外伝その381『戦場の日の丸』


――戦いは総じて、膠着状態にあった。戦場は次第に零式と隼が主役の空から、雷電/紫電改/烈風の世代が主役となった。欧州では太平洋戦線ほどの航続距離は必要とは見做されていなかったが、戦闘行動半径の広さは戦略的な武器であり、当時、実機のP-51DとP-47が現れていたとは言え、全体的な練度不足でせっかくの長めの航続距離を活かせないのに対し、連合軍の主力を担う日本連邦のパイロット達は熟練者も多く、比較的長距離の作戦行動もこなした。練度の優位は史実米軍の高性能機を『猫に小判』とするのに充分な威力となった――







2019年で流されるニュースで伝えられる空中戦での日本連邦の圧倒的優位。零式と隼は保守部品の関係で次第に数が減り、紫電改とキ100が入れ替わるように主役に躍り出た。史実でも実績がある同機種は日本側の記録より数段上の高速を発揮した事もあり、戦場での整備力の関係で、カタログスペックを発揮できない事すらあったリベリオン戦闘機への強さとして現れた。(これはウィッチ関係のほうが花形であった都合、通常兵器の整備は軽んじられており、整備力が高めのリベリオンと言えど、数の増大で整備力の質が低下している)連合軍は日本連邦が空軍主力を担う状況を改善したかったが、桁違いの航続距離で駆け引きが行われる日米の戦いに介入できる余地は無く、それまで世界最強を自負していたカールスラント空軍の凋落の始まりと揶揄され始める。当時の主力機種が日米の開発競争で尽くが陳腐化したからだ。

――駐屯地――


「カールスラント空軍はこの空中戦にはお呼びじゃなくなりつつある」

「そりゃ、実機の更新速度が遅いのに、日米が史実以上の速さで兵器をとっかえひっかえすりゃ、ウチなんかお呼びじゃないさ」

「それどころか、日本は空母でトムキャットの試験中だ。そうなると、うちの国の航空産業は死に体になるぞ?」

「日本はアメリカの援助で第四世代機まで出すつもりだ。日本は『アメリカはその気になれば、ファントムまで短時間で出すに決まってる、ムキー!』って懐疑心でどんどん機材を更新してるんだ。この分じゃ、次の戦線じゃライノが飛んでるかもね」

「シャレにならんぞ、ハルトマン」

「ウィッチは嫌われ者だからね。日本に怪異が出たのが幸運だよ。完全な排除はこれでできなくなったし、こっちの服装を気を使えばいいだけだ」

「しかし、日本はなぜそんな事まで干渉するのだ?」

「戦後で流行ってるフェミニズムもどきのせいさ、坂本少佐。プリキュアにまでケチつけるご時勢だよ、2019年は。それに、ウィッチに認められてた待遇面の優遇も無くそうとしてるから、クーデターは確実さ。鎮圧するにしても、危険手当の維持、昇進に必要な日数の短縮しか認められないだろうね。初期任官が少尉に跳ね上がる代わりに」

「それは各国が既に予測している。扶桑では、坂本、お前の世代を中心に反対が起きるだろうが、諦めろ」

「分かっているさ。これも時代の変化だ。前史と違って、政治にはできるだけ関わりたくないんだがな」

坂本、ラル、ハルトマンの三者は休憩室で話をしていた。坂本は政治に興味を無くしていると明言し、日本のフェミニズムの隆盛に振り回される扶桑を憂いる。坂本の代から数世代ほどのウィッチは『伝統に凝り固まっている』ため、クーデターの中枢を担うであろう事はダイ・アナザー・デイの時点で既に予測されており、扶桑の旧国旗と軍旗を叛逆の旗印に使う事は明らかであった。

「うちの旧国旗と軍旗が変えられたのにも不満を持っているからな、連中は。旭日旗と日の丸はこちらでは逆に馴染みがないが、日本連邦憲章で決められた事だからな」

「民間で使える分、まだ配慮したほうだよ。旧国旗は民間船や航空便ででの使用規制はないんだし」

「仕方ないさ。それに、ティターンズはライノのレプリカを緒戦で使っている。日本が矢継ぎ早に戦闘機を更新するのはわからんわけでもないが、早すぎる」

「ティターンズも緒戦で使ってからは温存していることからも分かるように、ミサイルなどはおいそれ補充も効かない。それで日本も疑心暗鬼が多少は収まったんだが…」

「日本も強制はしていないんだろう?軍艦旗も第一戦隊や第一機動艦隊には義務があるが、それ以外にはないと聞くが?」

「若いのが誤解してるのだ、グンドュラ」

「この頃の若いのは、一昔前のことすら調べんからな。ミーナのアレは私心も入ってたが」

「ミーナが侘びていたから、あまり触れてやるなよ、グンドュラ」

「分かってるさ。次期総監としては、日本に探りを入れたいんだよ」

「しかし、あいつを先手を打って降格させといた甲斐があった。危うく不名誉除隊だ」

「ドイツは神経過敏じゃないのか?」

「国粋主義を恐れてるんだよ、ドイツは。それで破滅した事が二度もあるしね」

ハルトマンの言う通り、ドイツは二度の敗戦で国粋主義を嫌う傾向が強く、グデーリアンやロンメルすら排除しようとしたため、現場は混乱し、カールスラントの面子は丸つぶれである。ハルトマンやマルセイユも『歯に衣着せぬ発言するから扱いにくい』とされ、召集解除が検討された。二人の前途を憂いたガランドが先手を打ち、配下の部隊をまるごと予備役にし、義勇兵として扶桑の管理下に移したのである。

「私は総監になるが、お前は予備役になったからな、ハルトマン」

「うん。44JVがまるごと扶桑の管理下になったからね。カールスラントがなんとか、予備役として名簿には記載し続けるから、カールスラントの軍服での勤務を許可することが取り決められたよ」

「いいのか?」

「カールスラントも人材の流出を恐れてるんだ。ドイツが大鉈を振るったせいで、国内はガタガタ、外地部隊も撤兵だよ。今や申し訳程度の人員と部隊しか置けないから、その部隊にレーヴェとフッケバインを回そうとしてるんだよ」

「軍需産業の保護か?」

「そうだ。ウチの軍需産業はゲーリングのデブヤロウのケチのせいで怒った日本側の報復で戦車や飛行機が尽く旧式化したからな」

「事の発端はなんなんだ、グンドュラ」

「事の起こりは液冷エンジンのライセンス契約の時のゴタゴタだ。日本の逆鱗に触れたのがシュワルベの設計が初期型だったからなんだ。普通に考えて、最新型を渡すか?だからって、トムキャットをこれ見よがしにテストするか?」

「日本は同盟国なのに情報開示を渋ったからって、国際司法裁判所に告訴するって宣言してさ。扶桑とカールスラントは同盟じゃないんだけどなぁ」

日本は変なところで行動力があるため、カールスラントは困惑した。国際問題化を恐れるドイツがカールスラントに格安でライセンスを提供させる(後進にあたる企業にライセンスを提供させる)事で手打ちにしたが、日本は扶桑にアメリカ製軍用機をどんどん作らせる事で事実上の報復を行った。アメリカもそれに加担したため、メッサーシュミットMe262は一夜にして『時代遅れ』と化した。ダイ・アナザー・デイに投入されたF-86、F-104J、F-4EJ改はその報復も兼ねていた。

「そこを日本の外務省は無知なんだよ。あと、防衛装備庁。数がねぇのに、ファントムやマルヨン送ってこられても、パイロットの訓練が追いつくかよ」

「あ、ケイ」

「よう」

「あーやは?」

「特訓中だよ。ガキどもをしごいてる」

圭子が入ってきた。広報写真の撮影帰りなため、珍しく素の容姿かつ戦闘服姿だ。

「お前が戦闘服姿なのは久しぶりだな」

「広報がどうしてもっていうからな。恩を売っといた。ちなみに、42年の覚醒ん時はこれで暴れたが、マルセイユがガキみてぇにぶるっちまってな」

素の容姿に戻っていても、すっかり身についた三白眼と粗野な言葉づかいはそのままであるため、坂本は懐かしそうである。事変の時はこれがデフォルトであり、短気で粗野な性格が見かけの良さを壊していると評判であり、そこも異名がついた理由だ。

「ケイ、元に戻っても目つき悪いぞ」

「今回はそうしてるんだよ。イイ子ちゃんはもう辞めたんだよ、アタシは」

キュアルージュがのび太と話している裏で、ケイは広報に恩を売っていた。出向中の縁という事を広報が利用し、圭子もブロマイド売上のペイなどで取引を行ったのだ。

「猫かぶりが上手いからな、こいつは」

「江藤隊長には問題児扱いだったけどな。年長だったからっていうんで、アタシはいの一番に怒られてたぞ」

「お前、あの時には17だったしな」

「知るかよ。隊長だって、19のガキだったくせに」

「言ってやるなよ。聖上に問いただされて顔面蒼白だったって、陸奥から聞いたからな」

「あん時のスコアを減算しやがった罰だな」

圭子は以前と違い、上官へ悪態をつく事も躊躇うことはない。むしろ、圭子は江藤の行為を疎んじていたと取れる。

「お前、遠慮が無くなったよな、本当」

「教科書通りの指揮しか取れねぇ上官にホイホイついていきゃ、命がいくつあってもたりねぇからな。あたしらだけを率いてるわけじゃなかったしな、あの時。まっつぁんの姉御達のほうがよほど尊敬に値するぜ」

圭子は当時の江藤の指揮を『教科書通りの指揮しか取れねぇ』と酷評しており、事変当時は独断専行が実は黒江より多く、『兵隊やくざ』と同期は渾名しているほど素行が悪いことで通っていた。前史以前と違い、事変時は江藤の部下としてよりも『赤松や若松の舎弟』として有名であった。

「まぁまぁ。あの時の士官は全員が経験不足でだったんだ。江藤さんはマシなほうだ。そんなだから、兵隊やくざって言われるんだぞ、同期に」

圭子は事変時は素行が悪いことから、『兵隊やくざ』の渾名もついていた。当時の陸軍では異端児扱いだったが、扶桑陸軍ウィッチの主として当時から君臨していた若松からは『小僧』と呼ばれて可愛がられており、事実上の後ろ盾だった。

「若さんが後ろ盾になってくれなきゃ、あん時の浦塩防衛は成らなかったぜ。綾香が意見具申しても『ヒヨッコのお前らに何が判断できるか』の一点張りだった。お前はあん時はガキだったから見てないが、江藤隊長、かなりテンパってな。北郷さんもお手上げだったから、若さんとまっつぁんに来てもらってボディランゲージだった」

「お前ら、大先輩をホイホイ呼ぶなよ」

「しかたねーだろ。勤続年数が少ない少尉の言うことをまともに取り合ってくれるか?まっつぁん達なら、メンコと経歴で意見が通る」

黒江達は当時から、赤松と若松を電話一本で呼びつける事ができるため、江藤は途中から言うことはなるべく通した。どういう風の吹き回しか、自分がシゴかれるからだ。

「それに、あの二方なら、上層部にも当時から顔が効く。あの二方は事変の最大の功労者だぞ、坂本」

ラルも言う。江藤の覚醒は遅れに遅れたが、逆に言えば、彼女に司令官としての度量をつけさせるための道と考えれば合点がいく。二代目の時代における記録では『ベトナム戦争当時の空軍司令官にして、中興の祖』と讃えられているのだから。

「ま、ウチのガキの時代の記録じゃ、隊長はナムの時に司令官だそうだしな。下積みを十数年させるって考えりゃいいか」

「百合香から聞いたが、お前らの後継ぎはイラク戦争の時の新兵か?」

「芳佳のガキが湾岸戦争ん時にちょうど教官で、キャリアの末期くらいだから、その十数年後に入隊したから、イラク戦争くらいに初陣だ」

二代目レイブンズはイラク戦争当時に16歳前後の世代で、頻度は少ないが、空戦で活躍。『レイブンズの再来』として名を馳せ、坂本の孫が適齢期を迎えた頃には部隊の幹部に就任している。初代の血縁者ということで、その才覚を疑問視されるが、実力は本物である。


「ガキどもの時代は2000年代で、怪異も少数精鋭の時代に入ったから、どうも実力が見せられなくて腐っててな。呼んでやった。機材を持ってくる条件で。本当は部隊ごと来たいらしいが、この時代のメンバーの血縁じゃない連中もいるからってんで、ガキどもから辞退が伝えられたよ」

「縁故採用って陰口が付きまとわないか」

「少佐、あたしがいるのに、それいう?」

「すまんすまん…忘れてた」

「ケイ、辞退はもったいないって。有望株選抜して二個フライト連れてきなよ。その時代は元帥なんだし、軍部もすぐに折れるって」

「その手があったか!お前、天才だ」

「いや、普通は考えつくじゃん?」

「智子、折角の機会ってんで、F-15J改を使って飛んでるぜ。あたしらが定年の頃に初期型の配備が終わったくらいだったからな、あれ」

「えーと、形態二型相当の機体だっけ」

「ああ。ISやアリスギアとか、フレームアームズ・ガールに近いしな、戦闘形態は。巡航形態はバイク感覚だけどな」

F-15の世代のジェットストライカーは技術革新で可変機になり、国にもよるが、マッスルシリンダーとフィールドモーターが関節部可動に用いられる。第二世代機は重装備になったが、肝心要の機動力が火器管制装置などで損なわれていたため、ISやコンバットスーツなどの設計やMSの思想を取り入れての飛行パワードスーツとして変革した。黒江達はこの変革期に現役時代最後の大戦たるベトナム戦争が重なり、先行試作機で勝利をもたらし、制式型が普及した段階で定年を迎えた。先行試作機がベトナム戦争で使われ、熟成するのに更に時間がかかり、黒江達はF-15J前期型が最終搭乗機とされる。二代目の頃は既に最終型が普及しており、黒江達の時代より洗練された外見になっている。黒江達の時代よりより実機に近い巡航形態を持ち、戦闘形態のへの移行も早まっている。これは戦訓の蓄積、技術革新でマグネットコーティングが実用化されたためだ。なお、後継機のF-22は搭載量の関係で一対多戦には不向きかつ、最新鋭であるが故に持ち出せなかったという。

「22も使ってみたいが、ガキの言い分だと、大戦型の戦場に向かない搭載量なのと、管理が厳しくて持ち出せねぇとかで」

「あれ、22といえばさ、小直径爆弾は?」

「まだ配備されてねぇみたいだ。2005年位には制式採用のハズなんだが…」

「ま、あの時代は大規模空戦は想定してないしね。平和だし」

「あるのはトーネード、14、15、16だけど、ウルスラが使わないでくれって言うからなぁ。目隠ししきれないからって言って。そんな事言ってられないから使ってるけど」

「あいつは技術者がふてくされるのを気にしてるからな。却って、奮起すると思うんだけどよ」

「たぶんだが、自国の技術者の流出阻止じゃないか?ウルスラ、自由リベリオンが技術で主導権を握るのを嫌がってるし」

「はぁ?」

「カールスラントが軍事的に名を馳せてきたのは軍事技術開発が盛んだったからだ。ドイツはそれを制限するから、21世紀ドイツ軍みたいな惨状になるのは目に見えている。必然的にうちは軍事的に衰弱するんだが、ウルスラはノウハウが失われる事を恐れてるからな」

ラルの言うように、ウルスラ・ハルトマンはノウハウが失われることを何よりも恐れるため、ペーターシュトラッサーの返還に誰よりも反対した。ドイツはコスト面から空母保有を諦めさせようとしたが、ノイエ・カールスラントの立地的に空母保有は必要としたウルスラ・ハルトマンが旗振り役となり、バダンから鹵獲した空母の再利用を決めさせた。この時点でドイツも『立地条件等を考慮し…』と折れた。(これは一部のウィッチは戦前に空母着艦訓練を受けたりしたため、ノウハウが完全に失われた場合、一から再訓練すると、モノにするまでに世代交代が起きてしまうほどの歳月を必要とするためでもある)ただし、ノイエ・カールスラントは空母艦載機の知見がなく、ドイツもない事から、アメリカに教えを請う始末である。

「結局、同位国は自分達と同じ目に合わせないと気がすまないんだよね」

「そうだ。おかげでウチは組織としてガタガタだ」

「ウチはやること妨害されまくって、クーデターだぞ?戦艦は必要以上に頑丈にしなけりゃならんし、空母は搭載量多くしないと予算も通らん」

「仕方ねぇだろ?時代は超大型空母が花形だ。300mから500mないと役目が果たせないんだよ。超大型空母は超大国でないと維持もままならねえ兵器だ。だから、日本は潜水艦に力を入れろっていうんだ」

「潜水艦だと。この世界じゃ巡航ミサイルを撃ったところで効果は疑問だろ?通商破壊は既存のもので事足りる」

「日本は戦後式に切り替えようとしてる。だが、おいそれと、そうりゅうやおやしおを量産できるはずもない。既存の潜水艦の静粛性を改善する方法が妥協的に決まったんだと」

「日本の潜水艦は外洋型か?」

「まぁ、扶桑向けに改良はされてるさ」

「……紫電改や烈風を出せたと思えば、ジェットだし、連中はきりが無いな」

「連中は史実の開発速度で物を言うからな。通常兵器が遅れ気味のこの世界で、超音速戦闘機はオーバーだ。だが、連中は超音速での絶対的優位を志向してるからな」

「実際の空戦はせいぜい亜音速から遷音速だというのにな。F6Fすら敵は持て余し気味なんだぞ」

「ウチは『ドーラ』の生産すらもはかどらない内にジェットの時代だぞ。熟練者の動員もままならんから、ドイツに怒鳴ってやった。連中はユーロファイター・タイフーンを送るらしいが…」

「何、21世紀の一線機を?何を考えている?」

「ドイツが現地で使用させるらしいが、パイロットの育成に何ヶ月かかると思っておるのだ。作戦に間に合うとでも?」

「そう怒るな、坂本。うちだって、シュワルベやフッケバイン用に育成中の要員が遊軍化してるんだ。しかも、一撃離脱戦法前提で育てたから、ドッグファイトができるほどに小回りの効く後世のジェット戦闘機に乗せるには再教育が必要なんだ。しかも、誘導ミサイル付きとあれば…」

「だから、黒江は自衛隊から多数のパイロットを動員したのか。」

「それだって、かなりの抜け穴を駆使して、やっとこさだそうな。防衛装備庁はかなり追い詰められている。机上の空論を押し付けているも同然だからな。だから、あの方は防衛大臣との直接交渉で状況を打開しようとしている。少数の質のいい兵器が量に勝てないのは、史実の第二次世界大戦で照明されているからな」

黒江は自軍の量を増やすため、自衛隊のみならず、義勇兵を大量に雇用するように進言し、質の面でも『プリキュア・プロジェクト』を推進している。この頃の扶桑軍は欧州戦線を鑑み、防御力を重視して純粋な戦闘機の航続距離を切り詰める意向だったが、次の主要戦線が太平洋と見込まれた事、日本が戦闘行動半径の大きさにこだわった事で頓挫。扶桑としては欧州戦線に適応しようとしたら、太平洋戦線向けになれと言われたようなもので、混乱があちらこちらで生じた。太平洋戦線向けの戦闘行動半径は欧州戦線の数倍に相当するため、欧州戦線向けの訓練だけを積んだ部隊では対応できないからだ。その兼ね合いもあり、扶桑生え抜きパイロットはM動乱経験者のみが参加し、空母機動部隊の大半が義勇兵という状態で、母艦ウィッチは困惑中だ。

「母艦ウィッチが怖がってるんだが…?」

「近頃のガキは雰囲気に弱いな。義勇兵の連中は太平洋戦争を戦った猛者達だぞ。あれで気を使ってるつもりなんだぞ」

母艦ウィッチは直掩にのみ駆り出されているが、義勇兵は素行は良くない部類の荒くれ者が多いため、彼らを怖がっている。当時は母艦ウィッチの世代交代も進み、主力は14〜16歳の世代なためもあるだろうが…。

「一部の温厚で面倒見が良い者に仲立ちを頼んであるとは仰っていたが、どう出るか」


――と、幹部たちが話し合っている頃、キュアドリームはというと……――

「ひえええ〜!?どうしてこうなるの〜!?」

キュアドリームは黒江が特訓に参加させたのだが、彼女は今、歴代の昭和ライダーのマシンに追っかけ回されていた。新サイクロンとハリケーンが物凄い勢いで追っかけてくるため、生きた心地がしない。

「わわわわ〜!時速500キロ出せるマシーンで追っかけてくるなんて、ずるいですよぉぉぉぉ〜!」

顔面蒼白になって全速力で逃げ惑うドリーム。いくらプリキュアでも、超マシンが追っかけてくるというのは、たまったモノではない。

「あーん!普通のバイクなら、悠々振り切れるのにぃー!」

「逆にすごいぞ、それ」

二号ライダーが言う。プリキュアは基本的に瞬発力が高いため、市販されている普通のオートバイ程度ならふり切れるらしいが、段違い(レース用よりも加速力・トルクが倍以上ある)の性能を持つライダーマシン相手ではそうはいかないらしい。なんと、時速100キロを超えるスピードで走っているが、ライダーマシンはギアで言えば二速の範囲内だ。

「逆に言えば、君たちは時速100キロくらいは安定して出せるわけだ」

「変なところで感心しないでくださ〜い!!」

二号とV3のマシンに追っかけ回されて逃げ惑う身としては、生きた心地がしないらしいドリーム。プリキュアは平均能力値に歴代で差がそれほどないというが、実際は特性で差が生ずる。戦闘向けの特性であるプリキュア5はパワーアップを一回起こした後の能力値であるが、概ね『パーマンの一人よりはちょっと強いくらい』らしい。

「ふむ。パーマンより多少速い程度か」

「だな。時速120キロ台を安定して出している。パーマンよりちょっと速い程度か」

「なんで、比べるのがパーマンなんですか〜!」

「のび太くんの時代より10年前に活動してて、俺達も会ったことがあるからさ」

「え〜!?」

「バードマンは世界中からパーマンを集めて、バード星に研修に行かせてるとか言っていたが、ギャバンの星と同じかはわからん」

その辺りは調査中だが、のび太の子供時代に子役から大成した『星野スミレ』というスター女優がいるが、実はパー子/パーマン三号の成長した姿である。のび太が青年時代には結婚して休業中だが、おそらく、パーマン一号が研修から帰還したものと思われる。

「つまり、パーマンはのび太くんと同じ世界の?」

「そういうことになる。オバケのQ太郎ものび太くんの子供時代にいたの見たよ」

「えぇ〜!?な、なんですかそれぇ〜!?」

「逆に言えば、俺達の世界は『少し不思議』が溢れかえってるんだよ。だから、君たちが変身したままで街をうろついても平気なんだよ」

「俺達の現役時代、変身した姿で養護施設を訪問してた事が効いてる気がしますね」

「ああ。それがきっかけかもしれんな」

古くは歴代仮面ライダー(7人ライダー)が立花藤兵衛の言いつけで、養護施設に訪問する事を始めた事(最初のうちは仮面ライダーでも職務質問を受けたらしい)がのび太の世界の人々にヒーローやヒロインの活動が認知されるきっかけだった。仮面ライダー達が活動を休止していた時期にパーマンが現れた事ものび太の世界の日本人がそういった存在を日常の一部と認識するきっかけとなり、のび太の少年期には、調がシンフォギア姿で生活しようと、フェリーチェが普通に飛ぼうが、問題はなくなっている。

「ああ、一つ教えよう。キュアフェリーチェは2001年に連れて来られたが、その頃にはプリキュアは存在しなかったから、魔女っ子と認識されていたよ」

「ま、魔女っ子……?」

「魔法少女って言葉が普及したのは、なのはちゃんの時代あたりからだし、むしろ当時は俺達も使っていたよ。魔法少女という言葉はマニア向けだったしな」

V3の言う通り、少年のび太とフェリーチェが出会った2001年頃に『魔法少女』という言葉はまだ普及していないため、仮面ライダー達も『魔女っ子』と表現していた。プリキュアが生まれたのは、フェリーチェが養子縁組で正式に野比家の一員になった一年後のこと。その当時、フェリーチェ/ことはは『TVでなぎさとほのかの現役時代を見る』という不思議な体験をしている。ことはが中学一年、のび太が高校に入学した年のことである。のび太は大学受験の都合でスプラッシュスターと5の初年の時期はプリキュアを見れなかったが、Yes!プリキュア5GoGo!からは視聴を再開している。また、プリキュアが認知された時代になると、フェリーチェは『未知のプリキュア』とされてきたが、2010年代半ばにアニメが放映され、正体が知れ渡ると有名人になった。そこものび太への中傷に関係している。

「わたし達の事もはーちゃんはTVで…?」

「一期はのび太の大学受験で見れなかったらしーが、二期からは見てたよ。それにお前らとは面識があったから、面白かったと言ってたぜ」

「先輩、はーちゃん、もしかして見たんですか、映画」

「スネ夫が見せたらしいぞ。せがまれたんだけど、その日は裁判があって、連れていけなくてな。スネ夫に頼んだんだ」

黒江がジープを運転しながら言う。つまり、のぞみがココとキスを交わすシーンが有る映画をことはは観客側で見ていたのだ。しかもスネ夫がミラクルライトをちゃんと買ってやったという。

「うわぁあああ〜!は、恥ずかしーーーー!!はーちゃんがまさか、まさか、見る側に…」

「それでなんだぞ、お前が2018年の映画のシナリオ書き換えるのが通ったの」

「え、え!?」

「スネ夫から聞いたんだが、はーちゃん、あの雰囲気だから、目立ったらしいんだ。ちょうど同じ上映に制作会社の人がいて、スネ夫がはーちゃんがプリキュアの一員だって教えたらしくて」

「ああ。俺たちも聞いたな。制作会社のお偉方に元少年仮面ライダー隊の隊員がいたから聞けたんだが」

ことはがプリキュアである事は、のぞみ達の映画を見に行った時点で制作側にも把握され、後にのぞみ自身が制作会社を電撃訪問した際に話がすんなり進んだ要因となった。(23世紀に伝わる小田急沿線の謎の結界の中の超人伝説の三割ほどは扶桑に転生したプリキュア達が残したものであると確認された)スネ夫が2010年代末に会社を立て直し、アニメ業界にも完全に影響を及ぼせるようになっていたため、トントン拍子に2018年の映画のシナリオはドリームが初代に次ぐ中心として活躍するように書き換えられた。(その関係でHUGっとの活躍シーンが減ったらしいが)

「あんまりトントン拍子だから、変だなあって思ったけど、はーちゃんのおかげなのかぁ」

「はーちゃんのブロマイドはウチの売れ筋だからな。お前はピンクの中じゃトップだぞ」

「喜んでいいのかわかりませーん!」

「喜べ!自衛隊のお友達にバカウケだぞ!それと、コージも笑ってたぞ」

「先輩、ココになにを話したんですか〜!!」

「色々とネタを聞いといただけだ。それとあいつ、お前を今度は守りたいって言ってた。声色的に烈火の鎧は武装できんじゃないか?」

「え、えぇ!?」

「妖精じゃなくなってるわけだし、武装できたって不思議じゃない。輝煌帝も纏えるんじゃないか?」

色々とコージの声帯の妖精さん関連の推測を話す黒江。彼は自分が戦えない事を心から悔やんでいた。その心が転生後にサムライトルーパーの資格という形で具象化したのか。まだ憶測の域を出ない。そうだとすれば、彼は『仁』の心を持つはずである。(この時点では智子が継承者であるが)

「な、なんで、ココが!?」

「彼は自分が無力な存在であることを悔やんでいた。その仁の心でサムライトルーパーの資格を継承していても不思議じゃない」

ドリームは信じられないという顔を見せるが、最愛ののぞみを自分の手で守りたいのがココ(小々田コージ)の本心である事はのぞみも知っていた。だからといって、サムライトルーパーの資格を得れるほどのものなのか?それはまだわからない。だが、ココに自分が辿った生き様を『知られた』事に哀しさをも感じるドリームであった。二人の正式な再会はいつであろうか。黒江が示唆する『サムライトルーパーの資格』。それを彼は継承したのだろうか。いくつかの謎を提示され、混乱するドリームだが、これからが特訓の本番であるのはいうまでもない…。



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