外伝その395『図上演習と戦闘7』


――連合軍は音波兵器『G&S(ジーズ)』という名称でジャイアンとしずかのセッションが録音された音源を投入する手筈となった。ジャイアンとしずかのセッションの破壊力は『プリキュアを無残な形相で失神させる』ほどなので、常人が長い間聞いていると、本当に命に関わる。(ジャイアン単独の場合でも、失神が相次いだ実例がある)静香はバイオリンは壊滅的だが、ビアノはプロ級なので、なんで、ピアノを極めないんだと愚痴られており、俗に言う『下手の横好き』の部類だった。ジャイアンは変声期を経た後は歌声が僅かに変化し、以前のような破壊力は無くなっている。従って、音波兵器に転用可能な歌声は『小学校時代の歌声』という事になる。(普段の声にあまり変化はなく、外見上も30歳からは威厳のためか、ちょび髭を生やしただけである)二人のセッションの凄まじさはネット時代にはある程度は知られていた。だが、並の機器では二人の出す音に耐えられずに破損してしまうため、ネットに上げられている動画は少ない。21世紀中にはその謎は解けなかった。23世紀に入り、歌エネルギーの研究が進むと、二人の出す音のベクトルが図らずも『人を不快にさせる』方向だったと判明した。兵力不足に悩む連合軍に音波兵器として転用されるのもやむなしだった――













――ダイ・アナザー・デイ中に問題になったものの一つがウィッチの昇進速度と戦功の兼ね合いで、ミーナの一件がきっかけとなり、21世紀側の提言が受け入れられ、ウィッチの戦功昇進に一定の規制がかかるようになった。レイブンズらの戦功が凄まじすぎて、将官にまで達してしまったのもあるが、ミーナが無知を晒し、隊内の不和を招いた事は問題視され、戦功昇進に一定の規制が設けられた代わりに勤務権の拡大で釣り合いが取られた。Gウィッチは基本的に規制がかかる前に佐官や大尉にまで昇進し、かかる頃には非公式に勤務権の拡大がなされていたので、その恩恵を最も受けた。それが規律に比較的に厳格なサーシャが『不適格』とされて追放された理由の一つだ。政治的には、戦功昇進を防衛省と人事院がまったく考えていなかったのも、この制度が考え出された経緯がある。戦功昇進が敗戦で絶えてから、有に100年近くも経っていたため、生存している功績のある軍人を現役中に労うという考えが殆どなく、戦功昇進の議論が長引きそうなので、現場の士気の維持のために始められる。その兼ね合いで、野党が廃止を公言していた従軍記章と金鵄勲章、武功章の授与が現場で活用されていく。従軍記章については『扶桑海事変従軍記章』の創設と授与で、扶桑系古参ウィッチの経歴証明をすることから始められた。この記章は何度か創設が議論されたが、その度に人事記録に記載されているということで頓挫してきた。だが、ミーナの無知が国際問題になったために、経歴証明ということで創設が遂に決まった。扶桑きっての英雄を冷遇されたとあれば、外交筋からカールスラントに抗議が行くわけで、ドイツが顔面蒼白になり、ミーナはあわや、軍法会議で不名誉除隊までが検討された。先手を打ったガランドが二階級降格をさせ、反省文を書かせ、給与の自主返納をさせたということで処理したとドイツ側に伝えた事で、ミーナは降格だけで処分が済んだ。勲章の剥奪も免れたが、正式な再昇進には時間をかける事は部内処理されたため、ミーナは当面の間は職責の兼ね合いで『中佐待遇の大尉』ということで落ち着いた。また、騒動の政治的責任を取る形で、ブリタニアから引き継いでいたカールスラントが501の管理責任国の地位を日本連邦へ譲渡した事から、501は64に事実上吸収合併された事になる。武子が総司令官であったり、幹部の五割が日本連邦空軍出身であるのが、その証明である。その一方で国内の混乱と、不手際で501での存在感を失ったのがオラーシャ帝国だった。革命騒ぎでの混乱と虐殺と亡命、ロシアの冷淡さが混乱に拍車をかけ、革命騒ぎの終結後に即位した皇帝はヒステリックにサーシャに多くの責任をおっかぶせた。ジューコフやコーネフといった将軍らの擁護も虚しく、彼女は僻地に送られた。その途上で日本人の暴漢に襲われ、目を負傷してしまうが、それがジューコフをして『革命最大の悲劇』と言わしめるほどの凄惨な事件だったという。また、そうなった要因の一つに元・502戦闘隊長として気を張るあまり、501の空気に馴染めなかった事、レイブンズの方針が『勤務時間外は限界まで羽目を外し、有事には最高の戦闘団になる』というものだったため、その事が理解できなかったのだ。また、後輩のサーニャが国よりも家族を優先する思考を持っていた事。うかつな一言がサーニャとエイラの逆鱗に触れ、その興奮冷めやらないエイラの強い提言に赤松も折れる形で『自発的移籍』の体裁で事実上の追放をせざるを得なかった。その代替人員が艦娘とレベル5の電気能力を発現させたグンドュラによって救出され、所属部隊が壊滅扱いになり、行き場を無くしたフーベルタ・フォン・ボニンになり、カールスラントはトップ10以内の撃墜王の大半を供出した扱いであるので、管理責任こそ放棄したが、プロパガンダには活用している。だが、折しも21世紀日本のフェミニズム運動に、ウィッチの雇用そのものが標的になって議論され、少年兵の問題とも絡んだ結果、日本連邦が最初に『1945年八月までに任官済のウィッチは特例として、その雇用を継続し、八月に軍学校在籍中の人員は教育期間の延長で対処する』とされた兼ね合いも64の平均年齢の高さに絡んでいる。兵科解消の検討はその一環だった。軍隊への風当たりは日に日に強くなり、21世紀世界から反戦思想が流れ込み、軍隊のウィッチの世代交代が政治的に堰き止められた結果、大戦世代はその後の数十年もの間、軍隊で絶大な影響力を持つ事になる(なお、最年少のルッキーニはクロエ・フォン・アインツベルンとしての外見年齢を申告した)――






――サーニャは九条家の養子に入ったが、実際はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンとして前線にいるので、この時期はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンとしての活動が主である。また、それに付き合う形でルッキーニも『クロエ・フォン・アインツベルン』として活動している。これはシャーリーがプリキュアとして活動し始めた兼ね合いで、ルッキーニなりの両者への配慮であった。フランチェスカ・ルッキーニとしてはできない事も、クロエ・フォン・アインツベルンとしてならできる(ルッキーニとしてより精神年齢が高いことも理由である)ためだ。また、ルッキーニの身体能力の高さはクロとしての戦闘能力の高さにつながっており、アニメより身軽に動ける分、強かったりする――



――トレーニングルーム――

「この私が幼子相手に……手も足も出ないだと!?」

「あいにくね、風鳴翼。鍛錬はいい心がけだけど、まだまだ青いわよ」

クロはトレーニングルームでのコーチも任務の内で、その能力もあって『白兵戦のできるアーチャー』であるため、気負いの感がある風鳴翼を圧倒する。翼は共同戦線の矢面に立つ事が求められた事もあり、時々、64に出入りしていたが、この日はクロに遊ばれていた。

「幼子だからと甘く見ないこと。それと、アヤカも言ってたと思うけど、あなたの攻撃は大味なのよね」

クロは身軽な動きで翼の剣術を意に介さない。クロは白兵戦能力は元からかなり高いため、干将・莫耶を苦もなく奮う。普段遣いの武器であるため、手慣れた手捌きで翼の刀を受け流す。

「君とは初めてのはず…なのに、何故…!?」

「あなたの攻撃は読みやすいもの。示現流的なものを感じるし、アヤカにいつもやられるのは、アヤカが示現流の免許皆伝者だからよ」

「なっ…!?」

「一年間も滞在してたんだから、知ってると思ってたけど、どうやら、わからなかったようね。それと、この武器だけど、干将・莫耶。お互いに引き合う夫婦剣とか、リア充じゃねーか!クッソ!と言いたくなりそうな宝具よ。確か、中国の剣だったかしら?」

「そんなものを何故、君が!?」

「アタシの魔術、属性が『剣』で得意魔術が『投影』実物じゃなく魔力の塊」

翼は驚きつつ、クロの動きについていく。シンフォギアを展開している事もあるが、意地もあった。クロの動きはルッキーニとしてのトリッキーな動きを応用したものかつ、速い。並の技能では切り伏せられるが、翼は鍛えていたために、対応ができていた。クロはハッタリをかましつつ、シンフォギア相手に巧みにに立ち回る。その様子を見ていたのび太。ここ最近はのぞみの結婚の準備などの兼ね合いで、キュアルージュと行動を共にしている。その更に隣には、立場上、シンフォギア側で黒江&調としこりがないクリスがシンフォギア姿でいた。

「すまねーな。急な要請で」

「いや、こちらとしても非番の子はいるから、ちょうどいいトレーニングになるよ、クリスちゃん」

「しかし、あたしらの事が他の世界でアニメになってるたぁ…。あのバカが喜びそうな話だよ。恥ずかしいけど…」

「それはあたしらも同じだし、お互い様よ」

クリスはここ最近、黒江&調との折衝役をマリアと交代で引き受ける事が多くなっていた。子供切歌はなのはの一件以来、ボイコットし、響は桜セイバー化しているため、装者としての活動は事実上縮小し、人数は三人に減っていた。彼女たちへのグッドニュースとして、十六夜リコがセレナ・カデンツァヴナ・イヴの転生体である事は知らされているが、実の妹がプリキュアに転職したも同然のマリアとしては、複雑らしい。リコとしても複雑だが、マリアを姉さんと呼ぶなどの気遣いをしており、立場上、シンフォギア装者には戻れないが、共同戦線はあり得るとは伝えている。

「でもよ、マリアの妹があんたの後輩に輪廻転生してたなんて、未だに信じらんないよ」

「あたしもそこの辺はまだ詳しくはわからないのよ。ただ、立場は変わっても、ソウルシスターって形でつながってるから、悪いニュースじゃないわよ」

ルージュは基本的に面倒見の良い性格なため、体育会系なところを理解すれば、すぐに打ち解ける。ルージュも生前にうかつなことを言った事があるが、それが失言として語り継がれているのは不本意であったので、最近は振る舞いに気を使っている。また、のぞみが自分との別れに耐えられずに『壊れてしまった』という経緯を聞かされてからは、一貫してフォロー役に徹している。短時間で苦労人ポジションを確立させたわけだが、同じプリキュアチームの仲間がりん以外にいないのぞみにとっては『家族』も同然であるため、デザリアム戦役で、のぞみが暴走するのは当然の流れであったと言える。(その事をうらら/レモネード、くるみ/ミルキィローズからは心配されており、デザリアム戦役で彼女たちが参戦する一因ともなった)ちなみに、りんは黒江に『お前があいつの安全装置になっている。お前に何かあれば、あいつは修羅となる。それを防止するためにも、くれぐれも無茶してくれるな』と注意されているが、デザリアム戦役でそれは起こってしまう。ここからは未来の出来事だが、のぞみはこの時期、生前の経緯から既にりんに依存気味であり、シャーリーやラブ、マナ、めぐみからその傾向を心配されていた。のぞみがシャーリーと同室になったのは、りんへの依存をりん当人のみならず、周りが心配していたからであるのが真相であり、シャーリーも、マナも、ことはも、めぐみも、ラブもその方面でお互いに心を砕いている。図らずしも、自分がキュアブルームの力を受け継いだ事もプレッシャーになっているのは間違いなかった。

「あんたの相棒は?」

「今日は勤務よ。あの子の事で考える事が多くて、最近は気苦労が…」

「あんたもかよ」

「お互いに世話を焼かせるってことよね…」

「だな」

妙なところで一致した二人。常識人ポジション同士でシンパシーを感じたか、シンクロしていた。

「ドラえもんが昔、僕のことで気苦労多かったのと一緒さ」

のび太も同意する。のび太自身、子供の頃はドラえもんにかなり気苦労を強いた自覚があり、それが就職まで続いたので、ドラえもんは痩せる事もあったという。のび太は小学校時代の頃と変わらぬ状態が中学のころまで続き、高校と大学で大きく成長を遂げた。それを指している。

「アンタ、ほんっとうに漫画の通りなんだな」

「違うのは、細かい過程だけどね」

のび太は他の世界と違い、二人の妹を持つ『兄』になって思春期以後を生きている。精神的成長が思春期から顕著になったのは『お兄ちゃんになった』事が大いに作用している。ドラえもんはのび太が以前に使ったウソ800の効力もあり、のび太が環境省に入省する日までそばにい続けた。そこが2010年代のコンピュータグラフィックス映画との最大の差異である。ドラえもんの滞在時間は15年以上に及んだ計算で、その時間の半分以上を調とことはは見届けたわけである。ちなみに、のび太の結婚直前の経緯は『のび太の結婚前夜』におおよそ準じているとのことで、調とことはは子供のび太とドラえもんについてくる形で、『のび太の結婚前夜』を追体験している。その際に、しずかの父の名言に感動して泣いたのは、結婚後ののび太夫婦にネタにされているという。

「この僕は他の世界と違って、兄妹の長男になったからね。子供の頃は漠然としか考えてなかったけど、僕は本当は一人っ子だったから、妹を持つことは生活が変わるきっかけだったよ」

のび太は二人を迎えたことで生活が一変した事をかいつまんで話す。調がのび太に全てを捧げた事は知らされていたが、同時に切歌の反感のもとというのも知っていたため、クリスは聞き入る。調が自分達と別れた後、どのように過ごしていたのか。時間と空間を超えた先の生活とは。

「外見は変わってないけど、あの子は僕のもとでほぼ20年は過ごしてる。年を取らなくなったって言うべきかな。綾香さんとの感応と『帰還』はあの子を変えたんだよ」

「年を食わないだと!?そ、それじゃ、あいつは……」

「あの子は僕の家を守ることで、入れ違いになって飛ばされていた先の世界の国を守れなかった事に区切りをつけたいのさ。騎士としてのけじめだって言ってるよ」

ベルカ戦争。ミッドチルダの記録によれば、古代に栄えたベルカという国があった。そこの『騎士』として生き、国の終わりを見届けたため、戦いに関しては一家言を持つようになり、ベルカ騎士精神を持つようになっている。ベルカ騎士としての誇りは強く、ベルカの戦争でかなりの敵を倒した事を、響がうかつにも、やや否定的に述べた際には語気を強めて反論した。それ以来、二人の折り合いは極めて悪い。(立ち塞がるのなら倒すのみとする調と、話が通じるのならば、まず話し合いを志向する響は相容れないのだ)ダイ・アナザー・デイ参戦後は響が調の心情を理解したので、調に自分の愚かしさが詫びたいと言っていたが、その前に精神侵食が起こったのだ。

「あいつ、詫びたいって言ってたんだよ。その矢先だったんだ。クソッ!」

「この戦いが終わったら、小日向未来ちゃんにも協力してもらって、あの子の意識を表に出させる。分離するのか、一体化するのかはわからないけど、とにかく、やらないよりはマシだよ」

「すまねぇ…」

「それをやるためにも、この戦いは戦い抜くしかないわよ。え〜と」

「雪音クリスだ。あんたは?」

「夏木りん。この姿だと、キュアルージュよ」

苦労人と常識人属性の二人の出会いはプリキュアとシンフォギア装者との交流が正式に始まった瞬間だった。







――一方、科学技術の流入と軍事利用は急激に進み、日本連邦とキングス・ユニオン、自由リベリオンを中心に、史実の戦後に開発された技術が次々と用いられた。戦闘ヘリ、MBT、イージス艦、誘導ミサイルなどである。列強の中でも矢面に立たされた国々は同位国から次々と技術供与を受けたため、当時の技術立国だったカールスラントは一夜にして、そのブランドを失った。レーヴェ戦車は基礎設計が純正のカールスラントのものである最後の戦車であり、カールスラント華やかりき時代の最後の輝きであった。そして、カールスラント装甲師団が単独で、戦前に想定された通りの活躍を見せたのも、ダイ・アナザー・デイが最後であった。この頃はカールスラント中心に染まっていた連合軍が日本連邦色に塗り替わる過程にあり、撃墜王たちのスコアは参考スコア扱いにされ、現場の士気は崩壊寸前であった。その代替として祭り上げられたのが日本連邦の古参兵のスコアの公表であった。ただし、これまでの非公認戦果の公認という形であったため、扶桑軍の人事課の面目丸つぶれ状態で、軍令部/参謀本部(この時期はまだ組織として存続していた)はカールスラント撃墜王の代替物を求める連合軍の方針に翻弄される事になり、中堅ウィッチ層の暴発を招く。だが、エクスカリバーや魔神双皇撃の映像が他国から入ることで、扶桑ウィッチの勢力図はGウィッチを頂点とするピラミッド型の構図に変わり始める。坂本としては不本意な結果ではあるが、既存の思想を破壊し、新しい思想を根付かせる事が手っ取り早い改革の道であるのは事実だ。いつの時代も昔語りは嫌われるが、実力をその身で示せば、誰もが認めるというのは揺るぎないものであった――








――坂本の憂いとは裏腹に、ウィッチ界隈に戦争の時代の空気で実力主義が根付いたため、単に階級が上なだけでは、部下がついていかない時代を迎えていた。その点、Gウィッチは戦功で実力を示しているため、部隊の一般構成員に模範を充分に示せている。21世紀からの横槍を防ぐため、幹部には一般隊員への模範としても、戦果がハイレベルに求められた。さらに言えば、のび太の随伴の意味合いも含まれており、これを無条件で満たせるのは幹部のみである。ウィッチの戦闘能力はこれまでは魔力の強さも関係して決まっていたが、21世紀/23世紀/30世紀(Gヤマト、アルカディア号)の三つの時代の世界から介入を受けた結果、戦争の形態が怪異との生存競争から、『あるべき姿』に回帰したため、それだけでは決まらない時代を迎えた。ティターンズは旧ジオンの研究を接収し、強化人間を研究していたのもあり、ウィッチ世界へ転移した残党はグリプス戦役の戦況打開のため、設立時から集めていて、ある地に集結させていた超人が幹部層を占めていた。表向きはガンダムファイトのためとして。その人員を指揮官として時たま戦わせ、歴代プリキュアを撃退していた。ドリームとピーチがステータスを現役時代より向上させてなおもボコボコにされている理由は一つ。『ティターンズがそれ以上に強い超人をぶつけているから』であった。現状、キュアハートのみが彼らと互角に渡り合うハイスペックを有するが、それとて通常形態では余裕がない。それをどうにかするため、黒江達は自身を鍛え、プリキュアたちに修行を課している。変身の恒常的な維持はその一環であり、変身時間に特段の制限がない事を利用した『鍛錬』であった。無論、プリキュア達は大半が役目を全うした後の時間軸からの転生であるが、基本スペックは把握されきっており、隙を突かれる事も多い。プリキュアとしてのスペックの限界を超える事が現在の彼女らの命題である。過去に歴代の昭和ライダーが挑み、成功させた以上、プリキュアにできない道理はない。彼女らは魔力を付随的に与えられたのもあり、一応は変身前でもウィッチ(使い魔と契約を必要としないため、正確には魔導師に分類される)能力を持つ。また、転生先でウィッチであった者がプリキュアに再覚醒した例も多いため、坂本は書類作りに一苦労している。しかも、同僚と部下がそうなったのだから――


――坂本の執務室――

「ご苦労さん」

「グンドュラか。カールスラント空軍総監になったそうだな」

「おかげで、一夜にして中将さ。今日は非番なんで、お邪魔してもらうぞ」

「お前、この状況を楽しんでいないか?」

「閣下がお辞めになられた後に、私を拘束する意味合いも含めて担ぎ出されたからな。今までの非合法行為を黙認する代わりに、空軍の管理運営をしろとさ。本来はデスクワークだが、私の今の性には合わんしな」

「今のお前は御坂美琴の同位存在だったな」

「そうだ。記憶と自我意識は目覚めたが、それでどうこう言える立場ではないのは分かってるさ。ただ、昔は届かなかった誰かの背中に近づけたって嬉しさはあるさ」

グンドュラ・ラルは衰退し始めたとはいえ、カールスラント空軍の総監という何気に重要ポストに押し込められた。『今までの非合法行為は黙認してやるから、カールスラント空軍の組織としての崩壊だけは食い止めろ』という命令で。しかし、当人は御坂美琴としての自我意識が覚醒していたため、ドイツに抗し得ないカールスラント政府への忠誠心はない。(過去生が日本人なので、日本への帰属意識の方が強い)

「今のカールスラント政府に忠誠を尽くすつもりはないが、皇帝陛下には個人的に恩義がある。そうでなければ、魔弾隊に入っている」

グンドュラは皇帝の裁量で非合法行為を黙認してもらったことから、カールスラント皇室に恩義がある。この時期、ドイツに意見を言えない惰弱な政府を見限ったものの、皇室への恩義から、軍に籍を置き続ける者は多かった。グンドュラはその一人である。カールスラント空軍は魔弾隊の結成に困惑しており、トップエースの大半が事実上、自分らの指揮下から外れたことに賛否両論だったが、まだ籍を置いていたトップエースの一人である彼女をガランドの推薦通りに祭り上げた。グンドュラは御坂美琴としての自我意識の覚醒でカールスラントへの帰属意識は薄れており、住まいも既に日本連邦に購入済みだが、皇室の懇願に折れ、総監に就任した。要は『好き勝手させてあげるから、籍は残して』ということだ。(カールスラント空軍中将の地位につき、事実上の元帥府たるG機関員になったため、彼女も後年、元帥位を授与されている)

「お前、将来は元帥だそうじゃないか」

「名誉的なものさ。お前とて、そうだろう?」

「転生者だからな。過去生の失敗を悔やんで転生したが、出来ることといえば、黒江の味方くらいなものさ」

「それでいいじゃないか。死を経験して乗り越えた先の未来が今だ。閣下と喧嘩別れして、真意がわかったのが今際でも、その先を神様は拓いてくれた。今、生きるこの世界は過去生の単なるやり直しではないし、世界を脅かす脅威もいる以上、やることは一つだ」

「宮藤の父上もそう仰っておられた。黒江と穴拭は彼に未来を教えていたみたいでな」

「おそらく、彼が吾郎氏に遺した第二世代理論の基礎は『未来を知った彼』が後代の人間に託した偉大なる遺産だろう」

「遺産、か。日本は軍部の横の繋がりをお上の御心を大義名分にして廃しようとしているが、完全に無くしたら、軍は機能しなくなるぞ」

「横のつながりをある程度は保つために、まともな軍人をY委員会に集めているのだ、坂本。そうでないと軍隊は機能せん。官僚的なところを、現場を知らんと嫌う傾向が強くても、そういうタイプがいなくては、組織は回せん」

グンドュラはそういう意味でも、裏方に徹するタイプも必要だが、ある程度は現場を知っていなくては、現場を混乱させるだけであるという。これは古今東西の組織にありがちなことだ。また、政治家や官僚も粛清人事の対象にしたことで、扶桑政府・外務省などの派閥が弱体化し、他国は外交パイプを理不尽に潰されるという衝撃に見舞われた。カールスラントに至っては、次世代の先進技術の流入で『技術立国のブランド』を失い、スオムスは日本連邦の『紐付き』にならざるを得なくなった。ブリタニアはコモンウェルスの独立に怯える羽目となった。

「スオムスは紐付きにならざるを得なくなったし、そちらは技術立国のプライドがズタズタだ。ブリタニアはコモンウェルスの独立を恐れている。この世界はウィッチの安定供給無しには国土の維持もおぼつかないんだぞ」

「だから、比較的に安定供給出来る地域のみに限定されるよ、独立は。先端技術で造られた兵器は列強ですらも、数を揃えるのに一苦労するんだ。ましてや、独立した小国にはまともな運用は無理だよ」

「電子装備は高いしな。それに、空母はこれからは大国でないと、単艦運用すらできなくなるだろう。」

「うちなんて、潜水艦の工場扱いにされそうだから、水上艦隊閥が不貞腐れてるぞ。水上艦は最近は鹵獲艦の再利用ばかりだし、空母保有はドイツに『出過ぎた夢を持つな』って言われてるからな」

「必要上、2隻は持たせられるから、安心しろと言え。ナチスから分捕ったグラーフ・ツェッペリン級の再整備は来年以降に終わるからな」

「情けない話だ」

「ガリアなんて、ペリーヌが復興に全力を費やせるだろうから、ジョッフル級は棚上げ、クレマンソー級も当分は造れまい。連合軍の安全保障には好ましくないが、ジェット戦闘機を長く運用できるに相応しい大きさは300m超えでなければならない。23世紀以降は400m超えも当たり前だ。アルジェリア戦争はガリアの負けだろう」

「ガリア海軍が聞いたら怒るぞ」

「超大和型戦艦すら登場した海に、ガリアの戦艦の出る幕はないさ。一回の斉射で轟沈だよ」

ガリア戦艦はこの時期、リシュリュー級戦艦が最強であったが、大和型を更に超えた戦艦に立ち向かえるようには造られていない。また、砲弾もあくまで当時の標準である均質圧延鋼装甲を貫くためのものなので、それより素材そのものの強度が遥かに高く、更に複合装甲かつ多重空間装甲化された超大和型戦艦には通用しない。(更に舷側の装甲厚そのものも800ミリを超える)それがガリア海軍の最大の誤算である。56cm砲は一撃で全てのリベリオン軍戦艦のキールを歪めるため、ガリア艦が耐えられるはずもない。

「信濃が戦艦になったのも、中途半端な空母にしかならないのが危惧されたのと、工数の問題だ。思ったより完成していて、艦橋構造物も組み立て終わって、最終艤装を残すのみになっていた。そうなったら造ってしまったほうが安上がりだ」

「なぜ、文句が出た」

「通常兵科がここまでのし上がるとは、誰も思ってなかったのさ。艦上機も一部ではジェット化されている。信濃でも大きさ不足だそうだ」



信濃が戦艦になった理由は表向き、『空母に改装しても、艦上機の大型化で中途半端になるから』ということであるが、ウィッチ兵科にとってはウィッチ兵科と通常兵科の運用が同時に出来るとして、信濃の大きさは欲しがられた。しかし、艦上機の大きさが加速度的に大型となり、信濃の大きさでも不足するため、空母改装は工程の多さもあり、正式に頓挫。姉妹艦共々、戦艦として完成し、逆に大活躍したという皮肉がある。

「やれやれ。沖縄は非武装地帯にするとかいう活動家が野党政治家を抱き込んで陸軍に嫌がらせするもんだから、首里城を退去させられたそうだ。逆に現地住民が困惑したよ。しょうがないから、那覇の地下に基地を造るしかなくなった」

「沖縄の非武装地帯化は無理だぞ」

「普天間と嘉手納の代替だよ。安全保障的に基地は必要だからな。地下に造るのなら、活動家共も文句は言えんさ。当面の問題はサボタージュだ。エディタ・ノイマン大佐の罷免で酷くなった」

「上の連中も困っている。噂が流れているから、その否定に躍起になっている。しかし、屠殺権が銃後に握られている以上、見せしめ代わりの人事が今後もなされる可能性は大きい。若い連中は怯えているよ」

「だから、黒江達に頼り切りなのか」

「仕方あるまい…。MATに移籍することは自由意志だ。止められはせんよ」


この決定はウィッチ世界の沖縄の非武装地帯化を目指した活動家達が現地住民の意志に屈した最初の事例であった。ウィッチ世界は世界遺産云々よりも、自分たちの生存を優先する思想があるため、未来人らが世界遺産という題目で各地の遺跡などを保護する事に全面的な賛成はしなかった。ただし、エディタ・ノイマンの罷免は現場に多大な衝撃を与えたのは事実である。『迂闊な事をいうと、軍法会議で銃殺刑もあり得る』という噂が流れた事もMATへの移籍を加速させた。秘蔵っ子部隊を前線に出さざるを得なくなったように、中堅層の流出は軍には計り知れない打撃と受け止められた。64Fの階級の階層が高めであったり、平均年齢が高いのは、中堅世代の穴をベテランで埋め、対外的なプロパガンダの必要から、それ相応の年齢が求められたからだ。

「18歳でロートルと言われた時代は終わった。そして、魔導師も出てきた以上、年齢などは些細なことだ。これからは私たちで戦線を支えなければならない。分散配置よりも集中運用を是としたのだからな」

「事変の時に、黒江達が戦力の集中を具申したからな。それが起源だ。そのおかげで浦塩の放棄は避けられた。それが広報で今更、周知が図られている。英雄が必要なのはわかるが…」

「そうでなければ、現場は士気を保てんよ。私らのスコアに疑義が呈された後、各地の部隊の士気は壊滅的になった。だから、冷遇された経験がある閣下たちの持ち上げが必要になったんだ。お前は海軍のご意見番にでもなれよ」

「そのつもりだよ。そうでなければ、海軍になど好き好んで残らんよ」

坂本は本心としては海軍に愛想を尽かしていたが、改革のために居残った。海軍航空の体質が問題視されたのは、エースの流出が八割ともされる空軍の引き抜きで表面化した同調圧力などの負の側面が白日の下に晒されたからだ。

「表向きは恩義だので取り繕ってるが、私が恩義があるのは先生や博士にであって、海軍の組織にはないよ」

「お前も変わったな」

「盲目的に海軍の気質に浸かるのは、前史で懲りたよ」

坂本も本音は空軍に移籍したいが、内部改革のためには、誰かが残る必要があると考えていたらしい。この時期に日本の持ち込んだ現場主義的風潮もあり、教導部隊よりも前線での精鋭部隊がエリートと見なされる風潮が生まれた。旧明野飛行学校や横須賀航空隊は反発したが、前線帰りを虐める悪習を問題視された結果、その種の任務は第三者である自衛隊の飛行教導群が当面の間は代行(艦上機は米軍が担当)することになった。決定の影響もあり、64の一般隊員でさえ、明野飛行学校で教諭だった者が多い。

「ウチの一般隊員も99パーは明野の教諭だったり、横須賀の中堅だったものだ。だから、雁淵の妹や服部は可哀想だよ」

「あの二人は例外だよ。ひかりはアニメ通りなら、私の部下になったはずの奴だし、服部はお前の部下になったやもしれん。それと、故郷で派手に出征式が行われた以上、手ぶらでは帰せんだろ」

「確かに……」

服部静夏と雁淵ひかりは本来なら64に配属されないが、菅野や坂本との関連性の強さが取り沙汰され、本来はプロパガンダの撮影目的で呼び出した。だが、二人の故郷で出征式が行われた都合、『手ぶらでは帰せない』ということで、偵察隊『奇兵隊』に回された。ひかりの願いはこれで一応は叶えられたし、雁淵姉妹に不和が生じる(前史では、二人の不和が部隊を振り回した)事もない。ロスマンにクレームが舞い込むこともない。なんとも言えないが、日本から援助を引き出すための道具が二人の存在意義である。

「あの二人には悪いが、援助を引き出すための道具となってもらう。孝美に情緒不安定になられても困るからな」

「いいのか?」

「素養はあるのは認めるが、史実以上の激戦なんだ。二人の出る幕はない。それに接点はないしな」


ラルはひかりと静夏を『道具』として使う事に徹する考えを表明する。アニメと違う点が多岐に及び、史実502メンバーと孝美の接点は薄いし、菅野も孝美への執着を持たず、あくまで、『同期の一人』の扱いである。黒江達が目立った影響もあり、菅野の相棒は芳佳であるし、芳佳は医務官を志しているので、既に中尉である。ラル自身も傷は既に完治しているため、コルセットをしているのは保護目的と惰性である。

「……それがなかなか、な」

「閣下たちが歴史を変えた結果がこの状況だ。人によっては傲慢と宣うだろうが、結局、人は共通の敵がいなければ、手前勝手に殺し合う生き物だという事がわかったし、各国の人種差別意識が問題にされたのは成果だよ。ティターンズという敵が明るみにしたからな。ただし、ブリタニアに世界を統べる資格は失われた。今後は日本連邦が束ねなくてはならんよ。先進技術を持った以上の義務だよ」

日本連邦はウィッチ世界で超大国として君臨していく。欧州列強の衰退で相対的に国力が健在だったからだ。その後のウィッチ世界は日本連邦と自由リベリオンの軍事同盟のもとに秩序が再構築され、日本連邦中心の秩序に変わっていく。キングス・ユニオンは双方の経済的理由で軍縮はやむなしになり、戦後の主導権は握れずに終わっていくので、日本連邦が史実のアメリカ合衆国の役回りを演ずる事になっていくのだった。

「世界秩序の担い手、か…」

「未来世界のように、地球連邦政府ができるまでには数百年の時間がいるだろう。それまでの過渡期の秩序を担う必要があるのだ、坂本よ」

「地球連邦、か」

「向こうでは、23世紀に地球星間連邦に再編されているから、それ以後は正式名称は変わっているがな」

「星間国家になったからな」

地球連邦は23世紀の戦乱期に再編され、地球星間連邦に改称している。これはイルミダスへの敗戦後も使われ、イルミダスがゲッターエンペラーにあっさりと滅ぼされた後、版図の回復に成功。今度はマゾーンと戦争状態であるのが30世紀の世界だ。地球はゲッターエンペラーを以てして、自分らの宇宙を制覇した後、他の宇宙にも本格進出するつもりなのだ。それがゲッターの意思の導きである。

「その頃にはゲッターエンペラーも生まれている。オリンポスの神々の目的を担うためにな」

「ゲッターエンペラー。ゲッタードラゴンが進化した最大最強のゲッターロボ…。オリンポスの神々は何のために、あんな宇宙を食らう機械のバケモノを産んだ?」

「神々はヒトを兵器として生み出したからだ。同胞同士で殺し合い、進化する戦闘的な種としてな。我々はその成功例だよ。アケーリアス、プロトカルチャーの失敗を踏まえて生まれた第三の種族。それが地球人類だ」

グンドュラはゲッターの真理に気づいていた。地球人類がかつて栄華を極めつつ、自滅していった二つの超文明の正統継承権を持つ文明であるとする30世紀での認識、その時代から開始されたゲッターエンペラーの覇業を伝える。地球は数度の戦乱期を経て、次元世界に版図を広げることで生存確率を上げようとする思想が生まれ、ゲッターエンペラーを覇業に使っているのは、地球人類の生存確率を上げるためであるという。宇宙怪獣や幾多の宇宙人との宇宙戦争が地球連邦を次元世界全体への航海に乗り出させたとも言える。坂本もゲッターエンペラーがゲッタードラゴンの究極形態である事は知っているのか、明確にエンペラーをドラゴンの進化形と言っている。

「私達は地球人類を守護するために、不死の体を与えられた。なら、見届けようじゃないか。地球人類と、それに味方する種族がどこまでいくのかを」

ゲッターエンペラーは地球とその友好種族の守護を行うスーパーロボットである。ゲッターエンペラーに竜馬のパーソナリティが反映されたのかは定かではないが、理性と本能のバランスが上手く取れており、次元世界に生存圏を広げるという意思のもとに覇業を始めた。それが竜馬の人としての理性がゲッターエンペラーの活動を制御した証である。



――本能に身をゆだねれば、すべてがわかってくる!!生物が、人間がなぜ存在するのか!!宇宙がなぜ、存在するのか!!そして、お前たちがなぜ殺し合うのかも!――

これは23世紀にゲッターの使者として現れた巴武蔵が述べた言葉の一説である。また、『ゲッターは大いなる意思の戦いなのだ!!それでなくては、宇宙に存在するゲッターの意味がないのだ!』とも言い、明確に30世紀の覇業の開始を予告している。それを聞いた竜馬は『へっ、ムサシよ。それがゲッターの意思なら、俺はどこかの世界のような機械のバケモノを生むつもりはねぇよ。俺がエンペラーに慈悲ってもんを教えてやるぜ。俺はゲッターの意思に勝ってやるぜ』と豪語し、それを達成した事になる。

「ゲッターエンペラー、真ゲッタードラゴン、か…」

エンペラー、その前段階にあたる真ゲッタードラゴンの誕生が近い事をつぶやく坂本。真ゲッタードラゴンはZEROから次元世界を守るために産まれる。前史の記憶にある勇姿を思い出し、なんとも言えない気持ちになるのだった。



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