外伝その312『日本軍の残光4』


――光子力とゲッター線。超エネルギーとして研究されてきたが、光子力は大規模開発に富士山掘削が必要なための政治的理由で、ゲッター線は意思を持つ上、高濃度のゲッター線事故が発生した場合のリスクが理由で新エネルギーになり得なかった。核エネルギーよりも強大な力を持つ利点から、エネルギー化研究が頓挫した後も、マジンガーとゲッターロボの動力という形で生き永らえていた。ことはは20年の歳月をかけて自己を鍛錬し、元々が大地母神であった事もあり、智子と黒江に次いで、光子力の制御に成功した。プリキュアでは最初に、Gウィッチの本領と言える領域に踏み込んだのである。それに続く者を見出すのも、光子力とゲッター線に先に見出された者の役目であった――




――艦内――

「うし、今日は実技はここまでだ。午後はビデオを使っての講義だ。午後一時半に艦内の視聴覚室に集まるように」

黒江は艦内で格闘の実技練習をプリキュア達に課しつつ、軍事知識を『仕事で不自由しないくらいの』水準にまで押し上げるために、飛行訓練をしない日であっても、視聴覚室での講義などを課していた。軍人である以上、それらしい事を覚えさせなくてはならないからだ。転生先が職業軍人である者は少なくはないが、ラブやりんのためでもある。

「さあて、みゆきちゃんといちかちゃんの作ってるメニューを食べに行こうっと〜」

「そいや、いちかは炊事に回されたんだったな。みゆきは前線要員と兼任だけど」

「あの子は本職がパティシエだしね。普段は炊事担当にさせたほうが向いてるもの」

「それもそっか。海軍の炊事はどうなってたっけ」

「陸自は一部が外部委託になったが、海自は炊事担当がまだいる。扶桑は徴兵と軍属で賄ってたから、専門教育機関ができて、そこで海軍は炊事を覚えさせる事になったんだ。空軍も相乗りする予定だ。海軍出身も多くなるからな」

「扶桑は大変だな」

北条響(シャーリー)がいう。扶桑は政治的に色々と振り回されている。今回は主に扶桑の事情によるものではある。

「ま、陸軍が自衛隊で海空で進む外部委託に反対した兼ね合いなのよ、これ。陸自も困ってな。扶桑陸軍は有事型の軍隊だが、陸自は平時の軍隊だ。その兼ね合いで、扶桑陸軍が派遣時の陸自の食事も受け持つことになった」

「つまり?」

「防衛省が陸軍の顔を立てたんだよ。ここのところ、政治的に追い込むことばかりしてきた負い目もあるし。それに、陸軍の炊事班を解体したら、内乱が大きくなるからな」

食事は士気を保つ根源である。防衛省の一部勢力は人数が多い陸軍の食事を外部委託したがったが、人数が500万を超える扶桑陸軍から反対論が生じたためと、大量にレストランで働いていた者を軍属、あるいは炊事兵として雇っていたという現状から、自衛隊を含めて、海外派遣時は扶桑陸軍に陸自向け含めての仕事をさせるという結論になった。日本の一部勢力が軍隊の食事に理解がないのにも困ったもので、ある評論家などは『兵隊には、白米さえ食わせておきゃいい』とする暴論をTVで言い放ち、問題になっている。扶桑軍は日本が扶桑一般向けに大量に食材を輸出した影響をモロに受けており、食事を自衛隊と同水準に引き上げざるを得なくなる珍事が発生した。そのため、食材になるものの確保ができれば、自前でどんなメニューも作れる23世紀製の軍艦は重宝されている。

「軍隊が魅力ある就職先に見られたのは、食事が一般より豪勢なためだが、日本が大量に食料品を送ってきたから、軍隊の食事が見劣りするようになっちまった。その釣り合い取りが必要になったんで、参謀級からの文句が出てる。ま、後ろから撃たれるぞと脅してやったが…」

「なんか魅力ないと、軍隊には入らないですからね。酒はパーティーの時にしか出なくなったけど」

楽しみにしていたらしいのぞみ。錦の気質の影響だろう。

「海自で酒が禁止されてるから、その兼ね合いだよ。海自も連合軍の付き合いになれないといかんし、キングスユニオンは酒はOKだしな」

「日本って、なんで自分達の思うようにしたがるんです?」

「良い質問だ、りん。日本の防衛省には警察関係者も多い。旧軍の悪習をぶっ飛ばすとかって息巻く連中が21世紀になってもいてな。正確には、日本の警察関係者だな。生え抜き軍人を抑えたがってるんだよ。それと復権を目論んでるんだ。特にドラえもんの世界じゃ、ロシアと学園都市の戦争があって、ロシアが負けたからな。その事で警察関係者の発言力が下がってるんだよ」

ドラえもんの世界では、警察関係者の政治的発言権は下がる一方であり、その復権を図ろうとする勢力が軍隊をどうにかして押さえつけようとしている弊害が生じていた。政府の仲介で、海援隊は海軍予備役部隊の取り扱いになり、扶桑陸軍の機械化は強引に推し進められ、燃料消費率の増加を恐れる参謀はどんどん更迭されている。兵器の強引な回収は前線から文句が出た上、実際には備品扱いにして保有し続ける部隊が扶桑/カールスラント系部隊を問わずに続出したため、既存兵器で比較的に高性能な兵器のラインを保守整備主体に再稼働させる事になった。ティーガー系列、パンター系列、五式中戦車、四式中戦車などが該当する。(駆動系の改良が必須とされたが)ウィッチ用の破砕砲は、その過程で不要とされた戦車用の75ミリ砲弾の備蓄消化の一環で、扶桑とカールスラントの共同で開発された武器である。主にバスターウィッチによる艦艇の電子装備破砕に威力を発揮していく。空母の格納庫には、その試作品を含めての初期生産品が用意されていた。Gウィッチ用の装備という名目で、であるが。

「そのおかげで、私達が迷惑を被ってるんですか?」

「そういう事だ、りん。連中の横槍とウチの軍の中堅のサボタージュで、前線はシッチャカメッチャカだ。日本は太平洋戦争のトラウマで、地形変える火力での制圧を求める、現場の戦車兵に一両で10両の破壊を推奨するんだぜ?いくら制空権確保ができても、現場を殺す気かよ」

黒江は愚痴るが、前線はサボタージュが多発したため、事実上は一部の部隊が支えているに等しい。64もその一つである。64は本来、陸の航空部隊だが、空母航空団の代行まで務めざるを得ない状況は空自からも異議申し立てがされているほどのものだ。実際、本来は基地航空である64が『技能がある』というだけで、本来の空母航空団を配属させずに載せる動きは、空自も防衛省の決定を疑問視しているからだ。601空が空軍に引っ張られた影響であり、これについては空自の現場が気づいて抗議したが、面子の問題で背広組が撤回しなかったために、空母着艦技能持ちのエースがひきめく64Fがピンチヒッターにされたというものだが、多分に海軍航空隊の憤慨を煽る決定である。また、601空の飛行時間が世代交代期に突き当たっていたために、部隊の平均飛行時間が500時間程度であった事も不幸のもとだった。64のように、飛行時間が1500時間を超える超人達が多いのは例外中の例外であり、44戦闘団でさえ、1000時間に届く者は少ない。その指摘を無視した形だ。そのため、64はこの時は陸軍から海軍に部隊ごと出向して乗艦し、まだ海軍に籍がある源田の指揮下に入るという、実にややこしい手続きを経ている。煩わしさの解消のため、空軍の設立後、自衛隊式の統合部隊化で64の外殻部隊化は検討されている。

「601空も可哀想に、背広組の一部に『あ号作戦の負け犬』って呼ばれてるんだからな。クーデターも起こしたくなるぜ」

「リベリオンなんて、飛行時間200で出してたんだけどな…」

「本当だぜ、艦上機も陣風、烈風、紫電改なんだし、800超えなんて、パイロットで数ヶ月以上、ウィッチで半年はいるからな」

北条響(シャーリー)はレーサーから転向し、初陣はここ二年以内と、軍歴は意外に浅い。デビュー戦は200時間ほどであった頃であるため、リベリオンを馬鹿にしてると憤慨している。ただし、シャーリーは紅月カレンとしての経験が最近に加味されたため、戦力価値は扶桑の古参に匹敵するが。

「響。あんたは今、アメリカ軍なのよね…。バーガーとコーラしか食ってないんでしょ」

「りん、そりゃ言い過ぎだ。ピザも食ってるぞ!」

「自慢になってないって」

響(シャーリー)は前世の容姿を取っているが、中身はリベリオン人であるため、好みがアメリカナイズされている。コーラ、ピザ、バーガー…。アメリカ人の三種の神器を網羅している。

「戦闘の合間に、コンビーフをクロとイリヤに食わせてるが、飽きたって言われてる。なんでだ?」

「そりゃ、アメリカのは味が大味だからよ。なんかこう、工夫してあげなさいよ。それにケチャップをなんでもかんでも、ドバーってかけりゃいいってのはナポリタンだけよ、スパでかけていいのは」

「やたらと、カレー味にしたがってたうららよりはましだろー?」

「そりゃそうだけど…。相変わらずね、あんた…」

転生でアメリカナイズされたため、大味なものが好きらしい響。イリヤとクロがコンビーフを飽きたというのもわかる。

「あ、みゆきからだ。あいつも大変だな。クレーム処理もしてるから。今度は『懐に入ればいいだろ』ってクレームが日本から入ったらしいぞ」

「日本のクレーマーって、何から何までクレームつけるの?のび太くんの射撃は、とても懐に入れないってのに」

のぞみも愚痴る。懐に入り込めとクレームがつけられようとのび太やゴルゴほどの男達にはそれがないのだ。たとえ聖闘士であろうとも、すぐに光速に加速できるわけでもないため、プリキュアの自分達はとても不可能だと愚痴る。

「それがわからねぇのが連中だよ。ゴルゴは接近戦でも、プロのヘビー級が裸足で逃げるし、のび太だって、ガキの頃からジャイアンにずっと殴られてきてるから、見切りで避けてくるんだけど。ゴルゴは東西冷戦時代のKGBとかの諜報機関が怯えて、ソ連の特殊部隊が震え上がるし、そもそも、プロのスイーパー相手に懐に入り込むだけでも、至難の業なんだぞ。聖闘士だって、いつでも光速で動くわけでもないし、あたしらもそうなんだけどな」

「銃持ってるのび太に迂闊に近づくと酷い目にあうんだけどな。前にあたしが変身して、やってみたが、リロードの隙を突いても、近付いた瞬間に銃口で鼻を叩かれてK.O.された。近づけば勝てるってのは中学生までのガキの考える事だよ」

響はのび太は大人になると、完全に遠近に隙が無くなっていると語り、吐き捨てるように言う。


「ま、因縁がどうのっていうなら、ナチの生き残りのバダンとの因縁がないように見えるからな、のび太もゴルゴも。実際はゴルゴはネオ・ナチと度々やりあってるし、のび太はドラえもんズが相打ってるんだがな。『因縁』に拘るのなら、旧軍の義勇兵はどうなるんだよって話だ」

「確かに。連中にとっちゃ、アメリカの同位国との戦争に出る以外の意味はないからな。連中はのび太とゴルゴを、あたしらと戦わせたいらしいな。それこそ、ガキの空想だぜ」

日本のクレームを空想と断じる響。好奇心からか、それとも、戦いがのび太とゴルゴにまったく関係ないと物事を見ているのか。のぞみと響は特に苛つきをみせていた。




「俺たちの領域内でも序列がある訳で、俺達は信仰神や英霊だから、神として下っ端に過ぎねぇんだがな。のび太やゴルゴは運命神の加護持ちレベルだから、上位神でなければ運命に介入出来ないくらいの絶望的な差が有るんだが、これは理解を得られん事だ。だから、のび太達は『技が神の領域』って言われてるんだがな」

黒江も言う。科学的に異能生存体とされる個体は宗教的に見れば、『天のご加護がある』人間に当たる。それは運命神に選ばれているので、オリンポス十二神でもおいそれと手を出せないのだ。





「そもそも、のび太は政府のお抱えだし、ゴルゴは固定の顧客は持たないが、どちらかというと『西側寄り』に近いんだぜ?」

「そう言えば、東西冷戦時代の頃の依頼でも、ソ連に煮え湯を飲ませた事のほうが多かった気がする」

「英国の元・MI5部長のヒューム卿、元・CIA長官のフーバーが東郷と特に親しかったからな、腐れ縁のようなもので。その名残りで、元・西側の依頼が多いんだよ」

黒江の言う通り、固定の顧客はいないとする東郷だが、実際には東西冷戦時代における西側諸国のほうが、個人的な親交があった第二次世界大戦時の連合軍諜報機関の長『ベスト4』と浅からぬ関係にあったゴルゴのビジネススタイルを熟知しているため、依頼もその後の時代においても多く、西側の思惑の六割ほどは実現させていたりする。(旧東側の経済では、東郷は商売あがったりである)また、のび太は日本連邦政府(2020年に実現)のお抱えであるため、ゴルゴとは普段は住み分けをしている事が明示された。ただし、相手がバダン(旧ナチス)の場合は思惑の一致もあり、共闘関係を結ぶ事が多いのも事実である。

「なんか、ものすごい会話…」

「直に慣れるよ。裏世界も絡む事だしな。あたしらの今後のフィールドは。はーちゃんはのび太をちょくちょく手伝ってきてるから、ローリングサンダー以外にも技を身に着けてるしな。みらいとリコが見たら、腰抜かすな」

「サンダーブレーク使えるとか?」

「嘘ぉ……」

サンダーブレーク。グレートマジンガーの必殺技である。それが打てるようになったというので、絶句するりん。のび太ははーちゃん(ことは)に何をしたのか?ハラハラものらしく、冷や汗をかいている。緑川なお(キュアマーチ。ラウラ・ボーデヴィッヒの事でもある)も驚くだろう。


「のび太、今は偵察機でポルトガル上空のはずだ。あいつ、飛行機も操縦できるからな」

「どうして、艦隊は北上してるんです、先輩」

「アフリカが落ちた以上、南下して叩くルートは使えんし、どのみち大艦隊戦はせりゃならん。のび太からの報告を待つしかない」

のび太は偵察機で強行偵察を敢行しており、この場にはいない。圭子から『デイブ・マッカートニーが、狙撃用ライフルをあと二日で完成させるから、それが済み次第、東郷が仕事に入る』と連絡が入ったことから、ここ数日がヤマである。

「のび太くんは何で強行偵察を?」

「甲児からダブルスペイザーを借りたらしい。高速偵察機と、公にはぼかしてあるが、実際はスペイザーだ」

「スペイザー?」

「ロボ亀こと、グレンダイザーの支援ユニット全般の事だ。グレートマジンガーのグレートブースターより速いから、強行偵察にうってつけだ。甲児が持ち込んでたんだ」

のび太はグレンダイザーの支援戦闘機兼支援装備のダブルスペイザーを借り受け、偵察に出ていた事が伝えられる。瞬間的には大気圏内ではAVFをも凌ぐ速度が出るためでもある。のび太はこうした裏方仕事も引き受け、戦線を支えていた。

「そろそろ帰ってくるだろう。着艦は垂直着陸だから楽だし」

その言葉通り、その15分後にのび太はダブルスペイザーで着艦し、小沢治三郎以下の連合艦隊司令部に敵の動きなどを直に報告した。小沢達に伝えられた事は、『ルシタニアから敵の再編成された艦隊が出港し、それにヴェネツィア海軍主力が合流しつつある』事だ。敵はヴェネツィア海軍をも配下にしているらしい。艦隊はまず、ヴェネツィアの別働隊を叩くべく前進し、第二陣を叩くべく動いた。その次の日の黎明の時刻に連合艦隊は航空攻撃に出る事になった。


――食堂――

『各員に通達。我が連合艦隊は野比のび太氏の偵察行動により、敵艦隊を捕捉した。明朝を以て、空母航空団は全力出撃を敢行する。総員、英気を養うように』

放送で敵艦隊の捕捉と空母航空団の全力出撃が通達され、それを聞いた搭乗員達は英気を養うべく、行動を起こし始めている。地球連邦軍/元日本軍義勇兵/64Fのメンバーを問わず、士官専用食堂の空気が一瞬にして張り詰める。食事を切り上げ、愛機の点検にいく義勇兵もいる。プロメテウス級の航空要員はレシプロ機部隊も抱えているため、大所帯である。烈風や紫電改、陣風が臨時に載せられたため、レシプロ機が速度の関係で一番に早く出撃する。ちなみに、陣風は紫電改の後継扱いだが、元々は制空戦闘機用途で開発された別ラインのものだ。山西航空機(日本での旧・川西航空機/新明和工業)最後のレシプロ戦闘機にして、最強の川西航空機系戦闘機である。(史実では予定エンジンが一向に完成せず、その内に紫電改に淘汰されたため、ある意味では皮肉なめぐり合わせではある)

「なんか空気が変わったわね」

「空母の出撃前はこうだ。日本からも元・士官も相当数連れてきたが、日本に留学してきた連中も少数はいる。教官級だ。そもそも通常戦闘機の必要性が低かった世界じゃ、総飛行時間が800を超えるのは希少なんだがな」

喋りながら、好きな食べ物を取り、食器の上に置く一同。黒江は空自や軍で経験豊富なため、簡素だが、肉系を選んでいる。

「あ、お前ら、出撃前は油系はやめとけ。タンパク質をとっとけよ」

「そうそう。糖分多めに取らないと、いくら変身してても、ね」

「そういえば皆さんはパワーアップすれば…」

「そっか、いちかちゃんは空を?」

厨房で作業中のいちかが話しかけてきた。キラキラプリキュアアラモードは跳躍で飛べるが、本格的空中戦はできない。(ただし、初期メンバーのみ)

「スーパー化はなかったんですよ、私達の代は」

「そういえば」

「あんた、あとで箒の訓練だそうよ?」

「しょんな〜!?箒はみらいちゃんたちの領分でしょ〜!?」

「私達は飛べるけど、パワーアップ変身前提なのよ。最近は文句言われてるわ、マニアに。有難味が薄れるとか…」

「なんですとー!?」

「まあ、ミラクルライト前提の変身を気合でどうにかするってのがねぇ」

「いいじゃない〜!パワーアップしてるんだし!平成ライダーが最強の変身を自力でするようなもんじゃない〜!アルティメットフォームとか!」


平成ライダーはフォームチェンジが当たり前であるため、のぞみが引き合いに出したアルティメットフォームも、自力変身が可能なものに入るため、その感覚で見てほしいらしい。

「あたしも、なんかプリキュアに関係ない必殺技でも覚えようかしら…」

「りんさんなら、螺旋……」

「はい、そのネタ禁止。弟や妹に若い頃、散々にネタにされたから」

「えー、りんちゃんにピタリだと思うけどなー」

「本当ですよー」

「それなら、あんたがやりなさいよ」

「うっ、いたいところを…!」

「声帯の妖精さん的に親子やん、お前ら…」

りんはそのネタでいじられるのは、嫌であるようだ。黒江がツッコむように、ベタすぎて家族にも弄られたからだろう。

「やあ、やってるね」

「のび太、ダブルスペイザーはどうだ?」

「超合金ニューZだから、頑丈でいいね。駄賃でダブルカッターで敵のドックのクレーンを倒しておいた」

「そう言えば、甲児も太っ腹だな。スペイザーを貸すなんて」

「ゴッドやカイザーが出ると乗り手いないからね。ボスさんはラーメン店開いたっていうし、さやかさんは弓教授の後を継ぐし」

「いよいよ、教授出んのか?州知事選挙に?」

「出るってさ」

23世紀では、ユング・フロイトが大統領選に出馬するのと時を同じくして、弓教授が極東アジア州知事選挙(旧日本連邦・内閣総理大臣兼任)に出る流れになりつつある。のび太は子孫かつ、転生体のノビ少尉が弓教授のシンパである関係で、連絡を受けている。彼が弓教授の選挙のバックアップをしているからだ。弓教授は甲児の父である剣造が科学者一本槍かつ、本質的に甲児の父らしい破天荒さを持っているのを知っており、宇門博士が辞退したので、彼に白羽の矢が立った。イチナナ式の開発が彼の科学者としての最後の仕事になった。ただし、富士山の掘削工事は国立公園にジャパニウム鉱脈が食い込んでおり、その関係で、静岡の新研究都市構想は頓挫していたが。

「何の話ですか?」

「23世紀の世界の事だ。うちの部隊にも関わることだから、のび太の子孫に報告してもらってんだ」

「僕は23世紀にも子孫がいるからね」

「のび太くんっていつ頃から一族が?」

「石器時代にはいたけど、野比と名乗るようになったのは戦国期以降さ。マタギとか、ハンターで食ってたしね、ウチ」

野比一族は元は縄文期から狩人で暮らしていた一族であり、代々が子供の頃はのび太と瓜二つであり、個性が出るのは青年期以降という類まれな性質を持つ。江戸期も至って平凡な町民であり、明治末期ののび吉(のび太の曾祖父)は1910年で10歳。ハレー彗星を目撃している。その子で、のび太の祖父ののびるは少年/青年期が戦争の時代であったため、家長制度の生き残りかのように、子供に厳格に振る舞っていたが、本質は孫と同じである。のび助世代は当時としては遅めの子で、1960年代に相次いで生を受けている。のび助が20代後半にのび太が生まれているため、世代交代がだいたい、最長で30年である。できちゃった結婚のケースも多いため、野比家はやることはやる一族とも言える。

「うちは30年くらいの時間で子供が生まれるから、僕が50後半になる頃には倅が結婚して、孫ができるんだよね」

「少子高齢化時代にしては、貴重なくらいの理想的世代交代ね」

「カミさんがよく言われるんだ。ただ、仕事がお互いにあるから、実子は倅一人になっちゃうけどね」

父の代と違い、のび太は仕事が多忙になり、しずかも裏稼業を始めたため、のび太夫婦は第二子を儲けることはしなかった。野比家はセワシの代まで、第一子である長男のみが本家筋であったが、セワシ以降は戦乱の世であるが故に、第五子まで儲けたという。セワシの遺言によれば、野比家の血が戦乱で絶える事を異常に恐れており、次男のコロニー落としでの死が晩年のトラウマになったとのことで、軍役を退役し、実業家として成功していながらも必ずしも幸せな一生ではなかったという。ドラえもんズの消失がセワシに暗い影を落としたのは間違いない。

「僕の孫の孫のセワシの事になるけど、あいつは軍隊を若い内に辞めて、実業家になって成功したらしいんだけど、幸せな一生とはいえなかったんだよね。まあ、ボクが養子をもらうから、あいつも一人じゃなくなるけどね」

野比家は23世紀になると、のび太の養子達が結婚し、分家が増えており、扶桑華族の地位に相応しい大きさになっていた。セワシの慰めはのび太の薫陶を受けた養子達の子孫がいたことだろう。

「それと、55歳の頃の僕の養子の一人がどうも、プリキュアの妖精の生まれ変わりらしいんだ。55歳の僕に写真を送ってもらったよ。これだよ」

その写真を見た瞬間、のぞみとりんの顔色が変わる。その人物はのぞみのかつての想い人であり、前世で結ばれる事がなかったパルミエ王国の王子『ココ』の変身体と瓜二つだった。

「嘘……ココ……!?」

あまりの衝撃に、それしか言えないのぞみ。想い人の姿を久しぶりに見たためか、茫然自失であった。

「ど、どういう事!?」

「55歳の僕に聞いたら、どうやら、僕が45歳の頃に飛行機事故から生存して、孤児になったのを引き取った養子だそうだよ。そのショックで数年くらい口が聞けなかったけど、思い出した記憶が君達の事だった」

のび太が45歳を迎える頃はノビスケも中学生から高校生の時期であり、のび太はその時期に養子とした。それから10年たって、イケメンに成長したのだが、のぞみの想い人と瓜二つであると、調が気がついたとのこと。

「『ウチの子としたら随分と美形なんだが小さい頃は丸っこいヤンチャ坊主だったんだよな』とは、55歳の僕の談。君の想い人なのかい?」

「うん……。私の世界だと、結局別れ別れになっちゃって、そのまま年をとって、娘たちを生んだの。もう一度会いたいって、何度も思ったんだよ…」

のぞみは長女と喧嘩したまま世を去ったという不幸な世界線からの転生であるためか、未練が強かった。郷愁もである。この思いが転生の原動力であったため、りんはのぞみの世界における自分を罵りたい衝動に駆られていた。りんは『のぞみが幸せになった世界線からの転生だったからだ。



「彼から手紙が来てる。55歳の僕が書かせたらしいんだけど、読むかい?」

「……」

躊躇するのぞみ。背中を押すりん。手紙の便箋を開き、手紙を見てみると……。

「嘘……。私の……、私の知ってる……ココだ…!」

のぞみは嗚咽を漏らす。自分と同じ世界線における彼が地球人に転生し、壮年期ののび太の養子になっていたのだ。壮年期ののび太が、生まれ変わった彼の記憶が戻ったのを見計らう形で、のぞみのことを話したところ、のぞみと同じ世界線からの転生であったのだ。手紙には、義父ののび太からすべてを知らされた事、のぞみが辿った人生を『一生懸命に生きた』とし、その上で受け入れる事が書かれていた。のぞみが青年期以降に拠り所とした彼はのび太のいう通り、のぞみの人生を否定しなかったのだ。

「もう二度と会えないって思ってた……。まさか、こんな形で……!」

「良かったね…」

「……ありがとう、のび太君…」

「それはオジンになった時の僕に言ってくれよ?」

冗談交じりに微笑みかける青年のび太。のび太にとって、過去や未来という単語は意味をなさない。

「……ありがとう。あたしじゃ、この事はフォローできなかった。のぞみの記憶は見たけれど、私にとっては現実感がないようにしか思えなかったもの……」

「のぞみちゃんの思いが奇跡を起こしたんだよ、りんちゃん。世界を超えて」

のび太のさり気ない気づかい。こうしたのび太の優しさは彼を第三者として見た場合に気づく場合が多い。のび太を慕う者が多いのは、こうした下心無き優しさに惚れるからで、のぞみはこれ以後、のび太との関係を強くし、『絶対に守る』と誓うのである。

「これで、のぞみちゃんの事を助けられたかな?」

「のび太君、のぞみの心を助けてくれて、本当にありがとう。これで肩の荷が下りたわ」

「あの子が強くなるのには時間がかかる。君のフォローが重要だよ」

「プレッシャーかけないでよ」

すっかり乙女の顔なのぞみに安心しつつ、りんはのび太と親しくなるフラグを成立させる。のび太は大関スケコマシという渾名だったが、これで横綱スケコマシにクラスアップしたと周囲にネタにされるのである。


「重要な事だって心の隅にでも置いておけば良いのさ、何かあったら友達を助けるって事を忘れない程度にね。常に意識する事は無くても忘れないのが大切なんだよ」

「うん…」

「かーっ、お前、またやりやがってからに」

「な〜に、このくらいならね」

黒江のツッコミに苦笑いののび太。響はバーガーにがっついていて、それどころではなかったが、会話は聞いていた。この日以後、のび太の警護にのぞみが志願するようになり、みゆき(芳佳)はうまく、警護に志願した人員のやりくりをしていくのだった。

「出撃した時の体力維持にどうかな」

「お、気が利くじゃねえか」

ミニ羊羹をポケットから取り出し、大量にくばる。照れ隠しの意図もあったが、のぞみのハートをキャッチしたのは間違いなかった。それを聞いたフェイトの姉のアリシア・テスタロッサ(花咲つぼみ)はのぞみの乙女の顔を知り、驚くのだった。



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