外伝その434『激闘5』


――ダイ・アナザー・デイで生じた混乱は自衛隊に秘匿兵器を引っ張り出させるほどであった。防衛装備庁は使いたくはなかったが、ダイ・アナザー・デイでの混乱が自分達の予想以上に大きくなった事の禊や、四式中戦車や五式中戦車の改良型を減産する代わりに74式戦車のライセンス生産を許すという取引が使用と引き換えに交わされた。これは防衛装備庁が『チトとチリは早晩に旧式化するし…』と渋ったところを方針転換させた結果である。ストップギャップのためのチヌも回収されたことへの現場の苦情を宥めるためである。ただし、それで機甲兵器が極端に不足してしまったため、現場では他国戦車の現地購入が横行した。コンカラーとティーガー系が大量に扶桑軍に出回った理由はそれだ。当時は五式改に匹敵する火力を持つ『M26パーシング』重戦車が敵側に現れたのに対し、日本連邦内部では74式戦車の扶桑での生産体制の構築で揉める有様であったからだ――



――64Fはこの頃から火消し部隊としての側面を持つようになり、IS用に用意された武装を更にダウンサイジングしたサイズのものを持ち出して戦車を駆逐する事が多かった。当時はプリキュア達は出現間もなく、コミュニティを形成できるほどの数はいなかったが、暫定的なプリキュア達のリーダーはのぞみであった。この体制はなんだかんだでデザリアム戦役まで続き、咲と舞が来訪するまで維持されるのだ――

「駐屯地で休憩していこう。この辺は陸自の管理のはずだよ」

ドリームは敵の残していったジープを奪い、陸自が駐屯する駐屯地に向かった。錦としての技能が身についているため、運転に支障はない。

「今んとこ、敵はどうしてるんですか?」

「宇宙戦艦からの偵察だと、こっちの超兵器に泡食ってるみたい。まったく、日本の言うことは宛にならないよ。超兵器で支えてんだから」

ドリームは空中勤務者として、日本の施策のでたらめぶりに呆れていた。日本は戦前の日本軍を批判する割に、言うことが大差ない『質で量をねじ伏せろ。出来なければ落ちこぼれだ!』なので、扶桑の士官たちの顰蹙を買っていた。とは言え、当時の空中勤務者の熟練者の大半はウィッチである上、大半が対戦闘機や爆撃機の訓練を積んでいない『素人』であったので、この時の戦闘で負傷者が続出。ダイ・アナザー・デイ三週目を終える頃には、64F以外の空戦ウィッチ部隊は片手で数える程度にまで減少していた。そのため、連合軍所管の駐屯地からは空戦ウィッチの姿は殆ど消えており、見るのは陸戦ウィッチが大半であった。怪異相手には強い空戦ウィッチも、究極にまで発達したレシプロ機や急激に台頭してきたジェット機の前には微力な存在であったわけだ――

「陸戦ウィッチは見るけど、空戦ウィッチは減りましたね」

「地上空母に駆逐されたからね。それと、大抵は12.7ミリ機銃を一丁しか持たない。そんなんで、P-47やB公を落とせる?無理だね」

ドリームもそれは実感している。当時の標準装備であった12.7ミリ機銃では、魔力で貫通力を上げたところで、九九式二〇ミリ機銃をも寄せ付けない防御装甲を持つP-47には銃撃で傷を負わす事も困難であった。ウィッチ装備の大火力化が図られたが、多くは携行弾数の低下を嫌い、従来の装備を使い続けた。だが、その結果は地上空母による『蹂躙』であり、地上空母への無残な敗北はウィッチの権威の凋落の端緒となった。更にB-36の登場で一気に従来装備が陳腐化すると、20ミリ機銃の携行が進んだものの、時既に遅し。64Fはその更に先へ進んでいた。

「20ミリ砲さえ嫌がってましたからね、他の部隊」

「B公が36になったから、ますます他の連中は情けない有様さ。接敵もまともに出来ないし、よしんば出来たとしても、一撃かける間に蜂の巣。うちの部隊しか、陸で戦ってる扶桑空戦ウィッチ部隊はいなくなったよ」

「36って、13000m以上上がれますよね?」

「史実より絶望的だよ。震電があったとしても、上昇限度は12000m。これじゃ無力だよ。対空ミサイルとドラケンとかで対応するしかないね」

B36の存在は扶桑の既存ストライカーを陳腐化させたと言える。その高度でも戦える歴代プリキュア達は貴重な戦力であった。B36とそれを補完するB29の爆撃は自衛隊にとっても脅威であり、ダイ・アナザー・デイ後の機材配備優先度で防空部隊が高位になるほどの影響を生じさせた。現場でセイバーフィッシュやワイバーン、コアイージの配備が歓迎されたのは。高度13000mを超える高高度でも、低高度を飛ぶように軽やかに機動できるからだ。

「現実的ですね」

「現実はそんなものだよ」

件の陸自の駐屯地につく。駐屯地は『自衛隊所管にしては』簡素な作りであったが、二人は歓迎され、食事、シャワー、仮眠の後に『用を足す』。最前線と言えど、しょっちゅう戦闘が起こっているわけではないのだ。翌日の朝に駐屯地をジープ出て、付近を走行している最中に、敵の歩兵連隊と出くわしてしまった。

「歩兵連隊と出くわすたぁ…。ついてなーい!!クソ、そんじょそこらにいやがる!」

「とにかく、応戦します!」

調は車上である事もあり、シュルシャガナの丸鋸は使わず、自衛隊の駐屯地でもらった機関銃(ミニミ軽機関銃)で応戦する。シンフォギアを展開した状態で撃っているので、手持ちである。敵は(当然ながら)第二次世界大戦中の装備であるM1ガーランドやM1カービンを持っていたが、それさえまともに撃てない兵隊が大半で、ちゃんとした訓練を受けた調からすれば『人形の標的』同然であった。とは言え、あちらこちらから敵兵がやたらめったらと撃ちまくるので、二人としては生きた心地がしなかった。史実米軍ほどは統制が取れていないのが救いだろう。

「スピード上げて、突っ切るよ!」

これが史実の南方戦線や欧州戦線なら、M2重機関銃が雨あられと撃たれるが、同機関銃はこの世界ではウィッチ兵科がほぼ独占していた(皮肉な事に、後の空戦ウィッチの価値低下で歩兵科に回る数が増えた)ため、こうした局面での敵中突破は有効な戦術であった。ダイ・アナザー・デイでは『環境の差』が戦局を左右したわけだ。

「ふー。史実なら、M2に撃たれてるところだよ」

「言えてますね。この世界の兵隊はまともに手榴弾も投げられないようですから、助かりましたね」

「そりゃ、形式的な訓練しか受けてないし、実戦で人に向けて撃つって事を考えてもないからね、この世界の兵隊連中。ウィッチもだけど」

「皮肉なものですね。そういう空気が私達が無双しやすい土壌になってるのは」

「この世界は集団主義の圧力が強かったからね。個人単位で強すぎた先輩たちがそれで疎んじられたんだよ。事変が終わった辺りは集団戦を根付かせようと必死になってたから。だから、去年(44年)からの接触で一騎当千の強者が逆に求められるようになったり、アニメの情報が入って『統合戦闘航空団は統廃合するほうが費用対効果がいい』なんて考えられたのに対応しきれないのさ」

空戦ウィッチは事変終了後からは『個人が英雄ぶる時代は終わった。これからは集団戦だ』と過剰に集団戦に傾倒したが、その前提である無線での連携を絶たれた場合の脆さを露呈してしまったのが権威の衰退の要因であった。個人単位での強さが必要な事が統合戦闘航空団の存在はいざしらず、M粒子散布下でのウィッチの戦闘レベルの不安定さが財務官僚らに嫌われたわけだ。アニメとして『本来の歴史』が伝わった』ことで兵科の存在価値が逆に低下したという結果をもたらしたのである。(芳佳の強すぎる主人公補正が一般ウィッチの価値を却って低下させたといえる)


「この分じゃ、兵科はいずれ切り捨てられますよ?」

「キュアマーメイドも言ってたけど、いずれは明治や大正期以前の形態に戻るかもしれないな。独立性とかを守るために兵科にしたら、却って高慢な奴が増えて、先輩が味わったみたいな陰湿ないじめが横行したからね。それが先輩が出世して、華族になったろ?それで軍が隠蔽してたことが明るみになったんだ。それで巷で大騒ぎさ。首謀者は天下った海援隊からも追放でね。海援隊も公営になる見込みだから、天下りはこれから規制される。多分、R化が普及していくだろうな。普通の兵隊と違って、ウィッチは『代替役』が確立されていないから」

――代替役。ドイツで良心的兵役拒否者を福祉に従事させることで知られるものである。ウィッチ世界では良心的兵役拒否は社会的に抹殺されかねないため、形式的に入隊しておくケースが常態化していた。そこにできたMATはそういうウィッチに大受けであったので、軍の部隊がまるごと移籍するケースが増大。軍はダイ・アナザー・デイという一大作戦の真っ只中に『手駒』を奪われた形になった上、良心的兵役拒否の思想が広がり、志願数も低下。結果的にダイ・アナザー・デイの中核を『一握りの超人』が担う事になった。(武子は数年後、この結果を苦笑交じりにぼやいたという)――

「どうなるんでしょうね、これから」

「先輩曰く、当分はあたしらで支える必要があるそうだよ。少なくとも、1954年まではね」

「それって、9年も先じゃないですか」 

「史実で占領されてる時期にそろそろ入るからね。今頃から『自衛隊のできる頃』まではウィッチの覚醒率が下がる事を先輩たちは予測してる。それが『1954年』なのさ。軍隊のマイナスイメージも広がってるから、あたしたちが支えないと組織が立ち行かなくなるのさ。隊長にしてみれば、皮肉な結果だろうけどね」

――過剰なほどに集団戦を推進していた武子にとって皮肉なのは、連携の肝である無線通信を阻害され、各個撃破に持ち込まれる戦局が『最精鋭による最精鋭のための部隊』を求めた点だろう。(彼女にも智子をスオムス送りにしたという点で強く誹謗中傷があるため、それを気にした武子は覚醒後、三人を自由にさせている。それは『知っていながら、敢えてそうしてくれた』友へ報いるためだった)――


二人はジープを飛ばす。すると、上空をZガンダムのウェーブライダーがZプラスと編隊を組んで飛行していくのが見えた。

「Zガンダムだ」

「ゼータガンダム?たしか、カミーユ・ビダンさんが使ってるっていう」

「うん。精神崩壊から立ち直って、医者志望だって聞いたけど、彼にも召集がかかったんだ……」

カミーユ・ビダン。かつてのグリプス戦役でのエゥーゴのエースであり、Zガンダムのパイロットであった青年である。精神崩壊から立ち直った後は医者を目指していたが、かつてのエゥーゴ時代の経歴から、『有事に真っ先に召集される身』になっており、軍籍はメカトピア戦役以降も残されており、待遇は大尉になっている。地球圏が戦乱期を迎えたため、ガトランティス戦役などの有事の時に軍に復帰する予備役の扱いになっていた。彼ほどのエースパイロットを連邦軍も手放さないということだ。愛機は自身も設計にアイデアを提供したZガンダムであり、この頃には同機を新造し直して使用している。同機がグリプス戦役から幾度となく投入され、最高位機種であり続けてるのは、設計の優秀さもあるが、その操縦難度の関係で系列機も含め、常に『エースパイロットに与えられている』からでもある。

「ロンド・ベルに転属するって聞いたけど、あのマーキング……もう『した』んだな」

カミーユは復帰後はロンド・ベルには属さず、同系統機であるZプラスがある部隊に在籍していたが、ロンド・ベルに転属したようで、ドリームはウェーブライダーにロンド・ベル所属を示すマーキングが増えている事を確認した。部隊ごと編入されたらしい。

「Zガンダムって、人気ですね」

「VFの台頭で、可変するガンダムが求められたって事情らしいけどね。デザイン的にかっこいいんだけど、足にエンジンが入ってるから、一般兵には操縦しにくいってんでね。エースパイロット用になったんだそうな」

Zガンダムは操縦難度がRX系ガンダムの比ではないが、その性能バランスは高く評価されている。可変型ガンダムの多くが量産の試みをされているように、エース用のハイエンド機としては成功したものの、量産型に再構築する試みはいまいち成功していない。(専門家からは『高価な機構をそのまま使おうとするからだ』と断じられているが)

「師匠たちが乗るわけだ」

「一種のステイタスなんだって、Zに乗るの。戦闘機とMSの二つをエース級で乗りこなせる証だってんで、ジオンでいう高機動型ザクみたいな位置づけだって自慢してたよ、先輩」

とは言え、ドリーム自身もウェーブライダー形態に変形するシャイニングブレイクに乗ることになるので、Zを目撃したことは一種の未来の暗示であった。Z系は連邦における高機動型的な位置づけの証であり、これは国家系コロニーも認識していたのか、ネオジャパンは軍用モビルファイターとして開発していたシャイニングガンダムの流れを汲む試作機にウェーブライダーへの変形機構を組み込む。(連邦軍はZガンダム以降のMSの多くの飛行形態をウェーブライダーと呼ぶのが慣習であったので、シャイニングブレイクのものもウェーブライダーと呼ばれる)

「それ以外にのび太は新型を造らせてますよ?」

「のび太君が?」

「末裔に命じて、ウイングゼロと同等の破壊力を持つガンダムを開発させてるそうです」

「え、あのウイングゼロと同等?バスターライフルでも積むの?」

「えーと、サテライトキャノンとか」

「さ、サテライトキャノン!?あのコロニーも吹き飛ぶとかいう!?」

「ええ。ジオンがバケモノを発注したそうで、それを粉砕できる威力が…」

「それ、元の世界でアニメになってたけどさ、いまいち覚えてないんだよなー…。まだ子供だったし…見とくんだった」

仕方がないが、のぞみはそのガンダムをリアルタイムでは殆ど見ていない。大きくなった後にCSの再放送やビデオオンデマンドでつまみ食いしたが、遠い昔のことであるので、記憶がぼやけている。この時は自分がそのガンダムを動かすことになるとは想像もしていない。のび太から存在を知らされた程度なのだ。(ここから数年後、そのガンダムを見ていたキュアピースやロボヲタク化したキュアミラクルに死ぬほど羨ましがられる事になったのはいうまでもない。ピースは根っからのオタクで、ミラクルは蘇生後にのび太の布教でヲタク化したので、のび太はキュアマジカルに苦言を呈されたとか)

――その頃の朝比奈みらい(キュアミラクル)はというと……。

「おおー!ここでグレートマジンガーが発進するのか〜!」

「かっこいいモフ〜!」

「そーでしょー!見せ場なんだよ、ここー!」

戦車道大会が終わり、カチューシャとしての責務が一段落つき、コスモの要請で様子を見に来た黄瀬やよい(キュアピース)と一緒に『マジンガーZ対暗黒大将軍』をブルーレイディスクで視聴中であった。この出来事に近い出来事が22世紀終わりに実際に起こり、オリジナルのマジンガーZ最後の戦いとなったと、みらい宛に甲児と鉄也の解説文も送られており、二人も『出来が良い』と絶賛している。ちなみに、鉄也はみらいやのぞみに『獣魔将軍との戦闘でグレートマジンガーが土壇場まで出れなかった本当の理由』を教えている。鉄也曰く『グレートマジンガーの最終調整に時間がかかっただけで、Zを見殺しにするとか、そういうチンケな理由じゃないんだ。所長にとって、甲児くんは実の子供だぜ?』とのことで、直接的に兜剣造を擁護している。鉄也はニヒルな物言いであるために周囲との間にトラブルを呼びやすいとされるが、不思議とモテる。エーリカ・ハルトマンに惚れられ、鉄也を困惑させているように、鉄也はその本質を読み取れる者にはモテるのだ。グレース・マリア・フリードと浮き名を流しつつも、弓さやかをキープしている甲児が批判されるが、鉄也は炎ジュン一本槍でありながら、本人の自覚なしにモテモテである。鉄也は本質は面倒見のいい兄貴分なのだが、複雑な生い立ちがトラブルを呼び込み、多くの世界で兜剣造を死なせてしまう。それがZEROの誕生に深く関わっているのである。つまり、甲児は心のどこかで自分から父親を奪う鉄也を憎み、Zを超えるグレートを妬んでいたのである。兜十蔵はそのビジョンをZ建造中に幻視(息子の二度目の死と孫が鉄也に抱く憎みを懸念した兜十蔵は早乙女博士に頼み、エネルガーZにゲッターエネルギーを浴びせる事を懇願。早乙女博士も実験と称し、協力した。それがカイザーの誕生のきっかけである)し、孫のために最強の魔神のアイデアを遺した。これがマジンカイザーとゴッドマジンガーを生むきっかけとなった。つまり、マジンカイザーは孫を邪から完璧に守り通すために十蔵が遺し、剣造が改良した皇帝なのだ。だが、十蔵が死して、剣造が表舞台に立つまでにタイムラグがあったため、生身であった頃のDr.ヘル(Zと戦っていた頃)は一時期、独自に発見していたガイアに本名名義で渡航しており、あしゅら男爵に撮影させていたマジンカイザーの外形を元にガイア側の技術を使い、現地で『自分のためのマジンガー』を建造していた。それがガイアで発見された『マジンカイザーSKL』なのだ。つまり、マジンカイザースカルは甲児が設計したマジンガーである世界もあるものの、ドラえもん世界では『Dr.ヘルがZやグレートを倒し、Zに潜む存在をねじ伏せるために製造した『魔神皇帝の模造品』なのだ。とは言え、完全には完成しておらず、ガイアの国連軍が発見、改修を加えて世に出たわけである。装甲強度はグレートマジンガーより頑丈だが、『本家大本のマジンカイザーには及ばない』レベル。これはDr.ヘルが再現出来た装甲技術が超合金ニューZレベルの素材だったためだ。

「ねぇ、モフルン。みらい、完全にハマってない…?」

「リコ、諦めるモフ。みらいはハマるタイプだからモフ……」

「はぁ…。いちかやはなには見せられないわね」

休暇で野比家に戻っていたリコはモフルンにぼやく。みらいが完全にロボヲタク化していたからだ。

「こっちも大変だってのに。姉さんはシスコン気味(前世での姉であるマリア・カデンツァヴナ・イヴは妹のセレナ・カデンツァヴナ・イヴの転生体であるリコへ過保護気味である)になってるし、響さんはトラブル起こすし」

セレナ・カデンツァヴナ・イヴとして、シンフォギアチームには接しているのだが、それはそれで疲れるリコ。セレナ・カデンツァヴナ・イヴとしての穏やかな口調を使うのは意外に大変(リコは活発な性格なので、セレナ・カデンツァヴナ・イヴとしての穏やさを出すには色々と苦労がある)なのだ。

「そっちは大変そうだね、リコ」

「大変よ、サンシャイン。昔のキャラ演じるって大変なのね…」

キュアサンシャインが買い物から帰ってきた。プリキュア姿で活動するのにも慣れたようだ。とは言え、ノビスケの迎えに行くと、子どもたちより大人達のほうが狂喜乱舞するので、本人としては困惑気味だが。

「なーに、そのうち体が思い出すさ。君の姉さんは君が生まれ変わっても戦ってるのは受け入れてくれたかい?」

「ええ。ちょっと哀しそうだったけど。前世は争いを好まない性格だったから。とは言え、昔の友だちにぶーたれられたわ。プリキュアなことは」

「君はみらいとモフルンがいないと、変身できないことは?」

「伝えたわ。友達がふくれっ面をしてね」

子供切歌はリコがセレナ・カデンツァヴナ・イヴの転生であることに腰を抜かし、同時に羨ましがった。自分よりよほど強く、魔導師であるからだろう。

「ボクよりはマシだね。ボクなんて、プリキュアに戻った時は、23世紀で土方してるジャンヌさんの旦那さんから反対されたもんだから」

「あー、そっか。いつきの素体になった子は……」

「ステラ・ルーシェ。どこかの世界の使い捨ての強化人間さ」


キュアサンシャインは自分の素体になった人物が『生体CPU』なる『使い捨ての強化人間』であると知っている。その関係で身元引受人がシン・アスカとルナマリア・ホーク(ジャンヌ・ダルク)夫妻なのだ。シンは自分の出身世界では救えなかった事もあり、同位体が素体になった明堂院いつきを溺愛しており、いつきを困惑させている。とは言え、いつきもステラの哀れな生涯を鑑み、シンのことは家族として敬愛している。ちなみに、そのジャンヌはルナマリア・ホークの軍籍を使う形でダイ・アナザー・デイに参陣しているので、書類上はルナマリア・ホーク扱いである。そのため、双方の存在を知っている自衛官らは大パニックに陥ると同時に狂喜乱舞している。

「ま、それはそれとして、今の人生を楽しんでるさ。それに、ステラの姿は取ろうと思えば取れるけど、それはそれで外に出歩けないし、明堂院いつきとしても面が割れてるのなら、ってことで、キュアサンシャインの姿でいるわけ」

サンシャインは色々な兼ね合いの結果、サンシャインとして変身しているとリコに話す。これは同じチームのキュアブロッサムがアリシア・テスタロッサとしても面が割れているススキヶ原では、キュアブロッサムの姿でいるのと同じ理由だ。

「変身のバーゲンセールじゃない?それ……」

「気にしたら負けよ、リコ」

「アクア、貴方もですか?」

「ええ。本当はのぞみのためにも参戦してくれと言われてるのだけど、私とミントの出身世界がごたついててね」

キュアアクアも言う。アクアはサンシャインを連れて買い物に行っていたのだ。

「聞きました。貴方の世界ののぞみが……」

「ええ。誘いは受けたのだけど、こちらはまだ戦ってる最中でね…。あの子、駄々こねたのよ。それでフェリーチェが困ってね」

黒江も日誌に残しているが、実はキュアアクアとキュアミントの世界は比較的早くに発見されていた。のぞみAも何回か直接出向くことになるが、キュアアクアとキュアミントを連れて行くことをのぞみBが激しく拒んでいるため、交渉が難航していた。フェリーチェだけでは解決が不可能と分かると、ダイ・アナザー・デイ後にキュアスカーレットなどを送り込む。しかし、更に後日になり、のぞみAの精神状態が危険な状態となったために、『埒が明かない』と結論づけたピーチがドリームBを打ちのめす形になったのである。

「どうするんですか?」

「こちらにも都合があるから、しばらくは様子見ってことにしたわ。貴方達の知るのぞみには闇があるわ。ピーチは実力行使をしてでも、私とこまちを連れていきたいと言ってるのだけど…、あの子……のぞみには頭に血が登ると、拗ねて意固地になるから…」

のぞみにはショックな事があると、拗ねて意固地になってしまうという欠点があった。それが最悪に近い形で表れているのである。この頃のキュアアクア(水無月かれん)の悩みのタネがこの事だった。ダイ・アナザー・デイ中はこうして、時たま野比家に顔を出しているものの、戦いに参陣する事がなかった理由は『元の世界との交渉のもつれ』だったのである。

「……意外ですね」

「自分が助けに行けばいいって言ってるけれど、そういうわけにもいかないのよね…」

「そこが難しいところなんですよ。実力行使しかなさそうな気が……」

「それって、最悪、戦うことに」

「それはピーチがどうにかするって言ってる。なるべくなら避けたいものだよ」

リコも、サンシャインもその可能性に触れる。三人はこの時点で、『その手段を講じるしか手が無くなった』場合は問答無用でそれをやるしかないだという結論に達しているようで、表情を暗くする。みらいとやよいがマジンガーZ対暗黒大将軍に熱を上げているのをよそに、キュアアクアとキュアサンシャイン、十六夜リコの三人は今後に関わる重大な事を話し合っていた。それを見届ける形のモフルンはため息をつくのだった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.