外伝その424『カールスラントの混乱』


――カールスラントは日本連邦から顰蹙を買った現状に焦ったが、手持ちの技術情報が旧式化してしまったという現状は大混乱を引き起こした。また、扶桑陸軍(空軍)も打診していたサラマンダー戦闘機のライセンス契約をキャンセルするなど、パニックになっていた同国は日本連邦のさらなる仕打ちに打ちのめされた――



――カールスラントのこの時期の混乱は言い表しずらいほどで、人材の流出は艦娘にまで及んだ。カールスラント海軍は後年、外洋海軍に戻ろうとする動きが復活することになるが、その時に艦娘を流出させた事を責められる事になる。全ての自国の艦娘の権利が日本連邦へ移ってしまったからだ。また、日本連邦がカールスラントの違約金の支払いを確実にするため、カールスラントを厚顔無恥と派手に宣伝したことはカールスラントの外交的敗北であった。折しも当時は燃料噴射装置やジェット戦闘機の設計ライセンスの問題が噴出しており、評判が下がっていたからだ。特にMe262は『モンキーモデルを出したのでは?』と疑惑がかけられるに至った。1940年代にそういう考えは微塵もないため、年代の都合で単純に『初期設計を出しただけ』だが、最新の設計図を開示しなかった事の報復措置としての『F-86の量産』はカールスラントを狼狽させた。その黒幕はアメリカ合衆国であり、ウィッチ世界に市場を開拓するために日本連邦にライセンスを安価で与えたのだ。結果は大成功であり、ダイ・アナザー・デイ途中から『保守部品が枯渇したレシプロ機』の代替として瞬く間に普及した。当時、MIG-15に似た『フッケバイン』を次期主力戦闘機候補にしていたカールスラントはそれに匹敵、あるいは凌駕する機体が急に現れた事に驚いた。日本連邦は基本的に『過去の戦争の航空戦で性能で圧倒されたから、自分たちはそれをし返す権利がある』とし、カールスラントの批判は馬耳東風といった体裁であった。むしろ、数と支援体制が必須であるという事が認知されないのが『日本らしい』抜けているところであった――




――連合軍は史上空前規模の空戦を遂行するうちに『手持ちのパイロットと機体』の数が根本的に足りなくなった事に気がついた。当時の連合軍の通常兵器装備部隊は機材を喪失し、機種変更中の部隊も生じたからだ。数の不足で顕著なのは戦闘機であり、一時の戦闘機無用論の名残りが連合軍を苦しめる事になった。それを補うために量産されたのがF-86であり、同時に戦闘爆撃機の研究も進んだ結果、64Fのみが第三世代以降のジェット戦闘機を有する事は瞬く間に暗黙の了解となった。そのシンボルとなったエンブレムが『炎の鬣のユニコーン』である――



――陸上基地――

「長門さんをお連れしました」

「ご苦労」

武子はのぞみ達が連れてきた艦娘・長門を応対した。長門が来た用事は『山本五十六の伝言を伝えるため』だった。伝言は『エース部隊は派手にエンブレムで飾ってくれ』というもので、日本向けのプロパガンダを重視する趣旨のものだった。

「丁度いい。僕とのび太くんが選んだのがあるんだけど」

「何?」

「日本の昭和後期の空戦漫画から取った『炎の鬣のユニコーン』。これなら、一般のこき下ろしも減るし、洒落が効いてるって受けるよ」

同席していたドラえもんが推薦したそのエンブレム案は即採用され、黒江機のみならず、新選組の保有する幹部搭乗指定機にエンブレムが描かれた。後には鬣の色で隊の区別もされ、黄色が新選組、白が維新隊、緑が天誅組と定められた。また、47年度以降に加わる錬成飛行隊『極天隊』は青であったという。長門はそこで窓越しにある機体に気づく。

「ほう。ドラケンか。あいつもいい趣味しているな」

「中身は相当に改造してあるそうよ」

「それはそうだ。原型のままでは局地戦闘機にしか使えんからな。ん、あれはタイガーシャークか?」

「F-5を改造した機体もあるそうよ」

「エンジンを変えればいいからな。ノースロップ・グラマンもびっくりだな」

F-20は基本的に機体の素材とアビオニクスを強化し、エンジンを単発の強力なものへ変えたものであるため、23世紀にはレプリカがホビーとして流通していた。黒江はそれを実戦仕様に改造したものを持つ。ダイ・アナザー・デイで連合軍が使用した戦闘機の21世紀までの型ではもっとも強力な部類のものに入る。

「史実で採用されてないからって事で趣味に走ったのだけど、存外に強力だそうよ」

「タイガーUの更に強化型だ。ポテンシャル自体は高い。パイロットが機動性についていけるのなら、採用されたろうさ」

実際は性能ではなく、既に実績のあったF-16の価格低下で息の根を止められたわけだが、皮肉な事に百戦錬磨の名パイロットが操る事でF-20は真価を発揮する事になった。第一世代機が花形として持て囃されている最中に使われる『幻の名機』は敵への圧力としても機能していたわけだ。

「64Fは各地の部隊の中核になっていた者を引き抜いて細かな陣容が整えられただろ?提督のもとに苦情が舞い込みまくっとるそうだ。引き抜かれていった部隊にとっては、戦闘にも、新人パイロットの教育にも必要な人間を引き抜かれたから、嫌味の一つや二つも言いたくなるんだろう。だが、今や太平洋や北海、オセアニアに戦力を置いておく必要などないからな」

「言えてるわね。紅海の戦力も縮小したそうね。欧州に一点集中しないと、敵に負けるもの」

「うむ。今は一点集中あるのみだ。それで勝ったとしても、三年ほどしか時間を稼げんという予測は辛いところだな」

「捕虜交換でできるだけ引き伸ばしても、三年半が限界よ。五輪と万博が終われば、戦争を大っぴらにやり始めるでしょうよ」

「その時間でウィッチの育成は間に合うのか?」

「無理ね。日本側が課程を平時を前提にしたものへ戻したから、人員補充は容易でなくなったわ。特に精鋭部隊であればあるほど、ね」

「練度の高い者はそう出んからな」

執務室で会話を交わす武子と長門。個人の戦闘単位をそれまでの10倍から20倍に引き上げなくてはならなくなるがために起こる『ウィッチの淘汰』を予期した会話である。また、職業軍人になることを前提にカリキュラムも変更されたため、自然とウィッチの二極化は起こったが、MATは後々に失態を犯した事で衰退の道を辿る。MATはこの時期にいた『人同士の戦争』に耐性がない者たちの逃げ場として設立された一時凌ぎの組織で、本来は長期的な維持は想定していなかったが、いつの時代もそんなウィッチは一定数いたために存続したのである。また、軍隊に行かせたくないが、それに準ずる仕事をさせないとならない『世間体を気にする富裕層の子女』向けの仕事として定着していく。なんとも政治的だが、誰しも宮藤芳佳や雁淵ひかりのように高潔な考えで軍に入隊するわけではない故の二極化と言えた。





――64Fは戦線で連合軍の他部隊の支援がほとんど望めなかったが、その代わりにのび太とドラえもんのツテでヒーローユニオン(23世紀で設立されたスーパーヒーロー達の拠点となる民間警備会社であり、コミュニティ)や地球連邦軍の支援は得られた。7人ライダー、高速戦隊ターボレンジャー、超獣戦隊ライブマン、太陽戦隊サンバルカン、銀河連邦警察とは特に強い連携関係であり、戦闘で損傷したプリキュア達の武器の修復も彼らが行っていた。プリキュア達の戦闘レベルにはばらつきがあり、高めの戦闘レベルを持つ者も『シックス・センス』のレベルに留まっているため、さらなる上のレベルたる『セブンセンシズ』以上に引き上げるための訓練の監督をドラえもんやのび太は引き受けていた。また、黒江が天秤座の童虎の弟子筋(童虎が黄泉がえり後に取った弟子であるため、紫龍の妹弟子にあたる)である事から、廬山系統の闘技もトレーニングコースに入っていた――



――数時間後――

「先輩、天秤座の老師の弟子だったんですか」

「紫龍の妹弟子だよ、俺。老師が黄泉がえった後に弟子入りしたんでな。俺が聖域に行った時には、前任の山羊座の聖闘士だったシュラは死んでたしな」

黒江はトレーニングの最中、キュアドリームにその事を教えた。黒江は天秤座の童虎に教えを請い、聖闘士候補生となり、最終的に空位だった山羊座に叙任されるに至った。そのため、山羊座の聖闘士ながら、童虎と紫龍同様に廬山系統の闘技を扱える。童虎曰く、山羊座が日本人になるのは自分が新米の時代以来とのこと。

「ここまでになるのには、ずいぶんと時間かけたよ。今回はその状態で調の世界に飛ばされたから、間接的には迷惑かけたが」

「聖闘士の力使えるなら、あの世界で無双できますからね」

「あいつの姿に固定されてたから、持ち出したシンフォギアをそのまま使ってたがな。最初の数ヶ月くらいはそのまま彷徨いてたよ。で、聖衣姿は二回は見せた。切歌はイガリマの力が通じないって腰抜かしてたが、そもそも『先史文明時代の宝具を模した武器が媒介の力』が完全聖遺物の中でも最高位の代物の黄金聖衣に通じるか?」

「そりゃあねぇ」

黄金聖衣は完全聖遺物と言える代物であるため、イガリマのシンフォギアの力は通じない。これはシンフォギアの依代になった聖遺物が『聖遺物を模した先史文明の遺産』である事が判明した後に確定した力関係だが、山羊座と射手座の黄金聖衣は絶唱状態のイガリマの刃を事も無げに弾き返し、逆に刃が砕けるほどの防御力を見せつけた。

「あのガキも大人になった後で言ったが、俺が入れ替わった事を『フィーネの人格が目覚めた』って解釈したのがそもそもの間違いの始まりだった。それで元に戻そうとしたら、俺に自分のシンフォギアの全能力が通じないって分かって、おかしくなったそうだ。俺にしてみれば、はた迷惑な話だがな。マリアはすぐに分かったらしいが、切歌に圧されて何も言えなかったとぼやいてた」

「調ちゃんと先輩とじゃ、背丈違うんですけどねぇ」

切歌の暴走は調がフィーネの人格に乗っ取られたと強く思い込んだ事に発端がある。実際は調の容姿に事故で固定された別人だったため、切歌はフロンティア事変終結時には精神不安定に陥っていた。立花響は切歌の状況に同情する一方で、黒江の事情をほとんど考慮せずに『事態の責任を取らせて、調の帰る場所を作らせる』という選択を取った。黒江に『マリア、切歌、調の三者の関係をこじらせ、シッチャカメッチャカにした』責任を取らせる事を第一に優先したからだが、結局は調本人と自分の関係が微妙になってしまい、小日向未来にもその選択を間違っていると思われるほどの予想外の結果を生んだ。

「俺としても困ったよ。あいつは強引に迫ったからな。ああいうのは始末に負えん」

「責任取れって?」

「ああ。俺は縁もゆかりもないんで、断るつもりだったんだが、調の帰る場所を守ってほしいって、それ以前にマリアにせがまれたんでな。たぶん、自分がテロ犯として処刑される可能性を考えてのものだったんだろう。あの場での響の脅しじみた頼みを聞いたわけじゃなくて、ひとえにマリアのためだ。」

響の失態は正確には三つほどある。一つは切歌に同情するあまりに黒江に責任を取らせることにこだわったため、『黒江が事故で本来の姿を失っていた事をその場では考慮しなかった事』、『切歌の精神安定を優先し、黒江の言い分を聞かなかった事』、『黒江が生活していた跡を調が受け継ぐことで生ずる困難に全く配慮がない』事だった。黒江も響の脅しじみた頼みはいくらなんでも無茶であるために最初は断るつもりだったが、事前のマリアの懇願を受け入れる形で、『その場は頼みに応じた』。黒江は渋々ながら、一年はそれに付き合った。(なお、切歌とマリアの処刑回避についてだが、彼女たちが決起する発端になった異端技術研究をアメリカが国家ぐるみでしていたために、その隠蔽のためにすぐに決まったので、結果としてマリアの懸念は杞憂だったが)

「先輩、元を知らないから、好きにしたでしょ」

「そうしか手がなくてな。調が出奔する原因は俺が好き勝手に生活してたのを否応なしに受け継ぐ事になることへの後ろめたい気持ちだろう」

「元鞘に戻れるわきゃないですもんね。あの子も10年で考えも変わったろうし」

「そこを考えずに、『元鞘に戻れるよ』みたいな事言われてみろ。後ろめたさとか出るだろ、普通」

「10年も会ってないと、流石に無理が出てきますからね。ガングニールの子、これだって思い込むと、他人に相談無しで突っ走るって言うけど、どう見てたんです?」

「まぁ、それがあいつの美点でもあるがな。悪く言えば青臭いが、良く言えば一途だ。それに、俺個人にも責任の一端があるのは事実だ。そこは否定せんよ。ただ、出奔の打診があったのは本当に驚いたよ」


――元鞘もなにも、自身を突き立てる場所を得てしまったし、自身が打ち直されて、元の鞘に収まりきれなくなったんだ――

調本人は黒江と面識を得た後は元の世界に居場所を見出してはおらず、切歌との共依存関係も自然消滅していたため、その見解を記した置き手紙を残し、小日向未来の手引きで野比家へ出奔した。ただし、切歌を切り捨てたわけではないと但し書きをしているし、SONGは脱退したが、シンフォギアを持っているままであるし、けして関係を絶ったわけではない。それはエルフナインにシンフォギアの整備と強化を引き続き委託していることからも明らかである。


「先輩達が暴れて、あのアニメの第四期以降のフラグが折れたんなら、五期のシンフォギア強化フラグ折れてません?」

「五期が起こった世界で強化してもらったってよ。士官学校に行かす前、前にお前らを迎えに行かせた時に強化させたとか?」

「なるほど」

B世界に行った際にちゃっかりとその世界で起こった強化を反映(A世界のシンフォギアはアニメでいう四期以降の状況は反映されていなかったが、B世界に持ち込んだ際に組み込まれていたらしい)させたという調。B世界の個体との感応が起こした機能追加であるかは定かでないが、その状況はややあって、A世界のシンフォギア全てに反映されたため、そう解釈された奇跡である。(なお、A世界では『イグナイトモジュール』が健在なままであるため、色々と説明がつかない状況になっているとエルフナインも言っており、一種の感応作用である事が示唆されている)

「お前の場合も骨だぞ。同位体と喧嘩になったろ?」

「あれは堪えますよ。自分自身に敵意持たれましたからね」

「最悪、アクアとミントを連れて行く時に、お前の同位体はぶちのめすしかないな」

「はーちゃんには許可してあります。ストナーサンシャインも」

「……ライトニングプラズマでカタつくよ、たぶん」

ドリームも同位体と揉めたことは予想外だったといい、なんとも複雑な事になっている。黒江は自身から始まった因果を思い、複雑な気持ちになるが、そこから新たな物語が紡がれる事に希望を見出そうとしている。また、聖闘士の闘技はこの頃にはキュアフェリーチェが習得済みであり、それまでと一線を画する戦闘力を得ている事が公にされる。

「お前の同位体を納得させるのも困難な仕事だな。ディケイドにも手を打ってもらう。最悪、仮面ライダーBLACKの同位体でも連れてきてもらうか」

「いいんですか?」

「その世界を征服されるわけにもいかんからな。ラブ達を助っ人として加勢させるのが第一のプランだ」

「来年には大決戦が起きるが、その時に咲と舞との縁はできる。Z神も数年以内に呼ぶみたいな事を漏らしたからな。そん時には、のび太に面倒を見てもらう」

「のび太くん、なんで誹謗中傷されるんですかね?」

「子供の頃の怠惰な性格だろうな、理由は。大人になったら一端の大人になってるんだがね。芯は強いし、亡くなったお婆ちゃんとの約束を守り続けてるんだぞ」

のび太がのび太である根幹は彼の父方の亡き祖母にある。のび太の博愛的な性格を決定づけた優しい老婦人であり、のび太が幼少期の頃に病没している。彼女との約束がその後ののび太の原動力になり、調とことはを二つ返事で迎え入れた理由にもなっている。のび太が後に聞いた話によれば、のび太が三歳の頃に病にかかり、治療の甲斐なく、その二年後に病没したとの事。のび太が親類でもっとも敬愛した人物であり、幼少期の時点では両親よりも敬愛していたと漏らした事もある。のび太が少年期に怠惰であったのは、理解者であった祖母が亡くなった後、小学校入学以後に顕現した母親の厳格さに参っていた面があるのも事実であろう。ドラえもん来訪後は祖母の担っていた役目をドラえもんが担った事で『アメとムチ』がまた機能し、更に二人の『妹』を持った事で精神的成長が早まった。


――転んでも、転んでも、ひとりでおっきできる強い子になってくれると…、おばあちゃん、とっても安心なんだけどな…――

彼女はその言葉を遺した数日後に病没したため、その一言が孫への遺言となった。のび太は祖母が最期に言い残した言葉を生涯守り続け、自らの子孫にも徹底させている。

「羨ましいですよ。わたしにはそういう体験なかったから…」

キュアドリームは『前世』では根本的に祖母との接点がそれほどなく、中島錦としての祖母は『武門の名家のしきたりを気にする厳格な老婆』であるため、『孫に優しく接してくれる老婦人』という存在に思慕がある事を漏らす。

「人によるさ。俺もバー様は優しかったが、事変で名を上げた頃に亡くなってな。今はエイトセンシズであの世に行けるから、報告には行けるんだが、生きてる内に見せたかった。俺は母親がモンペアだったからな。お前の前世の母親が羨ましいくらいだよ」

黒江は母親との仲が悪いため、野比家のような『温かい家庭』に根本的に思慕を持つ。それを垣間見せ、戦闘では無敵とも思える黒江の公にされない人間性を顕にする。

「先輩も人の子なんですね」

「人間、どこかどうかは弱点はある。俺には温かい家庭はなかったからな」

黒江は三兄とも年が三歳以上離れている上、長兄と十五歳は離れている。そのコンプレックスが野比家に入り浸る最初の理由であり、心の奥底で求めていたモノがのび太達のおかげで満たされたからこそ、合計で四百年にも及ぶ生を歩めてこれたとも漏らす。

「のび太の一族はある意味、優しさで他人を救えることの具象化みたいな存在だ。お前もナイトメアのボスとは和解できたろ?」

「ええ。だからこそ、オールスターズDX3のあいつは許せなかったんですよ」

「ブラックホールか。今後、お前自身がオールスターズ戦に呼ばれる事があるだろうから、それまでに強くなっとけ」

「プリキュアオールスターズニューステージに呼ばれたいですよ。ハッピーがデビューした映画だと、あたしたちはモブだったんで…」

「そうなったら、ドヤ顔でもしとけ」

「そうします」

「ん。カールスラントの空軍部隊か」

「あそこも数減りましたね」

基地を通過していくカールスラント空軍の編隊を見上げる二人。カールスラントはドイツの介入で撤兵していっているため、前線で活動する部隊の数は最盛期の二割以下に落ち込み、空軍もお情けで一個航空団が残るのみである。その部隊は当時の最新機材とされていたメッサーシュミットbf109K型と爆撃機の編隊である。シュワルベは引き上げられたため、BF109Kが最新機材とされている。カタログスペックでは第一線級を充分に保っているとされるが、機体の基本設計が古いために周囲からアテにされていないという。これは地球連邦における『辺境基地などで配備が続いている『VF-171』にも似た状況である。

「あそこはうちに報復食らって、軍事輸出での外貨獲得を封じられたからな。半世紀近くは立ち直れんだろう」

「史実で行くと、西側諸国の戦闘機はほとんどアメリカ機ベースですからね」

「あれがドイツ機最後の輝きだろうな。ドイツ製ジェット戦闘機は大量生産前に差止めされたから、日の目を見ない機体が多い。シュワルベが辛うじて『マイルストーン』だからってんで、特別に配備が認められたくらいだしな」

ドイツ製ジェット戦闘機は戦中の技術レベルでの代物なためか、ドイツの手で処分されるか、博物館行きにされた代物も多い。その代替が史実米軍機であるという歴史の皮肉であった。これに反発した技術者達は予算も減らされた本国を脱出。各国で独自開発機を造り、モノによっては一定のセールスを達成したという。

「寂しいですね」

「時代だよ。少なくとも、兵器開発は21世紀にはかつての列強諸国でもヒーヒー言うほどに重荷な代物だ。地球連邦も戦時にはやりまくるが、平時は低調になるからな。ジェット戦闘機はアメリカ系とロシア系の派生か、一部の国の独自機が主流になる。戦前日独の系譜は絶たれる運命だが、それを良しとしない技術者は多いからな」

日本連邦にも、アメリカ系の戦闘機を『キャデラック』と称し、基本的に機動性第一主義の日本軍機と比較し、『我々と性質が違う』と嫌悪する技術者は大勢いる。彼らを手懐けるのに苦戦した日本連邦上層部は震電の系譜を継ぐ機体を『国産機枠』として生き残らす事で宥め賺す事にする。

「この戦いは長引きそうですね」

「如何に俺達が一騎当千だろうと、政治の思惑で孤軍奮闘を強いられちゃ、勝てる戦も勝てんってことだ。地上空母が出てきたが、上層部は右往左往するばかりだ。こりゃ、秋どころか冬までかかりそうだ。欧州から遠征軍を撃退できりゃいいってのに、日本がいらん横槍入れんから」

日本は連合軍の攻勢計画を政治的理由で潰したようなものであるため、軍事関係者から顰蹙を買っていた。しかも、自国の左派の資金援助で大戦後期から朝鮮戦争期相当の新兵器が現れてしまったため、相当に針の筵であり、ヤケクソ気味に松代大本営跡に秘匿されていた超兵器を投入し、Gフォースを結成するなどの行動を取っている。また、プリキュアの因子を妖精が与えた変身アイテムに頼らずに発現、覚醒させる研究が始まり、現役時代に妖精と縁があった高速戦隊ターボレンジャーが主体になって研究をしており、その成果は数年後に一つの変身ブレスの完成という成果として完成する。のぞみはここより数年後、変身アイテムであったキュアモが激戦による損傷(デザリアム戦役でのナイチンゲールの発したサイコフレームの光による自己崩壊促進で使用不能に陥り、その後に完成したブレスをレッドターボ/炎力から緊急手段として渡されて着用していた)で使用不能な時期があり、その時はそのブレスでドリームへ変身。この時に言及したオールスターズ戦に参陣するのであった。

「ヒーローユニオンがお前らの変身を科学の力で制御できないかって研究を始めた。サイコフレームの力が変身に有効なら、その逆や変身アイテムの破壊も起こるはずだ」

「ヒーローユニオンにそんな技術が?」

「高速戦隊ターボレンジャーは妖精の力が絡んでる。その原理を応用できれば可能だろう。お前、現役の前半期は変身アイテムがブレスだったろう」

「あの時のは一定のポーズ決めないと起動できなかったんで、恥ずかしかったですけど」

「製作中のはライブマンのポーズで変身できるように頼んである。そうすれば楽だろう?完成したら、緊急手段として持っとけ」

そのブレスは数年後、緊急手段という位置づけでプリキュア達へ配布され、のぞみは元来の変身アイテムがデザリアム戦役で損傷したため、その最初の被験者という事でデザリアム戦役を経た後の時間軸にて使用。結果的にその世界に集められた先輩後輩たちの前でカッコいい見せ場を得られたため、ご満悦であったという。(のぞみの太平洋戦争の頃の述懐によると、ブレス型アイテムで変身したのは久方ぶりであったので、恥ずかしかったものの、超獣戦隊ライブマンのツインブレスに準じる起動方法であるため、その世界のキュアハッピーらの前でカッコよく変身できた事は満足であったという)

「ただ、その前に智子からの伝言と言おうか、頼みなんだが」

「ほえ、智子先輩から?」

「あいつの少女趣味は知ってんだろ?」

「まさか」

「そう。そのまさかだよ」


ここより一年後の『大決戦』で智子と二人でプリキュアとして戦う事になる事のきっかけとなる『智子の頼み』をドリームへ伝える黒江。ドリームは返事を数日ほど保留するが、智子に変身願望があるのを知ったため、最終的に了承。大決戦への道筋はこうやって築かれたのだった。



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