外伝その19


――ロマーニャへ向かう501+502の扶桑陣営。その途中で、坂本は菅野にふと尋ねた。

「菅野。お前、未来で何やってたんだ?」

「宮藤から聞いてないんスか?宇宙ですよ、宇宙。宇宙戦艦ヤマトに乗ってたんですよ。あの」
「宇宙戦艦ヤマト?あの未来で有名な大和にクソリツな?」

「つーか、大和そのものだよあれは」
「何?」

「向こう側で沈んだ大和を宇宙戦艦に直したのが宇宙戦艦ヤマトなんだ。向こう側じゃ大和型は全部戦没してるし」

「馬鹿な、大和が沈むだと?」

「あんたがそーいう事言うなんてね。坊ノ岬沖海戦やレイテ沖海戦って調べてみ、悲惨だから。それに信濃は向こうだと空母だし」

そう。この世界では大和型戦艦は扶桑の象徴として一般にも大々的に公開され、ウィッチ達の間にも、その圧倒的防御力から、「大和型は不沈戦艦だ」という評判が立っている。長門型や紀伊型戦艦では耐えられないビームにも装甲が厚い大和型は耐えられたという記録によるものだ。しかし菅野は、ヤマトの『前世』を調べたために「大和型とて、沈む時は沈む」事を知っている。坂本もベテランウィッチであるのでそういう事は頭ではわかってはいるが、割り切れないらしい。

「向こう側の日本は燃料不足が蔓延してたから大和型はあまり出せなかったし、1943年以降はベテラン搭乗員が払底、米軍新鋭機への零戦や隼の陳腐化が顕著に現れて急速に制空権も失われていった。それが大和型の寿命を縮めた。それに一級軍機だったしな」

「大和と武蔵は向こうじゃ一級軍機でしたからね。名前だけは有名になってたけど。」

「ああ。それが大和型の最後の晴れ舞台を潰したとも言えるけど、悪くは言えねえよ。あの時の日本は追い詰められてたしな」

大和型が大日本帝国に於いて、一級軍機であった事は芳佳も知っている事。そのため艦隊司令官までもが大和型の性能を知らないという事態が発生した。未来世界では、それがレイテ沖海戦での日本主力艦隊の反転の謎を解く鍵ではないかと言われている。菅野はその状態のままで「レイテ沖海戦」を行わざるを得なかった日本軍の事情に同情しつつも、そのような作戦を連合艦隊の散華にした上層部に対しては批判的であった。

「……うちら扶桑は勝ち戦を経験してきた。それがいいことか悪いことかはわかんねえ。だけど負け戦を経験した奴らのほうが精神的にはずっと強いって事だ。向こうの日本はそれで短期間で復興できた。陸軍の『扶桑海の隼』さんもそれで精神的に強くなったしな」

「加藤武子大尉の事か……。あの人には醇子が世話になったな……そういえば彼女は欧州で活躍してたな戦術的には勝ち戦をしてきたし、あそこまで負け戦をしたのは初めてだろうな……教え子も多数失ってしまったと聞いた」

「ああ。それで精神的に凄く参っちゃって一時は退役まで本気で考えたらしく、元上官の江藤大佐の所に相談にいったって、黒江さんから聞いてる」

「江藤大佐……か。扶桑海の時には世話になったな。加藤大尉は彼女に相談したのか……」

「そういう事。あの人は扶桑海の後は喫茶店を経営して、元部下だった智子さん達が常連だったから、軍の今の事情も知ってた。オレも黒江さんに誘われて行ったことがあるけど、
コーヒーうまいぞ」

「ほ、ほう」
「もしかして、喫茶店って行った事ないの?」

「はっはっはっ。ここ最近は教官任務が忙しくて、ついつい宮藤の家に馳走になる機会が多くてな。喫茶店はリバウにいた時に醇子の奴に無理やり連れて行かれた時が最後だ」

「いいのかそれ……」

「坂本さん、うちの食事をもりもり食べてるってお母さんから聞いてますよ」

「坂本さん……」

「な、なんだ下原、その顔は」

「いやあ、坂本さんもそーいう事するんだと思って」

「リバウじゃ坂本さん、鬼教官で知られてたからなぁ」

「はっはっはっ、安心しろ下原。お前も宮藤と同じ大事な教え子だ。ウィッチとしては既に老兵だが、お前らくらいは守れるさ」

定子が信じられないといった表情で坂本を見つめる。彼女は鬼教官としての坂本しか知らないので、現在の気さくな坂本の姿はむしろ初めて目の当たりにする。芳佳に対する今の気さくさは芳佳と坂本の絆を感じさせると同時に、定子の芳佳に対する羨ましさが垣間見れた。それと同時に坂本は既にウィッチとしては老兵と言っていい年齢であり、この戦いがおそらく坂本の輝かしい戦歴に終止符を打つだろう。坂本には一部のエース達のように『若返る』という選択肢は頭にないであろう事は芳佳も菅野も定子も『分かっている』。だからこそ今度は坂本を自分たちが守ると腹に決めていた。

「まもなくキスカを通過します」

機長の報告がなされる。二式大艇はキスカ上空に差し掛かっていた。





――1945年に戻っていたシャーリーとルッキーニはストームウィッチーズに厄介になっていた。圭子とできた縁を頼っての事だが、ルッキーは「おっぱい星人」な性分なせいで、初日は散々であった。ほぼ全員の乳を触ってしまったため、ストームウィッチーズの面々の逆鱗に触れてしまった。そしてお返しとばかりにティアナ・ランスターのスターライトブレイカーの試し撃ちの標的にされてしまい……。

「初対面でいきなり人の乳を〜!もうあったまきた〜!!」

「ま、待って。ほんの出来心……」
「問答無用!!行くわよ!これはまだ特訓中だけど、いい標的になりそうね」

「え、えぇ〜〜」

「隊長命令だし、悪く思わないでね。スターライトブレイカーぁっ!!」

ティアナのデバイス「クロスミラージュ」からなのは同様の桜色の魔力光が迸る。クロスミラージュからそれが勢いよく放たれ、ルッキーニを飲み込んだ。その瞬間、ルッキーニの「うにゃ〜〜!?」という悲鳴が響きわたったのは言うまでもない。その翌日、シャーリー達はストームウィッチーズの面々に詫びを入れて回るハメになったのだが、ティアナが使った魔法が以前『見た』高町なのはのそれと同じものであったため、個人的に気になったシャーリーはティアナに尋ねてみた。すると、予想通りの答えが返ってきた。


「ええ。あたしはなのはさんと同じ`時空管理局`の人間でした。過ごしてた時間軸は違いますけど」

ティアナはシャーリーに自分が元々は時空管理局の局員だが、なのはとは別の時間軸の人間であると告げる。本来はなのはがほぼ成人した時代に16歳になっている世代の人間で、なのはとは年齢的に3歳下であると。シャーリーは「不思議な巡り合わせだなぁ」と感心し、魔導師からなぜ空戦ウィッチに転向したのか、と問う。

「黒江大尉や穴拭大尉が色々と手を回してくれまして。それで扶桑陸軍に入隊したんです」

「あのお二方か。んな事までできるのかよ……」

「ええ。知り合いに頼んだとかなんとか」

黒江と智子は扶桑海事変以来、エースとして名を馳せ、軍のプロパガンダに多く使われるほどの名声を持つ。おかけで軍のあらゆる方面に顔が利くとの事で、人事方面の人間にも多くのファンを抱えている。それを活用してティアナを入隊させたのが実際の所。シャーリーは対面したあの二人に「そんな力があるとは…」と唖然とした。

「格納庫にZプラスだけじゃなくってゲッタードラゴンまであるのはあの人の趣味か?」

「ええ。ケイさん、帰ってきたらドラゴンまで持ち込んできちゃって……格納庫の拡張大変だったんですよ?新早乙女研究所から整備員も手配してもらったりして……」

「あの戦いのあと、あのドラゴンどうしたのかと思ったら、こんなところにまで持ち込んじゃったわけか……そんで戦況は?」


最近は『例の作戦』があまり上手くいってないせいもあって五部五分ですね。機甲師団の消耗が予想以上で」

「奴さんの機甲師団は強力だもんな。61式からして軽巡が陸をはってるみたいなもんだし」

「ええ。正規軍のものはもう重巡ですよ。この時代の戦車なんてもう赤ん坊みたいなもんですから」

それはこのアフリカで生起するようになった地球連邦正規軍とティターンズの61式戦車同士の戦車戦を指している。同じ61式でも双方の性能には差異が生じている。正規軍のものは兵団戦において戦車の有用性が再認識された後に残存していた生産ラインに改修を加えて再び生産が始まったタイプで、主砲を試験的に200ミリ滑腔砲に換装するなどの強化がなされている。対するティターンズは生産中止時の残存機をそのまま現地改修して用いている。これらが真っ向からぶつかり合う戦車戦ではこの時代の戦車はお呼びでないと言わざるを得なかったちなみにこれまでの戦闘で一番損耗率が高いのが三式中戦車「チヌ」である。この戦車は元々の設計が歩兵直援用に造られていた九七式中戦車「チハ」の発展型にすぎない。ティターンズもそれを承知しており、チヌを「野砲を乗っけただけの棺桶」と嘲笑けり、真っ先に撃破するなどして扶桑陸軍将兵の士気を打ち砕いている。そのため前線将兵からは四式中戦車と五式中戦車などの次世代型の配備を熱望する声が日に日に大きくなっているのである。

「扶桑陸軍なんてメンツ丸つぶれ状態ですよ。火砲や戦車が軒並み通じないんで、高射砲を平射してるんですから」

「扶桑はモータリゼーションはそこそこなんだけど、東條元総理のせいで機甲師団研究が遅れてたからなぁ……機械化部隊の整備もまだまだだし」

「ええ。だからこちとら参ってるんですよ。銀輪部隊なんてあるんですが、それが戦闘ヘリに襲われて殲滅させられたなんて話も聞きます」

ティアナの言葉からは扶桑陸軍にも大日本帝国陸軍同様に機甲師団を軽視する風潮があった事を示していた。それは扶桑海事変の際に最悪の結果として露呈し、大陸側の領土損失という痛手を被った。開戦前の陸軍で主導権を握っていた東條英機中将(陸軍次官。後に総理大臣へ就任)が機甲師団や機械化部隊の研究を怠っていた事で、扶桑海事変の際にネウロイに苦戦し、大陸領土を全て喪失する研究を招いたと生き残り将兵から、批判が巻き起こり、それを重く見た、時の陸軍大臣らの手によって予備役に編入されたという経緯がある。そのため今回の騒乱では地球連邦軍の一部では「扶桑陸軍なんぞ時代遅れの軍隊だ」と嘲る様子が見受けられるという。そのため扶桑陸軍は面子もあって、軍備更新を急いでいるのだが、ティターンズの戦略爆撃や前年冬の東南海大地震で軍需工場に打撃を受けている現状ではそれすら覚束ないのだ。ティアナは戦争の様相がすっかり第二次大戦後に確立された機械化歩兵、戦闘ヘリなどがなどが跳梁跋扈するものへ変わってしまった今では扶桑陸軍の評判は地に落ちたと嘆いていた。その時だ。ヘリコプターのエンジン音が響いてきた。見ると戦闘ヘリである。だが、それは友軍では無かった。

「Mi-24とAH-64Dだ!!」

「馬鹿な……なんで今まで探知できなかったんだ!?」

「ミノフスキー粒子が厚くてレーダーが役に立たなかったんだ!」

防空部隊の怒号が聞こえてくる。戦闘ヘリに懐深く入り込まれたという驚愕と戦闘ヘリで基地を襲撃するという大胆不敵さ。ヘリの航続距離から計算するに、1000kmくらい近くにまで敵は進出してきたのだろうか。防空部隊の高射砲や対空機関砲などが迎撃しようとするが……。

戦闘ヘリから一斉に「AGM-114 ヘルファイア」ミサイルの子孫たる対戦車ミサイルが発射される。どれも旧ジオン軍の「マゼラ・アタック」をも一撃撃破出来るミサイルである。その威力は推して知るべしである。一発が高射砲に命中し、周りのものを巻き込んで木っ端微塵に吹き飛び、近くにあった九五式小型乗用車が爆風の余波で吹き飛んで宙を舞う。

「くそっ、戦闘ヘリにここまで進出されるなんて……」

「ええ。奴らもだいぶ本腰入れて来てますね」

「おわっと!」

12.7 mm4銃身機銃とM230機関砲の掃射がなされる。これが命中すればウィッチと言えど長くはもたない。機銃掃射を必死にくぐり抜けながら、格納庫に逃げ込む。

「ケイさん!」

「もう頭来たわよ!シャーリー、ティア、行くわよ!」

「り、了解!それでルッキーニとマミは?」

「迎撃に出てくれてるわ。Zプラスは調整中だからゲッターGで出る。二人とも早く乗って!」

「は、はい!」

シャーリーは前と同じくライガー、ティアはポセイドン、圭子はドラゴンへ。それぞれのゲットマシンへ乗り込む。

「エンジン異常無し、エネルギーゲージ異常無し。ドラゴン号、異常無し」

「ライガー号、異常無し!」

「ポセイドン号も異常無しです」

『よし行くわよ!ゲッターロボG、発進!!』

ゲットマシンが最大出力で緊急発進し、すぐに垂直に急上昇する。そしてゲッタードラゴンへゲッターチェンジを敢行する。マッハウイングで空を飛び、すぐにダブルトマホークを取り出す。

『よくもやってくれたな!コイツはお返しよ!!ダブルトマホォォォクブーメラン!!』

この頃には圭子もゲッターにだいぶ慣れたため、スーパーロボット乗りらしい技の発声もモノにし、スーパーロボット乗りらしい熱い叫びが出来るようになっていた。以前よりも更にノリノリである。(ちなみにこの技、ウィッチの内、アウストラリス連邦(オーストラリア)出身者から斧でブーメランをするなんてどういう発想だと突っ込まれたとか)

ダブルトマホークブーメランはアパッチとハインドの編隊の内数機をまっ二つし、ドラゴンの手元に戻る。その勇姿を見たティターンズ兵たちはヘリを退避させる。ヘリでゲッターロボには到底太刀打ち出来ないからで、すぐに後続部隊に任せて撤退する。

『ケイさん、レーダーにモビルスーツの反応が!』

『やっぱり来たわね』

上空からメガ粒子砲の弾雨が降ってくる。圭子はとっさにドラゴンの体を反らして回避する。すると空戦型モビルスーツである「バイアラン」の姿が見える。バイアランはティターンズが後期に開発していた機体である都合上、配備数は多くないはずだが、それを投入する辺りはティターンズの本気度が伺える。既に上空ではルッキーニと真美が防戦を行なっているが、ガンダリウム合金の装甲に攻撃が阻まれて苦戦している。

「くっ!!」

ルッキーニがバイアランに「ブローニングM1919」を撃つが、打撃を与えられない。シールドでぶち抜こうにも速度が違いすぎて接触できないのだ。

「ええいっ!!」

真美も40mm機関砲を撃つもの、やはり結果は同じだ。それを腕部装甲で凌いだバイアランはメガ粒子砲を連射し、二人を追い立てる。バイアランのメガ粒子砲はハイザックとマラサイ用のビーム・ライフルの2倍以上の威力を誇っており、この時期に現れ始めた新型ネウロイの甲殻をも貫くパワーを持つ。そのため二人はその火力に押されていた。

「あれに当たっちゃったら一発でお陀仏だよ、ルッキーニちゃん!」

「うん!」

二人は互いにカバーしながら必死の防戦を行うが、武器が通じないというのは大きい。そこへ圭子からの通信が入り、下方からゲッターGが急上昇中するのが見える。ルッキーニ達はひとまずバイアランをゲッターGに任せ、撤退するヘリの追撃に写った。ヘリは逃げ切れないと踏んだか、空戦に打って出た。ハインドとアパッチ・ロングボウという古参の機種だが、ヘリ同士であれば、ある程度の空戦を行えるだけの能力は十分にある。機銃が動き、二人を追い立てる。アパッチ・ロングボウはスティンガーミサイルも撃つ。真美は翼に臨時で設けられたチャフとフレアの散布装置で、ミサイルの誘導を外す。ミサイルの爆発で多少吹き飛ぶ。

「にゃ!?こいつちょこまか動くんだから……!」

ヘリの変則的動きに翻弄されるルッキーニ。ストライカーの方が上昇の際には飛行機同様の機動を取らざるを得ない分、機動に制約がある。互いにホバリングは可能であるが、ヘリはそのまま旋回や上昇などが可能である。なので、熟練者は機銃で動きを拘束しつつ、そのまま回りこんでミサイルを放つという高等戦術を行う。対ウィッチ戦術としては効果的であった。シールドは前面か、注意が行っている方角に貼るのが通例である。低練度のウィッチの多くは思いもよらない方向からの一打で撃墜されているという。だが、そこはロマーニャ空軍を背負って立つと招来を嘱望されているルッキーニだ。とっさに爆煙に乗じて固有魔法を発動。ドリルのように螺旋状に回転しながら接近し、ハインドを貫く。ルッキーニだからできる芸当であった。一方のアパッチ・ロングボウは真美の怪力でロータを折られ、墜落していく。

「うへえ、凄いね真美」

「私の魔法は怪力だしね。これくらいは朝飯前だよ」

「バルクホルンのとはちょっと違うよね?」

「大尉のは肉体強化、私のは重量軽減とかが入り混じってるから。ヘリはまだいる?」

「見た限りじゃいない。それじゃケイさんたちの援護に行こうか」

「了解!」

二人は圭子たちの援護に向かう。あるアフリカでの一コマであった。



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