外伝2『太平洋戦争編』
八十三話『開戦(二回目)』


――太平洋戦争は、未来世界のデザリアム戦役が終了後、21世紀で言うと、2017年にその戦端が開かれた。今回はリベリオン軍の大規模上陸作戦が奇襲的に行われる形での開戦だった。日本側が強硬に防衛戦からの開戦を望んだため、東部沿岸部の住民は開戦前の段階で疎開させている。そのため、上陸地点にいるのは軍隊のみで、撤退するのが前提の下、一定の抵抗を見せる扶桑軍であった――

「そろそろ撤退だ!各員遅れるな―!」

扶桑軍は南洋島東部沿岸部に多数のブービートラップを仕掛けていた。バダンとの交戦で学んだものの一つ。目につく全てに高性能爆薬をセットして去っていく。東部沿岸を守れるほどの兵力はないので、沿岸部を捨て、内陸部で戦線を構築するのが日本連邦軍の戦略だった。

「旧式装備の廃棄にゃちょうど良かった。これで新型の予算が出る」

「やれやれ。数年は耐え凌げってか?」

「そうだ。古い沿岸砲には自動で砲撃するように機械をセットしたし、戦車はラジコン化して、内陸部の司令部からコントロールしている。俺達がいるのは撤収の時間稼ぎさ」

「上はどういう戦略なんだ?」

「内陸部で戦線を張る。攻撃を受けたって事を示して、日本を本格的に戦争に巻き込むんだそうな」

「日本は最後まで政府としての公式見解の発表が遅れてたな?」

「野党が反対したそうだ。あそこの野党は平和ボケしてるからなー」

扶桑が開戦を覚悟した46年になっても、日本の野党は『平和的解決を』と叫び、リベリオン本国と敵対している亡命リベリオンの国家承認に反対するなどの醜態を晒した。『リベリオンがヘンリー・ウォレス政権ならば、亡命した彼らこそが好戦主義者である』とまで宣ったほどだ。評議会で、ある扶桑の議員が『日本は北方四島といい、竹島といい、侵略を容認する国なのだ。 この連邦は失敗だな、このままでは』と述べ、日本側に大紛糾を巻き起こし、日本の過激派がその議員を暗殺しようとするまでの騒ぎになった。左派は日本連邦の結成で、日本の経済や政治力が持ち直し始めた事により、その存在意義を失い始めている。そのため、過激派を容認しない姿勢は見せなくてはならないと考えた。しかし、彼らの手を離れた過激派は暴走し、扶桑側のある貴族院議員を誘拐して殺そうとした。日本警察はそれを未遂で阻止。日本政府はこれを理由に過激派の摘発に乗り出した。また、ある左派政党との繋がりが明らかになり、数年前に制裁されていたはずの韓国のみならず、北朝鮮の暗躍も明らかになり、これを機に、日本は憲法改正に手をつけ始める。とりあえずは自衛隊の憲法明記などで第一段階を踏む事にし、日本連邦軍への参加に、憲法の裏付けをつけようとした。その時に大義名分とされたのが、日本連邦軍での日本国自衛隊の政治的立場だった。自衛隊はダイ・アナザー・デイ作戦での背広組の失態もあり、微妙な立ち位置だった。背広組はウィッチへの無知から、あきつ丸で前線へ輸送中の黒江達の交代要員を扶桑へ帰国させてしまう失態を起こした。事が判明した後、総理大臣が防衛事務次官を叱責し、黒江に『君の権限で、できるだけ呼び戻してれたまえ』と告げた。その決定により、ダイ・アナザー・デイには、予定よりだいぶ減ったものの、黒江達の交代要員となるベテランウィッチが参陣して戦果を残した。(呼び寄せられた者達は、レイブンズの第一次現役時代の部下達である)また、参陣予定だったが、帰国させられた者にはかなり高額の慰労手当を出し、従軍記章の着用を認めるなどの措置が取られた。この『あきつ丸事件』以後、防衛省は黒江達の事を『強さ故に交代要員を教官級からしか引き抜けない』と学び、恐れていく事になる。なぜ恐れたか?背広組は教官級を前線に送り込む事=切羽詰まっているとの認識だったが、実際は『並のウィッチでは交代要員にも出来ないから、教官級を出した』という事が驚きだったからだ。黒江達は素人目から見てさえ、超がつくほどのハードワークをこなしており、交代要員を送り込もうとするのは当然だった。それを思い込みで潰しかけたので、過労死問題がピックアップされていた2016年からの日本の風潮もあり、スキャンダルを恐れた防衛省は高額な慰労手当を支給するのを評議会で後押しした。また、帰国させられた者達の名誉や体裁を守るため、地球連邦軍が日本の防衛事務次官を説き伏せ、ミデアで再度送り込み、戦線後方に降下させて一定の働きをさせた。(作戦後、その事務次官は更迭されたとか)そのため、背広組は失態を重ねた責任を取らされ、日本連邦軍としての協議への参加資格の一定期間の停止がなされる事が検討されるほどの失態であり、担当官は省内で更迭されたという。これは背広組に『日本連邦軍は本格的な軍隊である』という意識が薄く、旧軍の将校達の同位体らを無意識に見下していた事が明るみに出たためだ。また、『並み居る軍人を跪かせ、自分たちが文官として主導権を取らなければならない』という過剰なシビリアンコントロール思考も、一連の失態に影響したのかもしれない。

「――日本の防衛省の背広着た人達、色々と失態犯して、赤っ恥さらしたそうだ。おかげで奴さんがこっちをコントロールしようとするのが収まったって」

「奴さん、こっちの事情も知らないで、色々と口出ししてたからな。横空にいた俺の姉貴なんて、橘花の『特殊戦闘機』区分にケチつけられて、けなされたとか怒ってたし」

「ああ、特殊な航空攻撃や防空に使うから、特殊なんであって、体当たり攻撃に使うわけじゃなかったのにな。ジェットがプロペラを駆逐するのは本来、20年位後を見込んでたし」

扶桑では、ジェット機がレシプロに取って代わる存在になるのは、本来、60年代以降を見込んでいたため、ジャンルの開花を願い、『花』が付く名を関していた。しかしながら、日本での記録では、体当たり攻撃専用の『桜花』が使われていたので、橘花も誤解されて嫌われてしまった上、肝心の性能水準がシュワルベより低いと思われたのもあって制式採用されず、肝心のジェット戦闘機としても、遥かに高性能の旭光や栄光にその座を奪われ、歴史の闇に消えた。機体は日本の博物館が引き取り、動態保存状態で展示物になったという。また、一回り大型で、既に一部は陸軍系部隊に配備されていた火龍も、開戦までには引き上げられ、プロパガンダとデモ飛行で大戦中は過ごすことになった。

「で、ジェット機も一緒くたに区分に入れられたから、航空畑の連中は書類の書き換えやらで、開戦までの数ヶ月は忙しかったらしい」

「本当か?空の連中も大変だな」

「俺達も楽じゃねぇぞ。今までの軽戦車が豆戦車、チハが軽戦車だぞ?どうなってる?」

書類上だが、陸でも、九五式軽戦車や九七式中戦車は『軽戦車』に再分配された。これは扶桑では後発戦車の整備が進み、主力戦車がかつての重戦車よりも重量級になった事、かつての顔役の九五式軽戦車が引退し、中戦車級が一線戦車になったからだ。これは戦車教義が数年で『軽戦車こそが主力であり、中戦車はそれを補完する存在』→『バランスに優れ、部隊の主力となるのが中戦車』に変わったことでの変革である。また、求められる備砲も47ミリ→75ミリ→90ミリ→105ミリ砲に急激にランクアップしている。これはバダンとの交戦でチヌ、チトでは重戦車に勝てず、砲戦車を必要とした戦訓によるもので、その五式砲戦車も現在は120ミリ砲を積んだ改良型へ移行している。

「新型の61型だが、ありゃ実質的に戦車駆逐車だからな。前面装甲は強化してるが、敵の新型には危ない。次の74型待ちだ」

「お前さん、確か機甲科だっけ」

「そうだ。前はチヘに乗ってた。本土の教官だったしな」

撤退する部隊の将校たちは口々に話していた。新型兵器を供給された部隊はミッド動乱で戦功を上げた高練度部隊が優先され、彼らのような本土からの抽出部隊は旧式兵器主体であった。これは扶桑には『後方である本土には旧式兵器を置いてればよい』という前線至上主義的なドクトリンがあったのもあるが、戦略上、パットンやパーシングなどの、扶桑軍の大半の装甲戦闘車両より強力な車両の大量生産を遅らせる意図があった。扶桑の新型装甲戦闘車両の中には、ブリタニアから供与されたセンチュリオンも含まれているが、それらはまだ慣熟訓練中である。ブリタニアは最新式戦車である『センチュリオン』の後継を早くも決定し、それの実現に向けて邁進する事になる。これはバダンとの戦闘で戦車同士の機動戦がこれからの陸戦の勝敗を大きく左右し得ると判断してのものだ。ウィッチの万能性がティターンズの技術加速で消え失せ、また、運用する利点が以前ほどでなくなった事もあり、陸戦ウィッチは主力戦車の護衛部隊という形で生き延びる事になる。空戦ウィッチも、それまでの12.7ミリ機銃一丁から二丁、あるいは無誘導ロケット弾、対戦車ライフルでは、ジェット機には当たらないか、無意味である事から、加速度的に重装備になっていく。この時期から、特に問題視されたのが、B-29以降の重爆をどう落とすかである。最優秀部隊たる64Fでは、『M134ミニガン』をジェットストライカーで運用する策が取られていた。これは手持ち武装に最適化したモデルを二代目レイブンズの時代から持ってきて使うという反則技を用いてのものであった。もちろん、二代目レイブンズの時代では、技術の進歩で軽量化と更なるコンパクト化がされており、ウィッチならば、片手での保持と発砲が可能になっている。これは二代目の時代は基本的に『平和』であるがため、訓練以外にやることもあまりないので、初代である綾香達に大々的に協力しているという事情で実現したことだ。これは空軍の規則に『部隊の装備は予算内で部隊の責任で調達する』という事が書かれていたからで、それ故、主力とされる以外の航空機を有する部隊が多く存在する。黒江達はそれをウィッチ装備にも適応したわけだ。他部隊はウィッチ装備にまでは適応しなかったが、黒江達はそれを実行したのだ。それも自分の子孫の力を借りて。これはGウィッチ/Fウィッチの受け皿になっているからこそ許された事でもある。

「聞いたか?空軍の64。かなり予算豊富らしいぞ?」

「あそこは七勇士の主力だった連中が看板だからな〜。空軍の部隊装備費の三割はあそこの維持費用だっていうぜ?」

「本当かよ」

「空戦ウィッチは連中の威光で軍に残ってるようなもんだしな。自衛隊のMATに六割が移籍していったから、軍ウィッチは立場的に弱いのさ」

「ああ、あそこ人気だもんなー。今までの任務を気兼ねなくできるから好評でよ。俺の従姉妹もあそこに入ったよ」

当時の時点では、MATに移籍していったウィッチ達が多数派だったので、軍に残ったウィッチは物好きと笑われる風潮があった。しかし、MATは怪異退治に特化した部門であるので、出動機会はあまりない。この戦は人類同士の戦争であるからだ。

「軍に残るのは物好きだって言うが、やることあまり変わんねぇはずなんだがね」

「そういうな。軍に残ったのは、ウィッチの枠を飛び出したり、英霊の生まれ変わりの連中だ。変な事言い出す連中が出ていってくれた分、むしろこっちのほうが利益かも知れん。気兼ねなく上は作戦に組み込めるだろうしな」

MATは自衛隊の一部門なので、早期退職もあり得るが、軍はある一定の地位に出世すれば、60歳まで雇用は保証される。そこの点で軍隊は有利だ。自衛隊は尉官で54歳定年でやめる者が8割(黒江は空将になったので、60歳までは自衛隊にいる事でもある)なので、60まで国に奉職する事は珍しいケースである。

「海軍はどうなんだ?」

「当分は大和型や超甲巡を通商破壊に使うそうだ。これは日本側の意向でもある」

「どうして主力艦をそんな任務に?」

「艦隊決戦やるにも土壌を整えてから、だそうだ」

日本側の背広組の一部は空母以外の大型戦闘艦を主力艦とはこの時期は見なしておらず、通商破壊に大和型を使用する案を提案して、実行させていた。これは戦艦や超甲巡などの戦闘艦を『イージス艦や空母を守るための弾除け』としか見なしていない者がいるからで、海上自衛隊の現場では、近代化された立派な戦闘艦を通商破壊に使うなど!という反発が強かった。これは背広組に、対艦ミサイルの進歩で『如何な戦闘艦の装甲も撃ち抜けるから、戦艦は時代遅れの消耗品』という考えがあったせいだ。実際には、宇宙戦艦の技術で装甲が作られているため、21世紀のどんなミサイルも耐える。その実証のため、米軍の協力でF/A-18から空前規模の数のハープーンミサイルが大和型『武蔵』へ試射される実証実験が開戦前に行われた。武蔵へ打ち込まれたハープーンミサイルの数は、アメリカ軍関係者をして、『アイオワ級も余裕で海の藻屑にする数だぜハッハー!!』と自慢するほどの火力を発揮する80発。アルファストライク(空母の全力攻撃)想定、一隻分全機攻撃装備の想定である。ミサイルが武蔵へ殺到し、大爆発を起こした際には、海の藻屑になると造船関係者も思っていた。だが、爆煙が晴れると同時に、武蔵が健在である事に誰もが瞠目した。21世紀型空母の全力攻撃に耐えたのだ。しかも主砲、機関などの主要部品には損傷なしで、航行に支障なしで。21世紀の者達は『あり得ない』と口々に言う。ミズーリすら海の藻屑になる量を浴びて、何故、船体に破孔一つないのか。21世紀最強の水上での攻撃オプションに耐えきるという事は、潜水艦以外に撃退は不可能という結論を改めて、21世紀の関係者に下させた。この防御力の秘密は、船体の素材が宇宙戦艦に使われる強化テクタイトと超合金の複合素材に変えられた事と、ピンポイントバリアが艦橋などに張られていたからだ。23世紀のテクノロジー満載である事は秘密だが、戦艦の地位の復権(日本で)に大いに役立った。武蔵はこのように、実験艦的ポジションにあったので、そのまま日本とアメリカの提案で後部の飛行甲板を耐熱仕様に強化し、垂直離着陸機を運用する航空戦艦に改造され、アメリカの厚意で提供されたF-35Bを試験運用したという。

「で、航空戦艦にした尾張と駿河、武蔵はそのまま通商破壊へ?」

「そうだ。今頃は駆逐艦引き連れて、輸送船団を襲ってるだろうな」


開戦までに航空戦艦化した三隻は『遊撃艦隊』となり、超甲巡三隻、甲巡二隻、乙巡二隻、駆逐艦一五隻、護衛空母となった雲龍型二隻を従え、通商破壊に出ていた。通商破壊任務の艦隊にしては大規模であるが、これはラ級建造を悟らせないためでもある。また、駆逐艦には海自護衛艦型が四隻含まれており、護衛隊の能力の一端を担っていた。これこそ、扶桑と日本が40年代の内の防御の時期に活用する部隊となり、プロパガンダにも使われる。この艦隊は『木村昌福』少将と『草鹿龍之介』少将が率いており、その神出鬼没ぶりと、武蔵の51cm速射砲による強力な火力から、水上打撃部隊に恐怖を与えていく事になる。また、他の大和型戦艦、超大和型戦艦らは各所で待機しており、当面はそこで睨みを効かせる。彼らが恐れるのはラ級のみ。バダンの主力艦隊も一目置くほどの陣容だ。大和、信濃は横浜待機、甲斐、三河(新たに竣工)は横須賀である。播磨以降の超大和型戦艦は整備中である。大和型を急ぎ、一隻新たに増勢したのは、戦艦の戦隊を三隻体制に移行させたい海軍の思惑と、ローテーションに余裕を持たせたいからである。戦時体制移行に伴い、予算が増額したのもあり、扶桑海軍は純粋な戦艦だけでも、おおよそ10隻を有する史上最大規模に膨れ上がっていた。これで国を回せるのだから、日本帝国よりかなり国力がある証明である。これは旧式艦/旧式機の売却、地球連邦からの多額の補償金、連邦化による日本との交易の利益で経済が潤っているからでもあるが、南洋島で資源を自活できるのが大きい。これにより、燃料不足に悩む事はないし、砲弾の製造能力を気にする必要もない。

「これから戦争は何年も続く。事変のように一年という短い期間ではなく、10年近くは続くだろう。相手はリベリオンだ。艦隊を年単位の時間があれば再建できる。大昔のように、一回の艦隊決戦じゃケリはつかない。ハワイあたりに我らの旗を立てて、手引くのが精一杯だろう。俺達にリベリオン本土を占領できる力は無いよ」

「ハワイを取るって、お前。あそこは敵の一大基地だぞ?」

「やるしかない。今すぐ使えない大陸領土より、ハワイからジョンストン島、ミッドウェイの制海権を取って占領した方が魅力的だと思うぜ?」

「しかし、敵の懐にいくようなモノだぜ?」

「上は大陸領土よりも、ハワイをぶんどって、敵を本土に封じ込めるのに全力を使うつもりだろう。大陸を使えるようにするには何十年もかかるが、あそこなら、すぐに使える」

彼らの間でも、ハワイ占領で戦争を終らせる目標が噂になるほど、扶桑軍は明確な戦争目的を持っていた。扶桑は『東西冷戦になってもいいから、ハワイは分捕る』という最終目標を掲げ、戦争を遂行し始める。ハワイを占領し、和平交渉を行う。『今回』の太平洋戦争の最終目標であった。



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