外伝1/行間『ミーナの調べもの』


――ある日、ミーナは書類を確認していた。それは黒江の経歴書だ。模擬戦で見せた『トールハンマーブレイカー』のビジュアル的インパクト、。ペリーヌはあくまで、『魔力を電撃に変換する』固有魔法だが、黒江のそれは『召雷し、そのエネルギーを風と共に叩き込む』攻撃であり、電撃のレベルが違うのだ。

「美緒の言っていたのが信用出来ないわけじゃ無かったけど、裏は取れたわね。反骨精神故に、本国で飼い殺しを経ての激戦地送り、更に未来世界の激戦地送り……凄いわね」

そう。黒江は歴史の改変後、その反骨精神を危険視されたが、陛下の覚えめでたかったために、飼い殺しの後に生存率の低い激戦地送りにされたという経緯を持つ。だが、それでも生きて帰ってきたので、『その厄介払いに未来に行かせたら、手に負えないレベルになった』ので、陸軍は空軍にほっぽり出すのである。後の空軍設立に反対しなかった陸軍だが、本来なら功績十分な黒江の移籍を惜しんでいないのは、扶桑海事変での行為への恐れがあったからだ。

「彼女ほどの功績があれば、軍の高官に十分なれるはず。なぜ、未だ少佐なの?」

「黒江少佐は疎まれたんだよ、上層部に」

「え、エーリカ」

「扶桑海の時に、あれこれ政治的にやらかしたから、陸海軍を問わずに恐れられたんだよ。少佐はその気になれば、『お上』にも拝謁できるからね」

陛下を『お上』と表現する当たり、日本に染まってきたハルトマン。鉄也の影響か、珍しく真面目モードだ。

「これは極秘事項だけど、少佐は若返って、力を戻したウィッチ、『リウィッチ』なんだ。一度上がりを迎えたのを、未来の時間操作技術で若返って、力を戻した。そこから色々あって、『恒久的な魔力』を得たんだ」

「それは知ってるわ。でも、それだけであそこまでの魔力を持てるとは……」

「少佐は努力家だからね。最初から、あんな力を持ってたわけじゃないさ。辛いことがあって、それを繰り返したくないから、仮面ライダーのみんなにすがったんだし」

そう。黒江が仮面ライダー達を兄のように慕い、彼らのような強さを渇望していること、時々、彼女の中に現れる『別の時間軸の同一人格』が言及した『何者も斬り裂く、勝利を約定せし聖剣』のことも知っていたハルトマン。そのため、黒江の事を説明する。ある意味では、坂本よりも『一歩進んだ』情報を持っているからだ。

「少佐を疎んじてる人間は多いよ。個人的にお上の信頼を得てるから、お上や皇室を崇拝してる過激派からは敵視されてるし、大臣経験者とか、要職経験者の大将、中将級の連中の多くも『若造が!』と疎んじてる。地球連邦の権益に適うように根回ししてるから、それが結果的に扶桑の国益に適ったものでも、『扶桑を植民地化させている』って思われてるから、この間なんて、陸軍の過激派に襲撃されたってさ。返り討ちにしたけど」

「身内同士で殺し合いなんて、よくできるわね」

「昔はどこの国だって、普通にあったことだよ。フランス革命とか、ばら戦争だって、内戦じゃん」

ハルトマンは『未来帰り』なため、殺し合いに対してはドライになり、バルクホルンの言う裏の顔が表に出てきている。また、この時には飛天御剣流の門戸を叩いていたため、世界に対し、冷静に観察するのを突き抜けて、諦感していた。


――実際、この時期の黒江は、扶桑軍で失脚しつつある『統制派』、『皇道派』の者達に闇討ちを仕掛けられる事も多く、この前後の時期が最も、黒江の身辺に危険が多かったのである(統制派も、扶桑海での失敗で東條英機が失脚した後は、陛下の信頼を失い、更に未来情報で、中央から大半が左遷に追いやられている)。最も、聖闘士となった後の時間軸の人格が度々現れ、その者らを始末していったため、その策謀は全て失敗に終わり、更に陛下の憤激を買い、結果、連邦政府による間接統治を容認するに至る。この間接統治は、9月のクーデター事件を理由に陛下の要望で実現し、結果的に『占領期日本』を彼らが招来したようなものであった。

「そうだけど……、あなた、変わったわね」

「何、少佐に頼まれて、統制派と皇道派の動きを探ってりゃ、こうもなるさ。だから、あたしも何かしないとね」

「まって、エーリカ。腰に指してるその刀、扶桑刀じゃ?」

「そうだよ。よく分かったね」

そう。ハルトマンはこの時期から、飛天御剣流の特訓を初めていたので、打刀を差すようになっていた。坂本が背中に担ぐか、持ち運ぶ事が多いのに対し、ハルトマンは実際の理に適った『腰に差す』事をしている。これは居合も学んでいるためだ。

「あなたがどうして、扶桑刀を?美緒や黒江少佐、穴拭大尉ならわかるけど……」

「それはね、こういうことだからだよ」

ハルトマンは普段の自堕落さと正反対の大真面目さを垣間見せ、ミーナの前で居合い抜きを見せた。それは坂本以上の速さであり、疾風が舞う程だった。

「ハッ!」

ハルトマンの大真面目な表情もそうだが、鞘から刀を引き抜く時の素早い動作などは、明らかに『付け焼き刃』のものでなく、その訓練をきっちりと受けた者の動作であった。これを坂本が知れば、呆気にとられるだろう。

「美緒、いえ、坂本少佐の部屋から持ってきたの?それ」

「いや、連邦軍からの支給品だよ。未来の特殊合金製だから、怪異の装甲も普通に斬れるよ。扶桑の従来品だと、『割る』ようににして、装甲を破壊する事しかできないけど、こいつは文字通りに一刀両断できる」

そう。連邦製の軍刀は『昭和一九年制式特殊軍刀』との名で流通し始めた。『かち割る』ように使うしか出来ない従来品と違い、文字通りに一刀両断できる強度と、フィールドによる分断作用により、常に切れ味をキープできるという使用上の利点、ハルトマンのような念動の門外漢でも、刀にエネルギーを通せるという『使用者を選ばない』利点から、マルセイユ、ハルトマンを皮切りに、ウィッチ達に出回り始めた。ウィッチが刀を造れば、『妖刀を生み出す』という伝承を知っていた黒江は、坂本が刀を作る選択肢を取ることを恐れており、連邦製の軍刀を、坂本にも送るつもりだったが、坂本は固辞し、1945年まではかつて、北郷から譲り受けた胴田貫を使用し続けた。それは北郷への恩返し、若返りを固辞し、作戦指揮官への道を選ぶ事の暗示でもあった。最も、坂本も連邦製軍刀の有効性は認めており、実際に、1947年8月に現れる、『もう一人の坂本美緒』が偶発的な戦闘の際に使用し、秘剣『雲耀』で撃破に成功し、べた褒めした記録が残されている。

「あたし、これからトレーニングだから、行くね?」

「あ、ちょっと待って。穴拭大尉のほうの経歴も教えて」

「え〜。それくらい、自分で調べなよ。つーか、本人に聞いたら?聞けば、すぐに教えてくれると思うよ」

「私が聞いたら、はぐらかして来るだろうから」

「うん、も〜考えすぎだって。穴拭大尉はそんな複雑な性格してないって。むしろ流される質だし」

そう。智子は流れやすい性格である事は、ハルトマンは先刻承知である。それはロンド・ベルや仮面ライダー達に容易く影響され、更に、ロンド・ベルで黒江と同室なせいもあって、以前よりもさばけた言動と態度を見せるようになっていて、ハルトマン自身、以前に自身の妹のウルスラにそれを言ったら、ウルスラの目が点になった出来事を体験したからだ。

「……それじゃ、お菓子3週間分で手を打つわ。これでどう?」

「も〜しょうがないなぁ」

ハルトマンの扱いを熟知しているミーナは、智子当人に知られないように、智子の情報を得たかった。そのため、どうしてもハルトマンから情報を得る事に拘った。お菓子に釣られ、智子の情報を喋ったハルトマンだが、きちんと智子が『強者』あると説明する。ミーナはこの説明で、二人が『扶桑の伝説のエース』と謳われたほどの大物ウィッチであり、過去の公式記録にはない力を持っていると理解した。それが黒江の雷であり、智子の青い炎であるのだと。

「スオムスいらん子中隊の隊長にして、サイレントウィッチーズの初代隊長、穴拭智子、か……」

そう。智子はスオムス戦線を安定させたという、輝かしい前歴がある。そして、混成ウィッチ部隊の長として、ミーナよりも遥かに先輩であると理解し、思わず唸る。二人が『上がり』をキャンセルし、わざわざ戦線に戻るという選択を何故取ったのか。そして、従来のウィッチという観念を越えようとしている事を、この時はまだ理解できなかった。






――後日 坂本と黒江の帰還当日の夜

「サーニャ、下原、下がれ!あとは私が片付ける!」

黒江は、サーニャと下原のナイトウィッチコンビが強敵の大型怪異に襲われていると聞き、とっさに黄金聖衣で出撃した。これは半分夢うつつであったため、スクランブル用のストライカーが用意されてないのを確認しておらず、格納庫に入った段階で整備員にそれを告げられた。オーバーホール中だったため、切り上げさせての強行出撃は不可能であり、そのため、止むに止まれず、山羊座の黄金聖衣を纏ったのである。そのため、一番早く黄金聖衣を目撃したのはこの二人だった。

「黒江さん、なんですか!?その金ピカの甲冑!」

「ごちゃごちゃ説明すんのは後だ!要はこいつをぶった斬ればいいんだろ!」

「ぶった斬るって、無茶です!私のフリーガーハマーにも対応してくる再生速度なんですよ!?そんな甲冑じゃ、死にに来るようなものですよ!」

「なあに、こいつはただの甲冑じゃねえ!それを見せてやるぜ!」

戦闘中なためか、細かいことは突っ込まれない。それを気にする余裕がないからだろう。黒江はスピードを早め、怪異の直上に陣取ると、右腕で『剣を鞘から抜く』動作のルーティンを行い、右腕に風を纏う。この時の黒江の人格は正しく、黄金聖闘士としての同一人物のそれであり、目つきが普段よりも更に鋭いのが、外見上の見分け方であった。

『全てを斬り裂く、勝利を約定せし聖剣!!エクスカリバァァ―――ッ!!』

その瞬間、二人には凄まじい閃光が走り、その閃光が包丁を下ろすかのように振り下ろされ、怪異を一発でコアごと切り裂いたようにしか見えなかった。エクスカリバーは海面に凄まじい水柱を上げながら海底まで届き、海の水をも『モーゼの奇跡』のごとく切り分けた。

「嘘……怪異を一発で切り裂いた……。それも海の水ごと……」

元々、黄金聖衣と言えど、飛行能力は神聖衣とならない限りは無い。だが、航空ウィッチ出身である黒江は小宇宙で足場を作る、飛行能力の強化が可能という出自故の副次効果を持つため、レアケースであるが、通常の黄金聖衣でも飛べるのだ。

「こちら下原……黒江さんが敵を倒しました……でも、でも……それが手刀なんです」

「ワッハッハ、そうか。遂に奴のエンジンがかかってきたようだな。安心しろ、下原。これが黒江綾香の本気だ。あいつが拳を振るえば最後、どんな敵でも討ち倒す。欧州の時は隠していたが」

「本当なんですか、黒江さん」

「ああ。欧州の時は記憶が混乱しててな。これを使うまでに戻んなくてなー」

と、適当に流す。正式に黄金聖闘士となるのは、ここよりも更に後の時間軸での話だからだ。

「さて、サーニャに下原。お前らの武器もそろそろ通じなくなってきたから、改良を依頼しておく。特にサーニャ。お前のは誘導兵器化させる必要があるな」

「誘導兵器、ですか?」

「そうだ。マッハ3以上の速度でかっ飛ぶミサイルも当たり前になってきているからな。技術者に依頼を出しておく」

「あ、ありがとうございます」

「あ、下原。今のは緊急時の奥の手だから、そうそう使えるもんでも無いし、燃費も悪いから先に帰るぞ」

「は、はい。了解です」


しかしながら、ロケット兵器の誘導兵器化は、有線誘導、あるいはパイロットによる無線操縦が模索されていたような時代に、後世のような精密誘導を求めるのは無理な注文であり、誘導精度の問題から、フリーガーハマーは魚雷や無誘導爆弾に替わる対艦兵器として転用するか、近接信管の強化しか改良しようがなく、後継兵器が現れる1950年代を境に、次第に第一線を退いていく事になる。



――このエクスカリバーの使用は、結果として、坂本の証言を裏付けるものとなり、黒江は次第に501に受け入れられていく事になる。特に剣技面は、502を含めても最高レベルであった事、教導でアメとムチを上手く使い分けできる事、また、志願年度が坂本やミーナよりも数年前になるため、いざという時はミーナに強く出られる事もあり、坂本とミーナのミスのカバーをすることも多くなった。504やストームウィッチーズが合流してからは、圭子も加わったため、ますますアクの強い人材に翻弄されるようになった。そして、三羽烏で一番『まとも』と思われた圭子にも、扶桑部内で知られる『危ない側面』の噂を独自に掴むミーナ。

(加東少佐は戦闘で理性のタガが外れると、獣性に身を委ねる破壊衝動を見せる……どこか頭のネジが外れてるのね、やっぱり)

圭子当人が聞けば、大いに憤慨間違いなしの発言だが、扶桑海でのゲッター線に当てられた姿を見れば、誰もがそう思うだろう。勢揃いした三羽烏の戦闘能力は凄まじく、圭子の移籍当日の戦闘は、久々に三人で飛んだ所で生起し、『五分で終わらせるぞ!』、『三分もあれば充分だ!』と、黒江と圭子のやり取りが交わされたきっかり三分後に、怪異の反応は消えた。近年の強力化した怪異を三分で倒すというのは、人類最強と評されるマルセイユやハルトマンでも不可能な事であり、その二人が認める強さを持つ事が改めて示され、『扶桑最強のチーム』であると証明した。

「これが扶桑の元祖三羽烏だ。一人一人のスコアそのものは今となっては、平均より上程度だが、三人揃えば天下無双を誇った。今は『あの頃』の力を取り戻したようだし、私たちに何ら引けはとらんよ」

そう。この時代になると、扶桑海事変の経験者の多くは軍を去っていた上、三羽烏の伝説も年月と世代交代で薄れていた。そのため、当人達が舞い戻っても、実力を疑問視する声は大きい。しかし、往時の三羽烏の実力を知る坂本、竹井は、三羽烏の勢揃いに大いに歓喜する。その三羽烏当人達も、栄光の七人ライダーが勢揃いすると大喜びしているので、坂本達の憧れが三羽烏であるように、三羽烏にとってのそれは、仮面ライダー達であるのが分かる。本郷猛がウィッチの護身術の特別講師に招かれたのは、智子と黒江が連名で推薦したのが始まりで、その彼が『この世で一番最初に生まれた仮面ライダー』であると改めて示されたのは、最終決戦から数週間前のある日だった。

「ライダァァァ変身!!」

本郷は、新一号へ変身する。それはウィッチたちへの講義の一環での組手で、バルクホルンの攻撃を尽く受け流す。本郷は、人間であった頃はスポーツ万能で、あらゆる武道にも秀でており、段位も取得していた。だが、二号となる一文字隼人に比べると、テクニックとスピードで勝るが、パワー面で劣る。それはライダーに生まれ変わっても不変であり、一号はテクニックで押す『技の一号』、力技の多い二号は『力の二号』と称される。バルクホルンはそれなりに対人訓練も受けた世代のウィッチだが、それを使う機会も年に数度程度では、武道を極め、栄光の7人ライダー筆頭でもある一号に通じるわけはなかった。


『ライダー返し!』

突進してきたバルクホルンをライダー流の投げで床のマットに叩きつける。一号は投技も多く持ち、これはその片鱗だ。投技で最も強力なライダーきりもみシュートに至ると、合気道と柔道の融合で、凄まじい竜巻が副次効果で起こるほどの威力だ。

「クソっ!」

バルクホルンは起き上がり、再度攻撃をかけるが、今度は合気道の要領でねじ伏せられる。それは仮面ライダーであることを抜きにしても、鮮やかな動きだった。

「君は正直に正面から突っ込むが、それでは武道を嗜んでいるものに取っては、子供同然に組み易い。如何に君が怪力を持っていようが、扶桑には『柔よく剛を制す』という言葉があるように、力が無くても、君をねじ伏せる技など、いくらでもある」

そう。柔道や合気道などの心得があれば、如何にバルクホルンが剛力を誇ろうと、ねじ伏せる事は可能だ。特に、本郷や一文字のような達人の前では、バルクホルンの全力と言えども『あしらう事ができる』程度のものなのだ。次いで、フェンシングでペリーヌ、剣道で坂本が挑むも、容易く返り討ちに遭う。

「一号さんは達人だぞ?私達が束になったところで、一太刀も通らん」

「お前でもか?」

「ああ。戦いの年季が違うんだよ、一号さんは。何せ、一番最初の仮面ライダーだぞ」

黒江は、一号にあしらわれた坂本に言う。黒江がここまで言う人間は、他には江藤しか知らないので、坂本は一号の底知れぬ強さに身震いするのである。変身も見せ、ウィッチたちを鍛える一号。自らの鍛え直しの意味もあるのか、個人的なトレーニングにも付き添い、黒江と智子をさらに鍛えていく。これに更にマルセイユ、ハルトマン、圭子の三人も加わり、仮面ライダー流の特訓を受ける。内容はハードであるが、一同の体力であれば、消化可能なメニューである。これに通常訓練も加わったため、一同は夕方にはバテバテの状態であった。

「本郷さんの特訓と、通常の訓練入れると、流石にしんどいな……」

「肩こってますねぇ。」

「特訓に訓練をやりゃ、肩もパンパンになるよ。宮藤、今日の晩飯は?」

「えーと、今日はとんかつ定食です」

「おっしゃ、かつは塩で味付してくれ。塩分が出てるし」

「分かりました」

「あんた、そこは味噌ダレでしょう」

「お前なぁ。こういう疲れてる時は塩分とれよ。スポーツ飲料を仕入れてるけど、搬入は遅れてるし」

「両方用意しておきますよ。味噌ダレも塩も。ヤマト亭仕込みのとんかつ定食ですから、楽しみにしててください」

智子、黒江、芳佳の三人は同じ時刻に風呂に入ったため、出る時間も同じであり、スーパー戦隊側の海底基地に近い休憩室に行き、そこでバルイーグル=飛羽高之と会い、彼と雑談を楽しむ。

「え?ミーナ中佐、そっちにちょくちょく来てるんですか?」

「ああ、ラル少佐やドッリオ少佐とかを引き連れて、こちらのスナックサファリに食べに来るんだ。そこで色々と、嵐山長官に愚痴ってたよ」

そう。複数の統合戦闘航空団が束ねられたと言える、今の501は三羽烏含めた『アクが強い人材』の掃き溜めとも言えるほどに、癖が強い人材が多く、ミーナやラル、ドッリオ、サーシャなどにカレーが振る舞われ、それで、隊の色々な事の愚痴を嵐山に漏らしていたのだ。聞き上手である嵐山は、ミーナたちを上手く慰め、時には特製カレーの味を見てもらうなどして、上手くウィッチの人心掌握を行っていた。

「中佐は近頃、君たちに出し抜かれてる事に対抗心を覚えていてな。この間、長官が実験で作ったウィスキーボンボンをうっかり食べて、酔っ払った時なんて、なんと言おうか、酒乱気味になってね。坂本少佐の事を一番良く知ってるのは自分だって言ってた」

「本当っすか?参ったな。こっちはあいつが、こんなちっこいガキの頃から知ってるんすよ?勝負は見えてる」

「酔っ払った勢いで、坂本少佐にキスしたいとか、『あの子を一番良く知ってるのは、このミーナ・ディートリンデ・ヴィルケよ!』とか叫んだり、何か、こう、あれだ。君達を『ジャンクにしかねない』勢いだったよ」

「どこの薔薇乙女第一ドールだよ!……ったく、あの人にも酒はダメだな……強い酒入れると、水○燈になっちまう」

ミーナの暴走ぶりを話す飛羽。その話に引き気味な黒江。坂本もそうだが、酒に呑まれるようでは、酒豪が多い連合軍高官との飲みニケーションは難しい(黒江は酒豪であるので、可能)。特に、ミーナは普段が温和である分、溜めてる物も大きいのだろう。それもあって、今後、坂本とミーナへ出す酒はなるべく弱め(ほろ酔いになれる程度)にするよう、リーネ、下原、芳佳に指示する事を誓うのだった。

「溜めてる物が特大だから、タガが外れると行くところまで行くんだろう。あの子は若いうちに政治の世界を見てきたから、上層部の好意も、穿って見てしまう傾向がある。君たちの配属もそうだ。戦歴を見れば、充分に歴戦の猛者だが、君たちの常識だった『あがり』のおかげで、君たちをロートル視していたよ」

「でしょうね。出戻り組が信用出来ないってのは、あの世代にありがちですから。ウィッチは19になると、『ロートル』扱いでしたから、体系だった魔法も育っていない。そこがねぇ」

そう。ウィッチは元来、近代軍には不向きと言える技能であり、短期間に世代交代が起きるため、近代軍に組み込む際には反対論が強かった。それは万国共通であり、更にティターンズが現れてからは、『ウィッチがかってに抜けていく』と問題視されており、『若返り作戦』を促進するしか手が無くなる事態となっているのである。

「おまけに、軍人でありながら、人間同士の殺し合いを嫌うから、若手や中堅が抜けたりして、ウィッチの存在意義が問われている事態になっているから、君達の世代が模範を示す必要があると、上層部は暗示している」

「ですね。新規志願も数が減るだろうから、航空ウィッチの平時定数の700人が維持できればいいほうでしょうね」

「700人か。数が少ないな」

「平時はこれで充分だったんですよ。ウィッチは発現しても、航空ウィッチになれるとは限らないから、人数が確保出来ないんですよ」

「今の戦線の従事数は?」

「増員が図られて、もう4年近いから、最盛期は1000人越えてたはず。今は色々と事情変わったから、900、いや800割ってるはず」

「道理で戦線を支えきれないはずだ」

「元々が対怪異兵科で、少数精鋭でしたから。そこに近代兵器の数の暴力を持って来られればねぇ。私らはまだいい方ですよ。陸の連中なんて、地獄を見てますからね。155ミリ砲やら、バンカーバスターやら、クラスター爆弾を食らってるんですから。こりゃ、ベトナムの時代でも、私たち飛んでるかもな」

「それはあるかも。世代交代し難くなるだろうし」


そう。皮肉にも、科学の発展が生み出した近代兵器群の数の暴力による火力投射は、陸戦ウィッチから活躍の場を奪った。そのため、陸戦ストライカーの強力化が推進されているが、求めている性能水準が高すぎるため、1950年代まで完成しないと嘆かれている。(実際にそうなる)航空ウィッチは、ジェット化の変革を起こせば対応可能なので、陸戦閥からは嫉妬されてたりする。なお、この時に地獄を見た陸戦・航空ウィッチの多くが、後に対怪異防衛組織『自衛隊』に転向していった。軍隊のウィッチの世代交代が円滑に進まなくなったのは、自衛隊と軍隊がウィッチ資源を互いに食い合ったためであったのだ。

「世代交代、か。君達は最短で4年程度で世代交代するからな。右派が嫌うはずだ、せっかく育つ頃には、単なる『女性将校』となってしまうんだから、資金の無駄と言われるのも無理はない」

「そうなんですよ。私達のように、リンカーコアが活性化して、若さと力が保てるようになる確率はリウィッチの五人に一人程度だし、それもまた、問題なんです」

「そうだろうな。肉体の老化を軽減させるようになるのは、あくまで副次効果のようなものだし、全員がそうなるとは限らないからな」

「たぶん、リウィッチのおかげで右派の批判は止むけど、今度は内輪から疑問視されるかもね、綾香」

「ああ、今の現役古参の批判か。放っておけよ、あんな奴ら。坂本や竹井だって理解してくれたんだ、あんなのは嫉妬だよ、嫉妬。今から体験させちゃうとかすれば、収まるさ。絶頂期の能力を取り戻せるんだから」

そう。これまでの常識での『ウィッチの絶頂期』は14〜18歳までの4年であり、19歳を迎えると減衰期に入り、能力の減退が進む。黒江はそれが遅い体質であったが、シールド強度は相当に衰えた。そのため、リウィッチ化は相当に嬉しく、13歳に戻ったのを我慢したほどだ。そのまま元の身長よりも更に成長したのが地味に嬉しいらしく、現時点では、元の身長よりも更に成長した姿である。1980年代当時の日本人男性の平均身長よりも長身の体を持つ飛羽と並んでも見劣りしない。

「君のように、諸手を上げて歓迎する者ばかりでもないさ。若手の台頭が乏しくなる事を危惧する声もある。野球で言えば、V9が終わったばかりの頃のジャイアンツのようにね」

そう。サンバルカンが現役時は、ジャイアンツがV9世代の引退で、V9の栄光はどこに消えたかと嘆かれた70年代後半の低迷期から抜け出し始めた頃である。モノのたとえに時代が出るが、『彼らが現役時代から招聘された』ためだ。

「そうか、飛羽さんは藤田監督の時代の人でしたね」

「ああ。その後に名監督になったらしいし、世の中わからないさ」

そう。飛羽はV9後第一世代が成長しつつある時代の人間であり、その後の藤田監督が掴んだ栄光を知り、感慨深いらしい。ジャイアンツのV9期のように、一部からは若手の台頭が起きなくなることへの不安もあるのが、連合軍の現状だった。


――同時刻

ミーナは、飛羽の言うような酒乱の記憶は抜け落ちており、ハルトマンを使う形で、三羽烏に関する資料をかき集めていた。それほどに三羽烏の素性が気になっていたのだ。三羽烏の資料そのものは、ミーナの立場ならば容易に閲覧可能なグレードの情報であり、経歴書、扶桑海当時の記録映像や写真などの取り寄せは簡単だった。だが、その写真が黒江がライトニングプラズマを放った際の写真であったり、ゲッター線に当てられ、ゲッターマシンガンを『キ○ガイ』顔で乱射している圭子の写真だったので、思わず目が飛び出る。

「な、なんなの……これ……」

そうとしか思えないほどにぶっ飛んでいるが、更にカールスラントから取り寄せた『当時に観戦武官が偶々、撮影していた映像』には……。

「あ、あれはストナーサンシャイン!?嘘でしょ!?」

そう。圭子がストナーサンシャインを、真ゲッターロボと同じようなポーズで形成してゆく映像が記録されていたのだ。その行為は魔力ではなく、ゲッター線の成せる業であると理解し、打ち震える。写真の中には、いくつかのダミーがあり、当時に『その場にいない大和型』を省いた『損傷した艦隊』の写真や、あたかも連合艦隊が一丸となって怪異に挑む構図の写真は、扶桑海の閃光のワンシーンのスチール写真だったりする。これは映画会社の承諾を得た上で使用されたダミーである。ただし、当時の観戦武官などの証言で、大和がいた事に関してはお見通しであリ、諸外国の海軍年鑑には、『ヤマトタイプバトルシップのネームシップである『ヤマト』は、扶桑海の動乱で極秘に投入されており、その後に機密を解除し、公にされた』と記されていたりする。そして、尾張の艦首に立つ、場違いなほどに儚げな雰囲気を纏いながらも、扶桑撫子な姿の少女(大和)の姿が映し出される。

「この少女は……?」

ミーナはその少女が『戦艦大和の化身』であるとは分からないが、その少女の姿はとても印象的である。一見すると、扶桑陸軍の飛行服にも見えるが、首元に扶桑皇室の紋章である菊花紋章が輝いている事、傘を差しており、場違いとも思える構図だが、その表情が凛々しいものである事から、『皇室のウィッチ』なのかと考える。その少女の存在に戸惑うミーナだが、後に事後処理のために、二人の秘書官が派遣されてきた事で、謎が解ける。その秘書官こそが、扶桑海軍最古参の戦艦艦型の二人であったからである。しかもその姉の方がフリーダムな性格であり、年に見合わぬ若々しさを感じさせる口調から、ミーナは目が点になり、バルクホルンは軽薄そうな口調から、眉をひそめる事になる。坂本はその正体に気づき、思わず敬礼してしまう。その少女こそ……。



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