外伝その110『僕らの戦場3』


――日本は扶桑からの猛抗議に応え、左派の取り締まりを始めた。扶桑への内政干渉が度を過ぎていたからで、扶桑の国民に厭戦を煽った事を理由に、破壊活動防止法の適応がなされ、次々活動家や市民運動の構成員などが逮捕されていった。扶桑からすれば、理不尽にウィッチ部隊の現役の半数を非戦闘時に失ってしまったに等しく、その補充も容易でないため、現役ウィッチの立場は一気に苦しくなってしまった。これは黒江達の復活と、その獅子奮迅ぶりが連日、報道されていたことも大いに関係していた。かつてエースと呼ばれた人材が昔年の実力を維持し、そのまま活躍するのなら、辞める可能性が大きい現役を使う意義は薄い。この時期の現役ウィッチはリウィッチ(グランウィッチ)に押され、肩身の狭い思いをしていた。彼女らは現役世代としての立場向上を図るが、当時のウィッチ達の多くは対人戦を異常だと考え、そのような倫理観を持っていたのも重なり、現役ウィッチ達は後の太平洋戦争まで苦境に立たされ続けた――



――1945年当時、扶桑皇国国内だけでも、かなりの政治的混乱に見舞われ、中途退役ウィッチの再就職などが問題となった。当時に15歳以下であり、退役した(させられた)者は一般社会の常識が抜け落ちているので、今更、普通の学生にもなれず、再志願を志望する者も多かった。坂本が『私達は戦いの中でしか生きられんのだ』と自嘲するのは、そのためでもあった。これは新憲法で『少年兵』が規制された都合、当時に15歳を迎えていない層は『親が跡取りを確保しておきたかった』、『日本に迫害される』という恐怖を持っていたり、『適齢期に再志願させれば良い』と、親達が考えていたのが大きい。結果、第一線部隊に残ったのは、ウィッチとしては中堅〜高齢であった『16〜20歳』の年長組であり、それ以下は軍の教育機関に配置して、訓練を受けさせる方法も実行されたが、おおよそ三割から四割弱は『家の都合』で退役していった。その人数は60人前後。ウィッチ部隊の複数が解散した理由の一つに、『必要人数を確保できる見通しが無くなった』という世知辛い事情も多分にあった。軍上層部は新規志願数の40人割りは阻止せねばならないと呼号し、一度は疎んじたレイブンズを徹底的に祭り上げた。更に艦娘達の機密を解除し、プロパガンダに用いるという、なりふり構わないプロパガンダを展開した――

――基地――

「母さん、これ見て」

「うーん。こりゃ恥も外聞もかなぐり捨ててるわね。扶桑海の後、疎んじたくせに」

圭子は軍上層部の恥も外聞もない動きに、苦笑いを浮かべた。澪が見せたこの日の扶桑の新聞には『我が扶桑海軍の誇り、艦娘』と、『扶桑海の英雄、陸軍三羽烏の軌跡』とデカデカと記事が書かれていた。邦佳と芳佳が入れ知恵したのだろうが、露骨にすぎるということだ。三人は当時の正確なスコアを、江藤が教育に良くないと『伏せた』こともあり、各所で疎んじられた経緯がある。江藤は事変後、すぐに引退したため、この事は赤松が知らせるまで殆ど知らず、黒江がなぜいじめられたのか、の本当の理由も知らなかった。江藤は集団戦を重視していた都合、『個人が戦闘を左右した』という事実は三人の大成に悪影響が出ると考え、スコアを差し引いて報告した。無論、復帰後、このことが赤松に叱責されたのは言うまでもない。伏見宮殿下も臨席する場で赤松から事の次第を教えられ、前史での後輩らとの軋轢も知り、顔面蒼白になり、慌てて本棚を漁る羽目となった。江藤は三桁撃墜王が現実となった事、三人が成人した事、カールスラントの三桁撃墜王との釣り合い取りが必要になった事を認め、赤松に当時の日誌を提出し、更に経産新聞に売り込んだ。この時に確定した戦果により、レイブンズはスコアが数倍に増加。一気に扶桑陸海軍トップ5に返り咲き、連合軍全軍に布告された。



――これはガランドがレイブンズと当時から知己であり、45年には、自分の義理の孫のスバルやギンガとの暮らしのため、軍からの退役を考え始めていて、個人的にノートへ、レイブンズの正確なスコアを記録していたことが要因だった。その記事の発表前、ミーナに自分のノートを見せ、『貴官は先輩方に敬意を払えんのか?』と忠告したほど、レイブンズに好意的だった。スバルやギンガの事、37年からの数年、扶桑に滞在した際の恩義などから、レイブンズを恩人と思っており、『孫の恩人が無下にされるのを黙ってなどいられん』と、三将軍の殴り込みで憔悴したところに追い打ちするという鬼畜ぶりを見せた。ミーナはこれで神経性胃潰瘍を本格的に発症した他、ガランドに孫がいて、その義理の孫が、動乱で顔を合わせた事がある、機動六課の『顔見知り』の隊員であったことも知った。そのショックにより、黒江が扶桑に戻った日から神経性胃潰瘍を発症して、胃痛により寝込んでいた――

「ミーナが寝込んでいて、良かったですよ。今のを聞かれていたら、切れられますし」

坂本は安堵する。今の一言は、もし、リーネが聞いていても、陰口と咎められ、ミーナから呼び出しを食らうところだ。

「リーネちゃんでもヤバイですよ?リーネちゃん、曲がったこと嫌いですし」

「そうだな。アイツは政治的な動きを嫌って退役したからな、前史では」

「私達は転生で慣れてますけど、リーネちゃんは私と距離が広がってる事に危機感を感じてるはずです。だから、聞き耳立ててるかもしれないから、下手に言わない方がいいと思います」

「そうだな…。転生者の考えなど、リーネには理解できんだろうからな」

坂本と芳佳は互いに、リーネにも警戒する事にする。リーネは転生者ではないため、グランウィッチの味方とは言い難い。芳佳も前史での記憶がないとは言え、親友のリーネを警戒せざるを得ないことには嘆息気味だ。リーネ当人としては、『芳佳ちゃんと一緒にいたい』という気持ちから、芳佳がどうなったのかを知りたい一心で行動しているだけで、他意はない。だが、行動が早いグランウィッチらを捕まえられず、ZEROのことで揉めた時は、ZEROへの恐怖が先立ち、一歩を踏み出せなかったので、部隊での立ち位置は微妙である。坂本がそういうのも無理はなかった。

「問題は、レイブンズの二代目をどう匿うか、じゃぞ。背丈も声も似ておるからその場は誤魔化せると思うが」

「私らは母さんたちを、その気になれば演じられるんで、演技は大丈夫ですよ。映画で母さんたちの役をしてましたから」

「力も同じのを受け継いだし」

麗子と翼がいう。麗子は軽めなところを除けば、智子そのものだし、翼も真面目な黒江という印象だが、ここで坂本が思いついて言う。

「……いや、ドラえもんの件もあるし、むしろ隠さない方が良い、ミーナに必要以上に不信感を与えない方が良いし、情報量多くして衝撃を薄めてしまおう!」

「その手があったか、坂本よ」

「ええ。あいつらの前史の失敗は『変にかくして後で知って確執になった事』なんで、いっその事、オープンにしましょう」

と、言うことで、坂本の発案で、胃潰瘍により、医務室で寝込んでるミーナのもとに、二代目レイブンズを連れて行った坂本と赤松。当然ながら、ミーナは素っ頓狂な声をあげて固まった。

「に、二代目の……スリーレイブンズ!?」

「ええ。私達は扶桑空軍第64戦隊所属で、貴方の知るレイブンズの縁筋に当たります」

「あいつらには、それぞれに上の兄弟がいてな。その兄弟の孫に当たるのが、この子らだ。最も、軍への志願適齢期にその兄弟の家から引き取って育てているから、厳密に言えば、養子になるがな」

「私は穴拭麗子。私の実母が穴拭智子の姉の娘に当たるので、血縁関係は大姪に当たりますが、養子になりましたので、大叔母の智子の事は「母さん」と呼んでいます」

「同じく、黒江翼です。麗子と同じく、私も綾香叔母さんに引き取られ、養子になりました。2006年時点での階級は中佐、母が叙任されていた聖闘士の地位も受け継いでいます」

「加東澪。私も同じく。ただし、私は生まれて間もない頃に、私の実の両親が航空事故で他界したので、血縁が一番近い圭子叔母さんに引き取られましたので、多少は違いますが」

澪は他の二人と違い、圭子が適齢期に引き取ったわけではなく、実の両親が航空事故で他界したので、血縁が最も近い圭子にお鉢が回ってきただけだ。ただし、赤子の頃から育てていたので、実質的に実子と呼んでいいのかもしれない。


「血縁で養子……。二代目を名乗るということは……」

「空戦テクニックは母さんたちに仕込まれてますから、この時代の方々には引けは取りません。最も、私らの時代はジェットですが」

麗子が言う。三人は初代がテクニックを仕込んだので、2000年代には珍しい『ドッグファイター』である。2000年代においては、初代の三人ほどの強さは求められていないが、スエズ動乱でその存在を誇示している。2000年代においては珍しい、生え抜きの職業軍人ウィッチであり、かつての最強格の子孫という血統の持ち主。サラブレッドである。2000年代においては『自衛隊』のほうが人気で、先祖代々が軍人などでないと、職業軍人ウィッチにはならないが、それで練度が伴っているケースである。血縁もあるが、レイブンズの正統後継者にふさわしい力を備えているため、入隊時の64F隊長はたいそう喜び、初代の三人に挨拶しに回った(当時の隊長の師が三人の在籍末期時の若手に当たる)逸話もある。2006年では、隊設立時の幹部たちの子孫達が世代交代により、隊の実権を握ったので、初代メンバーの子孫が任を引き継いでいる。ポジションも原則として同じなため、三人は設立時の初代レイブンズと同ポジション・同階級となる。つまり佐官である。

「うーん……。あなた達の階級は佐官、でいいかしら?」

「どうした?」

「そうなると、待遇がややこしくなるわ。佐官というなら、相応の待遇をしなくてはならないわ。員数外とは言え……」

「三代目501の幹部ですので、ポジションは今の母さんたちと同じです。それは考慮願います」

「〜〜……」

ミーナは頭を抱えた。二代目レイブンズは今の時点の初代と同等の地位にいる。と、言うことは、それ相応の扱いが必要になる。しかも、三代目501ということは、自分達がいなくなった後に二度、501の再結成が行われた事を意味する。21世紀になっても、自分たちのような存在が必要とされる事に一抹の無情さを覚える。戦乱は終わってはいないのだと。

「ミーナ、この子達は応援だ。部隊指揮系統外だし、依頼で動く形にしろ。未来の時間軸の同一部隊とは言え、代替わりが二度起きている。要請の形がいい。確か、君達の隊長は加藤さんのお孫さんだったな?翼くん」

「はい。隊長の加藤美奈子は、扶桑海の隼である加藤武子大将閣下の孫です」

「なら、話は早い。グランウィッチである、武子さんに連絡を取ってくれ。事情は知っている」

「分かりました。……あ、武子お婆様ですか?私です。美奈子に伝えてくれますか?ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ大佐が私達『三代目』に協力を依頼してきたと。……ええ。ケイおば様がお電話を?手を回すのがお早いですね、おば様は」

武子は前史で、1999年まで存命であったため、二代目レイブンズと面識がある。グランウィッチに覚醒しているため、この時点で既に二代目のことは知っており、普通に電話に応対した。武子の事を、翼は『武子お婆様』、麗子は『お武のバァちゃん』、澪は『加藤のおばあちゃん』と呼んでいた。これは武子が幼少時の三人の面倒を見ていたため、家族同然の仲であった事が由来であった。

「翼、ミーナ大佐に電話を変わってくれるかしら?」

「分かりました」

「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ大佐?扶桑陸軍大佐、加藤武子です」

「ミ、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ大佐であります!加藤大佐」

翼から手渡された電話に出るミーナ。背筋が一瞬でピーンと伸びる。まるで、日本のサラリーマンだ。自分より遥かに先任のウィッチである武子と会話するのは、今回においては、これが初めてだ。坂本は見ていて、『まるで取引先に電話してる日本のサラリーマンのようだな?』と漏らし、一同の笑いを誘った。武子はミーナが志願した当時、既に中尉だったので、現時点の階級が同じでも、ミーナは敬語を使っていた。受話器を持ちながらペコペコしているのは、日本のサラリーマンもよくやる仕草だが、冷静に見ると、何とも言えない哀愁も漂っている。

「大佐に中間管理職の悲哀を感じるぞ、坂本」

「ミーナの奴、ポジション的には正に中間管理職ですから、大先輩。まるで日本のサラリーマンのようですよ。なんともシュールと言おうか……」

坂本と赤松が思わず漏らすほど、ミーナからは中間管理職の悲哀が溢れていた。しかも日本のサラリーマンと同種の。ミーナにしてみれば、自分より遥かに上の期のリウィッチと話す事自体、今回が実は初めてである。当然であるが、自分達が扶桑文化を仕込み過ぎたのか、日本のサラリーマンにしか見えなくなった。これには苦笑いの二人。しかし、よくよく考えてみれば、黒江は武子より、士官学校卒が一期上に相当するが、当人の振る舞い的意味でそれを感じないためか、武子と話すほうがずっと緊張しているように見える。実年齢も智子/武子より二歳上であるが、今や内面的意味で逆転しているため、武子のほうが年上に間違えられる。内面がハイティーンを保った智子や武子と違い、黒江はミドルティーンの内面になっているため、纏う雰囲気が全く違い、武子はハイティーンの大人びた雰囲気であるが、黒江はミドルティーンの元気っ子である。それもあり、武子は実年齢よりかなり上に見られるのだ。(黒江は逆に実年齢より若く見られ、のび助からも出会った当初は中学生かと言われたほど若々しい雰囲気である)

「近日中に、孫娘に書類は送らせるわ。ウチの三人娘と、孫達をよろしくお願いするわ、大佐」

「ハ、ハッ。わかりました。失礼致します」

緊張しぱなしのミーナであった。武子がグランウィッチであり、二代目レイブンズと家族同然の関係であることも知り、意識が飛びかけている。坂本の策は大成功だった。

「ああ、ルッキーニとシャーリーも自分の孫を呼んだぞ?」

「なぁ!?」

「近々、来るはずだ。未来のジェットストライカーを持ち込むようにと、シャーリーには伝えてある。ああ、ルッキーニの孫は生真面目だから、安心しろ」

シャーリーの孫のクラエス、ルッキーニの孫のトリエラも呼ばれている。トリエラにはルッキーニの自由奔放さはなく、父親似の生真面目なウィッチだが、ルッキーニ家の長女にフランチェスカ以来受け継がれている、『ツインテール』は維持している。

「クラエスとトリエラも呼んだんですか。どうせなら貴方の孫である百合香も呼べばどうです?坂本大佐」

「それが、あいにく、前史で百合香が長じる前に死んだから、電話番号知らんのだ。君なら知っとるだろう?」

「ええ。私の部下ですから。……百合香?私だ。今、お前のお婆様と一緒なんだ。代わるぞ」

「ゆ、百合香か?私だ」

「美緒おばーちゃん!?」

「う、うむ。なんとも不思議なもんだな。お前が小さい頃に私は死んだはずだから、こうして、長じたお前と話せるとは」

坂本は転生により、長じた時間軸の孫と話すという夢を叶えた。2006年時点では、坂本の孫の北郷百合香は10代後半を迎えており、前史で坂本が死んでから6年もの歳月が流れていた。そのため、坂本が覚えているよりも随分と大人びた声で、現在の自分に似ていると印象を受けた。

「あ、あの、赤松少尉。坂本少佐は誰と?」

「あいつの孫娘ですわい」

「孫娘ぇ!?」

「ええ。土方兵曹との間に生まれた娘の子ですが、北郷大佐の妹の子とそいつが結婚したので、孫娘は北郷性なんですわ」

百合香は、北郷家と坂本家の血を受け継ぐサラブレッドである。北郷は『曾孫』が出来たと大喜び(2006年でも存命中)であり、可愛がっている。愛弟子の遺児であるため、手塩にかけており、『この歳まで変な虫がつかないように手塩にかけてきた』と公言している。百合香の成長後の容姿は10代半ば当時の美緒と同じであるのだが、所属が違い、空軍所属である。坂本はグランウィッチとなったため、今回は前史で亡くなったはずの齢を迎えても、死ななくなったが、やはり、長じた時間軸の孫娘と会話を交わせたのは嬉しいらしく、上機嫌の坂本。

「今回は、我らは坊主達の昇神のおかげで神使になっているので、今の齢から老いることも、死ぬこともありません。坊主達は神様なんですよ、今や」

「か、神!?」

「扶桑とその同位国の日本にゃ、よろずの神々……人だろうが蛇だろうが、犬だろうが神様になれる文化がありましてね。坊主達は軍神とウィッチの神を兼ねてるんです。なので、坊主達の今の肉体は『現世で行動するための魂の器』にすぎないとでも申しておきましょう。我らはその使い。なので、転生すれば忘れ去るはずの前世の記憶をそのまま持っている。今、生きてる若い連中の反発は招きましたがね」

黒江達三人は転生時にウィッチ世界での神格になったため、高次の存在となっている。肉体は単なる『現世での行動用の器』にすぎず、若い容姿を永久に保てるし、若々しい心も保っている。言わば、不老不死の状態だ。神とはそういうもので、シンフォギアよりも高位の存在であるため、黒江が纏った場合は聖遺物からのバックファイアも起きない。(絶唱でも)人であり、神である。それがレイブンズの持つ神としての属性だった。その間接的な子孫達も半神状態で生を受けているため、麗子が子爵の爵位を得ているのも頷ける。赤松達グランウィッチは軍神となった三人の神使であるので、今回は1945年時点の年齢から老化しなくなっているし、実は全員が絶頂期の能力に戻っている。従って、坂本はクロウズとして活躍していた当時の魔力に戻っているが、それをミーナには隠し、ロマーニャ戦で最後の花道を飾った後に現役を引退するつもりである。赤松はそれを尊重し、ミーナにその事だけは告げなかった。坂本はもう、現役として思い残す事はないのだからと。




――智子は、マジンカイザー系統がZERO戦には使えない代替として、甲児と鉄也がゴッドとエンペラーを持ってきたため、格納庫のスペースがかさばる事に愚痴っていた。


「甲児、エンペラーのエンペラーオレオール、折り畳めないの?」

「これ以上は無理だ。Gカイザーなら折り畳めたんだが、ZEROはニューZαを破壊できるほどの強さだ。だからゴッドZと合成鋼Gとの複合素材になったんだよ、エンペラーは」

「今回は貴方の親父さんに誰が開発を具申したの?」

「俺さ。ゼウスにも説得してもらったよ。鉄也さんには負い目があったしな。前にも言ったろ?ZEROの影響で暴言吐いちまった事があるって。だから、真ゲッターと同等の合成鋼Gを超合金と組み合わせたのさ。俺なりの償いさ。世界への、ね」

「あんな怪物を生み出した原因は貴方なの?」

「たぶんな。俺はおじいちゃんから『マジンガーは無敵のロボットだ』って言われたけど、たぶん、その意識がZEROの根源になって歪み、マジンガーZが永久に勝ち続ける世界を望んでいるのがZEROなんだろう。だけど、すべてを否定する怪物を産んだのが、俺の次元世界への罪なら、輝くゼウスの名のもとに、全てを原子に打ち砕くまでさ。ゼウスの力を注がれて生まれ変わったZ、いや、ゴッドマジンガーと一緒にな」

ゼウスの写し身であるのがZなら、それを越えようとしているのがグレートマジンガーやマジンカイザーの系列だ。ゴッドマジンガーの姿がグレート然としているのは、その意志の表れである。Zマジンガーであるゼウスのボディもグレートマジンガーのような鋭角的なラインで構成されており、グレートマジンガーの姿こそ、人がゼウスの力を越えようとした証であり、ゼウスの権能を振るえる証なのだと。

「あれだけの力を持ってるZEROだけど、奮えない力が一つだけある。智ちゃん、ゼウスの神としての権能は?」

「雷?」

「そうだ。ゼウスは雷神だろ。その力だけは奮えない。だからゴッドには永久に勝てないし、Zマジンガーであるゼウスからすれば、子どもみてーなもんだ」

さしものZEROも、究極にたどり着いたマジンガーであるZマジンガー(ゼウス)には到底及ばないし、その片鱗である『真・ゴッドサンダー』を撃てるゴッドマジンガーにも勝てない。ZEROが初めて顕現した世界で、Zを超えるグレートに破れているように、ZEROを打ち砕く力の象徴こそ、雷なのだ。

「ゴッドスクランダーが間に合って良かったよ。これでビッグバンパンチができる」

「ゴッドは飛行能力あるのに、わざわざスクランダー作ったのって、ビッグバンパンチのため?」

「鉄也さんのブースターみたいなもんだよ」

格納庫にゴッドスクランダーとGブースターUが並べられている。自力で光の速さに加速可能な二機がそれを装備する意義は攻撃力と装甲増強のためで、飛行能力増強のためではない。スペースがかさばる要因は、このGブースターUとスクランダーである。

「今回はUのジョイント部をエンペラーやGカイザーの規格に合わせて作ったから、グレートマジンガー用には作ってない。ゲッター合金入れてるから、翼の形はある程度変えられるけど、構造の強度上げるために可動部減らしたから、かさばるのはしゃーない。ゴッドスクランダーは構造があの通りで、ゴッドを変形させる機構も入れたから複雑なのよ」

「なるへそ」

「スーパーロボットの中じゃ単純なほうだぜ?マジンガーは。ゲッターやコンバトラー見てみろって。この時代の整備員じゃ目ぇ回すよ」

ゲッターロボや超電磁ロボは合体機構が複雑である。特に真ゲッターになると、機体構造がGより複雑になり、まるで立体パズルである。超電磁ロボはある程度単純化されているが、智子に言わせれば『五十歩百歩』だ。超電磁ロボについては、給料日に買った超合金の組み立てに、なのはと黒江が説明書を片手に四苦八苦していたのを見ているからだ。

「うーん。綾香となのはが超合金作るのに四苦八苦してたしねぇ。実物見てんのに、玩具買うのってどうなのかしら」

「まぁ、それがマニアの性分だよ。ボスなんて、ボロットの漫画化とグッスのパテントで儲けてんだぜ?あいつ、意外にアイデアマンなんだよな。俺んちも、歴代マジンガーの玩具化とかのパテント料を科学要塞研究所とゴッドの砦の運営資金に当ててるしな。あと、超合金Zの家具とか調理器具とか」

「アナハイムが売ってるあれ、アンタんちの許可出てるのね」

「ああ。超合金Zは戦闘用にゃ旧式化したけど、日常で使う分にゃ長持ちするしね」

超合金Zは戦闘用途から退いた後、様々なモノに使われている。また、ゴッドZの製造にも使われるため、製造は続いている。ニューZは第一線の装甲材だが、ニューZは日常用途で使うには過剰性能なので、超合金Zが丁度いいのだ。これらは平和的な技術利用であった。鋼鉄の数十倍の強度なので、日常で使うには最高級なのだ。

「そうそう。前から聞こうと思ってたけど、昔、ドクターヘルが使ってた機械獣、どういう金属で作ってたの?」

「大元はミケーネが古代に作ってた金属だよ。21世紀の鋼鉄より頑丈な鉄系の合金。野郎は超鋼鉄とか呼んでた」

「超鋼鉄ぅ?」

「うん。ジオンが超鋼スチールってのを使ってたろう?あれをもうちょい頑丈にしたような感じさ。ま、マジンガーから見りゃ誤差の範囲内だけど、車とかのサスに使われ始めたよ。靭性が強くて柔らかいから割れ難いし」

ジオンが大戦中、モビルスーツのフレームや装甲に用いていた超鋼スチール合金。それと同系統の素材が機械獣の装甲材であり、ミケーネの兵器を再生するのに用いていた。戦闘獣は、ミケーネがそれを独自に発展させた合金構成されており、それをより堅い合金との複合させた装甲として用いた場合、ドリルプレッシャーパンチをも弾き飛ばすため、グレートマジンガーも苦戦させている。最近は製造法の解析が終わり、機動兵器のショックアプソーバに使用され始めている。

「で、おじいちゃんの遺品から出てきた、遺跡の写真だけど、見てくれ」

「えーと、なにこれ。ガラダK7とダブラスM2が合体したみたいな機械獣?」

「あいつらの基になったミケーネ最強の戦闘獣だろう。碑文によれば、『ミケーネの勇者、ガラダブラ、ここに眠る……』とある。多分、ミケーネが在りし日、最強格の個体みたいな感じでミケーネを強国せしめたけど、アレス国の老将軍と死闘を演じて相打ちになったってある。その老将軍こそが暗黒大将軍の昔の姿だろうな」

――アレス国。ミケーネと同等の文明を誇り、ミケーネと覇を競っていた国である。その国の最強格として君臨していたのが、暗黒大将軍を後年に名乗る事になる『老将軍』(おそらくその時点でロボットの体を得ていたのだろう)であった。ガラダブラと戦い、相打ちになったが、ミケーネの王であったギャラハンはその武を惜しみ、自らの配下とした。それが彼が暗黒大将軍を名乗る始まりで、数千年後、ようやく出会えた、互いに認め合う好敵手の鉄也と死闘を展開する事になるのだ。

「おそらく、闇の帝王――いや、ハーデスはこいつを蘇らせたはずだ。暗黒大将軍に次ぐ戦力になってただろうこいつを。その姿を模して『合成機械獣』として作ろうとしたのが、『ガラダブラMk01』って奴さ。ドクターヘルが肉体が健在の時に隠しておいた『最後の軍団』の中に混じってたから、多分、ミケーネはそれを量産しようとしてるはずだ。いや、ドクターヘルはデビルマジンガーになった後、暗黒大将軍を生き返らせる研究をさせられてるはずだ。その過程で、ガラダブラMk01に自分の生前の肉体のクローンを融合させるってこともあり得る」

「クローンを融合?」

「うん。ミケーネの技術なら、そのくらいの事は余裕だ。ドクターヘルのクローンをたんまり作られたら厄介だ。マッドサイエンティストだけど、天才だしな」

「なんかギャグテイストになりそうな?」

「あいつ、シリアス要素もあるけど、ギャグキャラ要素もあるから。本拠地後に残ってた音声記録聞くと、『馬鹿モノ!間抜け!ウスラトンカチおたんこなすのダイコンめ!!!!』とか言って、あしゅらにキレてた音声が…」

「ブハハハ!な、なにそれ〜!悪の組織の大ボスの台詞ぅ?」

智子は盛大に吹き出す。ドクターヘルは生まれ育ちなどにはシリアス要素があるが、振る舞いにはギャグテイストも多分にあり、あしゅらと秀逸なやりとりを交わす茶目っ気のある側面もある。また、甲児とも生前、『なーに、いつもお前さんとこの機械獣が練習台になってくれるからね。ドクターヘル、お前さんのおかげですよ♪』と言われ、『ぬぬぬ、ちょこざいな!と唸るやりとりを交わした事がある。また、十蔵が甲児という立派な後継者を得たことを羨ましがってもいて、『兜よ、ワシは君がうらやましい。敵ながら天晴れな跡継ぎを持ったと言って良いだろう…!』と嘆いてもいる。これは青年時代には親友であった十蔵への羨望かもしれないが、兜家とは青年時代以来の因縁があるため、どことなくギャグテイストも感じさせるやりとりを交わすことも多かった。智子が吹き出すのも無理はない。

「あいつがクローンを101人作って、そのクローンが大行進してみろよ。それこそコメディ映画のネタになるぜ」

「アハハハ……、は、腹痛い」

智子は転げ回るほど大笑いしていた。が、ドクターヘルは本当に自分のクローンをガラダブラMk01の制御中枢にせんと量産していて、既に数体は融合させていたりする。更に、クローンの中で最も出来が良い個体を、製造途中の幹部級戦闘獣と融合させて、戦闘獣『ヘル・ギガンデス』と名乗らせて、ミケーネ再建のために動かしていたりしている。その動きを察知していたらしいゼウスは、甲児や剣造にマジンエンペラーの製造を促したのだろう。

「でも、そうも笑っちゃいられねぇんだ。ガラダブラMk01の製造途中の個体に添えつけられるはずだった武器の威力は、超合金Zを一撃で破壊できるほどで、ニューZでも無視できないレベルなんだ。改良されたら、宇宙合金グレン以上でないと」

「強いじゃん!」

「そうなんだよ、そこが問題でさ」

ドクターヘルの作った劣化バージョンのガラダブラMk01がグレートマジンガーやグレンダイザーとほぼ同格なら、オリジナルの『勇者ガラダブラ』はマジンカイザーやマジンエンペラーにも立ち向かえるポテンシャルを有しているだろうと思われる。甲児がミケーネの介入を厄介と見ているのは、勇者ガラダブラを警戒してのことだろう。

「超合金を破壊できる威力の光線、グレンダイザーにも立ち向かえるパワー。介入されたら厄介な相手だ。ゲッター軍団に牽制は頼んでるけど、二軍だしなぁ、ゲッター軍団」

今回においては、デザリアム戦役前にゲッター軍団は結成されていたが、肝心のパイロットの多くが新人であり、マシンポテンシャルを引きだして戦える者は、號達二代目ゲッターチームのみ。初代チームの再結成を望んでいるが、弁慶はまだ復活する時間軸ではない。そのため、圭子はゲッター斬を場合によっては駆る意志を見せている。

「辛うじて、號のチームが一軍半ってところだな。 実戦には出したくねーって、ハヤトさんがぼやいてたな。でも、真ゲッターに乗れるのがあいつらだけだし、仕方なく送り出したってとこだよ」

「だから、ケイが斬で出ることも考えといてーとか言ってたわけかぁ。真ドラゴンはまだ寝てるし、竜馬さんは田舎に引っ込んでるし……。拓馬は来る前だし…」

ZEROを迎え撃つ戦力の理想として、竜馬達初代チームは真ゲッタードラゴンが欲しかったらしい智子だが、真ゲッタードラゴンは戦役中の覚醒なため、今はまだ繭の状態である。(ドラゴンからライガーの頭部が生え、背中に巨大なポセイドンの頭部がくっついている状態で鼓動を刻んでいる)かと言って、ゲッターアークは来ていないので、ゲッターの層が最も薄い時期になってしまった感は否めない。敷島博士が、竜馬用にブラックゲッターを作ってくれているのを祈るしかない。

「ゲッターの層が一番薄い時期なのよねー、今……。敷島のジイさんがブラックゲッターを作ってくれてるのを祈るしかないか」

「MSじゃ、エーリカちゃんがνのサイコフレーム増加試験機に乗ってくれるそうだ。サイコフレームは多いほうがいいからね」

「え、あの子、サイコミュを?」

「グランウィッチになった後に素養が目覚めたらしい。元々、空間把握能力はニュータイプレベルだしね。それと、昨日、ミーナ大佐もテストしてみたが、十分にサイコミュシステムを起動させられる水準のニュータイプ能力になりつつあるよ。ただ、MSの訓練は必要だから、Zガンダムの一つで訓練させようと思う。あれは予備機も多いしね」

「バイオセンサーとサイコフレームで?」

「ああ。アムロさんとも話したけど、サイコフレームは多いほうがいいってなったよ。忙しくなるよ。綾ちゃんはまだ帰ってきてないのかい?」

「民間機から軍用機を乗り継いでくるから、遅くなるって連絡あったわ。着いた先で乗り換える機がトラブル起こした上、何故か集中豪雨なんですって」

「あら、かわいそーに」

甲児と智子がそんな会話を繰り広げている頃、黒江は足止めを食っていた。都合よく集中豪雨が降り、更に機のトラブルのため、とある基地で足止めを食っていた。


――とある連邦軍の基地――

「だーー!!なんで集中豪雨なんだよ!!」

と、思い切り膨れる黒江。宿舎で雨宿りしているが、土砂降りと機体トラブルが重なり、かれこれ40時間は足止めを食らっていた。機体トラブルは乗り換えるはずのミデアの垂直離着陸用エンジンが火災を起こし、その修理に時間が予想より伸びた事、集中豪雨が降った事、パナマ攻略戦の煽りで代替機が手配できなかった事などの理由で、足止めを食っていた。やることがなく、宿舎の一室で拗ねている。変身とギアは維持したままであるので、なんともシュールな構図だ。調が見たら泣くだろう。

「何拗ねてるんですか、先輩」

「黒田」

「今、連邦軍の艦隊に頼んで、輸送任務を終えた駆逐艦『浅間』を手配してもらいました。あと数時間で到着しますよ」

「おー!良かった良かった、やっとこれでこの基地とおさらばできるぜ!」

浅間波動エンジン搭載第一世代の駆逐艦で、ガトランティス戦役以来、使われている形式である。初期は巡洋艦として計画、建艦されたが、種別改訂で駆逐艦になったので、巡洋艦基準の命名である。近々退役を予定している艦だ。連邦軍は外洋艦隊の駆逐艦をこの形式で構成しており、派生系も多い。が、新型の竣工により、入れ替えが始まる。デザリアム戦役はその過渡期に相当するが、その前段階の時点では装備更新が始まったあたりとなる。そのため、ガトランティス戦役から使われている艦と新型艦の混成艦隊というのも珍しくない。パナマ攻略戦には、ティターンズが用いていたペガサス級を撃沈するため、ドレッドノート級宇宙戦艦(主力戦艦級の艦級名。別名に『タイプD級』)が駆り出されている。ガトランティス戦役を生き延びた個体『扶桑』、『山城』、『レゾリューション』が投入され、最後の花道を飾っている。



――この時期、ドレッドノート級は次世代の主力たる『長門型宇宙戦艦』との入れ替えが始まっており、前期生産型(拡散波動砲と高度オートメーション化艦)は今や珍しくなっていた。前期生産型は残存個体が戦役中の36隻から大きく数を減らしており、特にロシア地区・中国地区建艦のロットは全艦が戦没しており、残存艦は精鋭部隊である日米英の地域に配備されていた個体のみなのもあり、前期生産型は評判が悪い。火炎直撃砲でへし折れる動画が出回っているおかげか、ドレッドノート級の後期生産型では構造と装甲が強化されている。火炎直撃砲は反則兵器だが、地球艦隊の生存率を低下させた張本人であるため、後期型の両タイプは対策として、『積層・複合装甲と、波動防壁の採用により防御力を向上させているが、艦首波動砲は外装部のみで撤去されている』タイプとなっている。言わば砲撃と防御特化のステータスの盾艦のようなものだ。そのネームシップはイリノイであるため、Iタイプとも言われる。地球連邦軍外洋艦隊は後期型ドレッドノートと新鋭の長門型をワークホ―スにするのだが、これは量産型外洋戦艦の代替となる長門型が予想より大型化・調達価格が高額化したため、ハイローミックスに方針を転換した。それを束ねる旗艦級宇宙戦艦の各州の独自設計が許されたため、ドイツは『ビスマルク』級を、イギリスは『キングジョージ級』、アメリカは『アリゾナ級』を設計し始めていた。ロシアは予算の都合、ノーウィックの再生で済ませている。波動エンジン艦の独自設計はヤマトとアンドロメダを範にした物も多いが、独創性が高いドイツ艦の例もある。それらは総旗艦の下位となる『方面艦隊旗艦級』を目指しており、指揮能力はヤマトより数割増しに抑えられた『戦闘能力寄り』の設計が主流である。これは艦隊旗艦能力の高めな大ヤマトやまほろば、ラ號、アンドロメダ級などは大規模艦隊戦を前提にした『戦略指揮艦』であり、戦術級には適しているとはいい難い事からの要求であり、指揮プログラムの能力も戦術級に抑制された。連邦軍は戦略級指揮統制は得意だが、戦術級の指揮統制はジオン軍などに遅れを取っているという面があり、それをカバーする艦が求められたのだ。そうした要求に基いて造られる艦は『戦術指揮戦艦』というカテゴリとなり、一定の成果を上げるのだった――


「あ、先輩。パナマが落ちたようです。今、敵守備隊が降伏した様子が入って来ました」

「あ、本当だ。ペガサス級が墜落して残骸になってら」

パナマが降伏したという報が入ってきた。三笠型の艦砲射撃が守備隊の戦意を喪失させ、ドレッドノート級がペガサス級を打ち負かし、墜落、擱座させた後の様子がライブ映像で入ってきた。ペガサス級は奮戦虚しく、ショックカノンで蜂の巣にされて大破していたり、墜落して半壊した艦が見受けられ、ジェガンR型がハイザックをホールドアップさせて、武装解除させる様子も見える。上空では、メッサーシュミットK型がP40を追っかけまわす様子も見え、戦闘そのものは終わっていないのが伺える。ただ、ここで一つの問題に思い当たる。パナマックスだ。パナマ運河は当時の能力では、全幅32.3mまでの船しか通れないため、超パナマックスである大和型戦艦や三笠型は全く無理である。

「おい、ちょっと待て。パナマックスどーすんだよ。たしか全幅32.3mまでがこの時代の限界で、大和型も三笠型も思いっきりオーバーじゃんか!」

「艦艇サイズのガリバートンネルを臨時で設置して凌ぐそうです。モンタナとリバティー用の新関門は工事中だったんで、それで急場を凌ぐとか」

「あー、ガリバートンネル……って!二個も設置したのか!?」

「そうでないと出れないでしょ。新関門をもっとでかくして造らせても、完工は三年後ですし」

パナマックスを拡大しようにも、23世紀の工作能力をフルに活用しても三年は必要であり、ガリバートンネルを臨時で設置する必要があり、ガリバートンネルが使用された。これは48年まで継続し、結果としてパナマの奪還はプラスに働くこととなる。

「そうか、21世紀の能力で大和型戦艦が通れるくらいの幅だし、それより大きいのを通させるとなると、もっとでかくしないと無理だしなぁ」

「ラ號くらいのを通させるとなれば、数倍の能力がいりますからね。最低、大和型戦艦が通れる幅と高さは確保しないと」

「第三関門をマジで完成させるのか……。これで敵の太平洋回航に大きな影響が出るから、ひとまずは安心だな」

「これでZEROを倒したあとでヒンデンブルクが来ても、大丈夫ですよ」

「おう。しかし、ヒンデンブルクは次元飛び越えて来るからなー。用心に越した事はないぜ」

「ですね」

ヒンデンブルクはH43級に相当する巨艦である。超大和型戦艦の量産が急がれているのは、それに対抗するためであるのは周知の事実だ。ヒンデンブルクの特徴は船体装甲が二重装甲になっている事で、大和型戦艦の主砲にも充分に耐える能力がある。そのカウンターパートとなる播磨型が宇宙戦艦の構造で造られたのが頷けるほど、火力と防御力重視であるのが分かる。その火力と防御力は前史で知っているため、グランウィッチはヒンデンブルクを『播磨のライバル』と見なしている。ヒンデンブルクは新機軸も多いため、ドイツが二次大戦に勝ったか、第二次大戦を回避した世界で設計・建造したのではないかと推測されている(ドイツの造船部は史実では保守的で、運用側にもノウハウが失われているため)。しかしながら、大和型戦艦をも単艦で圧倒せしめるという意義で言えば、ヒンデンブルクは役割を果たし、バダンの広告塔になっている。ミッド動乱の休戦協議が同艦上で行われたことからも、バダンの有する戦争抑止力になっている。また、当時に建造途上の二番艦は仮想戦記マニアの憶測では『デア・フリート・ランデル』ではないかと言われているが、実際は違っていたりする。

「越後は完成してるのか?」

「牧野造船少佐に問い合わせたら、艤装は40%に到達したそうです。46年には試運転に持って行けそうですよ」

「早いな。宇宙戦艦の工法で作らせたのが正解だったな」


「ええ。三番艦は違う名前になりそうですけどね。これで旧式艦の代替は終わりますよ」

三笠型を別枠で考えても、金剛型〜伊勢型までの旧式戦艦の代替は完了する。今度は旧式化した雲龍型の代替の空母が問題になる。ウィッチ閥との相克(ウィッチ閥の一部は『空母は自分達用の艦種だ』とのたまっている)、ジェット機への交代で生じる維持コストの高騰。扶桑はそれに悩んでいる。

「戦艦はいいんだが、問題は空母だよ。ウィッチ専用にするにゃ、戦後型のスーパーキャリアは宝の持ち腐れだし、かと言って、翔鶴以前のサイズじゃ、今後は空母として使えないしな」

「前史の45000トン級の情報流します?」

「それだな。ウィッチ用と通常を両立できるサイズとしちゃ最大だし。花道を飾るに相応しいしな。牧野少佐と西島少将に流しとけ」

「了解です」

「あーくそ!なんで空軍の私が、海の心配しなちゃならんのだ!」

「空軍に行く海のウィッチが7割近くですからね。井上さんの提言で、陸を重視してましたから、有力者は殆ど空軍に取られて、空母ウィッチはてんで役に立たない連中ばかりが残ったのが前史でしたからね」

「井上さんも厄介な置き土産をしたもんだ。次の戦争でヒーヒー言うのは私達なんだぞ?まったく……」

井上成美中将(後、大将)の提言は海軍の空軍化という本末転倒気味な提言だったため、彼への21世紀からの批判は凄く、彼が空軍移籍を決意するに至るのである。海軍は楽観視しており、空軍を『統合任務部隊だろ?』とタカをくくっていたが、独立空軍になるとわかり、大パニックになるのだ。独立空軍になれば、完全に別の軍と扱われるため、海軍航空部隊は有力者の慰留に血眼になるが、時既に遅しであった。しかし、三軍統合運用という事で、空軍のエース達が空母任務につくことになる事で、結果としてはプラスとなり、空母航空団に空軍部隊が混ざる様になり、当然ながら、64Fはその手本として運用されてゆく。

「まぁ、どの道、統合運用で空母にゃ乗るけど、今度は他の部隊にも働かせようぜ?前史で酷使されたし」

「ですね。交代部隊を3つくらいは育てましょう。そうでないと、またこき使われちゃうし」

前史で酷使されたのが嫌だったらしく、交代部隊の育成に燃える二人。二人の努力は数年後に実るが、それは別の話。

「先輩、最近、変身してる時が多いですねぇ」

「気が楽になるからな。普段の姿だと、安心して彷徨けないし。歴史改変で有名になったはいいけど、智子の気持ちわかったぜ…」

智子は自分についたイメージに気を使っているが、黒江はそれを理解し、ため息をついた。黒江は武人/戦闘狂/求道者のイメージが映画でついた(扶桑海の閃光でその面が強調された)ため、『普段からニヒルな笑みを浮かべ、とにかく敵を倒す事しか興味ない』と後輩から思われている。そのイメージがミーナとの関係に影を落としているのである。実際の黒江はむしろ人懐っこく、妹属性と元気っ子属性持ちの乙女なのだ。映画で『大人の女性』として描かれた圭子のほうが、むしろ戦闘を『最高の愉悦』とし、鉄砲玉的な所を持ち合わせる戦闘者である。実際の戦場を見た者達は『加東のほうが戦闘を愉しんで突っ込んでた』、『戦闘者とは、あいつのような命知らずをいうんだ』と口を揃える。アフリカでの保護者属性を『猫かぶりをしてる』と同期らから言われるのは、圭子のトマホークランサーを担ぐ勇姿(?)と暴走、決め手となったストナーサンシャイン〜シャインスパークを目撃しているからで、初代レイブンズの同期/先輩らからの評価は実際の所、圭子が『過激で危ない人』、智子が『堅実な指揮を執る人』、黒江は『攻撃的だけど、一番に理論を重視する知恵者』という評価である。マルセイユは転生後、圭子のこの様子を知ると、嬉しそうな顔を見せた。自分より過激な事をしていたのがわかり、親近感が増したのだろう。真美は知っており、『これがケイ隊長の本当の姿ですよ!』と息巻いて説明するほど嬉しがった。圭子の『絶頂期』の頃の戦闘に憧れていたからだろう。

「でも、後輩連中に流れてる噂で、ケイ先輩のほうが『ずっと危ない』って流れてますよ。真実は元から知ってたみたいですけど」

「アイツは江藤隊長が差し引いてたスコアじゃなくて、マジのスコアを、家の力で知れるくらいの名家の出だしな。たしか森蘭丸の子孫なんだって?」

「母方がそうだって言ってました。あたしみたいに傍流じゃなくて、嫡流ですし」

「う〜む。意外にお嬢様じゃん、あいつ。そいや、ケイが言ってたな。『そう言えばあの子の母親が国宝級の香木送り付けてきた事あったわね、蘭丸が信長公から下賜された物とか言ってたっけ』って。それ聞いたときゃ、ガチでブルったよ」

「この時代は21世紀と違って、文化財保護って考えが育ってませんからね。21世紀のお宝鑑定番組に出したら鑑定士が泣く品がありそうですよ、あの子の家」

「次の戦が始まる前にコピー取れと連邦にいっとく。空襲で消えたら、事だ」

「ウチも私が正式に当主になったら一括で管理しますよ。重慶の別荘に保管されたら破壊されちゃうし」

「大連(南洋島北部の港町)の基地の地下施設に保管庫手配しようか?」

「あ、頼みます。

「後で手配しとくよ。……ん?ニミッツのおっちゃんだ。どうしたのー、おっちゃん」

「実はな、中佐。重大な事に気づいた。スカイレーダーあるだろう?」

「あれがどうかしたの?」

「敵も採用していたらどうするんだと意見が出てな。敵味方で同じ飛行機採用した事はあるのかね?」

「おっちゃん、未来世界の記録見てみてよ。敵味方が同じ機体なのは数多いんだよ?実際、ウチの零式輸送機はDC-3のライセンス生産品だったしさ」

ニミッツからの電話で例を挙げる黒江。意外なことだが、敵味方で同じ機種で空戦をしたケースは大戦後の第三国などに多いし、それと塗装が違ったり、国籍標識の違いなどで見分けられるケースも多い。(二次大戦中は機影で誤認させ、撃墜したケースも敵味方問わず多いが)

「あれ以上のレシプロ単発爆撃機はないから、プロペラ変えたり、色を白じゃなくて、空自の迷彩にしてみたりしたらどうだろう。結構印象変わるし、向こうは名前を旧称の『デストロイヤーU』のままで採用したかもしれないし、こっちにゃ技術の優位があるんだし、二重反転プロペラとかにできるんだから」

「そうか、それで随分と印象が変わるな」

「元は同じ国の飛行機で戦ったなんて、サッカー戦争とか中東戦争の例があるし。レシプロ最後の勝者はコルセアだよ、おっちゃん?」

「分かった。ありがとう」

レシプロ戦闘機が戦場に立った史上最後の戦争『サッカー戦争』。その戦いで使われたのはP-51とF4U。勝者は後者である。黒江はプラモ作りでその逸話を知ったが、引き合いに出す。黒江の具申で考えさせられたニミッツは、塗装などの問題を解決する術を見出し、敵味方識別装置の搭載の義務化を決め、名を『スカイレイダー』とし、塗装の変更や武装/アビオニクスの近代化を施した後に採用する。スプルーアンスの『敵も装備してたらどうするんです。敵機誤認やら、友軍機誤認の連発ですよ!』という意見を退け、同機は配備が始められる事になる。これに空軍の『ヘンリー・アーノルド』大将は、『どっちみち、どっちみちプロペラ機は遠目には同じ様にしか見えん。射撃距離なら識別帯でも巻けば良いんだ。欧州戦線のウチみたいにな』と返し、見事にスプルーアンスを論破したという。実際に、未来世界の記録でも、P-51が誤射される事があったので、塗装を変えて識別帯をつけたら誤認率が下がったエピソードがある。敵味方の誤認を避けるため、リベリオン本国軍の正式塗装の調査は命題とされ、それを掴んだ上で、識別帯の色を決めるなどの念の入れ方だった。そして、正式に空自の迷彩と、亡命リベリオン軍正式の識別帯が採用されたのは、1945年の暮れ頃だったという。これはスプルーアンスに気を使ったのが半分、混乱を避けるためが半分であったが、実際は亡命リベリオン軍と本国軍とには、国籍標識に違いがあった(本国側がウィッチ世界元々の崩れた青星マーク。亡命側は、米軍標識マークと同じ物の帯の紅白が逆のもの)。これにより、スプルーアンスの懸念が半分外れた事になり、アーノルドとニミッツを安堵させたという。



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