土台を作り上げていく

次の世代に希望を残す為に

この行為は間違っていないと確信している

未来を見据えて俺達は進んで行く



僕たちの独立戦争  第十二話
著 EFF


―――アクエリアコロニー 会議室―――


「現在、コンロン、アルカディアコロニーからの避難が完了した為、木連の支配下は北半球になっています。

 この為オリンポス、北極冠コロニーの生存が危ぶまれていますが二つとも避難勧告を拒否しています。

 南半球にあるマーズ、ヘリオスコロニーにはブレードを配備しましたので防衛体制は整いつつあります。

 ノクターンとアクエリアの防衛体制は事前に出来ていたので特に問題はありません」

レイ・コウランの声が静かな会議室の中に響く。

「それではこれより現在の地球の状況を説明します」

レイに続いて、アクアの説明が続けられる

「まず月が落ちた事により周囲のコロニーを除く事以外はほぼ宇宙は木連の制圧下になりました。

 これにより火星への救援はまず無いでしょうから連合も文句を言ってきても何も出来ません。

 またクリムゾンサイドより政府に対してこう伝えます。

 『火星はおそらくもたないから大丈夫じゃないか』と。 

 この状況では地球も自分の身を守る事しか出来ないので火星は実質的に独立したも同然ですね。

 ただクリムゾンとしては大きく出る事は出来ませんので、お爺様が政府高官に極秘に話す程度ですが」

「……そうね、地球としては軍の敗戦の事をこれ以上大きく取り上げられると不味いからね」

今回より加わったイネス・フレサンジュ博士の発言だった。

「……そうだな。

 地球はあのフクベをチューリップを落とした英雄として敗戦のイメージを隠そうとしているしな」

グレッグの声に全員が頷き、エリスが呟いた。

「アイツのせいで、ユートピアコロニーが……」

「そうだな。わしも陣頭で指揮を執っていなかったら死んでいたんだろうな」

コウセイの声に全員が沈黙した。

「……やめましょう、これ以上は。

 それよりイネス博士の状況はどうですか?」

エドワードの発言にイネスが答える。

「クリムゾンの技術者がいるおかげで相転移エンジンの方は何とか目処がついたわ。

 でもあのエンジンは何処にあったの?

 私達のエンジンよりも小型でハイパワーだから驚いたわ。

 あとクロノさん達と私の遺伝子情報でジャンパーの分類が出来るわ。

 まずA級ジャンパー、単独でのジャンプが出来る人。

 B級ジャンパー、ジャンプに耐えられる人ね。

 後はC級ジャンパー、ジャンプに耐えられない人ね。

 ただジャンプにはきちんとした教育をしないと危険ね。

 イメージがきちんと出来ないと多分死ぬわ。

 なんせ何処に飛ぶか分からないから、いきなり宇宙とか太陽に飛び込むこともあるし、

 何の知識も無く地球に飛んだテンカワ・アキトは運が良かったわ。

 私や……クロノさんみたいに過去へ行くのも不味いわね。

 おそらく記憶の混乱はそのせいでしょう。

 ボソンジャンプは時空間移動だからね……他にもあるの未来の技術は」

「ああ、イネスさんが設計したジャンプシステム関係と他にも機動兵器がある」

「そう、道理でね。ブレードストライカーだっけ……アレを見た技術者が驚いてたのよ。

 プロトエステより洗練された機動兵器だから。

 誰が設計したのあの機体は」

「ダッシュさ。

 クシナダヒメの後に生み出されたオモイカネシリーズの一人で俺の最高の相棒だ。

 さ、ダッシュ」

クロノの声に合わせて現れたウィンドウから、

『お久しぶりです、イネス博士…いえ違いましたね、オモイカネ・ダッシュと言います。

 ダッシュとお呼び下さい、皆さん』

「……そう、アナタも未来から来たの。

 出来れば後で見せて欲しいんだけどその技術を」

『はい、ドクターに相談したい事もありますので後ほどお見せします。

 マスター、エドワードさん、現在のコロニーについて私から提案があります』

「何か問題でもありますか、ダッシュ」

『はい、ヘリオス、マーズコロニーに私の端末を設置して欲しいのです。

 ノクターンとアクエリアには既に設置されていますが、これによって無人機型のブレードを配備できます。

 当面は私が管理しますが、スタッフの皆さんが使用に慣れたらお任せします。

 これによりパイロットの方々の負担が減り、

 開発中のエクスストライカーへの機種転換を効率良く始められます』

「いいじゃねえか、遂に噂の新型が出てくるんだな。

 クロノに聞いたんだがこいつは半端じゃなく高性能なんだろ。

 こいつに乗れるんなら、俺は賛成するぜ」

レオンが楽しそうに話すと全員が朗報に笑っていた。

「そうですか。皆さん、問題がなければこの件を実行します」

エドワードの言葉に全員が頷き、エリスが尋ねた。

「ダッシュ、エクスストライカーについて教えてくれる。

 パイロットとしてとても興味があるの」

『はい、エクスストライカーは小型相転移エンジン内臓の機体になります。

 この為、連射こそ出来ませんがグラビティーブラストを改良したランチャーが使用できます。

 これは弾丸状にして放つのでチューリップを貫通させる事も出来ます。

 無論通常の拡散型も使えます。

 そしてディストーションフィールドの出力増加によるフィールドの攻撃転用が可能になりました。

 これをディストーションランサーと名称しました。

 これで現在あるカトンボ級、ヤンマ級戦艦を撃破が単機で行えます。

 また火星軍にしか使えないボソン砲を装備します。

 これにより単機でのチューリップの撃破も可能になります』

「いいぜ、いいぜ。

 これでチューリップや戦艦を撃破できるんならクロノの苦労を減らせるな。

 正直、ブラック・サレナを扱えねえからクロノに負担をかけるのが嫌だったんでな」

レオンが現状を変えられると知って喜ぶとスタッフもクロノの負担を減らす事が出来るのでホッとしていた。

「ボソン砲……ボソンジャンプによる攻撃方法なのね、ダッシュ」

『はい、そうですドクター。

 A級ジャンパーのナビゲートによるミサイルのジャンプ攻撃です。

 いかなる防御も無効にする火星独自の兵器になります。

 対抗策はジャンパーによる瞬時の移送か、ディストーションブロックによる被害の最小化くらいです』

「な、なんか鬼みたいな武器ね、ボソン砲って」

初めて聞くエクスストライカーの武装にエリスは驚いていたが、レオンは楽しそうに笑っていた。 

『実際ジャンパーによる転送は不可能ですから、ただ相転移エンジンを使う為に数を揃えるのが難しいです。

 また攻撃に関しては無敵ですが問題もあります』

「……ああ、ジャンパーの確保ね。民間人を使うのは不味いしね」

イネスの声に全員がその事に気が付いた。

「確かに民間人を戦場に立たせる訳にはいけません。

 軍の中にどれだけいるかわからないのも問題ですね。

 オペレーターや整備士達専門家に操縦させるのはダメですから」

レイの発言にエリスがクロノに聞いた。

「クロノさん、エクスが複座なのはこの為なんですね。

 操縦者と爆撃手に分業する事にしたんですね」

「その通りだ、エリス。

 ジャンプナビゲート自体は簡単だが操縦しながらの作業は難しい。

 今それが出来るのは、俺と俺の経験を持つアクアだけだろう。

 訓練すれば出来るだろうが時間がないからな。

 だからコウランさん一部の問題はこれで解決できます。

 これから軍に入る者にはまずジャンパー資格を確かめて志願制にすれば良いと思います」

『後は数を揃えることが出来るかですね。

 前の歴史通りに進むのなら来年の二月に火星にネルガルの戦艦が来ます。

 それまでに何機揃えられるか分かりません。

 数が足りない時はまずチューリップを撃沈する事が最優先になります。

 それが出来なければ無限の増援を相手にしなければならないので火星は生き残る事が出来ません』

「確かにそうだな、チューリップから放出される戦艦群や無人機を相手にするのは無理だな。

 火星は兵器は優秀でも数を揃えるのが問題になるんだ。

 戦争は数がないと勝てないように出来ているからな」

クロノはダッシュの意見に納得して自分の意見を述べた。

「勝てなくても生き残る事は出来るわ。

 時間を稼ぐ必要があるわね……火星に必要なのは時間なのよ」

イネスの結論に全員が納得するとエドワードが次の問題を提起した。
 
「これから火星全土でジャンパー資格の確認を行い、例のテンカワファイルを使う事になりますね」

エドワードの発言に全員が頷き、それを知らないイネスが尋ねた。

「テンカワファイルって何かしら?

 火星考古学者のテンカワ博士の遺した遺稿なの」

「ああ、俺が経験した人体実験を基に親父が極秘に残した事にしたボソンジャンプとそれによってもたらされる、

 火星に住む住民の危険性をシミュレーションした結果を書いたファイルの事だ」

「……そう、正直二度は聞きたくないわね。

 あれは人として医者としても最低の行いだからね」

イネスの重い呟きに全員が沈黙した。

「正直火星の人には聞かせたくないが、このまま行くと地球、木連による実験が始まるだろう。

 実際ネルガルは志願制とはいえ始めているしな。

 いずれ気付く前にこちらで手を打つ必要があるしな」

「幸いクリムゾンには私がお爺様に進言したので実験をする事はないですが、

 ネルガルに対してはどうしようも無いです」

クロノの後に続いたアクアの発言にボソンジャンプの危険性を全員が認識した。

「まず危険性を認識してもらって自衛を感じてもらいながら犯罪に使わないように教育する事が大事ですね。

 それではまずきちんと火星コロニー連合政府を作る為の選挙を実施して、

 ここに居る元市長による初代大統領を選出することになりますか」

「いや、エドワード悪いがお前さんにやってもらいたい。

 ……これは全員の考えだ」

コウセイの発言に元市長達が頷いた。

「無論今まで通り協力はするし意見も言うが、この先重大な選択を迫られる事がいくつもあるだろう。

 その時わし等では決断出来んかもしれんが、お前さんなら出来るだろう。

 責任を押し付けるようで悪いが、火星の住民の為になってくれないか」

「……いいんですか、私のような若輩者でも……」

「いや、おそらく10年か20年は重大な問題があるだろう。

 わし等では年齢的にキツイんだ。

 長期に亘る政権を作り次の世代への土台を作る必要がある」

コウセイの発言にエドワードが考え込み、レオンに尋ねた。

「レオンは立候補しないんですか?」

「悪いが俺には無理だな。

 俺は現場の人間で他に頭を任せる奴がいなかったんで代表になっていただけだ。

 お前さんは理想と現実のバランスを取るのが上手なんだよ。

 だからお前は信用できるのさ」

レオンがそう答えると他の市長たちも頷いていた。

「分かりましたコウセイさん、皆さん。

 ですが力をお借りする事になります。

 私一人では荷が重過ぎますから」

「安心しろ、エドワード。死ぬまで付き合ってやるから存分に手腕を振るえばいいさ」

コウセイの笑顔にエドワードも笑った。

「ではこれが最初の決断になりますわね、エドおじ様。

 現在、地球政府の命令でクリムゾンが木連との窓口になっているので、

 地球には内密で木連との一時休戦を結ぶ必要があると思います」

アクアの発言にクロノとエドワードを除いた全員が驚いた。

アクアはそれを見ながら言葉を続けた。

「とりあえず時間を稼ぐ事が必要です。

 多分ナデシコが来た時に休戦は終わりますが、その頃にはこちらも戦闘準備が出来ているでしょう。

 今、火星に必要なのは時間です。

 人材が出来上がる為の準備期間が長ければ長い程有利になります」

「確かにそうですね、アクアさんの言う通りです。

 パイロットの育成、オペレーターの育成はどちらもすぐには出来ません。

 ジャンパーの育成も必要ですね」

レイの声にクロノを除く全員が納得したが次の発言に驚愕した。

「それで……ですか。

 極秘に木星報復核攻撃を立案してくれと言われて資料を渡されたのはこの為ですか?」

「はい、交渉するにも木連は火星を敗戦国として無条件降伏しか認めないでしょう。

 何故なら彼等は自分達が殲滅戦を仕掛けた事を理解してません。

 まず彼等が何を行ったのか理解してもらいます。

 殲滅戦を仕掛けた以上、自分達も殲滅される恐怖を知ってもらいます。

 彼等は無人機に慣れ命の重さに対して分かってないのかもしれません。

 また木連に対して今回の暴挙を非難した場合、

 彼等は『悪の地球人の手先が何を言うか正義の力を思い知れ』と思い上がり攻撃するでしょう。

 その結果、彼等はおそらく北極冠その近くのオリンポスに攻撃します。

 これは彼等がボソンジャンプによる地球圏の支配という目的の為、防ぐ事が出来ません。

 ならばいっそ火星が宣戦布告して立場を明確にして彼等に攻撃させます。

 それを外交のカードに報復核攻撃を敢行します。

 攻撃目標は彼等の要のプラントとその周り港湾軍事施設、兵器開発施設、

 これにより木連の軍事行動を抑える事が出来ますので火星の制宙権を取り戻します」

「アクアさん、うちに来ませんか。作戦参謀で……」

レイの発言に軍関係者は一斉に頷いた。

「すいません、当面は子供達とバッタとジョロの電子制圧をしないと不味いんです」

「………ああ、そうでした。

 それがありましたね、大変申し訳ないんですが出来る人が居ないんでした」

「なぁ……アクア何をするんだ。子供達と」

クロノの問いにアクアが答えた

「木連の機動兵器にウィルスを打ち込んで、こちらの機動兵器の情報を嘘の情報にして流すんです。

 これで向こうの油断を誘い、決戦の時に有利に進めようと思うんです。

 今木星にウィルスを持った機動兵器が約500機あり、それらからダッシュに情報を送り込んで来てます。

 実際、かなりの情報がレイさん達の戦略作戦の役に立ってます。

 ウィルスに汚染された無人機から次々と他の無人機が汚染されていますよ」

「ええ、大変助かってます。無人機から出される情報で木連の動きが分析出来ますから。

 おかげで作戦行動がはかどりますし、木連の無人兵器はダッシュの操る物と違い、

 思考パターンが柔軟ではないので罠を仕掛けるのが楽でいいですね」

「ただ残念なのは数が少なくて木連にいる山崎、北辰の所在が分からなかった事ですわ。

 分かっていたら其処に核を打ち込んでやろうと思いましたのに」

「そうですね、アクアさん。

 草壁は無理でもその二人を失えば木連の兵器部門、暗部を失い草壁のくだらない野望を打ち砕けるのに。

 でも次に期待しましょうチャンスはありますよ。

 その為には虫共をこちらに一匹でも多く手に入れましょう」

「そうですね、レイさん。嫌がらせはしつこく念入りにしましょうね」

目が笑わずに口元だけが笑っている、レイとアクアに周囲の者が引いた。

「あら面白そうじゃない、私も一枚かんでいいかしら」

イネスが楽しそうに呟いた。

「ええいいですよ、イネスさん。参加しますか」

「ドクターの智謀に期待しますよ」

アクアとレイの声が重なるように聞こえた。

この3人を絶対怒らすなと全員がそう確信した。

「ではその件はレイさんに任せます。

 アクアは電子制圧とクリムゾンとの交渉の窓口になって貰います。

 クロノとドクターはジャンパー育成に力を貸して貰います」

エドワードの宣言に全員が頷いた。

「木連との交渉はタキザワさんを中心にお願いします。

 グレッグとレオンは来るべきオリンポス、北極冠の攻撃時の救援と制宙権の確保の準備を始めてください。

 他に意見がなければ今回の会議を終了します、お疲れ様でした」

エドワードの言葉と共に全員が行動を開始した。

「エドおじ様、暫くは火星と地球を行き来するので、

 マリーと子供達が住める場所を確保したいんですが、どこかありませんか?」

相談するアクアにエドワードは少し考えて聞いた。

「そうだな、家はどうかな?

 部屋は余っているから其処を使ってくれたらいいよ。

 警備もあるから大丈夫だろう」

「……そうですね。ではお言葉に甘えましてお世話になります」

「ああ、ついでに家のサラの相手をマリーさんに頼みたいしね。

 ウチは二人とも甘いみたいだし」

「そんなことないですよ、サラちゃんはいい子ですよ。

 それではマリー達に連絡しますので失礼しますね」

アクアの背中を見ながら随分変わったなとエドワードは思った。

常にクリムゾンに怯えていたのが嘘のようだと思う。

やはりクロノと子供達が居るからだろうと思う。

こうしてアクアの笑顔が見れてエドワードはこの日々が続く事に強く願った。


―――ロバート・クリムゾン邸 ロバートの書斎―――


秋の陽射しの中二人は会話をしていた。

「お爺様、地球の様子はいかがですか?

 クリムゾンの景気の方は」

「ふむ、バリア関係のおかげで悪くは無いがお前の言う通りになったなアクア。

 ディストーションフィールドがこれ程とは思わなかったぞ。

 地球は連敗続きだな事態は深刻だよ」

「そうですね、地球のやり方は間違ってますね。

 木連の戦力も知らずに開戦するなんて馬鹿ですね」

連合政府の批判をするアクアにロバートは頷いて答えた。

「その通りだな、裏でネルガルが動いていたがこんな事になると思っていたのかな」

「分かりませんね。

 ネルガルも一枚岩では無いですから知りながらしたのなら危険ですね。

 既に火星では約135万の犠牲が出ています」

「酷いものだな。地球も此処までするのか……どうやら政府はダメかもな」

「事実を告げるべきかも知れません、泥沼の戦争になりますよ。

 被害は何処まで出るか分かりません」

アクアが話す事はロバートにも理解できた、事態の深刻さに考える必要を感じていた。

「お爺様、軍の若手の優秀な方を確保出来ますか?

 いずれその方に軍の改革をしてもらう事になるかも」

「それが必要だな、オセアニアで軍上層部とクリムゾンと癒着していない人物を探すことにしよう」

「公正に出来る方がいいですね、出来れば戦術を柔軟に展開できる人が良いですわ。

 クリムゾンの機動兵器を使って貰いますが今までの戦術では有効に活用できませんから」

「……火星にある機動兵器を使うのかな」

「はい、チューリップを撃沈できる力がありますが訓練が必要です。

 準備を進めようと思います」

アクアが知る火星の状況にロバートは驚いていたが表情には出さずに聞いた。

「火星の兵器ならIFSがいるかな……パイロットの確保が大変だな。

 うちのスタッフも使うかな」

「確かにその件は重要ですね。

 私も考えておきますが今日は木連との交渉で来ました」

「ふむ、だが休戦出来るかな、アクア。頭の硬い男達だが上手くいくのかね」

「無理でしょうね、お爺様。

 ですから2,3回は掛かると思います。

 一度彼等も痛い目を見れば良いと思います。」

「……ボソンジャンプによる戦略爆撃かな、アクアよ」

「……いつ気がつきました。お爺様」

「なに、ボソンジャンプが一部でも実用化出来れば戦線の概念が変わるだろう。

 違うか?、アクア。

 点と点にする事も可能だとわしは思っている」

「流石ですね。

 どうします……木連に教えますか?

 自分の頭に核の火が落ちる事を」

「教えても意味が無いな。

 アレは酷いな自分達のしている事に気付いてない。

 自分が人殺しをした事に殆ど気付いてない。

 上の男だけが気付いてるみたいだが野望があるのか、平然としておったよ。

 わしには独裁者に思えたが」

「その男の名は分かりますか、お爺様」

「木連軍中将、草壁春樹と言う。おそらく人類の支配者になりたいんじゃないかな」

(やはりいましたか、ですがアナタの思うようにはいきませんよ)

「お爺様、今日は火星から商談が有りましたので報告します」

「うむ、聞こうかアクア」

「木連との休戦の為のテーブルにつきたいのでクリムゾンに力を貸して欲しいとの事です。

 報酬は相転移エンジンの供与、大型艦用で3基との事です」

アクアの言葉にロバートは考え込み始め、アクアは静かに待っていた。

「…………………………………………………………………………………………………………」

「…………………………………………………………………………………………………………」

「ふむ、悪くは無いがエンジンだけでは問題があるな。

 預けた技術者は返してくれるのかな?」

「いえ、変わりに元ネルガルの社員が来る事になります。

 地球での保護が条件になりますが技術者ですから厚遇すれば、いい仕事してくれますよ」

「大丈夫か、逃げたりしないかね。

 面倒が起きないかな、ネルガルと揉めるのは問題があるが」

「いえ、約半年の出張になります。

 皆さん、家族が居るので逃げたりはしませんよ。

 何故ならこれから造る船が火星を家族を守る事になるのですから」

「つまりここで軍艦を造るつもりなのか、アクア」

「火星でも作業はしていますが、時間が無い為にクリムゾンの造船施設を借りたいそうです」

ロバートは愉快に笑い、アクアも口元に笑み浮かばせていた。

「愉快だな、それにしても火星の連中はしたたかな者が大勢居そうだな。

 条件付だがいいかな、アクア」

「技術者達のサポートはクリムゾンに任せるそうです。

 存分にノウハウを学んで下さいとの事です」

「つまりこちらの技術者が戻るのは後半年はかかるから教育を兼ねているのだな。

 これは断れんな、アクアよ」

「はい、そしてクリムゾンは試されてます。

 信用できるのかを」

「……つまり技術者達の安全を確実にしないといかんな。

 SSにガードさせよう。それでいいな」

「はい、ネルガルだけでなくクリムゾンからも守る必要があるかもしれません」

「そうじゃな、身内の馬鹿共にも気を付けねばな。

 わしの権限で行うから信用してもらうぞ、アクア」

「はい、いずれクリムゾンより購入した事にして地球を誤魔化すそうです。

 ですからエンジン以外の部品はクリムゾン製にしたいので10基の内4基は使うが、

 残りの3基は部品代にしてくれればいいそうです」

「……呆れたな、そこまで面の皮が厚いとはな」

「ですが3基あれば研究用に使えるでしょう。万一の時の為の保険として」

「そうだな。これはお前の指し金か、それとも別の者か」

「私ではありません、お爺様。

 『これ位はしないと信用されん』と言ってました」

「……そうだな。信用されるようにせんとな」

「はい、ネルガルと手を組む事は無いでしょうが、他の企業に行かれると困りますから。

 まず一隻、巡航艦を造るのでそれはクリムゾンの試験艦としてお使い下さいとの事です。

 ネルガルを出し抜いて地球初の相転移機関船になるかもしれませんね」

「愉快だな、あの若造のしかめる顔が見れるかもな」

「そうですね、やはり独占は頂けませんね。クリムゾンも気を付けないと、お爺様」

二人して笑いながら、楽しい時間が過ぎて行った。


―――ネルガル会長室―――


「エリナ君、火星から報告があった。

 正式にコロニー連合政府が出来たそうだよ」

「そうなの、困ったわね。

 オリンポスと北極冠は参加しなかったから、ネルガルの意向は聞いてくれないわね」

悔しそうな顔をするエリナにアカツキは話す。

「そうじゃないよ、聞いただろ火星会戦の事。

 殲滅戦を仕掛けたんだよ、木連は」

「だからどうだって言うのよ。

 いいじゃない火星がどうなろうとも。

 ……出来ればイネス博士が無事ならいいけどね」

暢気に答えるエリナにアカツキは深刻な様子で話した。

「失敗したような気がするんだよ、エリナ君。

 何故か分からないんだけどね」

「何よそれ、勘なんてあやふやな言い方はしないでよね。

 理由でも有るのかしら?」

アカツキはデスクに一枚の写真を置き見せた。

「これは何。エステバリスじゃないし、アスカの新製品かしら不味いわね。

 エステがまだ開発中だから次の軍のトライアルに間に合うかしら……困った事になったわ」

考え込むエリナにアカツキは事実を述べる。

「……違うよ火星で実戦配備されている機動兵器だよ。

 名称はブレードストライカーだよ」

アカツキから聞かされた事にエリナは信じられなくて問い質した。

「ちょっと待って、それじゃ火星では既にこの機動兵器があるわけ。

 どういう事なの、会長」

「オリンポス研にいたイネス博士と技術者が徴用されたと所長から連絡があった。

 相転移エンジンと人工知性体も持っていかれたらしい……その時の写真だよ」

「ますます分からないわよ。

 二つとも極秘で造っていた物がなんで知られているの。

 まさか遺跡の事も知られているのかしら。

 だとしたらマズイ事になるわ」

「いやそれは無いと思うよ。

 ボソンジャンプはネルガルがほぼ独占しているから大丈夫だけど気になるんだ。

 それにこの機体を誰が開発したのか?

 知っておきたいんだよ。

 もし地球にいてこれを他の企業に作られると、エステバリスが間に合わなくなるかも知れない」

「……確かにそれは困るわね。

 エステバリスでシェアを独占するつもりがこれが出るとなるとマズイわ」

「戦闘証明済の機体と出来たばかりの機体じゃどうなるか分からないしね」

「そうね、性能が同じなら証明済の機体が有利ね。

 でも大丈夫じゃない。

 火星がもつかしらこの機体だけで少なくとも戦艦がいるわ」

「……まぁそうだね。スキャバレリプロジェクトの方はどうだい、エリナ君」

「イネス博士が送ってくれた設計図を分析して造れそうだわ、

 後は重役達の承認だけどそれも大丈夫でしょう」

「そうだね、社長派はほぼ一掃できたしいけるだろうね」

「そうなら早いとこ準備を始めましょう。これが出来れば軍のシェアは独占間違いないし」

二人はこれからの事を楽しそうに語り始めた。

だが二人は知らないネルガルの負債をこれから払う事を。









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EFFです。

この回は順序を入れ替えて少しだけ変えただけですね。
火星から見た状況の説明と火星の政府を発足するまでの話ですね。

では次回を早めに仕上げようと思います。




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