外伝その201『大空中戦12』


――ダイ・アナザー・デイで浮き彫りになった在来式空母の陳腐化は、扶桑海軍を大艦巨砲主義に立ち戻させる効果を生んでしまった。未来での大型空母基幹の空母戦闘群一式を揃え、維持する費用が第二次世界大戦型大型空母六隻分以上の莫大な費用がかかる事が分かると、空母閥は雲龍型航空母艦20隻運用計画を放棄せざるを得なかった。また、ジェット戦闘機の登場による搭載機の大型化は既存空母では翔鶴や大鳳でも小さすぎる上、たとえ信濃が空母になろうと小さいという結果が突きつけられた。(橘花が調達されず、いきなりF-8を得た上、次に控えているのがF-4EJ改の空母艦載機仕様、F-14(単座仕様)という大型機である事も、雲龍型の急激な陳腐化を招いた)元々、雲龍型はRATOと油圧カタパルトを使って橘花を運用するはずだったが、それが没ったため、旧型空母の烙印を押された。そして橘花そのものが『劣化メッサー』の烙印を押されたので、扶桑の軍需産業はプライドを傷つけられた。扶桑の軍需産業は自国製航空機を作るチャンスをくれと懇願し、ダイ・アナザー・デイの開始日に『試製・震電改』の開発許可を得たのだが…。なんと、横須賀航空隊が領収した震電の提供を拒んだのだ。それから一年ほどは工場で製作中だった二号機をベースにして開発を行った。一号機の提供を拒んだ横須賀航空隊は『活動自粛指令』に憤慨した一部中堅の暴走を止められず、隊としての統制が取れぬまま、クーデター事件に同調してしまい、クーデター軍の瓦解に悲観した者たちが震電の機体と資料を焼いてしまう。この時にマ43ル特の図面も失われ、激怒した小園大佐の拳が飛び、黒江達が恐れた『日本によるさらなる制裁』が課されてしまう。また、テスト部隊に黒江の一件で不信を抱いていた昭和天皇が、源田に『テスト部隊は当面の間置かぬように』と要請を出した事により、空軍の専任テスト部署の設置は戦後を待つ事になる。――


――空中――

「どうしたんです、空将補。浮かない顔ですね」

「いや、横空の馬鹿どもが震電のジェット機化に非協力的でな。困ってるから、工場でほぼ完成状態の二号機をベースにしろとメーカーに助言の電話をしてきたところだ…」

「震電ですか。あれはそのまま、時代相応のジェットエンジンを載せても、たかが知れてるかと」

「F-104やF-4のエンジンを考えてみろって言って、米軍にサンプル提供を頼んだ」

当時、震電改良型に相応しいジェットエンジンは国産の新型であるネ330(推力:900kg)が予定されていたが、リベリオン最新鋭の『J47-GE-27』に比して非力と指摘され、困り果てた筑柴飛行機(現地の九州飛行機)に助言をした黒江。つまり、これは1940年代の技術陣に1950年代後半以降の一線機水準を要求する無茶な要求も絡んでいた。日本財務省や防衛省背広組を中心に、扶桑国産機を第一線で用いるべきではないとする勢力がおり、その彼等の策謀で出された要求仕様は『最低でも旭光を超えろ』というものだった。一応の名目は『米軍機系と旧軍は規格違うから…』とうものだが、扶桑は事変での戦訓で零式艦戦や隼以後の航空機は連合軍共通規格に則って製造されている。従って、飛燕にライセンス元のエンジンを載っける改造が可能である。五式が作られたのは『扶桑の整備員の平均練度に合わせた』改造の面が大きい。そのことがメーカーから抗議されると、要求仕様を世代を飛び越えたモノにする事で、自分達の面子を守ろうとしていた。扶桑は1940年代の頃は航空先進国で鳴らしていたが、未知の分野であるジェット機は地球連邦軍の手助けが入った上で、ようやく第二世代機の安定供給にめどを付けたばかりだった。また、扶桑は極秘に南洋に地下都市を築き、その研究区画で未来技術を研究していたので、そのフィードバックで第二世代機を造れるようにはなったが、第三世代は未知の領域である。米軍が自由リベリオンにも機体を供給する条件で便宜を図ってはいるので、ファントムUのライセンスは45年度中には出されている。米軍も日本のこのロビー活動に呆れており、『日本は怯えすぎだ』と述べている。米軍も『俺達が20年以上の試行錯誤でたどり着いたんだ。二級の技術者連中どもじゃ、50年かかるかもしれんのだぞ』とは空軍高官の談。しかし、防衛省はティターンズ本隊の戦力を強く警戒しており、それが黒江にVFを取得の仲介をさせる真の理由だ。統合戦争で統合軍(後の地球連邦軍)が用いた『タイガーキャット』戦闘機はVF-0の前段階かつ、日本の長年の夢であったことを意味する。21世紀の日本はVFを限定的に運用する事でその可能性に気づき、21世紀から22世紀前半までの長い時間をかけて研究を行う。米軍がデストロイドに傾倒し、なおかつ統合戦争最終局面の日米戦争に間に合わず、戦局に寄与しなかったのと対照的だ。OTMがなければ機体強度を維持できないことが分かっているため、VF時代は22世紀末期頃をやはり待つことになるが、その時代のものを取得する事は2019年時点で行われていた事になる。(武装は既存テクノロジーの応用なので、21世紀でも製造は可能)

「可変戦闘機は安いのが救いだな。21世紀基準の予算で買ったら数十機以上用意できたし」

「未来だとどのくらい安いので?」

「最新鋭機でも、フェラーリ数台分くらいの感覚で買えるそうだ。配備がされてないのは、政治的理由だそうだ」

可変戦闘機やコスモタイガーの頃になると、自動工場が熟成されきっている事や、移民惑星から多くの資源が輸出されてくるため、戦闘兵器の値段は相対的に安価になっていた。23世紀初頭では、最新鋭機のVF-31がF-35一機の値段で数機買えるほどに安価になっている。なので、それより一世代古いAVFになると、黒江の給金で自家用機の頭金が払えてしまうのである。黒江はその恩恵で、野比家地下に自家用機代わりに19Aの自家用仕様(自衛のため、武装はフル装備)を置いていたりする。

「反乱防止、ですか?」

「うむ。特に、高性能で鳴らすAVFにエースが乗るとマクロス級の対空砲火を無傷で切り抜けてくるからなぁ。私も訓練でしたけど」

デザリアム侵攻前の段階では、24系統の新世代機がフォールドクォーツの問題で大量生産が難しいため、AVFの地位が上がっていた。黒江はイサムと違い、突破時に何箇所か被弾しており、そこもイサム達『人外』には及ばない若手と見られる要因である。

「まあ、お前らもB公の防御方陣には慣れてるだろ?ウチの隊の若い連中が驚いてる」

「B公のは指揮官が優秀でも、僚機のパイロットが経験不足だったりすると、編隊が崩れます。そこを逆落としか斜め銃とかで狙えば、B公はへし折れます」

日本軍の重爆迎撃で鳴らした部隊の猛者達は屠龍、月光、雷電、三式、五式、二式などの機種でB29と死闘を繰り広げていたので、速度や高高度性能が改善されれば、未熟練のパイロットが動かす機体は敵ではない。機首に12.7ミリ四門を撃ち込めば、B36でも撃墜できるのだ。しかしながら、扶桑機で四門の機銃を持つ戦闘機はそれほどなく、急いで増産したりした機種も多い。特に、疾風の性能特性がまるで違うのに泡を食った空自がメーカーに要請したのが『キ44-Vを緊急増産!!』というもので、500機ほどが三週間で用意されたほどだ。疾風は史実より軽量の設計で速度を得ていたが、真の意味での制空戦闘機の本分を求められたことで、売りであった速度性能が10キロ低下し、航続距離も低下するが、それと引き換えに戦闘能力そのものは格段にアップした。日本側は『シーフューリーより遅い!』といちゃもんをつけたが、格上のエンジンを積む同盟国最新鋭機相手では分が悪いのは事実だ。695キロの速度はベアキャットであれば超えている(初期型だが)からだ。このことをセールストークにし、採用にこぎつけたのが生き永らえた理由だ。(シーフューリーはブリタニアが技術の粋を集めて製造した3000馬力級エンジンを積んでおり、パワーが疾風などより格段にあるので、世代が違うのだ)ジェットに軸足を移したい日本側であるので、扶桑のレシプロ機の改善にターボプロップエンジンを提案し、戦中に実行に移す。これによりシーフューリーを超えるという執念は一応の達成を見、ブリタニアを悔しがらせるのである。これにより、F4Uも超える戦闘爆撃機に仕上がったターボプロップエンジン烈風は超音速機が普及した戦争後半に入っても現役であり続け、紫電改が退役しても現役という記録を残すのである。

「ブリタニアはなぜスパイトフルなんて地雷を全力で?」

「怪異用と称してパンジャンドラムを大量に造ったり、コマンドーがクレイモアを片手に要塞にバグパイプ吹きながら突撃する国柄だぞ?もはやなんでもあり得る…」

頭を抱える黒江。『英国面』はブリタニアでも健在であるのに頭が痛いようだ。最も、当のブリタニアもスーパーロボットを前面に押し出す運用を『扶桑の珍妙な戦術』と考えていたりする。特に、一見すると標的になるような巨大ロボットで戦場を蹂躙するのは扶桑人の素朴な発想と見ており、その点で言えば傲慢を感じさせる。これがリベリオンの場合だと、アメリカがデストロイドに傾倒したように、『火力とパワー!』になるので、人型兵器になると、開発国のお国柄が出やすい(ガンダムファイトで過去に名を馳せたブリテンガンダムは珍しく射撃タイプだった)と言える。ISの場合でも、ブルー・ティアーズは射撃特化である(外見は珍しくまともである)ので、射撃を根本的に好む気質らしい。

「そう言えば、戦艦も四連装砲塔でしたね」

「フランスのより壊れやすいから、ライオンでオーソドックスに戻ってるよ、あれ」

「プリンス・オブ・ウェールズは大和やモンタナが暴れる戦場じゃ役にも立ちませんからな」

プリンス・オブ・ウェールズに代表されるキングジョージ級は、日本軍義勇兵達に『数合わせ』と評価される程度の認識であった。モンタナにアンソンが敗れ、ハウも大破させられるなど、散々な結果に終わった。その名誉挽回をその妹である、三代後の発展型のクイーン・エリザベスU号に託すチャーチル。基本構造はライオンの改善であるため、キングジョージの改善の繰り返しと揶揄されるが、水面下形状がバルバスバウに変更されているなどの改善により、機関が日本製であるが、燃費などは大きく改善されている。ヴァンガードが史実で得た『最良の戦艦』の称号はクイーン・エリザベスU級のものとなる。ネックであった単艦戦闘能力も初期大和を超えるものであるため、ようやく得た新世代第一線戦艦と言えよう。なお、正面近接砲撃を重視したため、ウェーブピアサー型艦首を持つため、なんでそれにした?と、イギリス海軍高官すら困惑したという。なお、砲弾は戦訓により、榴弾の割合が高く、徹甲弾で貫くドクトリンの扶桑と違い、『火力で負けるのなら焼き払うべし!』という方向のドクトリンに向かったのである。これは大口径砲の開発競争に一歩遅れていたブリタニアがたどり着いた運用法であると同時に、戦艦に対する物の見方が違うことの表れでもあった。元々、ブリタニアは戦艦を『植民地への示威』も目的に含まれる以上、数で圧倒する兵器と見ていたが、連邦の衰退で量産がそれほど見込めなくなったため、一次大戦後は単艦戦闘能力を求めるようになった。『同等の相手との殴り合いより格下を殲滅する事』を重視するドクトリンであったのも、元は比類なき海洋帝国だった名残りだ。しかし、扶桑が加速度的に戦艦を進化させ、ついには決戦兵器にしてしまうと、ブリタニア艦隊は見劣りするようになった。それは大和型戦艦の颯爽たるデビューで決定的になり、チャーチルを俄然として大艦巨砲主義に走らせた。その結果がクイーン・エリザベスUである。全艦が動員されており、ブリタニアの新鋭戦艦ここにありという威容を示している。七隻造った新鋭戦艦の内、三隻しか動員できなかったのは、セントジョージ級の機関換装が行われているからだ。(クイーン・エリザベスU級の一隻は空母に改装されているため、計画は完遂されなかったが)

「クイーン・エリザベスUだ。四隻造ってると聞いたが、三隻か。まぁ、空母閥の反撃もあったんだろうな」

「あれはヴァンガードで?」

「いや、ライオンの後継型。たぶん、ブリタニア戦艦の集大成だ」

黒江の言う通り、ブリタニア戦艦はクイーン・エリザベスU級をスタンダードに、後世で新造するため、この艦級がある種の集大成と言える。クイーン・エリザベスUはブリタニア戦艦の完成形であり、究極である点で、ブリテン・ヤマトの異名を取る事になる。

「イギリスにしては無理してますね」

「ランカスターや空母を削って、揃えた戦艦だしな。だから3Vボマーを欲しがってるんだよな、空軍」

ブリタニア艦隊が修理を行う泊地を通り過ぎる編隊。ブリタニア艦隊はむしろ旧型のほうが活躍するため、日本にはいい見本になるはずだ。ウォースパイトがそのいい見本だ。

「ん、上のほうで戦闘ですかね」

「ああ、セイバーフィッシュとコスモタイガーの戦闘だろう。高度14000超えだろうな」

戦闘の光芒が更に上空で煌く。23世紀型戦闘機の激突である。23世紀になると、交戦空域が20000m近くというのも珍しくない。セイバーフィッシュとコスモタイガーがぶつかり合うと、衛星軌道から低高度までの全域が戦闘フィールドになる。セイバーフィッシュとコスモタイガーとでは、宇宙空間での航続距離と機動力を除いた総合性能は甲乙つけがたいものであり、レシプロ機はお呼びでない高度での戦闘が起きる。火力はコスモタイガーだが、機動性は大気圏ではコスモタイガーが優位であり、そうなるとパイロットの腕が物を言う。大気圏ではセイバーフィッシュはブースターを排除しなければならないため、セイバーフィッシュは如何に高高度でケリをつけるか、コスモタイガーは火力と機動力を活かせるかの勝負だ。ティターンズの空軍の生え抜きがエース級であることを考えれば、フィールドの得手不得手が結果に大きく作用する事になる。黒江たちには今は関係はないが、地球連邦軍は宇宙に至る領域を航空戦のフィールドにしている点では、未来を感じさせる。黒江達がレシプロ機で向かう空域のちょうど上の方角へ新コスモタイガーとコスモ・ゼロが上昇していくのが見えた。推力が21世紀の戦闘機よりも桁違いであるため、ほぼ垂直に上昇していく。宇宙戦闘機は伊達ではないのだ。

「凄いパワーですね」

「宇宙戦艦ヤマトに積まれる宇宙戦闘機だからなー。21世紀のF-22もカスみたいな超性能だぞ、あれ」

黒江達が中高度をレシプロ機で飛び、衛星軌道から高高度でコスモタイガーやコスモ・ゼロが空中戦を繰り広げる。航空関係者必見の光景だ。そんな戦いの様子を世界を超えて観察している者があった。ラウラ・ボーデヴィッヒであった。箒の要請で地球連邦軍に協力したので、IS学園の寮で映像を見ていた。ウィッチ世界がダイ・アナザー・デイの真っ只中な時、IS世界はちょうど夏休みだったのだ。

――IS学園――

「これぞ、平行世界の神秘と言うやつだな。ビスマルクを遥かに超える戦艦を我が国が造る事は、当時の造船技術の限界やキール運河の事から言ってもほぼ机上の空論だったはずだ、箒」

「占領地で造ったという事は考えられんのか?」

「お前から送ってもらった映像を見る限り、300mを超えている。まず本国のドックでは造れんだろう」

H43級戦艦は伝えられている大きさなどの数値は大和型戦艦すら超える『330.0m/48.8m/基準排水量10万トン』とトンデモぶりで、実物もこれと同じ威容である。箒と次元間通信で話すラウラは不思議そうである。

「占領地で造ったとしか考えられん。あれだけの大きさの艦、喫水がキール運河の限界を超えるはずだからな…」

「フランスを維持できた世界から持ってきたか?」

「アシカ作戦に成功した世界かも知れんな。そうでなければ、戦中に作り始めた場合、どんなに急いでも敗戦に間に合うかは不透明だからな」

H43級の規模は大戦に勝てた世界でなければ、造れないとラウラは言う。当時の造船技術、工業力、戦艦建造は公共事業とも言われていた時代背景を鑑みての言である。

「しかし、ドイツとアメリカがどうして手を結ぶ?」

「ソ連が無く、日英同盟が生きていれば、あり得た可能性の一つではあるからな。ショッカーが絡んでいなくとも、だ」

「なるほど……。そちらはどうだ?」

「地球連邦軍が試しにブルー・ティアーズを小型化改修したろ?あれでセシリアが張り切っているぞ」

「あいつの腕で未来の戦闘は難しいぞ?」

「ビットは教官がお前の姉を働かせて、サイコミュ制御にすることで改良したそうだが…あいつは格闘が素人同然だからな」

セシリア・オルコットは代表候補性だが、如何せん格闘技能が素人同然であることから、箒への増援にする案は千冬が様子見ということで見送った。基本性能は改良でどうにかなるが、根本的なエネルギー容量の問題が大きい。恒星間航行宇宙戦艦の主砲の一発に耐えられるか、どうかの容量なため、地球連邦軍がISを造っても、積極的に使わないのはパワードスーツ故の限界に起因する。そのためにシャーリーはISのモチーフ元の機体の製造要請を出している。(黒江はあくまで黄金聖衣→シンフォギア→ISというフェイルセーフの最後の砦としか、最近は運用していない)パワードスーツは、かのクラステクターやソリッドスーツなども該当するが、用途が異なるため、比較は無理だ。

「一夏は許してもらえたか?」

「許しは得たが、派遣は無理だろう。一夏はあれで教官に恥をかかせているからな…」

「甲児から聞いたが、やらかしたらしいな?」

「ああ。アイツという奴はどうも、ヒーローが嫌いなのをこじらせているんだよな…」

今回の歴史でも、南光太郎が、兜甲児がグレートマジンガーで助けに現れた後、彼等に感謝するどころか罵倒したらしい織斑一夏。千冬もこれには激怒したらしい事、黒江が報告に来た時にも問題を起こしたため、彼は猛省中であるらしい。特に後者は黒江が(箒がインフルエンザで寝込んだ故の事情があるが)箒の姿を使ったことに激怒した事がラウラから伝えられた。

「その時はまだ良かったが、閣下が報告しに見えられたろ?お前の姿を使っていたから怒ってなー」

「あいつらしいな」

「まあ、閣下はアガートラーム使ったから、皆すぐにわかった。会長も驚いていた」

「綾香さんは食わせ者だからな。ケイさんのほうが一夏には効くと思うよ」

圭子はヤサグレトゥーハンド状態では織斑千冬と声色が酷似しているため、黒江には『対・中二病の織斑くん兵器』とネタにされることもある。ある意味では『ジャイアンの母ちゃん』的なものなので、箒も苦笑している。

「そうだな。シャルのリヴァイブもそろそろ改修を受けるだろうから、教官も考えて下さるだろう。連邦軍への恩返しもあるからな」

「あいつにはよろしく言ってくれ。私は妹弟子の面倒を見なくてはならんからな」

「ああ、月詠……調、だったな?」

「ああ。本当は月詠の詠の字が普通の読らしいんだが、綾香さんがそう書いてから、あいつもそれを通してる」

調はマリア達が蜂起した際に登録されていたパーソナルデータでは『月詠』ではなく、『月読』となっていたが、黒江が成り代わった後のバイトの応募書類に月詠と書いた事から、『月詠』の表記が定着した。また、成り代わったのがマリアが蜂起して間もない頃だった事から、元はマリアと同じ立場にあった事は闇に葬られた形になった。(黒江は気ままに行動しつつも、聖闘士であるので、基本的に善の存在として振る舞った事もあり、フロンティア事変直後、マリアと切歌が国際テロリストとして極刑を求刑されたのと対照的に、『調』として英雄扱いであり、それも響が精神崩壊状態の切歌を守ろうと、黒江に演技を強要する事に繋がったのも事実だが)そのため、調は黒江との同調やのび太を慕う気持ちもあり、その表記を通している。また、未来世界のマッド・サイエンティスト……もとい、宇宙随一の頭脳達の改良を受けたシュルシャガナを使い、その真の姿に行き着いたが、それは彼女が過去の自分と別の生き方を選んだ証でもあるので、そこは箒と共通する。箒も改良型の赤椿やアガートラームを野比家でほぼ日常的に展開しているので、ここ最近は調とセット扱いされている。切歌がこれから修行に熱を入れ始めるのは、調がのび太を慕っている事に対抗心が燃え上がったからだが、修行期間は切歌の体感時間で数年に及んだ。また、イガリマの本質である斬山剣に至りたい気持ちが逸り、気持ちが空回りしたことも修行の長期化に繋がった。これに対し、箒は篠ノ之の血が為せる業と、前史での感応が効いたか、今回はすぐに正式に射手座の聖闘士になり、後に双子座にコンバートする事になる。(従って、G化している)

「それ、本来の相方が聞いたら嫉妬するぞ?」

「私もそう思う。調の奴、のび太に映画館連れて行ってもらった時はホップ・ステップ・ジャンプだったからな」

「お前にしては、珍しい表現だな」

「マリア・カデンツァヴナ・イヴの影響かも知れんな、これ」

微笑む箒。性格が丸くなっており、調が推測した通り、マリア・カデンツァヴナ・イヴの影響をかなり受けて、性格が丸くなったらしきことを本人も自覚しているようだ。ラウラとこうした『ウィットに富んだ』会話ができるあたり、箒の精神がマリア・カデンツァヴナ・イヴの影響で成熟した表れなのかも知れない。



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