外伝その67


――グレートマジンガーの調整は進められていた。各部の性能アップデートも行われ、概ね技術発展を加味し、概ね性能は一段上となった。これはプリベンターが軍需産業から接収したブラック・グレートからの逆スピンオフで、ジェネレーター配置などの駆動系のレイアウトが改善され、より効率的にエンジンの性能を引き出せるようになったからだ。

「随分、ブレーンコンドルのアビオニクスを入れ替えましたね?まるでカイザーパイルダーだ」

「大分、古ぼけてきてたからね。ブラックグレートのほうが製造年代の都合で、より世代の進んだレイアウトだから、それを参考にしたよ」

「なるほど。ん、グレートブースターは大分変わりましたね?」

「グレートブースターU。以前に君が使ったものに比べて、コンセプトが様変わりしている。宇宙戦闘能力の強化が主だから、体当たり兵器としての利用は二次的になった」

グレートブースターUは元祖と比べると、宇宙戦闘用追加装備の体裁が強まっていた。マジンガーの装備かしらぬ、後退翼にウイングレットを持ち、エンジン部にかけての胴体部が大型化していた。光子力ロケットの推力を増した事が一目で判別可能なノズル、レーザー発生器であったり、増槽であった翼下の部品が完全に攻撃用ミサイルに(弾頭は反応弾の一種)なっているなどの差があった。

「ブースターミサイルは反応弾の一種が弾頭だ。宇宙では、反応弾も戦術単位の兵器に成り下がるからね」

反応弾も今や、絶対的な切り札足り得ない事は西暦2201年の段階では周知の事実であった。その為、スーパーロボットの武装などに限ってであるが、宇宙での装備が許可された。(地上では核弾頭並の威力がある通常爆弾)

「いいんですか?反応弾なんて」

「地上では、光子力を応用した通常弾頭だ。それでも昔の水爆に比肩しうる破壊力だがね」

そう。光子力エネルギーを破壊に転化させれば、ミサイルの炸薬に注入しただけの量でも、かつてのエルゲラブ島を破壊した最初の水爆に匹敵しうる爆発エネルギーを発揮する。これはおおよそ、広島型原爆の750発分に相当するものだ。だが、これでも将軍級のメカには致命打に成り得ないと危惧される辺りは、百鬼帝国やミケーネ帝国残党の戦闘能力が伺いしれる。

「何故、戦術級では威力過剰なミサイルを?」

「兜博士はデビルマジンガーは核爆発級のエネルギーをも食いつくせると踏んでいる。だから爆発エネルギーを吸い尽くす瞬間に攻撃をかけるというのを構想しているのだ。グレートブースターの速度アップはそのためでもある」

嵐山長官はグレートブースターUが持つ『もう一つの役目』を告げる。それは対デビルマジンガーへの攻撃手段というものだ。初代の体当たり攻撃が完全には撤廃されなかったのは、その目的があるからなのだ。

「ドクターヘルの新しい体はそんなに強力なのか……まったくもって、信じられませんがね」

「私とて、半信半疑だった。しかし、ドクターヘルが先の戦争で各地の部隊を襲う内に、MSの核融合炉の全エネルギー、はたまた魔道士の砲撃のエネルギーを何度も吸い尽くす光景を目の当たりにして、確信へ変わったのだ」


「それほどのバケモノ、兜十蔵博士はなぜきづけなかったのです?」

「『作ってみたら欠陥が分かった』という類型だったのだ。それでそれに気づき、どこかへ封印したのだ。マジンガーZを用いても破壊できないような構造の構造物へ。だが、それはあしゅら男爵によって発見され、持ちだされ、ドクターヘルの体となったのだ」

あしゅら男爵の諜報力は再生してから磨きがかかり、デビルマジンガーを得る事に成功した。それを打ち倒すための方策を死に物狂いで考えている兜剣造は、グレートブースターUに体当たり能力を持たせたのだ。

「あいつ、前の時は連戦連敗で、ドクターヘル軍団の幹部の中でも三下扱いだったくせに、妙に有能ぶってやがるんだからな」

「いや、おそらくだが、一度死ぬことで、母体となったミケーネ人の肉体の記憶が目覚めたんだろう。男女双方の、ね。そうでなければ、生前に考えつかない策をするはずがない」

あしゅら男爵はドクターヘルがミケーネ人の夫婦のミイラをつなぎ合わせて再生したという経緯を持つ。一度死ぬことで双方の半身の記憶が蘇り、『生前』とは比較にならないほどに有能な人物と化したと推測する嵐山長官。あしゅら男爵当人が聞いたら、憤慨モノだ。あしゅら男爵の前世がなんであるのか?それは闇の帝王しか知らぬことでもあるのだ。

「長官、グレートブースターUの整備完了いたしました。いつでもいけます」

「よし。鉄也くん、時は来た。グレートマジンガーを出動させ、巨人たちの亡霊を叩き潰せ!」

「OK!」

命令を受けた鉄也は、勇んでブレーンコンドルに乗りこむ。エンジン起動ボタンを押し、暖機運転をする。

『ブレーンコンドル、スイッチオン!』

ブレーンコンドルの抑止ロックを解除し、勢い良く射出されると同時にグレートマジンガー本体が発射台にセットされる。海中から飛び出したブレーンコンドルから、鉄也は毎度おなじみのキメ台詞ともいうべき、マジンガーの射出コードを叫ぶ。

『マジーン・ゴー!』

海中のスーパーバルカンベースから射出されたグレートマジンガー本体とブレーンコンドルがドッキングする事で、グレートマジンガーの起動スイッチが入る。

『ファイヤーオン!!』

ブレーンコンドルがグレートの頭部に合体し、操縦席が90度ほど回転し、コクピットとなり、双眼に光が灯る。同時に鉄也は背部の翼を展開し、飛行に移る。

『スクランブルダァ―ッシュ!』

それと同時に、ドラえもんのどこでもドアのテクノロジーを現在の科学で解析した、ワープゲートに向かって突っ込み、グレートマジンガーは戦場へ転移していった。


――グレートマジンガーが、Zよりも軍事的に評価される点は、『自前で自機を戦場へ空輸出来る』というところである。スクランブルダッシュの耐衝撃性の弱さは複雑な折りたたみ式である故の難点であるが、オプション無しで飛行可能というのは、運用側の利便性の点でも大きく、ゴッドマジンガーの開発会議で、議論の末に改良型スクランブルダッシュが採用されるほどであった(弓教授はスクランダーを推し、兜剣造と宇門源蔵はスクランブルダッシュを推して議論となったとか)という。




――グレートマジンガーが意気軒昂と出撃するが、戦場ではティターンズ側の必死の攻撃もあり、被害が続出した。


「ああ、アーク・ロイヤルが!」

リーネが悲鳴を挙げる。本隊のレシプロ機搭載空母「アーク・ロイヤル」がA-1スカイレーダーの2000ポンド爆弾を飛行甲板に受け、甲板上の搭載機の弾薬に引火、火災を起こす。同時に魚雷が当たり、傾斜していく。

「まずい、二発目をなんでもいいから阻止するんだ!爆弾じゃ、そう易々と沈没しないけど、魚雷だと沈むぞ!」

「は、はい!」

シャーリーの指示に、慌ててリーネは海中を疾駆する魚雷にライフルを見越し射撃で放つ。2発目で命中し、アーク・ロイヤルの撃沈は阻止したものの、甲板は地獄絵図であった。2000ポンド爆弾は装甲化されていない戦前世代の空母である、『アーク・ロイヤル』の飛行甲板を破壊し、艦内を上から丸見えにするほどの大穴を穿った。火災をなんとか消し止めたものの、甲板要員の多くの焼死体が散乱し、シーファイアなり、フルマーの残骸が無断に転がり、島型艦橋の要員も多くが怪我をし、傾斜は阻止できたが、もはや空母としての役目を果たせないのは目に見えて明らかであった。

「……!おぇえ……!」

上空から無残な死体を目の当たりにしたリーネは吐き気に襲われる。気質的に歳相応の少女でしかない彼女には、真の意味の戦場の光景は残酷過ぎたのだ。

「これが『戦争』なんですか……!?これが人同士の殺し合いなんですか……!?これが……!?」

「リーネ……」

悲惨な現状を受け入れがたいらしいリーネ。シャーリーは思わず言葉を失うのであった。彼女らのもとに、坂本や芳佳らが補給を受けている空母『天城』が攻撃を受けたという凶報が舞い込んでくる。



――ブラックタイガーに伴われての激戦の内に機銃が弾切れになった坂本は、黒田、芳佳、菅野の三者と共に、空母『天城』で補給を受けていた。坂本は上がり間近である都合、魔力の回復速度が遅く、魔力の回復が早い他の三人が40分後に直掩をする形で発進準備を進めていたが……。

「あ、あれは!?」

「コアブースターだと!?落とせ!、坂本さんが発進準備中だ!なんとかして落とせ!」

「でも、この装備じゃ落とせるか分からないよ!?」

「無理でもやれぇ!坂本さんはもうシールドを使えないんだ!やられたら終わりだ!それにコアブースターのメガ粒子砲が天城に直撃でもしてみろ、船ごと俺達もぶっ飛ぶぞ!」

「わ、わかった!(ました)」

三人は必死に、手持ちの99式20ミリと『ホ5』20ミリを撃ち、急降下してくる一機のコアブースターを迎撃するが、この時代の如何な戦闘機よりも数段頑強な構造と装甲を持つ(ルナチタニウム製)コアブースターには、魔力で初速を強化したとしても打撃を与えるには至らず、100発を打ち込んでようやく煙を吹き始めるが、その時には、艦へ特攻の直撃コースに乗っていた。

「クソぉ、落ちねぇ!」

「まずいよ、あいつは船に突っ込むつもりだよ!?」

「え!?そ、そんな!?!?」

「……クソッタレ!向こう側の桜花か何かのつもりか!っ……うわあ!?」

「うわあ〜!?

「きゃあぁああ!?」

最後にアフターバーナーで音速を超えたコアブースターは三人を置き去りにし、衝撃波で吹き飛ばすと、一気に天城への突撃経路を取る。天城の高角砲と機銃主体の、近接信管すらない、旧式な対空砲火ではコアブースターへ直撃弾を与えられないどころか、見当外れのところに高角砲が炸裂する始末であった。

「だめだ、当たるぞ!?」

「総員、何かに掴まれ!」

杉田艦長は直撃を覚悟し、号令する。甲板で発進準備中の坂本は、コアブースターを凝視し、自らの無力を恥じる。

(すまない、ミーナ。宮藤、それと黒江達……私は艦の危機にどうする事もできない……私にもっと、もっと力があれば……!)

超音速で突っ込むコアブースター。誰が見ても直撃コースだ。坂本はストライカーを脱いで艦内に入る隙がない事を悟り、自然と体が硬直してしまうのを感じる。そして、特攻間近にコアブースターのメガ粒子砲の砲口に光が宿る。破壊の補助に使うつもりだろう。

「坂本さぁぁぁん!!」

芳佳のこの世の終わりのような悲鳴が坂本の耳のインカムに入る。坂本はこの瞬間、死を覚悟したのだが……。

――その時だった。突如として、空から雷槌がコアブースターへ降り注ぎ、轟音と閃光と爆炎が天城を包み込んだ。

「坂本さぁぁぁぁん!そ、そんな……。」

その爆炎と閃光を目の当たりにした芳佳は絶望し、ショックで体から力が抜けてしまう。

「ごめんなさい……。私、何も守れなかった……約束したのに……お父さん、坂本さん……」

涙混じりに、天城に近づく。嗚咽混じりに、亡き父や坂本へ謝罪する芳佳だが……。

「え……?」

爆炎と爆煙が収まり、天城の姿が確認できるようになるが、天城は無傷であった。違うのは、天城の直上に一機の機動兵器がホバリング状態で静止しているのが見えた。

『諦めるな。まだ希望はある、希望がな!』

雷槌が轟き、その主の姿をはっきりと曇天の空の中に浮かび上がらせる。芳佳にとっては、この時が『偉大な勇者』との初めての邂逅だった。

『剣鉄也、グレートマジンガーにて、推して参る!!』

「ぐ、グレートマジンガー……?」

「あーっ、鉄也さん!どうしてここに!?」

『おう、那佳ちゃん、久しぶりだな』

「え、黒田さん、知り合いなんですか?」

「知ってるも何も、私や先輩達の未来世界での研修先の部隊の同僚だよ……。って、なんでグレートと鉄也さんがいるんですか?」

『エーリカちゃんが俺を呼んだのさ。俺の派遣は極秘事項だから、幹部級にしか知らされていないというから、那佳ちゃんのところまでには降りていないはずだ』

『んじゃ、先輩達は知ってたんですね?』

『そういう事だ。まぁ、俺が参戦を示唆したら、ミーナ中佐はあまりいい感じを抱かなかったが』

「なんでですか?」

『グレートの力はこの時代のあらゆる軍隊を薙ぎ倒すのには十分すぎるし、MSとも比較にならん。だから、安易にグレートに頼りたくなかったんだろう』

「なるほど〜。ん?あれ、芳佳は?」

「宮藤なら、今さっき、坂本さんのとこにいったよ。あんにゃろー、盛大にぶっ飛ばしてくれやがって。あれ?鉄也さん?なんでここに」

『オッス、直ちゃん。お前も綾ちゃんとこの部隊にいたんだったな』

「お久しぶりッス。グレートが来たなら百人力だけど、ミーナ隊長は知ってるんすか?」

『これから否応無く知るさ。グレートは目立つからな。さて、君の上官にご挨拶と行くか』

鉄也は機体を降下させ、坂本の前に姿を現す。グレートの威容に唖然とするが、グレートが味方である事を知らされ、ひとまず安堵する。

「君がミーナの言っていた『スーパーロボット』のパイロットか?」

「剣鉄也だ。よろしく」

「先程の名乗り、随分時代がかった物言いだったが?」

『昔の世代だと聞いていたから、つい、な。さて、敵が来たようだ。ここは任せろ』

鉄也は、グレートを飛び立たせると、すぐに戦闘に入る。グレートの放熱版を取り外し、ブーメランにする『グレートブーメラン』を投げ、その軌道にドダイ付きハイザック一小隊を入れ、斬り裂く。更に別の編隊が襲いかかってくるが、超合金ニューZの重装甲はザク・マシンガン改を物ともせず、逆にニーインパルスキックで串刺しにされるわ、バックスピンキックで胴体から斬り裂かれるなどの圧倒的な強さを見せつける。

「す、すご〜い。MSを、まるでおもちゃみたいに……」

「いけ〜そこだ〜!」

「鉄也さ〜ん、ここはアトミックパンチ、アトミックパンチ〜!」

黒田と菅野はまるで子供のように、グレートを応援している。グレートの強さを知っている故だが、あありにも子供じみているため、坂本が諌める。

「お前ら!まだ戦闘は終わってないぞ!補給して、とっとと行って来い!」

「り、了解!」

「まったく……」

『まぁ、元気があるのはいい事だ。君は出ないのか?』

「さっきの爆発の爆風で倒れた時に、私の機体は過給器がイカれたらしくてな。しかし、さっきの攻撃は何だったんだ?雷を操って当てたように見えたぞ?」

『サンダーブレークの事か?その通りだ。ダブルで発動もできるし、たしか、綾ちゃんはコピーして撃てるぞ』

「何、本当か?あいつの向上心には頭が下がるよ……」

『さて、道を切り開くか。坂本少佐だったな?耳を塞いでろ。鼓膜破れるぞ』

鉄也は耳を塞くよう、坂本に言うと、サンダーブレークの態勢に入る。ダブルでだ。ダブルサンダーブレークの場合は、シングルの場合と違うポーズで電気エネルギーを増幅させるので、威圧感たっぷり。坂本はグレートが『雷を操る』魔神である事を再認識する。

『ダブルサンダーブレーク!!』

ダブルサンダーブレークの威力はシングルで発動した場合の倍に相当し、並のMSや戦闘獣、百鬼メカであれば一瞬で消し炭になる。その射線にいた戦闘機、MSは全て消し炭となる。しかも残骸は一部が溶解している状態で落ちてゆく。芳佳、黒田、菅野の三人の道を切り開いたグレートは自らも続く。


――グレートマジンガーの参戦は501と連合軍には福音であったが、ティターンズに取っては『悪魔が来りて笛を吹く』も同然の凶報。慌てふためくティターンズだったが、彼らもついにジョーカーを切る。ティターンズの空母の甲板に迫り出すG-Xと、ガンダムTR-1[ヘイズル改]イカロスユニット型、ガンダムMK-Uの4号機と思われる機体にブースターポッドを増設した高機動型などだ。ガンダムTR-1[ヘイズル改]イカロスユニットを何故、彼らが持っているのか?それは同機が少数であるが、量産されていたという事実の証明であり、ティターンズ残党はオプション装備を再現したのだと認識させられる事実でもあった。



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