外伝2『太平洋戦争編』
七十四話『まやかし戦争6』


――南洋島に入港した『ヤマト型宇宙戦艦』五番艦にして、『ラ級戦艦』ラ號。元々は超大和型戦艦(完成時。元は大和型四番→五番としての建艦であった)二番艦であり、大日本帝国海軍の最後の希望となり得る艦であった。正確にはヤマトタイプ宇宙戦艦の准同型艦となるため、姉妹たちの中では最も大和型の原型を残す上部構造物を持つ。修理の際に主砲口径は拡大されており、50口径51cmショックカノンへ強化されている。これはしゅんらんと同型のショックカノンであり、それをヤマト型の砲塔につけたのだ。また、同艦に使用されている波動エンジンは駆逐艦用の速度重視のものを複数持つ複合式で、新鋭超巨大空母用の機関のテストも兼ねている。

「あれが議会がやたら欲しがった『ラ級』の語源になったという大和型戦艦の末裔……。いつ見ても圧倒されますわね」

ペリーヌは港湾の見学に来ていたが、そこでラ號の入港を目にした。ラ號は基本的に大和型戦艦の設計を受け継ぐが、年月と共に強化改造がなされたため、色々な技術の集合体になっている。波動エンジン艦で唯一、重力機関を補助エンジンにしているため、グラビティブラストの発砲も可能となった。これは原型時のメイン動力炉を補助エンジンとして使用しているためでもある。(ただし、それは機密である。グラビティブラストそのものは大日本帝国海軍も重力炉を使用して出来ないかと目論んだが、全エネルギーを使用して、一射のみしか出来ないという試算が出たので、。流石に諦めている。波動エンジンがメインエンジンとなるように改造されたのも、その弱点の改良のためだ。)

「あれはいくつあるんでしょうか、ペリーヌさん」

「大日本帝国海軍の記録によれば、戦時中に日米英伊独仏ソの7カ国が建造を実行し、完成に至ったのが6カ国。伊は途中で放棄したらしいですわ」

それはイタリアが戦時中に計画したラ級戦艦の『インペロ』の事である。イタリアがラ級を作り出したのは1942年。降伏が1943年であるので、終戦時には船体すら出来上がっていなかった。降伏後、建造途中の船体はソ連に引き渡されたとする記録があるため、ソビエスキーの母体にされた説もある。実際に現れた『ソビエツキー・ソユーズ』は伊戦艦の影響を受けたような風体であるため、船体で無くとも、機関や艤装品を運んで組み立てたとも考えられる。また、ソビエツキー・ソユーズはラ級の中で最も単純な構造なため、技術不足だった事が窺える。

「少なくともあと5つは?」

「ええ。味方側にはガスコーニュ、インヴィンシブルがあるそうな。問題はフリードリヒ・デア・グロッセはバダンの手にあるだろうし、モンタナがどうなったかもわからないそうです」

戦勝国が作ったラ級は結局、往時を知るものらが死に絶えた事もあり、インヴィンシブルのみがフォークランド紛争の際に使用が検討された程度にしか歴史の表舞台には立っていない。ガスコーニュはド・ゴールの戯言と判断された事もあり、アルジェリア戦争という唯一無二の機会を逃した後は封印されたままであり、統合戦争終盤当時、現れたラ號へ対抗するべく、封印解除が検討された事があるが、その程度だ。また、噂だが、インヴィンシブル級航空母艦はフォークランド紛争には投入予定ではなく、担当者がラ級の存在を代替わりで知らなかったために送られたのではないか?という説がある。実際、当時の高官らはラ級『インヴィンシブル』の完成時には新兵だったりした者たちであったこと、最後の戦艦『ヴァンガード』も解体されて久しかったので、戦艦と思い至らなかったのだ。フォークランド紛争終結直前、ラ級『インヴィンシブル』の存在が知らされたのが、彼らの前任者らの提言に寄るもので、『戦艦があるなんて思ってなかった!分かってれば使った!』と前任者らに言い訳をした他、戦闘の損害に怒ったサッチャーにもそう答えたらしいとする記録もある。その後は使うべき『敵』の不在を理由に予備艦扱いで保存されており、ちゃんと軍籍に載せられたという。21世紀英国が戦艦をレンタルした本当の理由は『ラ級の乗員となり得る人員の確保』だったのである。後年の英海軍では『戦艦インヴィンシブルをフォークランド紛争に投入できたとしても、戦力として扱えたかは疑わしい』と判断されているので、ラ級の実力が忘れ去られたのが分かる。

「戦勝国が作ったのに、投入されなかったんですね」

「ダミーの計画のほうが後世に伝えられた結果、皆はそれと判断して、本当の計画を忘れ去る。皮肉ですわ」

実際はダミーの計画だった建艦計画は戦勝国にもある。ラ級は当時の重要戦力とされたため、ダミーの計画を防諜のために立てる事が通例で、英国の場合はG型巡洋戦艦を再利用したため、ラ級の中では華奢である。これはG級が戦間期当時の英海軍で優良艦だった故、ライオン級の資材を一部流用して造られたためだが、巡洋戦艦をベースにしたため、側面装甲はラ級で最も脆い。ベース艦が当時最新最強の艦型の改良型である他国に劣る点。それがベース艦の異様な古さである。ラ號やソビエツキー・ソユーズはそれぞれ、その国の最新最強の艦型をベースに発展させた型だが、英海軍は戦間期の未成艦の再利用と、ベース艦型が古いのだ。これは当時の英海軍造船部が保守的であった事、当時の最新艦型が微妙な出来である事を勘案した妥協案とも言えるものである。一説によれば、米国のラ級との共同戦線を前提にしたために単艦性能を低くしたとも伝えられるので、真相は不明だ。

「ペリーヌさん、あれの姉妹艦の購入を止めさせてよかったんですか?」

「良いんですのよ、リーネさん。今の海軍は『おもちゃを欲しがって、駄々をこねる子供』と一緒ですわ。国内の復興こそ急務だというのに、あのような買い物は身分不相応ですわ。それより、国内インフラを復旧させるほうが急務ですわ。自国での兵器生産も覚束ないのに、何がラ級ですの?まったく……」


後の記録によれば、ペリーヌは結果として、国内復興に尽力した英雄になる。当時、ガリアの国内インフラはガタガタで、ラ級どころではないのだ。陸軍兵力もガタガタで、戦間期戦車の『ルノーR35』、『ソミュア S35』が未だ現役なのだ。これでは近代機動戦は戦えないし、重戦車とされる『ルノーB1』も所詮は1930年代末の水準の重戦車である。それが戦後第二世代MBTに飛躍しつつある扶桑に招来、戦争を挑もうとするのだから、扶桑軍から見れば『へそが茶を沸かすぜ〜』と大笑いだろう。後の時代、アルジェリア戦争、インドシナ戦争では、扶桑から輸出された五式改二型が戦間期型戦車群を蹴散らし、なんとか対抗出来たのが当時最新の『AMX-13』空挺戦車のみという情けない様相を呈するのである。これが主力戦車『AMX-30』の早期配備に繋がるのである。この当時のガリアは怪異の長い占領で、質が良い鉱物資源が不足しており、いくらガリアの冶金技術でも、素材の悪さは誤魔化せず、徹甲弾が五式改の砲盾や車体最厚部を撃ちぬけない(質が悪い鉄すら使ったため、弾が割れる)事例が少なからずあった。ガリアの鉱物資源が回復するのは、国内インフラが回復した上で、コスモリバースを実行する1970年代を待たねばならない。

「ペリーヌさん。ガリアをどうなさるつもりなんですか?」

「本土を復興させることが急務ですわ。アルジェリアやインドシナなどの海外領土など、捨ててかまいませんわ。植民地経営の時代でもありませんし、帝国主義の時代でもありませんもの」

ペリーヌはガリア本土の復興のためには、海外領土の放棄も厭わない姿勢を見せる。高潔であるが、敵を作る言動なので、リーネが注意するが、既に身寄りのないペリーヌはまったく気にしない。これがペリーヌなりの愛国心なのだろう。





――そのペリーヌが話題にしたラ級戦艦だが、バダンの技術を出自にしているので、当然ながらバダンがその一隻を持つ。それは二番艦も作られており、バダンの恐るべし切り札だった。そのバダンから提供された重力炉と波動エンジンを使い、今、モンタナ級の改造が始められていた。ツインスクリューと呼ばれるドリルが造られ、外付けで波動エンジンが取り付けられていく。ラ級の新造ではなく、改造を選んだのは、ティターンズへのバダンからの援助がそこまでであったからだ。当時の試案を元に造られているが、彼らの技術が不完全であるが故の難点も発生している。ドリルを二つもつけるので、空中でのバランスが悪くなり、ドリルを回転させないで、全門を空中で斉射したらコケるのだ。これは改造中のシミュレート段階で判明し、ティターンズを悩ませ、米軍の設計センスを愚痴った。

「マッチョイズムのシンボル的に二個つけるなよなーアメリカ。おかげで大変だ」

とは、バダンの造船官の愚痴である。リベリオン本国軍人からは『敵が一つならこっちは二つだ!』と大受けだが、実用的な意味は薄い。第二番艦として、改モンタナ『リバティー』をラ級として改装する案も出されているのはその保険だ。また、モンタナの元設計には欠陥があり、ラ級同士の戦闘の場合のウイークポイントとして、喫水線下の装甲が脆いのが挙げられる。調査で『エネルギー伝達系の配置が不味い』事が分かり、この改善で工事の遅れが起こり、モンタナを改装して生み出す割には工期がかかる見通しとなっている。竣工と引き渡しは1951年の予定とされているが、更に一年は伸びかねなかった。代案としてのリバティー改装に脚光が浴びるのもこの頃で、リバティーが急遽、ラ級へ改造される。こちらは新規設計であったのが功を奏し、艦橋構造物や砲の流用こそあるが、実質的にはモンタナと同型ではない『新しいラ級』として生まれ変わる。ドリル戦艦という事で悪ノリしたか、ネルソン級のような艦型になったが、モンタナを上回る火力の確保には成功。就役は1950年5月となる。ラ號と互角の能力を持つ艦となった。ラ級としてはまずまずの成功作で、モンタナもリバティーのドリル配置を参考に再設計される事になる。

「リバティーを早々にドックに戻していいので?」

「構わん。予備はいくらでも用意できる。モンタナは遅れる見通しだ。大ヤマトやラ號に対抗出来るのは、もしかしたら『リバティー』だけかもしれん」

バダンの造船官は言う。モンタナが間に合わぬ際には、リバティーを以てして、『大ヤマト』、『まほろば』、『ラ號』の三姉妹相手に立ち回りを演じる必要があると。リバティーは米の戦艦技術の結晶となるべき艦である。それを自覚させようとする。リベリオンの本国人にはあるのだ。ここ10年近くも『世界最大最強』の座を欲しいままにし、異世界でも人類の象徴とされる大和型戦艦への強烈な対抗心が。ラ級の建造には膨大な資材が必要であり、バダンも増産に多大な年月を要したので、ティターンズを利用して造らせるという手段で増勢を狙っていた。そのため、盟約の条件に『ラ級を量産して与える』という一文があったりする。盟約の背景には、お互いに利害の一致があるのである。『宇宙戦艦ヤマト一族の撃沈』が。宇宙戦艦ヤマト。ティターンズにとっては『エゥーゴ系勢力の支配の正当化の象徴』、バダンに取っては『散々に煮え湯を飲まされた仮面ライダーらの祖国の象徴であった戦艦の後裔』。もはや私怨が手段化しているに等しいが、ヤマトという共通の敵で結びついた両者。これを聞いた菅野は『レインボーマンの死ね死ね団かよ』と大笑いしたという。が、ラ級を使われたのでは、並大抵の兵器では歯が立たないため、扶桑もついに既存戦艦をラ級に改造するプランを情報入手と同時に検討する。これは圭子の一度目の記憶にはないもので、二度目独自の出来事であった。象徴的意味合いと連邦の宇宙戦艦との混同を避けるため、大和と武蔵を除いたほぼ全ての戦艦が対象とされ、たが、状態の良い信濃に白羽の矢が立てられ、ラ號に次ぐ日本型ラ級戦艦として再誕する事になる。圭子は再誕なった信濃を『シ號』というコードネームで呼ぶことを提案し、採用される。連邦の宇宙航空戦艦との混同を避けるためと、ラ號との連続性を意識してのコードネームであった。信濃はラ號と同型に改造される事になり、極秘裏に南洋島の新設された地下シェルター内秘密ドックで改造を受ける事になる。


――赤松が翼を連れて行ってすぐの事――

「あれ?源田司令?どうしたんですか?」

「亡命リベリオン経由でとんでもない情報が入った。ラ級の量産だ」

「なんですって!?」

「今、連合軍の戦略会議の開催を要請してきた。ラ級を量産されたら一大事だ、直ちに連合軍はニューレインボープランを決議する事になるだろう」

源田が武子に言った『ニューレインボープラン』とは、リベリオンの『レインボー・プラン』をベースに策定予定の戦争遂行計画だが、原型と異なり、目的は連合軍司令部直轄の7つの艦隊を編成し、その艦隊旗艦にラ級を添えることである。問題はラ級のベースになる艦型の策定で、扶桑は当然ながら大和型だが、他国の一部はどうしても新規設計になるのは確実であった。これは既存の新鋭艦をラ級へ改造する事に現場が反対するのは目に見えていたからで、できれば手空きの艦を改造することが好ましいとされている。扶桑は信濃をベース艦に供する余裕があるが、亡命リベリオンには数少ない新鋭艦をラ級に供するほどに保有する戦艦の余裕がなく、代わりに差し出したのが、空母としてはもはや旧式化したレキシントン級であった。レキシントン級は単艦での亡命であるのと、エセックス級以後の世代の空母の登場とジェット機化で陳腐化している故、空母としての価値は低下していたので、白羽の矢が立てられた。これと鹵獲した旧式戦艦を材料(資材として)にしてのラ級建艦となった。戦略会議でこれらが決議されると、各国から資材となる旧式戦艦、もしくは余剰艦が一隻提供され、ラ級の資材とされた。

「今回の会議でおそらくは7つのラ級が生まれるだろう。連邦軍から重力炉と波動エンジンの提供が行われ次第、建艦と改造に入る」

「7つの艦隊を本気で?」

「仕方あるまい。向こうはレインボーマンの死ね死ね団よろしく、この南洋島と日本列島を目の敵にしているんだからな」

「れ、レインボーマン……。マニアックすぎますよ、司令」

「もののたとえとしては良いと思うがな。問題は敵のラ級の建艦までに揃えられるかどうかだ」

「リベリオンの建艦能力が?」

「あの国なら一年でラ級をも3つは作りかねん。それまでに7つの艦隊を編成し、奴らを追い込みたいのだ」

「ドックの稼働率は?」

「信濃と米艦用は稼働している。あと5つの完成を急がせている」

「この地下を掘削しているとは言え、大丈夫ですか?」

「23世紀のシェルター技術を使っとるから、51年には稼働出来るだろうと踏んでいる。この辺は幸いにも地盤が頑丈だ。地下に7つのドックを作れる」

「問題は……」

「リベリオンにどの程度、造船官が残ってて、どんな能力を備えとるのか、だ。いくらラ級を作れと言っても、建艦のイロハを知らんものに、あんな大艦は作れん。小沢閣下や山口司令もそれを憂慮なされている」

「向こうは意外に能力は維持されているようですが」

「うむ。だが、ラ級は波動エンジンを必要とする。そのエンジニアも必要なはずだ」

「私のツテで、調査を依頼します。数ヶ月もすれば詳細な情報が得られます」

「頼む」

――ラ級のリバティーとモンタナの情報が伝えられたのは、それから数ヶ月後のことである。それに安心した連合軍はドックの完成を急ぎ、レキシントン改造の『レ號』などの新たなラ級の建艦を1952年終わりをめどに建艦を開始した。リベリオンと言えど、ラ級の建艦は同時に二隻が限度。その情報に安堵した連合軍は黙々とニューレインボープランを進めていく。同時に連邦軍もジェガンの機種変更を急ぎ、ジェイブスをハイ、フォクシー/フリーダムをローとする新生ハイローミックスの構築を急ぐ。フリーダムは新規設計機であるが、フォクシーの手直しであるので、ジェガンのラインが使用できる。それが利点であり、フリーダムは瞬く間にジェガンを置き換えていく。攻め手である以上、三倍の兵力を全ての手段でかき集め始める連合軍。戦局が膠着状態の時に装甲戦闘車両の優位を確保せんとするティターンズ。双方の思惑とティターンズとバダンの日本への私怨。それが複雑に絡み合う。

「司令。この戦争はもう私怨になってませんか」

「敵は皆、連邦や日本に恨みがあるからな。ジオンは連邦、ティターンズは旧エゥーゴ、バダンは仮面ライダー達と日本。はっきり言って、もはや私怨以外の何物でもない」

「彼らの私怨の犠牲になるわけにはいきません。ましてや私たちは直接的な関係がない」

「そうだ。単に、日本の同位国であるだけだ。彼らに散々振り回された礼をしてやれ。たっぷりとな。ハワイは廃墟になるかもしれんが、そうでなければ、我々の生きる権利は得られん。白人至上主義が生きているこの時代、負ければ、奴隷同然だ。白人至上主義を失墜させるには、ハワイをアイアンボトムサウンドと飢餓の島にしなければな」

「会戦で何十万、いえ、何百万を殺す必要が?」

「100万単位は必要だろう。それと根こそぎ陸海空の抵抗力を削ぐのだ。東海岸に爆弾を落としてでもな」


源田は東海岸に打撃を与えてでも、ハワイを決戦場に仕立て上げ、そこで戦争を終わらせるつもりなのだ。そのためにハワイが石器時代に戻ろうとも。その作戦には自衛隊も動員する予定であり、黒江達にはそれまでの調整役を担わせるつもりだった。

「1955年まで戦争を続けていたら国が傾く。53年、最悪でも54年までにはケリをつけなくてはならんのだ、加藤」

「はい。分かっています」

扶桑皇国の戦争遂行能力は1941年からの長い戦争により、限界に達しつつある。本土を無理して攻めても、住民の強固な抵抗で追い出されるだろうという旨味の無さを勘案し、泊地を無力化していって、最後にハワイをぶんどるというのが扶桑皇国と連邦の戦略である。最も、本土をラ級で爆撃されたら終わりであるという危険性があるが、ティターンズは最近、正面決戦にこだわっているので、その危険性は低い。その危険性を減らすためのスーパーロボットのパトロールである。


「先のマスドライバー攻撃で、新京も被害を受けた。が、今の我々には耐え忍ぶ事しか出来ん。日本に愚痴ってもしょうがないが、技術をたんまりとせしめん事には腹の虫が収まらない者も多い。兵隊らも相当にストレスが溜まっている。本当は全員に休暇を出してやりたいが……」

源田の言うことは本当だ。日本から被った被害は見えるもの、見えないもの合わせて相当に登る。兵士が芸者遊びをすれば、日本の女性団体からケダモノ扱いされるとあれば、当時の娯楽が少ない兵士たちの鬱憤は貯まる一方だ。そもそも、当時の感覚では芸者遊びは高級士官や政治家、富裕層のお約束であった。それを無謀にも『ケダモノ』、『女の敵』と叫んだジェンダー団体は、日本/扶桑の京都と神楽坂の芸者達からの文句ですぐに駆逐されはしたが、兵達に後ろめたさを与える事になり、芸者遊びをする兵士の数が減ってしまったという。また、戦前の赤線などの制度も後世からの色眼鏡などでついたイメージから批判され、その当事者に『仕事を奪うつもりか!』と批判され、困惑する日本人も多かった。仕方がないが、戦後の倫理観は戦前の倫理観と相容れない点も多く、それが扶桑の混乱を招いており、統合参謀本部になったのも、大本営発表は嘘と宣伝されまくった事への対策なのだ。なにせ、暴動で軍の駐屯地に放火がされたほどであり、その対応を兼ねて、組織を変えたのだ。当然ながら、ウィッチにでもならない限りは『女子教育はある程度までで良い』とする扶桑の考えも攻撃され、新学制では大学までの門戸を開くこととなった。このような日本側の『後世の色眼鏡』で見たイメージからの批判と誹謗中傷と私的制裁は度を超えており、日本側が統制に動くのは、2014年の頃である。その賠償が21世紀頃の最新技術をほぼブラックボックス無しで提供したこと、自衛隊を大規模に送ったことである。結局、日本は扶桑へ対して行われた事の統制が取れなかった事への償いと称し、かなりの資金と軍事的援助を行う事となる。その援助が扶桑に1950年以後の戦争遂行力を与える事になるのだった。



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