外伝その102『ダイ・アナザー・デイ1』


――黒江は元来、聖剣使いである山羊座である。その闘技が調にフィードバックされた結果、黒江の求道者的側面が彼女の人格に影響を生じさせた。その結果、以前なら口にしなかったであろう台詞もサラッと言いのけるという変化が起こった。黒江は日本刀の要領で手刀を振り下ろすが、彼女は振り上げる形で手刀を放つ。それが発動ルーティンの違いだった。



――シンフォギア世界――

「どういう事デスか、調。その右腕にあの人と同じモノを宿したって……」

「あの人がアテナから与えられた聖剣。その力は……私にも分け与えられた。だから、この右腕は……天羽々斬よりも、アガートラームよりも鋭く、全てを斬り裂く聖剣になったんだよ、切ちゃん」

調はどことなく、成長が伺える口ぶりだった。エクスカリバーは、その二つよりも宝具としての格が上である。黒江が『勝利を約定せし〜』との口上を使うのも、その伝説に由来する。勝利を必ずもたらすため、天羽々斬やアガートラームとがかち合えば、二つを斬り裂くほどの力を持つ。エクスカリバーを上回るのは、神剣『エア』や『草薙剣』などの神器級の剣のみだ。それらは黒江一族が発現させているモノであるので、調が敵として出会う可能性はない。

「全てを斬り裂くって……!?」

「たとえ、魂を切り刻むイガリマだろうと弾くし、切り裂ける。そういうことだよ」

エクスカリバーと『生体的に融合した』という分析が出た調は、黒江からの連絡で、フロンティア事変当時の響とは別ベクトルで、存在が人を超えたと説明された。正規適合者と同等以上の適合係数になっている事、右腕がエクスカリバーと化している事は科学的にはあり得ない事だった。だが、黒江との接触により、そのタネはすぐに解けた。黒江が調に何かしらの影響を与えたと推測できたからだ。

「しかし、未だに信じられんぞ。お前の存在があの女史に玉突きされたのが結果として、良い方向に働き、お前を器にしていたフィーネが消えたとは」

風鳴翼が言う。黒江とアテナが種明かしした事は未だに信じられないらしい。だが、黒江が調の姿であった時期、模擬戦で全く歯が立たない事が常態であり、子供扱いされていた事は翼の心に強い向上心をもたらした。その事から、黒江と入れ違いに戻った調に挑んだが、今度は古代ベルカの戦争で鍛えられていた&右腕の聖剣が発現した調に負けるなど、どうにも良いところがない。

「私も信じられない。まるで夢を見てるみたいな感覚だった……。地球と関係ない世界に跳ばされて、あの人の幼少時代の姿になってたから……。それに、まさか騎士をやるなんて……」

「騎士、か……」

「あの人の弟子の人が引き取った子は、私の主の後世でのクローンに当たるの。だから、臣従の誓いを立てたんだ。私が主として忠誠を誓ってた子との契りを守るために」

調はその後、ベルカの騎士的な側面と、エクスカリバーを宿した聖闘士としての面を持ち合わせる事になり、その後にアテナにも臣従し、オリオン座の白銀聖闘士になったという。また、調一人に重荷を背負わせたくない切歌は黒江のもとを訪れ、修行したいと懇願し、修行を始める。黒江が太平洋戦争を迎える頃には努力が実り、ペルセウス座の聖闘士候補生になったという。運命の環は二人を聖域にと導いた。黒江は二人の師になる形で関係を持ち、黒聖闘士になれそうな人材を多方面から紹介するのも仕事になるのだった。これは生え抜き聖闘士が幾代にも渡り、反乱の温床になった(三代前の教皇イティア、双子座のサガの悪人格など)事を鑑み、沙織が外部人材を主体に立て直す方針になったからだ。黄金聖闘士は外部出身の黒江達三人に星矢達を加えても、八人しかいないのも問題視されたが、これについてはゼウスの介入でどうにかなった。ゼウスが蘇生させた前任者を送り込んだので、少なくとも牡羊座(ムウではなく、その師のシオン)、天秤座(童虎)は前任者がひとまず暫定措置で復帰となった。その結果、黒江は童虎に教えを仰ぎ、廬山系列の技の精度を上げるべく、時たま、修行のために五老峰に赴いている。事後承諾だが、紫龍の妹弟子になった事になる。外部出身の黄金三人が鍛えられたのは、童虎らが蘇生して鍛えたからである。童虎は蘇生後、『女子(おなご)が黄金聖闘士とはのぉ。時代は変わったようじゃ』と感想を漏らしている。真の姿で蘇ったため、18歳の肉体であるが、精神的には年配者である童虎。教皇経験者であったためか、年の割に若々しい口調のシオンとは対照的である。本来、シオンの後継になるであろう教皇の地位がアイオロスの死で空位であるため、聖域の重要事は童虎とシオン、沙織の合議で決められている。青年に戻ったシオンが復帰を固辞したからでもある。もっとも、アテナが時によって活動的である場合、代理人である教皇は置かないという不文律もあり、シオンは教皇経験者として、それに準じる権限はあるが、教皇では無くなっている。あくまで教皇に準じた指揮権を持つ黄金聖闘士という位置づけだ。



「どうするつもりデスか、調」

「綾香さんがいる世界に行くつもりだよ、切ちゃん。エクスカリバーを持った以上は、それに見合う使命は果たさないと」

かつて偽善を嫌った調にとっては、その対極に位置するであろう『仁・義・勇』を貫く聖闘士としての使命。オリヴィエが彼女を変えたのがよく分かる。その為の荷作りをしている。切歌は、調が聖闘士の使命に目覚めた事で、また離れ離れになる事に不安があり、どうやって密航しようか考えていた。しかし、今や実力で大きな開きが生まれている。調が黒江の下で修行すれば、もはや一生かけても追いつけなくなる。その不安が切歌を突き動かしていた。

「なら、一緒に修行デス!もう、調と離れ離れになりたくないのデス!」

「切ちゃん……あ、綾香さんから電話だ」

「え!?世界が違うのに、通じるんデスか!?」

「改造してもらったんだ。あ、綾香さんですか?その声、私の姿を使ってますね?」

「ハハ、すまねーな。今、こっちの任地からかけてる。イタリアに来てるんでな。荷作りは済んだか?」

「それが…、切ちゃんも行きたいって、言い出して」

「ああ、お前の相方の『デス』ッ子。確か、私の小宇宙に反応してたな……よし、老師に連絡しておいてやるから、二人とも来い」

「いいんですか?」

「聖域も人手が足りなくてな。お前はエクスカリバーを発現させたから、私の推薦ですぐに叙任できるが、あのガキは候補生からやんないといかんな。素養があるとは言え、未知数だしな」

「そういうものなのですか?」

「本来は候補生から選抜しなけりゃならんが、あいにく聖戦が終わったばっかで、雑兵がいても、聖闘士は数が足りないんでな」

雑兵は警備員的役目なため、聖戦には殆ど役に立たない。その為、黄金聖闘士や白銀聖闘士に戦死者が集中していた。青銅は一軍が中枢部に殴り込んで大活躍したのとは裏腹に、二軍は星矢の実姉『星華』を守ることすら覚束なかったため、戦死者がもっとも少ない。が、青銅では戦力的に覚束ない上、白銀聖闘士が魔鈴とシャイナを除き死亡したため、定員が多い白銀聖闘士を埋めるかが問題だった。それは青銅一軍の動ける者、魔鈴とシャイナ、蘇った一部の黄金聖闘士、現在の黄金聖闘士で協議した結果、黒江に『お前、スカウトマンしてこい』という事になったのだ。聖域もなりふり構わずに人材集めをしているが、これは生え抜き聖闘士候補生の育成に10年近くかかる上、シオンが育てた人材は八割方、サガの乱と聖戦で死亡している、20代の若き黄金聖闘士が全員死亡(一部蘇り)したなどの大ダメージで組織の維持に支障が生じたからだ。

「老師がそちらに参られるはずだ。粗相のないようにな。見かけは若いが、あれで300歳近いお年寄りだからな」

「分かりました」

「それじゃ、こっちも任務だから切るぞ。老師にかわいがってもらえ」

電話を終える黒江。調の迎えを童虎に頼み込んだらしい。黒江が童虎に弟子入りしたため、調も童虎の孫弟子にあたる。それはなんとも不思議な関係であり、ゼウスが起こした、生と死すら超えた師弟関係と言えた――







――ウィッチ世界では、調との電話を終えた黒江が大忙しであった。変身を解くのも忘れるほど、スーパーロボットの各基地へ連絡を取り、その到着タイミングを合わせようとしていた。

「ふう。あーもう、今月のケータイ料金が恐ろし―ぜ……」

「ZEROが世界滅ぼしたら、払わなくていいかも?」

「ばっか、縁起でもねえ!」

「中佐、部隊運用費から通信費貰ってないんですか?」

「ミーナ中佐がうるせーんだよ。あの人、時代的に通信費に厳しくてな。私物でかけてるんだよ」

「ご愁傷様で…」

実のところ、ミーナは時代的に通信費がべらぼーに高いこの時代の認識しかないので、部隊の通信費を抑制しており、立場上、連絡が多い黒江の電話料金は高めであった。それを改善しようと、圭子が動いている段階であった。圭子はミーナに『かけ放題オプションにしてその料金だけ部隊費から貰う様にしましょう』と説明し、日本が2010年代を迎えつつある時間軸であるし、地球連邦との通信はタダであるのも手伝い、ミーナも承認した。ただし、それは翌月からになるので、黒江はこの月は目が回る金額の請求書に泣き、黒田に一部立て替えてもらったとか。

「ZEROとの戦いに比べりゃ、私のサイフなんぞ……」

「かなり使ったんですね……」

のび太に頷く。今月はZEROとの決戦に備えて、アチラコチラと電話したので、サイフが大破確実である。しかし、世界滅亡に比べれば、サイフの犠牲などどうということはない。なので、圭子に期待している黒江。今月は自分で払うが、黒田に立て替えてもらう事も予め頼んである。

「でも、ZEROが来たら、ヴェネツィアなんて光子力ビームの一発で塵に帰りますよ?」

「前と同じように、ドラえもんにダミーに置き換えてもらうように頼んである。作業は明日までに終える。次はロマーニャ部にも手をつけて貰う予定だ。そうでなきゃ、陸地であいつとやれるもんかよ」

「今回はどういう手筈で?」

「管理局が襲撃と同時に大規模封時結界展開、その隙に現実世界でアルプスから南を鏡面世界に入れ換えて、封時結界破れても実際の街には影響無しにする、って寸法だ。この戦いにゃグランウィッチ以外は駆り出さんつもりだ。相克がある状態で出しても、足手まといになるだけだ」


黒江はグランウィッチの全員を参加させる一方、若手や批判組を作戦に組み入れるつもりはなかった。連携が大事になる戦なので、対立がある状態の者を出して足手まといになられても困ると。ZEROの猛威を考慮しての事だが、ミーナは部隊全体の連帯感を持たせるため、自らの権限で全員を地獄に連れ出す。それが結果的に良い方向に働くのである。

「どうせバダンやティターンズが騒ぎに乗じてやらかすだろうから、バカ晒した連中はそちらの対処で仕事は有るさ」

「中佐にしては辛辣ですね」

「あいつらは自分らのエゴで『仁と義』を忘れた。そういうのは、今は嫌いなんだよ。聖闘士やってると、特にな。聖闘士になったのは、ZEROが私らを滅ぼす因果を断ち切りたかったからってのもあるんだよ。あのエゴイスト野郎はいけすかねえ。エーリカが怒るのも分かるよ。だから、あいつの傲慢をエアで断ち切りて―んだ。彼奴に殺された何人もの自分のためにも」

「この星のため、でしょ?」

「そうだな…。あいつは確かにマジンカイザーよりも強い。だけど、それは十蔵博士が望んだ姿じゃない。狂気じみて、偏執的な強さなんて、認めるもんか。絶対に」

黒江はストロンガーやRX、更にはグレートマジンガーやマジンカイザーなどの『強さ』を目にし、星矢の思いの強さによる奇跡を知る故、偏執的な強さで全てを否定するマジンガーZEROを否定したい。その気持ちが噴出したか、拳をギュッと握りしめる。偽りなき一途な想い。それが変身時には表に出やすい。その気持ちに応えるように、一機の魔神が姿を現す。

『安心しろ。ZEROはこの剣鉄也が必ず倒してみせるさ』

「て、鉄也さん!完成したんですね、エンペラーが!」

『ああ。偉大なる魔神皇帝。君らのおかげで早期に完成できた。礼を言うよ』


エンペラーオレオールをなびかせ、ローマの市街地の上空に現れるマジンエンペラーG。エーリカがその完成を急がせ、ライオネルこと、ゼウスが協力して完成させた新たな『魔神皇帝』。ZEROに正面から立ち向かえる、唯一のグレートマジンガーの系譜のマジンガー。目に瞳があるので、ゲッター線が副動力であるのが分かる。

『ほう。甲児くんが言っていた、君の新しい仮の姿ってそれか。可愛いじゃないか』

「ち、茶化さないでくださいよ!これでも、真面目にしてるつもりなんですからー!」

『なるほど。その姿だと、素が出やすいと言うことか。君を見直したよ。リョウ君のような戦闘好きと思っていたからな』

黒江は変身していると、素の少女らしいところが割合多くなるのか、鉄也にからかわれ、遊ばれていた。赤面しつつも膨れるという、年相応の姿は、のび太たちをほのぼのさせる光景と言えた。

「でも、エンペラー、どこに降ろすんです?」

『ひとまず、サン・ピエトロ寺院の前なら降りれるさ」

「そ、そっすか」

『君らは車で来てるんだろう?回収班は向かわせたから、皆で俺と合流してくれ』

「わ、分かりました」

車を回収班に任せ、エンペラーと鉄也と合流した一同。グレートマジンガーを更に強くし、帝王の威厳たっぷりのエンペラーは受けが良かった。

「仮の姿だと、本音が出やすいのか。なるほどな〜」

「てぇつぅや〜さ〜ん」

「何、ほんの軽いジャブさ。ボスがいたら『ぼくちゃん惚れちった〜!!』って言いよって来るところだぜ」

「た、確かに」

鉄也は年の功、黒江をからかっていた。戦士としては対等に見ているが、普段は妹分的扱いであるらしく、鉄也は楽しそうだった。鉄也は外見やニヒルな言動が災いし、甲児とも対立したが、実は兄貴分的な気さくな面も持ち合わせる。黒江やシャーリーの前では、その面が出ているため、普段のニヒルさは微塵も無い。

「でも、鉄也さんって、笑えるんですね。話に聞くと、戦闘のプロとか自慢してて、ニヒルな人だと」

「ハハ、そりゃ俺の一面にすぎんさ。芳佳ちゃん。俺だって感情のある人間さ。だから、甲児くんに言っちまったのさ。身の上の不幸を」

「甲児さん、そのことで確か……」

「ああ。シローに軽蔑され、リョウ君にボコボコにされたよ。その時のシローの目は忘れられないよ」

鉄也は孤児である。その境遇に真に共感していたのは、鉄也がミケーネと戦っていた時期では、兜シローのみであった。マジンガーZで戦ったわけでもないのに、鉄也を罵倒した甲児(この甲児かしらぬ言動は、後に異次元にいるZEROの影響と判明)に恥ずかしさと怒りを思え、思い切り金的蹴をしたのだ。甲児はこの時の事をよく覚えていない。ZEROのグレートマジンガーを憎悪する念が甲児に作用し、自分の奥底で噴出していたグレートマジンガーへの負の感情を噴出させたからだろうが、甲児はしばらくシローに口を利いてもらえなかった。甲児がその時の感情の原因がZEROにあると気づいた時、甲児は改めて、鉄也に土下座している。けじめであった。その事が甲児がエンペラーの早期建造を剣造に説いた理由なのだろう。

「鉄也さん、甲児の事は……」

「俺の心の弱さがシローの悲しみを招いた。そして、所長もだ。テストベッドの名目で、ニューZ製のZを作ったのは、その時の言葉がどこかに引っ掛かっていたからなんだろう。それは俺の罪さ。兜家へのな。だから、俺はZEROを倒すさ。甲児君のおじいさんの邪念が生み出してしまった邪神。それを倒すのが、俺にできるせめての罪滅ぼしさ」

「それが鉄也さん、あんたの……」

「ああ。それがグレートマジンガーの、マジンエンペラーGのパイロットとしての覚悟さ。あいつの予測を超えてみせるさ。必ずな」

シャーリーに言う。一同の内、もっとも哀しそうな顔を浮かべたのが黒江であるのも、普段の豪放さを取り払った素の姿では、芳佳並に女の子らしい面があるのが分かる。

「俺は生きて帰るさ。どこかの世界のように、自爆はしない。約束するよ」

「鉄也さん……」

「ほら、みんなの前だろう?ビシっと決めないといかんぞ?」

「う、うん……」

変身した黒江は、言動も普段よりあーや寄りになるため、鉄也が頭を撫でると、余計に可愛い。このところも人気の理由なのだ。戦闘での凛々しさと裏腹に、純真な乙女としての側面。64F設立後、同隊に志願者が殺到するのも、実は圭子と武子が、この時期から上層部に向けて売りさばいた『裏ブロマイド』の一部が高級将校の戦死後の遺品整理などで表に出たりしたせいだったりする。黒江はこの日のこともあり、以後、『偽名』として、月詠調の名を使うようになる。ストレス解消になったらしく、変身した姿になっているのが度々目撃される。マジンエンペラーGに希望を託す一人の少女として、黒江は偉大な勇者の後継者『偉大なる魔神皇帝』に希望を見出そうとしていた。また、黒江が自分の姿を使い、裏世界で動いている事を老師・童虎から知らされた調当人は、なんとも言えない微妙な表情を浮かべ、これから自分の師となる人物を羨ましがったという。



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