外伝その17『Mighty Wings』


 

‐地球連邦軍は刀匠や技術的を戦時動員。ウィッチ向けの刀を新規制作するための体制を構築していた。
これは智子などの家伝の名刀を使うウィッチに対し、刀が失われる不安を感じた刀匠が
軍に意見を通したのがきっかけで、23世紀の技術で軍刀を新規制作する事となり、
膨大な予算(F‐Xにも匹敵しうる予算規模)で実行された。扶桑(日本)出身ウィッチが多かったため、
日本刀をベースにしての制作となったが、古来からの製法では到底寒冷地などでの使用に耐えない。
そこで旧・大日本帝国期に研究された「軍刀」をベースに魔力との親和性の高いエネルギー転換装甲
で製作することになった。23世紀の科学力なら名刀に匹敵する、あるいは凌駕する切れ味と高い実用性能を実現出来る。
その思惑で軍刀ノウハウを応用しての製作が始まった。

 

‐旧帝国陸海軍が滅亡と引き換えに残した軍刀の輝き。それを23世紀に復活させる。
日本で細々と生き残っていた刀匠の意気込みは凄まじく、昭和戦前期には批判も浴びた
方法を23世紀の最新工業技術で再現・更なる改良を加えていく。

「お嬢ちゃん達に提供する軍刀か……く、くくっ。ご先祖様が聞いたら腰抜かすぞ」
「たしかにここ百年くらい軍刀なんて儀礼品扱いだったしな」
「まあ需要はあるんだ、供給は整えておかないとな」

彼らは各種実験を重ねて、ウィッチの使用を前提にしたエネルギー転換装甲製軍刀を造り上げた。
それは扶桑皇国軍エースらにまずは実地試験も兼ねて送られ、彼女らはレポート提出の条件付きで
受領した。

扶桑皇国空母「大鳳」で帰国の途についている坂本美緒にもその刀は渡っていた。
未来技術で製作された刀は坂本が501で使用していたものよりも、
遥かに少ない魔力量で同等の威力が叩き出せるという検証結果にご満悦。

「はっはっは、凄いぞこれは!これさえあれば私はまだまだ戦えるぞ〜!!」

……と、自室から笑い声が漏れる。そんな坂本とは裏腹に、芳佳は本国からの343空編入と陸軍と海軍の一部の将官を黙らせるための
一年間の予備役編入の辞令が下された。

「予備役かぁ……なんで一年間って期限付きなんですか?」

芳佳は同室の菅野に質問する。菅野は質問にすぐに切り返す。

「お上の裁定だよ。お前が挙げた功績と親父さんの関係で、山本大臣が不名誉除隊に強く反対したんだ。
呉の一軒で改革派の発言力が高まってるから奴らもポストを失うのを嫌がったし、陛下も憂慮なされた。
その結果の折衷案だって」
「はぁ……なんだかややこしい話ですね」
「まあ。元の学校に戻って勉強出来る時間はあるさ。軍医から色々教えてもらってたろ?進路で有利だぞそれ」

菅野は本を読みながら言う。菅野の言う通り、芳佳は未来世界で培われた医学知識をある程度知ったし、
実践もした。そのぶん望む進路への近道になるだろう。

「それは嬉しいですけど、飛べないっていうのはなんとも……」
「まあ343空は呉の一軒で帝都防空のために関東に配置転換されたし、顔出せよ。坂本さんも喜ぶぞ」
「はいっ!」
「それと少尉に昇進した上で予備役なんだって?お前」
「そうらしいです。士官服誂えないといけないなぁ……」

芳佳は史実と違い、軍人であるという自覚はある程度持ち合わせていた。そのため士官服を用意しておかないといけない事に
ため息をついている。この後、芳佳は復学し、`予備役少尉`として一年間過ごす事になる。
そして冬頃の事。

 

‐芳佳の運命を更に帰る出来事が起こる。それは出会うことの無いはずの陸軍エースらとの出会い。

 

穴拭智子と黒江綾香の2人は扶桑本国へ一端帰国し、

航空審査部で新型ジェットストライカーの実用最終テストに携わっていた。
`火龍`と`橘花`の事だ。この二機種は性能面では旧来のレシプロストライカーユニットを遙かに凌駕するが、機体に問題があった。
発動機である「ネ130」魔導ジェットエンジンの信頼性が決して高いとは言えないお粗末なものであったのだ。
(呉で武子と徹子が使用したのと同じ)
来訪している地球連邦軍が資料代わりに持ち込んだ`後年のジェット戦闘機`のエンジンを基に作り出したもの、
それを魔導エンジンへそれを当てはめるには困難が重ない、扶桑の技術的限界もあって低信頼性に繋がっていた。
それはテスト飛行中に不意に起こった。

`プスン、シュォォォ……`と不吉な音が響く。穴拭智子は嫌な予感がして後ろを振り返ってみる。
するとエンジンが停止しているではないか。エンジン内部のタービンブレードの破損か、それともエンジンの焼き付きか。

「嘘ぉ!?まだ基地まではあるってのに……わ、わわっ!」

悲鳴を上げるが、状況が変わるわけではない。エンジンが停止したジェットストライカーはただの鉄の塊に過ぎない。
上昇気流に乗ってグライダー飛行をしようにもこの日は無風であった。地面に向けて一直線に落ちて行く。
僚機の黒江綾香のストライカーユニットも同様の事態に陥る。

「わ、私もか〜〜!?」

2人は仲良く落っこちる。幸い2人の肉体は最盛期に若返っているのでシールドは張れる。
2人は急いで最大出力で張る。
数秒でどこかの民家の前に落っこちて、派手に土煙を立てる。

「あいたた……生きてる?」
「なんとかな……まいったな、民家の前に落っこちるなんて……」

盛大に音を立てたので民家の住民が何事かと出てくる。すると。15歳前後の少女が出てきた。
その顔に黒江綾香は見覚えがあった。顔の特徴から帰国直後に坂本美緒に見せてもらった写真に美緒と一緒に写っている少女だとすぐに分かった。

「えっ、う、ウィッチ!?」
「あ、ああ……新型のストライカーユニットのテスト中だったんだが、発動機がトラブって落っこちた」

「ち、ちょっと黒江!」
「構わん。こいつは坂本の奴の弟子で元501の一員だ」
「と、言うことは……」
「そうだ。初めまして……かな?宮藤芳佳一飛曹」
「は、はい。今は予備役で、少尉ですけど……もしかしてあなた達は……?」

少女に機密事項を話す黒江を智子は咎めるが、黒江に目の前の少女は坂本が手塩にかけて育てているウィッチで、
501の一員であった宮藤芳佳であると説明する。その言葉に智子も納得する。
黒江がこうも簡単に一般人に機密事項を喋るはずはないし、それに一応坂本の部下なら、その辺は教えられているだろう。
まあいいかと納得の表情だ。

芳佳は黒江の隣にいる智子に目を輝かせている。
智子の扶桑海での武勇は軍のプロパガンダにもよく使われているので一般にもよく知られているし、
(芳佳は映画は未見だが、美緒から話自体は聞いていた)、
以前501にいて、帰国途中で杉田大佐から彼女がモデルの日本人形をもらっている。なので、芳佳が目を輝かせるのも当然と言えた。

「ああ、そっちは穴拭智子。陸軍の中尉で`扶桑海の巴御前`。んで、私は黒江綾香、`魔のクロエ`。一応大尉だ」
「坂本さんから話は聞いてます、宮藤芳佳です。よろしくおねがいします!」
「ああ。そこで一つ頼みがある。このストライカーをちょっと君の家まで運んでくれ。こいつは一応機密もんだからな」
「ええっ!?」
「テスト中の新型なのよ。噴流推進式で、一般人に知られるとマズイ代物だしね」
「は、はい!わかりました!」

宮藤は自宅にジェットストライカーを運び、穴拭らを招き入れる。
そこで二人は一応治癒魔法による治療を受け、宮藤の家族から差し入れられたお茶とお菓子をほうばる。

「ん〜黒江、ジェットストライカーの方はどう?」
「草餅食いながらいうなよな、お前。開けてみたけどエンジンが焼きついてる上にタービンブレードが根元からポッキリ折れてやがる」
「まだまだ改善の余地は多いってことね」
「そういうことだ」
「あの〜、ジェットってもしかして、コスモタイガーだとかバルキリーの発動機になってるあれの事ですか?」
「それなら話は速いわね。そう、アレ。`連邦`が持ち込んだり、
`ティターンズ`が使ってるジェット戦闘機の威力に羨望と恐れを抱いた上の連中が、
ノイエ・カールスラントで研究中だった奴を全世界規模で研究を拡大させてるのよ。
私たちが纏ってた奴はその計画の一環の試作機ってわけ」
「一応採用の暁には`キ201`と`J9Y`として採用されるはずなんだが……まだまだ課題が多い。
とてもコスモタイガーやバルキリーのようにはいかないのが現状だ」

そう。ジェットストライカーは研究が始まってせいぜい3,4年しか経っていない。
それでいて試作機がなんとか作れるまでになったのは連邦軍や時空管理局のエンジンや機体設計技術の援助、
アフリカ方面の作戦でティターンズから鹵獲に成功した`F-105 サンダーチーフ`を徹底的に研究したおかげである。
だが、F-105 サンダーチーフは史実ではこの年から11年後の初飛行の機体。
運用開始時は15年近く後の時代の戦後第二世代ジェット戦闘機。
エンジンをガワだけコピーできても、稼働率を効率化するのは難しい。
それは史実の日本がコメートのコピーといえる秋水で同様の事態を起こしているのが証明だ。

コスモタイガーらが100%の稼働率を誇っているのは規格部品の安定供給、
エンジン関連技術が成熟されきっていること、整備員の教育がきちんと行き届いているためである。
扶桑は同じ時期の`大日本帝国`の数倍の国力を持つのでその点は大分マシだが、
それでもジェットストライカーの魔導エンジンをモノにするのに苦戦中だ。

「でも、よく考えるとティターンズって元は連邦軍の一部隊ですよね?何で正規軍と戦ってるんですか?」

この疑問は最もだった。
ティターンズは元はといえば`地球連邦軍の特殊部隊`に過ぎないハズ。
それがどうして正規軍と刃を交えているのか。いまいち分からない面がある。それに智子が答える。

「それはね。彼らにとって今の連邦軍は`スペースノイドの傀儡`にしか思えないからよ。」
「えぇっ!?たったそれだけの理由で!?」

宮藤芳佳は未来艦隊と行動を共にしていたために`スペースノイド`と`アースノイド`の対立`、`ニュータイプとオールドタイプ`については知っていた。
それだけに余計驚きであった。

「彼らがいた2190年代の後半頃は`地球生まれこそ選ばれたエリート`なんて選民じみた考えが当時の連邦軍の軍人達の間で蔓延ってた。
ちょうど`一年戦争`と`デラーズ紛争`で当時の政府官僚達がジオン残党に脅威を抱いていたのを口実にして、
スペースノイドを弾圧しようとするタカ派の軍人達がハト派の衰勢に漬け込む形でティターンズを設立させた。
表向きはエリート特殊部隊としてプロパガンダされてたけど本当のエリートは極少数だった」
「当時の関係者の手記によれば`ティターンズの軍人の大多数は慇懃無礼で鼻持ちならない連中。
スペースノイドを差別するが、彼らとて実戦や現場の状況を理解できない箱入りの輩でしか無い`とある。
それでも有望な連邦軍軍人の多くが志願したのは`入ることがエリートの証`のようにみなされたのと精鋭と認められるからだった。
良識派もいたにはいたが、強硬派の大きな力の前に埋もれていった。
彼らがティターンズに居続けたのは装備も最新のものが与えられ、給料も数倍だったからだ」

智子と黒江はティターンズはそもそも未来世紀で連邦に蔓延ってた思想が形として具現化した組織であると説明した。
特殊部隊なので装備の優遇などの特権が与えられたが、
それはスペースノイドにとっては悪の象徴でしかなかったとも付け加える。
そして強硬派の凶行が反連邦組織を結束させていき、対抗勢力としてエゥーゴが誕生した事。

「良くも悪くもエゥーゴは正規軍の良識派を取り込んで正規軍化してティターンズを打倒した。それを認めない兵力が各地に潜伏した。
これは皮肉だが、ジオンと同じ末路だった。その残党の内最大勢力がここに来ちゃった訳。
だからエゥーゴ系の派閥が支配する連邦正規軍とは根本的に相入れないのさ」
「で、でもなんでそこまでして戦うんですか!?いくら気に入らないからって……同じ人間同士なんですよ!?」
「私たちは忘れてるけど、これが`戦争`の本質なのよ。この世界だってネウロイがいなくなれば……ね」
「たぶんな。マロニー大将の例もあるし」

穴拭智子は未来世界でその一端を垣間見た。
だからティターンズの行いを全否定出来なかった。
彼らの行いは`勝者によって否定された者達の足掻き`。ネウロイがいなくなれば、
この世界も同じように人間同士の戦争が起こるだろうという危惧。世界がまとまっているのは共通の敵がいるからなのだ。
それをよく見てきたものしか言えない事だった。

「私もマクロス・フロンティアに行った時にマクロス・ギャラクシーと戦った。思想的に相容れない人間同士は結局戦うしか無いのさ」

黒江綾香もこれに続く。芳佳は戦争という言葉の重みに押しつぶされそうになるが、飽くまで希望は捨てないと告げる。

「坂本から聞いてた通りだな、昔のアイツを思い出すよ」
「全くね。私達も年くったわねぇ」

黒江は呵呵と笑う。芳佳にかつての坂本の面影を見たらしく、懐かしそうに目を細める。
智子も同じ思いらしい。扶桑海事変当時の坂本を思い出したのだろう。

「ところで、穴拭さんと黒江さんって昔の坂本さんを知ってるんですよね!」
「ええ。色々とね」

智子と黒江はこれからいたずらをする子供のような、楽しそうな目をしていた。
すぐに「坂本さんの昔の話が聞ける」と目を輝せている芳佳に昔話を語りだそうとする。
そこへ芳佳の親戚で、学友でもある山川美千子(愛称はみっちゃん)が家に上がってきて……。

「芳佳ちゃ〜ん……って、え、ええええ〜!?ふ、ふふ……扶桑海の巴御前の穴拭中尉がど、ど、ど、どうして!?」

みっちゃんはまさかの智子という客人に大はしゃぎ。智子にサインをねだるなどのミーハーな一面と、
ストライカーや軍艦などで、軍人と同等の知識で夢の歓談を楽しむが、黒江は眼中に無いなしい。
そのため、黒江は年甲斐もなくぶーたれてしまう。

これはしょうが無い事だ。智子はは映画主演と、軍のプロパガンダにも使われた関係上、一般人への知名度は高いが、
黒江は映画では端役。一応スコアは劣らないのだが、場面に写っている時間の関係で「誰それ?」な状態だ。

「ふ〜んだ。どうせ私は端役ですよ〜だ……」
「ま、まあまあ。黒江さんだって頑張ってる所映ってるっていうじゃないですか」
「そりゃまあ群衆その一とかよりはマシだけど……」

芳佳に慰めてもらう黒江。ぶーたれるその姿は外見的問題でどっちが年上だかわからない。

因みに扶桑海事変の映画『扶桑海の閃光』で智子が主演に選ばれた経緯は、
トップエースであった圭子の戦い方が「場面映えしない」というプロパガンダ上の問題。
そのため間接的にトップエースであったはずの圭子に焦りを生じさせ、負傷してしまった事に関係しており、
智子は黒江に「圭子には悪いことしちゃったわ……」と、圭子にバツの悪い思いを未だに持っている事を告白している。

「あ、いっけね。ヒガシに電話しないと。宮藤、電話借りるぞ」

黒江はとりあえず圭子に連絡をとるべく、電話を借りてかける。圭子は智子らの面倒を見せている身なので、
一応電話くらいかけないと心配される。

「あ、ヒガシか?実はカクカクシカジカ……」
「事情はわかったわ。後で私もそっちへ行くわ。宮藤少尉に色々聞きたいし、カメラマンとしての性が疼くっていうか……」
「はいはい…。お前、カメラぶっ壊したって言ってなかったか?」
「新調したのよ。だから黒江ちゃん、今月は釣竿と餌買うの禁止ね」
「え、ええぇ〜!?そ、そんなのありぃ〜!?」

またもガクッと落ち込む黒江であったとか。

 

 

 

‐扶桑に帰国していた坂本美緒は師での北郷章香の招きで、本土防空戦を戦っていた。
オラーシャ方面に展開する旧ティターンズ空軍第301爆撃航空団に所属するB−52やB−2、B−1戦略爆撃機による空襲が行われるようになったためだ。
しかし最新鋭のジェットストライカーの`火龍`、`橘花`でようやっと迎撃可能なこの`死の鳥`達の猛攻は凄まじく、
既に数個飛行団はその機材ごと基地在地時に屠られていた。
16000mの高空から落とされる高性能爆弾は1940年代の基準で作られた施設を破壊することなど容易かった。

「坂本、既に屠龍装備の部隊は殺られた。上もジェット機相手ではあのような複座戦の小手先の戦術は通じないというのをようやく認識した」
「遅い……これで4回目ですよ先生」

屠竜とは二式複座戦闘機の事。
仮想敵機にリベリオンのB−17などを想定して運用されている対重爆撃機用戦闘機(史実ではそのような運用法は戦争末期のみだが)。
大型ネウロイと同じような考えでウィッチの護衛替わりに出撃させる飛行団は多いが、
ウィッチは帰還できても護衛戦闘機のほうが全滅ではお話にもならない。
屠竜はやはり未来爆撃機には全く通用しないガラクタにすぎないのだ。

「上もメンツ論で動く連中が多いからな。
彼らはその犠牲者だよ。ジェットとレシプロ、どっちが強いか、尋常小学校の子供だってわかるだろうに。
これだから菅原のノータリンは……」

北郷は防空担当の陸軍の高官を皮肉った。
いくら小倉への第一撃で市街地が損害を受け、更に呉の件で軍への国民の信頼が揺らいだからと、
メンツ論で闇雲に戦闘機への迎撃指令を出し、むやみな犠牲を強いたのは愚策としかいいようがない。
しかも同時代の兵器と同じ考えで、無意味な精神論をぶちまけた第6航空軍の「菅原道大」中将は更迭されて然るべきだと。だから`ノータリン`と罵ったのだろう。

「地球連邦空軍の日本本土担当の「第3航空団」が緊急で支援に駆けつけてくれたが……こちら側の数は相手より絶対的に足りん」
「まさに`猫の手`も借りたい`ですね」
「そうだ。だから宮藤にもその内声をかける」」
「宮藤を?しかし宮藤は陸軍の策略で予備役に追いやられたはずでは……?」
「米内光政閣下や新見中将閣下が手を回してくれた。お上の勅諭もある」

天皇陛下も宮藤の功績を無に返すのはいかんとおもったのだろう。
本来なら勲章物の功績を上げた軍人を上層部が貶めるのを激怒したのだろうが、
北郷は軍神としての政治的発言力を生かしたのだろう。

坂本らは史実で陸軍の最精鋭防空部隊と言われた第12飛行師団に陸・海の垣根を超えた増援として着任していた。
彼らの装備機材はなるべく最新鋭のものが揃えられていた。日本西部が守られているのは彼女らの功績である。
地球連邦軍も本土防空部隊の一部を派遣し、防衛に力を貸している。

そのため現在、航空師団の本拠の小月航空基地には21世紀頃の航空自衛隊主力の「F−15J」、「F−2」、
22世紀最新鋭の「コスモタイガーU」、「VF−19」を始めとする超兵器が置かれているという奇妙な光景がある。
飛行第4戦隊への出向という形で。
滑走路もジェット機運用のため拡張整備されている。彼女らはそこにいる。死の鳥から扶桑を守るには陸海軍に拘ることなど馬鹿馬鹿しい。

「大佐!!電探室より報告!敵`B−52H`が扶桑海付近に現る!!至急迎撃体制を取られたしと!!」
「了解した!航空部隊にスクランブルをかける!!」

北郷は後世で普通に用いられている軍事用語を言った。不思議な光景である。史実のこの時期の日本ではスクランブルとは言われていなかったが、
彼女は未来世界の人間たちに合わせたのか、そう言った。

連絡を受け、直ちにパイロット達は配置につく。
格納庫ではF−15Jのプラット・アンド・ホイットニー F100の轟音が早くも響く。
最速で乗り込んだ者がエンジンを温めているのだろう。北郷は若返った自らの体に闘志が噴出すのを感じ、
今や見かけは`年上`になった教え子と共に格納庫へ赴いた。

 

 

 

扶桑陸海軍の常識を遙かに凌駕する未来爆撃機。一番鈍足のB−52を含めても平均速度で時速1000qの高速を誇り、
実際1940年代のどの戦闘機をしても迎撃不能(ロケット戦闘機でも追いつかない)。
それに困惑した扶桑海軍航空隊は独自に地球連邦へ増援を依頼。
それに答える形で空軍が来援したのである。しかし連邦空軍とて機材とパイロットの確保は難航した。
度重なる戦争での損害からの再建途上なために数が足りないのだ。
さらに人型機動兵器の台頭で純粋な戦闘機乗りの数が減り、2201年では全体でも最盛期の6割〜5割しかいない。
その上、さらに一通りの空戦を高い水準でこなせる練度となれば更にいないので、高練度であるパイロットたちへ志願を呼びかけた。
それに応じたのが帝都防空の一翼を担う「第3航空団」であった。
だが、彼らには機材の問題があった。
2年前の兵団のD作戦の際に機材をほとんど喪失しており、
2年かけてようやく、新コスモタイガーの2個中隊が動ける程度(連邦軍の工廠能力が落ちたためと、
政府の復興優先の煽りをうけたため機材調達が遅れた)でしかなかった。
そこで数を合わせるために、
未来の岩国基地で複数が動態保存されていた旧航空自衛隊の20世紀末〜21世紀初期頃の戦闘機「F−15J」を急遽改修し、
`補助機材`の名目で配備させたのであった。

「しかし改めて見ると結構大きいな」
「ジェットエンジンだとか兵装の関係でどんどん大型化していきましたから。こいつはそれが収まった時代のもんです」

北郷章香は格納庫で発進態勢を整える、日の丸をつけたF−15Jの姿に圧倒されていた。1940年代のレシプロ戦闘機は平均して10m程度だが、
大型化が極まった第4世代ジェット戦闘機はおおよそ20mである。(F−16でも15m)。
コスモタイガーUもだいたいその程度なので、第4世代ジェット戦闘機はある一種の基準を完全に根付かせたと言える。
搭載量も戦闘爆撃機のF−15EでさえB−29をも超える搭載量を誇る。

「これの派生型はB−29を超える搭載量を持つんだろう?技術の進歩ってのは凄いな」
「ええ。アレを投入するんなら`ストライクイーグル`を呼び寄せる方が費用対効果もいいんですよ。空戦もできますから。
B‐29じゃハッキリ言って人命の無駄です。」

連邦軍所属の整備兵は各所でリベリオンが行っているB−29の爆撃の効果が薄いことをこう皮肉った。
B−29は1940年代の水準で言えば十分に高性能爆撃機だが、21世紀以降の軍備を持つ者にとっては単なる`ジュラルミンの棺桶`に過ぎない。
特に誘導ミサイルを装備する機体は視界外から攻撃可能であるからなおさらである。ただし直接攻撃には危険がある。
かのミグにも防御砲火は一定の効果は発揮したからだが、損害率は高いのには代わりはない。

「橘花の整備は終わってるな?」
「ええ。十分です」

北郷は発着促進装置に備え付けられている試験中のジェットストライカーを足に纏う。

このストライカーはかのハワイ沖海戦の際に迫水ハルカがテストしていたものの改良機。
航続距離の延伸などが行われている。
敢行武装は五式30mm機銃、零式や紫電改以上の搭載量である。だがレシプロストライカーより起動に魔力を食うという技術的課題が残っており、
魔力減退が同世代のウィッチの中でも進んでいるだろう坂本にジェットはおそらくきついだろう。そう判断した彼女は坂本に指示を飛ばした。

「坂本、お前は高高度性能が良い紫電五三型でいけ。ジェットはお前には向かんだろう」
「はいっ!」

これは北郷の計らいであった。従来機よりジェットストライカーは魔力を食う。最盛期へ若返った自分は問題ないが、
戦士としての寿命を迎えつつある坂本美緒が使えばその飛ぶ力をレシプロを使い続けるよりも早く減退させてしまう。
だからジェットの使用を坂本に限っては義務ではなく`自由`にした。
それに今のの坂本の好みや戦術を考えればレシプロのほうが向いている。
なのでレシプロストライカーでは最高峰に近い紫電改五を割り振ったのだろう。

二人はそれぞれ別に発進し、F−15Jやコスモタイガーと空中で編隊を組んで空域へ向かった。

「敵は扶桑海から侵攻するつもりか……割と常道な手だな」
「ああ。俺達の世界の中国やロシアがよく使った手だ。敵はストラトフォートレスとその護衛機だ。護衛機の掃討の後、本命を射止める」
「了解。ところで護衛機についての情報ははいっているのですか?」

坂本美緒は爆撃機はジェットの獲物だが、戦闘機なら巴戦ならレシプロでも渡り合える事は知っていた。
だから編隊長に問いたのだろう。コスモタイガーを駆る編隊長はたった今伝わった情報を言う。

「敵の主力はMiG-29`ラーストチュカ`だ。NATOのコードネームだとファルクラム。
制空戦闘機だが、長距離侵攻向けじゃない。……が、22世紀以降の技術で航続距離を伸ばしたんだろう」
「どういう機体なのですか?」
「う〜ん、強いて言えば巴戦に強い。スホーイ系統よりはやりやすいが、かつてのソ連邦のF−16とかのカウンターパートには違いない。
あそこの戦線はアフリカ並に激戦区だからな……比較的新しい機種が多い。気をつけろ」

編隊長は美緒に敵機の特徴を伝える。旧ソ連製の、F−15と同じ世代の戦闘機であり、巴戦を得意とすることを。
それを聞いた坂本は俄然、闘志を燃やした。

「面白いっ!」
「熱くなるな少佐。ミサイルがあることを忘れるな。いざとなったらチャフやフレアを使え」
「わかってます」
「よし。各機、聞け。空中管制機から打電。あと数分で接敵する。
先制のミサイルを放った後はブレイクし、巴戦に入れ。ウィッチ隊もいいな?」

「了解」

「全機、安全装置を解除!カウントの後に矢を放つ」

編隊長の指示に従い、戦闘機隊が翼に敢行するミサイルの発射態勢に入る。

「9……8……7……」

レーダーに敵編隊が全機補足され、ミサイルの有効射程に入っていく。目当てのB−52がミサイルの射程に入るのとカウントが終わるのは同時だった。

「2………、1……0!!」

同時にミサイルが発射される。
ミノフスキー粒子の影響下なので命中精度はあまり当てにならないが、
敵編隊を乱すには役に立つ。各機一発づつ放っているが、4割当たればいい方だろう。ミサイルは敵機の方角にまっすぐ飛んでいき……。

 

−B−52H 機内

「ミサイル接近!!」
「来たか!!チャフやフレアで誤魔化せ!間に合わんものはラダーの動作で避けろ!」

彼らは僚機に指示を飛ばすとフラップ動作でわずかに機体をゆるやかに旋回させる。
チャフなどでも誤魔化し切れない一発が直進してきたが、かつてほどの終末誘導性能は望めない戦闘機用ミサイルの特性を見抜き、
ラダー動作で機体をわずかに首振りさせ、ミサイルを避ける。凄いテクニックである。個々からは護衛機の出番だ。

「戦闘機隊、頼む」

「良し、`ストラトスフィア`1より各機。`鷲刈り`だ」

ミグ29がエンジンをふかし、交戦に入る。巴戦(ドッグファイト)だ。こうなったらあらうる空戦機動を駆使して戦う。
そんな中、ある一機は坂本美緒を標的とし、襲いかかる。

「あの塗装は紫電改か零式の後期型ユニット……俺たちもなめられたもんだぜ、あんなポンコツで……」
「くぅっ、レシプロだからってなめるな!!扶桑海軍の底力を見せてくれる!!」

ミグ29はインメンタルターンを行い、高度を取るとGSh-301 30mm 機関砲を撃ちながら一撃離脱戦法を行う。
坂本はレシプロストライカーの利点を駆使し、火線をバレルロールしながら避け、扶桑(日本)機特有の旋回性能でひねりこみを行う。
それはジェット機の常識を超える半径の短さであった。背後を取り、瞬間的に機銃のトリガーを引く。

「とったぁ!!」

手に持つ99式20ミリ機銃3型が火を噴くが、バルカン砲にある程度耐えうるように作られた機体の防弾性能の前には効果が薄い。
ミグは数発の被弾の後、その燕の名に恥じない俊敏性ですぐに機体を傾け、ラダーと併用してスリップを行い、
火線を躱すとアフターバーナーで加速する。そして急上昇。宙返りループの終点で仕留めようとする。
坂本は咄嗟に刀を取り出し、ラーストチュカに向けて突進。

その時、新たに得た刀が光を帯びて輝く。

「飛羽……返し!!」

だが、その輝きは夏ごろのそれより鈍い。

−何っ……くそぉぉっ、もっと、もっと魔法力の素養があれば!なんであの時……あんなことを!

ミグ29と交錯し、飛羽返しでその翼を切り裂く瞬間に頭を過ぎったのは若き日の戦いでの一瞬。
今では師にも誇れるほどの勇名を持つ自分だが、急激に衰えていく魔力への焦り。それが彼女を無謀な行動へつき動かした。

‐彼女は今でこそ自他共に認めるエースだが、
若き日の1937年頃、駆け出し時代の頃は陸軍のウィッチ達に練度の低さを危惧されるほどであった。
当時、同じ基地の陸軍部隊に在籍していた智子が芳佳に言った証言によると……

『あの時の坂本達の練度は本当に心配したわ。飛行時間は短すぎ、`実戦で飛べるかもは分からない`のが難だった。
だから最初はアテにはしていなかったわ』
『そうなんですか、穴拭さん』
『ええ。その時は私たちの部隊だけでどうにもできると思ってたから戦力に数えていなかった。
後々の事を考えると……今じゃ恥ずかしい。若気の至りって奴よ』

穴拭智子は扶桑海事変当時、既に新進気鋭のエースとして早くも名を馳せていた。
それだけに駆け出しのウィッチであった坂本らを出会った当初は`戦力`と見ていなかったと言っている。
それ故彼女は独断専行をする事が多く、それを戒めるために事変後、加藤武子が上層部に手を回して、
彼女を当時は辺境のスオムス(我々の常識で言えばフィンランド)送りにした。
それが智子の精神的成長を促したのは言うまでもない。
とにかく、大人になって別世界で`高町なのは`という弟子を取るに至った時点の智子は事変の時の言動や行動を振り返って`若気の至り`であったと述懐し、
宮藤に若い頃の坂本は『あなたに似て、`信じたら何を犠牲にしてもやり遂げる`信念で行動してた。たぶんそれは今でも変わっていないでしょうね』
と言った。正にその通りだった。

若き日から変わること無く突き進み、戦士として生キてきた坂本は世界の状況が大きく変わり、
例え相手が同じ人類が未来の叡智で作り出した`ジェット戦闘機`であろうが戦う決意を固めていた。
そして同時に若手の連中に人間と戦争を戦う事に恐れをなし、除隊する者も出てきているのにはある種の責任を感じていた。
若手がやめた穴埋めとばかりに本来ならもう引退したはずの世代の人間たちが駆りだされていくのには苦々しい思いだったようで、
`先輩たちに思いを託された自分たちの責任`だといい、彼女が前線で戦い続ける理由の一つにもなっていた。

「くそ、翼を根元から斬られた!脱出する!」

「よし……次は…っ!」

搭乗員が射出座席で脱出し、堕ちていくミグ29を尻目に美緒は無我夢中で一目散に別の敵へと突っ走る。
かつての時とも違う戦い方に北郷章香は`危険な何か`を感じ、止めようとする。

「やめろ坂本ぉ!!お前……死に急ぐつもりか!?」

それは戦士として戦えなくなることへの焦り、弟子の成長を見れなくなることを恐れた坂本の心が行動となって現れた瞬間であった。
B−52Hの編隊へまっすぐに突っ込んでいく。まるで死に急ぐように。北郷は一気に顔から血の気が引き、青ざめながら叫んだ。

「大佐、止めろ!!下手すれば……」
「わかってますっ!あの馬鹿野郎ぉっ!!」

北郷は編隊長の命令を聞くまでもなく、ジェットストライカーを吹かして坂本を追う。
肉体年齢が今の坂本よりも若くなってしまったために心まで若くなったせいか、
彼女としては珍しく感情を顕にして叫んだ。紫電改の最高速は時速680q、橘花は時速950キロ。
ほぼ300キロ近い速度差はあるが、坂本がいる空域とは離れているので追いつけるかは分からない。だがやるしか無いのだ。

−アイツはもうシールドは張れん……それこそミサイルを喰らえば……!

−手を伸ばし、追う。それしか私には出来なかった。ジェットを目一杯に吹かして、アイツの後を負った。自然とアイツの名を叫びながら。

「さかもとぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

−編隊へまっすぐ飛ぶ坂本は護衛戦闘機から見ればいい鴨だ。ミサイルが当たれば一巻の終わり。早く追いついて止めなくてはっ!

だが、そんな叫びも虚しく、
護衛戦闘機であるMiG-29、6機の翼から坂本の撃墜のために複数の旧ロシア連邦時代の装備「R-77ミサイル」が
撃ちだされる。坂本はそこに至って無我夢中の状態からようやく我に返り、ミサイルを必死に避けようとする。
だが、R-77は同時期の米国のAIM-120を超える機動性を誇り、普通の機動では避けられない。
チャフやフレアで幾つかは誤魔化せたようだが、なおも4発が迫っている。
中間指令誘導とアクティブ・レーダー・ホーミングを併用した誘導ミサイルの脅威は確実に迫る。
そして終末誘導に入り、命中せんとした瞬間。北郷の祈りが通じたのか、ミサイルが誰かの手で撃墜される。鈍い機銃掃射の音と共に。

「!?」

坂本は思わずミサイルを撃墜した弾が飛来した上空を見上げる。すると……。

「大丈夫ですか、坂本さん!!」
「……最高速でかっ飛ばしてきたけど、間に合ったようね」
「ああ、まったくだ」
「ふう。ギリギリセーフってところね」

その声に思わず叫ぶ。それはかつての戦友たちの声。宮藤芳佳、穴拭智子、黒江綾香、加東圭子がそこにはいた。

「お前たち……来てくれたのか……?」
「ええ。あなた達のこと聞いてね」

4人を代表して智子が言う。成長した坂本とは異なり、若返っているために坂本も知る往時の姿のままだ。

「し、しかし宮藤はともかくも、お前たちは引退したはずじゃ……」
「未来世界の技術で若返って復帰したのよ。だいぶ大きくなったわね、見違えたわ」

坂本が内気な少女であった頃を知る智子にしてみれば今の豪快な性格は信じられないほどの変化。
不思議な事だが、時の流れを一番感じているのは彼女であった。

 

−と、言うわけで宮藤芳佳は穴拭智子や黒江綾香と共に援護に駆けつけたわけである。
纏っているストライカーユニットは海軍の「橘花」第3次試作型(改良してエンジンの信頼性を高めた)。陸軍軍人である他の2人も同じものを纏っている理由は単に陸軍系ジェットストライカーがその場に無かったこと、橘花があった場所が横須賀に配備されていた空母「大鳳」内部だったためだ。海軍のストライカーユニットの方が洋上作戦を行う都合上、航続距離が長いので洋上での援護には最適だったためだ。

この援軍にもティターンズ側は狼狽えることは無かった。ジェットストライカーといえど第一世代のものでは加速性に問題がある
(第一世代のターボジェットエンジンの共通の弱点。低速からの加速性が悪いというのが初期のジェットエンジンの特徴)のは周知の事実である上、
一般にターボファン・エンジンを搭載する第4世代ジェット戦闘機はターボジェットエンジンの第3世代までとは隔絶した機動性を誇る。
その点を熟知していたからだ。

「君たちは一撃離脱で行け。ジェットはレシプロとはいささか勝手が違う」
「分かりました」

コスモタイガーを駆る編隊長は宮藤達を指揮下に置くとすぐに指示を飛ばす。
ジェットストライカーはまだ作られたばかりで、
ユニットに慣れていないであろうウィッチ達にすぐに巴戦を行なえというのは無理がある事はわかっていた。
だからズームアンドダイブを行うことを指示したのだろう。

彼は西暦2201年以降の制式塗装の濃緑色と明灰白色(俗に言う旧帝国海軍機のそれ)に塗り分けられた機体を駆って、ミグ29を巴戦で圧倒する。
コスモタイガーの強みはマルチロールファイターでありながらも、かつての専用に作られた制空戦闘機と同等以上の空戦能力を備えるところである。
その機動性は通常型戦闘機としては破格のレベル。
ヘッドアップディスプレイ(21世紀頃に一部の機体で採用されたヘッドマウントディスプレイは結局`高価である`、
メンテナンスに時間がかかる`などの理由で普及せず、ヘッドアップディスプレイを代換するまでには至らなかった。
そのため23世紀でもヘッドアップディスプレイは使われている)に表示される敵機のロックオン情報が表示されるとすぐにミサイルを発射する。
最新高機動のミサイルはミグ29を瞬く間に捉え、空に盛大な花火を作る。

「一機撃墜」

「へえ……こうなったら私もっ!」

コスモタイガーのこの鮮やかな空戦に見とれつつもウィッチ達も続く。穴拭智子は橘花の特性をキ44やキ84同様のものとすぐに理解し、
一撃離脱戦法を行った。五式30mm機銃で牽制し、すれ違い様に刀で切り裂く。格闘戦が得意である自身とジェットストライカーの特性を組み合わせた見事な戦法だ。

「ツバメ返し`改`っ!!」

智子はこの時期には一撃離脱戦ではツバメ返し改を、
巴戦では通常のツバメ返しを……といった感じで状況とストライカーユニットに応じて必殺技を使い分けるようになっていた。
経験の豊富さが彼女を成長させたのである。
巴戦に傾倒していた若手時代からは想像のつかない事だ。
ミグもこれにはたまらず撃墜される。これは熟練のウィッチとなればジェット戦闘機とも戦えることの証明でもある。

「ストラトフォートレスは私に任せろぉ!!」

黒江綾香は爆撃機に照準を絞り、急上昇し、B−52Hの真上に陣取ると刀を抜き、魔力を刀の切っ先に集中させ、秘剣雲耀を放つ。
技の熟練度は高く、戦艦大和クラスの大物であっても一撃で一刀両断できる威力を誇る。
14000mの高空にいるB−52Hに対し、それより1,000m上の高度15000mから真っ逆さまに急降下し、そのまま縦一文字に、
鯨を斬る如く胴体から真っ二つにする。叫びながら。

「これが本家大元の秘剣だぁっ!!」

爆発の時にはこう言う時のお約束で決めポーズを決める。黒江の次は芳佳の番。彼女の場合は特に決まった必殺技はないが、
パラレルワールドの自分に当たる存在「武藤金義」中尉が`空の宮本武蔵`の異名を誇っていた事はこの時期には知っていたのと、自身もその異名を襲名していたため、
刀を使うときは二刀流と決めていた。

「久しぶりの実戦だから……今回はアレでいこう」

芳佳は背中に背負う刀を抜き、それを一刀に繋げ、両刀にする。
この刀は以前の戦いの際に菅野から渡された物。格闘戦は得意ではないが、ここぞという時には使うようにしている。
手近のミグ29に斬りかかり、刀を突き刺す。魔力のエネルギーは破壊エネルギーとなり、刀を一旦抜いてから両刀で薙ぎ払う。
これは1980年代の某メタルヒーローと同じ技であった。

「アークインパルスッ!!」

叫びながら技を決める芳佳。これに黒江は思わずほくそ笑み、『コイツに時空戦士スピ◯バン見せたのは正解だったなぁ。今度は何にするか……」

と……よからぬ事を考えていた。そもそも芳佳にこういう行動を教えたのは連邦軍のとあるアニメ好きな兵士だったが、
その噂はいつの間にか黒江にも伝わっていた。なので試しにス◯ルバンを見せたらバッチリ再現しちゃったのだ。ある意味では凄い行為である。

「黒江ぇ〜〜〜〜〜〜!」

「な、なんだ坂本?」

黒江は後ろに恐ろしい気配を感じ、`ギクッ`としながら振り返る。するといつの間に坂本がいた。

「み、宮藤に変なこと教えたのはお前かぁぁ〜!!」
「ちょっと待てっ……なっ」
「待てるかァァァッ!!」

当然ながら黒江は坂本に首根っこ捕まれて激しく揺さぶられたのは言うまでもない。
空戦の最中ながらやってることはほとんど漫才であった。

 

 

−扶桑皇国へのティターンズ空軍の攻撃に対応したウィッチ達。宮藤芳佳は一気に勝負を決めるべく、
両刀状態の日本刀を天に掲げ、魔力で刀身を輝かす。坂本は今度はなんだとハラハラドキドキしながら見つめる。

「行きますよ黒江さん!!」
「おう!!」

芳佳の号令に一言返すと、黒江も日本刀を両手で天に掲げ、魔力を雷が落ちるの如くに迸せ、眩い光が彼女を包む。
坂本は思わず叫ぶ。雲耀ではないのはすぐに分かったが、その技が何であるか彼女にはわからなかった。

「お、おい黒江!お前何を!?」
「宮藤に色々教えちまった責任をとる!!見てろよ坂本!!穴拭、続け!!」
「はいよ!!」

そう。黒江は芳佳にいろんなモノを見せてしまった責任を取るつもりなのだ。
智子も加わって3人で合体攻撃を加えるつもりだ。先陣を切ったのは芳佳だった。
技の名を盛大に叫びながら刀を豪快に振りおろし、炎のように魔力を放つ。

「双ぉぉぉぉぉえぇぇぇんざぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」
「雷ぃぃぃぃぃ光ぉぉぉぉぉざぁぁぁぁん!!」

次いで黒江も同様に技を放つ。これも同様に同じ元ネタの出典元の技であった。

「最後はあたしか……。アイツらがあれならこっちは!!」

最後は智子。智子の場合は前者2人の放った技の上位に位置する超必殺技。
これもメタフィクション的言い方をすれば、智子の宮藤と並んでの「主役の特権」というべき豪華な内容であると言えた。

「超ぉぉぉ弾動っ!!閃煌ざぁぁぁぁんっ!!」

3人が一斉に放った必殺技は一つの『波動』となってB−52Hを複数飲み込み、盛大に爆発を起こし、
衝撃波を辺りに散らす。黒煙に包まれて堕ちていく死の鳥達。それは彼女らの`侍`としての心が起こした奇跡と言っても過言ではなかった。

3人はそれぞれ刀を鞘に納め、取り敢えず任務を遂行できたという笑みを浮かべる。

「やれやれ……アイツらがあんなに意気投合するとはな。思っても見なかった」

坂本は意外な面々が意気投合したという驚きと、宮藤以外にもあのような技を身につけていたのかという感嘆とが入り交じる。
ちょっぴりと羨しい気持ちもある。一方、坂本の師である北郷章香はというと……。

「おおぉ〜あんな技見たこと無いぞ〜!!君たち〜、どうやったんだ!?教えてくれ〜!後で飯おごるから!!」
「せ、先生……」

……と、目を輝かせている。
軍神と謳われた彼女でも宮藤達の放った技は未知のものだ。古より扶桑に伝わるどの技とも違う。
現役復帰の記念に習得してみたいとの気持ちを抑え切れないようだ。

坂本はそんな師の姿に微笑ましさを感じ、笑った。

 

‐F−15J「イーグル」隊は冷戦時代以来の好敵手とも言うべきミグ29とドッグファイトに入っていた。
機動性などは同じ第4世代ジェット戦闘機でありながらも、連邦軍の最新技術による近代化改修の効果で現役当時をも超える、
有り余るほどの余剰推力を手に入れ、
また原型機初飛行時の想定よりも高いGに耐えられるように改修された機体と、
ティターンズ存続時よりもさらに高度かつ、
ある程度の訓練を積んでいれば理解できるアビオニクスが戦闘機全体で共通規格化して普及していること、
可変戦闘機搭乗員も使う最新型の耐Gスーツの威力もあって、
イーグルが優位であった。兵装そのものはほぼ同レベルなのだが、この点で差が出たのだ。

エンジンが唸り、イーグルの巨体が空に華麗に舞う。イーグルの真骨頂はドッグファイトの時の格闘性能。
ミサイルの発達でミサイルキャリアー的な運用も多くなされた本機ではあったが、
(米国などの大国が運用したので、それに対抗できる国が存在しないので、実戦でもドッグファイトはあまり起きなかった)
ここにきて、現役当時に好敵手と目された相手との戦闘でついに設計者たちが想定した格闘性能が発揮されたのである。

「いいぞ……ここだ!」

高度な空戦機動でミグの背後を取ったイーグルのパイロットはヘッドアップディスプレイの照準レティクルと目標が重なる瞬間、
操縦桿のトリガーを引き、M61A2 20mmバルカン砲を撃つ。毎分6,600発という速度を誇る機銃は数秒の斉射で相手の翼を穿つ。
翼がもぎ取られ、バランスを失ったミグは炎上しながら堕ちていく。ミサイルがあまりアテにならない時代では、
こういう巴戦の腕前が戦場での生死を分ける。
すぐに別の目標を探し、追尾する。
翼の日の丸が太陽の光を浴びて映える。それは嘗ての日本陸軍航空隊の伝統を受け継ぐに値する光景であった。
見敵必殺。日本軍航空隊がよく使っていた言葉。
そして指揮官先頭の原則。この時代では再び当たり前となった光景。
指揮官が後方で喚いているだけで給料がもらえた時代はもはや過去となった。
兵たちに認められるには戦略の才能はさるもの、戦術単位でも優れた才覚を見せなければ尊敬に値しないとされる。
尊敬を勝ちとるには前線で戦果を挙げること。イーグルのコックピットで航空隊指揮官の少将はそう述懐した。

「諸君、命令は一つだ。見敵必殺。以上だ」

 

 

 


‐あとがき

今回、芳佳らが使った技の元ネタがわかった人、あなたは相当なアニメ・特撮フリークです(笑)

戦間期エピソードを入れつつ、二期に入ります。

 

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