外伝その234『フューチャーヒーロー5』


――未来世界で発見されし光子力エネルギーは結局、富士山を切り開かないと大規模なジャパニウム採掘が不可能な事で新エネルギーとしての魅力に乏しいとされ、タキオン粒子にエネルギーの主役を奪われた。メルトダウンを起こすと、大事故に繋がる(グレート用の光子力エンジン実験の失敗など)事もネックとされ、新エネルギーには成り得なかった。光子力はマジンガーの動力として生きることになったが、陽子炉の製造難度が高い事などから、マジンガーの動力源としての価値は落ちていない。また、既存理論の限界を超えた魔神皇帝の存在もあり、陽子炉の補助エンジンとして用いる手法にシフトした。また、ZERO対策でゲッター線増幅炉を組み込んでもおり、マジンカイザーもマジンエンペラーもハイブリッド動力に変更されている。その点ではZEROの光子力への固執がマジンガーをハイブリッド動力に変えた理由だろう――


――ドラえもんは鉄人28号を操りつつ、クロにタイムテレビで次元震パニックの様子を先取りで見せていた。47年の台風は次元震を起こす道具であり、それで平行時空の501を初め、複数の人間達が巻き込まれる様子が映る。平行世界のレイブンズ達もその一つであるのは言うまでもないが、平行世界では単なるエクスウィッチに過ぎない。そのため、この世界での押しも押されもせぬ英雄としての姿に戸惑う様子が映る。ただし、今回は圭子が代替存在である『桂子』に置き換わっており、圭子の志願時の容姿を持っている――

「ふーん。これが今回のあの三人ねぇ。やっぱ老けてるわね」

本来の年相応の容姿になっているので、若々しいレイブンズに比べると、加齢している事が容易に判別可能である。黒江は本来の低音のクールな声質であり、高めのボイスが板についた姿とは別人であり、言葉遣いも堅い。智子は無理に凛とした雰囲気を出そうとしているのがありありで、キャラを作ろうとしているが、桂子は圭子の元来の気質に近い。その三人が別の自分の存在を知るが、黒江が一番落差が大きいので、あまりの衝撃でパニックになり、当人に斬りかかるが、斬艦刀で一蹴される場面が映る。やはり戦闘力の差は大きく、智子も炎の翼と銀の瞳と青い目の自分に圧倒され、泣き出してしまう。

「うーん。やっぱ代役は無理っぽいわね」

クロはこのコメントだ。実際、戦闘力は絶対的とも言えるほどの差があるが、黒江達三人はその差が大きすぎるのだ。また、智子など、体がなまっていたのか、全力で動いただけで腰を痛めるという情けない姿を見せてしまい、Aが怒って詰め寄り、Bが怯えるという姿もあった。

「うーん。智子さん、別の世界だと、やっぱなまっててダメね。これじゃ代役できないわね」

「でもさ、エクスウィッチにしちゃ動けてるほうだぜ?絶頂期に上乗せしてるこっちと比べるのは可哀想さ」

ドラえもんの言う通り、Bは引退後の割には動けているが、対人戦の経験不足が祟り、Aには赤子の手を捻るように圧倒され、駄々をこね初めたためか、Aがキレて首根っこ掴んで怒っている様子が映る。黒江とやることがあまり変わらないため、クロとドラえもんは呆れた。そして、黒江が苦労する場面が映る。別世界の響と切歌とどういうわけか戦闘になり、イグナイト状態の二人に挟み撃ちにされそうになった時、天の鎖を使って拘束して叱る場面だ。

『この馬鹿!人の話を聞けー!』

天の鎖が瞬時にスラスターを全開で突っ込みにきていた二人を押さえ込み、身動き取れなくする。響も切歌も引きちぎろうとするが、どんな事をしても微動だにしない上、イグナイトのさらなる上乗せを封じられて困惑する様子が映った。天の鎖は魔剣ダインスレイフの力を完全に抑え込める証であった。しかも天の鎖に抑え込まれているため、ギアのギミックも発動しない。その証拠に響が鎖を断ち切るために籠手をドリルに変形させようとしたら、天の鎖による拘束で変形が起きなくなっている。

「綾香もずいぶん意地悪ね。天の鎖なんて使ったら、シンフォギア程度じゃどんなに頑張っても、あの拘束を逃れられない」

「まー、当人曰く『面倒だから手も足も出ねー様にしただけだ』らしいよ?綾香さん、響さんと相性悪いのか、苦労してたし」

また、別世界の装者達の内、翼と調に説明役を丸投げし、模擬戦で叩きのめすあたり、意外に根に持っている面が見受けられ、調Aにツッコまれている。言い訳は『敵としてならやっちまうのは簡単だぜ、でもいきなりそれは不味いだろ?そうなるとどのくらい手加減するかってのと、アイツが多少ぶっ飛ばしたくらいだとゾンビみたいに起きあがってくるしなぁ…』との事で調もそれに頷く。また、坂本が黒田との関係の違いにぶーたれる様子も映る。これは坂本A苦笑ものだ。

「あ、少佐、隊長にぶーたれてるわね。珍しい」

「ああ、邦佳さんとの関係だろうね。こっちだと邦佳さんのほうが先輩だし」

黒田は大抵の世界では坂本らの後輩だが、A世界ではやり直しが繰り返される内に、黒田と坂本の上下関係は逆転している。年功序列の強い扶桑軍では年功章の多さが強い意味を持つため、やりにくいとぶーたれる様子が映る。自分の世界での後輩がまさか、別世界では黒江の腹心として、自分の目上になっているとは思わなかったのだ。珍しくミーナに愚痴る。人間関係の違いが異世界では顕著なのだ。また、竹井がいるので、年功序列に厳しいのが面倒くさいと考えているようだ。

「異世界だと人間関係の全部が同じとは限らないし、その世界特有の出来事だってあるから、少佐はちょっと可哀想ね」

「あの人、ウィッチ同士の上下関係にはあまり頓着しないしね。海軍の慣例だったらしいんだけど、年下の先輩は想定外だったみたいだね」

坂本Bは『年下の先輩』という存在に戸惑うと同時に、世代交代の摂理が変わりつつあるA世界に複雑な心境があるようで、前史のAのように、『後輩に襷を渡した世代が出しゃばるべきじゃないと思うが、個人意思だから、強くも言えん』と愚痴っている。その責任感の強さこそ、A世界坂本が過去に直面した悲劇のもとであった。だが、模擬戦でゲドゲドに叩きのめされると、坂本AがBを叱っている事から、A世界のレイブンズは現役に戻っており、一騎当千を体現する存在である事に懐疑的だった事がわかる。それも絡めて『やりにくい』とぼやいている。しかも、坂本は元来、年上のウィッチ相手でも、敬語はあまり使わない気質であったので、自分が最古参と言える年齢になっても、目上のウィッチがあまりに多いA世界はやりにくいらしい。A世界の坂本が中間管理職としての自分に満足しているのとは対照的だが、ある意味、年長者としての自覚をあまり持たないAは気楽なのかもしれない。

「こっちは前史の反省か、上が残ってるからか、前より昼行灯になってるけど、向こうは厳しそうだし、ぶーたれたくなったんでしょうね」

「ここじゃ、あの三人がずば抜けてるから、比べられ続けると後輩がひねるから、裏方に行きたいとか言ってるけど、向こうにとっちゃ三羽烏は遠い昔だしね」

「いや、実際のところは娘さ」

「あ、来たんですか」

「ちょうどこっちが手空きになってな。あいつらと張り合うことなど、遠い昔に捨てたさ」

本人が紫電改ストライカーでやってきた。G化しているので、申請すれば前線にいれるはずだが、娘の育成に失敗した事から、その方面で頑張りたいらしい。実際は芳佳の海軍残留に労力を割いてもいたので、その努力が結果として水泡に帰した事で、自暴自棄になった時期があるので結婚と出産が遅延したが、坂本の娘にとってはプラスになったという。また、レイブンズがあまりに好き勝手したので、張り合う気が失せたともいう。

「あいつら、今回は好き勝手しすぎてな。黒江なんぞ、サンダーボルトブレーカーとかオレオールブースターGとかやったんだぞ?疎んじられて当然だ」

「自重してないわねぇ」

「クロ、ルッキーニとしてのお前も人のこと言えんぞ」

「まあ、そのへんはねぇ」

「やれやれ。黒江が一番自由に暴れたから、一番危険視されたんだがな」

「そろって自重してないでしょうに」

「あいつが一番理解しやすい形だったんだ。オレオールブースターGをそのまま再現したんだぞ。ジェットエンジンが開発されてるか怪しい時代に」

「少佐、ジェットエンジンって理論あった?その頃」

「うーむ。私は門外漢なんだよ、そういう細かいの」

坂本はこのザマであるが、29年にターボジェットエンジンの基礎理論は完成している。実用段階に達したのが44年なのだ。ハインケルが作った試作機は失敗しているので、実用段階はメッサーシュミットで間違いはない。ハインケルの試作機も飛んでいない頃にオレオールブースターGはやり過ぎである。当時は魔力による『龍勢』のようなものと認識されたが、それが別世界のスーパーロボットの技の再現とわかったのはつい最近であるのも若手の反発のもとだ。

「なんで反発が起こったのよ」

「あれだ。魔力至上主義の否定に繋がるからだ」

「はぁ?」

「別世界とは言え、科学が魔法と見分けがつかなくなるほどになる事は、自分たちのアイデンティティの否定になる。それで若い連中ほど見下してるんだよ、通常兵科を。私も昔はその気があったが」

「やれやれ。これじゃアルトリアの存在なんて、どうすんのよ」

「表向きはハインリーケ少佐として存在するが、人事査定は優位になる。元・王位保持者だしな」

「ノーブルが空中分解したのは?」

「王位継承権保持やミラノ公といっても名ばかり。扶桑の子爵のほうがよほど実があるものだったから責められたんだよ」

ノーブルウィッチーズに配属された者達の爵位や称号は名ばかりになったモノが大半を占めており、ロザリーが有するブリタニアの王位継承権など、あってないようなものだ。同じく有するベルギカの王位継承権も微妙であり、ミラノ公に至っては遥か昔に実効性が消えている。そのため、ノーブルウィッチーズは日米の圧力で強引に解散(実働前の解散なので、記録は存在しないのと同義)させられた。その代替措置が現地の統合戦闘航空団用人材を集中運用することだろう。ミーナの評価が下がったのは、覚醒が遅れに遅れ、その案に反対したので、周囲に保守的と認識されてしまったのも理由だ。後でだが、『覚醒前の意識はほとんど無くなったから、コメントできない』と述懐している。ミーナはこの時点では西住まほ主体の自我意識に変貌していたため、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケとしてのコメントは困難だった。そのため、後から『青かった』と愚痴りつつ、思考と記憶は残っているため、推測入りのコメントでお茶を濁している。また、まほとして、妹のフィギュアを買い込んでいるなど、最近は意外に給料を使い込んでいる。ミーナとしての歌唱訓練にも私財を投じているが、まほとしての自我が色濃いので、外聞を憚ってのついで程度である。また、『まほ』と『ミーナ』は別の存在であるので、みほの世界に『まほ』はいる。自分が誰かと親しげに話しているのを怪訝そうにしているらしいと、みほはメールしてきている。(帰省中、電話で話してるところをうっかり見られていたりする)

「あ、すまん。ミーナからメールだ。何々…。ややこしいことになりそうだぞ」

「どういう事」

「ほら、あいつ、覚醒後の自我の主体は西住まほだろ?だが、当人は別にいるわけで、西住みほ君、どうやら電話してるところを偶々、見られたみたいでな。宮藤を説明に行かせてくれと」

「何、そのSFじみてる話」

「戦闘中だから、待てと私が彼女にメールする事になってな。まさか、転生してドイツ人になってます〜なんて言えるか」

「確かに」

みほがとんだトラブルに巻き込まれ、ミーナに助けを求め、そのミーナも狼狽し、坂本と芳佳にヘルプする始末であった。ミーナは服装も黒森峰女学園の制服を改造したものを帽子込みで執務で使用するようになったため、とても航空兵には見えず、戦車兵との印象を与えていた。黒森峰女学園の制服はカールスラント戦車兵の制式とほぼ同じものだったので、略綬などをつけ、校章を外している以外は軍服で通ずる。

「ロンメル将軍が驚いておられるが、グデーリアン将軍はご機嫌だそうだ」

ハインツ・グデーリアン。電撃戦の祖とされる将軍だ。ロンメルが攻勢を得意にするのに対し、彼は守勢も得意である。ミーナが自分の言葉を引き合いに出して訓示したと聞き、小躍りして喜んでいるという。

「グデーリアンねぇ。ロンメルには補給に疎いから、守勢の指揮からは外せって陰口あるけど、彼にはないわね」

「ロンメルは現場主義だしな」

エルヴィン・ロンメルには、『裏方に疎いから、守勢は指揮させるべきではない』という陰口がある。当時の将軍達の中で最も求心力のある元帥であるロンメルだが、補給に疎めという難点があり、守勢向けの将軍ではないとドイツ軍から意見が出るほどであった。しかし、ウィッチは独自判断で動く率が高く、その統率のためにロンメルは必要とされた。ウィッチが嫌われるのは、かつての芳佳がそうであるように、個人の感情を命令より優先し、それを正当化する事であり、自衛隊も米軍も頭を悩ませている。Gウィッチが重宝されるのは、上層部の期待した戦果をそれ以上で以て示せるのが理由であり、多少の素行不良は目を瞑られるようになった。それに関連して、サーシャが追放されたのは、『素行不良を理由に、部下の勤務階級を下げた』事がパワパラと取られかねず、日本により懲戒会議が開催されそうだったことへの過剰反応だった。サーシャがロシア人であった事も不幸であったのは否めない。元々、日本人はロシア人を狡猾という色眼鏡で見ている面があり、ロシア連邦がオラーシャの救済にほぼ無関心であったり、元々のロシアへの遺恨もあり、敵対的ですらあった。『どうせ理由をでっち上げて吊し上げたんだろう』という陰口はサーシャを傷つけるには十分だった。処分を下した理由が素行不良では、降格処分には不適当と判断されてしまった。サーシャは同位体が『アレクサンドル・ポクルィシュキン』であり、ソ連邦英雄だったが、ロシアお得意の水増しと見なされた事から、サーシャの申し開きは徒労だった。会議に参加していた者の大半がサーニャのファンで、そのサーニャを傷つけたということが心象を悪くしたのは否めない。サーシャは大尉という地位を使うことでサーニャの亡命を思い留めさせようとしていた事がレヴィこと、圭子によりアイゼンハワーに報告されると、サーシャの処遇は一気に暗転した。追放の最終判断は赤松が下し、その人的補償もカールスラントに保証させた上での懲罰人事であった。その人的補償がフーベルタ・フォン・ボニンであり、ヨハンナ・ウィーゼであった。この人的補償はカールスラントにとっても困るものではあったが、戦闘隊長級のウィッチをそうは用意出来ないので、マルセイユやバルクホルンの同僚であった経歴を持つ両名が選ばれた。オラーシャ軍は四散した上、国内で虐殺もあったので代替人員を用意不可能であったためでもある。結局、オラーシャは政治的に大ダメージを被ってしまい、サーシャ自身も移送中に『ソ連の攻撃で家族が満州で四散した経歴を持つ、日本の100歳超えの半ボケ老人』に襲撃され、片目を刃物で刺されて失明してしまう不幸に遭う。その不幸がサーシャに多大な精神的ショックをもたらし、彼女の軍歴にも暗い影を落とす。片目の失明後は自主的に空中勤務から退き、地上勤務に転じる。オラーシャは図らずしも、優秀なウィッチを理不尽に奪われる事になった。(後に、才能を惜しんだジューコフ元帥が彼女を説得し、その要請を受けた地球連邦軍が再生治療を駆使し、治療に成功。目は治ったものの、切られた傷は残った。それを見られるのを嫌い、普段は眼帯をするようになった。空中勤務者復帰は50年代後半)――








――扶桑皇国陸軍航空部隊は四式戦闘機(脚)疾風の大量生産が阻止された事によるパニックが起こり、瓢箪から駒で生まれた五式戦闘機(脚)が主力に収まった。後にジェット機が控えている時代なので、疾風は鍾馗の最終性能向上型が生産されていた事を理由に、生産中止がされようとしたが、鍾馗の基礎設計が古い事から、現場が猛反対した。既に多くの部隊が受領予定で、その前提で既存機材を後送していた部隊が過半数であり、五式の定数確保には時間がかかる見通しだったからだ。(二式三型がリベリオンのエンジンで性能を引き上げており、生産不能となったためもある)当時としては、実用化されていた2000馬力エンジンがR-2800しかなく、規格統一されていたの幸運もあって積まれたのだが、他国の発動機に頼ったという点で、後になって、日本側の元関係者からクレームを受ける羽目にもなった。長島は史実中島飛行機より生産ラインが整っており、製造工程も大日本帝国の比ではない。そのクレームは的外れであった。しかし、元日本軍義勇兵の提言もあり、疾風の製造ラインは減らされた。長島としては屈辱であったが、史実の四式戦闘機は大量生産された割には目に見えての活躍の記録がない上、各地に分散配置されたが故に悪評が多い。そのため、義勇兵は『ジェット機までの繋ぎなら、キ43-Vとキ100で充分だ』とする意見が大勢を占めている。しかし、疾風は現地では『ウィッチ支援機として最適化していたのに、クレームつけられても!』という言い分がある。結局、疾風は戦闘機としての本分に性能特性を統一するための改造が大がかりになりすぎた上、主翼の燃料タンクを弾倉にするなどの再設計が終わる頃には旭光が生産開始されたという悲劇がある。しかし、鍾馗が老朽化してきた故の代替機は必要だったので、一定数は生産されたという。これは疾風の製造元が扶桑第一の航空機メーカーだったからに他ならない。それと、他の問題もあった。機種整理が日本主導だったので、性急かつ反感を買っていたのだ。官僚的な機種整理の選定であり、設計現場のストライキも起こり得た。それは次期主力予定のジェット機の作業面で困るため、疾風は初期生産機とエンジンを変更した上で制式量産された。その場繋ぎで五式は出回り、レイブンズも受領している。公にはそれを使用していることになっており、プロパガンダ向けの写真でも履いて(搭乗)している。しかし、実際はF-15J改を使用していた。その事は現場では暗黙の了解になりつつあり、レイブンズも武子も使用していた――


「まさか、孫娘のお下がりを使うことになるとはね。艦の指揮は任せるわ」

「はい。お姉さま」

この時に武子が使用したF-15Jは自身の孫娘『美奈子』のお下がり』(F-22の受領による)であった。孫娘の美奈子は隊長就任時に祖母の在職時のパーソナルマーク(TACネームも)を受け継いでいるため、塗装などの手直しの必要はない。(パーソナルセッティングはやり直した)幸いにも武子も現役最末期の頃に使用経験があるので、感覚は覚えている。ラー・カイラムの戦闘機用カタパルトのシャトルを甲冑形態の手で掴み、発進した。これは日本系の軍隊でお馴染みの『指揮官先頭』だ。『指揮官先頭、率先垂範』の伝統は航空部隊でも適応されるため、将官でも出撃することは美風として残っていたし、一般の日本人も指揮官の模範としている。(ジオンなども間接的に受け継いでいる)しかし、米軍や自衛隊からすれば、『高級士官が自分から前線に出まくるのも…』という作戦上の意思疎通の都合があり、必ずしも歓迎されていない。扶桑軍で前線指揮能力のある事が模範的指揮官とされていたが、『後方で大局的見地から指揮する』事が軽視されているとの批判もある。武子はその才能があるのにも関わず、伝統通りにホイホイ出撃するので批判も受けている。扶桑軍が困ったのもその批判だ。ウィッチは『前線で戦う』者こそ偉いという風潮があるので、後方に下がった者は見下されやすい。扶桑では特に顕著であるため、レイブンズは地上指揮経験も豊富であるのに、前線指揮を率先して行う理由でもあった(最も、米軍にもないわけではないので、自衛隊内の批判は的外れである)――










――アルトリアは意外なことに、アルコールには弱めであったので、悪酔いもしやすい。深酔いするとオルタ化するが、変な風な酔い方だと倫理観のタガが変に外れるのか、ギャグ寄りの変貌を遂げる。その変貌はヒスパニアで示された――

「とにかく!目の前にいる敵はぶっ飛ばぁぁす!!えっくす!かりばぁぁ!」

現地で戦っていた第一空挺団(陸自)の隊員から青いジャージとマフラーをもらい、悪酔い(ヒスパニアにいた空挺団隊員が酒を飲ませた)しているアルトリアは二日酔い確実だが、酔いが変な方向に回っているためか、普段の生真面目さはほぼなく、変な方向に突っ走った。また、エクスカリバーを正邪二つの属性で二本を召喚し、それでX字に斬るので、仮面ライダー達やスーパー戦隊レッド達、現地の援護担当の陸自の空挺団の笑いを誘う。

「なんだありゃ」

「悪酔い、ですかね…?」

ジャンヌも呆然とする『悪酔い』。アルトリアは普段が堅物なので、理性のタガの外れ方も千差万別らしい。クリスは腹を抱え、笑いを堪えている。

「うーむ。君たち、どんな酒を飲ませた?」

「部下に確認しましたが、テキーラとウイスキー、それとウォッカを誰かが適当に混ぜたものだそうです」

「それでは火がつくぞ。…二日酔い確実だな、あの子」

一号ライダーも思わず苦笑いだ。アルコール度数が高いものを適当に混ぜたらどんなことになるのか。アルトリアの体の中で『化学反応』した結果、オルタとは違う変化が起こったらしいのは確実だった。エクスカリバーを二本構え、それをジェットエンジン代わりに使う方法は普通なら考えつかないが、突進しての攻撃としては有効である。また、悪酔いしているためなのか、二つのエクスカリバーの刃にレーザー刀(磁光真空剣)のような光が奔っている。あくまでアルトリア当人が悪酔いしているがためか、元の性格の基礎は働いているので、言動が荒い以外は『剣士』の属性のままだ。(『別の存在』ではないため。コスプレに近いものだ)

「そぉおい!」

どこかのスペースオペラで聞いたような効果音が響き、エクスカリバーが振るわれ、敵兵(リベリオン兵)のM1903小銃をたたっ斬る。当時、リベリオン軍と言えど、補給や使い勝手の問題からか、M1ガーランドが全部に行き渡っているわけではなく、保守的な師団長がいるところでは、ガーランドは使われていない場合があった。そのため、アルトリアの悪酔いモード(別の存在『謎のヒロインX』と同じ姿のコスプレ)の突撃に対処しきれず、M1905銃剣で応戦せねばならなかった。刃渡りは長い方の同銃剣だが、肝心の扱う側が銃剣戦闘に不慣れ(自衛隊は訓練を受けている)であった不幸もあり、鎧袖一触だった。もっとも約束された勝利の剣の前では、M1905銃剣などは鈍らであるが。

「でもよ、自動小銃造れる国がどうしてあんな古いの使ってるんだ」

「この時代、自動小銃はまだ新しい兵器だ。行き渡っていないところや指揮官の性格によっては使われないところもある」

アカレンジャーがクリスに解説する。アメリカでも第二次世界大戦当時、自動小銃での制圧射撃は『弾の無駄遣い』とする風潮がないわけではない。扶桑が急速に自動小銃の配備を進めるのは、規格統一とマスメディア対策を兼ねているからだ。

「うーん。これじゃあたしが援護する必要もないな」

「あの子一人で一個中隊は撃退できるだろうからな。俺達も手助けする必要はないだろう」

アカレンジャーの言う通り、アルトリアは悪酔いしつつも強く、また、普段は見られない現代的な砕けた口調をしているのもレアである。どこかで聞いたような効果音を響かせるのは笑いポイントであった。不満が溜まった状態で酔うとどうなるか。リベリオン軍一個中隊はその不満の捌け口にされてしまった。

「うおおおぉ!!私が食いしん坊で何が悪いんだゴルァ!」

「あ、食いしん坊言われるの気にしてたのですね」

ジャンヌはため息だ。アルトリアは意外に現代人に近い、砕けた口調をオルタや悪酔いモードではするらしい。よく見てみると酔っているので、頬が赤い。それでいて、剣は全く鈍っていない。なお、自衛隊としての公式コメントは『自衛隊としてはアルトリア女史が食事を美味しそうに沢山食べる姿を大変好ましいものと受け止めている。けして意地汚く掻き込む様な素振りも無く、大変優雅に健啖ぶりを示すその食事姿を隊員の食事の手本としたいくらいだ』であったらしい。結局、アルトリアはその翌朝も酔いが抜けず、水着で出撃。その際にエクスカリバーの派生の新型『陽光煌めく勝利の剣』を放ち、ジャンヌの頭の上に閑古鳥が鳴いたという。(因みに、エクスカリバーの切れ味を増すために光を奔らせるというアイデアは、既に磁雷矢が磁光真空剣でやっているので目新しさはない)

「でも、あの剣の刀身に光を奔らせるって誰かがしてませんでした?」

「戸隠流・磁雷矢が1980年代にやってることだし、宇宙刑事がレーザーブレードでしてる」

一号ライダーがジャンヌに言う。刀身を光で包むというアイデアは誰でも考えつく。扶桑のウィッチもそれはしているが、常時維持は出来ないので、それもある意味では桁違いの力がある証である。ミッドチルダで教われば可能なことだが、通常ウィッチではハードルが高いカリキュラムである。

「ミッドチルダ行けば魔力だけでできるそうだが、この世界のウィッチにはハードル高いそうな」

二号ライダーがいう。

「うーん。私はその気になれば、ルナマリアが乗っていた機体の武器を造れるんですが」

「誤射しないですよね?」

「そのネタはどうかご勘弁を…。ソードインパルスのエクスカリバーですよ」

自衛官の一言に地味に落ち込むジャンヌ。ジャンヌはルナマリアと融合したため、ルナマリアのMSでの射撃戦が苦手なところも受け継いでいる。ある意味、伝承の1つである、殺戮者としての側面の表れでもあり、ルナマリアの格闘戦好きの面が表れている。デザインラインがMSの武器であるため、別の武器を使いたいらしい。

「アスカロンはどうでしょう」

「あれは確か、セント・ジョージが使っていたような?」

「貴方の母国語ではジョッシュでは」

「ゲオルギウスと言っても、ピンときませんし」

智子が後に用いるが、力屠る祝福の剣(アスカロン)は対人宝具であるので、エクスカリバーより威力は落ちる。聖剣の一つであるが、あくまで対人用であり、射程は短い。対人用としてはシンフォギアを含め、たいていのものを斬り裂くほどである(最終黄金聖衣は無理であるが)なお、竜殺しの逸話があるため、竜を斬れるらしい。

「私本来の宝具ではありませんが、召喚しようと思えば出来ます。ミュルグレスはあまり召喚したくはないですが」

「割に自由度ありますね」

「転生時に、どうやらそのロックは外されてるみたいでして」

「エクスカリバーも使えるのでは?その理屈だと」

「そうなりますね。やったことはありませんが」

「だーーー!なんだよそれぇ!あたしの世界の連中が聞いたら泡吹くぞ!」

「仕方がありませんよ。概念武装はある一定の力があればコピーできたりするのです」

クリスが憤慨するように、宝具をポンポン出すのはシンフォギア世界からすれば、危ないのがわかる。なお、エクスカリバーはクロ、イリヤ、美遊が使用したが、バルムンクはG化したはやてが使用し、ヴィータを驚かせている。なのは達の留守を守っている時の暴徒鎮圧任務の際にG化した際の初陣という事で使用した。

『邪悪なる竜は失墜し、世界は今、落陽に至る!……『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』!』

バルムンクははやて曰く、『私もGになったんだし、こんくらいはいいでしょ?』との事で使用した。当時の強力な魔導師の多くを内乱で喪失した時空管理局にとってはシンボルになり得るものだった。また、古代ベルカの最強の騎士の持つデバイスの名でもあった偶然もあり、はやては急速に時空管理局での地位を盤石にしていく。雪音クリスのぶーたれとは裏腹に、概念武装は意外に自由度が高く、ある一定の力があり、オリンポス十二神の誰かの加護があれば使用可能な代物である。ゼウスやアテナに愛されし彼女らならばの所業だが、クリスからすれば信じられない奇跡である。はやてがバルムンクを使用した事が知らされたのはこの日のこと。

「現物どうこうじゃなく、概念による性質の転写だから形も変わるし、使い手に相応しい物としてしか発現しないよ、それだけ鍛練も要るしね」

これが二号ライダーのコメントであった。概念武装は哲学兵装よりも上位であり、神話などの縛りがなく、なおかつ相応に力があれば、ある一定の普遍性すらある。しかも多くが因果律兵器であるため、因果律を超えることでしか対抗できない。しかもGウィッチが有しているのは、その中でも上位ランクの宝具である。

「概念武装……。これが人の望んだ幻想なのか?」

「違うな、人の掴んだ希望の一つさ」

「我々の武器は伝説を形にした、物質化した奇跡です。あなた達の『聖遺物の残骸』を錬金術などの知識で制御した代物とは質が違う、因果を制御するものです」

「あの馬鹿がいなくてよかったかもな。いたら噛み付いてた。ばーちゃんが手を焼いてたし」

「最終手段で、私の力で言い聞かせるつもりだったそうですよ」

最悪、黒江は最終手段でジャンヌの能力で言い聞かせるつもりだったらしい。

「災難だな」

「いえ。あの子は純粋です。自分の居場所が無くなることに怯えていただけですよ」

ジャンヌは響が固執していた事の本質を見抜いていた。天羽奏が亡くなった場で生き残り、その力を受け継いだ(現在はマリアの個体を譲渡されていた)事での力への執着、誰かの居場所を作る、あるいは守る事への執着、話し合いを望む割には地雷を踏む性質など。元々は聖女であるジャンヌはそれらを見抜いた。その純粋さは特筆すべきものだが、その純粋さが黒江と調に迷惑をかけたのも事実である。

「ただ、その純粋さが仇になったと言わざるを得ないのも事実です。綾香に調の代わりをさせたのは第三者からすれば、信じられないことです」

「それはあたしも言ったんだけど、あの馬鹿が場の勢いで押し切ったんだよ。後で救済が決まってたのを知らされた時は気まずそうにしてたけどよ」

「あの子はおそらく、切歌の精神崩壊の責任を綾香に取らせたかったところもあったのでしょう。同じ姿では、別人という理屈は説得力ありませんしね」

ジャンヌの言う通り、響にその心理が無かったというのは語弊があるし、切歌も精神的安定のために狂乱を装っていた時期があるなど、切歌に罪がないわけではない。最も、響も黒江が否定する事で、切歌が狂った状態で国際法廷を受け、死刑を宣告された後で『帰ってきてしまう』ことを恐れた面もあるだろう。ある意味、響は過去の出来事が理由で個人に入れ込むあまり、周りが見えなくなってしまうと言える性格になってしまい、小日向未来の操縦を必要にしているのだろう。

「自分の否定に繋がることを恐れているでしょうね。いじめから立ち直り、力を天羽奏から受け継ぎ、それを自分の正しいと思うことに使い、奮う。一つの正義を握りしめる事は容易いことです。ですが、それは同時に、否定された場合に狂乱に変わるものなのです」

ジャンヌは自らの負の面を踏まえて、クリスに言い聞かせる。響がどうしてここまでこじらせてしまったのか、を。結局、なのは主導でガングニールの破壊となってしまい、そこで乖離剣エアの力を目の当たりにしているように、自分がした行為が反感を買う事もあるという可能性は考えていなかったのではないか、という仮定にたどり着く。ある意味、生前に自分の行為を否定されて死んだジャンヌは『響が行き着く道の一つである』とも取れるからか、同情的だった。ジャンヌは死後に時の権力者達の道具にされているところもある(名誉回復やペリーヌのプロパガンダなど)ためだが、クリスは複雑であった。



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