外伝その431『激闘』


――扶桑はそもそも、大和型戦艦を超える戦艦を持つ時代が来るとは考えてもなかったが、大和型戦艦の防御の不備を指摘されまくり、造船官が次々と辞表を出すなど、パニックに陥った時期もある。扶桑にとっては『魚雷の10発以上の被雷』など想定外であるからだ。実際に完成した超大和が副砲を有さないのは、ミサイル兵装が副砲の役目を果たす事、耐弾能力を完璧にするためである。未来技術で51cm以降の大口径砲が実用に耐えるモノになったのも搭載の後押しになった。日本側を納得させるために単艦性能を追求したので、量産型に位置づけられる播磨型でさえ、51cm三連装砲を四〜五基も有する。モンタナをこの時点で超えるが、日本はそれでも納得しなかったので、最終到達点の敷島型へ行き着いてしまった。敷島になると完全に『移動要塞』であり、21世紀側が槍玉に挙げた核兵器でもびくともしない。この超大和シリースのダイ・アナザー・デイでの登場は、ウィッチ世界の他国に戦艦を大規模に持つことへの興味を失わせるには充分だった――






――扶桑自身も、レイテ沖海戦や坊ノ岬沖海戦の資料に目を回したのは言うまでもない。日本側の指摘したような『単艦行動で戦う戦艦』など、カールスラントでも想定していないからだ。播磨以降の新戦艦が加速度的に大型化した背景には、その厳しい指摘がある。とはいえ、日本を納得させるための大型・高性能化が他国戦艦部隊の衰退を引き起こすことになっていくのだ。1945年当時の欧州の持つ技術では、大和型戦艦にすら届かない事は実際の建造で明らかである――


「のび太、艦政本部はやけでも起こしたのか?次の次は800mだぞ?」

「と、いうよりは日本の防衛省と財務省をギャフンと言わせるために、もっと大型化した結果だよ。核兵器にも耐える防御を求めたそうだよ」

「馬鹿な、宇宙戦艦でもない限り、そんなの過剰性能だぞ」

「日本には坊ノ岬沖海戦の記憶がある。それを錦の御旗にされちゃね。それとスーパーキャピネーション魚雷を弾き返す強度も…」

「日本は何を考えてやがる?」

「イージス艦を持つメリットが薄れた腹いせだろうさ。イージス艦はそもそもが冷戦期に防空艦として考えられたにすぎない駆逐艦なり巡洋艦だよ?それと戦艦を破壊するような攻撃力は両立しないよ。それに、扶桑は空母を持たなきゃならないからね」

イージス艦は防空巡洋艦/駆逐艦の発達したもなので、古典的な艦隊戦で被弾したらお終いである。(とはいえ、大戦型駆逐艦よりは生存性は高いが)アウトレンジ攻撃をしまくるしかない。とはいえ、戦艦と巡洋戦艦の『破壊』は不可能である。

『のび太君。エプロンに君の機体を用意したから、綾香さんと見に来てくれ』

「わかった。ドラえもんからお呼びだよ」

基地のエプロンに用意された機体のもとへいく二人。そこには。


「ヒュ〜。ドラえもん、渋いチョイスじゃねーか」

黒江が思わずそういう機体。サーブ社が誇った名機『サーブ 35 ドラケン』。第2世代ジェット戦闘機の最後期(第三世代ジェット戦闘機とも)の傑作である。スウェーデンの国内事情が想定されたため、航続距離が短いのが難点だが。

「エンジンや固定武装はVF仕様に変えてあるよ。航続距離を解決する手っ取り早い方法だしね。未来世界からSv-262を取り寄せる手もあったけど、地球圏に卸してくれるか不明だったしね」

「ウィンダミア用だから、地球圏用にすんには改造が必要だしな」

(ちなみにウィンダミア王国はその後の記録によれば、新国王のハインツ2世が力の使いすぎで数年後に早逝した後、王家の直系は断絶。前王の宰相も死していたために王制は自然消滅。共和制に移行できるほど政体が育ってなかったのも災いし、一時は暫定統治下に置かれるが、最終的には生き残っていた傍流の子供に王位が渡り、なんとか秩序は保たれたという。その更に後の時代に共和制に移行したか、地球の勢力圏に組み込まれたかは不明という)

「それでこいつを改造したわけ。この時期だったら、文句なしに超高性能だよ」

ドラえもんの言うとおり、1945年当時なら、ドラケンは文句なしに超高性能な機体に分類される。本来はメッサーシュミットMe262やHe162が新鋭と言われる時代であるので、そこにドラケンを持ち込んだら無敵である。

「VF-19A用の熱核バーストタービン積んだから、機体が軽いのもあって、真ゲットマシン並の加速だよ。それと、扶桑海軍の依頼で製造したトムキャット単座型も置いとくよ。複座が受けないんだって」

「ま、扶桑にとって『戦闘機は単座』だしね」

ダイ・アナザー・デイの時期、連合軍の首脳陣はジェット戦闘機の未来を示されたことで、次期主力機をジェット戦闘機に切り替えることを決定した。が、ジェット戦闘機の本山がカールスラントから自由リベリオンに移動したため、メッサーシュミットMe262の模倣にすぎない扶桑の生産機は採用中止。He162のライセンス契約も破棄され、用意中のラインはF-86用に切り替えられた。これはカールスラントにとっては寝耳に水であった。カールスラント空軍と軍需産業のパニックは想像に難くないが、この煽りでカールスラントはMe262の全ての派生型の開発が中止に追い込まれることになった他、開発中の機体はその進捗状況を問わずに開発中止の命令が下る。日本連邦も似たような施策を選ぶが、これがそれぞれの国の技術者の激しい反発を招く事になるのだ。

「カールスラントはメッサー、フォッケ、ハインケル。三つの航空産業の開発プロジェクトを有無を言わさずに全部の中止命令を下したよ」

「ドイツのケチめ。確実なセイバー以外は作らせないってか?」

「うん。それとフォッケのフッケもミグに似てるからってことで…」

「アホか!!」

「日本も金ないのを理由に、似た事はすると思うよ」

「反乱起きるな、こりゃ」

「僕が情報を集めたけど、横空や航空審査部に不満分子が集まってるよ」

「志賀大尉の言うことはアテにしないほうがいいよ。2.26もそうだけど、反乱分子ってのは、自分の大事な誰かには嘘言うから」

「分かった。黒田を次の休暇の時に故郷に帰して、その時に鎮圧の手はずを整えさせる。五十六のおっちゃんには?」

「通達した。それと米内光政閣下だけど、あまり長くはないよ。医師団の見立てだと、持ってあと数年…」

「そうか。持病が限界突破したんだな…。葬式の香典の用意しとこう。とは言え、国葬になりそうだが」

この頃、山本五十六の元上官で、総理大臣経験もある米内光政の寿命が差し迫っていた。岡田啓介がピンピンしている事を考えれば、順番が逆だが、米内は前々から腎臓などに持病を抱えており、それがついに未来医療でも手を施せないレベルに悪化したのだ。とは言え、穏やかな余生を送れており、史実の失敗での批判はあれど、医師団の見立てでは『史実から数ヶ月以内の誤差で閣下は亡くなられるだろう』との事。事変の後半時の混乱収拾の功績で国葬は確実視されている。ドラえもんが伝えた事は彼が亡くなる日はそう遠くないということであった。

「作戦が終わったら、挨拶しとくか…。今生の別れになりそうだし」

「冥界行けるんじゃ?」

「それはそうなんだが」

苦笑いの黒江だが、日本連邦は『海軍びいきの風潮はあるが、2010年代以降は海軍の施策への批判がある』ので、海軍への実務的な意味での風当たりは強かった。とは言え、陸軍よりは兵器を比較的に早く揃えられるという点では陸軍より遥かに恵まれていた。航空出身者がクーデターを画策した理由は子供じみた理由が大半であり、曲がりなりにも昭和維新を目指した史実2.26事件の青年将校が高潔に見えるほどの幼稚さであり、鎮圧後の処罰が苛烈になるように議論が進んだ原因であった。

「問題はクーデターが起きて、鎮圧した後だよ。前の時を考えるに…」

「助命嘆願が跳ねられたショックで、農村部はウィッチを送らなくなるだろうね。お上が玉音放送して集団就職の空気ができても、アテには出来ないし、10年位は義勇兵主体になるだろうね」

「坂本が気にしてるのは、そこか」

「少佐には悪いけれど、農村部が萎縮すれば、志願定数は到底、満たせなくなるよ。1950年代の半ばじゃないと回復基調にもならないだろうね」

青年のび太とドラえもんはその後のウィッチの趨勢を見抜いていた。伝統的にウィッチの立場の強いはずの扶桑が厳罰を下したことで、ウィッチの軍への志願率は翌年の1946年以降は大きく低下。扶桑において回復基調になり始めたのが1954年の秋という後世の記録からも分かるが、それは史実で自衛隊が設立された頃。太平洋戦争の多くの期間をそれまでの貯金と義勇兵で凌ぐしかないという未来の暗示でもある。扶桑でウィッチの立場が悪化し、軍にウィッチが入ることが少なくなった結果、世代交代は停滞。1920年代生まれがしばらくの間、軍ウィッチの主力を担うことになる。(黒江〜芳佳の世代が該当)

「それと、敵はロシアの有志から援助を受けてるようだ。敵の飛行場にツボレフの姿があったそうだよ」

「ツポレフだぁ?どれだ」

「これだよ」

「Tu-160かよ。おいおい、この時代の戦闘機じゃ、ジェット戦闘機でも迎撃不能だぞ」

「ベアだろうと、Me262じゃ論外さ。だから、こいつを用意したのさ。巡航ミサイルを撃たれたら、この世界の防空網じゃ打つ手がないからね。僕がいれば、バリアーポイントやひらりマントなんて手があるけど」

「確かに。ロシアはどの程度?」

「ツポレフ、スホーイ、ミグ、ヤク…。主だった機材は供与してるみたいだ。メッサーシュミットを生産中止させたのは、ミグ29やスホーイ35クラスの機体にメッサーシュミットで挑んだら、肉塊を製造するだけだしね」

「言えてるな」

ティターンズは自分達用にロシア連邦からの供与機材を使い始め、連合軍に挑んできた。軍事的なウィッチの陳腐化はロシア連邦の高性能機材が出回り始めたことで、序曲を奏で始めたわけだ。

「Tu-160を使われたら、巡航ミサイルでの空襲は覚悟しないとな…。基地の旧式レーダーに電子戦をされたら、物の役にも立たねぇし」

「フェーズドアレイレーダーは運ばせてる。M粒子対応型でね。基地の機材は変えさせているが、時間がかかる」

「ナイトウィッチのあれはM粒子で精度が下がった上、能力を敵に解析されたからな。警戒機を飛ばせている。ウィッチのあれは大まかにしかわからん上に、22世紀級の科学力なら欺瞞情報を与えられるからな」

アクティブステルスの研究はナイトウィッチの魔導針の解析に応用され、この時期にはサーニャらの用いる方式のものは実効性を喪失していた。次世代の魔導索敵理論の研究が急がれているが、その結実にはしばらくの研究期間を必要とする他、早期警戒機の登場が連合軍の索敵方法を変えてしまったからだ。

「今、タイガーシャークの予備パーツを生産中だよ。あと一週間で確保できる」

「そうか、サンキュー」

「それでどうだい?プリキュアの子達は」

「筋は良いが、転生して、戦いから離れてた奴もいるからな。それに、のぞみの奴は捕虜にされやがったからな。ひとまずハルトマンに特訓させてる」

「エーリカちゃん、しごくからなぁ」

苦笑するドラえもん。救出された三人は転生前に得ていた技能の再習得及び、技能向上のため、エーリカ・ハルトマンがシゴいていた。飛天御剣流を独学で極めていたなど、天才肌かつ努力家な一面と、教官としては鬼軍曹ぶりで知られていた(そこが後に現れるBとの違いだ)。医者志望と公言しつつ、一騎当千の殺人剣を極めるという点は矛盾しているようだが、戦争という狂気を渡り歩くには必要なスキルだった。(独学で天翔龍閃まで会得してしまった才覚は見事である)

「俺達は下手なプリキュアより上位の強さを持つが、その代わりに『敵』も多い。ウィッチの摂理を超えたのと引き換えに強さは得たが、常に何かかしらを気にせんとならん」

「転生はそういうものさ。ぼかぁ、リルルの転生を知ってるからね。だから、転生に抵抗がないのさ」

のび太はリルルが転生したことに確信を持っていたため、Gウィッチ達の転生に抵抗を持たない。それはのび太の一途さでもあり、彼の魅力である。21世紀の世界では、仏教の大僧正やローマ教皇などの宗教関係者よりも『輪廻転生』を理解していたと言える。

「でもよ、はーちゃんを士が連れてきた時は何かと思ったが、まさかゲッター線の制御に成功したとはな。はーちゃんはZEROに守り、見守るべき世界を奪われた。自分の力が全く及ばなかった上に、みらいとリコを一度は殺されているからな。大地母神としての力を剥奪されても……」

「諦めなかった事でゲッター線の眼鏡に適ったのさ。そして、最近、光子力の制御も成功した」

「マジかよ。すると……」

「その気になれば、カイザーノヴァを撃てるってことさ」

「うーん…。そこまで持っちゃうか?」

「君だって、聖闘士になったろ?お互い様さ」

その後、のぞみがZEROと融合した事、超プリキュアの状態でセブンセンシズの扉を開いたことで光子力とゲッター線を制御した結果、20年近くの歳月で特訓を重ねたフェリーチェ(ことは)と同じ境地に達する。以後の戦闘力の飛躍はセブンセンシズ、それを超える領域に覚醒めたことによるもの。この頃はまだ『不完全』と言えた『Gウィッチ』としてののぞみを完成に至らすには、ZEROとの融合が必須だったのである。



――調が地球連邦軍の士官に任官され、戦線に復帰した時期はダイ・アナザー・デイの第四週目近くになった時期であった。彼女は黒江との感応や古代ベルカでの体質の変化などで『Gウィッチ』となっており、転生によらない覚醒としては初の事例だった。それに伴い、纏うシンフォギアも黒江同様に『史実における高出力型ギア』(魔法少女事変以後のカラーリング)となっており、転移以前とは比較にならない戦闘力を手に入れている。魔力と小宇宙に覚醒めた影響もあり、LINKERを必要にせず、肉体的加齢も起きない。(背丈も以前より10cm以上伸びているが、これは黒江との存在の帳尻合わせでもあった)切歌がこの時点で劣等感を感じるのも無理はなかった。軍服姿はめったに見せず、この場では戦闘が続いているのもあって、ギア姿を通していた――


「……ギアを解除しなくていいのか?」

「師匠と同じ境地に達したから、体に負荷はかからないんですよ、クリス先輩」

「そこまで律儀にしなくていいんだぜ?他の世界と違って、お前はリディアンにはちょっとしかいなかったんだしよ」

「響さんが気にしてましたからね」

「なるほどな。お前も処分受けたんだろ?」

「厳重注意処分です。まぁ、ノリノリでやっちゃったんで、当然ですね」

「まぁ、あいつも自分の力だとか、居場所のことになると、神様をぶん殴りかねないからな。肝を冷やしたよ、あの時は」

「沙織さんに迫ったのは前代未聞ですよ。気持ちはわかるけれど、魂が食われてたんだから、いくらオリンポス十二神でも、助命は不可能ですよ」

キャロル・マールス・ディーンハイムは邪神エリスに取り込まれた際に魂を食われていたため、オリンポス十二神の一人『アテナ』である城戸沙織の力を以てしても、その助命は不可能であった。そのため、黒江と智子はエリスをキャロル・マールス・ディーンハイムの肉体ごと討伐せざるを得なかった。立花響の反発はキャロル・マールス・ディーンハイム諸共にエリスを滅ぼした事を事後に知らされたところであった。ガングニールの力は完全に別世界の神には通じないと教えられても、それを信じようとしなかったのも、難儀なところであった。


「あいつ、その流れか、プリキュアを羨ましがってたぞ?」

「揺るぎない力を持ってて、守りたいモノを本当に守ってきましたからね、のぞみさん達は。響さんは過去のトラウマが強いのか、父親が蒸発したからなのか……」

「……前、ばーちゃん(クリスは黒江をばーちゃんと呼ぶ。年齢差的には間違っていないので、なし崩し的に認めた)から聞いたよ。でも、あいつ……プリキュアを見ると、胸が熱くなるとか…?」

「え!?」

「ど、どうしたんだよ」

「もしかしたら……あるかもしれませんよ」

「何がだ?」

「プリキュアの因子です」

「あれって、そういうもんなのか?」

「プリキュアの過去生がある場合とかに限られますけど、現世でプリキュアになれる素質にも繋がるんです」

「でもよ、あいつがプリキュアの力を受け入れるか?」

「一つの力だけじゃ無理な時もありますし、誰かの『誇り』を理解したのなら、両立させるかもしれませんよ」

調は立花響が別人格の覚醒で『他人の誇り』という概念を理解してきている事を示唆する。プリキュア達の中に自分が別世界で救おうとしたが、救えなかった者の転生者がいる(キュアダイヤモンド/菱川六花の過去生の一つは光明結社の幹部であったサンジェルマンで、この場にいる響は出会うことはなかったが、調が平行世界と接触したことで彼女にまつわる記憶が宿った)事を心から喜んだ。少なくとも、自分の世界では出会うことはなかったとは言え、別世界で救えなかった者が転生して、プリキュアになっていたというのは、不可抗力とは言え、キャロル・マールス・ディーンハイムにまつわる決戦に最後まで関われなかった事が深い後悔になっていた響には救いになったのである。(更に後には、桜井了子/フィーネが紆余曲折を経て、キュアスカーレットになっていた事を知る)

「お前、他の世界と比べて、あたしらの辿った道筋はどうなんだ?」

「一言では言えませんよ。それに、私は事実上は関わってませんからね。なんとも」

調は別の自分自身からも度々、嫉妬を買っているのも事実だ。後々に現れる『C』は比較的に冷静であるが、LINKER無しでシンフォギアを起動でき、それよりも上位のプロテクターをも持っている事については嫉妬されている。姿は背丈以外は変わらないが、(SONGを離脱しているのもあって)シンフォギアを普段着代わりにしている事も苦言を呈される理由の一つだ。

「そうか…。ギアを普段着代わりにしてるのは言われんだろ?」

「ええ。用を足す時や風呂に入る時以外は訓練も兼ねて展開したままですからね」

「心象変化での形状変化は試したのか?」

「いえ、必要もなかったので。シンフォギアで完全に及ばない敵には聖衣を使いますし、シンフォギアでも、パワーが必要な場合はエクスドライブを使いますから」

「スペックが上がりすぎてないか?」

「師匠の力をそのまま引き継いでますからね。それに、私の祖先はあの剣……磁光真空剣を扱える血筋らしいので」

「先輩がぶーたれてたっけな。お前が剣をプロ級に扱える事」

「異世界帰りだし、プロの軍人である師匠の技能も引き継いでるんですよ?それに、師匠の歌の才能も引き継いだみたいなんで、広報に駆り出されそうですよ」

広報部はこの頃、黒江たちが非協力的な事に悩んでいたので、次世代のウィッチとして、芳佳、ひかり、ことは、調を広報戦略に用い始めていた。それは妥協の産物でもあるが、黒江と智子は『持ち上げられて下げられた』事を根に持っていたため、広報部に非協力的になったため、その頃の担当がいなくなった広報部には酷であった。とは言え、自衛官としては応じる黒江、いらん子中隊最後の戦闘隊長としてはインタビューに応じる智子。担当者は圭子が広報部に在籍経験があることを感謝したという。



「先輩、フェイトさんが声似てることにすごく狼狽えてたな」

「世の中、そっくりさんの二、三人はいますからね。しかも、フェイトさんは歌も上手いんで、声だけ聞くと、なのはさんでも聞き分けが難しいとか?」

「あの箒って奴も、マリアに声似てるからなぁ」

フェイトと箒は翼とマリアの同位体である可能性も生じてきている。シンフォギアを起動するばかりか、アームドギアも同様の形状になったからだ。普通は個人差が生ずるはずだが、それが殆どなかったのも、その推測を裏付けていた。

「同位体って線も調べてるそうです。切ちゃんはどうしてます?」

「大人のあいつ自身に連れられていったよ。ややこしいぞ?」

「まぁ、タイムマシンで呼んで来ましたから」

「そうだ、お前。軍隊で訓練受けてたってことは…武器を?」

「あらかた扱えますよ。アームドギアはアニメでバレてるんで、実在の武器のほうが意表を突けるんです」

シンフォギアを形状変化させる事なく、西部劇に出てくるようなホルスターと弾帯をつけ、一般に流通してもいる『スターム・ルガー スーパー・レッドホーク』(454カスール弾仕様)をホルスターに入れている調の姿はアンバランスなようだが、アームドギアなどのスペックを把握されている状況では有効であった。また、黒江がアムロに言及した『磁光真空剣の写しの製造』も目処が立ったと銀河連邦警察から連絡を受けており、武器についての不自由はなかった。

「あ、いたいた」

「あ、ミューズさん」

「広報部が呼んでるよ〜」

「仕事みたいなんで、行ってきます」

「大変だな、お前」

「広告塔代わりにされてるんですよ。師匠たちは部内で反発があるんで、若い私とかが駆り出されてるんですよ」

そこは苦笑いの調。キュアミューズに連れられ、広報部の待つ場所に向かう背中を見送ったクリスは黒江から呼び出され、作戦会議のために予め、シンフォギアを展開しておくのだった。



――広報部は事変世代を模範としたい上層部の思惑を実現したいが、黒江たちは記憶封印期の経験から、広報には非協力的である。これはヘイトを集めないためでもあった。志賀がそうであるように、扶桑海世代の復帰を快く思わないのが中堅の多数派であるからだ。また、501での経緯でもそうだが、軋轢を招いたからでもある。エクスカリバー、シャインスパーク、フリージングコフィンなどの闘技の健在を示した事は501を中心にしてまとまった統合戦闘航空軍内での立場を盤石にしたものの、実は控えろと言われていた。圭子が当初は猫をかぶっていた理由もそれだが、モントゴメリーが『ヘイトを集めかねないからな、君等の強さは』と戒めたからであったが、ミーナの愚行でロンメルが『扶桑の陛下に申し訳が立たんから、本気を出していいよ』と、約束を無効化したため、圭子は猫かぶりをやめたわけだ。却ってそのほうが部隊がまとまったため、『赴任したら、古参兵をぶん殴らないと、兵が従わない』法則が適応されたと言われる始末だ。とは言え、統合戦闘航空軍では三人の往年の武勇を知る方が多数派だったので、つっかかるのは少数派。孝美も今回は最初から恭順していたので、ミーナ本来の人格の冷遇が悪目立ちしてしまったのも事実だ。ロンメルは『面倒くさい事になって、扶桑の天皇陛下に釈明文を送る羽目になるなら、モンティの提案など…』と愚痴ったと言い、慎重派のモンティは部下からの求心力を落としてしまったとされる。とは言え、モントゴメリーにも言い分はあり、『三人の強さは異常すぎて、おとぎ話同然だろう!?』とロンメルに喚くなど、やけくそになっていた。マンネルヘイムからも嫌味を言われるわ、チャーチルには降格させられ、パットンには笑いものにされるなど、失敗続きであったためだった。ちなみに、パットンは楽天家でもあるため、『ロンメルよ、お前は細かく考えすぎなんだよ、モンティの心配性も問題だがな』と笑い飛ばし、一番気楽であり、357マグナムに代わり、圭子に44マグナムを頼むなど、洒落っ気のあるところを見せ、立場的にも気楽なものであった。自由リベリオンの将軍ではあるが、前線主義であるのもあり、圭子に一番に便宜を図っており、圭子いわく『ブロマイド一枚で偽装軍籍を用意してくれる』という。広報部は彼を通し、圭子に話を通すのが通例になっており、調たちはパットンが広報部に紹介する形で広報に借り出されたが、それに乗っかったのがキュアミューズ(アストルフォ)である。元はフランス人(イングランドとのハーフだが)だが、思い切りノリがいいアストルフォは肉体が女性であるのもあり、素の姿でも広報に出ており、『英霊で一番にノリがいい人』と自衛隊で噂になるほどだった。なお、ジャンヌに至ってはガリア議会に招かれるほどだが、生前の最後の事もあり、ガリアの議員にはならず、地球連邦軍の軍人としての身分を通すと表明しているが、ペリーヌに乞われて、アドバイザーには就任している。(自身の死後における聖人扱いは快く思ってはいないのと、ルナマリアの知識は得たものの、元が無学だったのを気にしているのも事実だ)――












――のび太達がドラケンやタイガーシャークを用意する一方、ティターンズはロシア連邦に取り入り、ロシア空軍から機材提供を受けた。ティターンズ自身が使うためであったが、連合軍が使用可能である大半の機材を凌駕し、野戦防空機材を意に介さない高性能機が持ち込まれれば、制空権は蟻の穴から堤も崩れるの要領で崩されてしまう。アメリカ軍は本国からF-22、F-15Eなどの高性能機材を輸送させ、制空権確保に対応し、Gフォースには現地調達の名目でセイバーフィッシュやジェットコアブースターなどの余剰機を配備するなど、黒江は苦労を強いられた。現用機の供出を日本防衛省が露骨に出し渋ったためだ――

「参ったぜ……」

「防衛省から連絡がきたんでしょ?なんて?」

「野郎ども、出し渋ってやがる。アメリカ軍はストライクイーグルやラプターまで動員してんだぞ?ファントム爺さんで我慢しろなんて、士気に関わるぞ」

「どうするの?」

「連邦軍からジェットコアブースターを回した。空軍の機材はワイバーンやコスモタイガーに統一されてきて、余剰機は博物館行きかスクラップだが、ジェットコアブースターは戦間期に配備されたから、状態が良い。これなら整備班の慣熟に時間がかからん」

「構造自体は大差ないしね。ロシアが現用機を持ち出してきた以上、本当なら、イーグルやF-2を持ち出して然るべきなんだけどな」

「防衛省は機材喪失でマスコミに叩かれることを機動戦闘車の一件で怯えてやがる。現場の声を聞きやしねぇ。戦前の日本軍でも、機材は努力してたぞ」

黒江は愚痴るが、防衛省の事なかれ主義はいよいよ以て問題化しており、Gフォースの機材に無頓着なのが浮き彫りにされた。黒江が『現地調達』をしなければ、まともに編隊で飛べもしないのにも関わらず、喪失でマスコミに叩かれることを恐れるあまり、機材の増強を露骨に渋った。これに同情した米軍や地球連邦軍が機材を提供するに至る。防衛省はこれに無反応というわけにもいかなくなり、『じ、自衛隊は保有機が少ないから……』と言い訳せざるを得なくなった。これは自衛隊の面子に関わるため、制服組は現用機の派遣を推したが、背広組は『マスコミに叩かれる!!』の一点張り。黒江はアメリカからスクラップ扱いのF-15Cを買い取り、レストア。自衛隊仕様にして配備する一方、連邦空軍から機材の提供を受けた。ハービック社が不良在庫として抱えていたコアイージ(ジェットコアブースター)に白羽の矢が立ったわけだ。


「ロシアはしらばっくれてるからね。表立っては追求できないよ。とは言え、いい兵器実験場と思ってるだろうさ」

「だから、イーグルの調達に並行して、急いで、ジェットコアブースターをあっちこっちの倉庫から引っ張り出したんだ。フライマンタは老朽化してるから無理だったが」

「仕方ないさ」

ジェットコアブースターは退役が進んでいたが、Gフォースの窮状を見かねた連邦空軍が供与した。比較的に使用期間が短い割に生産機数が多かったため、補給も容易いからである。なんとも世知辛いが、ウィッチ世界は今や古今東西の兵器の壮大な実験場と化していた。それが怪異の活動の小康化を招いたのは皮肉な事実であった。同時に、肝心要の時にウィッチ部隊の多くがサボタージュで有名無実化した上、自己保身のために、慌てて出撃しては無残な敗北の繰り返しだったために求心力が失われていったのである。

「フライマンタは一年戦争で機体寿命を使い果たしたからね。戦闘爆撃機として見るなら、悪くはないけど、統合戦争の時からあるから、もう実戦は飛べないよ」

「かなり現存はしてたけど、酷使されて、実戦を飛べるほどの個体がないって主計に言われたんだよな。かと言って、TINコッドは払い下げ進んでるし、セイバーフィッシュはまだ現役で使ってるしよ」

「で、ハービックが薦めたのが?」

「悪く言えば、不良在庫処理だよ。1000機以上も保管されてたからな」

「一年戦争の終戦の時にラインにあった奴?」

「ハービックが負債抱えて買収された原因は、コアイージが東南アジア圏の損耗補充で手一杯のままで一年戦争が終わったからだって、お前の子孫が漏らしてたぜ」

ハービック社は不良在庫を吐き出したが、黒江としては『そのままでは燃費の問題があるから、熱核タービンと交換する』という問題もある。ハービック社はそれに応じ、新規製造も再開しつつ、タービン搭載型を改造で製造。この時にはGフォース向けの200機が納入されていたが、値段はそれなりに張るため『新星にサンダーボルトをねだったほうが安くなったな』と苦笑したという。ハービック社はアナハイム・グループのお荷物扱いであったため、戦闘機の老舗(源流は米国のとある航空メーカーらしい)としての意地があったのだという。


「さて、僕も偶には戦果挙げないとね?」

「いいのか?」

「なーに、自分の戦いを危険だからといって、他人に金を渡して、リングの外からながめているほど卑怯じゃないよ、僕は。愛した女と子どもたちに与える安らぎは……、己が命をかけて勝ち取ったものでありたいだけさ。敢えていうなら、普通に生きて…普通に死ぬためにここに来たのさ」

のび太は少年時代の性分をそのまま保ったままで大人になったため、傭兵のような独特のニヒリズムを持っている。合理的思考の流行る21世紀には切り捨てられるようなモノだが、のび太夫婦は『理屈に合わないことをするのが人間だ』という持論を大冒険の経験で持つようになっており、それは大人になっても維持されている。また、ドラえもんからニヒリズムを学んだためか、傭兵でもしていたのかと思わせる発言をするのも青年期以降ののび太の特徴だ。

「友達を助けるのに、理屈はいらないさ。そうでなきゃ、誰が好き好んで、魔界やピシア、鉄人兵団、アトランティス連邦の残党と戦うものか。神様は僕たちのような者には血と鉛弾を、老人にはやすらぎを、女と子供には平和と未来を与えるものさ」

のび太なりに行き着いたニヒリズム。黒江やのぞみにも影響を与えるほどの独特のもので、言うなら、西部劇の流れ者のような雰囲気を持つ。パイロットとしてもそれなりに腕が立つが、のび太の真価は射撃である。調にスーパーレッドホークという物騒な代物を持たせた張本人であり、自衛隊にいる友人から『野比、お前はスタームルガー社の回し者か』と言われたという。とは言え、コルト・パイソンはピンキリ、S&W社製の銃は構造が比較的にデリケートという状況では、スタームルガー社はベターな選択である。のび太は『丈夫でよく当たるんだ、最高じゃないか、ミント(未開封新品)から使えるのは、S&Wとスタームルガーくらいだよ?』と大学の頃に語ったといい、好んでいると明言している。ロングバレル仕様を好むのは西部開拓時代を知るゆえの嗜好だが。

「お前も言うなぁ」

「おーい、ばーちゃん」

「お、来たか」

イチイバルを纏ったクリスが来た。子供ののび太とも会っているため、成長してイケボになり、長身になった大人の姿は未だに信じられないようだ。

「ほんと、お前。どこでどうして、こうなるんだよ?」

「中高で伸びたんだよ、クリスちゃん。イケボになっただろ?」

「なんか天空宙心拳使いそうな声だろ、こいつ」

青年のび太は声色が凛々しくなっており、『美味し○ぼ』にいそうだの、『マラサイに乗ってそう』だの言われるような声色になっているが、母親の玉子は『島○ジョーみたい』と気に入っているとか。後にレイズナーに乗るのも分かるというものだ。

「そいや、そうだよなぁ」

「ハハハ、今じゃ、料理したら美味○んぼ、レーサーしたら、島○ジョーなんて冗談言われるんだよな。小学校の友達からは、声だけイケボって言われてるよ」

のび太は苦笑しつつも、トンファーを隠し持っていたり、冗談まじりに『俺は地獄の底から蘇ってきた男だ!』と言ってみたりする茶目っ気があると明言する。同窓会ではいいネタにしているという。また、『待てぇい!!』が妙に決まるため、後の大決戦ではそれを実行し、某天空宙心拳の使い手のような事をしたという。

「眼鏡はしたままなんだな」

「直に視力矯正手術はするよ。カミさんが潜入捜査もある仕事でね。やれとは言われてきたけど、機会がなくてさ」

のび太は30代で21世紀に登場した新しい視力矯正手術の被験者になり、乱視と近視を矯正するため、壮年期以降は眼鏡をしていない。レーシック手術はしてこなかったが、学園都市の残した技術での新しい方式のもので、レーシックより安全なため、のび太はその被験者になったわけだ。そのため、壮年期以降は印象が変わり、ドラえもん曰く『21エモンみたいだ』とのこと。

「レーシックだと、パイロットできねぇぞ?」

「それとは別さ。30以降に眼鏡してない謎が解けたよ。さ、会議室に行こうか」

「あたしが代表でいいのか?」

「翼さんは報告と休暇で休んでるし、マリアちゃんはリコちゃんのとこに行ってるからね。響ちゃんは向いてないだろ?それに、メガネが無いと、どうも顔が間延びした感じになるんだ、僕。だから、伊達メガネは作るよ」

笑ってみせるのび太。成長したが、大まかな印象は少年時代とさほど変わらず、優しそうで人の良さそうな顔立ちのままであるが、戦闘ではバッチリ決めるイケメンでもある。20代後半時なので、30代になって持つ『影』もなく、少年時代からそのまま大人になった印象をそのまま与える。調がどこに惹かれ、野比家に定住したのか?その理由が気になる雪音クリス。イチイバルのギアを展開したままで名だたる提督や将軍のいるところに立つのは緊張するが、調はしているし、プリキュア達もしてきたことだと自分を納得させようとしていた。もっとも、それは自衛隊の新任幹部達も同じで、パットン、ロンメル、モントゴメリー、山下奉文、今村均、宮崎繁三郎、山本五十六、小沢治三郎、チェスター・ニミッツといった歴史上の偉人たち相手に議論できるかとハラハラものであった。二人が途中ですれ違う自衛隊の幹部たちは緊張しまくくりである。相手は戦史に名を残した偉大な軍人達なのだから当然である。

「自衛官の人たち、めっちゃガチガチだぞ?」

「そりゃ相手が相手だもの。第二次世界大戦を戦った提督や将軍だよ?」

黒江いわく、『自衛官は比較的に物申す事ができるが、米空海軍の高官たちは初見でガチガチでな。ま、萎縮するラインナップだし』との事。ヘンリー・アーノルド(史実の米空軍元帥)はいないが、持病によるものである。カーチス・ルメイはいるので、ヒートアップするのはハルゼーかルメイである。自衛官も一佐以上の者が多いが、新任ほど緊張しているのが分かる。新旧の軍服が入り混じり、如何にもといった感じの会議だが、現代映像機器も用意されており、エレクトロニクスと時代がかった会議が入り混じっている。掲示板にはベタベタと写真が貼られており、被写体の名称も書かれている。また、軍艦の識別表と思われる軍艦型の紙には『バーモント級?』と書かれており、連合軍の情報収集の苦労が伺える。その議長は…。

「それでは、会議を始めよう」

山本五十六の一声で会議が始まる。元帥海軍大将(古賀と並び、最後の旧体制下の海軍元帥)である彼が主席であるらしい。議題は改モンタナの出現から。超モンタナまでの場繋ぎとあるが、要注意とチェスター・ニミッツから説明がなされる。艦級名はあくまで予測だとも言う。そこに調査の苦労が忍ばれる。とは言え、欧州の名だたる戦艦が格落ちに見えるような重武装艦をポンポン作ってくるリベリオンの国力、大和型に並ぶような巨艦を改装でも短時間で形にしてきた労力は息を呑む勢いである。クリスはちょっと恥ずかしげであるが、代表としての責務を果たさんとしており、黒江は『SONGの制服でもいいんだぞ?』と声をかける。クリスは『あいつもギアで通したんだろ?』と意地を張るところを見せ、黒江をちょっと和ませたのだった。



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