リツコとミサトが険悪な空気を出し、嫌な空気が漂う中でリンは葛城ミサト一尉に問う。

「確認するわ。マグマの中での戦闘手段を提示してもらえないかしら?
 その手段を提示できない時点で私は赤木技術部長の作戦指示に従うわ」
「そうね、私も安全策を支持するわ」
「アスカ!?」

アスカが同意の声を出したのでミサトは焦ったように声を出す。
付き合いのあったアスカなら自分の意見に従うと思っていただけにショックを受けたようだ。

「だって、水中戦以上に苛酷な状況なのよ。高温で耐圧防御のD型装備じゃ満足に動けないのにどうやって戦えと?」

前回は命綱である冷却チューブが切れて押し潰れかけ、シンジが慌てて救い上げなければ間違いなく圧潰していたのだ。

「武器だってプログナイフ一本で一機だけなのよ。
 緊急時の支援も当てに出来ない状況で間違いなく高温、高圧に適応するであろう使徒と満足に動けないエヴァでねえ……」
「そ、それは……」
「アタシに死ねって言いたいなら、はっきり言いなさいよ」
「そんな訳ないでしょう!」
「だったら作戦を提示しなさい! アンタ、作戦考えないで何が作戦部長よ!」

アスカの怒鳴り声にマヤやマコトは身を竦める。
烈火の如く激しい目でミサトを糾弾するように睨んでいるのだ。

「安全策があるのに危ない方法を選択するなんてドシロウトみたいな事すんじゃないわよ!」
「捕獲の指示を出したんだから無理にエヴァを使う必要ないわよ。
 それに万が一の時はオバサンの手で始末できるように備えてあるから待機で良いでしょう」
「……分かったわ。二人は火口で待機よ」

万が一の時は冷却剤を孵化直後の使徒に使用できるように捕獲用の電磁ネット内に備え付けてある。
ニードル状の銛で突き刺して体内に冷却剤を刺し込んで熱膨張で破裂させる手順はリツコから聞いている。
自分の意見は通っていないが、使徒を自分の手で仕留める機会だからこの際は目を瞑ろうと考える。

「一つ聞いていい?」
「なによ?」
「何故、A−17を要請したの」
「何故って必要だったからよ」
「住民の避難ならいつもと同じ手順ですれば良いわ。
 何故、日本政府に喧嘩を売るような特務権限を要請したのか聞いているの」
「喧嘩を売るってどういう事よ?」

リンの質問の意図が全く分からない様子でミサトは逆に聞き返す。

「A−17は日本の資産凍結と強制運用もあるのを知らないの」
「そ、そうだったわね」
「自分達の資産を強奪されて黙っているほど……この国は聖人君子なのかしら?」

リンの言葉に仮設作戦室の空気が凍る。
日本の資産を強奪という不穏当な言い様だが、事実である事も確かなのだ。

「エヴァでないと勝てないというネルフの言い分は戦自が否定したわ。
 今まではネルフに任せるしかないっていう状況だったけど、もうその条件は覆された。
 委員会の承認で仕方なく従っているけど……何時まで我慢するかしらね」

クスクスと嘲笑うような笑みでミサトに話すリン。

「アスカはあのファントムに勝てる?」
「無理言うんじゃない……ATフィールドの攻撃転用なんて代物に対抗できるほど強くないわよ」
「私だって二対一じゃ勝てないし、量産されたファントムによる集団戦に何処まで抵抗できるか……楽しみね。
 向こうはやる気満々みたいだし、本当に踏み潰されるかも」

リンはそれだけ告げるとアスカと一緒にエヴァの元に向かう。
仮設作戦室は気まずい空気で一杯だった。


RETURN to ANGEL
EPISODE:14 決戦 新生使徒VSハウンド
著 EFF


「しっかし、ミサトは何考えてんだろ?」
「あれは反射で生きてる。使徒を自分の手で殺すっていう条件反射でね」
「違いないわね。それが勘違いだと教えないの?」
「教えたらまず間違いなく死ぬわ……司令室に怒鳴り込んでお終いね」
「……ありえるわね」

短絡なミサトの事だから、ありえる話にアスカは納得する。

「アスカだって、本当は殺したいでしょう……ゼーレを?」
「当然でしょ! あいつ等の所為でママが!」

リンからママであるキョウコの実験が罠に嵌められたものだと聞いてアスカの怒りは爆発しかけた。
キョウコの実験は意図的に仕組まれたものだった。
アスカにトラウマを与えて自分達の動かしやすい駒にするなんて赦せる事ではない。

「まさか、アダムがミサトを助けたなんてね」
「南極にいた全ての生命体をLCLに分解したけど、ただ一人……自分の精神に触れた人だけは救った」
「ホント、そこんところをすっかり忘れているミサトには呆れるわ」
「忘れる事で罪の意識から逃れているんでしょ」
「そりゃあ、自分の所為で二十億以上の人間を犠牲にすれば忘れたくもなるか」
「そうね」

南極でただ一人生き残ったミサトの奇跡は、実は使徒アダムがミサトを救ったというものだと聞いてビックリした。
エヴァよりの不完全なシンクロシステムでアダムの精神に触れて半覚醒状態にする手段には呆れるしかない。
当時、十四歳のミサトを被験者にする父親もどうかと思う。
娘に新しい時代の担い手にさせたいという気持ちも理解できないわけじゃない。
ただ、未成熟な意識の方がアダムに接触し易いというのは頷けるが、アダムが持つ虚無の精神に晒されたミサトが恐慌状態に陥って、アダムを完全に覚醒させた から慌てて制御する為にロンギヌスの槍を使用したのも悪い。
そういうふうにゼーレに仕向けられた点も問題だがミサトを落ち着かせるか、シンクロを解除するという手順もして欲しかった。
槍によるアダムの還元というセカンドインパクトを仕組んだゼーレはその混乱を利用して裏世界のトップに躍り出た。
自分達に敵対する者をインパクトとその混乱で物理的に排除したふざけた連中だ。どれだけの被害者が出るのか予測していた筈なのに実行する狂信者には不愉快 になる。
そして、その結末が集団自殺のようなサードインパクト……真実を知れば知るほど怒りを覚える。

「は〜〜、つくづく救いようのない連中ね」
「絶対の孤独を知らないから永遠の命なんて欲しがるのよ。
 自分独り、世界に取り残されて、それでも生きられると思うのかしら?」
「……シンジは耐えたんでしょう?」
「耐えたんじゃないの……それしかない立場に無理矢理されたの。
 その所為でお父さんは人に未練がなくなって、群体から単体で千年を生きたし、ママも完全なる孤独を知っている。
 修業の一環で虚数空間に一定時間いる練習したけど……怖くて泣いちゃった。
 真っ白で何もなくて……どんなに叫んでも、どんなに移動しても何もなくて辛くて」

身体を抱き締めるようにして話すリンにアスカは身を竦ませる。
完全なる孤独というものがどれほど辛いのか、経験したものから言われてみて初めて理解出来る。

「慣れるまでは……ううん、まだ完全に慣れていないか。
 お父さんもママも耐えたんじゃない……耐えて、慣れるしかなかったのよ」

他の手段などない……自分が生き残るためには耐えるしかない状況だった。
使徒の精神に触れた事で虚無に対する抵抗力もあったのかも知れないねとシンジはリンに話していた。

「……やってらんないわね」

空を見上げてアスカは嫌そうな顔をしている。
そこにはN2爆弾を搭載したUN軍の爆撃機が待機している。

「ホント、つまんない小細工ばかり上手なんだから」
「ったく、マグマダイブしないようにしてくれたリツコに感謝するわ」

無駄遣いなく予算を遣り繰りするリツコの手腕を高くするアスカであった。


仮設作戦室でミサトはリツコに聞く。

「ねえ、リツコ……なんでエヴァを使わないようにするの?」
「エヴァを動かすより観測機を改修したこれの方が予算が浮くからよ」
「予算、予算ね……世界の危機だっていうのに」

リツコを皮肉るようにミサトは話す。リツコの作戦に不満はないが、自分の指示に逆らうリンとアスカにちょっと苛立つ。

「何でアスカまで逆らうのよ」
「あのね、ミサト。あなたの作戦じゃあ万が一戦闘になった場合、どうやって戦うのよ。
 地上なら援護も出来るけど、D型装備は量産機用の装備で初号機も零号機も装備は出来ないの」
「え、そうなの……でも、何でアスカは知ってんの?」
「書類で提出してるから、アスカにも装備の事は一応読んでもらったわよ。
 あなたにも資料として報告してるのに……また読んでないわね」

冷ややかな視線でリツコはミサトを見てから、日向マコトに告げる。

「日向君、ミサトの仕事を手伝うなとは言わないけど……こうもつまらない失敗ばかりされると頭に来るのよ。
 技術部としては仕事もロクにしない人を何時までも作戦部長として置きたくないって思って欲しいのなら甘やかして」
「そ、それは…………気をつけます」

リツコの言い方に不穏な含みがあると知ったマコトは謝罪する。
ミサトも困ったような甘えるような声で慌てて話そうとする。

「リ、リツコ〜〜」
「言っておくけど……私は本気よ。
 今まではエヴァの優位性があるから少々の事は目を瞑っていたけど……エヴァが絶対に必要だと言い切れないのよ。
 もう少し危機感を持って行動してもらわないと不味いと気付きなさい」
「わ、悪かったわよ」
「もう口で言われても信じられないの……行動で示して見せなさい」

それ以上はリツコは言わないが、仮設作戦室は非常に気まずい空気が流れていた。


箱根山山頂のロープウェイでも同じような会話をしていた。
女性は対面の加持リョウジに冷ややかな視線で見つめ聞いていた。

「何故、A−17の発令を許したのかしら?」
「自分に発令を止める権限はありませんよ」
「そうかしら?」
「そうですよ」

どこか含むような言い方に加持は女性に顔を向けるが女性は窓から見える景色を見つめているだけだった。

「生きた使徒のサンプルならネルフには事欠かないと思うけど」
「どういう意味でしょうか?」
「知らないはずはないでしょう。エヴァが人造使徒というのは暗黙の了解だから」
「否定はしませんよ」

今更、否定しても意味がないがはっきりと言うわけにも行かないので濁しておく。

「ネルフは何を考えているの、捕獲よりも日本の資産を奪うのが目的なのかしら?」
「それはないでしょう」
「そうかしら……さすがの委員会も焦りが出ているのかしらね」

更に含ませるように話されて、加持は答え難そうにしている。

「あなたが以前送ったエヴァの資料だけど……ダミーが多かったわね。
 いったい、あなたは何処に所属しているのかしら……ネルフ、それとも内調」
「無論、内調ですよ」
「本当かしら……日重に手を出したいようだけど、どういうつもりなの?」
「それはネルフでの仕事の一環でして」
「ファントムのデーターなら渡すから来なくて良いわ」
「それは正真正銘の資料ですか?」

自身が以前送ったようにダミー混じりの資料かと考え……聞いてみる。

「あら、私が嘘の資料を渡すと言いたいのね……心外だわ」
「ネルフ内部で信用されるにはそれなりの結果が必要なんです」
「でも、こっちには偽物を渡したわね」
「それに関しては申し訳なく思っていますが、内部に食い込むにはやもう得ずでして」
「まあ、別ルートから入手できたから良いのよ」
「何処からですか?」

予想はつくが聞いてみる。出来ればスピリッツとの接触を計りたいと思うのだ。

「生憎だけど、それは出来ないわ。
 彼らはあなたを信用してないから、こちらとしても会わす気はない。
 そして、これは警告よ。
 本来の仕事以外の余計な事に首を突っ込むな……分を超えての仕事をするなら、我々は手を引くわ。
 あなたの仕事はネルフの内偵でしょう。それとも他にも所属先が在るのかしら?」
「それはないですが」
「一応、資料は後日送るわ。
 それと日重の周辺は嗅ぎ回らない事ね……あそこには危険な人達が牙を研ぎ澄まして、猟犬の相手をするそうよ」
「……意味が分かりませんが」

加持は分からない振りをして話すが内心では焦りを感じている。
猟犬――ハウンドの事は知っている。
彼らの戦闘力なら最悪は日重の壊滅もありえるから、真相に至る手がかりを失う事は痛いと思う。

「サイボーグ兵ね、相手になると良いんだけど……」

加持の思いなど気にせずに話す女性に逆にそこまでの力がスピリッツにあるのかと聞きたくなるが押さえる。
自分のもう一つの所属先は知られる訳には行かないのだ。

「ホント、大変よね……八方美人は」
「何の事やら」
「別にあなたの事を言ってる訳じゃないけど」
「そうですか」
「ええ、代わりと言っては何だけど仕事を一つ頼むわ」
「なんなりと」

加持は断れない状況だと感じていたので安易に引き受けるが、聞いた内容に少々焦る。

「そ、それは不味いのでは」
「アリバイを作っておけばいいでしょう。それとも、やはりネルフが所属先なのかしら」
「……分かりました」

加持がしぶしぶ了承すると同時に女性の携帯が鳴る。女性は携帯から聞いた内容を加持に告げる。

「捕獲に失敗して、殲滅ですって」
「そりゃまた」
「A−17を使って失敗……責任は誰が取るのかしら。
 まあ、ネルフの事だから責任も取らずにのうのうと開き直るんでしょうね」
「さあ、自分に言われても」
「国連での影響力の減少気味の委員会も大変ね……権威が失墜しないといいけど」

女性の言葉に沈黙でいる加持であった。


「こんなにあっさり倒せるなんて」
「孵化前だからね」

覚醒しかけた使徒にミサトはリツコに指示通りにスイッチを押して、冷却剤を内部に打ち込むと第八使徒はあっさりと熱膨張で崩れ始めて火口で消滅した。
拍子抜けという気持ちでミサトは観測機器からの映像を見つめていた。

「撤収するわよ、ミサト」
「え、ええ」

リツコの声に戸惑い気味に話すミサト。リツコはそんなミサトには目もくれずに観測所の責任者に告げる。

「予定通り、こちらで用意した観測機器はお譲りします。
 壊してしまった観測機と同等か、それ以上だと思うのでご自由にお使い下さい」
「ご苦労さまでした。こちらとしても来期の観測の目処が立ちましたので感謝します」

ネルフの用意してくれた観測機器は最新の観測機器を搭載し、耐圧を強化した物だったので今まで以上の観測計画の立案も可能なので本当にありがたかった。
だから、リツコに関しては感謝の気持ちを込めて頭を下げて、スタッフ一同で見送っていた。

第八使徒サンダルフォンは本来の力を見せる事なく殲滅完了した。
だが、ネルフの捕獲失敗に日本政府が猛抗議した事は言うまでもなく、ネルフと日本政府の溝は更に深まった。
そして日本政府は国連内でネルフ不要論を言い出し、国連内部でも様々な波紋を広げた事は当然の帰結かもしれなかった。



ハウンドのリーダーのオスカー・ザイドリッツは不審感が拭えなかった。
どうも上手く事が進みすぎていると思えて仕方がなかった……こうも上手く行くのだろうかと自身の勘が告げている。

「どう思う、ヨハン?」
「疑わしいが、確たる証拠が無いから困る」

副官を務めるヨハン・ライカーも同じような意見を話す。
これから拠点を強襲する手筈で装備の確認をしているが、何処か途惑うような感じがあった。

「最初の拠点の妨害はこちらとしても織り込み済みだが……今まで尻尾を掴ませなかった連中がこうもヘマをするかな」
「俺もその点は気に掛かるが……」
「どうした?」
「あいつら……変じゃないか? まるでロボットみたいに感じる事があるんだよ」

オスカーの視線の先にいる先行した連中に目を向ける。
ヨハンもオスカーに言われてみて、初めて違和感を感じ始める。
言葉少なめで緊張しているのかと感じたが……、

「生気というか、生きている気がしないと思うのはおかしいと思うか?」
「いや、確かに隊長の指摘は正しい」

ヨハンも同じ結論に達すると一人を自分達の前に来させた。
部下達に警戒を促すように合図を送るとオスカーは問う。

「これから襲撃する所は間違いなくスピリッツの活動拠点なんだな?」
「ええ、間違いありません。最初の拠点が攻撃された後に部下達に追跡させましたから」

一言一句澱みなく告げる。拠点は第二東京市の郊外にある森の中に隠された施設と報告している。
実際にその場所には拠点らしき物もある。その為に森の外れに部隊を集結させて強襲の準備をしているのだ。

「今日は新月で周囲の封鎖も万事上手く行きましたが問題でも」
「良く滞りなく済ませたな」

オスカーの指摘にヨハンも不審そうに見つめている。
日本も他の国のように組織の影響力が低下しているのに問題が起きていないと報告されると周囲の部下も警戒する。

「無論、それなりの苦労もしてます。
 さすがにいくらかの出費は痛いですが、ここで仕留めるのと逃がすのでは大変ですから」
「なるほどな」

尤もな言い方だからオスカーも納得したかのように聞いている。

「ええ、面倒事はさっさと終わらせないとね」

突然、目の前の男の声が全くの別の女性に声に変わったので二人も部下もギョッとしていた。

「褒めてあげたいけど……気付くのが遅いんじゃない」
「全くですわ。それなりのヒントを与えていたんですが気付いていませんね」
「鈍いよね〜〜それでもプロなのかな」
「……プロ失格」
「ダメダメだね。歯応えなさそう」
「もう少し踊らして喜劇を見たかったんですが」
「私のヒット率1.3倍で決まりだからね」

それぞれの別の違う声に変わるので全員が戦闘態勢に移行しようとする。

「何者だ?」
「もう知っているでしょう」

最初に聞いた女の声に変わるが、とても楽しそうに話しかける。

「初めまして、そしてさようならと言っておくわ。
 今宵、ハウンドは地上から消滅する……私達の手で跡形もなく滅ぼす事を誓うわね」
「ふん、どうやったかは知らんが、このようなまやかしで勝てると思うのか」

隣のヨハンが拳銃を発砲して男を始末したと思ったが、

「残念ね、この男は既に死んでいるの。動きを止めたかったら肉片に変える事をお奨めするわ」

倒れ伏した男があっさりと立ち上がって話し出す光景に全員が驚愕の顔で見つめていた。

「彼らが一度も食事やトイレに行かない事に気付かないなんて……鈍いわね」

オスカーはその声にようやく疑問点に気付いた……食事や排泄行為を彼らはしていなかったのだ。

「どうやったかは知らんが全員をゾンビに変えたな」
「大正解よ。じゃあご褒美に彼らを始末して見せなさい。
 この程度の連中に手こずるようなら、スピリッツの相手になれないわよ。
 私達は前座が終わったら……遊んであげるわ」

その言葉と同時にスタッフが襲い掛かるが、部下達も予測済みだったのか慌てずに行動する。
だが、予測していたとはいえ、ゾンビ化した連中は驚異的な筋力を持ち、獣の如きの俊敏さで肉弾戦を行う。

「重火器で応戦しろ!」

オスカーは戦闘用に体躯を切り替える。
二メートルの巨漢の身体が更に膨れ上がり襲い掛かる男の身体を力任せに引き千切る。腕を引き千切られても男は痛みなど感じずに再度襲い掛かる。オスカーは 頭を握りつぶすが……まだ動き続ける。

「くっ! いい加減にしろ!」

力任せに地面に叩きつけて胴体を踏み潰すとようやく動きを止めると男は赤い水(LCL)に変わってただの水溜りになる。
周囲の部下達も銃弾を浴びせて動きを止めたところで手持ちの装備で切り刻み……肉片へと変えていたが、同じように赤い水に変化して途惑っている。

「な、何なんだ!?」

水溜りが脈動すると他の水溜りと混ざり合い――狼男――獣人が生まれる。
数は減ったが今まで以上の俊敏さと力を持って再び襲い掛かってくる。再び銃弾を浴びせるが僅かに動きが鈍った程度で肉迫してきて苦戦する。

「グルルルゥゥゥ……ガアァァァ!」
「こいつ、俺の力に匹敵するだと!」

自分は身体機能強化の中では最大の馬力を備えているのに目の前の狼男はそう大差ない力を持って組み合っていた。

「ふざけるなよ! 我らハウンドを舐めるな!」

強引に押し返して内蔵の武器を起動させる。
スタンナックル――スタンガンと違い殺傷用の高圧電流を流し込む近接装備で狼男の動きを止めて頭蓋を全力で踏み潰す。
そして焼夷弾を使って完全に焼き尽くす。
部下達もオスカーのやり方を真似て狼男の足を止め、焼き尽くしていた。

「損害は!?」
「三名が死亡。他の者は予備パーツと交換すればすぐにでも動けます」

ヨハンの報告にオスカーはすぐさま指示を出す。

「全員フル装備で戦闘準備をしろ! 本隊が来るぞ!!」

オスカーの言葉に全員がきびきびと準備を行うが、その表情は厳しいものだった。まだ前座でこれほどの力を見せつけたスピリッツに今まで以上の戦闘の厳しさ を感じているのだ。

「すまんが、D型装備に変えてくれ」
「分かりました。すぐに準備します」

オスカーが生き残った整備スタッフに告げるとスタッフも反論せずに作業と行う。両腕を交換して右手は大型のガトリングガンにして背中に予備カートリッジを 装着する。左手も対戦車ライフルを組み込んだ腕に変更する。

「そろそろ良いかしら?」

何処からか、女の声が聞こえる。

「その余裕を崩してやるよ」
「たかが人形風情が勝てると思ってんの……少しは楽しませてよ」

それ以上は話す必要はなかった。後は力尽くで黙らせるのみだとオスカーは思っている。

「選ばれし者に逆らう悪魔を排除する!」
「神の名を騙る狂信者に死を!」

戦いのゴングが鳴り響いた。


ハウンドはその機能によって部隊毎に違いがある。
アイズと呼ばれる者達は視覚、聴覚の機能を強化された索敵を中心とした部隊である。
主に強化された視覚で狙撃、夜間戦闘と諜報が任務になっている。
今日は新月で月の光はなく、暗い夜間の森の中では明らかに自分達に有利だと判断していたが、

「04、05! クッ、何処からだっ!?」

自分達よりも優れた目を持つ狙撃者によって確実に狩られ始めていた。
ノクトビジョンの目を焼きつかせるようなレーザー兵器らしき物で狙撃し、自分達の身体を熔かしていく存在がいる。
森の中をほんの一瞬輝かせると同志が熔かされていく……しかも相手も自分達も高速で移動しているのに、一度も外していない存在に恐怖する。レーザー兵器の 実用化など到底信じられないし、携行出来るような大きさまでまとめられる物なのかと考える。既に半数が熔かされて、相手のほうは損害無しの状況で接近され ている。

「余裕のつもりだろうが接近した時が最後だと思い知らせてやる」
「それは無理」

自分達の背後にまで既に接近されていたと知り、慌てて振り向くと……プラチナブロンドの髪の女が静かに立っていた。

「バ、バカな……どうやって近づいた?」
「死に逝く者に話す必要なし」

人差し指を弾くように向けると光が放たれ、隣にいた部下達が次々と溶かされていく光景に声を失う。

「遠雷の狙撃手……では、さようなら」

無表情に死の宣告を受けた男は一瞬で熔かされた。
遠雷の狙撃手――ラミエルは次の獲物を求めて動き出す。
後に残されたのは……熔けた金属部品だけだった。


スプリント――陸戦型の高機動タイプのサイボーグ兵で構成された部隊は双子の女を相手に苦戦していた。
全く同じ顔で完璧なる連動攻撃というものを見せつける。片方が高速で接近する自分達の足を一瞬だけ止めるとその隙を見逃す事なく鉄扇で首を刎ね落としてい く。背中合わせでも互いの動きを見事に連動させて、言葉すら発せずに以心伝心という言葉を忠実に再現している。

「「つまらないわね。もう少しリズム良く動きなさい。動きが早いだけで単調よ」」

やっと口を開いたかと思えば一糸も乱れぬ声で告げる。
銃器は全然通用しない。目に見えない壁のようなもので弾かれているから高周波ブレードによる近接戦を選択したが、高速で動く自分達を見切るかのように動く 二人に脅威を感じる。
自分達の方が圧倒的に早く動けるのに避けられては反撃を受けている。

「「早いけど、急制動は掛けられずに一撃必殺みたいにすり抜ける瞬間に攻撃するしか能がない」」

痛い所を突いてくる。自分達でもその欠点は自覚していたが今までは避ける事など出来ない連中であり、反撃など許さなかった……この高速の一撃を受け止める 事は同じ仲間しかいなかったのだ。

「「そろそろ、遊びは終わりにするわね」」

そう告げる双子らしい女達は重なり合って一人の人物になると霞むように見失ってしまった。

「ど、何処だ!?」
「後ろよ」
「バ、バカな!?」

自分達以上に高速で動く生身の人間などありえない。
慌てて振り向いた瞬間……自分の胴体が離れた場所に立っていると気付いた。

(何で……身体が…………あんなところに……ある……んだ………)

「さて、次へ行きますか」

暗くなる視界から聞こえた戦場にはありえない暢気な声が最期に聞いた音だった。


木に胴体を絡ませて這いずるように登って行く俺の姿をその女は見ていた。

「ふ〜ん、関節が蛇腹でおかしな動きをするんだ」

緊張感の欠片もなく、大道芸を見たような話し方をされて不愉快だった。
確かに俺達の部隊の身体の関節はサイボーグとしても規格外の関節をしているが、訓練によって自由に頭一つの隙間に潜り込む事が出来る諜報や暗殺に適した身 体なのだ。
たかが大道芸のようなお遊びのように言われるなど許し難い事なのだ。

「まあ、ドブネズミらしいと言えばらしいな。煙突や通風孔の掃除には便利そうだね」
「ふざけるなよ……必ず殺してやるよ」
「あ〜〜それは無理。たかが大道芸のピエロが僕に勝てるなんて無理無理」

片手を軽く振って呆れた顔で告げる女に苛立つが、地面を這うようにして仲間達が接近するが、

「ざ〜んねん。もう少し頑張らないとダメだよ」

周囲に張り巡らされた赤いワイヤーの結界に仲間達は絡みつかれて切り刻まれていた。

「そこっ!」
「グハッ……こ、これは!?」」

一本の赤いワイヤーが肩に突き刺さり、慌てて高周波ブレードで切り落とそうとしたが、逆にブレードの方が切断された。

「そんなちゃちなナイフで僕の糸を切ろうなんて……笑わせてくれるよね」

女が手を動かすと肩から先が切り落とされると同時に自分が登っていた木が切断されて倒れる。
地響きを立てて倒れる瞬間に紛れて離脱しようとしたが、

「動いたら……死ぬよって、もう遅いか」

身体中に見えた赤い糸が自身の身体を切断する光景が自分が最期に見た自身の姿だった。

「さってと次行こうか♪ ヤッバ〜〜数、減ってる〜僕のデートが〜〜」

シエルは周囲の敵の数が減っているのを感知して慌てて走り出していた。


森の中に赤い炎の線が走り、森を炎に染めて焼いていく。

「危ないわね〜森林破壊は重罪なんだけど」

火炎放射器の直撃を浴びて焼き尽くされる筈なのに服さえも焦がさずに近付いてくるアッシュブロンドの女に驚愕する。

「何故、死なない!?」
「こんな、ぬるい炎で火傷なんてする訳がないでしょう。
 せめて……これくらいの熱を出さないと服も焦げないけど」

軽く肩を触れるように添えられると肩の装甲が飴の様に熔け出し、身体中に熱量が押し寄せて肉片も残らずに蒸発する。金属を瞬時に溶かすような熱量など、ど うやって掌から出すのか……理解できない。
力任せに殴りつけようとした部下は腕から蒸発して死んでいく。女に抱きつかれた者は足首を残して蒸発した。

「こんな美人に抱きつかれて死ねるんだから本望でしょう」

確かに美人である事は認めても良いが死の抱擁など御免被る。
火炎放射器ではなく、携行している対戦車ライフルで攻撃するが熱量の前に弾丸が当たる前に気化している。周囲の物は焼かずに対象物を限定して焼くという手 段など考えられないのに……目の前に存在している。

「貴様、発火能力も持ち主か?」

超能力で対象物を燃焼させる手段かと問う。正直、こんな規格外の能力者が実在していたとは思わなかった。
自分達の陣営でも一時期は研究していたが、あまりに不安定で力も僅かなものでしかなかったから実用化は不可能と上層部は判断して、施設は閉鎖された経緯を 知るだけに実用化した連中の怖ろしさを感じる。

「ん〜〜と、こんなのも出来るけど」

女は木の枝を掴むと瞬時に凍らして振っただけで砕けるほどの脆さに変えた。

「アブソリュートゼロ(絶対零度)まで下げると分子の繋がりもダメになって砕けるんだよね」

あっけらかんとした顔で告げるが……やっている事は非常識極まる行為だった。

「さて、どっちにする……熔けるような抱擁と、砕けるような抱擁と?」

ニッコリと死の宣告をする女に恥も外聞も気にせずに背を向けるが、自分の胸に女の細い腕が刺さっているのが見えた。
一気に近付き、背後から貫き手を穿たれていると気付いた瞬間が自分の最期だった。

「何処に逃げても一緒だよ……ただの人間がこの森から出る事は無理だからね」

周囲にいる兵士に女――ルフォン――は楽しそうに微笑んで告げる。
……それは、魔女の死の宣告のように兵士達は思えて仕方がなかった。


自分達の攻撃が回避されるとは思わなかった。自分達はサイボーグの中でもかなり特殊な存在なのに冷静に見切られている。
強化樹脂の皮膜状の羽を高速で震わせて大空を駆け抜ける空中高機動サイボーグの自分達の攻撃手段が通用しない。音速に近い動きでソニックブームを相手に叩 きつけるか、すれ違いざまに高周波ランスで貫く方法は仲間内でも容易に破れるものではない。
だが、相手の女はソニックブームが来る前に安全距離まで移動するか、遮蔽物の陰に隠れて無傷のままで移動して行く。

「もう、それも終わりだ。もう後がないぞ」

切り立った崖に追い詰めたと思い最後通告をする。捕獲してスピリッツの全容を吐いてもらわねばならない。
勝利を確信する自分達に女は慌てる事なく告げる。

「そうね、この辺りなら派手に動いても大丈夫か」

女もまた自分達と同じように三対六枚の光の翅を背に浮かび上がらせると両手に巨大な赤いランスを出現させる。

「貴様も高機動タイプのサイボーグか!?」
「外れね、私は本来は水中戦が得意なの。まあ、空を泳ぐというのもオツなんだけど」

その声と同時に一気に加速して自分の背後に控える部下の身体をランスで貫く。自分達よりも一気に音速に移る加速力に驚愕すると同時に急制動も可能な身体に 更に険しい顔になる。

「ウ、グハッ……」
「つまらないわね……この程度のスピードに対抗も出来ないなんて」

貫いた部下の身体を地面に投げ捨てる。自分達より遥かな高みから見下ろすように見つめている女。

「貴様、何なんだ!?」

見下される視線に思わず叫んでしまう。自分達が大空の覇者だと思っていたので苛立ちを込めて叫ぶ。

「天翔ける……御使いよ。神を騙る連中に死を」

その宣言と同時に女はランスを離れた場所にいる部下に投擲して突き殺し、再びランスを出して突撃する。
逃げようにも投擲されるランスは外れる事なく……突き刺さる。
そして、自分達より早く動いてソニックブームとその翅で自分達の身体を切り裂く。
追い詰めたのではない……自分達が狩場に誘い込まれたと知ったのは自分の身体が砕け散った後だった。


姿の見えない敵であっても選ばれし自分達の前には如何なる存在も敵ではないとヨハンは確信していた。
だが、現実は自分達の想像を超える敵を生み出してきた。
目の前の女はこちらの攻撃をいなしては、掌から光のパイルと撃ち出して部下の身体を貫いては……爆散させる。
先ほどからありえないほどの銃弾を撃ち込んでいるが服さえ傷が……付いていない。

「では参ります」

気の抜ける声で一気に近付いては確実に部下を死なせる。高機動タイプの加速攻撃に自分から激突して、部下の身体が破壊されるという化け物ぶりに……これは 現実なのかと言いたくなる。

「ゼーレに栄光あれ!」

大量のプラスチック爆弾を抱え込んで自爆するという勇敢な手段を用いた部下だが、

「困ったものです。周囲の景観を壊すような真似はしてはいけませんよ」

爆風が収まった後から暢気な女の声が響くと絶望的な状況だと知ってしまう。
クレーター状の爆心地から現れた女はどこにも……ダメージはなく、自分達に向けられた掌から光のパイルがショットガンのように無数の針に変わり自分達に降 り注ぎ、身体を穴だらけに穿っていく。

「申し訳ありませんが、そろそろ次の部隊の掃討に移りたいので死んで下さいませ」
「はい、そうですかと言うと思っているのか」
「いえ、決定事項ですから、あなた方の意見など聞きませんが」

死刑宣告とはっきり言われても納得する気はない。何としても生き残って報告しなければならないと思う。
ゼーレの総力を持って当たらねばならない脅威がこの国に現れたと……。

「一つ言っておきますが」

女はそう前置きして自分達に告げる。

「この周囲は完全に結界で封じました。
 したがって……生きて出る為には私達全員に勝って、更に上位のあの方を倒す事が条件になります」
「ハッタリだな」
「嘘は言いませんよ。尤もあの方の手を煩わさせるような真似はしませんので大人しく死んで下さい」

女は気負う事もなく、ゆっくりと自然体で自分達に向かって歩いてくる。
一方的な殺戮という舞台が再び始まる……ヨハンは絶望的な状況で生き抜こうと足掻くが……それさえも通用しなかった。


高速で進んでくる赤い壁に部下の半数が……押し潰された。
軽やかに木々を飛び跳ねては、上から部下の身体をその手に持つ真紅のハルバートで両断する。
女が持つには重過ぎる程の大きさのハルバートだが女は軽々と振り回して戦う。
振り回されたハルバートから赤い三日月みたいな刃が衝撃波となって部下を切り刻み……斬殺する。
部下達は全て、この女に斬殺され、俺も片足を破壊され両腕も砕かれた。

「全然、歯応えがないわね。ゼーレ最強だというのは見掛け倒しなのかしら?」

こっちは必死で応戦していたが、それすらも生温いと告げている。
ゼロ距離射撃で撃ち込んだ対戦車ライフルすら効かない女。
これほど危機的な状況は身体を失った時以来だ。
あの日はゼーレに敵対する組織の中でも最大の武装勢力の掃討戦だった。あれ以来、苦戦する事はなかったが、慢心するような真似もせずに戦い続けていた。

「まさか、こんな日が来るとはな」
「くだらない火事場泥棒のくせに、神を騙るなんてどこまで傲慢なのかしらね。
 セカンドインパクトを自分達で起こして、混乱する世界を支配する……薄汚い連中ね」
「秩序は守らねばならない。世界は選ばれし者の手になければならない」
「話にならないわね。二十億以上の人間を死なせる事が正義だと?」
「下等な人種に生きる資格はない」
「救いようのない連中ね……人種差別なんて理由で人類を死滅させるなんて」

振り上げられたハルバートが死神の鎌に見えたという事が最期に感じたものだった。


「ホント、くだらない連中ね」

私は吐き捨てるように呟いて背を向けると其処にはシンジが立っていた。

「ご苦労さま」
「ありがとう」

穏やかな笑みで話すシンジにささくれだった感情が幾分か治まる。

「救いようのない連中だったわ」
「狂信者って奴はそんなものだよ」
「そうね、そんな連中に騙されていた自分が嫌になるわ」
「そうだね」
「私……貴方に酷い事言ったわね。貴方のせいじゃないのに……」

赤い海でシンジに暴言を叫びながら戦った日々の事を思い出すと苦い感情が出てしまう。
感情的になってシンジに憤りをぶつけていた……シンジだけの責任じゃないのに。

「気にしてないよ。
 君は僕の大切な妻で、守るべき家族なんだ……今更、昔の事を言ってもね」

シンジは優しい……あれほどの目に遭っても赦す強さを持ち、欲望に流されない。
その気になれば、この世界を支配する事だって出来るのに平穏な生活だけを求めている。ただ世界の片隅でひっそりと静かに家族と生きる事だけを望んでいる。

「……愛してるわ。世界の全てが敵回っても、私はずっと側で共に在るから」
「僕も愛してるよ」

あの日、リンを身篭ったと話した時のシンジの喜んだ顔は絶対に私は忘れない。
家族を欲していたシンジの願いを叶える事が出来たのは本当に嬉しかった。
滅びかけた世界で産声を上げた小さな命を愛しそうに抱きしめるシンジは張り詰めた重荷が無くなった様に安堵していた。
ずっと苦しんでいた心が救われたのかもしれないと思うと私も嬉しかった。

「みんなが待っているから行きましょうか」
「そうだね。拗ねられる大変だ」

苦笑するシンジの腕に自分の腕を絡めて一緒に歩く。
みんなも私とシンジにとって大事な家族だ。彼女達は穏やかで優しく、人類のような悪意を持っていない。
巨大な力を有しているが、戦わずに済めばそれで良いと思う優しさを持ち、家族や仲間を大切に思っている。
あの女――碇ユイのせいでみんなに苦労を掛けていると思うと私もシンジも申し訳なく思う。
廃棄したと言っても人類補完計画の雛形を生み出して、世界を壊しただけで飽き足らずに自分の望んだ世界ではないなどと言って、再びインパクトを実行するな ど許せる事ではない。
東方の三賢者だか、何だか知らないが再建した世界を壊すという暴挙は認められない。
だが、その碇ユイはもう存在しない……シンジと私とでその魂を完全に消滅させた。インパクトを起こす前に私が魂に与えたダメージを初号機の中で回復させて いたところを私とシンジでトドメを刺した。
シンジは自分でやると話したがシンジだけに手を汚させる訳には行かない……これは私達、夫婦で決着をつける問題だから。
私には両親は居ない……セカンドインパクト後の混乱で孤児となり、ゼーレの施設に拾われて、量産機用の予備のチルドレンとして極秘の訓練を受けていた。
尤もそこで働いていた人達はただの職員で上の思惑など知らなかったし、私が四号機の適性が高かった事を喜んでくれた。
自分達の施設の出身者が世界を救うチルドレンとして活躍するという名誉な事と祝って送り出してくれたから、苦しい訓練にも頑張って来れたのであって、世界 を破滅に導く為に頑張ってきたのではない。
「誇りとは目を逸らさずに今の自分を見つめ、自分の出来る事を全力で行った結果を真摯に受け止めて生きて行く事だ」と孤児院の先生は教えてくれた。
力が足りなくて俯く事もあるが、それから目を逸らさずに顔を上げて一歩ずつでも良いから歩いて行く事だと私は考える。
「目を逸らして逃げる事も間違いではない。それも選択肢の一つだが逃げないと決めた以上は目を逸らさずにどんな結果でも受け入れる覚悟が必要だ」と先生は 教えてくれた。
「そうやって努力した結果は自分の心の強さとなり、苦しい時の自分を支えてくれる」とも話してくれた。
「成功する者は努力を怠らずに、決して投げ出さない者」との言葉を送り出す時に言ってくれた。
「私達の祖国アメリカはセカンドインパクトの影響で暗い影を落としているから、皆に希望を与えるように頑張りなさい」と先生達は笑って送り出してくれたの だ。
だからこそ、あの虚数空間の中でも諦めずに生き抜く決意を持って四号機との同化も受け入れた。
人じゃなくなる怖さも、みんなの笑顔を取り戻す為なら耐えられると思っていた。
四号機の中の未分化で覚醒していない使徒らしき存在は私の生きたいという願いを叶えてくれた……自分が生き残るという選択もあったのに譲るという形で私に 生命の実をくれた。
私が還って来た所為で彼らの魂は私と同化してしまった事は悲しかった……出来れば友人として出会いたかったのだ。
優しき名も無き使徒の魂に報いる為にもゼーレは潰す。
自身の醜悪な願いの為に心優しい使徒さえも道具に扱う連中は生かしておく気は無い。
もうすぐ、孤児院に居る私の分身体は第二支部に行くだろう……半身と出会うために。

今度は間に合う……そして、世界を救ってみせる。
その後はみんなと一緒に静かに暮らしていこうと思う。
愛する夫であるシンジと友人達と家族と一緒に……。











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どうもEFFです。

四号機チルドレンであった彼女の気持ちを最後に書いてみました。
もしかしたらダミープラグで起動実験したかもしれませんが、このSSでは彼女にしています。
自分を信じてくれた人のために戦う決意を持っていた少女が成長した感じです。

それでは次回もサービス、サービス♪


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