外伝その275『プリキュア・プロジェクト3』


『人は、いや、生き物は生まれ、食らう時点で戦っているし、罪人なんだ。それを受け入れなお他者を愛する矛盾に満ちた物が人間であり、この世界なんだ。 それを創造しただの、その争いを超越しただの言って、身勝手に滅ぼそうとする、神を騙る奴等にタダで殺されるワケにはいかねぇ』

黒江は三度の転生で至った考えを示す。神が人を滅ぼすなら、神を超え、悪魔も倒すと。不動明もデビルマンとして、同じような考えに至っており、デーモン族と敵対し、親友の飛鳥了を倒す決意を固めており、自身を『デーモン・ハンター』と称する。彼は兜甲児や黒江達を仲間に引き入れ、デーモン族を根絶やしにするつもりなのだ。

「神は天に在りて、世は並べて事もなしって感じに眺めてるのが本筋なんだが、手を出して引っ掻き回す馬鹿も多いからな。ポセイドン、ハーデス、アレスみたいにな。だから、神に対抗できる力が生まれたんだよ。プリキュアもその一端だろうな」

黒江は続ける。黒江自身、神化による誹謗中傷は数知れず、『野比のび太という『道化』で心満たされたいんだよ、あの傲慢な女は』という物まで存在するものの、神になったと言っても、全知全能になれるわけではないのだ。肉体に不死性が付加されただけで、闘技は人間として鍛えあげたモノが神化でブーストされたものであるし、肉体と心はヒトのままなのだ。誤解されるが、黒江は神に登った『ヒト』であり、生まれついての神ではないのだ。そもそも私的な理由で人生を繰り返しているうちに信仰の対象となって、神になっただけなのだ。



「憧れが煮詰まって神通力になっただけだから、敵対者には勝つ為の力が振るえるが、味方や友を打ち倒す力は持ち合わせていない、のび太やミスター東郷は倒すべき敵か?ちがうだろう?」

「そうですね、私も昔、ココに拳は向けられなかったし、向けなかった。そういう連中は自分の親友や親兄弟を殺せって言われて、殺せるかってんですよ」

「そういう連中には分かんないのよ、のぞみ。大事な者を失ってないから。あたしも、妹が20代の終わり頃に大病患った時はこの世の終わりみたいな気持ちだったもの」

「神様なんて人々に忘れられたら、それで終わりさ、人だって記録に残り、記憶されなければ消滅するし、神だってそれは同じ、そして憎しみを向けられれば、弱体化だって有り得る。北欧神話のラグナロクがそうだろう?」

黒江は誹謗中傷を向けられ、少なからず苦しんでいるが、のび太とドラえもんという最上の友のおかげで乗り越えられているのだ。それにドラえもん達は神々の戦にも赴くとも言っていおり、正に初志貫徹、英霊なのだ。

「のび太には訓練とかで勝てない訳じゃないんだ、生死を賭けた戦いでは「勝てない」というのが肝なんだよ」

――こうして、否応なしに、神と悪魔の戦いに巻き込まれた歴代プリキュア。そして、歴代仮面ライダーと組織との戦いにも巻き込まれている事から、自動的に組織とも戦う事になった。ライブの合間にりんとのぞみはトークイベントをなんとかこなし、ライブを終えたシャーリーと共に基地に戻った――


「ふう。なんとか終わったぁー」

「あら。お帰りなさい」

「智子先輩〜、わたし、もうヘトヘトです〜」

「そうそう。竹井の中の海藤みなみの因子が目覚めたわよ」

「えー!?みなみちゃん、竹井さんに転生してたのぉ!?」

「そういう事です、のぞみさん」

「あー!みなみちゃん!」

「貴方、この世界に!?」

「正確に言えば、今の私は『海藤みなみの記憶を持つ竹井醇子』なんです、りんさん。海藤みなみの姿は取れるけど」

「ややこしいの多いわねぇ。この世界の人間としてのアイデンティティを保ったまま、プリキュアの因子が目覚めたの?」

「ええ、まあ。これでプリキュアにはなれると思います」

「でも、ややこしいなあ。竹井さん、少佐でしょ?上官なんだけど、プリキュアとしては後輩なんだよ、りんちゃん」

「それもそうねぇ」

「そんな事いってんと、きりねぇぞ?お前ら」

「あ、モードレッドさん。ペリーヌさんから体を?」

「ああ。ガリアのお偉方にボディランゲージ必要だってんで、ペリーヌから借りてる。オレなんてな、元・円卓の騎士の英霊で、アーサー王の子で、今の肉体はフランス人なんだぜ?」

「確かに。それに比べれば、みなみちゃんはマシかなあ」

モードレッドはペリーヌの同意がある時にのみ顕現するため、服装は着替えている。モードレッドとしてはラフな現代的な服装を好むため、ペリーヌは少なからずの忍耐をしている事になる。

「そうですよ、のぞみさん。仕事じゃ立場は上ですけど、プリキュアとしては後輩なだけじゃないですか」

「うーん。充分にややこしいわよ、みなみ。で、どうするの、これから」

「プリキュアとして戦線に参加しますよ、因子が目覚めた以上は」

「これから増えるのかなぁ、こういうの」

「オレからはなんとも言えねーよ。ただ、そうだろうよ」

「とりあえず、武子とミーナには通告してきたわ。あたしと綾香は聖闘士/サムライトルーパーだし、もうなんでもござれよ」

「あたしなんて、歌手とパイロットとプリキュアを掛け持ちしてんだぜ?忙しいぜ」

「響、あんたも大変ねぇ」

「他の世界から来てる奴に、あたしと同じ名前のがいるから、この世界での本名で呼ばれるのには慣れたよ。変身して着替えるだけだから、楽だけど。とりあえず、講堂で開いてる士官食堂に行こうぜ。みゆきが料理作ってくれてる」

宮藤芳佳/星空みゆきは料理の修行を宇宙戦艦ヤマトの食堂『ヤマト亭』でしているため、和洋中なんでもござれである。この日は中華料理で、基地にいる防空部隊や設営隊、整備兵などにとっては扶桑料理のアレンジに見えるだろう。のび太とスネ夫が五目炒飯をたいあげている途中に一同はやってきた。

「やあ。ここ、開いてるよ」

「サンキュー。あんたらは五目炒飯なの?」

「若い頃から手っ取り早く食えるのが好みでね。大学時代は15分で丼もの食ってたよ」

「早っ!」

智子は青年のび太とは長年の付き合い故にタメ口である。スネ夫はのび太よりは落ち着いた食べかただ。

「こいつ、高校くらいからは早食いだからね。奥さん曰く、大学じゃ10分くらいだったとか」

「なるほどねぇ」

「僕達にはタイムマシンがあるから、時間がどうのこうのは関係ないんだけどねぇ」

「?」

「ああ、匿名の批判が多く舞い込んでるでしょ。ああいうのは一種の粘着だよ。全部の平行世界を股にかける神々の熱き戦いに僕たちは一枚噛んじゃってる。それに、『組織』が絡んでいる以上はMr.東郷だって関わらないわけにもいかない。元・西側諸国の依頼で世界各地のネオ・ナチを潰してきた以上はね。僕たちは関わり合いを持ったら逃げないし、投げ出さない。たとえそれが自分の生きている世界であろうが、なかろうが。三蔵法師を助けて、西遊記の元になった言い伝えを残したり、桃太郎の伝承のもとは僕なんだから、僕だって、ある種のヒーローなんだよ」

のび太は『パラレル西遊記』、『桃太郎のなんなのさ』などの自分達にメリットのないであろう出来事にも関わって勝利(解決)してきた自負と、西遊記の孫悟空や桃太郎のモデルは自分という、歴史的に裏で皆のヒーローのモデルになったという事実から、『自分にもヒーローの資格はある』と豪語した。(実際、のび太はコーヤコーヤ星では英雄と語り継がれているし、バウワンコ王国では『国王の恩人』としてVIP、ムー帝国では『六英雄』、恐竜国では信仰の対象である)また、地球連邦政府に鉄人兵団との詳細な戦闘ノウハウをもたらしたのはのび太達であり、その数々の功績により、『英霊』になるべき人物だが、のび太は自らの存在の永続は望んではいない。別の形で、自らの意志の存続を願っているだけなのだ。

「だから、僕たちは英霊になれる資格は充分ある。だけど、こいつは野比のび太としての存在の永続性は望んでないのさ。だから、転生を選ぶつもりなのさ。子孫への」

「トチローさんみたいなもんですよ。肉体は死んでも、意志は死なないみたいな?最近の若い者はすぐに『メリットあるんですか?』とか、『関わる必要も一切ない』とかいう事なかれな物言いするけど、情けないこった」

「そうそう。近頃の若い連中はすぐに安全な道を行きたがる。この歳になって、初めてわかりましたよ。親父達の説教」

のび太達は数々の冒険で、自分達になんらメリットのない事に首を突っ込む事には慣れっこであった。冒険先で困っている人々にその手を差し伸べ、危機を打開してきた(特に、ピリカ星の動乱ではレジスタンスに与し、危うく処刑されかかった)経験から、メリットの有無では物事を決めなくなっている。ドラえもんがドラえもんズのリーダーかつ、正義感の強いロボットであり、独自の戦争観さえ持っていた事の影響である。

「損得だけで動いてたら、それこそコウモリ扱いですよ、日本じゃ。特に僕の家の業種は信用第一ですからね」

「そうそう。僕の前の家の近くに住んでた『たか君』、覚えてる?」

「ああ、あんたの前の家からちょっといったところに住んでた、あの一家の坊や」

「ジャイアン、自分のスーパーで雇う上でのメリットがないのに、あの子の一家が食っていけるだけの給料を坊やに出してるんですよ。任侠な男だよ、あいつも」

ジャイアンが自分を子供の頃から慕っていた障害者の青年を、その青年が家でトラブルを起こした際に庇い、家族を黙らせるために、わざわざ自分のスーパーで雇い入れたという出来事はのび太たちの持つ義侠心の表れである。ジャイアンが実業家として成功を収める一つの理由とされたが、のび太たちはけして友情を裏切らない。それが黒江が憧れていたものなのだ。

「あいつ、ヤクザ映画とか見てたとか言うしなぁ。21世紀のやくざ者は持ってない任侠の心をよく分かってるよ」

「それと同じだよ。メリットがなんだ。関わる必要がないだぁ?そんなんだから、上の世代に見下されるんだよね、若造共は」

のび太とスネ夫は大人に、父親になったが故に、自分達の下の世代のよく言う事に苦言を呈する。子供の頃から損得など超えた次元で戦い、歴史の波に流されて埋もれた不幸な人物(鉄砲伝来以前に日本に難破したオランダ船の船長)を救った経験からだろう。何気に達観した人生観である。

「正義の味方ってのは、周囲の見返りなしで尽くすもんだしね。ドラえもんが歴史変えたのに、タイムパトロールに捕まんない理由もわからんからな、あの手の中傷する連中」

「お前ら、何気に持論あるな」

「そりゃ、地球の危機を何度も救ってりゃね。モードレッドさん。今度の相手は神々ですからね、神々。そのうちの一つは大魔神サタン、元の名は堕天使ルシファーといったかな?」

「十字教的にはちょっと唆る敵だぜ…」

「組織もそうだ。奴らはMr.東郷を恐れている。ゴルゴタの丘で、かの聖人に荊の冠をかぶせて殺した13番目の男を意味する愛称を持つからね。実際、彼は自分に牙を向けた者には鎮魂歌を聞かせるのがポリシーだし」

大首領ジュド(スサノオノミコト)が唯一、欲しつつも、恐れる者がデューク東郷である。実際、末端のネオ・ナチ組織はいくつも彼に殲滅させられている。神に背を向けた、13番目という不吉な数字を背負った男という事で、デューク東郷は組織も最高の肉体として欲し、行方を追ってきたが、末端の組織を尽く壊滅させられ、手出しは控えるようになっている。その事から、デューク東郷はクローンによる代替わりを経ても、ナチス残党には因縁があるのである。

「それが彼が無関係でいられない理由なの、のび太くん」

「そうだよ、のぞみちゃん。彼は過去、いくつものネオ・ナチ組織を潰してきた。その関係で組織から狙われてるのさ。最後のナチスのスパイ『虫』を潰してからの因縁さ。連中は彼の心に火を灯したのさ」

ナチスは戦後はアングラ化しつつも、元ドイツ軍人などの間で生き続け、ショッカーから連なる組織という形で表舞台に舞い戻った。その彼らをして恐れさせるデューク東郷。彼は否応なしにナチ残党に狙われ、その自衛も兼ね、のび太たちに協力しているのだ。

――事実、初代のデューク東郷は、件のナチスのスパイ『虫』と対峙した際、こう独白している。『俺の心に初めてともった火のようなものを消すためには、あいつが虫(インセクト)であるという絶対の事実が必要だ……、俺だけに通用し、納得できる事実が……。その事実のために、俺はすべてを賭ける……生きてきたすべてと、これから生きるであろうすべてを……』と――

ゴルゴが初代から三代までを通して、このような独白をしたのは、後にも先にもナチスとの対峙だけである。その後のターゲットを紐解いても、ネオ・ナチとは敵対関係にあるのだ。

「有色人種が道具として役に立てるだけ感謝しろって物言いになるからね、連中。だからゴルゴにやられるんだよなー」

「うーん。よくわかんないんだけど、なんでナチ残党とか日本軍の残党って戦後もいたの?」

「日本は末端まで戦闘停止命令が伝わりにくくて、本土が焼かれたこともあって、自然発生的に残党が出来た。ナチ残党は戦争に負けそうな時から南米に資源を集中させていった。ヒトラーの背後にいた大首領の命令でね。戦後の軍人への扱いの酷さに憤慨して、ナチ残党に入ったのも多いよ」

「えぇ!?」

「おじいさんが若い頃、特攻くずれなんて言葉があったが、負けた国の軍人なんてのは、扱いはひどいもんだ。それで自衛隊作ったんだから」

「僕たちの世界でここの吉田茂公が演説したけど、アメリカに『破壊された国土を守らせる』つもりで安保結んだんだろうって。で、然るべき時に再軍備するって腹積もりだった。日本が事実上の再軍備を容認したのは、自衛隊を維持して、そこから部隊を供出すればいいってことなんだし、ナチ残党よりは居場所は得られたよ」

――スネ夫の言う通り、日本の国会での『吉田演説』は彼自身が同位体の思惑を説明するような体裁で、以前のインタビューを裏付ける内容であった。また、自衛隊から戦力を適宜、供出してもらい、扶桑軍と連合軍を組む事は、莫大な軍事費を扶桑の国庫から負担してもらえるという財政的メリット(自衛隊の規模を変えずに済み、扶桑に人員と攻撃的兵器を揃えさせればいい)の大きさから、防衛省、政府与党、財務省も推進し始めている。連合の義務を必要なだけ果しつつ、最低限の軍事的義務も果たすという意義でも、この方式は受け入れられ、2019年には日本連邦は扶桑と日本の国家連合という認識が認知され始めた。日本は自衛隊を日本連邦軍の固有部隊と位置づけ、扶桑から部隊を供出してもらい、適宜、中〜大規模の統合部隊を組むという説明で国民を納得させた――

『日本は平和を守る盾と、それを支える資本と技術を、扶桑が敵を打ち払う剣を担うことで、日本の平和憲法を維持しつつ扶桑軍の力を日本連邦の力として世界に遍く敷く事が可能となる。だが、我らが武器を取るのは生存権の確立の為であり、支配のための占領、搾取のための駐留等を行わないとここに宣言しよう。我々は扶桑軍と自衛隊をもって日本連邦軍を発足させその力は我らや我らの国民がゆく所にあり、我らに助力を求めるものを助けるために力を振るおう!』

これがその時の演説である。批判もあったが、自衛隊を変える事なく、扶桑軍の外征軍隊としての力を奮えるメリットが理解され、数年ほどで定着する。日本経済が扶桑の資本で回復基調を見せ始めたからだろう。その最初の事例がこの作戦になるのだ。そのメリットにより、後の地球連邦軍の母体となったという。


――ちなみに、この場では言及しなかったが、のび太は『種巻く者』に合っている。あれはゼウス曰く、『宇宙に生命を生み出す役目を担わせている、自分の配下の天使だ』との事で、彼は回遊惑星『アクエリアス』を動かし、地球に水を降らし、現生地球人を生み出す土壌を整えたが、実は二回目の回遊の際に地球に自然発生していた先史文明(シュメール文明)が滅んでおり、その子孫がディンギル帝国であり、後の生存競争は同祖同士の争いであったと言える。種巻く者はシュメール文明が発生していたのを認識しておらず、それを洗い流した事で、同じ星で生まれし者同士の生存競争が繰り広げられた事は皮肉である。ただし、シュメール文明が精神的に歪んだ発達を遂げた彼らに、現生地球人を滅ぼす権利はなく、結局は宇宙戦艦ヤマトと地球連邦軍の必死の反撃で滅び去るのである。――

「お、そうだ。かみさんは21世紀の宗教紛争を嫌っててね。地球連邦ができる未来を喜んでたんだ。でも、実際は反統合同盟が滅んでも、ジオンができて、ティターンズが軍閥になった。それで失望してる」

「なんで?」

「どっちも神のためって理由で殺し合うからさ」

のび太の口から、妻の静香が反統合同盟やジオン公国、ティターンズを嫌っている事が語られた。21世紀の人間には地球連邦政府は理想だったからだ。そのため、美辞麗句を宣いつつ、大量虐殺に堕ちていった者たちを断罪している。静香が過去の人間として、地球連邦政府を支える方向になったのは、テロリズムで文化財が失われた事を嫌悪していたため、21世紀からすれば理想といえる『地球連邦』に総じて高評価であるからだ。(ジオン残党が大義名分の一つとする、グローブ事件の事は『因果応報』としつつ、地球連邦軍の現地部隊の暴走そのものは断罪していた)ジオン公国軍残党からすれば、自分たちの独立のための犠牲だが、ジオンはあまりに多くの人命を奪った。それ故に勝利の唯一無二のチャンスだったルウム戦役でレビルの脱走を許したのだ。

「あれ、黒江先輩たちは?」

「あの人達は作戦会議だよ。米英軍や自衛隊と今後の方針決めるんだってさ」

「大変だなあ」

当時、ウィッチ世界のイベリア半島の戦線は下と横から押し上げようとするリベリオン軍、バダン、未来世界各地下勢力の連合軍を21世紀日米英軍+23世紀の地球連邦軍+連合軍が食い止めている状況であり、海では海戦が繰り広げられている。当時、連合軍は士官専用食堂が日本からの批判で設けられなかったため、講堂が事実上の士官専用食堂と化していた。(兵と士官、士官と特務士官の待遇差が一般から鬼の首を取ったように叩かれたための妥協策。特に海軍にその混乱は顕著であったため、特務士官はとにかく『偉い』ことが明記され、兵科士官は兵上がりの特務士官に下手に出ることが多くなる)そのため、士官と、それに相当する待遇である一同は講堂で食事を済ませている。また、日本連邦軍では、食堂に自衛隊の規則が適応されたため、食事内容に身分で差は無い。講堂はお昼時と夕暮れ時になると、士官食堂となるのだ。(作戦のことを話し合う必要もあるため)


「イベリア半島は横と下から攻められてるからね。ここを抜かれたら、荒廃したガリアなんて、一気に踏破される。それを止める防波堤がヒスパニアなんだ。現地軍隊はフランコ将軍の失脚と幹部の粛清で役に立たないから、とにかくグランドフリートで牽制して、連合艦隊で海軍を抑えて、陸軍をヒスパニアでボコボコに叩きのめす。幸い、イベリア半島は機甲部隊の運用に難があるから、そこが狙い目だよ」

のび太の言う通り、敵はポルトガル相当からも上陸を目指すため、その妨害、ヒスパニア軍の代わりに連合軍が動くためのインフラ整備など、連合軍がやるべき事は多い。いくら時代を超えた装備で当たろうと、やれることには限界がある。局地的に勝てても、戦線が綻びを見せれば、一巻の終わりである。数を揃える事、圧倒的な制空権の確保、そして対地攻撃。F4U、F6F、P-47ら高性能機を抑え込むため、烈風、紫電改、F-86、F-104などが乱舞する。空は戦中世代レシプロ機からセンチュリーシリーズまでの航空機の博覧会の様相を呈し、日本系レシプロ機が史実で太刀打ちできないとされたはずの機種を手玉に取る光景はパイロットの練度差に由来するものであった。高オクタン価ガソリンを入れ、万全を期した整備が施された機体ならば、紫電改と烈風は時速680キロを有に叩き出す。しかし、烈風は零戦系以来の高速でのロール速度の遅さが指摘され、次第に制空戦闘からは外されていく事になる。宮菱が心血を注いで、制空戦闘機として造り上げたはずの烈風は原案の古さと、零戦から大して改善されぬ高速時の横転性能の二点で制空戦闘機としての運用は取りやめられ、F4Uのように『戦闘爆撃機』へと転換していく。対照的に紫電改は要撃機を出自としつつ、横転性能の良さから、烈風を押しのけて、扶桑皇国海軍系のレシプロ戦闘機の掉尾を飾る名機として名を馳せる。山西航空機はレシプロ最後の時代、名門が悔しがるほどの名機を作り出したという点は評価されるべきだろう。実際、紫電改は史実同様の性能特性を持つ疾風改(航続距離を削り、武装と防弾を史実と同等以上に強化した型)が登場するまでには時間がかかるとされたため、紫電改は陸上型、艦上機型の双方がミッドチルダ動乱からの流れで生産されたが、日本の横槍でそれが一時ストップし、戦線の混乱に繋がった。(日本は『性能に限界が見えたレシプロよりも、未来があるジェット戦闘機を!』と強行にF-86の増産へ圧力をかけた。その流れでストライカーユニットも生産が一時、ストップしてしまった)それは日本の不手際であり、太平洋戦争緒戦の兵器不足は軍縮を狙っての予算削減と廃棄も関係しており、太平洋戦争が長期化した理由は、短期決戦を狙う扶桑の戦争準備が否定され、持久戦に方針転換されたからであった。また、航空機メーカーの役割分担が始められた事なども重なり、既存兵器のパーツ供給に支障をきたす事態となり、結局、既存兵器の扶桑の面子を潰さない程度の改良作業が始まるのだ。のび太たちの会話の裏では、黒江とハルトマンが執務室で電話口に怒鳴りまくっていたのだ。



――黒江の執務室――

「おのれらは現地調査とかしてんのか!現地の戦闘機はまだF6FとF4Uじゃ!!F8Fなんて、ミッドウェイにあればいいほうじゃ!!」

黒江の言う通り、ウィッチ世界は実機の開発は後回しにされる傾向が強く、96式艦戦の実用化も1939年である。それをいくらティターンズが発破をかけようが、ウィッチ閥の妨害工作もあり、F6FとF4Uを普及させ、先行配備という形でF8Fをミッドウェイに少数配備で精一杯なのだ。

「代替機送らんウチに補給部品止めるたぁ、前線部隊が出撃不能で敵に蹂躙されるか味方の嘲笑に晒されてこいっつー事か!あぁ?!」

「し、しかし、統括官…。事務次官は旭光と栄光にラインを統一させよと」

「そんな無理な注文がメーカーにできるか!もう、疾風の史実通りの性能特性の機体のプロジェクトは動き出してるんだぞ!」

「あの、後継機のキ87を推進させたほうが」

「そもそも、現地の戦闘機の高高度性能は排気タービンある分、マシじゃ!」

「新型に切り替えなんて、前線で活動しながらなんて出来ねーから代替機は訓練済隊員と一緒に送って来いよ!古参だって慣れない機体、しかもマルっと新型とか実戦で使える訳ねーのも解ってんだろーな!!ジム使ってた連中にネロかジェガン与えるようなもんだぞ!」

黒江の言う通り、いくら百戦錬磨のパイロットでも、全くの新型である旭光と栄光は相応に訓練しなくては動かせない。ましてや、旭光と栄光はジェット戦闘機。レシプロ機で戦う者達には酷である。しかも、旭光は火龍や橘花とは一線を画する性能を持ち、段違いの機動性を誇る。(対戦闘機戦闘目的で活躍する初のジェット戦闘機である)これはメッサーシュミットMe262の模倣にすぎない二機種と違い、エンジンが胴体内蔵式であり、Me262やフッケバインの技術成果で生み出された戦後世代のジェット戦闘機であるが故である

「第一、現地のドイツ軍の技術陣がハチロクの機動性を目の当たりにして、メッサーシュミット博士が泣いてるし、タンク博士が唸ってんだぞ!」

「まさか、そんな…」

「アホ!黎明期はな、足が速いが、動きは鈍いから、対爆撃機用要撃機として運用するのが当たり前だったんじゃ!戦闘機相手のドッグファイトできる機種だったから、歴史を変えたんじゃい!試しに、元・ブルーインパルスの義勇兵に曲芸飛行させたら、先方の実験部隊が血の涙流したくらいのデカルチャーじゃ!」

黒江は頭を抱える。防衛官僚の内、警察出向組は生え抜き組にマウントを取りたがるくせに、肝心の分野で無知を晒す。まさに警察の傲慢である。黒江はお昼ご飯を執務室で取りつつ、防衛官僚を怒鳴りつける。生え抜き組と違い、内務系の防衛官僚は制服組を見下すわりに、横槍を入れてくる。日本軍の作戦参謀を笑えないレベルで無知なのを顕にして。

「お前ら、大本営の作戦参謀を笑えないからな?制服組なら常識だからな、これ」

「わ、わかりました。上役に報告して、指示を…」

「上役のオフィスの電話番号教えろ、私が話をつける!」

黒江の行動力は軍人だからこその即断即決であり、日本の事務方の官僚が及びもつかないレベルである。事務方の不手際を自分で尻拭いしてみせるのはさすがの一言で、事務次官や防衛大臣にも直接、直談判できる立場にある事から、事務次官や防衛大臣に直接、現状を伝える。チト改良型、ウィッチ用破砕砲などの新兵器開発、疾風の性能向上継続を含めた既存兵器の改良プランの採用と継続などはこの時に『前線の要望』として伝わったものが採用された結果である。こうして、防衛装備庁を叱責する黒江。今回の混乱は防衛装備庁の暴走に近く、また、現地の雇用も揺るがしたため、防衛装備庁長官が責任を負わされ、更迭されたという。また、黒江が前線の窮状を防衛大臣や防衛事務次官に訴えたため、防衛大臣が顔色を失う事態ともなった。黒江は江戸っ子のような小気味いい口調で防衛装備庁を叱責しつつ、防衛事務次官と防衛大臣に演技で窮状をオーバーに伝え、防衛事務次官と防衛大臣は『いかんね。現地の雇用を崩してまで兵器生産をコントロールしようとするなど』と言い、防衛装備庁に責任を負わせた。防衛大臣としても、現地の雇用も考えた上で、緩やかに自衛隊式の兵器へ更新していく事が望ましいとする安倍シンゾーの意向を聞き及んでいたため、そうするのが最善策だったからだ。続いて、人事部に電話をかける。

「人事部長、取り敢えずイーグルドライバーのTRで良いから、20人程送ってこい、こっちで調達した機材に乗せるから。使う機材は地球連邦軍からの扶桑向け供与が回して貰える事になったから。仕様書送るから、装備庁に部隊使用承認だけ貰っとくから、よろしく」

「分かった。噂は聞き及んでいる。コア・ファイターとバルキリーだろう?旧式とは言え、よく調達できたね」

「コスモタイガーやワイバーンだど、ウチの整備が音を上げるからな。その点、コア・ファイターやVF-1なら整備の講習だけで済む」

ワイバーンとは、地球連邦軍が戦闘爆撃機として、一年戦争後に配備している大型機で、TIMコッド、セイバーフィッシュ空軍仕様、フライマンタの後継機種だ。コア・ファイター系のアビオニクスを使うが、機体にAMBACの概念が取り入れられており、21世紀の航空技術者などが首を捻る機能を持つなどから、自衛隊向けの供与機材には選定されていない。また、開発元のアナハイム・ハービック社曰く、『F-104の遠い子孫だ』とされるように、使用用途が要撃機であり、万能機であるコスモタイガーの登場後は調達数を減らされている。最も、ハービック社の持つ地球製航空技術だけで造られたワイバーンと、イスカンダルのオーバーテクノロジーを全面的に取り入れた一式宇宙艦上戦闘攻撃機とでは、比べるべくもないが。

「ワイバーンがまだ?」

「コスモタイガーは艦上機部隊が優先だし、重要拠点の配備も進んでる段階だし、ワイバーンも、まだ新しめの機体だしな。トリアーエズよりはマシだろ?」

「なんだ、その小学生みたいなネーミングセンス」

「俺も信じらんないけど、一年戦争前の段階で宇宙軍が使ってた黎明期の宇宙戦闘機なのが本当で、数を揃えるのが目的だから、一年戦争の時にはセイバーフィッシュに取って代わられてきてた。要するにボール以下のカトンボさ」

宇宙戦闘機の復権はブラックタイガーとコスモ・ゼロの世代でなされ、コスモタイガーで完全に復権し、可変戦闘機を補う存在として配備されている。大気圏内外両用エンジンと言っても、コスモ・ゼロとブラックタイガー以降の世代にはオーバーテクノロジーが満載であるので、自衛隊向けには供与されない。ただし、外観とコックピットの見学は許されており、黒江が山本玲(アース)を伴って、機体を見せている。ダイ・アナザー・デイ当時の玲はコスモ・ゼロ33型とコスモタイガーU後期型を使い分けており、ガイアの彼女と違い、コスモタイガーU乗りである。これはガイアにある『コスモタイガー』とアースの同名機では、別の機体であるためもある。また、アースのコスモタイガーUは、ガイアがちょうど競作を行っている段階で芹沢虎徹とアースの真田志郎の裏取引によって技術開示がされ、ガイアでもライセンス生産の見込みだった。

「見学させたら大喜びだよ、連中。MS全盛の時代に宇宙戦闘機が使われてるんだし」

「第二期MSも出ているというのに、何故だね」

「小型機はエンジンが壊れると、大爆発しやすい仕組みな上、パワーに強度がついていかないのも見られてな。それ故にミドルサイズになった」

「パワーに強度が?」

「Vセカンドってガンダムがその証明だ。昔のヅダより危ないかもな」

Vセカンドは試作段階で事故が相次ぎ、V2ガンダムに計画が切り替わったが、この空中分解事故は地球連邦軍にMSの再度の大型化へと舵を切らせたほどの重大インシデントである。元々、小型機はデナン・ゾンの頃に、装甲車の攻撃で容易く重大な損傷を負うという事例が確認されていたためと、外宇宙時代では、大型機のほうがメリットが大きかったからだ。大型機での空中分解事故はヅダが有名だが、宇宙戦闘機は宇宙戦闘機なりの存在意義が見出され、デンドロビウムのような莫大なコストもかからないのが再確認され、小型MSの任務を代替しつつある。しかし、ミドルサイズで成功するとも限らない。折角のRGM系のニューフェイス『ジェイブス』は仮想敵がザンスカール系のMSだったせいで、ミッションパックを量産機でありながら採用したのがマイナスとされた。ミッションパックは本来はMSの稼働実験用の機構であり、専門特化型には及ばない点がある。本来はF9系のサナリィ・ガンダムの量産機が目指されたが、ミッションパックがジャベリンパック、ヴェスバーパック、Gバードパックなどの高価な装備ばかりである。また、水中パックや局地戦用パックの出来が甘く、専門特化型には及ばないとされた事、前線では整備マンアワー増加を嫌う傾向がある事から、ジェガンの延命が続けられている。また、ジェイブスベースの特務型も検討されたが、結局は型落ちして久しいながら、頑丈かつシンプルなジェガンがベースとなった。また、設計そのものもF90とF91の折衷的な中途半端さを残しており、煮詰めきれていないとアムロに指摘されるほどである。本来は高コストを理由に生産中止の噂もあった量産型F91の生産が続き、ジェスタが造られ、グスタフ・カールが開発された理由は同機のミッションパック前提の哀しい機体特性に由来する。また、同時にアナハイム・エレクトロニクス社のジェガンの傑作機ぶりが知れ渡った。

「地球連邦軍の世界じゃ、デナン・ゾンにやられたのはジムVで、ジェガンじゃないそうだ。小型機の難点も発見されたから、大型機を代替するに至らず、ジェガンがまだ現役なんだよ。それに宇宙怪獣がいるから、大型機のほうが好まれたしな」

「あれ、銀河中心に巣が」

「ぶっ飛ばした。代償は大きかったらしいがね。その対策も兼ねて大型機のほうが好まれてる」

「と、いうことは、バスターマシンが?」

「軍縮でラインの殆どは閉じられたが、一部は生きてるし、白色彗星のおかげで新規開発も再開されてるよ」

「あれのコストはどうなのだね」

「スーパーロボットの中じゃ安いほうさ。シズラーなんて、恒星一個分のエネルギーで大量生産可能だし」

バスターマシンはその需要が少ない事、地上では大きすぎるなどの理由で新規開発は殆どされていないが、オオタ・コウイチロウの意志を継いだユング・フロイトがグレートガンバスターを造らせている。一点物であれば、予算は下りるのだ。また、ラインが生きていたシズラーは輸出用に銀と白(銀河中心で撃破されたのはこのタイプが大半)、黒はエース用のタイプである。また、シズラーもマスプロダクション機として、マジンガーZよりは強力なので、そこもZEROの逆鱗に触れた節がある。ZEROは自分(Z)以外の存在を許さないため、Zより強力な機体が大量生産される事は宇宙滅亡級の事柄である。しかし、Zはスペックそのものを見ると、最終時でもパワーウエイトレシオはあまり上がっておらず、兜甲児も第一線での運用は難しくなったと考えている。(ゴッドに改造したのは、Zとしては改修が限界に達しており、殆ど完成時のパーツが残っていなかったからでもある)

「その割に見ないが」

「地上でダイターン3よりでかいマシーンを使えると思うか?ガンバスターは某光の巨人四人分の大きさなんだぞ」

ガンバスターは200mもあるため、地上では空中戦で使えても、地上では重量的に運用が困難である。ガンバスターだが、本来はエース用に少数生産も考えられていたようだが、オオタ・コウイチロウがあれこれ注ぎ込んだため、当初の量産計画は路線変更されている。また、ガンバスターは『でかけりゃ強いだろう』という発想もあるが、『デカい相手に必要なパワーを求めたら大型にならざるを得ない結果という現実的理由で造られ、グレートガンバスターもそれを継承しているので、とても大量の増産は不可能だ。その代替がマジンガーとゲッターロボの大量生産計画だ。マジンガーはグレートそのものの増産から、廉価版の『イチナナ式』に変更され、弓教授がマジンガーそのものの量産は政治的に止めた形となった。対するゲッターロボ側はドラゴンの復活促進の思惑から、敢えてそのままの大量生産が進んだ。

「ゲッターロボなら、大量生産されてるぞ。ゲッター1とドラゴンが。修理を受ける機体はゲッター1が大半だけど。元は開発用の重機だし、あれ」

「そういえばゲッター1は関節部が脆いような?」

「戦う事は本当は想定外のマシーンだしな。OVAの体形じゃないヒョロヒョロな奴だし」

「統括官はどれに?」

「私はドラゴンだよ。戦闘用だし、あれ。昔、真ゲッターに乗ったら文句出たんだよな。それでドラゴンだ」

黒江は前史で真ゲッターロボに乗った事があるのだが、文句が出たのを覚えているので、ゲッターロボG級までに留めていることを人事課長に言う。正確に言えば、前史で一度、真ゲッタードラゴンにも乗っているが、それを今回の防大時代に同期に言ったら、文句を言われたのもあり、ゲッターロボは斬やドラゴンなどに留めているという。

「よく乗れるねぇ、あんな化け物」

「ドラゴン級までなら楽だぞ。ただ、並のパイロットだと、加速のGで死ぬから、ネオのテストの時に死人出してる」

「そう言えば、ミチルさんがライガーに乗ってたな。女性は基本的に2なのかね」

「3号機がマッチョかデブの指定席みたいなもんなのと一緒だ」

このように前線の状況が伝えられ、日本に事の重大さを野党などに理解させ、防衛装備庁には既存兵器の改良を補助する方向で折り合いをつけさせる。人事介入も甚だしいレベルであったが、ヘルマン・ゲーリングから装甲師団を奪い、彼を失墜させることだけは強行される。史実でガランドを罷免した事が咎められたものの、彼自身は当たらず障らずであったからだ。(前線に難ありの人材を押し付ける傾向はあったが)ガランドと関わりが殆ど無いため、罷免の方便にも苦労し、仕方がないので、装甲師団の指揮権譲渡、開発への口出し禁止令が出されることで、カールスラントの大衆人気に配慮した。また、反ガランド派は史実でナチ派であった者が多かった事もあり、問答無用でリストラされていった。これは史実でガランドの行う引き抜きに反対意見を出した将官、佐官も対象であった。最も、ガランドは史実では敵対者に情け容赦ない面もあったので、ガランドが総監職をラルに押し付けたのは、黒江のように、批判に晒されるのを嫌がったためもある。ディートリッヒ・ペルツ少将、ハヨ・ヘルマン大佐などはリストラされた中では大物である。その衝撃でバダンに勧誘され、加入する将兵も続出し、結局、カールスラント空軍は条約による軍縮と国の財政難もあり、防空軍へ変質せざるを得なくなる。ラルは外征軍隊としてのカールスラント軍が終焉する過渡期に総監職につき、外征空軍としてのカールスラント空軍の最期を看取ったエースという称号を得る事になる。ラル自身は太平洋戦争にも『帰国不能』を理由に参陣し、魔弾隊の指揮官という形で転戦していく。また、実際にそれを見越し、ハルトマンに家を買わせていたのである。太平洋戦争に従軍する者はこの時の501のカールスラント系の全員であり、ガランドは苦笑いしつつも、史実では中国の地名である上海にカールスラント軍のコミュニティを形成し始める。(同地は貿易中継港で、工業中心地の1つ。南洋島の北部湾の東岸に位置する大都市。元々は華僑の集落であった。扶桑は外地がスカスカという批判を浴びるが、大都市は外地にもあるのである)南洋は基本的に史実中国と満州国の地名を多くつけられており、重慶市、上海市もその一つだ。内地の開発や外地の振興に軍事費を回したい日本の省庁はこの辺りの無知で恥を晒している。


――日本のとある料亭――

「シンゾー君、日本の省庁の横槍はどうにかならんのかね。南洋の軍事都市計画がポシャって、64F用の基地の周りに何も無くなったんだが…」

「は、申し訳無い。すぐにゼネコン業界になどに代替プランを考えさせますので…」

安倍シンゾーは扶桑の小泉純也から愚痴られていた。吉田茂の中休みのために抜擢された防衛閥の議員であり、日本の小泉ジュンイチローの父に当たる。黒江が危惧した通り、南洋で64用に整備された大規模基地は扶桑の軍事都市を目指しての開発の一環であったが、日本の市民団体や野党の横槍で頓挫してしまい、基地の半径10キロは未開発の荒野だけが広がっていた。扶桑から猛抗議が来たことで、彼らも主張を引っ込めたが、残されたのは荒野だけである。安倍シンゾーはゼネコンの入札を行わせ、自衛隊駐留用の設備やその家族のための住宅地やショッピングモール整備を行わせることで、扶桑の土地提供者への賠償とした。また、地下都市圏をニューレインボープランの兼ね合いで整備している都合もあり、予定されていた新工廠は地下化されたという。

「ラ號の事ですが、あれをどうやって引っ張ってこれたので?」

「23世紀までには封印は解かれているからだ。神宮寺大佐は『日本のために』ということで秘匿していたからね」

「防衛装備庁の官僚が愚痴っています。影山コンツェルンはどうやってだまくらかしたのか、って」

「そりゃ旧軍の秘匿兵器をそのままで持つわけにもいかんでしょ。ましてや、信濃用の砲身などを持ち去って組み立てたのなら」

ラ號を結局、21世紀人は『23世紀人が運用するのを見るだけであった』。ラ號は色濃く大和型戦艦の風体を保つ。元々、大和型戦艦の開発資産で作った戦艦なため、フリードリヒ・デア・グロッセと同レベルの威力を持つ。戦局打開の超兵器として期待されたため、本来は51cm三連装砲が三基、九門が予定されていた。だが、井上成美などの提言で中止された51cm砲の開発再開にはマリアナ沖海戦の敗北を待つ必要があり、彼らは航空決戦主義の敗北を嘆いたという。結局、各国が同じように計画していたため、ラ號の優位性は疑問視されているが、ラ號の予定スペックならば、連合国側のラ級を圧倒せしめる火力を持つはずであった。そして、まほろばと共に和平派が闇に葬った。その事は21世紀になって、和平派の評価を下げる要因になったのだが。そして、ラ級で戦後に完成したのは英ソ仏の三カ国だが、いずれも忘れ去られ、キングス・ユニオンが唯一、所在を把握しているラ級である。仏は完成したとされるが、公式記録には残っておらず、ソ連はソビエツキー・ソユーズのみが完成したとされるも、所在不明という。

「他国のラ級はどうなのだね?」

「国連安保理で調査を要請しましたところ、キングス・ユニオンのみが明確に所有を確認できたとの事です。仏は自由フランス海軍の記録に無く、所在不明。ソ連は崩壊時に行方不明とのことです」

「だらしがないね」

「戦後は核兵器に関心が移ったためでしょう。戦艦など、旧時代の象徴とされましたから」

アメリカのラ級は二隻計画され、一隻はウィッチ世界で使用され、撃沈されたが、もう1セット分が行方不明であった。黒江はそれがリバティー用に使用されると踏んでいる。モンタナをプロトタイプに設計された18インチ砲搭載の米戦艦『リバティー』。米戦艦には珍しい命名である。改アイオワ級のプランという形で図面が残っており、俗に言うペーパープランである。モンタナをラ級として改設計した際、不備が指摘されたので、議会向けにはアイオワ級の改良型という形で、公に図面が造られた。アメリカの存続中に造られなかったが、大和型戦艦の後継艦が46cm砲という懸念から、設計作業は1945年6月に終えていた。結局、建造はされなかったが、モンタナの再生産にノウハウが使用されたともされる。しかし実際には8月までにモジュール化された各パーツが完成状態であり、バダンが接収後にリベリオンで建造させ始めたのだ。モンタナを改良し、より大型化した戦艦として。

「アメリカは?」

「海軍が大統領に怒鳴られてます。実際に完成したモンタナがラ號と空中戦したんだから」

「彼らも可哀想に。あんな派手に砲撃戦して、大和型の改良型に撃沈に追い込まれたんだから」

「まさか、自分たちは作ってないはずの代物が完成してて、しかも戦艦本来の戦で大和型戦艦に負けたのは、向こうにとっては屈辱だろうしね」

なんでも世界一を自負するアメリカに取って、大和型戦艦は虚砲を積む見かけ倒しという評価さえあったが、アイオワより重装甲のはずのモンタナが空中ドッグファイトで大和型戦艦に敗れ去った事は屈辱であるのは想像に難くない。大統領はヒステリックに『ガッテム!』、『ファック』を連呼したものの、海軍関係者は設計当時に懸念された空中でのモンタナの弱点を突かれた事は納得していた。また、リバティーは空を飛ぶため、飛行船扱いで空軍移管が戦後の1948年前後に計画されており、それもあり、海軍艦艇の規則から外れたのだろう。モンタナはラ號に敗れたが、ある種、三次元戦闘を最初から想定したラ號の頑強さを象徴した。

「しかし、仏はなぜ所在不明と?」

「アルジェリアかどこかの秘密ドックに隠匿したともいいますが、独立されたので、調査は不可能と」

「なるほど。彼の国に戦艦は手に余るものですからな」

「ラ號もマスメディアが騒ぎ立ててますよ。扶桑の生産した大和型戦艦でなく、大日本帝国海軍の遺産ですから」

「所有権は自分たちにあると?」

「いえ、旧軍の秘匿兵器を何故発見できずに、民間に鉄を売り払った体裁で隠し通したのかと」

「書類上、無かったほうが占領軍に言い訳できると考えてのものだろうが、今となっては愚策だったと言うべきだな。ウチの倅も言っとったが…」

「一般向けには『だいたいが献納予定品だったし、軍の資産にはまだならない内に終戦しているから、政府にラ號の処分権が無かったし、GHQ向けの資料に載せなかった。大和型戦艦五番艦は架空の存在として処理されていた』という体裁で公表します」

「それがいいだろう。それに完成後は地球連邦軍の艦艇であって、海自のものではない以上、野党も手は出せんさ。正真正銘、戦艦大和の末妹だ。一般人は欲しがるだろうがね」

ラ號は大日本帝国海軍最後の大戦艦である。歴史上最後の日本戦艦という事になるので、資料的価値からの保管を願う声もあった。しかし、ラ號は23世紀において外見に表れない大改造で宇宙戦艦化しており、中身はヤマト型宇宙戦艦である。21世紀のほうは実験艦という体裁で船籍があるが、一般公開はされない。そのかわりに23世紀の最終型のラ號のほうが一般公開を引き受ける手筈である。ヤマト、ムサシ、シナノと違い、大和型戦艦の威容を維持した外見であるので、ミリタリー人気がある。

「三笠のことだが、海保を説得できたのかね」

「海保長官をクビにするつもりです。彼は立場をわきまえていなかったので」

この時、海保長官の暴走が甚だしく、日露戦争の戦艦三笠が民間軍事会社の保有物であることを知ると海援隊を非難し、接収さえやろうとした。しかし、扶桑にとっては海援隊の所有物であり、既に二度の機関換装を経ていたし、多くがオリジナルの部材ではない。その事もあり、海援隊の第二海軍化の代償に、海保用新式巡視船を割り当てる案が出ている。この時は密約であったが、後に海保長官の暴走が目も当てられないレベルに到達したのを期に実行され、海保は苦境に追いやられる。ただし、海援隊の仕事先の太平洋共和国が戦艦の存在を懇願した事から、紀伊型『近江』が修理されて海援隊に回される事となったという。(太平洋共和国は旧式の準ド級しか無く、超弩級戦艦の時代には非力であったため)


――この会談で取り決められたものの多くは1947年度になってから実行されていく。ただし、この頃から扶桑海軍はかなり戦艦整備で横槍が入るようになり、紀伊型をベースにしての巡洋戦艦を設計していたのが、大和型戦艦の設計変更型に変えられるハプニングに見舞われる。これは超甲巡の設計変更(主砲変更)から始まり、大和型戦艦の主砲ダウングレード版などが提案されるなど、艦政本部はパニックに見舞われた。また、重戦艦と巡洋戦艦にカテゴリが二本化し、大和型戦艦などの艦隊決戦用戦艦は重戦艦にカテゴライズされた。ダイ・アナザー・デイ中にはその内示があり、正式に『BB』と『CB』と艦種種別符号が連合軍で統一されたのはダイ・アナザー・デイのちょうど数年後のことである。他には、歴代プリキュア出身者の待遇面も話し合われ、『素体となった人物が軍籍を前から有していた者は軍籍を優先し、歴代のリーダーは中尉、それ以外は少尉』と決められた。また、夢原のぞみ/キュアドリームは確認された限りで最古のプリキュアであり、日本で人気もあることから、これから多忙になっていく。錦の姿からの変身でキュアドリームとなり、プリキュア・シューティングスターで504基地の危機を救った動画も出回った事から、ウィッチからプリキュアに転じた例としても知られていくのであった。また、その親友となっていくキュアメロディ/北条響/紅月カレン/シャーロット・E・イェーガーはそのややこしさと紅月カレンとしての激しさ、北条響としての優しさ、シャーリーとしての母性を併せ持つ事から人気になり、一種のアイドル的人気を得ていく。また、宮藤芳佳/星空みゆき/角谷杏/キュアハッピーは、角谷杏としての人格がメイン化していたので、飄々とした立ちふるまいになり、裏取引、交渉面で手腕を見せる裏番長的地位を確立する。また、宮藤芳佳の相方であるリネット・ビショップがビショップの家名を重荷に感じ、戦いに躊躇しないために、リネット・ビショップの人格を捨て、美遊・エーデルフェルトとなった事、美遊としての相方のイリヤスフィール・フォン・アインツベルンがサーニャ素体で実在していることが知られ、自衛隊の現地駐留の隊員達の士気がうなぎのぼりになったという。これら自衛隊の歓迎はオラーシャと決別したサーニャにはいい後押しとなり、以後は九条しのぶ/イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの姿が常態化し、リーネも美遊としての姿と人格を固定化させる。また、英霊達も新たな人生を送り始め、アストルフォなどは英霊の力をプリキュアの姿でも行使可能という二重属性により、意外な戦力に登り詰めていく。二重存在化したペリーヌとモードレッドは状況に応じて、片方を顕現させることで共存の道を選び、後に、ペリーヌの中の『プリキュアの因子』が彼女の強い意志で目覚めていく事になる。そのため、Gウィッチでも、内訳でプリキュア組と聖闘士組に大別されるようになる変化が起こる。それらを見届けつつ、裏稼業に精を出すのび太とデューク東郷。

『おうっと。君の考えはわかってるよ。俺がもう6発撃ったか、まだ5発か。実を言うと、こちらもつい夢中になって忘れちまったんだ。でも、コイツは44マグナムっていって、馬鹿みたいに強い拳銃なんだ。お前さんのドタマなんて一発で吹っ飛ぶぜ。楽にあの世まで行けるんだ。運が良ければな。さあ、君はどうする?』

のび太は青年になると、ハリー・キャ○ハンリスペクトな台詞回しを用いる。子供の頃、ダー○ィ・ハリーを見まくったせいか、スーパーレッドホークを構え、ハッタリをかます。その事から、のび太の裏稼業を知る者のからかいの対象となっているが、のび太は状況に応じて、ダー○ィ・ハリーさながらに暴れる事があり、若く、血気盛んな青年期の頃に顕著であった。男盛りの壮年期以降は往年のシ○ーン・コネリーさながらのスマートアクションに転向する。また、この頃から仕事の必要上でカジノに出入りし始めており、28歳前後の頃は裏稼業の初期に位置する。また、個人的趣向として、大口径リボルバーを好む傾向があり、Gウィッチの護身用サイドアーム選定に関わっている。そのため、この時代では調達不能な代物が輸入され、のび太のカスタマイズを受けての支給が始められていた。それはのぞみ、響、みゆきなどの『扱いに手慣れている』者達から優先で支給されており、のび太の銃器分解・メンテナンス講座も受講していたりする。のび太は青年期になると、裏稼業の他に、黒江達の要請でガンファイトの講師を引き受けており、501の異常な戦闘力の裏付けともなっている。また、太陽戦隊サンバルカンの二代目バルイーグルが剣技の講師であったり、磁雷矢が忍術の講師であるなど、黒江達の人脈でやたらと豪華な講師を招いている。黒江の弟子がなのはやフェイトである事から、高機動戦闘、その潰し方の講習も高レベルで行われ始め、自衛隊曰く『統括官の人脈凄すぎ…』というほど訓練が厳しい事となる。また、黒江自身も悪ノリでジープで隊員を追っかけ回すなどの特訓を課したという。また、腕っぷしは黒江達の持ち回り、剣技は飛羽高之、天宮勇介、炎力などの歴代戦隊レッド、特別講師は倉間鉄山将軍だったりする。(将軍に至っては、幹部をたたっ斬るほどの達人であり、黒江も手も足も出ないほどである)彼らの助力は番場壮吉の手引きによるもので、彼は501強化の功労者である。上層部が後に推進する『ウィッチ・コマンド計画』はダイ・アナザー・デイでのこの体制がプロトタイプとなるのである――



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