私は出会ったあの人に同じ瞳の女性に

その人は私にはないものを沢山持っていた

その事が私には羨ましくて そして悔しいと感じていた

それが私の人としての始まりかもしれない

いつかあの人のようになりたい



僕たちの独立戦争  第十七話
著 EFF


ブリッジではアクアの動きに全員が驚いていた。

応急処置をして慌ててブリッジに来たヤマダ・ジロウはアクアの操縦するエステバリスを見て吃驚していた。

「すげえ、すげえよ、俺より上だぜ!

 何処に居たんだよ。軍ならエースで通用するぜ!

 ネルガルの専属のパイロットなのか?、ゴートの大将」

「いや違うぞ、だが見事な操縦だ。

 これほどとは……ミスターはご存知で」

ゴートの問いにプロスはその光景を見ながら答えた。

「いえ、これほどの技術があるとは思いませんでした」

プロスもまさかアクアにこれほどの技術があるとは思わなかった。

アクアのエステバリスはその手にあるイミディエットナイフが一撃でバッタとジョロを切り裂き、

バッタとジョロの攻撃を流れるように避け、まるで舞を観ている気にさせた。

「ホントに上手よね〜。

 あれなら一人で全部迎撃しちゃうかもね」

ミナトがナデシコを発進させて感想を述べると、

「なんか舞台で踊っているみたいですね」

メグミもその動きに魅せられるように安心して見ていた。

「ああ見えても彼女は火星では五指に入るオペレーターよ。

 IFSで動くネルガルの新型があればこの程度の事は当たり前の出来事になるわよ」

ムネタケが当然のように話すとそれを聞いていたルリは作業をしながら考える。

(私より年上のマシンチャイルドがいたなんて……やっと会えた仲間ですね。

 たぶんあの人がクリムゾンウィッチさんですね。

 聞けば火星に私と同じ子供がいますから興味がありますね)

ルリは今までにない感情が出てきた事に気付いて苦笑すると状況を報告した。

「エステバリス、誘導しながらポイントに到着、グラビティーブラストチャージ完了」

「では浮上して下さい、パイロットにナデシコに飛び乗るように連絡を」

ユリカの指示でエステバリスがナデシコに飛び乗った。

「グラビティーブラスト、目標まとめて全部!って―――!!」


ナデシコから放たれたグラビティーブラストを見ながら、

(始まりましたね、あんな未来にはしません。必ず変えてみせます)

アクアは決意を新たにして通信を開始した。

「これより帰艦します。よろしいですか?」

『はい、お疲れ様でした、えーっと』

「アクア・ルージュメイアンと言います。よろしくね」

『メグミ・レイナードです。メグミでいいですよ、アクアさん』

「では帰艦します、メグミさん」

『すいません、アクアさん。皆さんに紹介しますのでブリッジまで来て頂けますか』

「そうですね、プロスさん。では帰艦後ブリッジに行きます」


ブリッジに到着したアクアにクルーとの紹介が行われた。

「アクア・ルージュメイアン、サブオペレーターです。皆さん、よろしく」

「アクアさん、こちらがフクベ提督です」

「うむ。ムネタケがしっかりしてくれるから飾りみたいなものだがな」

「提督、褒めても何も出ませんよ」

苦笑するムネタケにフクベは愉快に笑いながらアクアに話す。

「こちらが副提督のムネタケ中佐です」

プロスの紹介に二人は微笑みながら話していく。

「久しぶりね。ところでアタシを大馬鹿呼ばわりする黒尽くしの馬鹿は火星なの?」

「そうですよ、向こうは大忙しですよ」

「うちの馬鹿のせいで火星には苦労をかけるわね。まあ詳しい事は後にしましょう」

「そうですね」

会話を途中で切り上げるとプロスが紹介を続けた。

「通信士のメグミ・レイナードさんです」

「改めて、よろしくお願いします。アクアさん」

「操舵士のハルカ・ミナトさんです」

「よろしくね〜、アクアちゃん」

「こちらがオペレーターのホシノ・ルリさんです」

「……ども、ホシノ・ルリです。よろしくアクアさん」

アクアはルリの前に膝をついて顔の高さを合わせて手を差し出して、

「アクア・ルージュメイアンよ、ルリちゃん。お友達になりましょうね」

優しく微笑みながら、声をかけた。

「えっと……はい、アクアさん」

戸惑いながら手を出すルリにアクアは左手で頭を撫でながら、

「はい、いい子ですね。ルリちゃん、よろしくね」

「……私、子供じゃありません。少女です」

頬を赤く染めながらこたえた。

「いい感じね、自己主張は自分を変える為の第一歩よ。

 ルリちゃんも生きる事を楽しむようにしないと」

「楽しむですか?」

「そうよ、どうもルリちゃんは諦めやすいから気を付けないとラピス達に負けるわよ」

アクアは楽しそうにルリに火星にいる子供達の事を教えていた。

その光景を見ながらプロスがアクアに紹介を続けた。

「アクアさん、こちらが艦長のミスマル・ユリカさんです」

「私が艦長のミスマル・ユリカです。よろしく〜V(ブイッ)」

「副長のアオイ・ジュンさんです」

「アオイ・ジュンと言います。よろしくお願いします」

「そして俺がナデシコのパイロットのダイゴウジ・ガイだ」

「本名ヤマダ・ジロウさんです」

ルリがさり気なく突っ込むとガイが叫ぶ。

「違うぞ、チビッコ!

 ヤマダ・ジロウは仮の名前でダイゴウジ・ガイが魂の名前だぜ!」

「ではダイゴウジさんでよろしいんですか?」

「そうだ、アクアマリン」

「……アクアです。アクアと呼ぶかルージュメイアンと呼ぶかは任せますが、

 あまりふざけた名前で呼ぶのなら仮の名前で呼びますね」

顔は笑っていたが目は笑っていないアクアにガイは本能的に危険を察知して話した。

「お、おうアクアさんと呼ばせて頂きます」

ブリッジのメンバーも少し引いていたがルリはそれを見て思う。

(これが自己主張ですか?、確かに自分の生きる場所を確保するには必要な行為ですね)

ブリッジのメンバーとの顔あわせが終わると、

「さて艦長、副長、遅刻についてお聞きしたいんですが」

プロスの質問に慌て始める二人を見ながらアクアはハルカ・ミナトに尋ねた。

「ハルカさん、二人とも遅刻されたんですか?」

「あーミナトでいいわよ、アクアちゃん。仲良く二人で遅刻したの」

「そうなんですか?

 随分いい加減な人達ですね。ミナトさん」

「意外とキツイわねー、アクアちゃん」

アクアの言葉にミナトは苦笑していた。

「いえ、時間通りなら被害も少ないのではと思ったんです……今更ですが」

「……そう、でも死者は出てないわよね、ルリちゃん」

「はい、怪我人は多数でていますが、死者はでていません」

「そうですか、よかったわ。街中を移動したので心配したんです」

ルリの声にアクアは嬉しそうに答えた。

「でもどうして副長も遅れたんですか、艦長に付き合って遅刻したんですか?」

メグミの指摘に二人が答えられないでいるところへ、アクアがフォローした。

「プロスさん、ナデシコを移動させてからにしましょう。

 また敵が来たら困るので」

「そうですね、アクアさん。遅刻の件は後で聞きますが、では艦長」

「はいっ、それではナデシコ発進!!」

ユリカの号令と共にナデシコのクルー作業を開始した。

「プロスさん、私はどこに座ればいいですか?」

「アクアさんはこちらのシートに座って下さい。

 実はオペレーターが確保出来るとは思わなかったので、急遽作った予備のシートです」

シートについたアクアは周囲を見てプロスにこっそり話した。

「プロスさん、万が一の為の緊急用のシステムを作成しますけどいいですか?」

「どういうシステムですか?」

「マスターキーが無い時の緊急機動システムです。

 短時間しか動かせませんが非常時の予備で私かルリちゃんのオペレーター用に作りたいんですが」

「……確かに今回のような事態がないとは言えませんね」

出航時のトラブルを思い出して、プロスはどうするべきか考え込む。

「ちなみに経費は掛かりませんよ。

 プログラムを作成するだけですから」

プロスはアクアの意見に苦笑しながら作っておく事にした。

「それではお願いしてもよろしいですか?」

「ええ、この艦には致命的な欠陥がありますから、それもなんとかしないと不味いんですが」

「どんな欠陥ですか?」

「この艦はオペレーターに頼りすぎなんですよ。

 軍には不向きです。

 軍は平均的な能力を基準にするんですよ。

 私やルリちゃんが軍にいると思いますか?」

アクアが話す内容にプロスも軍の事を考えると納得できた。

「確かにそうですな。性能が良すぎる事が欠点になると思いませんでした」

「ちなみにマシンチャイルドを増産すればいいなんて考えたら私達は敵に回りますからね。

 子供達の扱いを思い出すとネルガルの上層部を全員殺したいくらいなんですよ」

アクアの言い方は物騒だがネルガルの裏を知るプロスには当然だと思う部分もあった。

「火星の事でネルガルは危険な立場にあるんですよ。

 あの事が公になればネルガルは潰れますよ、気付いていないんですか?」

アクアが告げた言葉にプロスは自分の知らない事を知るアクアに尋ねた。

「あの事とはなんでしょうか?」

「えっ知らないんですか?」

アクアは驚いてプロスを見ると考え込んでから話した。

「……今は言えませんが火星に着いたらお答えしますね。

 それより緊急用のシステムはどうしますか?」

「そうですな……作っておいて下さい。

 まあ万が一などないと思いますが」

「そうですよね、転ばぬ先の杖ですから」

アクアがそう答えると二人は笑っていたがアクアは考える。

(これでミスマル・ユリカがマスターキーを抜いてもパンジーとクロッカスを救えますね。

 あとはヤマダさんとサツキミドリの事をなんとかしないと)

クロノの記憶を持つアクアはこの先起こる出来事に対処する為に対策を実行しようとした。

(ではまずはミスマル提督の事件から始めますか)

こうしてアクアのナデシコでの活動が始まった。


「テンカワ・アキトっす!

 皆さん、よろしくお願いします」

「「「「「こちらこそ、よろしくお願いしまーす」」」」」

元気よく五人の少女から声をかけられて、アキトは緊張していた。

「あたしがここの料理長のホウメイだよ。

 あんたが唯一の男手だからしっかり頑張ってもらうよ!」

威勢良く声をかけられたアキトはすぐに返事をした。

「はいっ、よろしくお願いします」

「ん、じゃあどの程度できるか、見せてもらうよ」

「は、はい。ホウメイさん」

二人は厨房に入るとアキトの腕前を見るために準備を始めた。

テンカワ・アキトのナデシコの生活が始まった。


―――木連作戦会議室―――


画面に映し出される映像に木連の士官達は真剣に見つめていた。

「地球も本格的にこの戦争を勝つ為に準備を整えてきましたな。

 まだ性能の全てを見た訳ではありませんが、こちらの戦艦より上だと思いますが」

静かな会議室に海藤の声が響くと草壁は話す。

「まだ一隻だけだよ。数ではこちらの方が上だよ。

 それにまだ試作艦としての面があるのだ。今のうちに撃沈すれば時間を稼げるだろう。

 こちらの有利には違いないから悲観的な言い方はしないほうがいいな」

草壁は全員に聞こえる様に告げるが内心では焦っていた。

確かに現状では木連が有利だろう、だが地球の生産能力を考えるとこの先は勝つのが難しいと考えていた。

遺跡の力も万能ではなく、年々その力も衰えているのだ。

地球はまだ本気にはなっていないと思っている。

本気になった地球と戦えば木連は敗北するだろうと思うが、

火星を手に入れる事で跳躍技術を独占できれば勝てると判断したのだ。

地球と戦争せずに和平の道も考えたが、その場合は地球の経済に飲み込まれて木連は緩やかに消滅するだろう。

木連が全てであり、自分の正義を絶対と信じている草壁にはその選択肢は認められなかった。

短期決戦で火星を陥落させて遺跡を木連の支配下に置く事が勝利への条件だったが、

火星の独自の行動により草壁の思惑は全て覆させられていた。

しかも攻撃を受ける事がないと思っていた木連は火星の報復攻撃を受けて遺跡に大打撃を受けてしまった。

港湾施設の再建に一年は掛かり、遺跡の内部の放射能汚染も安全値に戻るのに半年は掛かると思われた。

楽観していたわけではなかったが此処に至って草壁の思惑とは逆方向に事態は進んでいった。

市民も先の攻撃で不安を持ち始めたが開発中の新型のジンシリーズを見せての演習を見て少し解消されたみたいだが、

潜在的な不安はあるだろうと思っていた。

その為にもこの艦は撃沈してまず士官達の不安を無くす事が最優先だった。

「地球にある無人兵器に相転移エンジンの反応があった時は最優先で攻撃するように指示を変更せよ。

 我々の勝利を確実なものにするにはこの試作艦を撃沈するのが一番の早道だ」

草壁はそう宣言すると士官達は指示に従って行動を開始していた。

秋山と海藤の二人はそんな草壁を冷ややかに見つめていた。


「地球の新型ね、いよいよ木連の終わりが近づきだしたかな」

村上は今日の会議の事を聞くとそんな事を呟いた。

「やはり勝てませんか?」

「地球が本気になれば木連だけじゃ勝てないよ。人口も生産力も開発力も全てにおいて地球のほうが上だよ。

 草壁はそれを承知の上でこの戦争を始めたんだ。

 火星には何かあるんだよ、木連が勝つ為に必要な何かがね」

海藤の問いに村上は答えると秋山が続いて尋ねる。

「では火星を陥落出来なかった時点で木連の勝利は無いのでしょうか?」

「いや、無くもないけど草壁はそれが出来ないだろうな」

「何故ですか?」

「あいつは人間を敵と味方しか考えていないんだよ。その中間の立場を認めていないんだ。

 そんな簡単に割り切れるものじゃないのに割り切ろうとするから出来ないんだよ。

 この場合はまず火星に謝罪して、

 月とその周囲のコロニーに協力を求めて地球の市民に木連の事を教えれば何とかなると思うよ。

 でもあいつは地球人全てが敵だと判断しているから出来ないのさ。

 地球の企業クリムゾンもあいつは裏で手を組もうとしてる卑劣な存在と思っているだろうな。

 多分クリムゾンを利用するだけして切り捨てるつもりだろうが、

 向こうもそれには気付いているから必要以上の情報も渡さないだろうな」

村上の説明に二人は納得したが木連の危機に二人はどう対応するか悩んでいた。

「火星の行動次第だね。

 火星は無駄なく行動しているから火星がこの後、どう行動するかで木連の命運は決まるよ」

村上はそう結論を出すと二人に今は不用意な発言をしないように注意した。

二人もその言葉に頷いて状況の分析をする事にした。


「お兄ちゃん、木連って勝っているんだよね?」

白鳥雪菜は兄の九十九と月臣に聞いた。

「当然だろ、地球も火星も俺達の攻撃に手も足も出なかったんだぞ」

「そうだぞ、雪菜。俺達は勝っているんだぞ」

二人は食卓に座り食事をしながら雪菜に話していた。

「でも攻撃を受けたし、食料制限も始まったからホントに大丈夫なの」

不安な様子の雪菜に二人は笑いながら話していた。

「あれは火星のなりふり構わない攻撃だったんだよ。

 でももう大丈夫だ、次はないからな」

「そういう事だ。俺達は必ず勝つさ、正義は負けないぞ」

九十九と元一朗の声に安心した雪菜は食事を始めたが二人は内心では木連が攻撃された事に動揺していた。

攻撃される事はないと思っていたが火星は木連の位置を知り見事に一撃を与えた。

その攻撃に木連の被害は深刻な被害を受けていたのだ。

現在、木連は市民に火星の非道な攻撃を説明して約半年の食料の配布の制限を宣言した。

これによって単純な者達は火星を攻撃すべしと叫ぶが、大半の市民は不安を漠然と感じていた。

あの攻撃が市民船にされた時、死ぬのは自分達だと知ったからだ。

この事で市民は自分達が戦争をしている事を気付いて命の危険がある事を自覚していた。


―――ネルガル兵器部門 開発室―――


「……凄いわね。こんなふうに操縦できるなんて」

「そうね、私達より上手みたいだわ。

 しかもエステの操縦はこれが初めてなんだって信じられる?」

モニターを見ながらテストパイロット兼技術者のリーラ・シンユエとエリノア・モートンの二人は話し合っていた。

プロトタイプから操縦していた二人は自分達の操縦技術に自信があったが、

その自信などこの人物の前には無意味だと思っていた。

「アクア・ルージュメイアンだっけ」

「ええ、送られてきた情報だとマシンチャイルドみたいよ」

資料を見ていたエリノアはリーラに話すと信じられると聞いた。

「それこそ冗談でしょ。だってホシノ・ルリが最年長のはずよ」

「プロトタイプなんだって……何でも廃棄される処を救われたんだそうよ」

「廃棄って……やばいわね。そんな人物を乗せても大丈夫なの?」

廃棄の意味を知るリーラはエリノアに訊くと、

「上が大丈夫だと思ったんだから良いんじゃないの」

「そうね、なら私達が気にする事ないわね」

二人はそう結論を出すとエステバリスの機動データーを見ていた。

「綺麗な動きですね。あんなふうに動かせるんですね」

魅入られたようにモニターを見ていたミズハ・エノモトは呟いていた。

「やっぱりIFSの違いかしら。制御できる情報量の差が出たのかしら」

「多分、違うわね。それだとあの動きにパイロットが耐えられるかしら?」

「そうね、エリノアのいう通りだわ。

 アクア・ルージュメイアンはパイロットとしても優秀なのね……悔しいけど」

「一度会ってみたいです。ぜひ操縦方法のコツを教えて欲しいですね」

自分の理想とも思える動きを見たミズハは苦笑する二人が見つめる中で楽しそうにしていた。

ナデシコに乗り込みたかったと思うミズハに二人もナデシコに興味を持ち始めた。


―――ナデシコ ブリッジ―――


地球上での慣熟訓練を行いナデシコは火星へと発進しようとしていた時。

「アクアちゃん、悪いけど手を貸してくれない。

 ゴミ掃除をしたいのよ」

休憩でブリッジのクルーが席を離れている時にムネタケが告げるとプロスがそれを聞きつけて訊ねた。

「ゴミ掃除とはなんですか?」

アクアは黙ってウィンドウをプロスに見せるとそれを見たプロスは納得した。

「よろしいのですか?」

「いいわよ、アタシの目的はこの戦争の裏と真実を知りたいのよ。

 その為には火星に行く事が近道だと考えているのよ」

「ムネタケさんのいう通りですね。

 火星はこの戦争の全てを知っていますわ。

 地球が犯してきた罪の数々を知っているから独立を決めたんですから。

 では全員を一箇所に集めて催眠ガスで制圧しますので協力していただけますか?」

ムネタケはコミュニケを使って部下達を会議室に集まるように指示を出した。

十五分後、アクアは全員が集合すると催眠ガスを流して無傷で反乱を起そうとした連中を取り押さえた。

「ゴートさん、全員の武装を解除して艦載機でもうすぐ来る軍の戦艦に引き渡す準備をしていただけますか?」

ゴートはプロスを見て指示を仰ぐとプロスは頷いた。

「了解した」

「アタシも手伝うわよ。

 目を覚ました後で説明しないと不味いから、それまでは付き合ってもらうわよ」

ムネタケはそう言ってゴートと共にブリッジを出て行った。

「一つ聞いてもいいかな」

フクベがアクアに訊ねた。

「なんでしょうか?」

「火星はこの戦争の裏を知っていると言ったが、私も知らない事を何故知っているのかね」

「その答えは今は言えません。火星に到着した時に教える事が出来るかも知れませんが」

「つまり火星軍の機密に当たる事なんだな」

「そうです」

「ではアクアさんは火星軍の人なんですか?」

「そうですよ、プロスさん。私は火星宇宙軍所属のアクア・ルージュメイアンです。

 今回、地球に来たのはクリムゾンに戦艦と機動兵器の技術協力の為でした。

 予定では開戦前に帰る筈でしたが、こちらの思惑より先に会戦が始まったので帰れなくなったんです。

 だから危険を承知でこの艦に乗艦したんですよ」

「アクアさん、危険とは何ですか?」

ルリが不思議そうに聞くとアクアは悲しそうな顔でルリを見ながら話した。

「そうね、ルリちゃんは知らないけどね。

 ネルガルは私達IFS強化体質の人間を平気で人体実験しているのよ。

 私の仲間は一人を除いて廃棄――つまり全員データーを取り終えた後で殺されたの。

 生き残った私達は火星に逃げのびたけど、ルリちゃん以外の子供達の事を知って救出したの。

 それがラピス達の事よ。だからネルガルには近づきたくはないのよ。

 また実験材料にされて殺される危険があるから」

アクアが話す内容を聞いてルリはプロスを見るとプロスは慌てて答える。

「そ、それは前会長と社長派の仕業でして現在はしておりませんので安心して下さい」

「でも私達がラピス達の救出した時はまだ実験をしていたみたいですけど」

「正直なところ、現会長も前会長のしてきた事を完全に把握できていないのです」

困った様子でプロスは二人に話している。

実際にプロスは未だに影響力のある前会長の存在に困っている。

表沙汰になると困る問題が幾つもあるのだ。

「まあ、今更言っても仕方ないですね。

 ルリちゃんも気をつけるのよ。危ないと思ったら逃げ出してクリムゾンに行きなさい。

 私の名前を出せば保護してくれるから」

「そうなんですか?」

「今回の事でネルガルの考えが理解できたわ。

 まだ前会長の亡霊がいるのよ。前会長は私達を戦争の道具にしようとしていたの。

 この艦もその為の実験艦の側面があるのよ。

 覚えておくのよ、何も知らない事は恥じゃないの、だけど知ろうとしない事は罪なのよ」

アクアが真剣な顔でルリを見るとルリはその意味を考えていた。

プロスは自分が危険な人物をナデシコに乗せたのではないかと考えていた。

(困りましたね、この人はネルガルの裏を知りすぎている。

 処理するのも不味いですし、それに私の知らない事もありそうですから現状維持せざるを得ないですか)

「安心していいですよ。皆さんには黙っておきますからね。

 ルリちゃんも今の話は内緒ですよ」

プロスの考えを読んだようにアクアは話すとプロスは苦笑していた。


「……という訳であんた達には悪いけど大人しくしてもらうわね。

 もし何か言われてもアタシのせいにしておけば問題ないから」

「いいのですか?」

不安そうに話す部下達にムネタケは安心させるように話した。

「ええ、この戦争は何処か不自然なのよ。

 戦争が始まってから上層部は相手の事を誰も気にしないでしょう。

 無人機だからってそれを指揮する存在がいるのに調査をしないのはおかしいと思わない」

「それは木星蜥蜴なのではないのですか?」

部下の一人が訊くと、

「それがおかしいのよ。どうして木星から来たって分かったの」

「それは……」

ムネタケの質問に誰も答える事が出来なかった。

「蜥蜴というけど死体もないのにどうして蜥蜴だと判断したのよ」

ムネタケの出していく疑問に部下も自分達が何と戦っているのか分からなくなってきた。

「それを知る為にアタシはこの艦に乗ったのよ。

 この艦の目的地は火星なの。火星はこの戦争の準備をしていたわ。

 つまりこの戦争の裏の事情も知っているの。

 だからあんた達には悪いけど軍に徴用されると困るのよ」

「でしたら自分も付き合います」

部下の一人が告げるとムネタケは首を振り話した。

「ダメよ、アタシのしている事は軍の命令に逆らっているの。

 あんた達を巻き込む気はないのよ。

 それにこれ以上はやばいのよ。軍に戻ってもこの件は内緒にしておくのよ。

 さもないと……コレよ」

ムネタケは首に手刀を当てて横にずらして首を刈るジェスチャーをした。

「いいわね。アタシは覚悟の上で行動しているけどあんた達は死にたくはないでしょう?」

その言葉を聞いて部下達もムネタケが自分達を拘束した意味を知った。

自分達の安全を確保する為に拘束したのだと。

「そういう事よ。もうすぐ戦艦が来るからその時に引き渡すわ。

 それまで大人しくしているのよ。ゴートさん……後は任せるわ。

 アタシはブリッジで次の準備をしないといけないから」

ゴートは頷くのを見て、ムネタケは艦載機から離れてブリッジへと上がった。


ブリッジではプロスがコミュニケを通して全クルーにナデシコの予定を話していた。

「それでは皆さんにお伝えします、ナデシコの目的地は―――」

「火星だ}

プロスの後に続いたフクベが簡潔に答えた。

「「「「「火星」」」」」

「そうです。火星に残された住民の救出と、我が社の研究施設にある資料の回収が目的です。

 現在の火星は無事なようですが避難したいと思う方がいるでしょう。

 そんな人を救いたいと我が社は考えまして軍の威力偵察を兼ねた試験航海を行います」

プロスの言葉に全員がそれぞれに答えた。

「人命救助かぁ、まあいいんじゃない」 ハルカ・ミナト

「戦争よりはいいですね」 メグミ・レイナード

「遠く離れた火星の人々を救う。燃える展開だな、乗ったぜ!!」 ヤマダ・ジロウ

みんなの意見が出るなかプロスが艦長にナデシコの発進を促そうとする時にルリが報告した。

「海中から戦艦三隻出現しました」

「通信が入ってきてますけど、どうしますか?」

メグミが続いて話すとユリカが指示を出す。

「繋いで下さい」

メグミはユリカの指示を聞いて回線を開くとスクリーンに映る軍人が話し出した。

『ナデシコに告ぐ。こちらは連合宇宙軍第三艦隊提督、ミスマル・コウイチロウである!!』

「お父様!これはどういう事なんですか」

『すまない、ユリカ。これは連合軍の命令だ。

 サセボでの戦闘で見せたナデシコの力を我々は必要としている。

 よってナデシコは徴用させてもらう』

「困りますな、提督。ナデシコはネルガルが私的に運用する事で政府と話がついてますが」

プロスが困った顔でコウイチロウに話すとムネタケが冷ややかな声で続いた。

「おかしいわね。政府からはそんな指示は出ていないわよ。

 まさかとは思うんだけど、軍が勝手に徴用しようとしているのかしら」

ムネタケの言葉にコウイチロウは声を詰まらせると、

『君の役目はどうしたのかね』

「アタシに仕事は視察と戦術アドバイザーですわ。他にはないわね。

 それとも民間人を銃で脅せというのですか?」

ムネタケの言葉でコウイチロウは内部工作が失敗している事に気付き、それを無視してユリカに告げた。

『すまんが状況が変わったのだ。これだけの艦を火星に行かせる訳にはいかんのだ』

「馬鹿ですか、あなたは。

 戦艦一隻で戦況が変わると考えるなど……まともな軍人には思えませんが」

コウイチロウにアクアが呆れるように話している。

「戦争に勝つには数を揃える事が重要なのに戦艦一隻で何が出来ると思うのですか?」

アクアの意見を聞いたジュンは反対意見を述べようとしたが声を詰まらせてしまう。

(アクアさんが言った事は正しいのかもしれない。

 でもナデシコ一隻でもあれば救える人もいる事は事実。

 僕はどっちの意見に賛成すればいいんだろうか?)

「そうね、戦艦一隻。しかも試作艦で連合軍が要らないといったのに……今更必要だなんていい加減よね」

ムネタケが呆れるように裏話を告げている。

それを聞いたジュンは軍の横暴さに驚きながら、会話を聞き続けている。

『そんな事は承知している!

 だが今は一隻でも勝てる戦艦が必要なのだ』

苦々しい顔でコウイチロウは告げている。

彼とて好きでこんな事をしている訳ではないのだ。

勝つ事で軍に対する信頼を取り戻したいと考えているのだ。

「だったらネルガル本社に交渉するべきです。

 現場の我々に要求を突きつけられても権限がないので答えようがありません」

どうしろと言うのですかとアクアが尋ねるとプロスは此処はアクアに任せようと思い沈黙する。

「私達は雇われている身分です。

 交渉する権限はないのです。

 その辺の事はご理解いただけないと困ります」

笑顔で話しているアクアにクルーも成り行きを見守っている。

(確かに現場にいる僕達が勝手な事をすれば……不味いだろう。

 軍の場合では命令違反になるって事になるのかな)

理路整然と正論を告げるアクアにコウイチロウも反論する。

『確かにそうだが交渉中にナデシコが火星に行かないと保証できるのかね?』

「それこそ論外でしょう。

 我々の仕事を妨害する権利はあなた方にはありません。

 本社からの指示がなければ我々が優先する仕事をしなければ査定にも響きますから。

 そうですよね、プロスさん」

アクアが確かめるようにプロスに訊く。

「ええ、一応は業務を進めていただかないと困りますな。

 現場の我々としましては与えられた仕事をしなければお給料も出ませんから、はい」

いきなり振られたがプロスは動揺もせずにアクアの意見を肯定する。

それを聞いたアクアは微笑んでコウイチロウに告げる。

「ですから現場の我々としてはどうする事も出来ませんので急いで本社と交渉して下さい。

 これ以上の交渉は無駄ですので通して頂いても宜しいですね」

無駄だから退けと言われて、コウイチロウも焦る。

『待ちたまえ、では本社との交渉が終わるまではナデシコは此処で待機してもらいたい』

「ですからそういう事を我々に言われてもどうにも出来ないのです。

 これ以上ナデシコの行動を妨害するのでしたら、威力業務妨害として訴訟に及ぶ可能性もありますよ」

法的手段として訴えるとアクアが告げるとコウイチロウは視線を鋭くして尋ねる。

『軍を脅す気かね?』

「何故そうなります。

 権限のない我々は自分達の仕事をすると言っただけなのにどうしてそうなります。

 どちらかと言えば戦艦三隻でナデシコを包囲するように行動している軍の方が問題です。

 こういう脅迫行為をされると軍の信頼は更に無くなります。

 今から交渉を始めておけば、ナデシコは宇宙で引き返す事も出来ます。

 ただでさえ火星の放棄で軍は信頼を失っているのに、更に自分の首を絞めるとは正気ですか?」

ニッコリ笑いながら軍を拒絶するアクアにブリッジのクルーは思った。

(キツイ事を平気で言うなー、アクアさん)

「お父様の事を悪く言わないで下さい、アクアさん」

「では火星の住民を見殺しにしようとする軍は素晴らしいものですか?」

「そ、それは……でもあの時は奇襲で戦力も十分ではなかったから」

「だから火星の住民を見捨ててもいいと?」

アクアが冷めた声で聞くとユリカは何もいえなかった。

「まあ軍の上層部は最初から火星を見捨てる予定でしたからこれ以上は文句を言いませんが、

 艦長はこの艦で火星に行くのですから覚悟はして下さいね」

「覚悟ですか?」

側に控えていたジュンがアクアに尋ねると、

「ええ、火星の住民は地球の行為を許してはいませんよ。

 火星でいい加減な行動をすれば火星の軍隊に攻撃されて死ぬ事になりますよ」

アクアの言葉にジュンは火星での行動に注意が必要だと感じていた。

「まあ、火星との交渉には私の伝手を使うのでいきなり攻撃される事はないですよ」

アクアが微笑みながら話すとコウイチロウは目の前の人物がただのオペレーターでないと判断したが、

このまま会話を続けて迂闊な事を言われると困ると判断してユリカに話した。

『マスターキーを外して交渉に応じなさい、ユリカ』

「それは出来ません、海底にチューリップがあります。

 この状況でマスターキーを抜くのは危険です」

アクアがこの艦の現在の状況を告げて艦長に危険を回避するように促していた。

『我々がナデシコを守ろう、それにチューリップも動く様子もないから問題はないだろう』

「そんないい加減な事を言わないで下さい、クルーの生存が掛かっているのですよ。

 起動してはナデシコなしでは勝てませんよ、勝てるなら火星から逃げ帰る事はないでしょう。

 自分の都合のいい事ばかり仰られるのはやめて下さい」

『いいからユリカ、マスターキーを抜きなさい。パパが嘘を言った事があるかい』

「クルーの安全を一番に考えて下さい、艦長」

二人の意見を聞いてユリカはあっさりとキーを抜いた。

「はい、ではマスターキーを抜きまーす」

「エンジン停止、ナデシコ着水します」

ルリの呆れる声がブリッジに響いた。

アクアはユリカの行動に呆れてため息を吐いていた。

「……そうですね、これでは仕方ありませんね。

 副提督は艦長をどう思います?」

アクアの問いにムネタケははっきり告げた。

「馬鹿ね、責任感が欠けてるわ。艦長の器じゃないわ」

「まさかこんないい加減な人を艦長にするなんて、ネルガルも何を考えているのでしょうか?」

アクアはプロスのほうを見ながら話すとプロスは苦笑いしていた。

「では交渉に行きますが後はお任せしますね」

「申し訳ないです、プロスさん。

 交渉に失敗して」

詫びるアクアにプロスはフォローする。

「いえいえ、問題はありませんよ。

 一応はこちらの立場も伝える事が出来ましたので悪くはないです。

 それでは艦長、行きましょうか」

「そうですね、じゃあ行って来ますね」

プロスとユリカがブリッジから出ようとした時、ムネタケが叫んだ。

「ちょっと副長!

 何処に行くのよ」

「えっ?、艦長に付いて行くのですが」

当然のように話すジュンにムネタケは、

「あんたは副長でしょう。艦長不在の時はあんたがこの艦を指揮するのよ。

 それに交渉にはあんたは呼ばれてないでしょう」

とジュンを叱責する言葉を告げるとジュンも自分の行為に気付いて反省した。

「も、申し訳ありません。副提督」

「分かればいいのよ。

 それとアクアちゃんが言ったように海底にチューリップがあるから全員警戒するのよ」

「でも〜マスターキーがないからどうにもならないわよ〜」

「そうですよ。出航時のように何も出来ませんよ」

「その点は大丈夫です。

 こんな事もあろうかとサブシステムを構築しておきましたので非常時の緊急機動も可能です」

ミナトとメグミの意見にアクアが答えるとルリに話した。

「という訳でここはルリちゃんに任せるから、私は格納庫で待機しますね」

アクアは席を離れると格納庫に向かった。

ルリは自分とアクアの違いに気付いて軽いショックを受けていた。

自分は特別と言われてきたが実際には艦の制御で一杯だったがアクアは先を見越して必要な事をしていた。

「ま、気にする事はないわ。ホシノさんのせいじゃないわよ。

 これが人生経験からきた違いになるわ。貴女はまだ知らない事が多いのよ」

ムネタケがルリの様子に気付いて話すとルリは、

「別に気にしていませんよ」

と答えるがムネタケはそれを見て苦笑していた。

「アクアちゃんを超える気なら側について見ておきなさい。

 あの子は貴女が知らない事を沢山知っているわ。それを教えてもらって自分のやり方で超えるのよ」

「自分のやり方ですか?」

「そうよ、アクアちゃんの真似事じゃダメなんでしょう。

 だったらアクアちゃんのやり方を見て、そこに自分のやり方を加えるのよ。

 これなら問題ないでしょう」

ルリはムネタケの意見を聞いて考え込んでいた。

「当面はアクアちゃんと一緒に暮らしなさい。

 ここしばらくあなたの生活習慣を見てきたけど、このままじゃあラピスちゃん達にも追いつかれるわよ」

「どういう意味でしょうか?」

「いっちゃ悪いけどあなたは人間らしさが少ないのよ。

 まあ環境のせいだと思うけどこのままだと孤立していくわ。

 誰もあなたを見ないで能力しか見なくなるわよ。

 そうなったら本当に部品のような扱いを受けるわよ」

「別に今とそう変わりませんが」

平然と告げるルリにムネタケは訊ねる。

「だけど変えたいでしょう。アクアちゃんのように動ける人間になりたくないの?」

その言葉にルリは自分が変わる事が出来るのかと思い始めた。

こうしてルリも自分の未来を少しずつ考えるようになっていく事になる。










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EFFです。

ムネタケさん、いい味出していると思うんですがどうでしょうか?
前回は新キャラの心情とかを書かずに進めたので、今回はその点も考慮して書いています。
その分、話数が増えていくので困っていますが(汗)

では次回を期待して下さい。


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