動きは一気に加速する

自分達の願う方向に進ませたい

少々力技もしなければならない

だがそれだけの価値があると信じている

ようやく山の頂が見えてきたようだ



僕たちの独立戦争  第百七話
著 EFF


連日、火星宇宙軍は会議を続けている。

地球側が核を使用するという情報をクリムゾンから聞いた為に幾つか変更しなければならない問題があった。

ジュールとルリが行っている核パルスエンジンから相転移エンジンの変更もその一つである。

「やはりコロニーを一つ、橋頭堡に確保するべきじゃないか?」

「木連と共闘するにしても独自の活動拠点は必要だ」

「では、月のドックは最終ラインに」

月のドックが借りられたから、そこを拠点にするべきという意見と独自の橋頭堡の確保という意見で大筋は決定している。

問題はどのコロニーを制圧するかという点である。一応、宣戦布告した以上は民間施設への攻撃も可能ではある。

戦争中である以上は暢気に構えている方が異常とも思える。地球連合軍側の危機感のなさを呆れるべきだろう

「今度は軍事用のコロニーを奇襲で陥落させるのは難しいだろう」

「俺は此処が一番良いと思うが」

士官の一人が提示する場所――L5コロニー通称サツキミドリと呼ばれるコロニーだった。

「大きさ、設備はこちらが活動する数に適している。防備に関しては後付けになるが、軍事用以外ならベストじゃないか?」

「防衛には鹵獲した無人機をメインに当てれば無理に付ける必要があるだろうか?」

「停戦条件に返還もあるだろう。外す手間を考えると必要以上に付けるのはどうかと言わせてもらうぞ」

喧々轟々と言う訳ではないが、発進する部隊の命運が懸かっているので議論は白熱する。

「頭を冷やせ……クールに行こうぜ」

レオンが落ち着けと士官に告げると熱くなり過ぎたと感じてバツの悪い顔になる士官もいる。

「予定通りなら時間はタップリとまでは行かんが、少しは余裕がある。

 焦る必要はない……こういう時こそ、俺達の真価が問われる。落ち着いてクールに行こうぜ」

もう一度、落ち着けと言う事で士官達の頭を冷やさせる。元々火星宇宙軍は発足したばかりで実戦経験者は少ない。

さあ、開戦だと言われても経験不足の感は否めない。

だからこそ経験のあるレオンやここには居ないゲイル、クロノの言葉には重みがあった。

「今、二人が先行して偵察をしている。もうしばらく待てば、連合宇宙軍の戦力分布も判明する。

 それを見てから、結論を出す事も出来る。いいか、戦場では焦った奴がヤバイんだ……落ち着いて動くぞ」


レオンが浮き足立つ士官を宥めている時、クロノとゲイルは先行して連合軍の勢力下に侵入していた。

「まあ、破壊するだけなら俺とダッシュが居れば十分だけどな」

「……それはそれでありがたいが、後が大変になるから却下だ」

常々ゲイル思うがこういう人物を生み出した未来は相当……末期的だと感じてしまう。

軍には無い操縦マニュアルで単機で結果を残す。

簡単なように見えて実際に一流の軍のトップガンに出来るかと聞いても無理だと言うだろう。

軍のトップガンに出来ない事をやってのけるクロノが味方に居るというのは非常に頼もしいと考える。

「やっぱりサツキミドリが一番楽に落とせる。連合宇宙軍の本拠地であるL2コロニーから最も遠いからな」

「サツキミドリか……あそこには、いい思い出がないんだよな」

「そうなのか?」

クロノ呟きにゲイルが反応するとスタッフの視線が集まる。

「ああ……勢い込んでエステに乗り込んだが、0G戦はおろか無重力というものが初めてでな。

 クルクルと回転するわ、姿勢制御もままならなくて……悲惨だったな。

 あの頃は気合ばかりで空回りしていた気がする」

「お前にもそんな頃があったのか?」

「あるさ……どっちかというと俺の人生は流されて、土壇場での右か、左かの決断の連続みたいなものだ。

 しかもその都度、利用されていたような気がする。

 なんせ、人類初のボソンジャンプ成功者だ……自分では自覚出来なかったが俺自身の価値は周りが勝手に決めたからな」

「……シャレにならんな。一歩間違えばジャンパーの誰もが同じ目に遭うと?」

「実際、そうだったな。生き残った火星人は実験材料として……生かされていた」

「胸クソ悪い話だ。俺達は実験材料じゃないぞ」

クロノが見た世界を聞いてゲイルは嫌悪感を隠さずに話す。

ゲイルの子供は火星で生まれたA級ジャンパーであり、ゲイル自身もA級ジャンパーだった。

「子供が何人も殺されていった……あの時ほど自分が弱くて、助けられない事が悔しくて……たまらなく惨めに思えた」

「お前の所為じゃないぞ。火星人の体質を知りながら放置した連合政府の責任でもある」

ボソンジャンプは極秘扱いだったかもしれないが、政府が生き残った火星人の安全を確保しなかったのも悪いと思う。

こうなる可能性は十分予測できた筈なのに対策をしないというのは怠慢だと感じる。

「いや、無責任な停戦を考えた俺達が戦犯さ。大局を考えずに突っ走った俺達のミスだ」

クロノは若さゆえの暴走だったと思うと同時に同じ徹は踏まないと決意している。

「今度は失敗しない。火星は火星人の手で守り、地球人の介入などさせない。

 この戦いはなんとしても勝つ……そして未来を俺達の手で作る!」

クロノの声にクルーも気合を新たにして作業を続けている。

「では、このサツキミドリを奪い取って、本拠地にするか?」

「そうだな。準備を急ぐとしよう。

 動かせる艦艇を先行させて、サツキミドリを陥落させる」

「その後、大型のジャンプゲートを設置して改修した無人戦艦の配置で行くか?」

「ああ、地球の度肝を抜いてやる」

「そいつはいい。自分達の頭上にたった数日で現れる火星宇宙軍か……奴らが慌てふためくのは面白いぞ」

この日の為に備えはしてきた。無人戦艦の攻撃力の強化、艦艇用の大型のジャンプゲート、抜かりはないと誰もが思う。

火星の独立へと決意した本格的な参戦が始まろうとしている。


―――木連 月臨時指揮所―――


「どうやら、こっちも本格的に動きがありそうだな」

「威力偵察の頻度が増えてます。残す時間は一月切ったところです。

 三原さんと上松さんが散々嫌がらせして時間を稼いでいますが……そろそろ限界です」

高木と大作はL3コロニーで作戦中の二人は十分敵を撹乱していると考えていた。

僅かながら補充できた艦艇を使って敵の補給路を潰す――通商破壊を何度も行い、地球側の戦力の鹵獲も成功している。

「技術者と暗部の水鏡さんの協力で新型の基礎設計と実戦配備もやってます」

「そりゃ結構な話だ。で、噂の新型は使えそうなのか?」

「いや〜非常に使えそうです。九郎用の対艦兵装を改修して装備させたんですが……大当たりです」

大作がホクホク顔で話している。ジンとは違うタイプの対艦攻撃機の完成は戦術の幅が広がるから使い道が大いに存在する。

特に対艦攻撃が出来るというのは役に立つから嬉しい。

地球側も歪曲場を利用してきたので、九郎の対艦兵装が完成したのは現場の士官にとってありがたかった。

ナデシコのように重力波砲はまだ装備されていない戦艦が多いが、火星、クリムゾン経由の情報ではいよいよ出て来る。

対処法は無人機の歪曲場の壁が有効的だが、数が揃わなくては効果がない。

よって今回の戦いで撃沈すれば、当面の脅威はなくなり完全なる制宙権の確保も可能になると二人は考えている。

火星が参戦するという事も本国は予測しているが、まだ停戦も和睦もしていない状況で味方と考えるほど楽観的ではない。

「そろそろ、こちらも宣戦布告をもう一度するべきかもな」

「市民向けのですか?」

「ああ、こっちの存在を明らかに見せないと。

 見えない顔の相手というのは怖いらしいとアクア殿は言ってなかったか?」

「確かに言っておられました。木星蜥蜴なんて不本意で悪意ある名を貰いましたから……連合政府もやってくれますよ」

大作が苦々しい顔で話す。明らかに自分達を貶めるような言い方を連合政府は使っているから腹が立つ。

木連が自分達より格下で取るに足らないような存在だと蔑むような名称を付けている。

「こういう考え方をしている点から見ても、後々禍根を残していきます」

「厄介な種を植えたものだ」

市民の心の中に木連の人間を蔑むような感情を植えつけた連合政府の政策には我慢できない。

木連の人間が地球に移住しても周りの地球人と揉める事は確実に予想できる。

市民同士のいざこざから発展して戦争となるケースは良くある展開として歴史に記録されている。

「勝っても後が大変だし、負けたらもっと酷くなりそうです」

「負けんよ……こんな卑劣な手段を用いた連中には断じて負けん!」

血気盛んに叫んで高木は吼える……自身の怒りと木連の未来は守るという燃え盛る熱意が高木の中に渦巻いていた。


―――連合政府―――


司法局の動きに主流派は対応できずに苦慮している。

口封じが失敗して、逆の司法取引で寝返る人物が次々と現れている為に司法局は着実に証拠集めが進んでいる。

司法局も口封じという事態が発生した事で、司法局は裏から内偵という選択から公開捜査へと移行した。

マスコミに情報を与えて議員関係者の動きを掣肘する。マスコミとしてもこの戦争の真相追及に情報は必要だった。

情報を出来る限り公開する方針で動くと司法局は宣言し、マスコミ側も情報が欲しいという点はあるから文句は言えない。

両者の利害が合致した事でマスコミ側は司法局の動きを支援、司法局も情報の公開でマスコミに情報を提示する形で活動。

主流派の議員は二つの陣営から監視され、市民に情報を公開される為に迂闊に動く事が出来ない状況に追い込まれた。

機を見るに敏な連中は既に和平派に傾いているが、中立を保っていた議員は見識の無さを露呈する事になった。

一概に中立が悪いという訳ではないが、この戦争が始まった経緯でその修正を行う和平派に協力しないのは問題だろう。

非があるのは連合政府側だと思うのに行動しないのは不味いと市民は感じるのに理解できない。

市民と政治家の温度差が著しい差となっているのかもしれなかった。


「くっ! 不味いな、想像以上に司法局の動きが早い」

主流派の会合で最初に出た言葉がまず……これだった。議員の一人が口封じという選択を行った為に司法局が一気に動いた。

連鎖的に他の議員や官僚の周辺を押さえられるだけではなく、マスコミによる監視も始まった。

身動きが取りにくい点も困るが、司法局の情報公開も頭の痛い話だった。

火星の宣戦布告から有識者だけではなく、一般市民の間にもこの戦争の是非が議論されている。

特にオセアニアでは反戦の機運が高まり、シオン・フレスヴェールの和平派が台頭している。

連動するように欧州やアフリカでも休戦、もしくは和平への動きが始まっている。

北米だけで議会を支えるのは難しくなっている。

シオンの暗殺も考えたが、周囲を固めるクリムゾンSSの存在のおかげで不首尾に終わっただけで済まなかった。

実行犯は司法局が押さえたが、計画者は……全ての証拠を遺した上で自殺という結果になっている。

これは紛れもなくクリムゾンが警告したという証に他ならない……安易に手を出せば、ただでは済まないと告げたのだ。

「クリムゾンに火星を見殺しにすると告げるべきだった」

共犯者という形で関与させれば、自分達の側に引き込めたと後悔する者もいた。

「今更、それを言っても仕方ない。クリムゾンを引き込めば、金脈の独占はなくなるではないか」

「そうだ。誰から聞いたか判らぬが、あの男は木連の窓口を要求してきた……忌々しい」

「火星を放棄すると話しておれば、脅しの種として使いかねない」

「奴ならやりかねない……大方、生き残った火星と通じているのかもしれん」

ロバート・クリムゾンの存在を疎ましく思って、介入させないようにしたのを恨んでいるのではないかと考える。

実際は違うのだが、クリムゾンは流れに上手く乗り、自分達は流れに乗れずに溺れかけている始末だ。

「時間を稼がねばならん……総選挙などされると完全にお終いだ」

「宇宙軍が勝てば、流れも変わる。ここを乗り切れば良いだけだ!」

「この際、手段は問わぬ! 勝てば流れを引き戻せる!」

議員達は現状を打破するのに勝利が必要だと理解しているが、ただ勝てば良いという問題でもない事に気付かなかった。


同じようにシオン達も別の場所で会合している。

「後僅かなのに手が届かない……口惜しい!」

「全くです。中立派が椅子にしがみ付かなければ!」

議会の解散、総選挙までの道筋が見えた処で中立派の一部が主流派に擦り寄ったおかげで解散に持ち込めなかった。

今、解散総選挙になれば、確実に停戦に持ち込む事が出来たのに……後一歩が届かない。

口惜しく、地団駄を踏みたくなる議員達が多かった。

ここで終わっていれば、軍の兵士の戦死者数も止まる筈で、市民の犠牲も止まるのに止められないという憤りが胸にある。

軍の再編、連合議会の自浄、司法局との協力で欲に塗れた官僚の排斥も始められただけに悔しいと思う議員は多い。

「どうやら開戦は止められぬ……流れだな。

 諸君、これからが正念場になる。

 連合宇宙軍が敗れた時はこちらの流れになるが、戦争とは思うように行かぬ時もある」

「木連が敗れた時は流れが狂うと?」

シオンの指摘に議員の一人が問い掛ける。

「そうだ。軍はこれからが本番だと息巻いて攻勢に出ようとするだろう」

「で、ですが反戦運動も出ています。そう簡単には変わりません」

「だが、備えは必要だ。日和見な連中もいる……勢いが弱くなるから気を付けねばならん」

「説得工作も続ける必要がありますね」

「うむ、問題は軍が戦術核を使用するという話が出ている」

シオンの言葉に議員達は声を失い、部屋は静まり返る。

戦術核の使用は禁止条項なのに軍が使用するとなれば……大問題だった。

「そ、それは誠ですか!?」

勢い込んでシオンに尋ねる議員。他の議員達も信じられないといった表情でシオンを返事を待っている。

「クリムゾン、マーベリックが内偵したが戦術核の一部が……消えたらしい」

「愚かな! そんな事をすれば、木連へコロニー落としの口実を与える事になるではないか!」

「目先の勝利で大局を危険な方向にしてどうなる!」

「証拠が無く、政府の実権を持たぬ我々では制止できぬ」

現状を考えると軍に横槍を入れたいが政権を持たない陣営では不可能で、勝つ事を考える連中が止める気はないと判断する。

「木連が勝利し、理性的な対応を取る事と、火星が介入して軍の暴挙を止めてくれる事を願うくらいだ」

シオンの願望とも言える考えに自身の無力さを痛感する議員達。

「ですが、我々自身も手を拱いているだけでは意味がありません」

「そうです。起きてしまった事件に対する責任は彼らに取って貰いますが……後の事は我々がきちんとした対応をしないと」

「当然だ。我々の役目は彼らの暴挙の後、速やかに政権を奪取して停戦へと動く。

 もう一度告げる、ここからが本番だ……険しい道のりだが政治家は与えられた権限に対する責務が果たさねばならない」

シオンの声の重さを感じながら、自分達の真価が本当に問われると感じる。

身を引き締めて、事態を見極めて対処するという責任感が議員達の中に芽生えていた。


―――強硬派艦隊 旗艦いかずち―――


「ちっ! こちらの位置を知られたか」

艦橋で待機していた安西は所属不明の無人機を発見したとの報告に決戦の日が来たと考える。

「何事だ!」

警報を聞いて駆けつけた月臣に安西は一言聞く。

「人事は終わったな」

「ま、まだだ」

「もういい、時間切れだ。こちらの位置が知られた。

 お前の人事は後回しで決戦に突入する……使えん男だな」

「ば、馬鹿を言う――ガッ……何をする!?」

反論しようとする月臣を殴りつけてはっきりと状況を告げる。

「こちらの位置を知られたんだよ。今から人事を行っても混乱するだけだ!

 いったい何日時間を掛ければ気が済むんだ……戦争中だと自覚がないのか、貴様は」

安西は苛立つ感情を抑えきれずに話す。

「お前の本質は戦士だという事を自覚して、それを踏まえた上で俺を上手く使おうとか考えろ!

 良いか、何でもかんでも自分でしようとするな……向き不向きというのは誰にもあるんだ」

「それでも俺は自分の手で!」

「ふざけるなよ! その結果が空回りだと自覚しろ!

 お前の仕事は人事だけではない。他の仕事を出来てないだろうが」

「…………」

反論する月臣の言を一喝して切り捨てる。月臣も他の仕事が出来ていない事を言われてはそれ以上は反論出来なかった。

「艦隊戦の準備をするか、後退するか、決断しろ!

 位置が知られた以上は確実に本隊が来る」

「艦隊戦だ……俺は逃げる気は無い!」

「お前は不本意だが小細工を幾つかさせてもらう……勝たねばならんからな」

「……許可する」

月臣は仕方なしに許可するが、負けては意味が無いという事は理解している。

もっとも理解していても不本意なのは変わらずに苦々しい顔で話す。


戦艦むつきの艦橋で新田は海藤に報告する。

「発見しました! やはり例の場所に潜伏していたようです」

「よし、周辺の封鎖と監視を始めろ。動きがあっても無理に戦うなと先発隊には指示を出せ」

「了解!」

「全艦発進! これで大義なき内乱は終わらせ、月へ行くぞ!」

海藤の宣言が艦隊に伝わると艦隊は落ち着いて隊列を乱さずに艦隊運動を始める。

意思統一が完全に出来ている見事な艦隊運動に海藤は勝利を確信している。

「月臣元一朗……お前は理想を持って始めた心算かもしれないが、俺は認めん。

 軍はあくまで文民統制でなければならん。政府の決定に不満でも従わない時点で正義などないと言わせてもらうぞ」

はっきりと艦橋にいる士官達にも聞こえるように宣言する。

軍人たるものはこうであるべきと自身の考えを示す事で士官達も自分なりに考えるようにして貰いたいと海藤は思う。


増援艦隊の指揮を任された白鳥九十九はこれが最後の機会だと考えていた。

(元一朗……最悪の時は俺の手で止める! そしてお前を利用した元老院を決して許さんぞ)

ゆめみづきの艦橋で白鳥はこの戦いの結末を見届ける心算だった……それがどんなに辛い結末であってもと思いながら。

「こっちも続くぞ。艦隊を発進させろ」

閣下は自分の我侭を聞いてくれた以上は見届けて、次に活かせるようにしなければならないと九十九は考える。

友との戦いという辛い戦いに身を投じる九十九。

だが、これは……元一朗の暴走を止めきれなかった判断の甘かった自分に対する罰なのだと思う。

純粋に信じているだけではダメだと知ってしまった。人の思いを利用する悪意ある人間もいると気付いた。

「元老院……正義を騙った連中を俺は許さんぞ」

誰にも聞こえないくらい小さな怨嗟の呟きを九十九はした。

決戦の時は近付きつつあった。


―――ノクターンコロニー造船施設―――


「あり? ルリちゃん、何でこんなとこに」

「……ルナさんこそ」

仕事を始めて二日目、お昼の休憩中にブリッジに現れたルナとルリが互いに顔を合わせて尋ねている。

「私は本業の材料工学でね」

「私は姉さんの代わりにエンジンの調整を」

「そうなんだ」

「はい、ルナさんも元気そうですね」

「当然。元気は私のとりえの一つよ」

二人は微笑んで簡単にこの場に居る理由を説明する。

学校が始まり、ルナ達とはメールでの遣り取りでしか会っていない。偶然の再会に二人とも喜んでいた。

「そっか〜ルリちゃんは学校はどう? 楽しい?」

「はい、友達出来たんです♪」

「ホント、言うとね。ルリちゃん達、目立つから心配だったんだ……イジメられないかとね」

「そういうのはありませんでしたが……」

ちょっと困った様子で学校生活を思い出すルリ。悪い人はいないけど、男子生徒の熱い視線はちょっと怖かった。

「ルリちゃん、可愛いから告白でもされたの?」

「……はい。断るのが大変なんです」

「なるほどね、同い年の子は苦手なんだ」

「ええ、もう少し配慮をして頂けると助かるんですが」

同年代の異性と会うのは初めてのルリは熱烈なアプローチには辟易している。

悪意であれば拒絶も楽だが……好意から来ている感情なので対応には苦慮している。

ハッキリと自分の気持ちを告げることで付き合う意思はないと話しているのに……次々と現れるのは困る。

「それに……私を見てくれているのか、判らないんです」

「そっか……ルリちゃんの容姿だけを見ているって感じたんだ」

「はい、私じゃなくてもいいような気がするのは不愉快です」

私の容姿ではなく、内面もキチンと見て欲しいとルリは思う。

どうしても研究者達がマシンチャイルドとして自分を観察していた時の頃を思い出してしまうから……嫌になる。

人間――ルリ・エレンティア・ルージュメイアンとしての自分を知って欲しいという願いがルリの胸の内にはあった。

「男の子ってどうしても可愛いとか、綺麗な容姿に最初は目が行くのよ」

困ったものよねとルナは苦笑いして話す。ルリも釣られるように苦笑いして聞いている。

「一応、ルリちゃんの事を見ている人もいるけど……一種のステータスって考える不届き者もいるから気を付けてね」

「なんですか、それは?」

「可愛い女の子を自分を飾るアクセサリーみたいに思うバカもいるって事」

「不愉快な話ですね」

「まあね。でも、ルリちゃんは人の本質を見る事が出来るから大丈夫だと思うけど……気を付けてね」

「気を付けます」

心配して忠告してくれるルナに感謝する。だが、ルナは急にニッコリと笑って話す。

「もっとも、ルリちゃんの本命はそんな下衆な野郎じゃないし、安心ね♪」

「ル、ルナさん!」

ルリの本命――ジュール――を知っているルナはからかうように話し、ルリは真っ赤な顔で抗議する。

「アイツももうちょっと気が利けば良いんだけど、シンと一緒で男同士でつるむのが楽しいのかしら」

「男の友情ってやつですか?」

「そ、シンは今回は火星防衛艦隊に配属されるからまだ安心出来るけど……ジュールは心配よね」

「ええ、正直……不安なんです」

ジュールはオペレーターとして旗艦に配属されている。ルナの言う通り、不安な気持ちがどうしても消せないから困る。

「だよね……今回はアクアさんも配属されていないから余計に心配になるわね」

「……はい」

アクアがいれば、不安も少しは解消できたとルリは思う。

自分の教師役のアクアは常に二手、三手先を予測して備えを怠らない慎重さを持っているから頼りになる事を知っている。

クロノもゲイル、レオンの能力は知っているが実際に見たのはクロノだけで判っているけど……どうしても不安になる。

失う事の意味を知らなかったルリは家族を失いたくないという気持ちが人一倍ある。

拘ってはいけないと常々思っているが、どうしてもその気持ちが出て来る時があるので途惑う。

信じているが信じきれない……頼れる大人を多くは知らない事が自分の欠点かもしれないとルリは思う時があった。

以前、生活していた研究施設の大人は信用できないと感じていたから、まだ怖いと身構えてしまうかもしれない。

「ジュールもねえ、ルリちゃんが心配してるんだから一言言ってあげれば良いのに。

 「心配しなくても良いよ」とか、「ちゃんと怪我せずに帰ってくるよ」とか」

「全くです」

「他にも「ルリちゃんが好きだから、付き合う為にも死なないよ」なんてのはどうよ?」

「……ちょっと恥ずかしいですけど……いいかも」

「でも堅物だから……そんな事言わないか?」

「……そうかもしれません」

ジュールはそういう恋愛事は避けているとルリは思う。ジュール自身が抱える問題を思えば仕方ないのかとも思うが。

現在は軍に所属しているが、何年か先にはノクターンコロニーのクリムゾン火星支社に移籍するとルリは予想している。

ジュールの二人の姉は火星の政治に係わっているから、どうしてもジュールにお鉢が回ってくる可能性は高い。

もう蟠りはないと話しているからクリムゾンとの関係も徐々に改善されている。

「ちょっと不安なんです……ジュールさんが仕事に夢中になって別の人にならないか」

「責任感あるからね。仕事に夢中にならないか……ルリちゃんとっては心配だね」

どうしても不安な気持ちを抑えきれない。自分達の元から離れて生きて行くんじゃないかと考えてしまう。

「やれやれ……そんな事はないんだが」

「「ジュ、ジュール(さん)!?」」

二人の会話に割り込むようにジュールが苦笑しながら話してくる。

「ルリちゃんには心配掛けているけど、俺は爺さんみたいにはならない。

 ちゃんとルリちゃんやみんなの元に帰ってくるよ」

「……信じて良いんですよね?」

「当然だろ。少なくとも新しい甥っ子の顔を見るまではくたばる気はないし」

そう告げるとジュールは首に掛けていたペンダントのようなものをルリに渡す。

それは銀のチェーンに指輪が通してあり、男性であるジュールが持つにはちょっと似合っていない気がした。

「なんですか、これは?」

「俺の母さんが遺してくれた形見かな……ルリちゃんが預かってくれるかな」

「そんな大事なものをですか?」

ジュールが、母が残してくれた大事な形見の品と聞いて、ルリもルナも吃驚していた。

「しばらく帰って来れないから……まあ、俺の代わりという訳ではないけどね」

「いいの? ジュールにとって、それって唯一の形見なんじゃ」

「そうですよ、お守りみたいなものなんじゃないですか?」

「別に構わない。実はチェーン傷み始めていて交換しないと不味いんだけど時間が無くてね」

ジュールの指摘にルナとルリが確認すると、確かにチェーンの部分が傷みかけている。

「落とすと困るから修理を姉さんか、ルリちゃんに頼もうと考えていたから丁度良かったんだ。

 チェーンは後から付けたから傷んでも良いけど、指輪だけは失くしたくないんだ」

「……そういう事なら頼んでおきます」

「必ず取りに戻るから……形見分けなんて縁起でもない意味はないから安心して欲しい」

「はい♪」

ジュールさんが大事なものを預けてくれると思うとルリはどうしようもなく嬉しいと感じてしまう。

そして必ず生きて帰ってくると約束してくれたから不安は完全にではないが、かなり減っている。

「ちょっと大きいからルリちゃんにはブカブカかな」

サイズを見ながらルナがジュールに話す。

「これから大きくなるから丁度だと思うが」

「それって……婚約指輪のつもり?」

「で、ルナはシンに貰ったのか?」

からかうつもりが痛いとこを的確にジュールは突いて来る。

「……まだよ。ミアちゃんが生きていたから気になるみたい」

「シスコンは健在なのか?」

「そうでもないわよ。両親を失ったから自分がって、気負っているだけみたい。

 私との事は真面目に考えているみたいだけど、ミアちゃんが成人するまでは難しいんじゃないかな。

 まあ、私も今すぐは考えていないの……もう少しだけ研究とかしたいから」

「二人が納得してるなら問題ないさ。でも、会話だけは失くすなよ」

「そうね、気をつけるわ」

「一応、友人なんで上手く行く事を願うよ」

「アンタはホント捻くれる言い方をするわね」

怒った言い方のルナだが表情は苦笑している。自分の事だけを考えれば良いものを……他人の心配をする捻くれ者に。

「多分さ、一年くらいは向こうに駐留する可能性があるんだ。

 シオンさん達が政権を手にするまでは睨み合いの状態を維持する筈なんだ」

「……長いんですね」

「交代で部隊の異動もあるから全員が駐留する訳じゃないよ。

 俺や兄さんはずっと待機かもしれないけど……これは仕方がないね」

軍に所属するマシンチャイルドは姉であるアクアか、ジュールのどちらかなのだ。

アクアが今現在は行政府の仕事が忙しく、落ち着くまではジュールの代わりはいない。

ルリが代行は出来るが民間人を戦場に送るのは反対されるから、アクアが交代出来るまではジュールは帰って来れない。

「……寂しいですね」

「帰ってきたら……ルリちゃんは今より綺麗になっているから、デートしようか?」

「はい?」

「この前は仕事で遊びに行けなかったろ。その埋め合わせなんてどうかな?」

「楽しみにしてもいいですか?」

「約束しよう……ついでに母さんの墓参りして、紹介しよう」

「……妹ですか?」

「ルリちゃん次第かな。

 こんな捻くれ者の兄貴よりいい奴が出来たら妹で、どうしても捻くれ者の兄貴が良いなら彼女にする?」

ジュールがからかうように話すと、ルリは頬を赤く染めて恥ずかしそうに小さく話す。

「で、出来れば……か、彼女で」

「遂に……カミングアウトしたわね」

「一年先だぞ。その頃にはルナより美人になっているかもな……シンがボーっと見とれないようにしとけよ」

「そんな事するようなら、ぶっ飛ばすわよ」

ルナがからかおうとするとジュールが不安要素をルナに提示して困らせている。

ルリは二人の会話も耳に入らずにジュールの彼女という言葉を何度もリフレインさせている。

(ジュールさんの彼女……彼女か〜、姉さん! これで本当の家族ですし、ジュールさんの家族になれますから嬉しいです)

不安な気持ちが薄れ、幸せ一杯のルリであった。











―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

次回は木連、熱血クーデターの最終局面からになると思います。
そして、いよいよ地球との決戦の幕が開きます(多分)

それでは次回でお会いしましょう。


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