外伝2『太平洋戦争編』
四十五話『橘花の悲劇』


――地上では、「Z」の目覚めが控えていたが宇宙では、、武子が急性胃腸炎にかかり、寝込んだので、圭子が艦長席に座っていた。その頃、黒江は第二人格『あーや』となっており、主人格とは別人として振る舞っていた。その証拠に、ドスが効いていて『荒くれ者』感のある普段とは180度異なる、『可愛い女の子』然とした声色であった。これは黒江の根幹が表に出たためで、あーやとしては『普通の女の子』なのだ。(ただし、綾香としての闘争本能は、人格の変化で鳴りを潜めただけで、消えてはいない。なので、あーやであっても、二刀の聖剣は健在だ)


「うーん。あんた、腕の聖剣は使えるの?」

「うん。たましーに刻まれてるから、あたしも使えるよ、おねーちゃん」

智子の質問に答える『あーや』。聖剣は魂そのものに刻まれる力なので、自分も撃てるとハッキリ述べた。なので、この状態であっても『戦闘能力』そのものは同じという事になる。

「うわーお。うっかり艦を切らないでよ」

「わかってるって」

「あんた、『綾香』とはどういう関係?」

「どっちもあたし自身だよ、おねーちゃん。ただ、あたしのほーが本音をいってるかな?あやかは物事を取り繕うクセがあるから」

第二人格は実質、『他人』として振る舞っている。普段の自分である主人格に三人称を使っているのはそのためだ。ただし、同じ体を持つ事は自覚しているらしい節もある。

「取り繕う?」

「うん。こどもの時、おかーさんにいじめられてから、そうしないといけないって感じがして、あやかはそうしてきたの。だから、場を取り繕ろうとするんだ」

(はーん、DVからの強迫観念って奴ね)

記憶は共有しているようである。あーやとしては『第三者』的な物言いをするが、記憶は共有しているので、母へ複雑な思いを持つのは確定した。幼少期の強迫観念が成長と共に、軍隊での振る舞い方などに形を変え、『大事な人を守るんだ』と、いつしか見えない鎖となったらしく、それが『綾香』としての異常なまでの『強さへの執着』になったのだろう。つまり、黒江は自分で気づかぬまま、『精神の根底を守る』ために『あーや』を生み出したのだ。戦士としての自分と、本当の自分を明確にするために。

「つまり、あんたが本当の『黒江綾香』なのね?」

「うん。正確には、あやかがふだん、ひっしに隠そうとしてる『ほんとうのじぶん』だね」

あーやは黒江綾香という人間の根底が表に出たものなので、普段と違い、素直である。普段は上層部に口八丁しまくるので、それと正反対である。つまり、本当は正直な性格なのだ。軍隊で生きるため、口を回すように努力を重ねたのが分かる。

「でもさ、腕っ節は変わんないのね」

「うん。これは努力して、しゅうとくしたちからだしね」

あーやは精神年齢が幼いのもあり、言い方が可愛い。声色も、オクターブ単位で高いんじゃないかと思うほどにトーンが高いので、話し声が漏れても、それが黒江のものであるとは気づかない。


(アニメなら、演技変えてるくらいの変化ねぇ。別人に聞こえるわ)

智子も未来では、普通にアニメを見ているため、モノの例えがすっかり未来人になっている。そんな例えが出るほど、あーやと綾香は『差があった』。例えば、なのはが仕事でドスの利いた声を出す必要のある時と、ベロンベロンに酔っ払っている時くらいの差だ。

(なのはが仕事で相手を脅してる時と、リラックスしてる時みたいなもんかな、この違い)

意外な事だが、なのはAは成長後、声色を仕事と普段とで使い分けでいる。仕事の都合上、普段のキーの高い声ではダメな時が多く、意識してドスを効かせている。中学時代にその種の訓練を受けたらしく、声色の変化が出来るようになった。それは一時、演劇部とプラモ部を掛け持ちせざるを得ない状況に追い込まれ、そこでいくつか役を演じたからである。その成果により、低いトーンの声が出せる様になり、高校時代以後の仕事で大いに活用している他、Bと共にいた時は、区別のためにそのトーンで喋っていた。その事は当然ながら、智子は師匠なので、知っている。

「あんた、戦闘になったらどーすんの?」

「その時はあやか起こすよ。そういう時はあの子の出番じゃん。でも、眠りが深ければ、あたしが頑張るかな?何があるか分かんないし」

あーやは非戦闘時限定に等しいが、自衛のためであれば、あーやでも聖剣は使用可能であるらしい。なので、エクスカリバー使用時の口上も変わると思われる。この声であの『口上』は合わないだろうと、智子は思った。ただ、

「でも、あたしが起きてるのは、あの子が『寝てる時間』だったり、『リラックス』してる時間なんだ。聖剣撃つのは、寝込み襲われたりした時だけって考えておいて、おねーちゃん」

「分かったわ。聖剣自体は使えるってのも怖いけど。『綾香』は最近、『薩人マッスィーン』みたいな事になってるけど、あんた見てると、考え変わるわ」

綾香としては、薩摩の出身である事や、戦場で愉悦を感じるなどの阿修羅ぶり(綾香の存在意義が戦場なためでもある。)から、自衛隊からは『薩人マッスィーン』扱いである。しかし、あーやとしての人格を知ると、そうではないことがよく分かる。

「まぁ、その内にバランスとれると思うよ。実際、あやかも年月経つと、だいぶあたしみたいになったし」

「そいや戦争終わってしばらくすると、あんたみたいな事言ってたっけ……」

――50年代を境に、綾香とあーやの人格統合は始まる。あーやはゆっくりと統合されていき、2000年代までにはそれが完了する。坂本の死の際に号泣したり、坂本がケンカ別れした時に泣き崩れたのは、あーやの人格が統合されていった証拠である。特に、後者の時は、ショックのあまり、あーや色が色濃くなってしまったほどで、事を起こした坂本が狼狽したほどだ。

「うん。正確に言うと、60年代以降は、統合進んできてるから、70年代にもなると、あたしとの境界線は曖昧になってきてたんだ。だからさ、『みお』おねーちゃんがあんな事言うから〜」

「うーん。直枝から聞いたけど、あれはないわ〜。あの子も相当に謝ってるけど」

智子が話に聞いた、『それ』は70年代前期頃の事。当時、子供の事もあり、坂本は退役届けを出し、それが受理され、退役を待つだけになっていた。一方、当時は将官に昇進し、更に次期空軍司令に目される立場に登り詰めていた黒江は、その立場になっても前線勤務を続けていた。当時の坂本は、兼ねてからの計画を実行するが、『将官になっていながら、前線勤務にこだわる』事を喧嘩する大義名分に思いついたのが、最大のミスであった。それが『黒江の人気の一端』であり、若手からも羨望される理由であったからだ。その時の坂本の物言いが、これまでの労苦と、坂本自身への黒江の思いの一切を否定するものであったため、それを聞いた菅野が激昂し、殴打したわけだ。菅野の怒り度は相当なモノで、ついには、剣一閃(手刀)で坂本の軍服を切り裂き、喉元に切っ先を突きつける行為に及ぶほどだった。

「あれは坂本のミスよ。あれで決定的に自分の評価を落としたし、あたし達に敵対する派閥に付け入る隙を与えたようなモノだったもの。その後の人生も不幸続きだったって言うし……」

智子は嘆息した。坂本の人生最大のミス。それは、しなくても良いはずの『黒江との喧嘩別れ』をした事による、人生そのものの急転直下だった。間接的にルーデルやガランドと言った、自分が尊敬していた先輩たちをも批判していると取られてしまうような物言いだったため、坂本はその後、元ウィッチの集まりでも、その発言がもとで居場所を無くし、よほど気まずかったのか、その会を退会し、友人の大半すら失った、余りにも寂しい晩年期を過ごした。その事が大人坂本の『罪悪感』の根源であった。そのため、深層で青年期の自分と衝突を繰り返していた。大人坂本の逆行の理由は『自分の愚かな行いの阻止』と、『黒江への贖罪』である。それを実行すべく、青年期の自分から『体の制御を奪った』。その事は智子への連絡で明言している。

(あの子、多分、若い自分と衝突してるんだろうな。若い頃の坂本は、綾香があたしらに依存しているのをどうにかしようって考えてた。だけど、それは全て裏目に出た……。あの子は場の勢いで突っ走るのよね。芳佳の師だわ、やっぱり)

坂本は、その強い使命感が青年期以後の人生の要所で全て裏目に出たという稀有なウィッチだ。そのため、大人坂本が運命を変えようとしても、変えるべき箇所が膨大で、智子曰く『ハードモード』だ。そのため、坂本は今後、未来を変えるため、黒江への贖罪のため、厳しい綱渡りを強いられる事になるのだった。



――1948年にもなると、ジェットストライカーも矢継ぎ早に第二世代、第三世代を迎え、黒江達は未来から『第四世代ジェットストライカー』を持ち出すまでになっていた。が、その影で歴史に埋もれていった一機のジェットストライカーがあった。その名も『橘花』。扶桑皇国海軍が1943年頃から、カールスラントとブリタニアの技術援助で試作していた機体だ。本来、橘花は『高速過ぎて、制空戦闘には向かない』と判断され、『攻撃型ストライカー』としての開発が承認された。が、途中でメッサーシャルフme262が対大型怪異迎撃で戦果を挙げた事が報じられると、方針を撤回。扶桑初のジェット戦闘ストライカーにするべく、改設計がなされ、その仕様で試作されていた。が、1944年に地球連邦軍と接触し、未来技術情報がどんどん入って来ると、急激な技術の発展で、当初の仕様では『性能不足』になってしまい、高推力エンジンの制作に入り、取り付けたが、今度はより先進的な設計の震電改シリーズの登場で、機体そのものが旧態化したという悪循環に陥った。そのため、橘花の現用期間は極めて短く、343空/64Fでわずか一年ほど使われただけだった。これは艦載運用を考慮し、小型化しすぎた結果、燃料搭載量が、逆に大型化した陸軍の『火龍』の半分以下と、内部搭載燃料が少なかったこと、元々が攻撃用としていたのを、無理に戦闘ストライカーに転用した事による『機動力の不足』が原因だった。幻の高推力エンジン搭載型は反乱に加わった部隊で試験運用されていたのだが、当時には既に火龍でさえ、F-86『栄光』用のエンジンに載せ替えていた事による性能差が生じ、更に百戦錬磨の343空と相対した事で、殆どが損失。残存機も接収後は使用される事無く、64Fの倉庫で埃を被るだけであった。それが発掘されたのは、それから半世紀以上が経過した『2005年』の事。64Fがベトナム戦中まで使用していた基地施設の建て替え工事中に発見されたそれは、その当時には忘れ去られ、幻とされた『ネ20/マ型改』と呼ばれた最後の『純国産』魔導ジェットエンジン搭載機である事が判明したのだ。その性能は2000年代の測定で『時速780km/航続距離1000km/上昇限度12000m』と、黎明期ジェットとしては、まずまずの成功である。ただし、完成した時期が遷音速〜超音速時代に突入した頃であるので、『その性能は究極のレシプロや、ターボプロップエンジンで充分に代替が効くレベルでしかない事がネックになり、現用期間が極めて短かったのではないか』と後世で推測されている。同名の飛行機の方も同様の理由で、制式採用は見送られている。期待されつつも、開発の遅延と、より高性能な機体の登場で主流になり得なかった、と言うのは、兵器開発では、よくある事だ。

――1948年のある日

「これが橘花か。実物は初めて見た」

「博物館に送る予定のものだそうです。次の世代の機体がどんどん出て、いらない子になったみたいです」

「胴体内蔵式が主流になったから、結局、翼下懸架式は戦闘機じゃ廃れたしな」

なのはは職務代行の一環として、広大な基地の視察を行っていた。その一角にある倉庫に、橘花は眠っていた。倉庫で埃を被っていたあたり、『どうでもいいもの』とされているらしい。機体は完成状態であり、本当なら『制空任務』に使われるのが想定されていたのか、機銃用の穴が機首に設けられていた。

「戦闘機型か。武装はついてないのか?」

「えーと、書類に書いてあるのだと、制式採用が立ち消えになった時に、武装取り付けも取りやめられたそうです」

「なるほど。それで宙に浮いた機体だけが残ったか」

ひかりが書類を見ながら説明する。『試製橘花改・取扱』という海軍空技廠の説明書を読みながら。最近は兵器マニュアルも漫画の図解入りだが、橘花が採用を取り沙汰されていた時期は、未来情報が入りたての頃なので、まだ活字主体の旧態依然としたものだった。

「この機体の引き取りは?」

「長島飛行機が明日、取りに来るそうです。軍での使い道もないから、博物館に送るようで」

「今や、T-1が練習機で飛び交ってる時代だしな。こいつは哀れな機体だよ。普通に完成しても、陳腐化で飛べんとはな」

扶桑皇国空軍はジェット練習機に、旧型機を使用するのではなく、新造機を調達する方針となった。そこで、空自の第一世代国産練習機『T-1』を採用し、大量にライセンス生産を行っていた。これは技術系譜的に、橘花と火龍の子孫に当たるからで、長島飛行機がその任に当たった。一部の部隊では、レシプロを凌ぐ性能から、実戦機として使用した例がある。これは扶桑仕様では、強力なエンジンに変えられていたために出来た事で、扶桑が練習機であろうとも、『一線機の機数が不足なら、実戦で運用する』表れとされた。(最も、T-1は旧軍存続時の経験がある技術者達が設計したので、後任のT-4と違い、武装が想定されていたのもある)そのため、練習機として納入されながらも、紫電改と雷電の旧式化により、戦闘機に転用された機体も少なからず存在した。64Fは機材が豊富なので、そのような事は無く、むしろ、戦闘機として、70年代から21世紀序盤まで最強を誇った『F-15』すら持っているので、そのような行為をする必要は無い。

「時代が時代なら、量産されてたのかなぁ」

「おそらくな。こいつが作られ始めた頃は、ジェットは未知の分野だった。それで、その開花を願って、『花』とつけたんだろうが……」

「兄弟国に『花と散る』と誤解されて、誹謗中傷された挙句に不採用かぁ。可哀想ですね」

「しゃーない。桜花なんて自爆専用機すら、日本にはあったんだ。それと混同されたんだろう。ジェット戦闘機同士でドッグファイトするなんてのは、この時代の連中の多くは想像すらしてなかったしな」

「そうなんですか?」

「ジェット戦闘機が普及したら、自然にそれ同士でのドッグファイトも起きる。そんなの子供でも分かるはずなんだがなぁ」

なのははガンファイターである。そのため、この時代の軍人、とりわけ、ジェットの開発に携わる者への皮肉を口にする。自分が落とされ、更に連邦軍の軍歴を経たからか、時々口にする。(なお、仕事中なので、低いトーンの声で会話をしている)




――なのはの言う通り、航空技術関連は、一部を除き、陸軍の思想が主流となったので、海軍が独自に制作していた試作途中の機体の多くは闇に葬られた。例えば、次世代機を目された乙戦の閃電は試作中の機体がゴーストファイターとされたし、景雲はジェットに切り替えられ、烈風は最終的に連邦製のターボプロップエンジン搭載機が量産されたが、扶桑純正の機体は少数に終わっている。海軍系の攻撃機は唯一、連山のみが生き残り、ジェット化機が作られている。これは日本/連邦双方の介入により、空軍設立と、ジェット機に軸足を移す事が決定された際に、陸海軍双方の航空機がかなり整理されたためだった。その過程でボツになったものには『橘花』も入っていた。橘花のネックは『エンジンが胴体内蔵式でない』事。その性能に期待が持てないとされ、初期生産型が25機生産された段階であったのにも関わず、制式採用取り消しがなされた。従って、橘花は装備予定部隊が設立されていた段階から奈落に落とされた事になる。その代替機が震電改シリーズとされた事も、橘花装備予定部隊の憤激を煽った。その25機は結局、1945年9月のクーデター事件に使用されたが、その内の多くはドラケン部隊に捻り潰され、空の塵にされたという。その時の観測映像は、『ドラケンに容易く背後を取られ、逃げる間もなく撃墜されていく橘花』の姿で、その性能差が妙実に表れている様が克明に記録されていた。橘花の残った機体は皆、博物館か、倉庫行きであった。64Fで発見された機体は、その後に接収し、倉庫に入れられた『完成度98%の新エンジン搭載型機体』であった。しかし、橘花の設計では、推力が向上したところで『時速800キロ台』がいいところと概算されていたのもあり、接収後はそのまましまわれていたものである。その翌日、橘花の最後の飛行が行われた。パイロットは『志賀少佐』であった。テストパイロットでもあるので、操縦は出来たからだ。ネ20改エンジンを唸らせ、空を飛ぶ姿は『純粋な扶桑製ジェット機最後の光芒』と言えるものであった。これ以後、『他国の設計した戦闘機のライセンス生産』が主流になっていく事もあり、扶桑純正の戦闘機は震電の系統を残して、絶える事になる。震電改シリーズの台頭、他国産ジェット戦闘機の大量流入という、予想外の事態で、橘花は徒花に終わったが、扶桑にジェット機の風を吹き込んだ機体としては名を残し、軍事博物館でその余生を送ったという。


「ひかり。次の予定は?」

「えーと、残ってる人達の教導です」

「お前は明日だったな」

「はい」

「綾香さん仕込みの空戦を覚えろ。それと接触魔眼の応用をな。あの能力はあたし達魔導師にはないからな」

「はい。でも、デバイス使ってるなのは隊長代理とかのほーが凄いですって」

ひかりは魔力量が先天的に少ないので、それをやりくりする技術に長けている。そのため、魔導師のデバイスとカートリッジが羨ましいらしい。

「火力だけ有れば良いってものでもない。 情報や観測がしっかりしてくれなきゃ、砲撃なんて当たらないからね。だから、あたしも格闘戦を鍛えたのさ」

なのはは火力一辺倒を捨て、その代わりに空中戦闘機動を空自に行ってまで覚えた。連邦軍籍も少佐として未だ保有しているので、事実上、三足の草鞋を履いている。なのはの教導は、師である黒江や圭子譲りの厳しいものなので、早くも若手をビビらせている。しかしながら、黒江より教導の経験が長いため、適度な休息を入れる。そこが赤松に見込まれている点だ。(なのはは教導畑なため)

「さて、お前はゆっくりと休め。あとはあたしでどうにか出来る」

「分かりました」

――なのはは、こうして地上居残り組を鍛えていく。その甲斐あり、64Fの練度は平均で、『S級しかいないんじゃね?』と謳われるほど精強になるのである。また、なのは自身も戦場では抜群の戦果を挙げ、リベリオン本国軍の戦略爆撃機の大規模航空隊(300機)をディバインバスターでぶっ飛ばし、新京を見事に防衛した功で、扶桑から感状と金鵄勲章を授与された。陸戦でもずば抜けた働きを見せ、64F主力の不在を補うに値する働きを示した。
二つの世界の自衛隊、特に黒江のいる方の自衛隊は、扶桑で授与された勲章を持つ自衛官が一定人数に達してしまい、それが生え抜き組の不平等感を煽った。扶桑軍人出身者は金鵄勲章などの武功を称える勲章を授与されたりしているので、国交成立と同時に佩用が認められたが、生え抜き自衛官は退役後しか授与されない上に、一般人の勲章より下位の扱いだ。そのため、自衛官らはこぞって、扶桑への交換留学を志願し、武功を称える勲章を得ろうとするのが流行った。これが21世紀日本に叙勲制度の見直しを考えさせる機運となった。ウィッチ世界で得た勲章を佩用する自衛官が増加傾向にあり、学園都市の戦争の煽りで戦功を持つ者が増えたのもあり、危険業務従事者叙勲の対象を現役者に広げるのも検討された。これについては、武官の立場向上を嫌う、旧内務省系の行政府から異論が出たため、『検討を重ねる』とされたが、扶桑で授与された金鵄勲章は、議論の末、『外国の勲章』という言い訳での佩用が認められた。これは扶桑側への『ご機嫌取り』と、日本の左派からは文句が出たが、金鵄勲章そのものは日本の近代軍制の伝統あった武功を称える勲章である。金鵄勲章の佩用も1980年代後半に解禁されている。(一度は国家から公式に授与されたものであるので、その時に名誉回復は事実上なされている)それと扶桑では現役で運用されている勲章制度であるので、それに文句を言う事は『内政干渉』となるので、野党も文句はあまり言って来なかった。最終的に日本ではなく『扶桑の勲章』という枠で佩用する事は認められた。扶桑から高額の年金が支給される事もあり、金鵄勲章を戦功で得る事が派遣自衛官らのステイタスとなった。同時に防衛記念章も増設されたので、ある意味では『統合戦争への伏線』となった。(自衛隊が『軍隊である』と自ら認める事になるため、公的な法整備の大義名分を得た)


――なのはは、地球連邦軍で既に勲章を得ているし、時空管理局でも叙勲されている。それ故、本来であれば勲章を佩用できる立場である。故郷の世界の自衛隊では、当然ながら防衛記念章のみをつけている。これはのび太の世界と違い、表立っての接触がないからだ。

「なのは隊長代理は、どうして勲章の略綬とかをつけてないんですか?」

「ウチの世界の自衛隊と管理局は公的接触がないからね。金鵄勲章なんかつけたら大騒ぎで、下手したらクビが飛んじまうよ。戦後日本はとにかく、『経済さえ潤えばいい』って考えだったから、武官の叙勲は21世紀になってから、しかも定年で引退しないと貰えんものになっちゃったしな」


危険業務従事者叙勲制度の整備からして、2003年であるので、文官が戦後すぐに叙勲を受けられたとは対照的であるので、戦後日本は経済至上主義で生きてきたのが分かる。が、戦後生まれのベビーブーム世代が高齢化し、バブル経済期の終焉による空前絶後の不況で、『第三次ベビーブーム』の根が絶たれ、『不況である』ほうが当たり前となった結果、21世紀には日本は衰退期に入っている。のび太の世界の日本は、学園都市の存在による戦乱の勃発と、『接触』を期に持ち直し始めたが、なのはの世界では、災害続きでパッとしない状態だ。そのため、自衛隊員の給料は削減されており、現在のなのはの稼ぎの半分以上は管理局の給料と、連邦軍人としての俸給、ミッドチルダで出版した本の印税などである。

「一応、高給取りだから、税務署の申告は大変だよ。金額が大きいからな」

「そっちの価値でどのくらい?」

「一ヶ月の給料だけで、普通の自衛官の有に倍はあるな。本の印税も入るし、それ入れると、日本ででかい家が一件建てられるよ」

なのはは高所得層である。税金はきちんと納めている上で、なおも高給取りである。それを踏まえた上での発言だ。

「それと、綾香さんが空自でスピード出世できてるのは、同位体の人のおかげでもあるかな?」

「同位体の?」

「戦後に入隊した軍歴経験者の中でも大物だったし、それに精鋭で鳴らした64Fを事実上まとめてた経歴の持ち主で、自衛官としても空将補まで行った人が、綾香さんの同位体でな。それで、防衛省の制服組から人気あるんだ」

「あー、それならあたしもお姉ちゃんから聞いた話が。当時の陸軍が『下手な扱いできないから、最前線で使い潰そう』とか言って、黒江中隊長を行かせたけど、生き残ったから、505に行かせたとかなんとか……」

「あの人、めっちゃやらかしまくったから、飼い殺しも経験してるんだよなー。で、未来行かせたら、もっと凄いことになって帰ってきた、と来たもんだ。それじゃ」

「ええ。それじゃまた」


結果として、スリーレイブンズ伝説を『補強する』手助けをした陸軍だが、事変中の大暴れと、戦後のある事件で『手元に置いとけない』と警戒し、空軍へあっさりと送り出した。結果として、空軍の『主導権』を陸軍航空閥が握る事になったのもあり、この判断は英断とされた。なのはの言う通り、黒江の同位体たる『黒江保彦』陸軍少佐/航空自衛隊空将補は、戦時中、戦後に至っても、その武勇伝には事欠かない人物であった。従って、彼の立ち位置にいる『綾香』が空自で人気があるのは当然の成り行きである。ただし、驚かれた事がある。源田実と懇意にしている事だ。源田実の子飼いの士官は菅野直が有名だが、黒江は陸軍出身、源田は海軍なので、接点が見いだせなかったのだ。その理由は、黒江が『空軍設立の伏線を張るため』、扶桑海事変の段階で彼との関係を作り、『戦前から懇意だった』と歴史を改変したためである。もちろん、懇意であるということは扶桑海事変の真実も知っている事になる。源田はこれを『天佑だ!』とばかりに、黒江のコネを使って、山本五十六を動かし、空軍設立の準備を進めた。当初は『利用するつもりで』源田との関係を持った黒江だが、彼と話す内に心酔し、以後は源田の子飼いのポジションを確立した。菅野と似た流れで惚れ込んだ事になるので、菅野と仲がいいのも当然である。源田から見ての、彼女と海軍時代から懇意にした理由の一つは『敵を作りやすい自らの発言などを緩衝して言ってくれる』と言った政治的思惑が絡んでいた。空軍設立は大仕事であり、尚且つ古巣となる海軍航空隊の基地航空閥を敵に回しかねない大事業となる。事変当時に『陸軍航空士官学校卒者きっての俊英』と評判であった黒江を味方に引き込む事は、源田にとっては大きな助けとなる。そのため、黒江を味方に引き込むべく、事変中の段階で彼女の後ろ盾になったのだ。最も、事変末期の段階では源田も、黒江へ『情を持つ』ようになり、事変後、彼女が審査部で陰湿なイジメにあっている事を知ると、大いに憤慨し、自ら審査部へ赴き、猛抗議をしている。それがダメだと悟ると、山本五十六へ相談し、山本がそのことを『お上』へ上奏するという最終手段をも講じている。これが扶桑海戦後直後の陸軍航空に激震を与えた事件の真相である。

「さて、若手をしごくかな」

なのはは、ひかりと別れ、居残り組の教練の場に向かう。居残り組は飛行時間はそこそこだが、実戦経験が不足している。なお、服部静夏は『実戦経験はあるが、まだまだ』という評があるので、宇宙組には選ばれていない。従って、居残り組の中では最も練度が高いということになる。なのはは静夏とひかりを、『練度が最も優れる』グループAに分類している。64F主力と比べると、明らかに見劣りする練度だが、それでも他部隊の『A級航空ウィッチ』相当の腕を持つ。主力は『S級』とも言うべきバケモノ揃いであり、それに比すれば『常人』の範疇に収まるのが静夏とひかりである。なのは含め、彼女たちバケモノは『戦場を支配するに値する』力を持っている。64Fのレイブンオブウィッチーズの異名の由来は、スリーレイブンズ含め、過去に『戦場を支配出来る力を見せた』リウィッチが多数在籍しているからだ。精鋭部隊とプロパガンダされるに値する豪華な陣容と、最新鋭の機材、最高の整備員グループの在籍は、もちろん反発も多い。


――しかしながら、そうでもしなくては、ウィッチの年度志願の定数を確保出来ないという、現実的な問題ものしかかっている。リウィッチの確保は現役世代から反発が大きい。が、ウィッチの志願数は、圭子の映画の効果で回復に向かっているが、まだまだ最盛期であった1943年の水準には及ばない。しかも、憲法改正で10代前半の若年ウィッチの確保がほぼ不可能となった事で、志願数の回復は夢のまた夢と嘆かれている。64Fが大きくプロパガンダされている背景は、ウィッチの世代交代という、本来の循環サイクルが『人同士の戦争』で崩れ去り、更に、戦前からのエース達がどんどんとあがりを迎える時代が訪れたために、それを食い止めるため、未来技術に頼ったという『止むに止まれぬ状況』の緩和のためであった。現役世代とリウィッチ世代の対立は、この頃がもっとも激しかった一方で、現役世代は少なからず、敗戦に対しての人々の怨嗟を受ける立場である。その誹謗中傷に耐えられずに銃を捨てた者も多い。リウィッチは『ロートル』の誹りを受けながら、各戦線でよく戦い、戦線を支えた。その事実が、1945年からの数年に現役であった世代に劣等感を少なからず植え付けた。それは特に、リウィッチと現役組との間に練度差があった扶桑皇国軍に見られた。仕方がないが、40年代半ばの頃の扶桑皇国のウィッチ出身者の20代は『黄金世代』と呼ばれたほどに人材が豊富だった。スリーレイブンズ含めて、扶桑海事変の経験者であるのだ。その経験のアドバンテージの魅力が『リウィッチ計画』の根拠とされ、その被験者のスリーレイブンズは、当初に期待された以上の戦果をもたらした。その事が、リウィッチを受け入れる土壌作りとなった。そのため、64Fはその受け皿の側面もある。もちろん、扶桑海経験者の全てが強いわけではないが、新人の確保が難しい&現役者の中途退役が問題視されていた時勢では、『経験があるウィッチが確保出来る』ことは、大きな軍事的利点だった。その事もあり、各国は少なからずリウィッチを生み出した。それが最も多いのが扶桑であるという事は、扶桑の撃墜王達は、大戦前期に現役であった者が大半という事実の露呈にも繋がった。歓迎されるのか微妙な事実だが、扶桑は撃墜王たちを手元に留めておく事でしか、空の戦線を維持できなかったのだ。従って、そのリウィッチの受け皿となる64Fが強くなるのは必然であった。また、48年にはハルトマン世代もあがりを迎え始めるので、ハルトマンとマルセイユは、この年までに飛天御剣流を極めた上で、リウィッチ化を受けている。また、ISなどのパワードスーツを得て、ウィッチとしては引退しても戦う者も生じ、正に千差万別の道であった。――







――この年、陸軍士官学校・海軍兵学校は再編され、正式に扶桑皇国軍大学校に統合され、その中の指揮幕僚課程が軍大学校とされた。これは陸自・海自から、『中途半端な教育で、無能な参謀を生み出した』と批判があったため、自衛隊の指揮幕僚課程を参考に、幹部学校の高級幹部育成課程に相当する学校に再編した。なお、それまでの大学校はそれぞれ『大学院』に改変され、空軍部が開設された。しかしながら、戦時中の現役士官は陸自や空自に属し、該当の課程を修了している者も多かったので、開校の暁には、『卒業資格の授与』がされる事となった。黒江はそのクチで、空自で軍大学院相当の指揮幕僚課程を修了しているので、開校後に『卒業済み』と同等に扱われた。大改編は1946年から極秘裏に行われ、48年度の卒業生を各軍学校が任官したと同時に発表された。例としては、海軍兵学校は第77期の卒業を最後に、大学校/海軍幹部学校へ改編される。このように、自衛隊と交わった事で、軍隊の既存教育課程を疑問視していた吉田茂は、自衛隊式の教育課程に改変してしまう事で、国際見識が豊かかつ、質がいい士官を確保しようとしたのだ。ウィッチも原則、15歳からの志願と定められ、厳格な教育課程が制定された。これに反発する者は多かったが、連邦軍から『促成教育の士官は必要最低限のことしか出来ないから、兵站の議論も出来やしない』という文句も出ていたため、収まった。これは坂本より後の期の兵学校・士官学校卒者は『一年半にも満たない期間で任官に至った』ため、教育密度が坂本ら『クロウズ』世代よりも更に低かったため、自分の専門外の分野に無知だったのだ。これは世代が下ると悪化しているため、坂本や竹井のように『兵站に気を配る事が出来る』者は現役若手に近づくにつれ、殆どいなくなったという有様だった。兵站業務は殆ど、戦前期の教育課程を終えている世代の古参のウィッチ(リウィッチ)が従卒などを介して、物資を用意させたりしているほどに、教育浸透度はズタボロである。64Fでは、金子主計中尉のラインで、地球連邦軍/日本国自衛隊/時空管理局と強力なバックアップを獲得しており、二軍の航空隊で最も潤沢な物資供給量を誇る。が、最近はウィッチ用機材が消耗しており、黒江が合成鉱山の素を使うほどだった――


――なお、居残り組に芳佳がいないのは、出発寸前に、菅野がごねた&医療チームの補助に必要となったため、直前に連れて行かれたためである。そのため、居残り組で最も練度があるのが静夏/ひかりの二人なのだ。そのため、芳佳は医務室勤務であった――

――数日後、黒江(綾香)は、武子と、芳佳の扱いについて協議していた。医務室勤務にはしてあるが、MSをEXギア対応にして出すにも、一定時間の訓練は必要だし、芳佳の気質的に、反発が予想された。

「フジ、こうなったら真田さんに連絡取ってみよう。確か、トチローさんがあれの調整は続けていたはずだし」

「コスモストライカーを?」

「そうだ。宮藤の抵抗無しに宇宙出せるのって、あれくらいじゃね?」

「そうね……。芳佳は車の運転は出来るけど、MSとかの操縦はマスタースレーブ式でないと無理だろうし、コスモタイガーの後部銃座くらいしか、今は出せないし。かと言って、あの技量はもったいないし。真田さんに連絡取って。確かあなた、科学省長官室の直通回線の番号、もらってたわよね?」

「それに今かけてるとこだ、落ち着けよ。……真田さん?私です。実はあれの事で……」


『綾香』としての黒江は、即断即決の女である。即座に真田志郎に連絡を取り、コスモストライカーを回せないか相談する。真田は科学省長官であるが、有事にはヤマトの技術要員責任者に戻る。その兼ね合いで、軍艦に乗るという、ある意味とんでもな状態である。真田は技官であるが、ガミラス戦当時に士官学校を出ている軍人でもあった。そのため、科学省に行く際に軍籍は無くなったが、なんだかんだでそこからの出向扱いとなり、ヤマトに乗り続けた。そのため、軍での取り扱いは将官相当にあたる。これは連邦軍人が他省庁に出向する事がガトランティス戦後に問題視されていたのだが、デザリウム戦後、その兼ね合いで、真田は軍籍を放棄し、正式な所属を科学省に変えた。が、ヤマトのクルーに必要不可欠であるため、軍部が科学省を脅し、『有事にはヤマトに行かせる』事で落ち着かせた。科学省は軍部の影響から脱するため、真田を引き抜いたら、真田はヤマトのクルーであるのを誇りとしていたので、結局は軍部の間接的影響下に置かれてしまう結末を迎えたのだった。

「あれだったら、大山の奴に言って、君達の艦への定期補給便で遅らせよう。宮藤中尉用にはチューンナップしたものをこさえさせよう」

「ありがとうございます。あ、私達の分も。以前の戦闘データはあります?」

「コピーはしてある。製造に数日から一週間はかかるから、追って連絡するよ」

「お願いします」

ペコリと頭を下げるあたり、仕事中の日本人らしい仕草である。綾香としては『仕事人』なのが分かる。あーやとしての天真爛漫さとは別次元だ。

「確保〜!これで『ベンチウォーマー』を減らせるぜ!」

真田との電話を終えると、大喜びである。こういう時の仕草に、第二人格の影響がある。出撃ローテーションは、MS操縦訓練なり、VF訓練修了者をだしているために余裕が無かったが、これで全ウィッチをローテーションに組み入れられるからである。誰でも分かるようなガッツポーズを取るのは、憑依・改変前の戦前期の頃では考えられなかったが、現在では『全身で喜びを表す人』として有名だ。そのため、改変前より遥かに、リベリオン人の友人が多い。これはロックやポップミュージックを好む21世紀以後の日本人の感性になっているために、自然にリベリオン人と話が合う事が多いからである。あーやになっても、それは主人格と共有しているらしく、この時代の扶桑皇国人らしさは感性的な意味では、だいぶ薄れている。そのため、基地の自室には、オズマ・リー厳選の音楽オムニバスCDや、ランカ・リーが送ったポスターや、彼女の楽曲の収録アルバムが置かれているという、混沌とした棚になっていたりする。なお、CDは基地内のコンピュータに録音されており、隊員は隊内ネットワークでそれを聞く事が自由にできるが、ここで問題が起こった。当初は23世紀の音楽プレーヤーにかけ、一人で聞いていたが、それもちょっと何なので、デジタル的手段で隊内ネットワークにアップロードしたが、それが盲点であった。時代的に、デジタル機器を扱える者は少なく、CDをレコード用の蓄音機にかけようとする者もいたほどだ。そのため、基地の放送システムに繋げ、流すという手法を取らざるを得なかったとか。


――こうして、コスモストライカーを調達した黒江達だが、一つ問題があった。宇宙に主力を連れて行ったため、地上の部隊は実戦慣れしていない者たちが主体である事が問題になった。なのは、箒、甲児、コウ・ウラキなどのロンド・ベル在籍者、あるいは在籍経験者達の健闘が期待されたが、それとて限界はある。地上部隊はなのはら『エース』の後方に控え、戦場の空気を感じることから『教育』は始められた。この頃の戦場は、一気に第二次世界大戦からの米軍の『火力優勢ドクトリン』、『エアランド・バトルドクトリン』と、ドイツ軍お家芸の『電撃戦』が入り混じる様相を呈しており、機動力のある砲火力の一斉掃射と爆撃が交戦の合図になることが当たり前であった。ネットワーク機器のある一定の衰退で、戦場の様相は21世紀頃と比べ、数十年は退化した戦後冷戦期の頃に戻っていた。もちろん、MSの存在などの要素はあるが、既にネットワーク前提の戦では無くなっていた。(なお、携帯電話については、ミノフスキー粒子でスマートフォンは一気に衰退したが、薄型携帯電話は対策が施された形の流通で復活し初めており、2000年代前半に時計の針は戻った)

「これが……人同士の戦争なんですね…っ」

「これが『本当の』近代戦争だ。火線が兵士をなぎ倒し、火砲が兵士のいるトーチカを吹き飛ばし、戦車が疾駆する。これがこの時代の『戦争』のあるべき姿だ。よく見ておけよ、皆」

服部は、地上戦の様子が見える高度から、地上を俯瞰し、圧倒された。地上戦はまさに阿鼻叫喚の地獄である。陸戦ウィッチ達は、その矢面に立っている。M48戦車の機銃掃射を堪え、側面から複数で砲を浴びせる事で、沈黙させる部隊もいれば、M48の90ミリ砲の火力で散り散りになってしまう部隊もいた。自走榴弾砲の一斉掃射による先制砲撃は、空軍の弾着観測の支援もあり、かなりの精度を叩き出している。攻勢側のティターンズも驚くほどの命中精度であった。

「陸自の連中のキチガイ的訓練が役に立ったな。23世紀にゃいないからな、陸で遠距離からの砲撃を高精度で当てる砲手」

21世紀日本(のび太世界)の陸上自衛隊は、扶桑皇国が猛烈な抗議(作戦機密の敵への漏洩による大損害)を行い、日本政府に軍需・民需共に埋め合わせを強く迫った事で『海外派遣』名目で派兵されてきた。軍事的派遣に反対する声も大きかったが、『極悪非道に手を出していた』事に顔面蒼白になった左派の萎縮もあり、すんなりと決まった。言わば、『ナチス・ドイツに手を貸していた』くらいの衝撃が日本中を駆け巡ったのだ。ティターンズの暴虐無道ぶりは過去のアニメ以上のもので、核兵器による恫喝、マスドライバーの軍事転用などがセンセーショナルに報じられた。しかも地上で平然と行っているので、前政権の『知ったかぶり』の知識で扶桑皇国に甚大な損害を与えてしまった事に恐怖した日本国民は、一瞬にして『贖罪の意識に染まった』。同時に『エゥーゴ母体の現政権下の地球連邦軍』に全面協力することが閣議決定され、扶桑へは軍・民を問わず、膨大な資本が一瞬で雪崩込んだ。陸自の派遣は、その『償い』の一環である。これは自衛隊の任務の性質上、学園都市とロシアの戦争には陸自は必要とされる局面が少なかったのもあり、最も大規模である。北海道にいた陸自唯一の機甲師団『第7師団』は、学園都市の攻撃で仮想敵が弱体化した事により、敢えて北海道に置いておく意義は薄れた。だが、北海道で運用することを前提の装備も多く、実戦研修も兼ねて、旧式装備の譲渡・処分・新装備のテストも兼ねて、第7師団を中心にして派遣された。しかしながら、『重い』とバッシングされる90式戦車と言えど、本州での運用は想定されていないわけではないし、諸外国の戦車よりも軽いので、これは政治的アピールも兼ねていた。まずは『自衛隊唯一の機甲師団を送る事による、扶桑への誠意を示す』、次に『自衛隊の戦車は軽いのだ』と国内に示すこと。90式戦車は50.2トンの重さだが、連邦の61式戦車などは155ミリ連装砲の都合、90式より遥かに重い。更に二車線はないと走れない大きさである。技術の進歩による大型化の到達点と言える同車両の実物映像を見た、防衛省は腰を抜かしたという。何せ、155ミリ砲を連装で積むという発想そのものが『21世紀の常識』では大艦巨砲主義的なのだから。しかし、驚いたのは、それが『不整地でも90キロの速さで突っ走れる』のだから、常識がぶっ飛んだのである。

「しかし、61式って意外に『戦車の範疇』じゃ無敵なんだなぁ。でかくて、はやくて、つよい」

「ザクにバカスカやられる程度だが、ありゃザクが反則だ」

「ヒトマルだって戦車同士の撃ち合いなら平気でも、天井は下手したらバルカンでやられかねん所もあるしな。 そこへ低速とはいえ120mmなんて、一堪りも無いってもんだ」

自衛隊員達は、まさか自分達が『旧軍に酷似した軍隊や、地球連邦軍と轡を並べる』とは想像もつかなかったらしい。しかも敵が『米軍に酷似した軍隊を従えたティターンズ』という、SFじみた状況には戸惑っている。『連邦とティターンズが自分達の未来でアニメの通りに生まれ、ちゃんとティターンズは負ける』という真相も、部外者への箝口令を引いた上で知らされたので、戸惑っていた。連邦兵士に『自分の子孫がいる』事も珍しくないのだ。第7師団長も、その遠い子孫が地球連邦宇宙軍の重MS師団の長だったりしている。そのため、時を越えた出会いがあちらこちらで頻発したという。

「俺の遠い子孫がZZの派生型に乗ってやがってさ。驚いたよ」

「ZZの派生型か。アニメと違って、Z系が多く出回ってるんだな」

「バルキリーやレギオスが本当にあるんだ。Z系が量産されててもおかしくないさ。ダブルゼータだって、整備性抜きにした性能自体は高水準だしな」

自衛隊の知るアニメでは、TMSは整備性や製造コストの高等などを理由に、小型化が始まる時代までには淘汰されたとされていたが、実際は運用上の利点から、TMSは大量生産が行われていた。Z系だけでも膨大なバリエーションで、ZZ系も『ジークフリート』、『ファッツ』、『マッツ』(量産型ZZの制式仕様)などの派生型を生み出している。重MS師団はジークフリートを三機から五機程度保有し、護衛のZプラスを多数持つ。自衛隊にしてみれば、『ゼータク』だ。

「そのジークフリートさんのお出ましだぞー」

戦場に飛来するジークフリート。ZZガンダムをゲッターロボサイズに大型化した風体である。上空からでも目立つ事この上ない。内部に歩兵分隊が同乗しているのもあり、一機で小隊扱いである。それが三機であった。連邦の観測機の観測データにより、背部ミサイルランチャーを一斉掃射する。その威力は、陸自の一個特科大隊の砲撃が霞むほどの強大なものだ。

「あんなんやられたら、敵もウチの特科も涙目だな……」

と。陸自の幹部は嘆く。ジークフリートの強大さが際立つものだ。そして。

「服部。ジークフリートを見て、身震いするのは分かるが、もうちょいシャンとしろ。敵さんのお出ましだ」

上空で、なのはの護衛と観測役を兼ねていた服部静夏は、なのはの通信にハッとなる。(なのはAは仕事中、口調をそれらしいものに出来るという特徴があり、その技能のおかげで空自でも苦労していない)

「は、はい!」

「敵は海兵隊のコルセアを履いているか。高度の優位はこっちにある。各機、交戦開始!」

なのはは、高度の優位と、速度の優位を活かし、自分から率先して突っ込む。そういう点は黒江達の影響が大きい。なのはは、航空魔導師である故、航空ウィッチよりも機動の自由度では優位にある。また、飛行速度も並のウィッチでは追従も出来ないレベルなので、ヒット・アンド・アウェイ戦法を効果的に行える。レシプロストライカーが相手であれば、尚更だ。また、ルーデルの薫陶を受けているため、大火力をぶつけて蹂躙する事に幸福を感じる『イッちゃってる』面も持ち合わせている。この時になのはの戦闘を目の当たりにした静夏は、『あの人の真似ができる人がいたら教えてほしい』と日誌に書き残すのである。が、なのははこれで本気ではないどころか、ウォーミングアップにすぎないので、時空管理局の『威光』をウィッチ世界へ示す格好のプロパガンダとなるのだった。



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