外伝その52


――ある時、坂本美緒は、情報部から通達されたリベリオン新型戦艦のモンタナ級のシルエットが珍しく、大和型に近いことに気づいた。

「ん?この戦艦、幅がでかくないか?リベリオンにしては珍しいな」

「ん?ああ、モンタナか。あれは従来のパナマックスサイズに縛られていないからな」

「パナマックス?」

「パナマ運河あるだろ?あれを通れるサイズの大きさを指してるんだ。この時代はパナマ運河の重要性が後世より大きいから、戦艦もそれに縛られていたんだ。アイオワがその最たるもんだが、モンタナはパナマ運河そのものを大きくするから、従来のサイズから開放された。そのおかげで、攻防力で飛躍的に高性能化してるから、改大和でも、砲撃戦じゃ互角に持ち込まれる性能があるぞ。紀伊がやられたのは無理ない事だ」

「大和型が完成してから、戦艦の性能レベルそのものがグンと上がったからな……。16インチ砲が主流になるとは思わんだ」

「まあ、核兵器が無ければ、戦艦の発達はもう少し続いただろうから、これは予期できた事さ。16インチ砲が主流になるのは明らかだし、長門と陸奥が出てから20年も経ってるんだ。大和型が18インチ砲積んだのは正解だったわけだ」

黒江は未来世界では、連邦宇宙軍にいるため、事実上は『海軍軍人』である。そのために、本職である坂本よりも戦艦に詳しくなった。その面を見せたために、坂本は型なしであった。坂本は本職であったものの、戦艦にはそんなに詳しくない(航空隊所属であるため)ので、『ぐぬぬ……』と悔しがっていたのだ。

「空母なら本職なのに……戦艦は分からん」

「しゃねーさ。戦艦は大抵の歴史では、1945年を境に絶滅に向かう艦種なんだ。復興は宇宙戦艦の時代までない。核兵器が抑制されるこの世界じゃ存続するから、覚えていて損はないと思うぜ」

「お前、本当に口調がフランクだな。欧州にいた頃はそうじゃなかったって聞いたんだが、本当か」

「ああ。欧州にいた頃は序盤は色々あって、鬱ってたし、親や兄貴達から言われて、口調を気ぃつけてたからな」

―それは、半分本当であるが、半分は嘘だ。扶桑海事変後半部を改変した後は、その際の記憶と自我が抜けたために、黒江当人の記憶は前半部分で止まった状態に戻った上、改変時に参謀本部の不興を買っていたので、片道切符に等しい激戦区に送られたことが理解できずに、軽い鬱病にかかってしまった。当人としては身に覚えがない事だが、参謀本部の高官らへ江戸っ子口調で啖呵を切ったのが映画化され、それが実家の両親や兄達に知られて、手紙で叱責された事もあり、口調を意識していたが、未来世界に行った事でそれが無くなり、21世紀以後の人間のようにフランクで、なおかつ、若干ながら江戸っ子的な物言いになったのが現在の彼女だ。そのカラクリを知っている人間は当事者のほかは、告白された武子や、事変後も付き合いのある、陸海軍改革派の重鎮たちだけだ。

「お前、兄弟いたのか」

「私の上に三人もいる。私は末っ子だから、兄貴達が過保護でな。特に、一番上の兄貴とは10歳近く離れてるから、頭が上がらなかった」

「意外な属性だな……末っ子とは」

「ああ、そのおかげで三番目の兄貴から可愛がられたぜ。上と真ん中の兄貴とは年代違うし、遊びづらかったから、三番目の兄貴とつるんでたんだ」

黒江は、実家では末娘であるため、両親や兄達の過保護っぷりに手を焼いているのを坂本に赤裸々に告白する。そのため、両親からは『23歳を迎えたのだから、そろそろいい婿を』という手紙が送られてきていた。当人はウィッチな上に、職業軍人であるので、結婚するつもりはさらさらない(職業軍人である都合上、家庭を持てない事情があり、数十年後も未婚である)。両親へは縁談を断る手紙を書き、同時に長兄と次兄に、自分を擁護してくれるように頼む手紙を送ったと話す。

「お前も大変だな」

「明治期の良妻賢母の考えを両親世代は叩き込まれたからな。それにウィッチが軍に組み込まれたのは、竹井の爺さんの現役時代中で、つい最近だ。だから、職業軍人を貫き通すのも一苦労なんだよ」

「お前はいいな。気楽でよ」

「私は兄弟が6人もいるし、それと次女だからな。姉さんに家を継ぐのは任せてあるから、気楽に生きれる。お前が家のことで困ったら、私が助け舟を出してやる。これでも海軍将校だ、便宜を図れるだろう」

「恩に着るぜ」

坂本も、意外にも長女でない故に、家の束縛はない事を告白する。扶桑では長子が家を継ぐのが当たり前なのも大きいが、次女である坂本の気楽さは、末っ子でも長女な黒江には羨ましく思えた。坂本はこの時、自由奔放に見える黒江にも、家庭での悩みが存在するのを知り、以後は私事面でも黒江に助け舟を出すようになった。その関係はやがて、坂本が病で他界するまで続いたという。(黒江は坂本の死去の時、飛天御剣流の副産物で、外見の老いを見せない自らと、死亡時の年より多少若い程度の外見の坂本とに横たわる外見年齢の差故の哀しさに、改めて泣いたという)

「そう言えば、お前、ラジオ聞いたか?」

「ああ、紀伊の撃沈のプロパガンダだろ?ニュース映画にもなってるぜ」


――この時期、紀伊が撃沈されたことは、リベリオン本国海軍の戦果としてプロパガンダされていた。リベリオン本国で流されたニュース映画の内容は以下の通り。

『扶桑皇国重要拠点であった呉は、我が海軍の攻撃によって壊滅した。同地を守備していた扶桑海軍戦艦『キイ』は、我が最新鋭戦艦『モンタナ』の前に敗れ去ったのである。扶桑海軍は『キイ』の敗北に多大なる衝撃を受け……』

映像は、モンタナ級戦艦『モンタナ』の勇姿と、威風堂々たる艦隊の威容の空撮、モンタナが砲撃で紀伊を轟沈させる瞬間で構成されており、砲弾が主砲塔天蓋を貫通し、弾薬庫に到達、瞬時に艦をまっ二つに割ってゆく悲劇的光景が映し出されている。紀伊の檣楼が爆発で炎上して前部向けに折れ、遂には船体が大音量と共に折れる姿が。艦齢8年未満の新鋭艦であるはずの紀伊を、モンタナが苦もなく屠った事はリベリオン本国軍にモンタナへの自信を持たせる一方、扶桑皇国には恐怖を呼び起こした。そのため、建艦運動が起こり、それで大和型戦艦の追加建艦の大義名分が成り立ったという経緯がある。この時期、紀伊型はモンタナの登場で、第一戦任務に耐えられないと判定され、その任務を第二線軍艦としての『練習艦』として過ごしていた。この時期がある意味では『元来の戦艦としては最も幸せ』な時期でもあったが、乗員たちは大いに不満を漏らしており、それが翌年の反乱へ繋がっていくのである。

「土方から聞いたが、紀伊が失われたことで、建艦運動が起きたんだと。なんでだ?」

「大和型は通常戦力としては最高戦力だ。大和と武蔵は公表されてるが、信濃以降は秘匿されてる。それで起きる。信濃と甲斐は明日辺りの新聞に載せるそうだ。国民の不満を抑えるためだ」

「どうやって公表するんだ?」

「観艦式どころではないから、新聞社の連中に停泊中のところを見せるんだろ。それと追加建造の大義名分も立ったから、来年の予算で調達される見込みだ」

「大和型が基準になる時代か……。どの辺が凄いんだ、あれ」

「あれは未来世界から見ても『完成度が高い』所だよ。バイタルパートもよくまとまってるし、小さく作った。だが、それも航空機と潜水艦の時代だと裏目に出たがな」

「つまり、過度に集中防御に拘りすぎたのか?」

「まあ、大抵の世界じゃ、日本は280m以上の戦艦を調達できる国力がなかったからな。集中防御は砲撃戦の理論的に間違っていなかったけど、航空戦だと間接防御をもっと厳重にする必要があったんだ。それで改大和型はミサイルやCIWSを載っけて、隔壁の増大や注排水装置の近代化をしたんだよ」

「なるほど」

「あと、副砲は取っ払った」

「なんでだ?」

「ミサイルのほうが中小艦艇には即応性あるし、副砲の防御は薄いからな。そこに戦艦主砲弾が飛び込むのは危険なんだと。それで廃止したそうな」

「なるほど」

改大和型は副砲が廃され、代わりに装甲部にミサイルランチャーが備えられ、CIWSが高角砲の代わりに配置されている。総合戦闘力は世界最高レベルだ。だが、船体の素のスペックでモンタナに肉薄されているのが扶桑軍の悩みどころであった。

「しかし、モンタナはスペックを見ると、大和型に匹敵する装甲を持つ。欧州の戦艦では危険だぞ」

坂本もモンタナのスペックを見る限り、ほぼ大和型に匹敵する防御力を有していること、40cm砲12門の大火力は欧州の大抵の戦艦を凌駕している事から、欧州の戦艦では戦力不足な事を指摘する

「ああ、欧州は戦艦を『艦隊決戦で使うための兵器』として必ずしも捉えていないからな。欧州諸国は植民地への示威も兼ねてるのと、数を揃える必要があったから、個艦性能のレベルにこだわる事がさほどなかったんだ。だけど、日米海軍は艦隊決戦用に特化した進化をさせたから、個艦性能じゃ欧州戦艦の比じゃないバケモノが生まれた。その究極点だよ、モンタナと大和は」

「随分、詳しくなったな」

「真田さんから聞いたり、図書館で漁ったからな。ミーナ大佐もある程度は知ってる。そうでないと司令官は務まらないからな」

黒江の言う通り、ミーナは敵艦として現れるであろうモンタナ級に頭を悩ませていた。鉄壁の防空網、艦砲の大火力……ウィッチが近づこうものならば蜂の巣にされるであろう、『Mk33 3インチ砲』を備えると推測されており、ウィッチや艦上攻撃機の攻撃を寄せ付けないだろうと悲観的予測が大勢を占めていた。特に近接信管の威力は、防弾に優れる双発・四発爆撃機すらも一瞬で火達磨にするほどのものであり、扶桑・ブリタリアなどの有する如何な在来型単発レシプロ攻撃機も避けつけないからだ。

「近接信管、か……科学の発達は良し悪しね」

「しかしミーナ、嘆いていても始まらんぞ。ヘタすれば奴らはロマーニャ沿岸部を破壊し尽くすんだ。打つ手を講じないと、多くのウイッチの命が無辜に失われていくんだぞ!」

「分かってるわ。でも、海上ではロマーニャ海軍は物の役に立たないくらいに疲弊してるし、カールスラント海軍は水上艦が無い。ブリタリアと扶桑しか頼りにできないのが難点なのよ」

「うむ。我が海軍は前大戦で大型艦の大半を失い、バダンの連中から分捕ったティルピッツを買い取る始末だからな。それに今はXXT級潜水艦の建造に全力を使っている。水上艦を作る余裕はない……」

「実質、今度の防衛作戦の主力はブリタリアと扶桑海軍で、航空戦力については扶桑軍主体よ。ブリタリア海軍航空隊は陣容としてあてにならないから」

「ああ、ブリタリア海軍航空隊は予算不足で、空軍のお下がりが主体だからなぁ。我々よりはマシだが、あれではな」

ブリタリア海軍航空隊の脆弱性は、ミーナとバルクホルンがおおっぴらに言い合うほどのものであった。ブリタリアは空軍派閥が幅を利かせていたため、海軍航空隊は空軍のお下がりの機体で戦う有様である。その解消のために、地球連邦軍からの援助でシーファング、シーフューリーの配備に成功したものの、扶桑海軍は更に二歩も先に行っており、ブリタリア海軍は相対的に旧態依然とした部隊なことを露呈した。そのため、既にジェット戦闘機の配備を行いつつあるリベリオン軍や扶桑軍に比しての戦力不足は否めなかった。


「防衛作戦の主力は扶桑になるだろうが、それでブリタリアが納得はしないでしょうね。本国艦隊を動員してまでねじ込むだろうけど、どうだが」

「ハルトマンがグレートマジンガーをいざという時のために呼び寄せておいたそうだが、手際良いやつだ」

「でも……安易に彼の力を宛てにしたくはないわ。彼、剣鉄也の愛機『グレートマジンガー』の力は、まさに『偉大な勇者』。だけど、この戦いは……私たちウィッチの戦い。スーパーロボットに頼るのは最後の手段にしたいの」

「ミーナ、お前は負い目を持っているのか?彼らの手厚い支援に」

「それもあるわ。だけど、安易に彼らに頼らない戦い方を模索しなければならないのも事実よ。敵機の資料をリーネさんに持ってこさせて頂戴。数時間後に模擬戦闘訓練を行って、敵機の性能を把握します」

「了解だ」

ミーナはスーパーロボットを始めとする支援に安易に頼る事を避け、自らの力を高めるという至極当然な選択を取った。既に著名ウィッチの多くを配下に収める形となった以上、それなりの成果を見せる必要があると痛感していた。その方針なため、温存されている機体があったりする。


――501はスーパーロボットは持ってないわけではなく、マルセイユの着任が妨害により遅延していると報告されているため、先にストームウィッチーズ所有の機動兵器が搬入されていた。その内の一つが『量産型ゲッタードラゴン改』であった。これは、ミケーネ帝国が得た、『真ドラゴン』の一部であったと推測される個体を鹵獲し、リペイントと改修したもので、ストームウィッチーズが前年から運用テストを行っていた機体だ。カラーリングはオリジナルのゲッターロボG同様のカラーに改められ、操縦系はネオゲッターロボと同様に改造されている。だが、スーパーロボットの力を安易に行使するのを良しとしない方針により、搬入はされたものの、使用はされていない。ただし、シミュレータの使用は許可されてはいるため、格納庫ではシミュレータによる合体訓練が行われていた。

『チェェンジッ!!ゲッタードラゴン!スイッチオン!!』

この日は菅野がドラゴンを、ライガーをジョゼが、ポセイドンをクルピンスキーが操縦するという内容で、スーパーロボットは叫び声も重要(音声入力なため)、羞耻心をかなぐり捨てなくてはならず、菅野はともかく、他の二人が多大な苦労を強いられていた。

『次はお前だぞ、ジョゼ」

『え、えぇ〜!し、しょうがない……やるしかないな……』

ジョゼは大人しめな性格なので、スーパーロボットは性に合わないようだが、いざという時のための訓練なので、やるしかないのだ。菅野がオープンゲットを敢行したと、同時に叫ぶ

『チェェンジ・ライガー!す、スイッチオン!!』

いささか羞耻心の残る叫びでああるものの、ゲッターチェンジは成功し、ライガーになる。ジョゼとしては、細身のフォルムなゲッター2系統は好きでは無いようだが、ドラゴンや真ゲッター1のような汎用型形態は接近戦に精通していなければ扱えない故、ゲッター2に宛られた。キャラ的には弁慶や武蔵、大道剴ポジなので、3に宛がう事も考えられたが、ジョゼが心外だと怒ったので、2になったのだ。

『ふう。なんでいちいち、アクションのたびに叫ばないといけないんですか?喉に来ますよこれ……』

『しゃーねーだろ。スーパーロボットってのはそういうもんなんだぜ。ボイストレーニング積んどけよ。スーパーロボットに乗るには必須なんだし』

『歌手でもないのに、ボイストレーニングかぁ。喉枯れるの嫌だし、やるかなぁ……』

シミュレーターのコックピット内で愚痴るジョゼ。格納庫に鎮座する、ドラゴン、ライガー、ポセイドン号は501の秘匿兵器である。ミーナの意思により、いざという時以外の安易な使用が控えられているが、訓練のみはきっちり行われていた。持ち回り制でシミュレータ訓練が行われているため、この次の日は、圭子、黒江、智子の三羽烏であるらしい。

『でも、まさか合体ロボを使えるとはね。楽しくてしょうがないよ』

『だろ?伯爵』

『はぁ……』

合体ロボというのはまさかの体験であるが、訓練はこなす502の三人。そんなこんなで日は過ぎていき、8月下旬、遂にティターンズは第七艦隊と第三艦隊という、リベリオンがり渡した実働部隊の過半数を投入して、ロマーニャ公国の制海権掌握に動いた。連合軍も三笠型戦艦二番艦「富士」を中心に、戦力をかき集めて対抗した。501は合流したストームウィッチーズの残りのメンバーも動員して、海戦に参陣した。


――連合海軍 旗艦「富士」兵員室

「挨拶もまだ済んでないというのに、即刻、実戦か。上も人使い荒い事だ」

「敵の動きがこんな急激なんて、誰も考えてなかったのよ。予定されていた基地航空隊も半分しか展開が間に合ってないし」

「ということは、向こうのほうが数多い可能性が大だな。向こうはミッドウェイ級が二隻、エセックス級で18隻は動員してるって言うじゃないか」

「マジかよ。その、ミッドウェイってどんな化け物なんだよ」

「ちょっと改造すれば、ジェット戦闘機が優に64機は積めるくらいの空母だよ。多分、その改造が済んでいれば、ブリタリア海軍は一捻りされかねねーな」

「嘘だろ?ジェット戦闘機載っけただけで、在来型空母が相手にならないって」

「ジェット戦闘機の火力を甘くみんな、エイラ。ミサイル一発で駆逐艦程度なら大破させられるんだぞ」

「でもさ、未来行ったあんたらや、ハルトマンやシャーリーはともかく、私達はジェット戦闘機の対艦戦闘を見てねーんだ。どうも実感が沸かねーんだよ」

「確かに。だが、味わってみれば分かる。空対艦ミサイルを食らえば、この時代の大抵の空母は一発で大破炎上しかねない。土手っ腹ぶちぬいて来るからな」

「ああ、あれは恐ろしい兵器だ。駆逐艦なら轟沈、巡洋艦でも軽巡なら中破以上は確定、耐えられるのは戦艦だけだ。私はここに来るまでに何度か見ているからな」

「アフリカの星のアンタがそこまでいうなんてな……。サーニャのフリーガーハマーを極限まで発達させたような代物を生きてる内に味わうなんて、夢にも思わなかった」

「みんな、ミサイルの回避手順は頭に叩き込んだな?出てる連中と交代交代で直掩を行う。津木のローテーションの指揮は中佐、君が取ってくれ」

「了解だ。ハルトマン、エイラ中尉、サーニャ中尉、リベリアン……もとい、シャーリー大尉は私の指揮下に入れ」

「了解」

5人ごとのローテーション制で艦隊直掩を担当する501。人数が更に増したため、メンバーは流動的になっているのが伺える。戦闘は生起していないが、予定兵力の半数しか基地航空隊の展開が間に合わなかった故、いささか心伴い支援態勢であるのは否めないが、扶桑海軍の動員された空母はミッドチルダ動乱を戦った精鋭揃いであった。旗艦として、近代化改修も済ませた太鳳も戦列に加わっており、F8Uを艦載機にしているので、事実上はこれが通常戦力としては、最新最高のジェット戦闘機であった。ブリタリアの空母の大半がシーフェーリーやシーファングなどのレシプロ戦闘機しか積んでいない(それでも彼らにとっては最新鋭だったが)のに比して隔世の感がある。そんな姿に安堵しつつ、マルセイユは富士の甲板に出て、帰還してきたミーナたちと交代する形で、大空へ発進していった。




――黒江の予想通り、ミッドウェイ級はジェット戦闘機を積んでいた。しかも、エセックス級に積まれたそれよりも新式の機種である『F3H』、『F-11F』などである。それらは今か、今かと発進の機会を覗っている。ティターンズ海軍が攻勢をいきなりかけた理由は、それらのコピー、配備と訓練が完了したからであった。艦隊旗艦のミッドウェイ級は史実で言う所の二回目の改装である、『SCB-101/66』改装後の姿であり、早くも第3世代以降のジェット戦闘機の搭載をも見越しているのが分かる。ミッドウェイ級は大海原を往く。この1940年代ではあり得ないはずの機体群を積み込み、戦場へ。飛行甲板で胎動する『F3H』は、時代を10年近く先取りしたのが分かるジェットエンジンの鼓動を響かせる。蹴散らすべきロマーニャ空軍の機体を捕捉し、カタパルトを使って打ち出されていく……。それは史実で掴めなかった戦功を得るための咆哮と言えた。



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