生き残る準備を始めよう

俺達は権力者の道具ではない

この際、彼らが犠牲になってもらおう

甘い夢に溺れても俺達は助けないぞ

そこから這い上がれても更なる地獄へと誘おう



僕たちの独立戦争  第七話
著 EFF


―――オーストラリア メルボルンシティー郊外 クリムゾン邸―――

「お久しぶりです、お爺さま」

「……うむ、久しぶりだなお前が来るとは意外だなアクア。」

中庭で初夏の日差しの中、ロバート・クリムゾンとアクア・クリムゾンの会食が始まった。

食事を終えアクアは祖父ロバートに話を切り出した。

「お爺様、戦争が始まるそうですね。

 それも100年前の亡霊が相手だそうで」

「……アクア。何処で知ったその事を」

「ふふ、知り合いが教えてくれましたの。

 この戦争の結末も教えていただきました。

 クリムゾンの未来も聞きましたが、なかなか面白い内容で私もどう動くか迷いますわ、お爺様」

アクアがロバートの静かな恫喝に臆する事無く笑顔で答えた。

アクアの様子が今までとは違うと感じていた。

何処か危うい感じがしていたのだが、今はまるで別人のように思えてきた。

ロバートはアクアの変化をいい方向に変わって欲しいと思っていた。

「……ほう、聞かせてくれんかアクア。

 何か面白そうな事もあるのかな」

探るように聞くロバートに、アクアは愉快に囁くように答えた。

「嫌です。

 教えたら今のクリムゾンが残りますからだから秘密です、お爺様」

「……アクア、そんなにクリムゾンが、わしが憎いか」

ロバートの搾り出す声にアクアも声を変え、

「……ええ、クリムゾンが嫌いです。

 でも……お爺様を恨んではいません」

「だがな今更クリムゾンを捨てる事は出来んぞ。

 社員に死ねというのか、アクアよ」

諭すように話すロバートにアクアは反論した。

「では何故血を求めるのですか、

 大企業たるクリムゾンがいまさら二流の真似事をする必要があるのですか、

 必要なのは優秀な人材であって血に飢えた人殺しでは無いはずです。

 お爺様はその事に気付きながらも変えなかった。

 それが怠惰であり、罪です」

アクアが静かに告げる事にロバートは渋い顔で答える。

「随分言うようになったなアクア。

 昔のお前はクリムゾンから逃げていたのにな」

ロバートはアクアの変化に戸惑いながらも心の何処かで喜んでいた。

クリムゾンに怯えて逃げようとしていた子供が大人になって向き合おうとしていると感じていた。

「ええ、クリムゾンの紅を血ではなく別の物に変える覚悟が出来ましたの、お爺様。

 でも今の私が言っても小娘の戯言に過ぎませんがお爺様には告げておくべきだと思いましたから」

「……そうか、リチャードやシャロンが喜ぶよ。

 お前が戻ってくる事を」

「本気でおっしゃてますか、お爺様。」

「…………………………………………………………………………………………………………」

アクアの問いかけにロバートは返事が出来なかったが、アクアはそれを無視して続けた。

「お父様は権力に溺れ、お姉様はクリムゾンを名乗らずクリムゾンの力を使い放題。

 それもお爺様のやり方の真似事。

 実際お姉様はこのままだと誰かの傀儡になりますわよ、お爺様。

 急がないと不味いですわ、今のクリムゾンはお爺様があっての物です。

 ワンマンのツケが今になって問題になって来てます。

 後継者の育成が必要なのにそれが出来ない。

 その意味が分かりますでしょう、お爺様」

アクアが告げた事は現在のクリムゾンにとって重要な事だった。

ロバートは結論を先送りにしようとしていた事を非難されて渋い顔をしていた。

「……耳が痛いな、アクア」

「当然です。誰も何も言えない様な企業にしたのはお爺様です。

 お爺様は不死身ですか、そうではないでしょう。

 墓場に財産を入れますか」

「……ではアクア、お前がクリムゾンの後継者になるかね」

「嫌ですわ、お爺様。

 私がするのはクリムゾンを情報公開による健全化をして楽隠居する事です。

 後は火星で家族と一緒に暮らすことですわ。

 最も10年から20年はかかるでしょうから大変ですけど。

 お姉様がしっかりして下さればいいんですけどね」

アクアの言葉にロバートは呆然として理解すると笑い出した。

「可笑しいですか、お爺様。

 私のプランは何か問題でもありますか」

アクアの拗ねる声にロバートは苦笑して答えた。

「リチャードはどうするのかな、アクア。

 あやつはお前の父親だぞ」

「……今更父と言われても、私にはグエンやドクターがお父様と言えます。

 1年も顔を会わさずお母様を見捨てるような人を救う気はないですわ。

 今も誰か愛人を囲っているのでしょうから。

 それに情報公開をすれば自ずと切る事になりますわ。

 ただお爺様は守りますわ。

 いつも遠くから見守ってくれましたから、だから……」

「……いやわしも切り捨てよ、アクア」

迷うアクアを見てロバートはアクアの覚悟を見ようとして非情な宣告をした。

「!お爺様!!

 嫌です、出来ません。そんな事は!!」

動揺して叫ぶアクアにロバートは静かに告げる。

「その覚悟が出来なければ後継者にはなれんぞ、アクア。

 わしを踏み潰して行け、お前の未来の為にはそれが必要だぞ。

 何、老い先短い老人だ。気にせんでいい」

「…………………………………………………………………………………………………………」

何もいえないアクアにロバート諭すように話していく。

「わしより大事なものが出来たのならそれを守ることが全てでそれが無ければ意味はないぞ。

 わしの様な冷たい玉座に座る気はないのだろう、アクア」

この時アクアは更なる覚悟を決めたと後にクロノに話した。

「さてアクア、これからどうする。何かわしに出来る事はあるか」

「……はい、一つは火星にある実験施設の命令権が欲しいのです。

 これから起こる火星の悲劇を回避する為に必要な事です。

 分析では火星の住民はこの戦争の為の生け贄になると判断しました。

 もう一つは技術者をお借りしたいのです。

 火星に行ってもらうので志願制で家族をお持ちの方はできれば外して欲しいです。

 そしていったんクリムゾンから離れてもらいます。

 無論安全は保障しますし、この事はクリムゾンにとって必要な事になります」

「つまり今ではなく、今後の為の布石になるのか?」

「はいこのまま戦争が始まるとネルガルの一人勝ちになります。

 それを防ぐ為に社員の身分を隠してもらう事になりますが、

 再契約時は厚遇する事を約束する誓約書を書きます」

「……それは相転移エンジンからなる技術の事か、アクア」

「この戦争相手の木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家反地球共同連合体、

 略して木連でしたか、

 彼等がこの技術を持っている事を交渉相手であるクリムゾンは知らないのですか、お爺様」

「……いや、そこまでは知らなかったがそれほどの物なのかアクア」

「はい、ディストーションフィールドを見ましたが質量兵器以外の効果は殆どありません。

 このため火星駐留軍は無事には済みませんし、ビッグバリアのある地球まで負け続けます。

 ただ一つ火星住民の部隊のみ抵抗出来ます。

 ですが木連は火星に殲滅戦を行うのでこのままでは住民の殆どが死亡します」

アクアが告げる事にロバートは信じられない思いで聞くがアクアが嘘を吐いてない事に気付き考える。

「……そこまでの差があるのか?

 しかも殲滅戦だと……地球はその事を知らんのか?」

「はい、このままだと現在実用化が出来かけているネルガルの独占を許してしまいます。

 そうなれば戦後、お姉様やお父様がどんな暴挙に出るか分かるでしょう、お爺様。

 また地球はいずれ独立しようとする火星をここで始末するつもりみたいです」

「……そうだな、あやつらならやりかねんし危険だな。

 地球の政治家達はお前の言った通りに動くだろうな。

 どうせ自分達には関係ない事と判断しているのだろう」

「はい、そのような暴挙は避けなければなりません。

 この事で私のクリムゾンでの立場の強化につなげます。

 また火星はこれを機に独立へと動くみたいです。

 ここでクリムゾンが援助すればネルガルに差をつける事も可能です。

 ネルガルは火星を見捨てる可能性がありますが、私は火星が生き残ると確信しています。

 彼らの技術力はネルガルでも実用化が出来ていない相転移エンジンからなる技術を確立させています。

 ただ時間と人材が不足気味なので今ならクリムゾンの援助が独立後に活きてきますよ」

アクアが火星の状況を詳しく知っている事にロバートは不審に思うが、

クリムゾンに損がなければとりあえずはいいかと判断する。

「なるほどな、だが技術者達はどうする今からでは火星に行けんぞ。

 安全はどうするのだ。

 それに仮にお前に命令権を与えても今からではどうにもならんぞ」

そう今から火星に向かっても満足な成果は出ないとロバートは判断していた。

火星まで一月は掛かるだろう……それでは間に合わないのだ。

「……お爺様、この事はわたしとお爺様の秘密にして下さい。

 よろしいですか?」

声を潜めて話すアクアにロバートは重要な事だと思い聞く事にした。

「……わかった、アクア」

「ではお話します。

 火星は生体ボソンジャンプを特定の条件下での実用化に成功しました」

「なっ何だと確かかアクア?!

 それは事実か?!」

ロバートは椅子から立ち上がりアクアに問い質した。

信じられない事を聞かせれたのだ。

そんなロバートの様子にアクアは愉快に微笑みながら伝える。

「ええ火星まで一瞬でしたわ、お爺様。退屈な船の旅が無いのはいいですわ♪」

「まっまさかアクア、お前はジャンプしたのか、火星まで」

「地球人最初のジャンプ経験者ですか、いい響きですわね♪

 お爺様もそう思いませんか?」

信じられないという表情のロバートを愉快に見ていた。

「……しかし、よくそんな事が出来たな、生体ボソンジャンプはネルガルでさえ失敗しているのに」

SSからの報告ではネルガルは志願制の実験ではあるが既に犠牲者は二桁に入ったと聞いていた。

だが火星は特定の条件下といえど生体でのジャンプを成功させているとアクアは告げていた。

驚くロバートにアクアは話を続けた。

「………ネルガルは9年前に最大のミスを火星で犯しましたの。

 今からそのツケを払う事になりますわ。

 そしてクリムゾンはそのミスにつけ込んで実利を奪いますわ」

アクアの話を聞いてロバートはある事を思い出し聞く事にした。

「それは火星のクーデター、テンカワ博士暗殺の件かな、アクアよ」

「そうですよ、お爺様。

 証拠があればくださいませんか、有効に使いたいのですが」

「いや、軍が一枚咬んでるくらいで詳しくは分からん。調べるか、アクア」

「いえ、警戒させるので止めときましょう。

 既に火星はその事を知っていますし今回の戦争の事も知っています。

 ネルガルが裏で糸を引いている事もそれに木連と連合政府が相乗りした事も知っています」

「どういう事だ、何故連合政府が絡んでくる。

 それに木連もだ、アクア」

「ネルガルは相転移エンジンからなる技術の独占、

 木連は火星への移住、

 連合政府は来るべき火星の独立の阻止、

 3者の利害が見事に一致した結果、

 火星の住民3000万人の殲滅戦、気分が悪くなる話ですね。

 どうです、お爺様。すごい事になりますわ」

アクアが笑いながら告げる事実にロバートは考え込んだが事態の深刻さに気付いて問いかけた。

「……冗談ではなさそうだな、信じられんがな」

「ええこの際、クリムゾンは全てを白日の下に曝け出して火星を独立させようと思います。

 現在の木連は軍部による情報統制下の独裁政権に国民は気付かず、

 火星に殲滅戦をしかけ血の海に酔いしれ、

 連合政府過去の罪を暴かれるのを恐れ、

 そして起きるか分からない独立に怯え火星を見捨て、

 ネルガルはボソンジャンプの甘い夢に溺れ足を踏み外し地獄へ堕ちて、

 クリムゾンと他の企業は正しき道で潤い、

 この世の春を謳歌して、

 火星は独立して平和に暮らしました。

 こういうシナリオはいかがですか、お爺様。

 ワクワクしませんか?」

アクアのイタズラが成功した時の愉快な笑顔がロバートには痛快に思えた。

「ふふ、いいだろう。

 すぐに準備をしよう、アクア…此処に滞在するか」

「いえ島に帰ります。子供達が待ってますから」

「子供達、どういう事だ?!

 いっいつ作った、アクア?!」

ロバートの狼狽する声にアクアは静かに優しく母の笑顔で囁いた。

「事情があって引き取り保護しました。とっても可愛い子達ですわ、お爺様」

「……そうか。

 守るべき家族はそれだな、アクア」

「ええ、もっともクリムゾンは継がせませんから安心して下さい。

 これは私がする苦労であって子供達には背負わせません。

 誰よりも幸せになって欲しいですから」

アクアの慈愛に満ちた笑顔を見てロバートはこの子の苦労を減らす事を誓った。

「では、整い次第連絡する。

 それでいいかな、アクア」

「はい、ですが面接には立ち会いますので連絡して下さい。

 クリムゾンの命運を担ってますから時期的には来年の2月頃に連絡をお願いします。

 条件の詳細はメールで送ります、お爺様」

「うむ、面接はテニシアン島で行うか決めてくれ」

「分かりました、それでは失礼します。お爺様」

玄関へむかうアクアの背を見ながらロバートはアクアが継ぐ為の方法を模索していた。

そしてこれから起きる戦争の準備を始める為に指示を出す事にした。


―――火星 山岳地帯―――


「で、耳寄りな情報を持って来たというのは君か?

 こんな所まで呼び出したんだ。

 いい加減な情報ではないだろうな」

レオン・クラストは目の前にいるバイザーをつけた紅銀の髪の青年に聞いてきた。

周囲にいるのは彼の仲間達だけで青年には側に子供が一人だけだった。

「大将、こんな所に来る事自体無駄なんですよ。

 さっさと帰りましょうや」

仲間の一人が話すと他の者も帰るように話すがレオンは子供を見ながら告げた。

「いや、その子供はマシンチャイルドだ。

 どうやら外れではないようだ」

その言葉に全員が子供を面白そうに見ていると、

「へえ、これがマシンチャイルドね。

 どうせ科学者達の玩具だろ、ほれ食うか」

馬鹿にするように話すと子供は呆れるように見ていた。

それが気に喰わんと子供に怒鳴ろうとした時、

青年から殺気が溢れ出した。

溢れ出す殺気は周囲の空間を固定するように全員の身体を硬直させていく。

(なんなんだ、コイツは)

青年を見つめるレオンはこれ程の人物がいた事に驚きを隠せなかった。

「どうやら外れを引いたのは俺達のようだな。

 クオーツ、引き上げるぞ」

「うん、お父さん。

 期待はずれみたいだね」

殺気を消すと青年は子供を抱えて帰ろうとした。

仲間達は呆然としていたが青年の元に来た機動兵器を見て慌てだした。

その機体は人型に変形すると中世の騎士のように青年に前に膝をついて従うようなポーズで待機した。

その動きに全員が驚いていたが、レオンは焦ったように話した。

「待ってくれ!

 仲間の無礼な行動は謝ろう。

 だから待ってくれ」

無人の機体のコクピットに乗り込もうとした青年は振り返り告げた。

「あまり時間はないんだ。

 火星の住民3000万人の生存がかかっているんでな。

 無駄な時間は掛けたくはないんだが。

 話を始めてもいいか?」

告げられた言葉の意味を知ったレオンは真剣な表情で青年と向き合った。

仲間達は意味が分からずに機動兵器を見つめていた。

「もうすぐこの火星で戦争が始まる。

 しかも殲滅戦だ、それを回避する為に俺達は行動している。

 地球からの軍は撤退を考えているみたいだ。

 火星の住民は全員見捨てられる可能性が大きい。

 俺達はこの戦争を逆手にとって火星の独立を行うが君達は参加するか?」

青年が告げる事に全員が意味を知ると笑い出したが、レオンだけが考え込んでいた。

「冗談はよせよ。

 誰が戦争を始めるんだ。

 宇宙から侵略者でも来るんですか〜」

一人が馬鹿にするように話すと全員が笑い出すがレオンは訊ねた。

「相手は誰だ。

 地球の軍が逃げ帰るなら相手は人類以外の存在か?」

真剣な様子のレオンに仲間達は驚いていたが青年は告げた。

「100年前の亡霊の生き残りだ。

 地球が隠してきた罪が形となって火星に侵攻してくるだけだ。

 その正体は木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家反地球共同連合体、

 略して木連だ。

 100年前、月の独立を掲げた人類が俺達の相手になるんだ」

「そんな馬鹿な!?

 歴史では彼らは死んだ事になっているはずだ」

レオンが叫ぶと仲間達も信じられないように青年を見るが青年は真実を告げるだけだった。

「当時、月の独立派はマスドライバーと核による武力での独立を掲げたが連合政府の介入により分裂、

 武力派は火星に逃げ込んだが連合政府はそこに核を撃ち込んだが逃げ延びた。

 彼らは木星で遺跡、奴等はプラントと呼んでいたな。

 それを発見し生き延びたがやはり過酷な環境なので地球と和解をして、

 火星に移住したいのだが地球が彼らの存在が明るみに出るのを恐れてその交渉を潰した。

 その結果怒った木連が戦争を選択して火星の住民を皆殺しにして火星を我が物にする事になった。

 連合政府はやがて独立しかねない火星を切り捨てようとしているので、

 彼らに火星の住民を始末させようとしているのさ」

青年が隠された事実を告げると嘘か、真実なのか判断できずに動揺していた。

「すまないが時間があまりないので失礼するがヒントを教えてやろう。

 軍は新型艦を地球に戻して旧式の艦だけを火星に集めているぞ。

 またエリートと呼ばれる二世軍人達は火星から引き上げているぞ。

 君達なら調べる事も出来るだろう。

 一週間後、ここで会おう。

 返事はその時に聞こう」

青年はレオンに告げると機動兵器に乗り込み上昇した。

そして上空が輝くとそこには白亜の戦艦が出現して機動兵器を格納すると光と共に消えていった。

全員が呆然とするなかでレオンは踵を返すと車に乗り込み全員に話した。

「急いでコロニーへ戻るぞ。

 まず軍を調べるぞ、彼が言った事が事実なら戦艦を確認すれば分かるだろう。

 それから各コロニーの代表に聞いてみるぞ。

 ただし地球企業の息のかかった所は省いておくぞ」

「じゃあオリンポス、北極冠、コンロン、ノクターン以外のコロニーからか?」

「そうだ。

 まずアクエリアコロニーから聞く事にする。

 あそこの代表は信用できるからな」

全員は車に乗り込むと行動を開始した。

事実なら最悪の事態になると思っていた。

レオンは何故か事実だと確信していた。

あの青年を見た時から予感めいたものがあった。

何故か楽しくなってきたのか、口元に笑みが出てきた。

火星の独立を叫んできた甲斐があったと感じていた。

「大将、楽しそうですね」

「当然だろ。

 事実なら火星を独立させる事になるんだからな。

 俺達の活動も無駄じゃなかったんだ。

 しかも地球の思惑を外すんだ。

 これが楽しくなくて何が楽しいんだ」

「それもそうですね。

 俺も楽しくなってきましたよ」

「俺としては事実だといいな。

 火星の住民を守って火星を独立させるんだ。

 地球と戦争するよりはマシだろ」

レオンの言葉に全員が現状よりいい方向へ動く事に気付いた。

いざ独立を叫んでも現状では難しい事は理解していた。

それが覆るかもしれないと思うと悪くないと感じていた。

その為にも調べなければならないと思いコロニーへと急いだ。


「ご苦労さまでした、クロノ。

 首尾は上手くいきそうですか?」

土星の工場に帰還したユーチャリスTのブリッジでアクアは尋ねる。

「どうだろうな。

 この程度で躓くようじゃこの先はダメだから試してみた。

 一週間後、また会うから楽しみにしておくよ、アクア」

「私のほうは上手く行きましたよ。

 ノクターンコロニーの支援を受ける事も可能になりました。

 周辺の実験施設も使えそうですよ」

『では準備を進めてもよろしいですか?』

「ええ、此処ほどは無理でもブレードの量産は可能だと思います。

 あとはパイロットの養成だけですね」

「それは任してくれ。

 ダッシュ、エクスの開発は順調に進みそうか?」

『大丈夫ですね。

 ですが配備には時間が足りません』

「俺は第二次火星会戦に間に合えば良いと思っているんだ」

「第二次ですか?

 それは何時ですか、クロノ」

「ナデシコが火星に来た時だな。

 ナデシコがどう行動するかで始まると思っているよ」

クロノの考えにアクアも頷いて話した。

「では一度テニシアン島に帰って下さいね。

 セレスとラピスが寂しがっていましたよ」

「そうだな、一日だけでも戻るか。

 クオーツもその方がいいかな」

「うん、ドクターに会って話したい事があるんだ。

 僕ね、お友達が出来たんだよ。

 サラちゃんにミリアちゃんにね、他にも沢山できたんだ」

楽しそうに話すクオーツの言葉にアクアは顔を青くしていた。

「えっと男の子の友達は出来ましたか、クオーツ」

「それがね、まだいないんだよ。

 サラちゃんの友達は女の子ばかりだからちょっと寂しいんだ」

残念そうに話すクオーツにアクアは安心するとクロノに向き合い話す。

「ク〜ロ〜ノ〜、ちょっと話があるので急いで帰りますよ。

 いいですね」

急に不機嫌になったアクアにクロノは吃驚していた。

「ど、どうしたんだ。

 何か問題でもあったのか?」

「ええ、重大な問題が起きましたのでお話があります」

「そ、そうなのか。

 ダッシュ、分かるか?」

『その件に関しましては私も同罪ですね。

 申し訳ありません、アクア様。

 マスターに注意していたので気が付きませんでした』

謝るダッシュが理解できずに首を捻っているクロノを見て、クオーツも楽しそうに真似していた。

それを見たアクアはこの二人は血が繋がった親子なんじゃないかと思っていた。

この後、島に戻ったクロノはアクアとマリーから叱られる事になったが、

「どうしてこうなるんだ。俺が何かしたのか?」

とグエンとドクターに愚痴をこぼすと二人は呆れるように見ていた。


―――アクエリアコロニー エドワードの執務室―――


「珍しいですね。

 普段は誘ってもこの部屋までは来ない貴方が来るとはね」

「急いで調べる事が出来たんでね。

 ぜひアンタに聞きたい事があるんだが」

「なんですか?

 ここまで来る以上、かなり重要な事でしょう。

 分かる範囲内でなら教えてもいいですよ、レオン」

普段の格好から真面目なスーツ姿のレオンにエドワードが違和感を覚えながら聞いてきた。

この男ときたら普段はラフな格好でしか会議や集会場に来ないくせに今日だけは何故かスーツ姿できているのだ。

明日は火星では起きない地震でもあるんじゃないかと思っているとレオンは質問してきた。

「おかしな情報が入ってきてな。

 火星が木星から攻撃を受けると聞いたんだよ。

 軍を調べてみると新型艦は地球に返されて、

 あるのは老朽艦ばかりでおかしいと思って聞きに来たんだよ」

「そうですか?

 軍には気付かれてはいませんよね」

「当然だ。

 仲間達には事態の深刻さを教えて黙らせているよ。

 その様子だと事実なんだな」

「何処まで聞いていますか?」

真剣な表情のエドワードにレオンも真面目に答えた。

「木連だったかな?、そいつが殲滅戦をやるって聞いたぜ。

 あとは地球が火星を見捨てるっていってたな」

それを聞いたエドワードは考え込むと秘書に執務室には誰も来ないように指示を出した。

秘書は部屋を出るとエドワードが鍵を閉めてレオンに語った。

「その件は事実です。

 ですが内密にして下さい、火星の独立がかかっていますからね」

「そうか、こいつはいいな」

レオンは楽しそうに笑い出すとエドワードに告げた。

「そいつと会う約束をしているんだがお前さんも付き合うか?」

「いえ会う必要はありませんよ。

 呼べば来てくれますからね。

 意外と遅かったですね、ここに来るのが」

エドワードが少し意外そうに話すとレオンは驚いていた。

「そうだな、行動派だと聞いたんだが足が遅いんじゃないかな」

レオンの背後に現れた青年にエドワードが話した。

「多分、仲間が半信半疑で調べたからじゃないですか?」

「そうかも知れんな。

 普通に聞いたら常識を疑うかもしれんからな」

「この前、見せたアレで入ってきたんだな。

 お前は本当に人間なのか?」

呆れるように話すレオンに青年は告げた。

「触媒があれば火星の住人の十人に一人は確実に出来る事だぞ。

 お前だって出来るかもな」

「マ、マジかよ。

 もしかしてコレのせいで火星は殲滅戦を仕掛けられるのか?」

「なるほど勘は鋭いみたいだな。

 まあ当たらずも遠からずだな。

 このボソンジャンプが悲劇の一因でもある事には間違いないな」

ソファーに座り直してレオンは二人に告げる。

「全部、聞かせてもらおうか?

 今更逃げるのは俺の流儀じゃないんでな。

 参加させてもらうぞ、独立を賭けた大博打にな」

獰猛な肉食獣な凄みのある笑みを浮かべるレオンに二人は計画を教えていった。

レオンはその計画をとても楽しそうに聞いていた。

こうしてまた一人、火星の独立に命を賭ける男が参戦してきた。

その名はレオン・クラスト、火星独立を掲げる武装団体マーズ・フォースのリーダーであった。

彼が加わる事で火星で活動する独立推進派は全員協力する事になり人員の問題はかなり軽減された。

第一次火星会戦まで残り110日。

時間との戦いは続いていく。







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EFFです。

火星編はもう少し続くと思います、多分(汗)
時々地球と木連も入りますが火星が中心になると思います。

指摘を受けた部分を直していこうと思います。

では次回にお会いしましょう。


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