

「おのれ、奴らさえ現れなければ…現れなければ!!ウィッチ共を完璧に排除できたものを……!!」
と、連邦軍への憎悪を顕にする。

マロニー大将はティターンズに内通する形で、ウィッチを排除するという目的を間接的に果たそうとしていた。
だが、地球連邦軍もマロニーの行動を察知しており、チャーチルやルーズベルトなどの時の首脳たちに手を回し、要注意人物として認識させると同時に、
地球連邦軍は彼の野望を阻止すべく、特殊部隊を派遣していた。

「マロニー大将は空軍大将でありながらティターンズに魂を売り渡したな……由々しき事態だ」
「どうする剣。501に伝えるか?」
「伝えるしかないな。すぐにミーナ中佐に連絡してくれ」

彼等はかつて旧国連時代に活躍した戦隊の一つ「電撃戦隊チェンジマン」の一員である。
地球連邦政府は度重なる戦乱で特殊部隊の過半数が瓦解状態に追い込まれたのを危惧し、過去から多くの人材を呼び寄せていた。
チェンジマンはその内の一つであった。彼等は地球連邦軍に於いて佐官待遇で迎えられ、1944年に派遣された。
「太陽戦隊サンバルカン」と共に諜報活動を行なっていた。リーダーの剣飛竜はマロニー大将の野望を阻止すべく、
あの手この手でウォーロックの建造を妨害していたが、めげずにマロニーがウォーロックを建造させているのは驚嘆に値した。

 

 

 

 

 

「……そうですか、マロニー大将が………」
「注意してください。彼は空軍大将の地位を使ってあなた方をバラバラにしようと画策してくるでしょうから、なるべく慎重に対応してください」
「分かりました。ありがとうございます」
「それと……彼はネウロイのコアを利用した兵器を造っています」
「ネウロイの……コア!?」

ミーナと電話しているのはチェンジマンの「ブラック」にあたるチェンジグリフォン=疾風翔である。
ウォーロックの事をミーナに説明し、事の重大さを伝える。ネウロイのコアを兵器に利用することがどのような危険を犯しているか。
ネウロイのコアは研究が進んでいない未知のモノである。下手をすれば兵器そのものがネウロイ化してしまう危険性をはらんでいる。
そうすれば制御不能となり、強引に破壊するしか手段が無い。

「あなた方はなぜそれを私達に教えてくれたのですか?」
「俺達は味方を騙して悪に走るような奴は許しちゃおけないんですよ。それじゃまた」

こうしてミーナはチェンジマンの通報で、マロニーの野望を知ったわけであるが、一介の中佐に過ぎぬ彼女には阻止する手立ては無く、
マロニーは後援者達の支援によりウォーロックを完成させてしまう。
だが、ウォーロックの完成が結果的に彼自身の首を絞める事になり、各戦線のネウロイをかえって活発化させてしまうきっかけを与えてしまう。
やがてそれはロマーニャを絶望に追い込む事になる。

 

「マロニー大将は何故こんな……ウィッチを快く思わないだけで、よくも非道な……!」

ミーナは祖国をネウロイに蹂躙され、愛する人を失った。そのため仲間を失うことを恐れ、
ウィッチを利用し、己の捨て駒にしようとしているマロニーに少なからず怒りを持っていた。
それが更に加速された格好だ。先日も視察に来た彼に面と向かって「あなたの戦術は机上の空論だ」と言ってやったが、
これだけでは腹の虫が収まらない。

「〜〜ッ!」

感情を抑えきれず、思わず机に拳を叩きつけてしまう。
普段穏やかな彼女にしては珍しく、感情を顕にした行動だ。その顔には怒りと悲しみが入り交じっている。

「クルト……あなたがいれば……」

それはかつて祖国での撤退戦で戦死してしまった恋人の名。今でも彼が生きていた頃の夢を見る。
−音楽家を目指していた頃の、幸せな日々を。

彼の死は、彼女に少なからず精神的外傷(トラウマ)を植え付けたが、彼との日々が心の拠り所である事には変わりない。
根が優しいミーナには味方を味方とも思わぬマロニーの行為は許せないのだ。

〜〜♪

「えっ……?」

それは空耳かも知れなかった。だが、ミーナにはハッキリと聞こえた。誰かの歌う優しい歌声が。
彼女を勇気づけるかのように……。

それを示すかのように、ミーナの座っている机の引き出しの中では、
死んだ彼が生前、誕生日にくれた「珍しい鉱石」が輝いていた……。
まるで、彼女に歌を届けるかのように。それは何を意味するのであろうか。

 

 

 

 

 

 


あとがき

移転して一ヶ月あまり。某所での事件やら色々ありましたが、何とか無事に移転する事ができました。
これからもよろしくお願いします。

今回は某所で出来無かった事を詰め込んでおります。色々絡ませるのもクロスオーバーの醍醐味であります。
それではまた。

 

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