外伝その170『ガンダムという存在』


――地球連邦の飛び地扱いへ移行したウィッチ世界へは、かなりのMSが投入され、ティターンズ掃討に回されていた。ガンダムタイプも相当数が使用されており、マルセイユのクスィーを始めとして、複数のフル規格のガンダムがシンボリックに宣伝されていた――

――駐屯地――

「アムロさんのガンダムといい、ガンダムって一点物多くて、整備が大変そうね」

「いや、外観はともかく、内部構造は規格品も多いぞー?曲がりなりにも兵器だしな」

「でも、乗り換える時に、戦闘データをコピーする必要はあるの?」

「フレデリカ。MSはな、MSは機動リミッターが有るから、個人の操縦ログが無いと限界まで性能使える様になるまで時間がかかるんだ。乗り換えてすぐにフルパワー出すには教育型コンピュータにデータをインプットさせんとマシンのフルポテンシャルは出せないんだ。黒江さんが乗機のMSに戦闘データを最初に噛ませてるのは、そういう事だそうだ」

マルセイユはフレデリカに解説する。黒江は多種多様な機種を乗りこなしているが、MSの場合はOSにパーソナルデータを噛ませてから慣らし運転を行う、マメなところがあると。元々、テストパイロットであった癖か、そういうソフトウェア面での調整も怠らず、遂には整備士の資格まで取ってしまっているのが黒江だ。

「あの人、一級整備士の資格取れたとか言ってるしなぁ。整備まで自分でやれる様になるってのは、扶桑陸軍の伝統だな」

「扶桑陸軍って自分で整備を?」

「いや、パイロットも整備に参加して、整備班にレポートを出すのが伝統だったんだ。海軍航空が罵られたのは、パイロット/ウィッチがある種の特権階級だったからだ」

「特権階級、ねぇ」

「まぁ、空自も整備は専門のメカニックに一任してるけど、あの人は整備班とサシで語れるから、受け良いんだってさ、自衛隊でも」

「あの人、氷野曹長や私とサシで語れるくらいの機械工学系の知識あるのよね。平時になって、自動車会社興したら、空冷水平対向エンジン以外の可能性も考えておけとか忠告されたわよ」

「お前の同位体が興した会社は21世紀には大手自動車メーカーだしな」

「うーん……喜んでいいのか」

「ま、それくらい整備班にウケが良いんだよ。黒江さんは。ミーナなんて、覚醒後は整備班とのコミュニケーションを取るようにしてるが、覚醒前の失点だって自虐してた」

「昔の男が整備兵だったからって、あの規則はねぇ」

ミーナが掲げていた、整備兵のウィッチへの接触禁止は黒江達が任務での必要上という理由で有名無実にしたものの、整備兵側の不満は溜まっていた。それは坂本達も部隊結成時から悩んでいた問題である。覚醒後はクルトへの恋愛感情を割り切り、自分から行動を取っているが、覚醒前の時点では、バルクホルンや坂本、エーリカの三人をとにかく悩ませ、501では「機付長の御手紙」「ウィッチからの御手紙」という申し送りの手紙を残す制度がウィッチ達で自主的に作られた。それでも整備兵の反発は避けようがなく、坂本がその制度を認めさせ、電話で圭子に愚痴ったこともある。43年の秋頃、部隊の設立初期の頃だ。当時は既に圭子は覚醒しており、今のキャラで坂本にアドバイスをしている。

『どうしよう、加東』

『如何にテメェでも、こればっかはあいつのトラウマだからなー。あいつは前史でもそうだけどよ、一回痛い目に遭わないと行動を変えないタイプだったはずだぜ。バルクホルンとエーリカが目覚めてるなら、協力してハメちまえ』

…だ。後に着任した後、『あ?別にいいだろ?整備の連中を掌握しておかねぇと、いざという時にストライキ起こされちまう』と、面と向かって言い放ってみせ、整備兵を歓喜させているが。圭子は今回はこのキャラを通しているため、覚醒前のミーナを警戒させたが、後輩達からの人望は篤い。圭子は今回の歴史では、『温厚そうな容貌だが、一皮剥ぐと戦闘狂』として、事変世代とその直近の数世代先のウィッチに記憶されていた。ミーナは志願がカールスラントの情勢が切迫した1939年なので、レイブンズの事は知らなかった(バルクホルンとエーリカのほうが知ってるという状況であった)。これはミーナは戦時の志願、二人は平時志願+Gであるという差もあった。そのため、江藤の負の遺産の効果もあり、200機撃墜のハルトマンとバルクホルンが30機がそこらの黒江や圭子に敬意を払い、更に諂うのかを理解できなかった(これはバルクホルンとエーリカの同僚であったフーベルタが『空ではメンコより、敵を落とした数が正義だ』と公言していた事による悪影響だ)。江藤が上層部と、『ウィッチの神様』に責任を問われたのは、最初の査問で、三将軍がミーナを問い詰めたことから、事の次第が扶桑へ伝わったからであったと言える。三将軍はアフリカで圭子の大暴れぶりを間近で見ており、『あれが、血塗れの処刑人と言われたケイの本性か』と、モントゴメリーは慄いたほどである。そのため、モントゴメリーは『降格』をちらつかせ、とにかく恫喝した。ミーナが情緒不安定に陥ったのは、むしろその恫喝よりも、坂本がレイブンズに全幅の信頼を置いていて、自分の味方をせず、三将軍に同意する立場を取ったという事へのショックであったが。坂本は内心でミーナに侘びつつ、Gへの覚醒を促せという赤松からの指令に則って、査問で発言した。また、赤松が渡欧するタイミングで、レイブンズの現役復帰を報ずる官報と、扶桑全軍へのレイブンズの新しい正式スコアの布告が発布され、赤松がそのコピーを持ってきた事が一度目の査問でミーナに楔を打ち込む役目を果たした。その数は未来世界に行く前の時点でのものだが、事変だけで250に達していた。これはこの時点でのミーナを完全に超え、バルクホルンとエーリカにも劣らない。その時のミーナは完全に固まっており、ロンメルへこういった。

「1937年で……250!?し、将軍……当時の時点でこれは…」

「宮藤理論の黎明期の頃にしては信じられんだろう。だが、これはガランド君が確認し、当時のリベリオン報道班も記録していた事実だ」

ロンメルは、504の元隊長であった『フェデリカ・N・ドッリオ』が偶然にも、経歴確認のために、扶桑やリベリオンから事変当時の記録映像を取り寄せていた偶然を上手く利用した。一度目の査問で見せたのは、黒江がエクスカリバーで陸戦部隊を救う一瞬の映像だ。


『束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流!!受けろ!!約束された勝利の剣(エクスカリバー)―――!』

当時は未覚醒の若本や武子の驚く顔も映る映像であり、扶桑側が撮影した映像である。またその後に、リベリオンがカラーで撮影していたバージョンも写す。こちらはより鮮明だ。

「特撮ですか?」

「リベリオン軍の記録班がこんなフィルム作ると思うか?」

「いえ…」

引きつった笑みを浮かべることでしかミーナは平静を装う手段がなかった。

「これが当時の軍で特秘に指定された『超常現象』だ。黒江くんの必殺技なのは、見れば分かるね?」

「エクスカリバーと聞こえましたが……」

「そうだ。約束された勝利の剣。アーサー王伝説の聖剣。黒江君はその力を持つのだ」

「!?扶桑のウィッチが何故、その力を!?」

「その力を持つ理由は今や、連合軍全体の特秘事項だ。我々でも、おいそれと言えん。が、彼女はその力を取り戻し、現役に戻った。元祖『斬艦刀使い』として。近いうちに説明されるだろうが、今は秘密だ。坂本少佐。これを真実と認めるかね」

「(大事の前の小事だ、すまんな、ミーナ)ええ。自分は当時、二等飛行兵曹として、その場におりましたが、映像は真実です、将軍」

坂本は三将軍に対し、映像を当事者として肯定し、黒江達へ全幅の信頼を、後輩として寄せていると断言する。ミーナはここで坂本がこの査問で自分の味方ではないと感じ取ったか、坂本へ疑問を発する視線を向けるが、赤松からの指令もあり、坂本は視線を意に介さない。敢えて、情緒不安定にさせることで、自分で拒んでいるG化を促すためだ。ミーナはG化の条件は満たしていたが、精神的に『今の自分の消失』と考えたため、芳佳よりも覚醒が遅れていた。そのため、坂本は荒療治に出た。頬を指差して…。

「その時の余波で飛んできた破片に当たった傷跡がこの辺に…」

眼帯の縁の辺りを示し、前史にはない傷痕を示してみせる。これは黒江がエクスカリバーを放った際の余波で放棄されていた重砲の破片が飛び、坂本の眼帯の縁の辺りを傷つけたからだ。黒江はもちろん、『誰だ、あんなとこに重砲の破片なんて放置しやがって』と大慌てだったが、智子が『芳佳から多少教わった』治癒魔法で大事には至らなかった。智子は『前史で芳佳のばーさんから、治癒魔法を多少なりとも習ったのが役にたったわ』とコメントし、傷を薄っすらとわかる程度にまで治癒させ、坂本も『気にするな。日焼けクリーム塗ってればわからん程度さ』と笑い飛ばしている。もちろん、智子が習っていないはずの治癒魔法を使ったので、当時は覚醒前の武子が目を白黒させ、『貴方、治癒魔法使えたの!?』と驚きの声を挙げたのは言うまでもない。智子は前史からは予め、芳佳と関係を持つため、名前を伏せた上で、剣術の先生として幼少期に会っている。今回はそれでいじられる羽目になったが、芳佳にとって『いい思い出』らしい。智子は今回においては、宮藤博士に礼を言う目的も兼ねて、芳佳に接触した。存命中に礼を言いたかったからだ。宮藤一郎は智子に『どうか、娘が目覚めたら『導いてやって欲しい』。私に時間がないのなら、君が私の代わりに娘を守ってくれ』と遺言を残している。それは智子がレイブンズである事を知っている上でのことで、この時に智子に託した遺言はレイブンズが芳佳を覚醒まであらゆる手段で守り、宮藤一郎の『葬式』の弔問にも訪れた理由にもなっている。宮藤一郎は自分の死期を知るに至り、心残りとして娘を挙げ、『娘の花嫁姿を見たかった』と吐露し、智子に『レイブンズと謳われた君なら、娘を守ってくれると信じているよ』と延べ、後の娘婿への遺産となる、次世代理論の基礎となる理論が記された手紙も遺したと述べた。

「これは……!」

「君なら分かると思う。私がいずれ形にしようとしていた奮進推進時代に備えた理論だ」

「博士、貴方は……」

「私は奮進推進の可能性に未来を見た。レシプロ推進は固有魔法に左右されない限界は時速800km。そこで推進効率がガタンと落ちる。固有魔法を使えば、音速は超えるが、機械が持たん。奮進式は近い将来、君達の力となるはずだ」

宮藤一郎はレシプロ推進の限界をこの時点で知っており、魔導ジェットエンジンの開発に精力を傾けていた。だが、自分の運命を知ったからか、智子には話したのだろう。構想のすべてを。

「種子島少佐と永野技術中尉には、この構想は話している。だが、軍部は開発予算をくれんだろう。中尉、教えてくれ。私がいなくなった後……この構想は……技術屋の自己満足だと思ってくれて良い、頼む」

この時、既に後の零式と烈風となる戦闘機/ストライカーの図面を書き終えていた彼に取って、ジェットエンジン開発は将来の目標であったが、智子がもたらしたメタ情報で死期を悟った彼にとって、技術屋としての懸念がジェットのことだった。宮藤一郎はウィッチにとって、大恩ある人物。智子はこう告げた。希望をもたらす旭光になる一言だ。

「そうねぇ…。『旭光』から『栄光』に繋がる、とだけ言うことにしておきます。博士」

「…ありがとう…」

その単語で、未来の栄光を悟った宮藤一郎は晴れやかな顔であった。この数年後、彼はレイブンズでもわからないが、1940年前後に死去する。智子は彼の遺言を守り、彼の愛弟子であり、後の娘婿となる人物に第二世代宮藤理論の基礎理論を託す。それで太平洋戦争に、扶桑最後となる、自前の構想で新規に製造した戦闘機/ストライカーユニット『震電改二』(プロジェクトの継続という形だが、実質は再設計であるので、横須賀航空隊出身者は罪悪感に苛まれ、戦後に再建されたテスト部署に関わらなかったという)




「――ドラえもんとのび太だが、なんで、私達といつも都合よく、会う事になる?意図したとしても、そう上手くいくか?」

話は戻り、マルセイユがふと、疑問を口にする。黒江達と都合よく会うことになるのは何故かと。

「特異点じゃないかって話よ」

「特異点?」

「私らのように転生しなくとも、自然と歴史の改変前の記憶を保持できて、私達と会ってきたという記憶を持つ特別な存在。そして、のび太くんの一族は私達を見守る宿命を背負った一族。今は、のび太くんの代から、その雲孫(孫の孫の孫の孫)までが確認されてるわ」

「ん?えーと、日本語で孫の孫が玄孫だろ?」

「ええ。その孫が昆孫らしいから、のび太くんの一族はのび太くんの代から、23世紀の戦乱が終わろうと、私達を見守る宿命になったって言えるわ。のび太君が亡くなる時、『不死になり、過酷な運命に直面した彼女達の助けとなってほしい』という家訓を遺したそうだから」

「のび太は子孫に後を託したんだな……」

「私達は世界が望んで、神格になったけど、裏で陰口を言われてるような全知全能じゃない。それ故に理解者は少ないわ。神様って言えば、全知全能って思ってるから」

「オリンポス十二神が争ってる時点で気づいてほしいよ、全く」

黒江達は『戦神』になったが、アテナの従神であるので、基本的に自分に関連がない分野の力は無いので、自分の権能が及ぶ範囲以外では、『不死になった人間の英雄』と言える。神も全知全能ではない事は、より上位の神々であるはずのオリンポス十二神が証明しているので、Gウィッチは立場的には、『不死になった英雄』なのだ。

「貴方、酒飲まなくなったわね」

「酔えなくなったからな、もう。若いガキ共の陰口には慣れたがな。……のび太の一族には、未来永劫の十字架を背負わせてしまったな」

「のび太君が望み、子孫達はその遺訓を守った。何代も継承されると、その内に、何人かは反発するものだけど、のび太君の一族は悪人がいないのよね。石器時代から」

フレデリカは青年のび太とは付き合いがあるらしく、野比一族の持つ稀有な善性を解説した。石器時代から継承されるDNAというのも凄い。のび太の代で『名家』となり、セワシの代で不幸に見舞われる。一年戦争がちょうどセワシの老年期になった頃に相当し、次男がブリティッシュ作戦により、一家ごと亡くなったからだ。Gウィッチ達の助けになってほしい。それがのび太が亡くなる際、子や孫に遺した一言。ノビスケや孫、ひ孫ののび三、さらにその子のセワシ、その更に後の代に至るまで忠実に守った。のび太の遺訓を子々孫々、忠実に継承するあたり、野比家は基本的に善人の集まりなのだろう。


「私らはあいつの一族に未来永劫背負ってゆく荷物を押し付けた。なら、せめて…私達が今、期待されてる役目は果たしてみせよう」

「ファンネルミサイルは補充してあるわ」

「ありがとう」

マルセイユはGウィッチとして期待される役目を果たすべく、クスィーガンダムに乗り込む。どこかの世界で『マフティー・ナビーユ・エリン』の乗機として使われた個体ではないが、シンボリック的な役目を重視され、同じカラーリングに直された。そのGが覚醒める。

『ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ、クスィーガンダムで出ます!』

マルセイユはスロットルを引き、クスィーガンダムのスラスターを全開し、飛翔する。ミノフスキーエンジンの吹き上がりは良好。どこかの世界で『マフティー・ナビーユ・エリン』の象徴として閃光のように輝き、そして消えた悲劇の『G』は今、そこと別の世界で先祖のRX-78-2と同じ『地球連邦軍、ひいては人の意思の象徴』という役目を背負って発進していく。

「十字架、か。確かに、ハンナの言う通り、私達はあの子達の一族に役割という名の荷物を背負わせた。かのデューク東郷は『誇りは気高いが、過剰になれば傲慢だ。それは苦々しいだけだ……』とワイン業者に言ったそうだけど……」

Gウィッチは将来、引退しても『軍人』であったという経歴と向き合っていく。それはたとえ、神になっても向き合っていく事実である。ある陰口の中には、黒江達が懇意にしているドラえもん達の『死に様』を知っていて、なぜ同じような出会いを繰り返すのかと。理由は『理解者』であるからだ。ドラえもん達は転生を繰り返した黒江たちのことを知っており、すべての事実を知っている『特異点』のような存在である。それ故に、ドラえもん達は黒江達が転生を幾度もしたとしても、変わらない友情を持って接する。のび太は『子孫達に役目を押し付けるのって、僕のガラじゃないけど、僕はただの通りすがりの正義の味方だからね』と青年期に述べているが、自分が死した後も、子孫達が自分の意志を継承していくと信じる辺り、のび太はピュアな男であるのが分かる。そして、ウィッチ世界の理を崩してしまった巨人の生き残り達の討伐のため、一機のガンダムが飛翔する。

『アムロ・レイ、HI-νガンダム、出る!!』

補給を終え、再出撃するHI-νガンダム。連邦の白い悪魔、いや、白き流星再び。それを示す意図もあるパーソナルマークは、ティターンズ残党に『アムロ・レイの登場』を印象づけていた。



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