流した血の上にある休戦 次の戦いは近く

また血を流す事になるが それでも生き残る為に準備する

理不尽な戦争という狂気から 家族を仲間を守る為に

その先にある平和を 未来を信じ求めて



僕たちの独立戦争  第十五話
著 EFF


―――クリムゾン ボソン通信施設―――


「私は火星に木連との和解を勧めようと思うのだが、

 一応アナタ方の意見を聞きたいがどうだろうか?」

ロバートの発言に草壁は訊ねる。

『一つお聞きしたい、あの攻撃はご老人の差し金ですか?』

「それは報復核攻撃の事ですか?……実際に聞いて驚いたよ。

 あれだけの事が出来るとは思わないのでな」

ロバートの発言に周囲の士官達が騒ぐ中、草壁が苛立つように問う。

『では火星独自の攻撃ですか?

 ……随分卑劣な真似をしますな』

「何を言うかと思えば、勝手な言い分だな。

 戦争を始めてやり返されたら文句を言う。

 正気かね……君達は?」

ロバートの呆れた声に士官の一人が、

『核を使い木連市民8000人を殺しておいて、

 何を言う悪の地球人が!』

(以前言われたが、木連は戦争に対して覚悟が出来てないと言うのは本当だな。

 確かに危険だな、これでは何をしても許されると思うかも知れないな)

「火星は綺麗な戦争をしてると思いますよ、草壁中将。

 宣戦布告を行い、

 しかも市民船には攻撃せずプラント、周辺施設だけを狙った。

 無差別攻撃を行った木連とは違いますな」

ロバートが告げる事に草壁は簡潔に答えた。

『つまり報復に徹したと言う事ですか』

「わしならそんな甘い事はしない。

 最初に持てる最大の火力で市民船を攻撃するな。

 殲滅戦を仕掛けた以上殲滅戦でやり返されても文句は言えん。

 自分が先にした事を非難されてしまうからな……火星の優しさに感謝しても良いだろう。

 まああまり調子に乗るなと言う事だ」

ロバートの告げる言葉に士官達は自分達の頭上に核の火が落ちるような思いに囚われていた。

草壁はそんな士官を見て不味いと思い、ロバートに注意した。

『ご老人、口が過ぎますな。少しは遠慮してもらおう』

「火星が次の準備を始める前に聞いたが、必要ないのならいいんだ。

 いよいよ地球の反撃の準備が出来つつあるから、この二つを相手にいつまで勝てるかな」

ロバートの話しに疑問を抱いた草壁は聞く事にした。

『どういう事ですか、ご老人』

「なに、ある企業が相転移エンジン搭載の戦艦を建造している噂を聞いたのでな。

 このままではアナタ達も負ける時が来るだろう」

ロバートの発言を聞いた士官達がロバートを罵倒する中、

『つまりご老人に都合が悪いから、我々を使って妨害するつもりですか?

 汚い真似をしますな』

「そうでもないさ、別に我が社でも開発中なのでな。

 ただそれが早いか、遅いかの違いだけだ。

 私の役目は窓口であってアナタ達の協力者ではない」

草壁の嫌味など全く気にせずロバートは答え、草壁が苦渋の表情で話す。

『卑劣な事だ。……良いでしょう、火星とは休戦する。

 奴等にそう伝えてもらいましょう。

 その代わり新型戦艦の詳細を教えたまえ』

「いいでしょう。判り次第伝えよう」

通信が切れた画面の前でロバート・クリムゾンは考える。

(さて木連をこの先どう扱うか、アクアの意見も聞きたいな。

 それに火星の技術の高さも気になるな。

 おそらく火星がこの戦争の勝利者になるだろう……その時クリムゾンをどうするか?

 アクアが火星に大きなパイプを作っているから大丈夫だろうが、

 クリムゾンとして火星の独立に手を貸して信頼を得る必要があるかな)

クリムゾンの会長として未来を考えなければならない、ロバート・クリムゾンであった。


「村上さん、今日の会議をどう思いますか?」

いつもの料理屋の奥で三人は話し合っていた。

「そうだな、火星とクリムゾンは協力関係に近いものがあるね。

 ただ向こうはこの戦争を最小の被害で終わらせる意思があると思うよ。

 それに不思議な事だけど火星は草壁の性格を知っているのかもしれないな。

 上手く誘導しているみたいな感じだよ」

会議の内容を聞いて村上は草壁のしかめっ面を想像して笑っていた。

「村上さん、笑い事じゃないんですよ。

 それが事実なら大変な事になりますよ、木連の作戦行動が火星には知られているんですよ」

海藤が村上に話すと村上は謝り意見を述べた。

「すまん、すまんな。

 あいつが気付かずに火星の術中に嵌っていると思うと楽しくてな」

「自分はこの先が心配ですよ。

 火星は木連を相当分析しているみたいですけど、木連は火星の事を何も知らない。

 このような状態で戦えば絶対に負けますよ。

 向こうはこちらの遺跡を使えない様にしたんです。

 自分ならこの休戦で戦力を整えて反撃の準備をします」

「まあそうだな。

 今こちらは戦線の維持が限界だな」

「言っておくけど、これ以上は火星を刺激してはいけないよ。

 多分、無理だとは思うけど君達は覚えておくんだよ」

村上が真面目に話すと二人も頷いていた。

こうして木連と火星は一時休戦になった。

草壁は知らないがこれで火星は必要としていた時間を稼ぐ事になり、

次の第二次火星会戦の準備を始める事になった。

そして木連はその時に火星の怖ろしさを知る事になる。


―――火星 北半球のある平原にて―――


「クロノ、バッタのシステムの変更が終わりました。

 みんなはどうですか?」

「終わったよ、ママ。これでこの地域の無人兵器は、味方だね♪」

「うん、上手に出来たかな、ママ。

 クオーツもお疲れ、次はラピスの番だからね、パパ♪」

『ああ、約束だ。次はラピスでその次はセレスだな』

「「うん、約束だよ。パパ♪」」

『アクアさん、周囲に敵影無し。帰還しますよ』

「はい、エリスさんお疲れ様です。

 試作機ですがエクスの調子はどうですか?」

『いいですね。ブレードも良かったんですがそれ以上の機体ですね』

単座のエクスを操縦するエリスはその性能の凄さに驚くと同時にクロノが以前話した事に嘘がない事を実感していた。

『これより全機、首都アクエリアへ帰還する。

 これにてこの地域の電子制圧を完了する以上だ。お疲れさん』

『『『『お疲れさまです、隊長』』』』

現在クロノ達は火星で木連機動兵器に電子制圧を行っていた。

これに際して試作機のエクスストライカーの調整が同時に行われていた。

この機体の機動情報がイネス達の開発局が現在開発している量産機への資料になるのだ。

クロノの機体だけが他の機体と違うのは電子戦用の機体である。

この専用機がダッシュのサポートにより広域の制圧を行うようになって火星の状況が変わり始めた。

無人機の制御を奪い、ウィルスを侵入させて一機ずつ汚染していく。

汚染された無人機は他の無人機と情報を交換する際に汚染されて、火星の制御下の入っていく。

既にチューリップの護衛に配置されている無人戦艦も侵食されている………だがその事を木連は知らない。


基地に帰還しエクスからクオーツを抱きかかえて降りてきたのを見て、

「「クオーツ、ズルイよ!! パパに抱っこしてもらうなんて」」

ラピスとセレスが騒ぐ中、クオーツを降ろしたクロノに、

「お疲れ様でした、クロノ、クオーツ。これで南半球はほぼ終わりましたね」

ラピスとセレスの頭を撫でながらアクアが言った。

「万全とは行かないが、この無人兵器が後の布石になるからな。

 さてラピス、セレス。

 今日は晩御飯は何が食べたい、お父さんが作ってやろう」

「「ええっホント、パパ♪」」

「ああ、約束だ。マリーさんに連絡して材料の準備をして貰おうな」

「「ウン♪」」

「それじゃ3人でマリーに連絡してきてね」

アクアの声に子供達が走り出し、それと入れ替わりにレイ・コウランが格納庫に現れた。

「皆さん、お疲れ様です。

 アクア、クロノ、クリムゾンの協力で木連と一時休戦が成立しました」

レイの声に作業中の者達から歓声が上がった。

「条件は北半球の領土化ですか、レイさん」

「はい、これが絶対の条件でした。時間を稼ぐ為とはいえ……悔しいですね」

アクアの発言に答えるレイの周りから幾つもの反対の声が出たが、

「おそらく半年後には休戦は終わるだろう。

 その時には火星から奴等の兵力を根こそぎ破壊して火星を取り戻すつもりだ」

このクロノの宣言に周囲が沈黙したが、エリスが訊ねた。

「クロノさん、どういう事ですか。

 教えて貰えませんか?」

「ネルガルが相転移エンジン搭載の戦艦を作っている。

 それを使い火星に来るだろう、それを口実に木連は火星に決断を迫るだろう。

 木連か地球、どちらに付くか?

 だが彼等は自分達が火星にした事を理解せず、謝罪もしていない。

 俺達が木連に付く事は無いがネルガルにも付く気は無い。

 ネルガルの目的はボソンジャンプの独占、奴等も火星の住民は邪魔か、道具でしかない。

 おそらく火星の政府の指示など無視して行動するだろう。

 その結果、休戦が終わる」

クロノの予測に周囲のメンバーから木連とネルガルに対する非難の声が出る中で、

「ネルガルの暴挙には地球に抗議して先の徴用を無効にして、

 木連を火星から追い払う事になりますか?……悪くは無いですね。

 後は地球からの独立をどうするかですね」

レイの意見にクロノは話した。

「いや、独立にはクリムゾンが協力してくれるだろう。

 今回の休戦でそれが予測できる」

「そうですか、お爺様が動くとクロノは見ているのですか?」

「そうだ、アクア。

 ロバート・クリムゾンは木連よりも火星に協力する事がクリムゾンの利益になると判断するはずだ。

 あの人は先を読む事が出来る人だと思う。

 先に木連の危険性を教えて火星がクリムゾンに損を与えない限りは手を貸すだろう。

 クリムゾン会長としてはグループの繁栄が最優先だからな。

 でもアクアには優しい人だから最後には協力してくれるさ。

 ロバートお祖父さんとしてね」

アクアを見て優しく話すクロノにアクアは悲しそうに話す。

「……そんな人ではないです、クロノ。冷酷な計算高い人ですよ」

「それはクリムゾン会長だからさ。

 少なくとも会社の為に非合法な事をしても、個人ではしてない筈さ。

 でなければアクアはとうに切り捨てられている。

 だから個人としては信頼できるよ、会長としては損をさせない限り信用できる」

「なるほど、ではクロノは戦略としてクリムゾンを味方にするにはそのやり方が一番効率が良いんですね」

「ああ、レイさん。企業は利益を追求する性質がある。

 他の企業にも今のやり方はかなりの効果があるから、この先地球との関係に役立つだろう。

 但しやり過ぎると癒着という名の毒が回るので気を付ける必要もあるがな」

クロノの注意を聞いてレイも企業との付き合い方を考え始める中でアクアが楽しそうに話す。

「ではクロノ、私は地球に一度戻ります。

 お爺様と今後の相談をしてナデシコに乗り込みます」

「ナデシコとは何ですか?

 ……もしかしてネルガルの船に乗り込むのですか、アクア」

聞きなれない言葉を聞いたレイはアクアに訊ねる。

「はい♪ 戸籍を偽造して、アクア・ルージュメイアンとして火星までの片道乗艦するつもりです」

楽しそうに話すアクアに周囲の者は驚いていた。

落ち着いたエリスはアクアに何故か聞く。

「だ、大胆な事をしますね。その意味を教えてくれますか?」

「俺は反対してるんだが……頑固でな」

呆れるクロノにアクアがレイに話す。

「実はネルガルの戦艦には欠陥がありまして、それを解消する為に乗るんですよ。

 こうしておかないと未来で大変な事になるんですよ」

「……私にはよく判らないんですが」

「マシンチャイルドの事は分かるでしょう、エリス。

 あの艦を基にしてマシンチャイルド一人で運用できる戦艦が出来るの。

 そうなると子供達が狙われる危険があるのよ。

 それにあの艦にはクロノの妹さんもいるから助けないと。

 それにネルガルがその戦艦を私的に運用するみたいなのよ。

 だから上手くいけば地球に於けるネルガルの立場がかなり悪くなるの、それを知りたいの」

エリスの疑問にアクアが答えて、アクアが子供達の未来を守る為に乗り込むのだと感じていた。

「だからレイさん、当面の電子制圧はクロノに任せますから子供達共々よろしくね」

「わかりました。上手く行く事を祈ってますよ、アクア」

「任せてください。

 ではクロノ、子供達が待っていますので早く残りの仕事を片付けて行きましょう」

「ああ、では急いで終わらせるか」

作業を終わらせて子供達を迎えに行く二人を見て、血は繋がってなくても家族なんだと思った。

その幸せそうな笑顔を見てそう感じた。


「休戦か?

 まあ今の状況じゃ仕方ないか?」

レオンが残念そうに話していたがグレッグは次の事を考えると忙しくなると思っていた。

「そうだな、今のうちに部隊の再編と新型への機種転換をしておかないとな」

「エクスはかなりの戦力になるぞ、グレッグ。

 ボソン砲だったかな……アレの試射に立ち会ったがその攻撃方法には驚いたぜ。

 反則とはアレの事を言うんだな」

「確かに視認されたら防御不能なんて怖いな」

「グラビティーランチャーもいいぞ、連射は出来ないが使い方次第では効率良く無人機を破壊できるぞ。

 これから運用を考えるが第二次火星会戦までには万全の状態にしておくぞ」

「そうか、ところで報告書のほうもきちんと提出してくれ」

「はぁ……これさえなければ文句がねえんだが」

グレッグの声にレオンは溜め息を吐いていた。

「お前はまだ少ないほうだぞ。

 私は慣れているがクロノなんか前線に出ているから溜まる一方だぞ。

 ダッシュがフォローしているから良いがダッシュがいなければ書類の山に埋もれているぞ」

「でもよぉ、クロノはいいよな。

 ダッシュがいてくれるから書類の整理が少ないんだろ」

「いや、それでもお前よりは多いぞ。

 お前は部隊の報告をまとめるだけだが、クロノは艦隊の運営から部下の陳情から予算の問題も全部しているからな。

 内容的には私と同じか、それ以上あるぞ」

レオンはそれを聞いて中間管理職の悲哀を感じていた。

「それでもクロノは余裕がありそうだな」

「当然だろう。

 アクアさんがいるからな、あの人の事務仕事は完璧だぞ。

 できれば作戦指令所付きの事務仕事をして欲しいよ」

グレッグは減らない書類を見てうんざりしていた。

「アクア嬢ちゃんは地球に行くから、もしかしてクロノはこの書類地獄に来るのか?」

「そうなるだろうな。早く来いクロノ。

 一緒に苦労しようじゃないか、待ってるぞ」

テンパッているグレッグを見ながらレオンは自分は運が良い方だと思う事にしていた。

……クロノに最大のピンチが訪れようとしていた。


―――ロバート・クリムゾンの書斎―――


「もうすぐネルガルの暴挙が始まりますね、お爺様。

 ここでの対応でクリムゾンに有利に動きますわ」

「ほう、ぜひ聞かせてくれんか?

 ネルガルは戦艦一隻で何をする気なんだ」

「軍に渡す事なく独自に運用するそうですね。

 ではクリムゾンはこの行動に対してどう致しますか?」

「ネルガルの目的は……本気かね。自殺行為だぞ、それに軍と揉めるぞ」

ロバートの考えにアクアも頷いて話す。

「本気ですわ。

 彼等はボソンジャンプの独占と言う妄執に憑かれてますから、

 その為ならどれだけの血を流しても気にはしませんわ。

 もっとも流されるのは何も知らない人々の血で自分の血ではないからの狂気でもあります」

「火星の住民など邪魔で死ねばいいと……確かに狂気だな。

 こちらはその間に力は付けるか?

 技術者の方は帰れそうか、アクア」

「はい、予定通りです。それとコレをお使い下さいとの事です」

アクアが控えていた執事にディスクを渡してスクリーンに映すように指示した。

「木連との休戦のお礼にくださいました。

 ブレードストライカーの地球用の仕様書です。

 これにノクターンコロニーから技術者を何名か戻る事になりますので量産の準備は問題ないですね。

 火星はクリムゾンと正式にライセンス契約をしたいそうです」

スクリーンに映る映像にロバートはクリムゾンと火星の関係が友好的である事を維持したいと考える。

戦艦に続き、新型の機動兵器の提供はクリムゾンの利益になるのだ。

開戦当初は火星の支援に対して疑問符を付けていた重役達も文句は言えないだろう。

「これは感謝するべきかな。だが地球ではIFSの問題があるから無駄かな」

「いえ火星のスタッフにEOS――イージーオペレーションシステム――の試作品を作らせましたので大丈夫です。

 本社もこれで火星での機材の活用に文句を言う事はないでしょう」

アクアが火星と地球との違いを考え、準備を進めていると話す。

「確かにそうだな。

 戦艦の事で文句は少なくなったがこれで完全に無くなるだろう。

 だがデーター取りが問題だがIFSを使わない点では良いかも知れんな」

「しかし、その結果本来の性能が出ないでしょう……8割が限界ですね」

「それでも十分使えるな、ネルガルの開発中の機体に対抗できるな」

「はい、コレを基にクリムゾン製の機動兵器を開発するのもいいですね」

「よし直に作らせるか?

 ……最終的にはIFSとの併用が理想かな」

「既に火星から10機の機体がこちらに運んであります。

 後はお爺様の決断でテストを始められます」

打てば響くようにアクアがロバートに告げる。

「なら始めよう。それにしても火星の技術についてどう思う?

 火星の技術の高さが気になるのだが……それについてどう思う、アクアは」

「簡単です。彼等は地球に知られない様に技術を隠していたのです。

 テンカワ・ファイルの指示で」

「テンカワ・ファイル……それはテンカワ博士の遺した物だな」

「はい、ボソンジャンプに関した物である意味預言書に近い物でした。

 これにより火星の独立が始まったと言えるでしょう。火星のネルガルの反発もコレから来ています。

 ネルガルには呪いの書かもしれません。

 これを処分できなかったのは最大の誤算ですね」

「……火星の預言書か、読んで見たいものだな。アクアは読んだのか?」

ロバートが訊くとアクアは不愉快な顔をして答える。

「はい。正直読みたくはなかったですね、気分が悪くなりました。

 ある可能性が書かれて、

 実際ネルガルがそれを実行した為に火星の住民にはネルガル憎しで木連滅ぼせの声も出て来てます。

 私が支援を行った事でクリムゾンの評判はいいですね」

アクアが火星の状況の一部を話すとロバートは喜んでいた。

「そうか、クリムゾンの独占も夢ではないか?」

「いえ、それは無理です。テンカワ・ファイルには独占の危険性が書かれています。

 その為、ボソンジャンプについてはそれを守るそうです」

アクアが告げるとロバート自分の考えを話して確認する。

「……ボソンジャンプとは独占できるものではないと言う事か?、アクア」

「はい、人類の絶滅の危険も考えられます。

 『希望のない、パンドラの箱』とテンカワファイルには書かれてます」

「『希望のない、パンドラの箱』か……しかも開いてしまったネルガルの暴挙でな」

「はい、火星が苦労しているのはそれをどう管理するか……その考えの末に独立が出ました」

「そうか、ボソンジャンプは火星でしか使えない独自のものか、アクア」

「はい、地球の企業ではジャンプシステムを作れても、

 火星の住民がいなければ完全には使いこなせない。欠陥の技術です。

 クリムゾンが火星に本社を移転するか、

 火星支社を火星の住民で構成するかならある程度は独占できますが、

 完全な独占は不可能ですね」

「……ならば、火星の独立を手伝い共存するしかないか……残念だな」

「ネルガルよりはマシですわ。ネルガルは火星での活動を制限されますから」

「火星に戦艦が着いた時の様子が見たいな。

 自分の境遇も知らずに暴挙にでれば、後でどれほどの損害になるかな。

 ……考えたくないな」

「戦争が終わった時に火星が生き残ればネルガルは出入り禁止になるかも、

 生存が無理な時はクリムゾンに技術と資料を残すそうです。

 自由に使ってくれだそうです」

「……火星は覚悟を決めたんだな、怖いな」

「ですがクリムゾンを信用してくれてます。火星には生き残って貰いましょう。

 私達に厄介事を渡されないように」

悲しんだ顔をするアクアにロバートは、

「生き残ってもらうさ、面倒事はごめんだな。アクアの大切な人もいるみたいだな」

「おっお爺様、そういう事ではなくて、何を言うんですか」

真っ赤な顔のアクアを見ながら、愉快にアクアを見るロバートであった。

「……お爺様、約3ヶ月程連絡ができ難くなります」

真剣な表情のアクアにロバートもアクアを見据えて話す。

「……火星に行くのか?

 気を付けるんだぞ。お前には為すべき事がある」

「はい、私は生きてお爺様の元に来ますわ。心配はありません。では失礼します」

優雅に退出するアクアを見て、

「わしの上を行くかも知れんな」

愉快に言うロバートを見ながら執事は思った。

(ロバート様の後継者はアクア様ですね。まるで若き日の旦那様ですね。

 世界を従えて君臨している王に見えました)

クリムゾンの若き後継者の前に広がる前途に思いを馳せた。



空港へ戻る車中でアクアはある人物にメールを送った。

『プロスペクターさんですね。私はアクア・ルージュメイアンと言います。

 貴方にスキャバレリプロジェクトの事で交渉があります。

 もしよければこの時間、この場所でお会いしましょう』

(おそらく来るでしょう。

 この交渉に全てを賭けるわ。必ず成功させる、ルリちゃん、アキトさんの為に)

未来を変えてみせる、クロノと共に生きる為に。

祈るような思いがアクアを包み込んでいた。


《あなたは誰ですか?》

ホシノ・ルリは内心で驚きながらその人物に問いかけた。

自分が構築した電脳世界に侵入された事が信じられずに少し動揺していた。

《初めましてルリちゃん。もうすぐ会えるから名前は言わないわ》

楽しそうに話す人物にルリは不快感を示していた。

まるで見透かされるように話す人物をルリは捕まえようとしたが、

その人物はルリのテクニックを上回る技術でトラップを回避していった。

《う〜ん、今のルリちゃんは私には勝てないわよ。

 経験も環境も私のほうが上ですからね》

捕まえようとしたルリの周囲には無数のトラップが設置されてルリの動きを封じていた。

今まで自分は特別だと言われて電脳世界において無敵だったルリにはこんな事態に対処する方法は知らなかった。

《私の負けですか?、好きにして下さい》

逃げられないと悟ったルリはいつものように諦め始めていると、

《ダメよ、簡単に諦めてわ。

 まだ逃げる方法はあるわよ、そんなんじゃいつまで経っても人形のままよ》

その言葉にルリは過剰に反応した。

《なんなんですか!

 あなたに私の事が分かると言うんですか!》

《良いわよ、それで良いのよ。

 そうやって自己主張しなさい。何かを変えるには自分も変える必要があるわよ。

 あなたは特別な存在じゃないわ、何処にでもいる普通の人間よ》

優しく諭すように話しかける人物をルリは不思議に思っていた。

《ですが私はその様に作られました。

 それが私の存在する意味のはずです》

思わず自分が嫌っている事を話すと、

《他人の、しかも嫌いな人の言う事を叶えるのですか?

 そこにルリちゃんは存在していますか?》

《そ、それは……》

ルリはその質問には答える事が出来なかった。

《自分の都合のいい様に話してルリちゃんを苦しめる人の為の希望を叶えるの?》

何も答える事が出来ないルリに、

《ルリちゃんはルリちゃんの望むように生きればいいのよ。

 誰の為でもないルリちゃんが後悔せずに楽しんで生きていけばいいのよ》

《そんなの……無理です》

自分が逃げられない事を知っているルリは諦めの言葉を口にしていた。

《もうすぐそこから出られるわよ。

 そして……運が良ければ会えるわ、ルリ……私の大事な妹のルリ》

その声にルリは驚きを隠せなかった。

《誰なんですか?!》

焦るルリにその人物は楽しそうに話している。

《もうすぐ会えますよ……必ずあなたに会いに行きますよ…》

そう答えるとその人物は消えていった。

ルリは痕跡を探して追いかけようとしたが痕跡は何も無かった。


「ルリ、どうかしましたか?」

意識を周囲の科学者に向けるとルリは、

「いえ、何もありません」

と告げると作業を続けていた。

(誰なんでしょうか?

 私の構築したシステムに簡単に侵入して、しかも痕跡すら残さないなんて。

 ……あっ残ってました、クリムゾンウィッチですか?)

たった一つだけ残された痕跡にルリは何故か嬉しくなっていた。

彼女の言葉が正しければここから出て会える事になる。

「一つ聞いていいですか?」

ルリはホシノ博士に質問した。

「何かな」

初めてルリが自分から質問してきた事に周囲の者は驚いていた。

「私以外のIFS強化体質の人はいないですよね」

「多分、いないだろうね。

 君が最初にして最高の存在だよ」

「……そうですか」

それを聞いたルリは再び作業を始めたので周囲の者は不思議に思ったが気にしない事にした。

(嘘つきですね、たぶん私より年上の人がいますよ)

ルリはホシノ博士が自分を特別だという事を信じない事にした。

しばらくしてルリはネルガルに売られてナデシコに乗る事になった。

「プロスさんでしたね」

「ホシノさん、忘れ物でもありましたか?」

「いえ、ナデシコには他のIFS強化体質の人はいますか?」

「残念ながらあなた一人です」

「そうですか、ではナデシコは何処に行きますか?」

「これは極秘ですが火星に行きます。

 皆さんには内緒ですよ」

ルリの質問に答えるプロスにルリは頷くと車に乗り込んだ。

(ナデシコではないのなら……火星ですか?)

ルリは火星に何かあると思い、これから乗るナデシコに興味を覚えていた。

ホシノ・ルリの運命はこれから大きく変化していく。








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EFFです。

アクアさん、お茶目なイタズラしてます。
ナデシコのSSなのに未だナデシコは出てこない(爆)
いいのか、それでいいんか?

では次回こそナデシコが出るようにしたいです(汗)



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