少しずつ明かされていく真実

知らない事は罪ではないと言うが

知っている者にとっては歯痒い思いである

知らされた時に彼らは何を思うだろうか



僕たちの独立戦争  第二十二話
著 EFF


―――クリムゾン ボソン通信施設―――


「何か御用ですか、草壁中将。用がないのに呼ぶのは困りますな」

画面に映る草壁にロバートは困った顔で話すが草壁は気にもせずに一方的に用件を話す。

『地球の戦艦ナデシコの行動について聞きたい、何処に行くつもりだ』

「困りますな、何度も同じ事を言わせないで欲しいな。

 クリムゾンは窓口であって協力者ではない。

 二度も失敗してよくそんな口が聞けますな……いい加減にして欲しいのだが」

呆れるように話すロバートに草壁の側に控えた軍人が、

『ふざけるなよ、我々が見逃してやった恩をわすれたのか。

 貴様等は黙って言う事を聞けばいいんだ』

と自分達の都合だけを話していた。

「戦艦一隻を沈める事も出来ないのに、そこまで言うかね。

 別に手を退いてもいいんだが、

 その場合、泥沼の戦争になるな。勝てればいいが負けたら皆殺しになるかもしれんよ。

 それだけの事をしたんだから覚悟は出来てると思うがいいかね」

冷ややかに話すロバートに軍人達は黙り込んだが、草壁は気にもせずに話す。

『我々の正義は負けんよ、勝つのは木連だ。その事を忘れないでもらおうか』

「正義ですか、私も昔の資料を調べましたがアナタ方の先祖も悪いですぞ。

 核とマスドライバーによる地球への脅迫による独立など政府が認めませんよ」

『それは君達の先祖が残した記録であって、真実ではない。

 そんな嘘を信じるとは驚きだな、ロバート・クリムゾン会長』

「……まあどうでもいいが、木連の立場は非常に悪いな。

 無差別攻撃を仕掛けた以上、同じ事をされても文句は言えんぞ。

 まあその頃には君達のほとんどが死んでると思うが、残された市民は地獄を見るな。

 君達を信じてきたが裏切られる事になるのだからいい迷惑だな。

 そうそうナデシコは火星に向かうよ、君達と違って人命救助に向かうそうだ。

 彼等の方が正義かもしれないな、人殺ししかできない木連よりマシだな」

『ご老人、あまり失礼な事ばかり言うと痛い目に遭いますぞ。

 気を付けたまえ』

通信が切れるとタキザワが苦笑しながら部屋に入ってきた。

「いいんですか、ロバート会長。あそこまで仰っては無人機に攻撃されますよ」

「それはないな、そこまで馬鹿じゃないだろう。

 たまにはこれくらい言わないと図にのるからな」

「無理ですよ、この程度じゃ堪えませんよ。

 ……馬鹿ですから草壁に踊らされているのに気付いてませんから、これからが大変ですよ。

 草壁はその馬鹿達を率いて戦うのですから、いよいよ地球の反撃が始まりますからね」

「そうですな、クリムゾンの戦艦はどうでした。

 自慢じゃありませんがいい出来だと思うんだが」

「ええ、いい戦艦でした。

 ナデシコでしたか、ネルガルのは戦艦とは言い難いですな。

 あの艦は砲撃艦だと言わせてもらいますよ。

 クリムゾンのは立派な戦艦だと言わせてもらいます。

 そのうち火星でも買う事になるかもしれませんね」

「アレと比べるのは問題ですな、火星にお渡しした巡航艦を見てみたいものですな。

 どういう改装されたか、知りたいですな」

「えっと外装に関しては一応軍機なので」

ロバートは楽しそうに話すとタキザワも苦笑していたが、すぐにロバートにもう一つの案件を聞いた。

「お孫さんの方はどうしますか?

 急ぐ事はありませんが、この後の事を考えると準備だけはしておかないと」

「そちらに行かせようと思います。

 あの子には地球で生活させるより火星で自由に生きてから、結論を出してもらう事にしますよ」

「そうですか……クロノも話してましたが大事な事は失ってから判る事が多いみたいですな」

「彼も苦労しているんでしょうな。

 歳を重ねたせいか、人を見るとその人の人生が見える事がありますよ。

 彼は相当な苦労をしているように感じます。

 絶望を知っても諦めない強さがあるな、私は息子の育て方を間違ってしまった。

 そのせいで孫娘達に苦労を掛けさせてしまったな。

 もっと自由に生きて欲しかったがクリムゾンに狂わされてしまったようだ」

側に控えていた秘書もタキザワも声をかけるのは躊躇うほどの悔しさがロバートから出ていた。

周囲からは羨むほどの地位と権力と財を持っている人物の苦悩を聞いたせいか。

部屋は静寂を保っていたが、ロバートが気付いて話し出した。

「すみませんな、歳を取ると愚痴がでる事が増えてきました」

「いえ、いつになっても苦労する事が出てきます。

 大事なのはそれから逃げ出さずに対処する事だと私は思いますよ、ロバート会長。

 まあ私みたいな若造が言っても説得力はないですが」

苦笑して話すタキザワにロバートも苦笑していた。

「シャロンの事をお願いします。

 あの子にもっと自由な生き方がある事を教えてやって下さい」

「任せて下さいとは言えないですが会長のお孫さんです。

 周りに目を向けるきっかけさえ与えれば大丈夫です、あとは自分の道を探して歩き出されますよ」

頭を下げるロバートにタキザワは安心させるように話す。

側で控えていた秘書は思う。

(これで後継問題も大丈夫かもしれませんね。

 アクア様は大丈夫ですからシャロン様が立派な後継者になられると安心できますな)

クリムゾンの最大の懸案事項の後継問題が解決できて安堵していた。

ロバートの健康状態を心配して無理はさせたくないと感じていたが現状のままでは難しいと判断していたのだ。

だがこの戦争でクリムゾンの健全化が進む事を確信していた。

大企業であるクリムゾンには非合法な部分は少ない方が良いと思っていたが、

実際には必要以上に多いと考えていたのだ。

安易に力に頼る傾向が重役にもあり、それを注意しなければならない立場の社長でさえ平気で使うのだ。

社長は後継者としては不適格だと思い、シャロンもこのままでは不味いと判断していた。

だが自分の意見をロバートに話して負担を掛ける訳にはいかないと思い黙っていたが、

アクアの諌言でロバートも決断した事を知って嬉しく思っていた。

(これでクリムゾンも更なる飛躍ができますね、本当に良かった)

「ではシャロン様はいずれ火星での支社をお任せできますね。

 皆さんとの良好な関係を築く事ができますので」

秘書が嬉しそうに二人に話すと、

「そうですね、その際にはクリムゾンの支社を新たにお創り下さい。

 立場上、独立制になりますが二人のお孫さんのどちらかがトップになられるのが良いのですが」

タキザワが二人を思って話すとロバートも話した。

「悪くないですな、ですが他の企業も入るようにしないと問題ですな」

「難しい問題が山積みで頭が痛いですよ。ネルガルのせいで火星は苦労するんですから」

「……希望のないパンドラの箱ですか、知ってしまうと考えますな。

 ボソンジャンプの危険性を、そして最悪の事態を……」

「ええ、その気になれば世界が終ります。

 火星が狂気に走ればどうなるか……怖いですね」

秘書もテンカワファイルを読んでその危険性を認識していた。

「木連の監視は進んでますか、地球の方はもう万全でしょう」

「三年後なら木連は完全に殲滅できます。

 今はキツイですが、かなりの損害を出せます。

 地球に関してはクリムゾンの本拠を除いて調査を完了しています。

 もし地球が再びネメシスを火星に造り発動すれば、報復するつもりです」

タキザワの報告を聞いたロバートも地球のした行為に呆れていた。

「……しかし地球もネメシスなどよく造ったものだな。

 知られた時はどう説明するつもりなのかな。

 短絡的だな……戦争の火種ばかり作るのが好きなのか」

「所詮人間は臆病な者ほど上に集まって行くのかもしれませんね。

 他人を信じる事が出来ないから平気で人が死ぬような事をするのかもしれません」

「そうだな……この話は止めないかな。未来に希望が持てなくなりそうだ」

ロバートが苦笑して話すとタキザワも苦笑している。

「どうも男は悪い方へ考えるみたいですな、その点では女性は強いですよ。

 火星の女性はタフな者ばかりで参りますよ、娘も強くなりすぎて嫁にいけるかどうか心配で」

「大丈夫だろう、アクアでさえ見つけたんだ。そのうち連れてくるかもしれんよ」

「それはそれで嫌なんですよ。娘がどこの馬の骨を好きになるかと思うと……」

「確かにそれも嫌だな、そういえばアクアの恋人は誰なんだ?

 聞いてなかったな、今度聞く事にせねばな」

「えっ知らなかったんですか、クロノですよ。アクアさんの恋人は」

驚いてタキザワが話すとロバートはクロノを思い出して話す。

「何、あの若造か。

 ……ふむ一度彼に聞きたい事があるな、婿養子になるかどうかを」

「……反対はしないんですか?

 祖父として文句の一つもあるかと思ったんですが」

「アクアを見れば文句はないですよ。

 あの娘はクリムゾンから逃げていたが、彼のおかげでクリムゾンと向き合う事が出来るようになった。

 昔のように心から笑えるようになってくれた。それで満足ですよ」

とても楽しそうに笑うロバートを見て、タキザワも笑って話す。

「クロノもロバートさんの事をこう言ってましたよ、

 『厳しい方だけどあの人がアクアを守ってきたんだよ』とアクアさんに笑いながら」

「……そうですか、アクアはいい人に出逢えたんですな」

「彼は誰よりも優しく痛みを知っているんでしょう、強い男ですよ」

「見れば判るな、修羅場を潜り抜けた者が持つ強さがあり、覚悟も出来ているのだろう。

 任せておけばこちらの期待以上の結果を出すかもしれないと感じさせる力があるな」

「パイロットとしては火星最強で艦長としては超一流です。

 ジャンパーとしても戦艦規模のジャンプができる超一流の人材です」

「アクアも優良物件を手に入れたものだな。いっその事クリムゾンをまかせるかな」

「そっそれは困りますよ、火星には必要な人材なんです。この先の火星の未来を担ってもらわないと」

困惑するタキザワを見ながらロバートは思う。

(どうやら火星にとって重要な人物とのパイプをアクアは持つ事になりそうだな。

 損得勘定もあるが、それ以上にアクアが幸せになってくれるといいんだが)

無邪気に笑っていた頃のように明るくなってきたアクアを思うと感謝したい。

「ホントにアクアはいい男をものにしたな、面白いな。

 アクアにあったら聞いてみようか、彼の事をそれと家族の事もな」

とても愉快に話すロバートを見て、タキザワはこの人は信頼できると感じていた。

立場の違いはあるが頼れる人になれると思った。

また一つ未来に希望が持てる事が嬉しかった。


―――木連 料理屋にて―――


「相変わらず草壁は最悪な手段を選択しているな」

「残念ですが自分にはどうする事もできませんでした。

 海藤さんがいれば良かったんですが」

二人は食事をしながらここにはいない海藤の事を考えていた。

「でも哨戒任務に就くのは悪くないよ。

 だけど海藤は危険かも知れないな、草壁に危険分子として認識された可能性も出てきたな」

「自分もそう思います。

 哨戒任務に就かせる事で会議での発言を封じたのかも」

「秋山も気をつけろよ。

 今のあいつは危険なんだよ、思惑通りに行かない所為か焦っているかもしれない。

 今の状態で和平などの消極的な発言は敵と判断されてもおかしくないぞ」

村上が秋山の身を案じて話すと秋山も考えて話す。

「ですがこのままでは不味いです。

 事態は最悪の方向に進んでいます」

「だがお前と海藤に死なれると本当に歯止めがなくなるんだよ。

 最悪の事態になった時に対応できる人間がいなければ、木連は本当に終わりなんだよ」

草壁の間違った舵取りに滅びへと突き進む木連に秋山は悔しさを滲ませていた。

「問題はここからだよ。

 あいつの事だから地球の戦艦が火星に到着した時に火星に選択を迫るだろう。

 自分の味方になるか、敵になるかってね。

 火星は謝罪もしない木連には味方しないよ、これで草壁は火星に再度攻撃を始めるだろうな。

 でも木連は勝てないよ、火星は戦争の準備を整えたから勝つよ」

「では自分と海藤さんの出番はこれからですか?」

「そうだ。だから今は我慢するんだ。

 火星に敗北した時が草壁の発言力の低下に繋がるんだ。

 その時に仲間を作るんだ、一人では意見を述べても効果はないよ。

 草壁が無視出来ないような状況を作って、草壁の危険性を仲間に少しずつ教えていくんだよ」

村上の意見を聞いて、秋山は今は我慢する時だと思う事にした。

木連は最悪の方向に突き進んでいると感じながら被害を最小にしたいと願っていた。


「ねえ、お兄ちゃん。

 源八郎さんはどうしたの?」

「ん、この頃は一人で飯を食うようになってな。

 俺が誘っても来ないんだよ」

白鳥家の食卓で雪菜は兄の九十九に尋ねると九十九はそう答えた。

「そうなんだ」

「ああ、あいつとは一度相談しないと不味いな」

九十九は源八郎の指摘に自分達の行動に疑問を持ち始めていた。

確かに地球に対して攻撃するのは間違ってはいないと思うが、火星に対して殲滅戦を行ったのは問題だと感じていた。

(閣下はこの戦争が終わった後で火星にどう説明するのかな?

 もしや謝罪する気がないから殲滅戦なんて行為を決断したのか?

 閣下の唱える正義って何なんだ?

 本当に木連は大丈夫なのか?)

戦争を始めてからの木連の行動を思い返すと何故か不安になる事が多いのだ。

確かに勝っているがどうやって戦争を終わらせるのか……その答えが出ないのだ。

(まさか木連が地球と火星を制圧して閣下が指導者になる心算なのか?

 閣下はそんな事を考える人ではないか?)

周囲の士官達を見ると勝ちすぎて浮かれた様子なのが心配だと思う。

一度閣下に相談して士官達の引き締めを図るべきだと考えていた。

「源八郎さんも忙しくなったのかな。

 まあ、お兄ちゃん達みたいにゲキガンガー馬鹿じゃないから大丈夫ね」

「どういう意味だ」

「言葉通りよ、いい年して何がゲキガンガーなのよ。

 もう少し大人になりなさいよ」

呆れた言い方の雪菜に九十九は慌てて話す。

「な、何を言っているんだ!

 あれこそ木連の聖典なんだぞ」

「だから問題なのよ。

 お兄ちゃん達は戦争してるんでしょ。

 真面目に戦争してよね、私達の住んでいる此処に攻撃させるなんてどうかしてるわ。

 まさかと思うけど、お兄ちゃん達は遊びで戦争始めたの?」

自分達の仕事を馬鹿にするような雪菜の言い方に九十九は怒鳴った。

「馬鹿な事をいうな!」

「だったらみんなを守ってよ!

 戦争してるんだよ、私達も殺されるかもしれないのにアニメなんか見ないで!」

雪菜の言葉に九十九は自分達の考えの浅はかさを知らされたような気分になった。

「みんなが聞いてくるのよ、本当に木連は大丈夫なのかって。

 私は大丈夫だって答えてもいいの?」

不安そうに話す雪菜に九十九は答えられなかった。

そんな九十九の様子に雪菜は、

「……分かった、軍の機密だからお兄ちゃんも私には教えられないって話すよ」

そう言い残すと食事を終えて部屋へと戻った。

九十九は自分達が安易に戦争を始めた事に不安を感じていた。

(木連は何処に向かっているんだ?)

九十九は最悪の事態を木連が迎えようとしているのかと直感していた。


―――ナデシコ ブリッジ―――


「……暇だね」

「そうですか?

 私は忙しいですよ、艦長」

艦長席でだらけているユリカの声にアクアは呆れた感じで話していた。

「アクアちゃんは仕事があるじゃない。

 でも私には仕事がないのよ」

「事務仕事があるじゃないですか?

 溜め込むとプロスさんが作業できませんから困る事になりますよ」

ナデシコの事務仕事を一手に引き受けているプロスの負担を思って、アクアはユリカに注意する。

「事務仕事って退屈なんだよね〜。

 アクアちゃんはそうは思わないの?」

「確かに退屈な事かも知れませんが、戦艦の艦長なら退屈などという事が問題ですよ。

 この艦の命運は艦長が握っているのに退屈だからなんて不謹慎です。

 自分の仕事を理解してますか?」

アクアの注意を聞いてもユリカは気楽に話す。

「大丈夫ですってナデシコは地球で一番の戦艦なんです」

「でも撃沈させる事はできます。

 エステと同等の機動兵器があればナデシコでも耐えられませんよ。

 まさかと思いますけど、火星の事を艦長は知らないんですか?」

「そんなのあるんだ〜。

 ねえアクアちゃん、火星の機動兵器って性能いいの?」

(以前、説明した事を忘れているのかしら?

 戦術指揮官としては最高の人材だった筈なのに……おかしな人ですね)

クロノの記憶から戦術に関しては一流だと理解していても、何処か納得出来ないアクアだった。

「俺も聞きたいな?」

待機中のヒカルとガイが二人の会話を聞いてアクアに尋ねた。

「対艦フレームと同じくらいの性能があります。

 大きさはエステバリスの一回り大きいくらいですが、

 内部動力で動きますので外部動力で動くエステと違って単体での作戦行動もできます」

「でも大きいから機動力がエステより悪いから大丈夫ですよ。

 小回りが効く方が有利ですよ」

「いえ、旋回性能はエステが上ですが速度ではブレードの方が上です。

 変形機能があるので状況に応じて対応できるので、エステのようにフレームの交換も必要ではありません。

 何より武装が違いますよ。

 エステの場合は対艦フレームと砲戦フレームなら火力は五分ですが、

 砲戦では機動力で負けますので、対艦のみが唯一対抗できるでしょう。

 つまりパイロットの皆さんが対艦フレームを扱えない場合はナデシコは艦長の行動次第で火星で撃沈されますね」

ヒカルとガイの質問にアクアは判りやすいように話した。

「そうなんだ〜。

 性能いいんだね〜火星の機体って」

「……変形か?、まさに男のロマンを感じるな。

 火星に着いたら乗ってみたいな」

「艦長はどう思いますか?」

二人の感想を聞いてアクアは艦長席に向いて聞いたが、

「……いませんね。

 休憩時間になったから食事に行かれましたか?」

そこにユリカの姿はなかった。

「本当に大丈夫なのか?、この艦」

ガイも少し心配になってきた。

「まあ、なるようにしかなりませんよ。

 お二人も食事に行って下さい。ブリッジは私が見ていますので」

アクアが二人に話すと二人はブリッジを出て食堂へと向かった。

丁度入れ違いにウリバタケが入ってきてアクアに聞いた。

「悪いが、艦長はどこに行ってんだ?

 宇宙空間での対艦フレームの機動テストをしたくて許可を申請してんだが、返事がねえから困っているんだよ」

一向に返事が来ない事に苛立つように話すウリバタケにアクアは話す。

「それならプロスさんとムネタケさんに許可を求めて下さい。

 艦長は事務仕事を殆ど放棄していますから」

アクアがウリバタケに告げると、

「本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫でしょう、

 最悪の事態になったら艦長には悪いですが私が艦の制御を全て掌握して指示を出しますから。

 出来れば避けたいですが、火星と戦闘になれば私は皆さんを殺す事を躊躇いません。

 何故ならあなた達はこの戦争の裏を知らずに火星に来てしまった。

 火星から見ればネルガルの走狗と思われますよ」

アクアの言葉にウリバタケは訊く。

「そいつはネルガルがこの戦争の引き金を引いた事になるのか?」

「そうです。

 プロスさんも知らされていませんが、地球は木星と事前に交渉しています。

 その結果は決裂になり、火星の住民は地球から切り捨てられました」

「ちょ、ちょっと待てよ。

 つまり地球連合政府は木星蜥蜴の正体を知っていたのか?」

アクアが告げた言葉の意味を知ってウリバタケは慌てて訊いてきた。

「ヒントを教えます。

 バッタとジョロですが工具で分解できますよ。

 対艦フレームのジェネレーターはそれを分析して応用しています」

アクアが話した内容を考えて、ウリバタケは話す。

「……規格が合うって事は……分かったよ。

 この件は副提督達は知っているのか?」

「いえ、軍で知っているのは上層部の一握りの人間だけです。

 あとは連合政府の人間だけです」

「そうか、じゃあ火星はこの戦争の犠牲にされたんだな」

「そういう事です。聞きましたか、ムネタケさん」

ここにはいないムネタケがいるように話すアクアにウリバタケは不思議に思った。

そんなウリバタケを見ながらアクアは楽しそうに話す。

「ダメですよ、ブリッジに盗聴器を置くのは。

 今回は見逃しますけど、次はお仕置きしますよ」

『いつから知っていたのかしら?』

観念したように話すウィンドウのムネタケに、

「最初から知っていましたよ。

 おおよそこの艦で起きた事は私には全部分かりますよ。

 何故ならオモイカネは私とルリちゃんの味方ですから」

『そういう事です、副提督。

 個人のプライバシーには興味がありませんが、ルリに危害が及びそうな事柄は全てアクアに知らせています。

 プロス氏もまだ気付いていませんが、私とアクアはネルガルの行動に疑問を持っています』

ブリッジのウリバタケとウィンドウのムネタケはナデシコの情報は全てアクアの手に入っている事に気付いた。

「安心して下さい。私の目的はルリちゃんを守る事です。

 他には興味はありませんので、クルーのプライベートには一切関与する気はないです」

「まあ、その点は気にしていないさ。

 でも俺に話して良いのか?」

「ウリバタケさんはナデシコでは数少ない大人でしょう。

 この艦で大人といえる人は少ないですよ。

 殆どの人が耐えられませんよ」

ウリバタケの質問にアクアが答えるとムネタケも納得していた。

『ま、そういう事ね。

 もう少し事情を話して欲しいけど良いかしら?』

「プロスさんには内緒にして下さるなら全部お話しますよ。

 提督も構いませんか?」

「うむ、構わんよ」

ブリッジにいたフクベにウリバタケは気付かずにいたのでアクアに言われて慌てていたが、

「そのかわりと言っては何ですが、火星での艦長の行動には注意しないで下さいね。

 ネルガルがどう動くのか、知りたいので」

『そういう事なら仕方ないわね。

 降格させて反省させようと思ったんだけど、もう少し放置するわ』

「そうだな、このまま艦長にしておくのは問題だと判断したが仕方ないな。

 彼女の最終試験とするかな」

一向に態度を改めないユリカに二人は切り捨てる決心をしていたのだ。

「いいのか?、聞けば火星はナデシコを快く思っていないみたいだぞ。

 そんな状態で艦長の好きにさせたら碌な事になんねえぞ」

ウリバタケがアクアに問いかけると、

「汚いやり方ですがプロスさんの行動を知りたいんですよ。

 あの人はネルガルの中枢の人ですからネルガルが火星をどう思っているのか知りたいのです」

「汚いやり方だな。

 まあ、綺麗事を言っている場合でもないか」

納得できないが仕方ないと自分に言い聞かせるようにウリバタケは呟いた。

それを聞いたアクアは三人に決意表明をした。

「綺麗事ばかりだと良かったんですが、世界は甘くはないですよ。

 艦長も苦労しているのかもしれませんが、私がいた世界は覚悟のない人間は生き残れませんよ。

 そんな…殺し殺される世界の住人なんですよ、私は。

 まあ今は覚悟は出来たので後悔はしていません。

 今の私は子供達を守ってクロノと一緒に火星で幸せに暮らしたいと望んでいるだけです」

話すアクアの顔は晴れやかで優しい笑みを浮かべていた。

「あっ、もしかしたらルリちゃんを誘拐する為に来るかもしれないのでその時は協力してくださいね、オモイカネ」

『ルリを幸せにしてくださるのなら協力しますよ、アクア』

楽しそうに話すアクアにオモイカネは尋ねる。

「当然よ、あの子は私の大事な妹ですから守りますよ。

 その為にナデシコに乗ったんですから、その時は一緒に行きましょうね。

 あなたは私の大事な友人でルリちゃんの友達ですから」

『はい♪、オモイカネにおまかせ〜』

「火星にはあなたの仲間もいますから楽しいですよ。

 子供達もあなたとお話がしたいと思いますから仲良くして欲しいわ」

『楽しみです、早く会いたいですね♪』

二人?の会話を聞いていたウリバタケはムネタケに聞いた。

「いいのか?、物騒な事を話しているが」

『いいわよ。子供を戦争の道具にする気はないの。

 戦争は大人が血を流すものなの。子供に銃を握らせた時点で負けなのよ。

 大体ね、人体実験をしているネルガルに味方する気はないの。

 アタシはこの戦争の真実を知る為に火星に行くのよ。

 アクアちゃんが教えてくれるなら協力するのは当然でしょう、違って?』

「そういう事だ、我々は何も知らされてはいないのだよ。

 火星が教えてくれるなら協力しても構わない。

 私は火星に謝罪と償いをしないといけないのでな」

フクベの苦悩を知っているアクアは話す。

「償いをして下さるなら、軍の改革を任してもいいですか?

 このままでは泥沼の戦争になりますので地球の軍の改革は必須なのです。

 無論、連合政府のほうも改革しますが」

『いいわよ、こっちもいい加減な人間にこのまま任せる気はないから変えるわ』

「……最後の奉公にしよう。

 今回の戦争の原因は地球にあるからな、わしも責任を果たす事にしよう」

二人の決意を聞いたアクアは話した。

「では彼らの不正資料を全てお渡ししますので有効にお使い下さい。

 クリムゾンは地球の内部改革を始める予定です。

 希望のない未来にしない為に火星とクリムゾンはこの戦争で地球の浄化を始める事で合意しています。

 問題があればクリムゾンに相談して下さい」

『最悪ダメだった時はどうするの?』

ムネタケの質問にアクアははっきりと告げた。

「地球全域に核攻撃を敢行します。

 火星に配備したネメシスを地球で行うだけです」

「ネ、ネメシスだとアレが火星にあったのか!?」

滅多に声を荒げないフクベがアクアの話を聞いて叫んでいた。

その様子にウリバタケとムネタケは驚いていたがアクアの言葉を聞いて更にショックを受ける事になる。

「知っていたんですか?

 地球が火星の軌道上に隠すように配備した、火星が独立又は地球に反旗を翻した時に起動する核攻撃システムを」

『そ、そんなのあったの?

 アタシは知らないわよ、そんなシステム』

「俺も初めて聞いたぞ。

 多分地球が黙っていたんだな、そうだろ」

フクベが二人の声に疲れたように話し出した。

「100年前の月の独立事件の後に、

 火星の独立を危ぶんだ政府が作ろうとしたが、中止になったと聞いたが……在ったのか?」

「はい、その時は計画自体は中止になったのですが……十年程前に再計画されて作られました。

 正直呆れていますよ、火星は。

 地球はどういう説明をするのか、楽しみですよ。

 いい加減な説明をするなら火星は地球に宣戦布告する事になりますね」

『地球って自分の首を自分で絞める自殺志願者しかいないの!

 公になったら確実に月も火星も宇宙にあるコロニーも完全に敵に回るわよ。

 いくらビッグバリアの恩恵があるとしても馬鹿じゃないの』

「本当に大丈夫なのか?

 火星に全部ばれているぞ。ナデシコの命運は終わっているんじゃねえか」

呆れる二人にアクアは楽しそうに話していく。

「ビッグバリアなんて火星の攻撃には役には立ちません。

 必要な数の核を揃える事が出来れば明日にでも地球を放射能に溢れた星にして見せますよ」

「そんな事が可能なのかね」

「ええ、提督。

 地球は火星を敵に回した恐怖を知らないのですよ。

 知っているのはクリムゾンだけです。だから協力してくれたんですよ」

『なるほどね、アクアちゃん。

 地球は調子に乗りすぎたのね。で、どうする気なの?』

「安心して下さい。

 火星での住民投票で地球への攻撃は見送られましたので何もしませんよ」

『そうなの……ってどうして分かるのよ!?

 いつ火星と通信したの、全然気付かなかったけど』

『私も知りませんよ、アクア。

 通信記録はありませんがどうやったのですか?』

「リンクよ、以前話したでしょう。

 それで火星にいるクロノと連絡を取ったの」

ムネタケが驚き、オモイカネさえ分からない方法で火星と連絡を取るアクアにウリバタケは考える。

(イカサマ師だな。絶対楽しんでるよ、俺達の反応に。

 プロスの旦那も大変だな、反則みたいなもんだぜ。

 自分の手の内を全部知られているなんて勝てっこねえよ)

ここにはいないプロスの不幸を悲しんでいるウリバタケに、

「なんか失礼な事を思ってませんか、ウリバタケさん」

「いっいや、それより副提督。

 対艦フレームの機動テストをしたいけどいいか?(しかも勘が鋭いから怖いぞ)」

少し不審に思われたかと焦りながらウリバタケはムネタケに訊く。

ムネタケもウリバタケの危険を回避させるべく会話を始めた。

『いいけど、艦長はまた事務仕事してないの?』

「そうなんだよ。

 火星に着く前に機動テストしてないと不味いのに書類を読んでいねえんだよ。

 予定では昨日するつもりだったんだが」

『こっちに回しなさいよ。

 艦長は事務仕事が苦手みたいだから急ぎの仕事はアタシがするわよ』

「いいのか?」

『しょうがないでしょう。

 今の説明聞いたら火星に行くまでに戦力を整えないと万が一の時どうするのよ』

「分かったよ。そっちに申請書を回すよ」

『そうしておいて。

 最悪の事態にはならないと思うけど準備だけは万全にしないと』

「火星は攻撃しなくても木星はしてきますよ。

 まだ火星は完全に木星の戦力を排除していませんから身を守る手段は必要です」

アクアから火星の状況を聞いた三人は複雑な思いであった。

火星はナデシコが危機に陥っても援護する気がないだろうと判断できる。

知らなかったとはいえ地球が火星にした事を考えると文句は言えなかった。

「本当に地球は大丈夫なのか?」

ウリバタケの呟きに誰も答える事が出来なかった。








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EFFです。

ナデシコでの話を増やそうと思って書きましたがどうでしょうか?
ユリカさんの行動はアニメ版での葬式イベントがないのでこんなふうになりました。
戦闘指揮は優秀ですが他の事はダメダメだと思うのですが皆さんはどう思いますか?

もう少しナデシコの話を書くかもしれません。
では次回でお会いしましょう。

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