外伝その330『REINCARNATION』


――黒江は民主主義国家の軍隊で働きつつも、専制国家の軍隊のように、政治に深く関わっているのが現状であった。横槍で扶桑の官僚組織が弱体・形骸化していたダイ・アナザー・デイ時には、Y委員会の直接統制が取られており、形式上、大臣や参謀本部/軍令部の指令とされている事例の多くはY委員会の指令であった。仕方がないが、外務・内務にまで及んだ日本による公職追放のおかげで、扶桑の官僚組織が機能不全に堕ちていたため、フィクサー組織が統制を取る必要があったのだ。プリキュア達の配属もY委員会の決定によるもので、将来的には初代の三人も招きたいというのがY委員会の意向であった。当時、プリキュアの過去生に持つ者が各世界に転生していた、もしくは人生を終えてから、そのまま現役時代の容姿でウィッチ世界に現れるケースが続出していたためだ。のぞみはその中でも転生型かつ、別人の肉体への自我の上書きインストールタイプであり、転生でも珍しいタイプのものであった。――






――プリキュアのピンクチームで結果的に最古参となっているドリームは錦の経験と記憶を引き継いだため、二足の草鞋を自動的に履く宿命となった。ただし、軍人名を個人の特定を避ける意図で、前世での本名である『夢原のぞみ』で統一する事になったため、錦としての活動は次第に限られていく。当人もその方が『気が楽』ということで、そのまま承諾した。対外的には『中島錦がプリキュアになって、キュアドリームの力を夢原のぞみから受け継いだ』と説明されるが、実際は『のぞみが、錦の肉体を現世での新たな肉体として使う事となった』と言うべきものである。『リーインカーネーション』(転生)の最たる例だ。その兼ね合いで書類の書き換えも行われ始め、のぞみも錦の家族との接触を避けるようになっていく。この頃にはプリキュアとして、メディアに頻繁に顔出しするようになったためだ。そんな中、しずかの従姉妹にあたる(しずかの父の兄の子。遅くに生まれたため、2019年時点で小学生)女児から『プリキュアはどうして、彼氏いないの?』というファンレターが来た。想い人とお互いに認識しているという括りならば、のぞみが該当するが、『地球人同士の括り』というと、該当者はかなり限定される。明確な恋愛関係を現役期間中に築いた例さえ希少なのがプリキュア戦士達の通例である。これは歴代プリキュアとしても、回答に困る類の回答だった。ファンレターの回答に歴代プリキュア達が四苦八苦するのはシュールな構図であるが、子供の夢を壊さないようにするのは大変な事である。ヒーロー達に憧れた子供が後にヒーローやヒロインになるケースもある(ヒーローでは、キカイダー兄弟に憧れた一人の少年が成人後に光戦隊マスクマンのレッドマスクになった事が有名である)からだ。送り主がしずかの親戚筋の女児であるので、芳佳(キュアハッピー)が『定型文て訳にはいかないじゃん。しずかさんの親戚だよ』と懸念した事もあり、アリシア・テスタロッサに転生した花咲つぼみが芳佳に転生した星空みゆきと共に、ラジオ番組で回答する事になったものの、回答をまとめるのは大変で、確認されている限りの歴代プリキュアの事例を徹底的に洗う事になったという――




――戦闘中――

「先輩、つぼみちゃんの方の作業は上手くいってますか?」

「あいつにDVDとブルーレイを送っといた。調べるのに、そう時間はかからんだろう。あいつも管理局の仕事の合間に作業してるというから、そんなに休んでないはずだ」

「まさか、フェイトちゃんのお姉ちゃんになってたなんて」

「フェイトが歴史を変えたからな。だから、なのはとの出会いが多少変わった。だが、プレシアは違う形で事件を起こしてしまったから、なのはと出会う上での必然なんだろうな、PT事件は。『アリシアが存命した世界線』ができる過程で生じた奇跡と言っていい」

「でも、どうして事件が起きるのが前提なんですか?」

「ドリーム、ピーチ。これは俺の推論だが、プレシアはおそらく、アリシアが存命したとしても、命に関わるくらいの重い病気にどこかでかかる運命なんだろう。若い頃は研究者だったそうだしな。ただ、プレシアは黒髪だったから、離婚した夫の方の遺伝だろうな、娘たちの髪色は」

アリシア・テスタロッサが存命した事による歴史への影響は意外に少なかった。なのはと出会うことそのものが歴史の流れの既定路線であったため、アリシアの存命程度ではびくともしないらしい。これは調と黒江の感応が大きな影響をシンフォギア世界にもたらし、結果としてはシンフォギア世界の歴史の方向性を変え、『戦姫絶唱シンフォギアの世界』に新たな可能性を創造する事になったのとは対照的であった。また、シンフォギアそのものの限界値(これは宝具や聖闘士の力、プリキュアの力で判明した)におおよその予測がなされた。(ギアのパラメーターを変化させる心象変化は小手先の変化とされ、リミッターの解除のほうが先決とされ、黒江達の接触された世界では殆ど実験されていない)シンフォギアの有用性もおおよそ判明し、本来の想定相手ではない者たちへの戦闘力は思ったよりは高くなく、通常時で歴代の戦闘向けの能力を持つプリキュアの通常時と同レベルにあり、リミッター解除時はプリキュアの第一パワーアップ形態に相当すると判定されている。これはいざという時の決定力を立花響に依存気味である事からの判定である。(その響は英霊因子の覚醒で英霊としての活動を開始したため、この後はシンフォギア装者と英霊とを行き交う立場になり、響は否応なしに沖田総司の意志と向き合う事となった。)

「あの子達(シンフォギア装者)はどう扱うんですか?」

「あいつらは通常の兵士よりは強いから、遊撃班に回す。それと、沖田総司は好きにさせとけ。あいつは新選組でも一番の剣戟ジャンキーだ。立花響の意志が必死に抑え込もうとするだろうが、肉体に影響が出ている以上、しばらくは表に出れんだろう。おそらく、意志そのものはもう目覚めてるだろうが、肉体の制御が出来ないのにパニックになってると思う」

「どんな状態なんですか、それ」

「多分、『目は見えてるけど、体を一切動かせないし、口も利けない』状態だ。沖田総司の殺人嗜好の様を拷問みたいに強制的に見させられてるはずだ。いくらあいつの意志が強固でも、こればかりはどうしようもない」

立花響の意志が直面している事態をそう説明する黒江。沖田総司の強固な意志が彼女の肉体の主導権を取っている以上、彼女にできる事はないといえる。おそらく、何らかの影響は与えると推測されている。海戦の最中に話すことでは無いが、一応、今後に関わることであるので、二人に話しておく。

「見方によっては拷問ですね…」

「そういう事だ。お前は幸運なほうだ。お互いに人格が溶け合って融合してるんだから。それと、しずかの従姉妹からのファンレターの返事を書いとけ。歴代の連名でいいから」

「あれ、すごく答えにくい類の奴ですよぉ」

「うん。ドリームしかいないはずですよ、はっきり両思いに行ったの。私は答えはぐらかして有耶無耶にしたし」

「メロディはそれと無縁だしな。紅月カレンとして、ルルーシュに手玉に取られたままなのを根に持ってる節あるしよ。返事は無難にいっとけ。子供の夢は壊さんようにな」

「うーん…」

ドリームとピーチはこれから世話になるしずかの親戚の女児からのファンレターに困惑気味な様子である。ファンレターは貰わなかったわけではないが、自分達のことを把握されている上でのものは記憶がないらしい。二人はものすごく困惑し、冷や汗をかいている。

「せ、先輩、後でマナちゃん(キュアハート)に連絡取っていいですか?」

「なるべく急げよ。戦車道の大学選抜との試合まで時間はそれほどないぞ、現地」

「こういう問題は、生徒会長の経験があるマナちゃんのほうが良い答え出してくれるんですよ〜。帰ったらすぐにします」

ピーチも言う。相田マナ/キュアハートは戦車道世界で『逸見エリカ』として生活しており、大学選抜との試合を控えていた。覚醒後のキャラのギャップが大きい一人である。戦車道世界に転生していたプリキュアでは一番の遅参であるが、生前の高い実力と博愛精神もあり、先輩格のドリームとピーチの知恵袋的役目をも担っていた。(逸見エリカは本来、非西住流系の人材では久方ぶりの黒森峰女学園の隊長の座を約束されているとは言え、実力はみほに劣ると自認していた。)マナが事実上『成り代わった』事でエリカの欠点が克服され、みほと対等の実力(プリキュアとしてのカリスマ性が加味され、エリカ本来の欠点の癇癪が消え、マナの持つ寛容さと咄嗟の判断力と決断力が加わり、人としての欠点は無しに等しくなった)を得るに至った。戦車道世界にいるまほは『エリカは精神的に成長した』と解釈しているが、実際は相田マナが実質的にエリカに成り代わり、持ち前の実力で事情を把握した後に猛勉強して『実力を出した』のである。また、斜に構え気味のエリカと違い、マナは博愛的で人当たりもいいので、『エリカの周囲からの人間的評価』をだいぶ好転させている。

「確か……逸見エリカに成り代わってたと思うが、大丈夫かよ?」

「大丈夫ですって。マナちゃんは歴代のピンクで有数にスペックが高いんですよ。多分、元より好かれるかも」

「ああ、それあるかも。今度、うららとくるみに連絡取れたらさ、聞いてみようよ」

ドリームとピーチは、後輩である相田マナ/キュアハートにかなり高い評価を与えているようで、信頼に足る後輩と見ている。ピンクでは稀といえる生徒会長経験、生前に公的に存在を認められていた点も、キュアハートは稀有な存在だ。ちなみに、有力候補と見られていたアンツィオ高校のカルパッチョがフェリーチェでは無かったことは意外であると、同世界に転生した歴代のプリキュア達の間で噂されていた。しかし、当のフェリーチェは現役時代の時間軸の世界からそのまま、ディケイドが連れてきた存在である。現役時代と同一の存在は現在のところは彼女だけだ。従って、フェリーチェのみは現役当時の彼女と同一の存在である事になる。(マジンガーZEROがことはの故郷の世界を滅ぼしたため、現在はドラえもんが生まれた世界を第二の故郷にしている)

「でも、はーちゃん。のび太くんの世界で20年生きて、普通に中・高・大に行ってたって、どうやって…」

「ガランド閣下の機関に工作を頼んで、のび太の親父さんの養子にしたんだ。それで戸籍を作って、中・高・大に行かせたってわけだ。のび太の二年くらい下かな?」

ことはは戸籍が固まった後、のび太の二年後輩という形で中・高・大と、のび太が中学三年の頃から学生生活をしっかり満喫していた。その天真爛漫な性格もあり、学生時代は思いの外、よくモテた。(表向きはのび助が海外で引き取った帰国子女という事にした)のび太の義理の妹であるのは驚きの対象であるが、プリキュアであると認識されたのは最近のことだが、のび太の父ののび助が重役に昇進した事、G機関を通し、地球連邦軍からの多額の給金と恩賞(のび太は23世紀においての活動のため、便宜的にメカトピア戦役時に与えられた軍籍を維持している。子孫が扶桑で栄爵した事もあり、地球連邦では『名家』と認識されている)が支払わられているため、のび太が思春期を迎える頃には家計が好転した。その関係で、ことはを高校や大学に行かせられたのだ。その学生時代の生活もあり、ことはの精神的成長は当然であった(生き返りつつあるみらいとリコは、その20年の歳月に驚いている)

「みらいちゃんとリコちゃん、完全に生き返ったら驚くだろうなぁ」

「多分な。砲撃がくるぞ。一旦、上空に離脱する」

「了解っ!」

話している間にも砲撃が飛び交う。質で勝るが、数の少ない扶桑連合艦隊は接近する事で一撃必殺を狙い、ウィッチとプリキュアが痛めつけているリベリオン艦隊に決定打を与えようとする。この時には、ブリタニア艦隊は数の上での主力である旧式艦と条約型に打撃を被り、作戦から離脱していたため、扶桑連合艦隊が単独で制海権を獲得せんと動く羽目になっていた。扶桑連合艦隊は当時、主力の多くが近代化改修の最中であったために全力出撃ではなく、数で絶対的に劣るため、出撃へ反対する声もあったが、質で勝る事を理由に出撃させ、海上自衛隊の観戦(サポートはしている)のもと、逐次の増援で戦艦はなんとか六隻前後を確保し、火砲の口径の優位を活かし、接近戦に打って出ることで、一撃必殺を図った。

「こっちは大和の親戚で、敵はアイオワの一族。どうにも見分けつけづらいですよぉ」

「仕方ねぇよ。アメリカの新戦艦は規格統一で基本デザインが同じなんだよ。ウチはまだ装備違いで見分けつくよ」

扶桑戦艦は細かな装備違いなどで姉妹艦でも見分けが容易だが、量産性重視のリベリオン新戦艦は基本デザインが同一であり、素人目には見分けられない。そのため、プリキュア達は愚痴るが、この時には海自が水雷戦隊を返り討ちにする事で、戦艦の砲撃戦に無粋な乱入者は空海でいなくなっている。海自は砲撃戦の乱入者を防止するのも任務のうちで、防空力重視の艦艇が多いとは言え、速射砲と対艦ミサイルは巡洋艦以下には有効であり、隊員の溜飲を下げる活躍を見せている。これは戦艦に歯が立たないことを野党議員に揶揄されてきたからだが、扶桑戦艦は改修済みであり、米軍の武器であっても通じない。中継される戦闘はむしろ、海自の練度の証明に繋がった。護衛艦は砲撃戦には寄与できないが、露払いにはなる。その事は海上自衛官の士気を高め、以後、連合艦隊のサポートに回る事になる。


「海自も見てるはずだ。こっちの弾道観測にヘリを飛ばしてるからな。お前ら、海自の護衛艦に乗ったらカレー食えるぞ」

「陸の他の部隊の連中が聞いたら嫉妬もんですよ」

「連中には陸自にミリメシ作らせて、食わしてるから問題ねぇよ。日本の左派はなんて宣ったと思う?扶桑の兵隊は白米だけ食わしとけだ。旧軍のニューギニアやガ島じゃあるまいし。」

「馬鹿にしてません?」

「おれたちゃ旧軍と違うんだぞ?まったく、連中は害悪だぜ。軍事に無知なくせに、シビリアンコントロールをカサにして居丈高になりやがる。米軍の指摘が来た途端に弱腰になるから、嫌になるぜ」

黒江は軍事に無知な内局を嫌っている。ボイコット事件やカミングアウト後の訴訟など、問題の尻ぬぐいを自分達、制服組と現場に押し付けてきたからだろう。そのため、日本連邦・国防会議では、警察関係者の発言力は矮小であり、殆どは政財界と軍事関係者の会議である。ボイコット事件の尻ぬぐいの際に、黒江は公安委員会や警察庁高官をまとめて吹き飛ばす爆弾(シミュレーションの資料)を手に入れ、それを政権交代後の内閣に示唆し、不祥事の多い内務関係部署を抑える材料にした。それに追い打ちをかけてしまったのが、海保長官の殴打未遂事件である。これで内務関係部署は完全にかつての権勢を失い、防衛関係者との政治発言力の差が逆転。国防会議の日本側参加者の六割が防衛関係者になる事で白日の下に晒された。黒江は日本の内務関係部署の秘密を握る事で、日本の内務関係部署のコントロールを成していく。その情報をリークしていたのが時の警察庁次長であった者で、黒江が親しくしていた弁護士の息子だったのは、皮肉そのものであった。黒江は各地の戦友会にかなり可愛がられており、老人の子供が警察の高官である事も多く、リークしたのは現在は義勇兵になっている者の実子だ。黒江は警察関係者にもかなりの人脈を築いた事になる。

「先輩、いろいろと危ないネタ握ってるからなぁ。日本の」

「20年も日本で暮らしてれば、それなりに人脈は広がる。防衛省の制服組は抑えたしな。今後は警察関係者も抑えていく。海保のせいで海援隊から苦情が来たしな。今の当主は俺のガキの頃のクラスメートらしくてな。俺に接触したがってる。丁度いい機会だ。お前らにも協力してもらうぜ。中堅層さえ抑えれば、連中は協力する」

「先輩もアコギなことしますねぇ」

「日本の国営放送の集金よりは良心的だぜ?」

黒江は民主主義国家の軍人ながら、その政治力で立ち回り、日本連邦体制の確立に貢献していく。プリキュア達を戦場で率いつつ、政治的活躍も多いことから、敵対者からは『黒幕然としている』と批判されるが、そうせざるを得なかったのだ。黒江当人は戦闘が本分であると自負しているが、圭子はその言動で悪目立ちする、智子は変身でハッタリは上手くなったが、ダーティな事に尻込みしがちなため、政治面を引き受けざるを得なかった。その点では智子の肝っ玉にため息である。圭子が表で不満分子の暗殺などを、黒江は調停を行う。智子はハッタリ担当。それが彼女達の役割分担である。




さて、扶桑連合艦隊は戦艦部隊を中心に、打撃艦艇で単縦陣を構築。航空戦力の手出しが容易でない防空網を理由に、接近戦を挑む。海戦の戦術としては古典的である。21世紀ではこうした大時代的な海戦が絶えていた事もあり、第一次世界大戦以前の再現のような海戦は好奇の対象と見られた。扶桑連合艦隊はM動乱で対艦戦ノウハウを取得していたため、実質的にウィッチ世界で最も新しい戦訓を持つ。火砲の火器管制装置などは宇宙戦艦の技術を取り入れていたため、自動追尾装置なども有しており、総合的な命中率はこの時代の他国戦艦を超越した水準にある。(この時代の最も先進的な射撃管制装置を持つ米戦艦でも、遠距離での命中率は2.7%程度であり、宇宙戦艦時代の射撃管制装置はそれを超越した命中率を叩き出す。そのため、接近戦になると、余計にその優位が表れていく)黒江達はガウォーク形態などで滞空し、下の様子が見える高度で海戦の様子を確認する。

「うわぁ。すっごーい……。」

「この時代の戦艦は基本的に10数kmから20km程度の距離で撃ち合うんだ。敵味方が目視で視認できる距離で撃ち合ってた日露戦争までの時代より射程距離伸びたからな。40cm砲が主流のところを、こっちは51cmや56cmを使ってるんだ。当たりゃイチコロだ。ほら見ろ。大和の46cmが当たっただけで、アイオワは火災だ」

元々、45口径46cm砲にはまともには耐えられないアイオワ級は、大和と同レベルの戦艦がいる戦場では脆い。強化された大和の砲撃で火災を引き起こした一隻が更に播磨と越後の51cm砲が命中することで戦闘続行不能に陥っていく。モンタナ級以外はこの大口径砲の嵐に長時間は耐えられなかった。扶桑連合艦隊の攻勢は凄まじく、とんでもない速さで46cmから56cm砲弾が降り注ぐため、至近弾で溶接された船体の破断が起こるほどであり、リベリオン戦艦部隊は次々と落伍していく。そして。物凄い爆炎があがる。

「うわっ!?」

「落ち着け、アイオワ級のどれかが轟沈したんだ。弾薬庫に56cm砲が飛び込んだな…」

アイオワ級の一隻が56cm砲の船体への直撃で大爆発を起こして轟沈した。当時のリベリオン戦艦は移動海上砲台としての意義のほうが重視され、大和や播磨のような『対艦戦闘重視』の船体設計はモンタナ以外はなされておらず、弾薬庫付近の装甲を56cm砲弾が貫き、大爆発した結果、史実の巡洋戦艦インヴィンシブルのように爆沈していった。この爆沈の様子は、21世紀世界に映像として中継されていたため、アイオワ級の艦隊戦での脆さを衆目に晒す結果になってしまった。56cm砲弾は3トン近い重量であり、それが砲塔の天蓋装甲を貫き、そのまま弾薬庫を誘爆させたのだ。黒江の乗るVF-19A、それと二人のプリキュアがいる高度にも届くほどの爆煙があがった。

「すっごい……」

「智子と他のガキどもは別の艦の攻撃に回したが、これは見てるだろうな。戦艦にはよくある沈み方ではあるが…、ド派手だろ?」

「確かに」

爆煙が晴れると、そのアイオワ級は海中に没していた。敵の旗艦を痛めつけた一同は編隊を2つに分けての遊撃に移っていたが、敵打撃部隊は扶桑戦艦との砲撃戦に専念していた。アメリカ戦艦らしい質実剛健の上部構造物の配置が分かる。城郭のような構造の日本戦艦とは趣を異にするデザインだ。まだ軍艦のデザインで国別の区別がついた頃の光景でもある。ただし、貫通力が40cm砲の比ではない砲熕兵器が雨あられのように降り注ぐ状況では、すぐにスクラップに変わってしまうが。

「砲撃戦じゃ、やはりこちらが圧倒的有利だな。敵はせいぜい、巡洋艦を落伍させるだけだ」

巡洋艦は相応に落伍するが、戦艦は装甲材の換装と構造強化の恩恵で細かい装備品の破損はあれど、バイタルパートは無事である扶桑連合艦隊。富士は細かい装備品は破損したものの、バイタルパートの機能に異常はない。56cm砲弾に耐えうるヒンデンブルク号がいない事もあり、リベリオン艦隊は徐々に砲撃戦で押され始めていた。そこに海自が護衛を肩代わりし始める。

「お、海自が隊形を単縦陣から単横陣に変える。損傷した水雷戦隊の代わりをするんだな」

「大丈夫かな?」

「大丈夫だ。海自だって海のプロだ。経験はないが、戦訓は活かせる。奴らを信じてやれ、二人共。お前らが心配してくれているとわかれば、連中はハッスルするさ。あとで差し入れでもしてやれ。づき型の艦長はお前らの古参ファンだぞ」

「えぇ!――?」

「あそこの艦の艦長の多くは俺の防大の後輩だしな。20年で艦長になったのも多いぜ、俺のいた頃の防大」

2019年にもなると、黒江の在籍していた時代の防大卒業生は艦長クラスに栄達しており、見かけが変わらない黒江を先輩と仰ぐ者も多い。そこも黒江の恐ろしさであり、空自に同時入隊した者も高級将校に登りつめている。黒江は見かけの変化がないのをネタにしつつ、同期で一番の出世頭である事や、立場上、三自衛隊に顔が利く。そこも強みであった。

『統括官。こちらの護衛艦に降りられては?』

『プロペラントの心配はないから、先にガキ共を休憩させてやってくれ。ヘリを格納させておけよ?結構幅食うから』

『連絡します。すごいですね、実物のエクスカリバーは』

『サヨク連中が驚いちまうな、こりゃ』

『弾薬であれば、補給はできますか?』

『ミサイルとガンポッドの弾丸は変わりないからな。余ってれば、ガンポッドに装填しといてくれ』

黒江は通信に返事をし、二人をいずも型護衛艦に向かわせ、自身はファイターに変形し、上空まで来た後、ガウォーク形態で着陸するつもりだ。ちなみに、黒江の機体のガンポッドは口径縮小と引き換えに弾数を増やした試作型であるが、基本的には標準型と中枢部分は同じである。これは20ミリ弾のほうが今回の戦場では融通が効くためで、標準型も用意してあるし、サンダーボルト用の長砲身タイプも用意してある。ガンポッドは基本的に規格が一致さえすれば、使う機種が違っても一定の融通が効くため、自衛隊でも補給は可能だ。また、バトロイド形態のみで抱えて撃つ大型タイプもあり、フルアーマードサンダーボルト用のガンポッドがそれに当たる。こうして、黒江はいずも型護衛艦にF-35より先に着艦するという名誉を賜る事になり、智子より先に休憩に入るのだった。







――ダイ・アナザー・デイに従軍する事になった花海ことは。扶桑からのミデア輸送機の定期便に乗り、64Fへの補充要員扱いで前線へ赴いた。のび太は日本政府の依頼で扶桑国内に潜り込んだ『不満分子』の暗殺を依頼されたため、ことはが乗る便には同乗しなかった。『プリキュアオールスターズが従軍している』という一つの事実は、日本がウィッチの新規志願の敷居を当時の平均的な女子の教育水準からすれば、一段高くしてしまったため、実質的にそれを代替しうるものを扶桑が求めた結果の表れであった。『大卒相当のインテリであり、なおかつ軍隊の純粋培養ではなく、戦前の日本軍人のように暴走しない、特別な政治思想を持たない』という戦後日本人の求める『理想的な職業軍人』像にプリキュア出身者が合致した事もあって、プリキュア・プロジェクトは公式に『日本連邦軍の最重要プロジェクト』と位置づけられた。その決定の兼ね合いで、ドリームは公式には『キュアドリームの力の継承者』と扱われる。後輩のメロディ、ハッピーと同じ扱いである。支援者を含めての勢力として、既に政治的にも影響力を持つ昭和仮面ライダー達、ゴレンジャー以来、時たま公的機関が設立するスーパー戦隊と違い、プリキュア達はなんら、政治的バックアップを持たない。警察では、仮面ライダー達などのヒーローの戦闘の違法性は1970年代当時の日本の防衛・警察関係者の合意で棄却されているが、ヒロイン枠であるプリキュアは暗黙の了解である、その同意の担保を受けられる保証が無かった。その不安があった扶桑皇国軍は『数名が転生した姿で、元から軍に籍があった』事を活用し、プリキュア達の身辺警護を兼ねて編入していった。日本国内でプリキュアの実在が確認されてからは、世論に色々な意見が生じたが、日本の政治勢力がプリキュアの活動を封じる事が懸念されたため、扶桑皇国軍はその前に手を打ったのだ。警察関係者(高官)は『自分達に一報をしてくれれば、仮面ライダー達と同等の扱いで、プリキュアの活動を認めたのに』と愚痴ったとされる。しかし、『1970年代に結ばれ、忘れさられつつあった暗黙の了解的な内規が21世紀に通じるとは思えない』とは武子の談。実姉の死の遠因になった警察を嫌う気持ちが妙実に表れた点だが、武子の実姉の病死の原因になった(駐在所のある巡査が武子の姉を洋風の私服姿だったために不埒であるとして牢に入れた。軍人であると分かった途端に平謝りで釈放した)と聞かされた内務関係者はバツの悪い思いをしたという。それもあり、日本連邦・国防会議での内務関係部署の発言力は低い。軍部で最もあてにできる部隊の責任者が大の警察嫌いというのが誤算であった。その出来事は次女であった武子の人生を大きく変えてしまったため、トラウマもあり、警察嫌いである。黒江としても困ったものである。黒江が自分でコネを作らざるを得なかったのも、武子の警察嫌いで、連携に支障が生じかねなかったからで、切実な問題である。これは赤松と小園大佐のお叱りで『仕事中は抑えろ』と諌められた事で解決する。武子は基本的に分別があるが、慕っていた長姉(10歳は離れていた)の事になると、ムキになる。そこが弱さだろう。







――当時はレシプロストライカーの生産が徐々にジェットストライカーに切り替えられていった時期で、生産ラインの移行での不手際も多く、64Fほどの部隊でも、非合法な機材確保に走る必要があったのだ。補給部品の枯渇は如何ともし難く、その関係で、黒江と智子はVF-19で出たのである。従って、黒江達は意外に、ウィッチ本来の姿での出撃は少ない事になる。激戦ほど、物資や機材の消耗は激しい。64Fの猛者であっても、あちらこちらに引っ張りだこでは、すぐに物資は尽きる。この頃には、各統合戦闘航空団から引き継いだ物資は既に使い果たし、燃料は既にジェット燃料や宇宙用プロペラントなどに切り替えられ、陸戦機材用燃料を新規で調達するなど、64Fは連合軍からの乏しい補給よりも、むしろ、地球連邦軍からの補給で部隊運用を賄っていた。連合軍の輸送網はリベリオンの分裂でズタボロになっており、当時の連合国の輸送機では、ダイ・アナザー・デイに従軍する部隊の物資補給はままならない。地球連邦軍がミデアやガルダを飛来させ、弾薬のみならず、機材や燃料を輸送していた。もちろん、連合国のメンツは丸潰れだったが、欧州は疲弊しており、輸送網が機能しなくなっているところも多く、地球連邦軍のバックアップを受ける日本連邦とキングス・ユニオンだけがリベリオンの輸送網が使えなくなっても、比較的潤沢な補給を受けられた。ドイツ領邦連邦がそれに加わったのは、国内の政治情勢が落ち着いてからである。イベリア半島への安全な輸送ルートは空しかなく、海は潜水艦が跋扈するため、連合国の時代相応の輸送船では危険極まりなかったため、地球連邦軍の輸送機を使っての輸送に切り替えていた。そのおかげで一応は量が増加し、戦線の輸送網は機能回復し始めている。ガルダとミデアを使えば、どんな戦車も輸送可能であり、そこもイベリア半島へのセンチュリオンとコンカラーの迅速な配備に繋がった。ことはは定期便のミデアで休憩を入れて、数日をかけて(敵制空権下の空域を避けたために時間がかかった)欧州へ赴いたわけだが、途中で敵の襲撃を受け、敵のP-38、P-39の襲撃を(本国側についたリベリオン派遣部隊)を受けた。ミデアはジェット機であるが、自衛武装は1945年次の爆撃機と大差ないものであるため、ことはは変身して航空部隊に対応。この時が彼女にとっては初めての光子力とゲッター線の力を公に行使した戦闘であった。


『ショルダースライサー!』

ロンド・ベルの荒くれ者共や黒江達の濃厚な『ドワォ』教育を受けた結果、ことは/フェリーチェは空中元素固定能力を手に入れた。その能力を使い、ショルダースライサーを作り出し、それを武器に空中戦を行う。元から飛行が可能であったが、空戦機動の猛者たちに時間をかけて鍛えられたため、真ゲッター2を思わせる『鋭く、慣性の法則無視の幾何学的機動』を披露し、二刀流の剣での回転斬りや、十文字斬りを行うなどし、P-39やP-38と単身で戦闘を展開する。当然ながら、機動力で上であるので、のび太の教えを守りつつ戦う。

――回想―

『はーちゃん、モハメド・アリって知ってるかい?』

『元ヘビー級の世界チャンプでしょ?世界最強と言われた…』

『その彼の現役時代の戦いぶりをみんなはこういったんだ。蝶のように舞い、蜂のように刺すってね』

『のび太君、それ、前にボクが言ったじゃないか』

『覚えてたのか』

『もう三年は昔の事だけどね』

のび太は往年のヘビー級チャンプ『モハメド・アリ』を引き合いにだし、フットワークで翻弄し、相手を強烈な一撃でノックアウトしろと説く。のび太がかつて、ドラえもんから道具の説明をされる時に、ドラえもんが引き合いに出したモハメド・アリだが、ドラえもんの時代でも、彼の名は不滅らしい。

『重戦車みたいに受け流すだけじゃ、限界が来るんだよ、はーちゃん。ボクとジャイアンの喧嘩を思い出してみな。ボクはスウェーを覚えた。ジャイアンの奴、小学生時代が嘘みたいにボクが避けるんでヒステリー起こしたろ?』

――

のび太が中学三年になり、ことはが中学に入学した年のことだが、のび太は15歳の頃にスウェーを覚え、ジャイアンのパンチを避けられるようになったことを引き合いに出した。その教えを守り、更に長い歳月でロンド・ベルの猛者たちの教えを受けたため、戦士としての実力はなのはやフェイトに比肩しうるほどになっていた。

『これで薙ぎ払います!!……ゲッタァァァビィィム!!』

自分の世界で攻撃魔法を覚えていなかった関係もあり、空間に満ちるゲッターエネルギーを胸の前で集束させ、ゲッタービームを放つフェリーチェ。レシプロ戦闘機は回避行動もままならずに薙ぎ払われる。

『死にたくなかったら下がりなさい!プリキュア・エメラルド・アロー!!』

キュアアクアの『サファイアアロー』のフェリーチェ版だがアクアと違い、根本の力がエメラルドであるため、ミントと同じく、緑色の輝きを放つ矢かつ、属性は風であった。これは大地母神としての力がZEROに破られた後に『変質したもの』でもあった。その都合で以前よりピンクチームに近い気質になっていると言える。(のび太曰く、癒やしの魔法でも使えそうとのこと)それと、ドリームも気が付かなかったことだが、キュアミント/秋元こまちは23世紀世界のキューティーハニーに声が似ているとの事。

『貴方達がこの世界の人々の安穏と笑顔を奪うのなら……容赦はしません!!』

フェリーチェは戦闘機が発進してきた基地へなんと、『ストナーサンシャイン』を撃つ態勢に入る。構えは完全に真ゲッターロボのそれと一致しており、包むように構えた両手の中で周囲のゲッター線を集束させ、一つの光球に凝縮する。そのエネルギー量は真ゲッターロボと完全に同等であった。

『ストナァァァァ!サァァァンシャイィィンッ!!』

そのエネルギー弾を叫びとともに基地に投げつける。エネルギー弾が手前で着弾し、破裂した瞬間、基地は地面ごとえぐり取られていき、基地まるごとが地盤ごと宙に浮き、ひっくり返った後にキノコ雲が発生するほどの大爆発を引き起こす。フェリーチェの身につけた新たな力の発露であった。元の大地母神としての力は世界の滅亡で薄れたが、その代わりに、ゲッターの力と光子力の力を得た。それは愛する二人の仇討ちを強く望んだ結果であると同時に、『大地母神としてより、プリキュアとして戦う事を望むことは』の精神状態、ゲッターの力で滅ぼされた世界を再生させるための世界のエレメントを吸収しているが、まだ封印状態にある事が原因である。しかしながら、ゲッターとマジンガーの力を行使することで、総合的戦闘力はZEROとの遭遇時の比ではない。ストナーサンシャインのみならず、カイザーノヴァをも使用可能であろうことはフェリーチェの纏うオーラが光子力のものである事で容易にわかる。姿そのものは以前のままだが、ストナーサンシャインを放つという事実は以前と異なる方向性で強くなった表れで、以後、キュアフェリーチェは技と破壊力で『ロボットガールズ顔負け』として鳴らすのであった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.