2008年元旦あけおめことよろ作品
劇場版ナデシコアフター 短編

渡る世間はルリばかり



火星の後継者事件後、体のすべての感覚が戻ったアキトはラピスとのリンクを切り、一人、ユーチャリスで旅を続けていた。
ユーチャリスはワンマンオペレーションシップだから人員は一人でも問題なく、金ならジャンプとハッキングでどうにでもなる。
何よりこんな血塗られた自分がルリたちの傍にいてはいけないと思ったからだ。
逃げ回るだけなら官憲ごときに後れを取るほど自分は衰えていないと判断したせいでもある。

しかし、今現在アキトは追われていた。
誰あろう、連合宇宙軍少佐ホシノルリその人にである。


アキトは甘く見ていた。

ルリの家族を求める心を、愛情を、執念を、そして嫉妬深さを。

目の前からいなくなれば自分を探すことは無いだろうと。

だが、アキトは気づいていなかった。

ルリはもはや世界のすべてを敵に回してもアキトを手に入れるつもりであることに。

ナデシコで初めて手に入れた家族。

ナデシコを降りて初めて自覚した異性への愛情。

連合宇宙軍に入ってまで『死んだ』家族の面影を求める決意。

そして、愛する人が己の傍にだけいて欲しいと思う妄執にも似た執念。


結果として、現在アキトは…………

『幼女(ラピス)拉致・監禁・暴行(性行為も含む)・調教・洗脳による指名手配犯』として火星・木星圏を含む全世界に指名手配されていたのだった。
「何でだぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

おかげでコンビニどころか表を歩くことすら出来ない。
いや、テロリストであった頃も決して大手を振って歩けたわけではなかったが、いくらなんでもこれはあんまりだ。
まず第一に情けなさが違う。
『テロリスト』というのは、程度の差はあれど一種の犯罪者としての称号である。
しかし『幼女拉致・監禁・暴行・調教・洗脳による指名手配犯』ではただの変態ではないか!

……ちなみに一部の犯罪的な趣味を持つ連中からは『勇者』扱いされている事をアキトは知らない……。

ともあれ、テロリストならば恐れられ、震え上がらせることも出来る。
しかし変態では後ろ指を差されるは、目の前から来た子供連れの主婦が子供を抱えて大急ぎで隠そうとするはで、うかつに道を聞くことも出来ないのだ。


しかも…………

「アキトさん!見つけましたよ!いい加減観念してください!」
どこへ隠れてもその二時間後には追いつかれてしまう。
まるで世界中すべての場所がルリだらけになったようだった。
一度など地球からボソンジャンプで月へ行き、ユーチャリスを使って火星を経由して木星まで逃げたにも関わらず、一時間半後に追いつかれた。
おかげでアキトはここ二週間ばかりほとんど寝ていない。
何とか振り切って逃げても、通信回線をハックしたルリの強制割り込みで、アキトの潜伏先付近のモニターやコミュニケに指名手配情報が流れるのだ。
当然警察やMPにもその情報は流れる。
それも最優先指示付きである。

万が一、法廷など出ようものなら確実に有罪である。
なにせあのラピスである。
証言に出てきたらきっと……

「ワタシハアキトノ目、ワタシハアキトノ耳、ワタシハアキトノ手、ワタシハアキトノ足、ワタシハアキトノ口、ワタシハアキトノ鼻、ワタシノスベテハアキト ノモノ……」

とか言いかねない。
確実に有罪だ。
人格矯正プログラムを受けて服役、いやむしろ死刑だろう。
それも可愛いのも好きの女性とか、着せ替え好きの女性とか、一部危険な趣味の男性とかに死ぬまで袋叩きにされるような形で。


そんな恐ろしい結末を想像しながらアキトは必死にもがいていた。
なぜならば……

「離してくれ、ルリちゃん!俺はみんなのところに戻るべきじゃない!」
「イヤです!離したらまたどこかへ行っちゃうじゃないですか!アンカー五番から八番も発射!」

すでにユーチャリスがナデシコCに文字通り捕まえられていたからだ(笑)。

ラピスのいなくなったユーチャリスで宇宙を逃げ回っていたアキトだが、一瞬の隙を突かれ、ジャンプフィールド発生装置を破壊された。
同時に射ち込まれたアンカーからハッキングを受け、ブラックサレナも使用不能となり、C.Cはアカツキたちが抑えられたため補充が出来ず在庫は無し。
何とかエンジン出力を上げて逃げようにもハッキングされているため対応しきれない。
挙句、ナデシコCの可動型ディストーションブレードに挟み込まれて合計八本ものアンカーを射ち込まれた。
まるでモビルアーマーのような戦い方である。

これでは逃げ道は無い。


一人でユーチャリスに乗り込んでくるルリ。
打ち込まれた揚陸チューブから乗り込み、隔壁を開けながら一歩、また一歩進んでくる。
ちなみに隔壁を開ける方法は自走カートに載せた指向性爆弾だったりする。
……電子の妖精だったらプログラムで対応しようよ……。

そしてブリッジの隔壁が吹き飛び……。
ブリッジでルリと対峙するアキト。

「ルリちゃん……」
「アキトさん……」
動かないアキトと歩いて近づくルリ。
ルリの歩く速度が上がる、いや走り出す。
両手を顔の前に持ってきて……、涙でも拭こうというのか?
ここで上半身が8の字に…、いや∞の軌道を持って振られ出す!
「ルリちゃん!?」
「アキトさんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その瞬間ルリの小柄な体から打ち出されたものは−−−!
「どりるみるきぃぃぃぃぃ…ぱぁぁぁぁぁぁぁぁんちぃぃっ!」
「ぐほぉっ!」
<作品が違うっ!><っていうか『どりるみるきぃぱんち』って何!?><デンプシーと違うの!?>
オモイカネダッシュの突っ込みは誰にも届いていなかった……。


ブリッジの中をゴムボールのように跳ね回ったあと身動きが取れなくなったアキトは……、
「馬鹿!馬鹿!アキトさんは大馬鹿です!」
泣きながら怒るルリに抱きしめられていた。
(ルリちゃん……、やっぱりまだ胸は成長していないんだね……)
遠のく意識の中でそんな場違いなことを考えていたアキトだった……。



それから三日後……、
アキトの指名手配は『誤報』と言うことで決着がつき、それから黒い王子様の話は徐々に聞かれなくなっていった……。



その後のルリはというと……、
連合宇宙軍を退役。
結婚したという噂が流れた後の行方を知るものはいなかった。



ホシノルリが退役した頃合と同じころにチガサキシティのとある住宅街にラーメン屋が出来た。
上手いと評判のその店は、二十代半ばの店主とその妻でまだ少女の面影を残した美人が切り盛りしていた。
二人の仲はとてもよいようだったが、おそらくは妻の妹であろう金色の瞳の少女が店主に擦り寄っている姿を見ると、とても怖い笑顔になったそうである。
そしてそういった日の翌日は、店主は痩せこけ、妻は艶々していたという。
開店して半年もすると、妻のお腹は大きくなり始めていた。
常連客の間では男か女かで賭けが始まっていると言う……。

またこのころ、妻の妹と見られる少女がよく吐いているのを常連客は見ていた。

……どうやら店主が警察に厄介になる日は近そうである。



あとがき


ども、喜竹夏道です。
元旦記念作品と言う事で作ってみました。
文字通り熱に犯されて(風邪で39度)タイトルを思いついた瞬間から勢いで書いてみましたが、なんとなくどこかで見たことあるような作品に仕上がってしま いました。
でも指名手配理由が『テロリスト』じゃなく『児童福祉法違反』や『幼女姦淫』だったら黒い王子様も形無しです(笑)。
なんにしても逃げる先すべてにルリちゃんが現れたら世間はルリちゃんばっかになったと錯覚してもおかしくありませんよね?
まあ、そこまで愛されたアキト君に乾杯、ってな感じで笑って許してください。
あと『チガサキシティ』はナデシコを降りた後のミナトさんの住居『オオイソシティ』に対抗したものです。
ナデシコのドックが佐世保だからといってその近くに住むとは限りませんので、地図でその辺りを探しても見つかりませんのでご注意を。
また「どりるみるきぃぱんち」は……、まあ知っている人は知っているでしょう。
某王道ゲームのヒロインの一人の必殺技です。
主人公は電離層辺りまで飛ばされます。
※今現在この作品の二次小説も作成中です。

では、寒い日が続きますが、皆さんも気をつけてください。




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