外伝その203『大空中戦14』


――1945年の戦いはウィッチ世界の秩序を突き崩していった。当時のウィッチ界隈では、黒江達は突然変異の異物と扱われたが、軍上層部には人事的意味で福音であった。しかしながら、英雄とされた黒江達が往年の神通力を維持したままで、しかも『より強くなっている』というのは、特権が与えられるに充分な理由だった。智子はかつての地位に一番郷愁を抱いていたので、英雄扱いを望んでいたのは願ったり叶ったりであるが、広報には非協力的であった。智子は前史で第一次現役時代の功績の半分以上を非公認にされていたので、その恨みが残っていたのだ。そのため、智子はレイブンズで最も非協力的とされ、広報部は泣かされており、最近は圭子頼りの状況が続いていた――




――扶桑軍 広報部――

「穴拭准将だが、なんで協力してくんねーの?」

「俺達の前任者の連中が手のひら返ししたからだそうだが、普通、引退したウィッチが却って強くなって帰ってきて、しかも現役者より強いままなんて、考えねぇよ」

彼等は智子が非協力的な事を愚痴っていたが、箝口令による取材の自粛などの自業自得の面が強く、しかも、後代のウィッチよりも未だに強いままという智子の現状に戸惑っていたのも事実だった。レイブンズは十年に一度の逸材と謳われたが、ウィッチは能力運用ノウハウが世代交代で蓄積される傾向があるのと、定期的な怪異の進化もあり、現役者のほうが相対的に強い事が通常であったが、レイブンズは固有魔法が特異であったとされていて、その固有魔法を継ぐ者が現れていない上、却って強くなって復帰したという驚異もあり、ウィッチ界隈で疎んじられたのがレイブンズである。

「それに、昔のネガなんて残ってるか?」

「ブロマイド用が辛うじて。それで当面は対応するしかあるまい。新規撮影は当分無理だ」

「めんどいなぁ」

「仕方あるまい。未だに並び立つ者も現れないから、現役でやれるんだ。普通、ウィッチは世代交代先のほうが強いはずだからな」

「あの人達にはその類型の全てが当て余らない。困ったもんだ」

広報部でさえ、出戻りのレイブンズの扱いは当初はこんなモノであった。だが、七勇士の内の四人が次世代のウィッチに混じって参加し、しかもそこで卓越した戦果を記録しているというのは、『七勇士、未だ健在なり』の事実を示すと同時に、それに不満を持つ後輩世代の海軍ウィッチのクーデターの伏線にもなってしまうという皮肉な状況を作り出すのである。広報部が上層部の指令でレイブンズを再び英雄として祭り上げ、それに反発する後の世代の血気に逸る海軍ウィッチ達の暴発。因みに反乱が起こった際、日本は『陸軍のバカ共が暴走したのか?』と問い、海軍が暴走したと聞き、『第二の五・一五事件だ…』と呻き、海軍がクーデターの主軍であることに驚愕していたという。






――一方、西暦2001年の4月頃、少年のび太はウィッチ世界に滞在している間に春休みが終わり、新学期が始まった(クラスは持ち上がった)ため、元の時代に帰還していた。父兄参観と面談が控えていたのもある。のび太は小学六年を迎えても成績の改善が微々たるものであり、担任の先生英一郎(のび太の先生の本名)は中学以降ののび太の生活を心配しており、父兄参観、あるいは保護者会の機会に言おうとしていた。だが、最近はのび太の父兄は揃いも揃って、その日に限って父親は接待ゴルフ、母親は従兄弟の結婚式などが入り、参観できない事が増えた。そのため、のび太の父兄参観+面談はのび太が呼び寄せたGウィッチ、艦娘らが代行する事が多くなっていた(中学では更に増大する)。ダイ・アナザー・デイの最中ながら偶々、非番の恩恵に預かれた雁渕孝美は黒江の指令で、少年のび太の父兄参観に出ることになったが、2001年当時のセンスに合う私服がない+買う時間がないなどの都合で、軍服のまま参加せざるを得なかった。孝美は元々、美貌でプロパガンダで取り上げられる端正な顔立ちと凛々しさを持っていたため、街を歩いていても注目の的だった。

「うぅ。なんで服を買わなかったんです、黒田先輩!」

「あたしに言われてもなー。この時代はファストファッションあったか覚えてないし、あっても、この街にはないし」

孝美は仕方ないので、軍服で街を歩く羽目になっていた。黒田は戦闘服なので、海軍第二種軍装(夏服)の孝美は良くも悪くも目立っていた。海自の制服ではなく、細かい意匠に違いがあるが、日本海軍時代の軍装(将校用夏服)を着込んでいる孝美は目立つのだ。

「我慢しな。時代がもう10何年後なら、扶桑軍人増えるからいいけど、この時代はまだ交渉のし初め。コスプレと思われるだけマシさ」

孝美の軍服は実際に使用しているものなので、大まかには過去の日本海軍第二種軍装(夏服)に準ずる。そのため、目立つ。

「陸戦隊用の第三種軍装になんでしなかったんだ?支給はされてるはずでしょ?」

「最近は空母勤務だったんで、サイズ直してる最中だったんです」

「あー…」

孝美は基本的に陸上勤務より海上勤務の方が長かったため、第二種軍装を着るほうが多く、第三種軍装は手直しが必要になり、持ち合わせていなかったのだ。黒田はその襟章などを外した第三種で来るかと思ったら、第二種軍装で来た孝美に苦笑いであった。

「お前、なんで第三種で来なかったんだよ。あれだったら襟章とか外せば背広で通じるのに、第二種で来る奴があるか」

「す、すみません。第一種はしまいこんでたし、これしかなくて…普段着もこれでしたし」

孝美は黒田に弁解する。第一種軍装はタンスにしまい込み、第三種は手直し中。そのため、普段着でもあった第二種しかなかったと。

「お前、元々は艦上勤務だろ?第三種をなんで着てないんだよー」

「使い込んでたし、ウチの親が似合わないとか言うし、それに広報部には第二種を着ていろと言われるし…」

「お前なぁ。」

第二種軍装は元々、正装に準ずる扱いであるため、本来なら第三種軍装を着ているのが当たり前である。黒江や黒田が戦闘服を通しているのと同じ理由だ。孝美は第二種を着ているため、金鵄勲章などの勲章と記章の略綬がばっちりついており、黒田は呆れていたこの時代、日本海軍の軍服の細かい規定を知る者は元軍人や自衛隊員に限られていたが、孝美のそれは功ある軍人のそれだ。これ見よがしに軍人アピールしているようなものであるが、金鵄勲章の略綬は知る人が見れば分かる程度の知名度だ。

「取り合えずベルト(スカート)を丈の長いのに替えて、略綬と記章外してママさんのコサージュ借りて付けて行けば誤魔化せるでしょ」

「大丈夫ですかね」

「いくらなんでも、金鵄勲章の略綬つけてると、問題になるし。従軍記章はともかく。先輩が4年後にカミングアウトするまではご法度なんだし、金鵄勲章」

黒江が2005年前後にカミングアウトするにあたり、金鵄勲章などのメダルをジャラジャラつけたら野党が問題にしようとしたので、この時代ではもちろんご法度である。補足すると、孝美は少尉時代の42年の軍功で金鵄勲章を得ている。階級相応のものなので、当然ながらレイブンズほどの年金はもらっていない。平和になったら民航に転職したいという志望を転生前は持っていたが、今回は軍と縁が切れないので、休暇中に旅行したいと語っている。

「そうなんですか?」

「先輩、そこから5、6年は訴訟の嵐だぞ?同情するほど多忙でねぇ」

黒江は訴訟が完全に決着するのはブルーインパルス在籍中の頃にもつれ込むため、ダイ・アナザー・デイの従軍中の段階では、完全にマスメディア嫌いになっていた。その間に日本連邦化することでのメリットが周知され、国民も経済的苦境を打破する手段として、2010年になる頃から容認の世論が醸成されたことで、黒江を責める事に意味が無くなり、訴訟の件数も減り、2010年代には決着する。経済界に取っては、途上国に技術で追いつかれつつあり、かつての優位性を喪失しかけている電化製品の新しい売り先を、『同じ民族に売りさばける』いうことでのメリットが周知され始めていた。扶桑は華族と軍人がいる事以外は日本そのものである上、日本列島以外の領土が広大で、台湾も領有したままであり、自動車産業にはライバルがいないので、復活のチャンスになる。現地企業を後身にあたる企業などの子会社化するなどし、確固たる市場を築く。これが大手自動車メーカーが抱く野望である。そのため、ダイ・アナザー・デイ前後には、扶桑企業の少なからずは日本に存在する後身にあたる企業の資本が入りつつあり、誉の受注停止で苦境に陥った長島飛行機もこれで救われ、富士重工業の名で自動車産業に進出し、歴史の流れ通りにスバル360を登場させる。太平洋戦争前に登場が間に合い、当時のホワイトカラー層の手に届く金額で売り出した事もヒットの要因で、史実通りに普及するに至る。また、日本が現地メーカー育成の意図もあり、60年代前後の車種を現地企業に生産させて売り出す戦略を取ったのもあり、太平洋戦争中期には『ホンダ・N360』が登場し、高性能化が始まる。また太平洋戦争が始まる頃にはスポーツカーの制作も始まり、黒江達はそれを利用し、2000GTを愛車にする。前史でもしたが、今回は戦争中に入手できたため、黒江など、オープンカー仕様を二台も確保する入れ込みようである。黒江達は扶桑の基準では超高級取りである事から実現したことだ。そのため、黒江の47年に入る頃のピンナップは『白の2000GTと写る様子』が見栄えもいい事から多用されたという。

「先輩、扶桑で2000GTできたら真っ先に買うとか豪語してるよ。上が用意するだろうに、今の立場なら」

「ああ、日本である種の崇拝をされてる伝説のスポーツカー」

「日本じゃこの時代、景気が死んでるから、金持ちのマニアの道楽でしかないのさ。そもそも、スポーツカーってのは道楽者向けのジャンルだし。この時代からは暴走族も死に絶え始めてるからね。もうちょっと時代が進むと、カーユースなんて概念も出てくるくらい、車は金がかかるんだよな」

黒田はケチなため、車は趣味より実益型らしいが、『RX-7』などに乗る程度にはスポーツカーに理解がある。ダイ・アナザー・デイ前後、ブリタニアはジャガー『Eタイプ』を早期に製造しようと目論んでいたので、日本連邦はそれに先んじた事になる。ブリタニアはジャガーがEタイプの前型に当たる『XK120』から連なるシリーズを製造する更に前段階であったため、当然ながら技術ステップを踏む必要があったため、目論見は外れるものの、イギリスやアメリカのカーマニアらの需要があるため、資金援助と技術支援で無事にEタイプの開発に至るのだ。

「先輩、一家言持ってるんですか?」

「車の道楽にあんま興味ないんだよ。黒江先輩はレース出るくらい入れ込んでるけど、あたしは実用性あればいいって感じ。たぶん、ストレスを紛らわせるためでもあったんだろうな」

黒田はケチな所を垣間見せつつ、黒江が5、6年ほど訴訟に向き合う過程で、気分を紛らわせるためもあって、車道楽を始めたのを示唆する。黒江は元々、道楽者であり、釣り道楽をメインにしていたが、釣りが時代的に難しくなった(金がかかる、23世紀には生態系が一度消えているなど。後は同位体のことも影響した)事から、次第に車やバイクなどの道楽にシフトした事を教える。黒江は黒田のツテでイアン・フレミングと知り合ったため、後年、彼の代表作『007シリーズ』にボンド・ガールとして出演。その際に2000GTを贈呈され、乗り回す事になる。彼の代表作の映画のタイトルが作戦コードネームに多用されたのは、彼が諜報部員として戦争中は在籍中だったからでもある。

「あの、イアン・フレミングさんって、ここだと映画の原作者なんですか?」

「諜報部に在籍してた経験で書いた小説で一山当てて、儲けたのさ。あそこの映画館のリバイバル上映のポスター見な。クレジット表記されてるだろう?」

「あ、本当だ」

二人が通りがかった交差点にある名画座のリバイバル上映のポスターに『007 死ぬのは奴らだ』という文字が踊っている。のび太が日曜日に見に行ったと語っており、少年時代にスパイ映画やアクション映画を見まくったおかげで、青年期以降は似たようなことを稼業にするのだから、世の中わからないものだ。

「のび太なんて、子供の内に冒険っていうテクニックを実践できるチャンスがごまんとあったから、大人になったら裏稼業してるんだし、映画は参考になるんだよね」

のび太は映画を見まくって覚え、それを幾多の冒険で実践した事が糧となり、青年期以降は裏稼業をしている。その事から、のび太はある種の天才と言うべきだろう。

「嘘も多いけどね。ミニガンは本当は人一人で撃てる代物じゃないし、ハリアーは航続距離短いんだよな」

「ああ、この間、調ちゃんが休憩時間に見てた『トゥルーライズ』」

「ハリアーって戦闘機と空戦できなくはない『攻撃機』で、『制空戦闘機』じゃないかんな?」

ハリアー系は世界初の垂直離着陸機であるので、実際に使用した米英もそうだが、速度が遅い、航続距離が短めなどの難点がある上、当時の技術では『地面に熱パットを引かないと地面が熱しられて溶ける』などの難点が多い機体である。

「あれ、日本も運用考えたけど、オイルショックと政治的理由で頓挫。十数年後のいずも型護衛艦でないと検討されないんだよな、強襲揚陸艦も」

「日本って、政治的に弱いですね」

「有色人種が戦争に負けるってのはこういうもんさ」

日本は日本連邦化するまで、まともな空母機動部隊を保有できない。更に、扶桑の空母にさえケチをつけるのが財務省と野党である。特に雲龍型は当時の時点で『烈風や流星、彩雲の運用さえヒーヒー言う』という日本側での記録がある事もあり、空母扱いされない艦のほうが多いのだ。実際は烈風や流星、彩雲の運用を想定している装備を備えているが、大きさがいずも型護衛艦以下という21世紀基準での見方で財務省から鉄屑扱いされている。艦政本部では『大和型戦艦の護衛空母、増強空母機動部隊の補助空母』という扱いであったが、日本がスーパーキャリア基準の時代であった不幸もあり、空母と見なされていない。アメリカ級強襲揚陸艦の半分の排水量であるのもあり、おもちゃ扱いすらされている。大鳳すら『小さすぎる』と増産がキャンセルされたので、雲龍は『鉄の無駄遣い』とさえ財務省から指摘されている。(2019年で)その対策のため、防衛省は扶桑にプロメテウスのお披露目をしろと助言し、お披露目したのがダイ・アナザー・デイである。プロメテウスは21世紀のスーパーキャリアよりさらに巨大な船であり、40年代では持て余ますこと間違いなしと、日本マスコミの嘲笑の的であった。実際、地球連邦海軍はジオン公国との戦争で受けたダメージからの回復の象徴として建造したが、大きすぎて持て余され、軍縮で退役した艦が多かったのがその証明だが、扶桑は移動航空基地として運用しており、可変戦闘機やコスモタイガーの補給基地として活用している。宇宙戦闘機も楽々と着艦できる大きさなので、レシプロ機では基地に着陸する感覚である。

「今頃、前線じゃ、先輩達が怪人軍団と機械獣軍団相手に戦って、海軍連中は艦隊再編中だが、あたしらは休暇だ。先輩達は取れないとか喚いてたから、幸運だぞ」

黒田は後輩にはフランクな口調である。黒田は前史の晩年はミロを思わせる口調になっていたので、今回は後輩にはその口調で通している。坂本よりも先輩になったため、坂本や竹井にも使う。そのため、年齢は上ながら、入隊が40年代の孝美は黒田に敬語で接している。

「先輩、お気楽極楽を気取ってる割には、妙に冷めてません?」

「前史での事もあったからなー。お前は芳佳に嫉妬するわ、別世界のお前は妹に嫌われて、先輩達が尻ぬぐいするし」

「す、すみません…」

孝美は前史の行いと、別世界の自分の引き起こしたトラブルに言及され、とりあえず謝る。黒田にしては珍しいが、前史で孝美関連で面倒に巻き込まれていたための一言でもあった。

「前史でお前、地味にトラブルメーカーしてくれたからなー。特に妹のことで。先輩も怒ってたぞ、あの時」

「うぅ。すみません…」

妹のひかりのことでトラブルを別世界でも引き起こしていたため、孝美は釘を刺される。同位体が別世界で怪異に寄生された事も伝えられ、苦い顔を見せる。

「妹は可愛がってやれよ?ましてや、お前の背中を追ってきたんだ。それを否定するような事はするなよ?」

「分かってます。あの子の前史でのあの泣き顔は見たくないですから」

黒田は前史では、ひかりを擁護し、孝美を叱責した側にいたため、孝美へは忠告も兼ねて、厳しいところを見せた。

「いい子だ。さて、たしかのび太んとこ行くのは五時間目くらいだから、お昼は食えるな。茶店で何か入れとくか?」

「先輩、お金あります?」

「お前に奢れるくらいはあるさ」

二人はのび太の家に行く前に喫茶店へ入り、お昼を頬張る黒田はあんみつ、孝美はチョコパフェと、見かけによらずかわいいセレクトである。奥の方の席を取る。

「お前、だから言ったろ?第三種着てくればって。今更、ガタガタぬかすのもあれだけど」

「まさか、こんなに注目されるなんて」

「お前はこの時代でも通用する可愛さがある上、それが海軍第二種軍装だぞ?注目されるに決まってる」

「先輩はなんで注目されないんですかー!」

「だって、戦闘服だもーん。巫女装束に小具足なんてここじゃない組み合わせだし、この時代は公にされてないから。良かったなー、そこの100均でコサージュあって」

「略綬は外せたんで、これでコサージュと記章外しで軍服とは思われずに済んだかな…?」

「略綬は見る人が見れば分かるからなー。お前、少尉の頃に?」

「ええ。リバウで取れました。負傷しましたけど」

「絶対魔眼は激戦で使うべき能力じゃないかんなー」

孝美はリバウ撤退戦に少尉として参加している。坂本と出会うことでG化したので、撤退戦前半はその当時の能力値で、後半はアクイラの聖闘士として大暴れしている。そのため、金鵄勲章は取れているのだが、前半戦で絶対魔眼を使用し、負傷している。その際に坂本に救助され、そのタイミングでG化していた。絶対魔眼はリスクが高く、坂本(G化済み)も『絶対魔眼を混戦で使うな、死にたいのか』と怒っている。その際に共鳴現象が起き、孝美はG化した。覚醒めた後は小宇宙で自己治癒を行い、そのまま作戦に参加しているが、覚醒のタイミングの都合、腹に傷痕がある。

「坂本先輩にも言われました。でも、前史の記憶が戻ると、あの時の怪異は指先一つでダウンできたんで、呆然としました」

「まーな。小宇宙さえ覚醒しちゃえば、リバウにいた全てをギャラクシアンエクスプロージョンで吹き飛ばせるから、流れ作業になる。あたしなんて斬艦刀一本で5匹やったらドン引きされたけど」

聖闘士としての力が戻れば、怪異などは流れ作業で倒せる。どんな怪異であろうと、天魔降伏、ギャラクシアンエクスプロージョン、アトミックサンダーボルトなど、いくらでも手立てはある。黒田はそれを用いなくとも、斬艦刀で空戦大型怪異(300m級)を5匹いっぺんに撃墜しており、それが506で畏れられた理由である。

「黒江先輩は斬艦刀で事変時に巣を二個斬ってるから、あたしなんて可愛いもんさ。先輩は聖剣のパワー上乗せして示現流だぞ?江藤隊長が信じてくれなくて、若さんに怒られてたし」

「へー。参謀って若松大先輩に弱いんですね」

「新兵だった時の教育係だったとかで、頭上がんないんだと。だから、あん時は江藤隊長が信じてくれないってなったら、先輩、若さんに電話するんだ。若さん、電話一本で殴り込んで来るから、江藤隊長がやめてくれー!とか泣いてたなー」

「どんな感じだったんです?」

「最初は、先輩達が『始めてのケッテ』で20機くらい落としたって報告した時だったかな。あん時、黒江先輩、『いいもーん、若さんが見てたからー!』とか言ってさ、で、若さんが電話口で怒鳴ってさー」

「それで、江藤参謀は?」

「顔面蒼白で見てて可哀想になるくらいペコペコしてた」

江藤は若松に頭が上がらないため、黒江が通報して、『童、黒江の童の言うことを信用せんのか?この儂が観測していたのだぞ?』と怒られるのは正に驚愕であり、若松は『童を手荒く扱うなよ?したらこの儂が直々に修正を加えてやる』と脅している。黒江が編隊長であり、詳細に報告したのにも関わず、20機撃墜はありえないと疑惑を抱いた。それが黒江の憤慨を招き、若松に通報され、江藤はお叱りを受ける羽目になった。これは今回の事変での日常風景であった。

「またある時はさ、智子先輩が味方の撤退を助けたから機材を失ったと報告したら、江藤隊長が『陸の連中を助けたのは勇敢だが、お前は臣民が奉納した金で作った機体を失った…』と怒られてたら、光速でやってきてビンタぶちかまして、隊舎に大穴開けて…」

若松は黒江たちを可愛がっており、教え子の江藤の粗相には厳しく、すでにG化していた事もあり、いきなり光速でやってくる事は日常茶飯事であった。黒江のことは『黒江の童』、智子は赤松同様に『お嬢』、ケイは『悪戯坊主』と呼んでいる。智子は中産階級の出であるため、お嬢様というわけではないが、風貌がそんな感じであるため、赤松がそう呼び始め、若松も使い始めている。智子の家は元々、中産階級で、親戚は農家を営んでいるなど、この時代ではありふれた家庭で、偶々にウィッチになったから志願した経緯があった。そのため、自身の後継者の麗子と違い、智子は勲功華族になろうと、華族になった実感がないのだ。むしろ、黒江や圭子の方が裕福な暮らしをしており、両親に溺愛されたのが、黒江と対照的だ。先祖は士族だったが、戦国期を終えると平凡な士族として過ごしてきたため、戦国期の先祖から伝わる、智子の『愛刀』は実は文化財級の代物だったりする。黒江家が『財を成した地元での有力者』というポジションながら、家庭環境に恵まれなかったのに対し、『平々凡々な中産階級で、家庭としては幸せな環境にあった』と、対になる立ち位置だ。黒江が近代の戦で名を挙げた祖母がいたのに対し、智子は戦国期に戦巫女(ウィッチ)として名を馳せた先祖がいたなど、正反対である。そのため、黒江は七勇士の中では、純粋に自分の武勇でメンバー入りしたとされている。

「あん時、若さんが『味方の命と経験は失ったら金で買い戻せんのじゃぁぁっ!』とか言って音速でビンタしたら、隊長、壁に大穴開けながら近くの市街地まで吹き飛んだんだなー。よく生きてたもんだ」

黒田の回想は後輩の孝美には苦笑いものの話が多いが、それとは別のところで、2006年以後に問題にされたのが旧軍空母である。戦艦については『超近代化』が施されていたので、ツッコむ余地が無く、代わりに自衛艦より強くて大きそうな『空母』を狙った。それが海軍ウィッチ部隊の形骸化にも間接的に繋がる。当時の標準的な空母機動部隊の編成は『ウィッチ8名、艦戦16機、艦攻8機』で、ダイ・アナザー・デイの前の時点の評議会で『費用対効果の薄いウィッチなどを大型空母に載せるな!雲龍型に押し込め!』と猛批判を浴びた。これはエセックスが当時、レシプロ機基準で123機を超える搭載数を誇っていた事と比較しての批判であったが、扶桑海軍としては困る案件である。扶桑は多くの空母がウィッチ運用母艦化して久しく、M動乱で三隻をジェット搭載改修を施した以外は史実開戦時と大差ない性能であった。そのため、ウィッチ運用装備が近代化という名目で取り外され、ウィッチは空母から追い出され始めた。これは当時にはウィッチ隊は火力不足が祟り、ティターンズに連戦連敗であった事、日本がエセックスやミッドウェイ、フォレスタルをも想定していたためにウィッチ運用装備を邪魔と捉えた事による。日本は悲観的に物事を見るため、当時の扶桑海軍省に日本側が突きつけたエセックス級は実際にはウィッチとの兼ね合いで史実ほどの搭載機数ではない。(史実通りの搭載数を実現した空母のほうが少ない)ティターンズも流石にウィッチ達の利権には苦戦している証である。日本側はウィッチを載せるよりも『露天駐機してでも搭載数を増やす!!!』と言ったアメリカ式手法を選んだため、扶桑海軍はパニックに陥った。当時の扶桑海軍では露天駐機で機数を増やす方法は『塩害の危険がある』として推奨されていなかったが、日本側の背広組が強行したのだ。日本の技術であれば、塩害は対応可能だから、という理由も確かにあったので、露天駐機は実行される。結果的に海軍が自己完結的に空母機動部隊を運用できたのはダイ・アナザー・デイが『最後』になる。この後のウィッチ・クーデターを受けて、空軍が設立される際、当時の海軍航空隊の七割を引き抜く事になるからで、空母航空団部隊の『六〇一航空隊』すら引き抜かれたので、空母機動部隊はパニックに陥った。航空機のジェット化に伴う高度化、それに伴うカリキュラムの長期化は大して問題とされないが、開戦に伴う損耗の補充などが追いつかないとされ、海軍は自前の航空隊再建がままならなくなる。空軍が空母に乗艦する事は全軍の決定事項であったと言える。(芳佳の留学取り消しで有力者の不信を買ったため、せっかく設けた『補足事項』は形骸化した)。また、補足事項は一応、64Fを空母に載せるための大義名分としては使用され続けたが、芳佳のために設けた『海軍籍のまま〜』は有力者の空軍移籍で形骸化したきらいがあった。そもそもの目的である芳佳が抗議の意味も込めて、空軍に移った(坂本との約束を破る事になった)ので、坂本がショックで寝込むほど落ち込んだ。それは1947年次の連合艦隊でも問題視され、坂本を64Fの飛行長として出向させたまま、空母航空団の要職を兼務させることで坂本への慰めを行った。これは開戦時、芳佳を含めた旧343空の有力者の大半は空軍に籍を移しており、芳佳の留学取り消しへの抗議に呼応して、多くのベテランが芳佳に追従した事からの上層部の妥協の産物であった。海軍航空隊はそれまでの文化をかなぐり捨ててゆく事になったが、絶対に保持しておきたかった人材の流出がきっかけであり、史実の特攻隊の経緯もあり、人材を7割喪失した海軍航空隊は暗黒時代を迎える。立て直しには戦争後期までの長い時間を要するが、台湾沖航空戦とレイテ沖海戦で601を犬死させたと責められた海軍航空関係者は、戦々恐々として数年間の嵐を過ごす羽目になり、嵐が過ぎ去った後に残った唯一無二のエースウィッチであり、海軍の至宝『若本徹子』に全ての期待を背負わせていく事になってゆく。

「たぶん、前史の事考えると、今回も芳佳の留学はポシャるな。坂本には悪いけど、口約束になっちゃうと思う」

「深読みしてますね」

「坂本の奴、今回は上に頼み込んでるみたいだけど、留学が潰れれば、芳佳は空軍に行く。元々、海軍の堅苦しい空気とか、しがらみは嫌いとか言ってるからな、あいつ」

「海軍は統合戦闘航空団ができるまで、多量撃墜者を表彰する文化が殆どありませんでしたからね。坂本先輩達は例外みたいなものでしたから。その後、統合戦闘航空団の設立が進むに連れて、多量撃墜者を他国の撃墜王と並び立たせるために送り込む。言わば、他国や国民向けの見栄みたいなものと言えますね」

海軍の身内からもこう見られているあたり、海軍の『撃墜数を誇らない』文化は扶桑海軍ローカルかつ、当時の時点では時代遅れと見られているものである事が分かる。また、海軍では軍令部の指示で個人撃墜数の記録が昭和18年を境に一斉に廃棄されており、そこもエースパイロットの認定を難しくしてしまった感は否めず、孝美も撃墜数は個人的に記録していた30機ほどが公認撃墜数になっている。(実際は50機ほどとされるが、43年度からの戦果が認定されていない。この記録の廃止は空軍の海軍出身者のスコア判定に支障が生ずる事態となった事から、改めて、ドラえもんが調べる事になり、それを『いい加減の極み』と海軍航空が責められる要因になり、政治的に辛酸を嘗める事になった)

「おまけに日本はボロ負けした記憶が色濃いから、海軍航空本部は記録の廃止とかで責められて、国防省ができれば、陸軍航空総監部に飲み込まれるのは目に見えてる。お前も今のうちに空軍への移籍願書、親父さんに出しときな。海軍は徹子に背負わせる」

「先輩、そういうところはクールなんですね」

「海軍はどうせ、日本に責められて、息が詰まる思いするのは目に見えてるからね。空軍で美味しい空気吸ったほうが精神衛生的にもいいよ。芳佳はそれを知ってるけど、坂本の手前、言えなかったのさ」

黒田は転生で陸軍軍人〜空軍軍人として、海軍航空のしがらみをアホらしく感じたのか、若本に海軍航空を背負わせると発言した。喫茶店で言う内容ではないが、こうしたところで地味に重要な事項が決められ、扶桑海軍は無為に人材が流出していく。その結果、若本が海軍の期待を一心に背負う事になり、苦労人キャラが定着してゆく。坂本の引退と竹井の空軍移籍もあり、レイブンズと対になるとされた『クロウズ』が復活しなかった(従って、今次作戦が最後の共闘になった)のが海軍には痛手となる。しかし、陸上基地の確保は成功し、空軍戦略爆撃機は富嶽を祖にする航空機が占めてゆくなど、陸軍に『勝った』点も存在するので、機材面では海軍系に分があり、人材で陸軍に分があると言える。

「でも、機材は知名度で海軍だよ。ゼロ戦は小学生でも知ってるし、ある一定の年代は紫電改を知ってる。だから、海軍の機種は10数年後の日本で人気なんだよな」

あんみつを食べつつ、2010年代末の日本では、スポーツ機として放出された零戦五二型が人気を博している事に触れ、陸軍の機種はマイナーである事を残念がっている。(五式戦闘機は愛称が扶桑では百舌鳥なのだが、日本ではキの100という方が通りがいい)また、川滝航空機が液冷エンジンの受けが絶望的に悪く、空冷式にしたら『一時でも主力戦闘機の座を射止めた』事にほろ苦さを感じると同時に、軍は三式を『劣化メッサー』と叩く風潮に反論し、『ちゃんと整備すれば、アフリカでも動く!』と言ってストームウィッチーズの運用風景をプロパガンダするが、実際はライセンス元のエンジンに載せ替えていたから高稼働率だったので、圭子は苦笑いしたという。



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