外伝2『太平洋戦争編』
四十一話『魔神の神』


――仮面ライダーJ達が戦闘を繰り広げる中、ゴッドマジンガーに勝てないという事実を受け入れられない『マジンガーZERO』は行方を眩ませていた。ZEROがその力を奮えば、惑星の破壊など容易にできるはずで、カイザーであろうと、ZEROの敵ではない。その理由は一つ。ゴッドマジンガーはZであり、自身の半身なのだ。悪の面を凝縮したのがZEROなら、正義の面を体現したのがゴッドなのだ。当然、偏執的な制御されない力のシンボルであるZEROが、『制御され、洗練された善性の象徴』であるゴッドに勝てないのは自明の理なのだ。ZEROは憂さ晴らしと言わんばかりに、不安定化した次元の境界線を飛び越え、ウィッチ世界の下層世界の一つ『C世界』を最大出力ブレストファイヤーで焼き尽くして滅亡させていた。ZEROの眼下に広がるは、ブレストファイヤーで穴を開けられ、崩壊していくC世界の地球。この時に焼き尽くされ、死んだC世界の武子の無念と怨念がA世界の自身に流れこんできた。


『やめてぇえええええ!!』

武子は幻視する。マジンガーZEROの偏執的な攻撃により、仲間達が根こそぎ倒されていく光景を。全世界のウィッチ、(エクスウィッチも)とあらゆる兵器が集められて、討伐作戦が行われたのにも関わず、ZEROは意にも介さず、ロマーニャ半島を吹き飛ばし、ウィッチ達を殺傷していく。サザンクロスナイフに串刺しにされ、圭子が死に、それに激昂した智子も、武子を庇い、光子力ビームで下半身を消滅させられ、死亡する。扶桑海組で、運良く生き残った黒江が奮戦し、なんとか最後まで生き残るが、二人共、旗艦の戦艦大和がブレストファイヤーで撃沈された際に消滅していった。最後の瞬間、二人は手を握り合いながら消滅していった。この時の武子自身の無念が世界の境界線を超え、より強力な力を持つA世界の自身に伝わったのだ。武子Aはその一部始終を幻視という形で『見た』。そして、その無念が流れ込んだ影響か、涙を流した。

「ZERO……あんたはなんて事を……!」

と、そこに電話が入る。黒江からだ。

「お、おい!フジ、今のは……」

「ZEROがどこかの私達を滅ぼした時の光景、でしょうね……」

「あの偏執狂め!!よくもみんなを殺しやがって!!クソォォォォ!!」

黒江も幻視したらしいが、より怒り具合が大きいらしく、すっかり激昂している。

「おそらく、ZEROにその世界が滅ぼされた時、その世界の私達の無念さが強い思念になって、より強い力を持つ私達に伝わったんでしょうね……」

「で、でも、それがなんで私達なんだよ!?」

「それは私達が神になっていて、平行世界の自分達とは独立した存在の『神格』に位置しているからかもしれないわ」

ZEROと言えど、神になった存在は倒せない。それは平行時空のデビルマンは堕天使『サタン』を倒すに至らず、逆に倒されてしまったことでも証明されている。もちろん、『滅ぼされた世界』の二人はその事など知りはしないが、その強い無念がC世界の罪なき人々の思いと一体化し、A世界の二人に伝わったのだ。

「でもよ、ZEROはマジンカイザーより強いんだぜ!?そんなバケモノ相手に……」

「いや、倒せるマジンガーが一機だけいるわ。マジンカイザーも、Gカイザーも超える『魔神の神』が」

「ゴッド、ゴッドか!?」

「そうよ。あれはそもそも、Zを別機に改装して出来たマジンガー。ZEROはZの負の面を具現化させた存在。なら、ゴッドは……」

「陽の面を具現化しているマジンガー!」

「ええ。ゴッドなら、ZEROを倒せる」

ゴッドマジンガーはグレート系の外観を持つが、Zの改装で生み出されし『魔神の神』だ。従って、Zのプロトタイプを依代にして行動しているZEROにとっては『自分の半身』に等しいのだ。ZEROがゴッドを前にすると、力が弱まるのは、ZEROの中にわずかながら残る善性を刺激するからである。そのため、ZEROがゴッドを攻撃しようとした際に苦しみ悶えたのは、その葛藤によるものだ。

「すぐ甲児に連絡取る!!ZEROめ、この世界は零に還させねぇそ!」

ZEROは世界を破壊する際の布告に、『零に還れ』という一文を好んで入れる。先程の幻視でも、その一文の宣戦布告と同時に、連合軍のガリア陸軍をルストハリケーンで大地ごと滅ぼした。ZEROは連合軍の全ての攻撃を受けても揺らぎもせず、グスタフとドーラの80cm魔導徹甲弾の直撃すら意にも介さなかった。この際にグスタフとドーラの護衛についていたブレイブウィッチーズは、拡散モード光子力ビームで大地ごと薙ぎ払われ、全員が未帰還になっている。緒戦であまりにも多くの有力な現役ウィッチを殺された事が、C世界でエクスウィッチを駆り出すに至る原因であった。


――そこに至るまでの大まかな経緯は、ブレイブウィッチーズとタイフーンウィッチーズが全員未帰還に終わり、泡を食った連合軍は、アルダーウィッチーズ、ミラージュウィッチーズも続くZEROの猛攻も失い、最後の希望のストライクウィッチーズに縋ったが、彼女らを以てしても、まるで歯が立たず、ミーナ、バルクホルン、ルッキーニ、リーネ、ペリーヌをたった一回の接敵で失ってしまう。最後の反攻は温存していたノーブルウィッチーズ、サイレントウィッチーズ、マイティウィッチーズを主軸に、エクスウィッチで人数合わせを行った。これが功を奏し、ZEROの全力でも、わずかながら生き残ったウィッチはおり、ZEROが黒江達を焼き払い、地球を滅ぼした時でも、黒田は生き残っており、世界の滅亡を見届けた。そのため、黒田の悪運の強さだけは、ZEROも因果律を操作できなかった事がわかる――



――この幻視は、宇宙に出ていた黒江から甲児に伝えられた。案の定、甲児は話を聞き、激昂。

『おーし、待ってろよ。この兜甲児様があの偏執狂野郎をボコボコに叩きのめしてやらぁ!!』

と、いつもの啖呵を切る。と、そこに兜剣造がやってきたのか、電話の声が代わった。

『中佐、私だ。今の話は聞かせてもらったよ。ZEROを倒すには、ゴッド一体だけでは不安がある。こうなれば、鉄也くんと大介くんから提案されていた計画を具体化させる必要がある』

『兜博士、計画とは?』

『我々はE計画と呼んでいる。グレートマジンガーの後継機種の立案と、グレンダイザーの改装プランだ』

『グレートマジンガーの後継機はわかりますよ?グレンダイザーはどうやるんです?セキュリティが……』

『大介君が乗った状態で手を入れるよ。それならば改装もできる』

『どこのエ○ァですか』

『しょうがない。大介君が乗らなければ、セキュリティが外れんのだから。改装後のグレンダイザーの名は、『グレンダイザー・ギガ』にする事が決まっている』

『あのぉ、なんでギガなんすか?』

『頭文字合わせてパワーアップが解りやすい言葉で選んでみた。今度の新マジンガーもマジンエンペラーGと決まったからな』

『エンペラー?カイザーじゃないんすね』

『カイザーがここのところ続いて、マンネリ気味だからね。意味合いは同じ『エンペラー』を選んだ』

その新マジンガーは『マジンエンペラーG』と名付けられ、既に資材確保が始まっていた。マジンガーの建造は一種の公共事業ともなるため、光子力研究所、新科学要塞研究所、宇宙科学研究所の三者のある自治体は多額の収入が見込まれる。そのため、3つの街はゴッドの建造以来、久しぶりに好景気にありつけるとばかりに、3つの研究所に協力。資材確保は容易に終わった。問題はマジンカイザーと同等かそれ以上の性能を確保するか、である。


『今回は資材こそ確保は出来たが、問題はそれをどうやって『肉付け』するか、だ。前回は思いの外、エネルギー制御に時間を食っただけで、外装の組み立て自体は早かったんだが』

『超合金Z系の外装をつけるだけかと思ってました』

『作りながら肉付けするから、後で部品の小型化に成功したら、それを取り入れる事もある。だから、スーパーロボットの建造は時間がかかるのだ』

――スーパーロボットはMSのように、『既製品』の流用があまり効かない世界である。そのため、スーパーロボットの運用は平時では嫌われる。量産型グレートマジンガーの開発が行われたのも、軍部の要請によるところが大きい。だが、スーパーロボットは軍艦に例えられるほどに整備性は悪く、『兵器』として見るなら『落第点』だと、ペリーヌ・クロステルマンは言った。(もちろん、ハルトマンにシメられたが)ペリーヌ・クロステルマンのこの言葉は波紋を呼び、スーパーロボットと言えど、量産型を作る事の意義が問われ、兜剣造は渋々ながら了承し、早乙女博士の後継者となった神隼人も了承した。だが、スーパーロボットの性能向上は凄まじく、マジンカイザーや真ゲッターの量産など、当然ながら不可能である。そこで脚光を浴びたのが、第二世代機のゲッタードラゴンなり、グレートマジンガーだ。隼人もネオゲッターロボ一機だけでは『防衛に不安がある』と感じたか、弁慶の帰還で『真ゲッターライガー』のパイロットに復帰すると同時に、流竜馬の平行時空での息子『拓馬』からの情報で、ゲッター軍団の結成に動き、ゲッターロボ斬の建造中であった。他にもゲッターロボ號の設計を流用した量産型の『ゲッターバディ』、『ゲッターGシリーズ』も次々とロールアウトしていた。それらは概ねグレートマジンガーレベルの高性能を持っており、拓馬から伝えられる形で『ハジをかく』=合体失敗=死という意味の隠語も伝えられた。また、旧ゲッターロボの改造案も敷島博士から提案され、別名『ゲッターロボ・カスタム』(ゲッターロボC)とされる、旧ゲッターロボの強化改装型も作られる。これはGの性能はじゃじゃ馬であり、操縦感覚のマイルドな機体を求めたパイロットからの要求に敷島博士が答えた結果である。そのため、竜馬達の専用機である真ドラゴンを除いた歴代のゲッターロボは、ネーサー基地に集まっていた――


『あ、こっちに真ゲッターロボを回すよう、隼人に言付けお願いします。遊ばせておくにはもったいない機体ですし』

『分かった。数日以内に隼人君から連絡を入れさせよう。しかし、大丈夫かね?あれは相当にキツイ機体だが』

『號たちに乗れるんなら、私達に乗れない道理はないですよ』

真ゲッターロボはその強大な力を御する事ができる者が、竜馬たち『初代ゲッターチーム』以外にいなかったので、事故後はネーサー基地へ運ばれたものの、事実上の封印措置であった。だが、二代目ゲッターチームが乗れた事を期に、運用を再開した。號達の搭乗時にはゲッタートマホークは使用できず、その代わりにゲッターサイト(サイズとも)を主用している。黒江は晩年期に真ドラゴンに乗っていたため、真ゲッターロボのフルポテンシャルを引き出せる自信があった。そのため、Gより圧倒的に強力な真ゲッターロボを欲するのは当然と言える。真ドラゴンの復活後は、黒江、智子、圭子、シャーリーらは真ゲッターロボのシミュレーター訓練を受けていて、竜馬らからしごかれている。このシミュレータだが、出来が良く、竜馬が『実戦を想定した悪条件にセットする』事もあり、三人は苦戦している。



――ある日、休暇を利用して、ネーサー基地でシミュレーター訓練を受けた時は、流石の三人もバテバテになるほどに疲労した。精神的にだ。竜馬がスパルタで鍛えるので、息子の拓馬が『親父、やり過ぎだぜ』と諌めるほどであった。竜馬は『ドラゴンだろーが、真ゲッターだろーが、俺たちゃ目ぇ瞑ってても合体できるんだよ』と言うが、それは竜馬、隼人、弁慶のみが辿り着いた境地であり、『そのレベルをこの子らに求めるなよ』と、帰還して間もない弁慶からも諌められている。

『シムじゃ死なねーから、本物で死ぬ前に仮想空間でタップリ地獄を拝んだほうが良い、俺らみたいにいきなり実戦なんて可哀想じゃねーか』

『あのなぁ。お前、サディストの毛があるぞ、リョウ。新人ってのは、気長に育てるもんだ。野球部でも〜』

『あいにく、おりゃ空手だったもんでな。一時はサッカーしてたが』

『お、お前なぁ』

『解ってる、精々計器板見ないで、お互いの相対距離と速度を掴めるくらいが最低ラインだろ?俺達や號たちみたいに、ゲッター乱舞をやれたぁ言ってないぞ』

弁慶は帰還後、パイロットの他に、『いない間に増えた後輩ら』の育成担当を隼人から仰せつかった。学生時代、野球部キャプテンだったためだ。

『お前なぁ。まぁ、俺達はいきなり実戦だったが……』

――ゲッター乱舞。デザリウム戦役前後に考案された、複数のゲットマシンで、敵の嵐系の攻撃を利用し、極超音速で合体を行うS級のマニューバである。極超音速で互いのゲットマシンを見失わないで合体を行うのは、ゲッターロボ乗りにとって至難の業であり、成功者は今のところ、二代の正式チームのみだ――

『あいつらみてぇなガキに、まだまだ真イーグルの椅子は渡さねぇよ。明日はエクストリームハードで扱いてやるぜwww』

『おいおい』

『ルナティックハードでないだけマシだぜ。これでも俺は優しいからな』

『どの口でいうんだが』

真ゲッターロボの操縦難度はシミュレーターで言えば、エクストリームハードモードに相当する。それに比べて、ドラゴンはノーマル相当と優しい部類に入る)真ゲッターロボは反応速度も運動性能、機動性もドラゴンの比ではないため、相当に操縦難度は高い。過剰性能と言われるほど、二機には圧倒的に差があるのだ。車で言うなら、ドラゴンは日本のスポーツクーペ『スカイラ○ンGT』、真ゲッターロボは『ラ・フ○ラーリ』ほどの差があると言える。そのため、当初からハードモードで竜馬はシミュレーターを起動しており、そこからエクストリームハードに上げて、より実機に近い感覚を養いさせるつもりとの事。







―この頃、日本では、2013年を迎えており、学園都市の侵攻をきっかけに、ロシアと戦争に突入していた。その時に、偶々、日本に部下を連れて旅行に行っていた小沢治三郎元・連合艦隊司令長官は一般人を装って、日本の海自の護衛艦の体験航海に潜り込んでいた。もちろん、私的な旅行なので、私服である。だが、事態の急転直下により、乗艦していた護衛艦がロシアの攻撃を受ける。ロシア太平洋艦隊の学園都市の攻撃に対する報復であった。小沢達はあくまで『乗客』を貫くつもりであったが、不運な事に、ロシア艦の攻撃により、複数の至近弾が発生。その際の激しい揺れなどで、艦橋にいた艦長が負傷してしまい、指揮系統に一時的な混乱が生じてしまうなど、小沢達も同情するほどの不運続きであった。自衛隊は正当防衛とは言え、現場レベルでの交戦の判断はし難いため、緊急事態を鑑み、小沢と、彼の長官時代の参謀達は身分を明かした上で、護衛艦の指揮をものすごく強引ではあったが、代行した。緊急事態に対応するための応急的な処置という事であるが、旧海軍の将官が『戦後自衛隊の護衛艦を指揮する』光景が出現した。この時に幹部食堂で、小沢達海軍高官と、海自の副長などとで会談が緊急で行われた。

『小沢治三郎。扶桑皇国海軍中将。元・連合艦隊司令長官である』

『矢野志加三。海軍少将。元・連合艦隊参謀長』

『同じく、菊池朝三。海軍少将。元・連合艦隊参謀副長』

海自側にとっては不思議な体験だった。防衛大学校卒生が海自の中枢に位置するようになって久しい21世紀に、旧軍の、それもとっくのとうに亡くなっているはずの『連合艦隊の中枢にいた高官が、一般見物客に紛れ込んでいた』というのは、それこそ海自始まって以来の珍事である。

「皆様方の事は『提督』……とお呼びすべきですかな?」

「すまんね、副長。驚かすつもりはなかったが、緊急事態故、身分を明かしたのだ」

私服こそ着ているが、仕事モードに入っている小沢は紛れもなく、連合艦隊司令長官に相応しい風格である。三人は海兵39期から45期の将官クラス。自衛隊側は防大が20期を超えたあたりの佐官クラス。小沢とは、生まれにおいて、おおよそ100年近い開きがある。(2010年代前半の佐官級は60年代末〜70年代前半期生まれの世代が多い)その事もあり、自衛隊側は緊張を見せる。自衛隊にとって、彼らはもはや、歴史上の人物なのだ。『太平洋戦争中の海軍将官』など、自分らの入隊時の高級幹部自衛官らでも見たかどうか怪しいほどに過去の人間なのだ。しかも、元将官級は70年代までに9割方死亡済みであり、将官最後の大物である新見政一中将も、90年代に世を去っている。なので、現実味がないのだ。

「提督方は何故、本艦に乗艦しておられたのです?」

「お忍びでの旅行だ。儂らほどの大物が公に動くと、何かとブンヤ共がうるさくてな」

「なるほど、分かります」

連合艦隊司令長官経験者(例えば、太平洋戦争で指揮を実際に取った者達)達は、日本のマスコミからの注目の的だった。その中で最も悲惨な事になったのが豊田副武大将だ。彼の代になると、もはや日本海軍は衰勢に入っており、連合艦隊が彼の代で有名無実化してしまい、司令部が陸へ上がっていた事、大淀が旗艦になった時、『おりゃ、どうせ戦死するなら、武蔵か大和のデッキで死にたい。こんな船の上ではいやだ!』と駄々をこねた事、レイテ沖海戦の際には日吉にいたことが集中砲火され、彼は鬱病寸前に追いやられた。山本・古賀・小沢に同情がある(山本と古賀は海軍甲事件と乙事件という最期を迎えている、小沢はもはや死に体の連合艦隊しか率いる機会が無かった)のとは対照的だった。『豊田くらいの代わりは、いくらでもいる』というのは、史実戦後の古村中将の言葉である。総司令が前線に出ることは、軍事的には意味がなくなった行為だが、日本人にとっての戦争の常識は『日露戦争以前のまま』であると言っても過言ではないので、謂れなき中傷を浴びたのだ。その事もあり、連合艦隊司令長官経験者は慎重な行動が求められていた。また、日本の一般人を満足させるためには、『大将であろうと、前線で指揮を取る』事が最善とされた事もあり、小沢の後任にあたる山口多聞は、最前線にいる。

「君らも知っておるだろうが、ブンヤ共の無知には手を焼いておるのだ、我々は。儂の後任の山口君も迷惑を被っていてな。大淀の改装が完全に済むまでは、大和型『信濃』で指揮を取っている」

「そちらでは信濃は戦艦なのですか?」

「我々は君らの知る『日本海軍』と違い、戦前から空母を多めに作っておってな。国力と戦力に余裕もあるので、信濃を敢えて改装する必要はないのだ」

矢野少将が言う。ウィッチ世界(A)においては、早期に雲龍型航空母艦が量産された事もあり、大和型戦艦は戦前からの計画通りに4隻が完成している。しかも信濃の造船途中段階で介入が入ったので、大和型は数度の近代化が行われ、甲斐はFARMT形態で完成している。

「軍事的には、陸で指揮を取ったほうが最善なのだが、君らのところのブンヤ共が『陸に上がるのは逃げている事だ』と書くので、山口君も艦で指揮を取らればならぬ状況が続いておってな」

「申し訳ありません、提督。我々は70年近く、戦争と無縁でありまして』

「まったく。連合艦隊司令長官っていうのは自衛隊で言う護衛艦隊司令と同じ立ち位置なんだが。海自も艦隊司令部、船越に陸揚げしただろう?」

「ハッ……。我が国は政治家も軍事音痴なものが多くて……」

この時期の自衛隊は財務省から目の敵にされていたのと、有事が起こる事自体が想定外であった事により、上に立つべき政治家が右往左往することによる損害も発生していた。軍事組織である分、自衛隊はまだマシで、開戦劈頭に海保は相当の損害を負っている。



――当時は前政権下であり、政権が『何かの間違いだろう』と海保に対応させたため、飽和攻撃により、相当数の艦船を失った。その中には、海保の有名船『そうや』も含まれており、海保はそうやをいきなり失ったせいで、批判の矢面に立たされた。あまりの損害ぶりに、団塊の世代を中心に、海保不要論に火がついたのも、この頃だ。親世代が戦前世代の者からは『旧軍みたいに、海自に組み込んじまえ』、『海自に全部、任務を負わせろ』という暴論まで飛び出した。海保は組織存続の危機と言わんばかりの慌てぶりで、旧軍駆逐艦の購入を急がせた。失った巡視船がそうや含め、ダース単位だったのも、ゴシップ記事のいい標的となったからだ。また、政権交代までに更なる損害を生み、第一管区海上保安本部、第二管区海上保安本部の巡視船の政権交代時の残存数は両方合わせても1ダースを超えるだけにまで減少しており、とても任務継続は不可能と判定された。ロシアの飽和攻撃に海保では殆ど対応できなかったのだ。海保が顔色を失うのも無理のない大損害であり、自衛隊と扶桑軍が共同で治安維持任務を代行せねばならぬ程のものだった。従って、凄まじい珍百景が出現したりした。密漁船を超甲巡が追っかけたりし、密漁者が腰を抜かした事もあった。何せ、菊の御紋を持った、大和型似の軍艦が大砲を振りかざして、密漁船を追いかけてくるのだ。密漁者は『たかが、さんごを密漁しただけなのに、戦艦で追っかけるなんてぇ〜!』と涙目であった。集団で来れば怖くない!と言わんばかりの船団できたら、大和型が主砲を指向させて待ち構えていた、などの珍百景が続出した。これには世界のネットで話題になり、アメリカ人の書き込みでは『ジャパンは、海賊退治にバトルシップを持ち出すのか????』、『あいつらは何と戦うつもりなんだ??』が見られたという――

「――さて、CICに案内を頼む。下手に君らが判断を下すと、野党がシビリアンコントロールだのうるさく騒ぐが、幸いにして、我々は『軍人』だからな」

自衛隊側は正規軍人である小沢達が羨ましかった。シビリアンコントロールを名目に、上からの指示がなければ、敵への応戦すらままならない(ただし、正当防衛であれば、指揮官の権限で可能)自衛隊に対し、軍人であれば、直ぐに正当防衛を理由に応戦可能であるからだ。(反撃までのタイムラグがない)この後、小沢は元々の水雷畑ぶりを護衛艦で発揮、見物客の事もあり、一撃離脱でその場を離脱する指揮を取った。その指揮は、旧軍の指揮官を侮っていた若手のインテリ派な幹部からも拍手喝采が起こるほどの鮮やかな指揮だった。

「伊達に水雷学校の校長だったわけではないよ。むしろ、今のは艦隊戦の初歩だ」

小沢は空母戦術の先駆者だが、元々の専攻は水雷であり、校長を務めた経験もある『水雷のプロ』だ。21世紀には絶えて久しい、水上戦闘のノウハウを知る(小沢もミッド動乱で得たが)者の優位性を示した。このニュースを信濃艦上で聞いた山口多聞は、呵々と大笑。『小沢さんも面白い事をやりおる』とコメントしたという。また、指揮艦として改装されていた仁淀は、改装後の公試運転の段階に入りつつあると、その艦娘の大淀から報告が入った。

「まだ移せんのか、大淀」

「はい。要員の慣熟に今しばらくの時間が必要なので、当面は本艦から指揮を取らればなりません」

大淀は指揮艦としての前世が反映され、眼鏡っ娘な秘書官な風貌である。

「うーむ。パフォーマンスは、当分続けなければならんか。戦艦に司令官が乗るのは、時代遅れと思うのだがな」

「仕方がありません。日本の皆さん方は指揮官先頭が正しいと思いこんでいますから」

「戦国の世であるまいし、やれやれ。市街地での量産グレートマジンガーと仮面ライダーJの戦闘といい、最近は怪獣総進撃でも流行っとるのか?」

報告電を見て、多聞は愚痴る。更に、信濃の上を通過する一つの魔神の姿があった。ゴッドマジンガーだ。黒江が呼び寄せたと報告が入っていた。

「黒江のやつ、ゴッドマジンガーまで呼びおって。何やっとるのだ?」

多聞は愚痴るが、黒江がゴッドマジンガーを急いで呼び寄せたのは、マジンガーZEROが世界を滅ぼす光景を『見た』ためなのだ。その『悪夢』はどこかの平行世界で確実に起こったであろう出来事。武子も黒江も、『非業の死を遂げた平行時空の自分のためにも』ZEROを倒すと決意しており、その希望を甲児とゴッドマジンガーに託した。その願いを受け取った甲児は『ZERO……Zの操縦者として、じいちゃんが俺に託した想いにかけても、お前を倒してやるぜ!!』と決意する。それは武子と黒江の切なる願いでもあるのだ。


――ディバインウイングを広げ、甲児は真の完成を迎えた、『Zの生まれ変わり』である『黒鉄の神』と共に、再びウィッチ世界に来訪した。破界神と過言ではない力を得た『零に還す魔神』を止める『守護神』として。ゴットの胸のZは『約束』なのだ。この世界を守るという、武子、黒江との……――



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