機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト


第二話 『青い果実』は任せとけ


ん〜、これでルリルリゲットォォォォッ!じゃなくてルリルリと仲良くなれたから次はアキト君ね〜。お姉さん楽しみだわ〜。
一人部屋の中で微笑むミナト。
見ようによっては危ない人に見えるかも知れないが、一人しかいないため誰にも知られることはなかった。

まあ、冗談抜きで次はアキト君。どう料理……じゃなかった、仲良くなるか、ね。
ナデシコに来るのは木星蜥蜴の奇襲当日だから、それまではルリルリともっともっと仲良くなって、と。


と、いうわけでルリルリを連れてやってきたのはブティック。

あれから一週間。お互いを名前で呼んだり、お互いの部屋に遊びに行くくらい仲良くなってきたのはいいけど、ルリルリの部屋に行って吃驚。
だってあまりにも私服が少なくて、しかも実用第一主義。このままじゃピースランドに行った時ご両親に恥をかかせてしまいそうで、ドレスの着こなし方ぐらい は教えようと思いました(涙)。

「じゃあ行こっか、ルリルリ?」
「私、別に今のままでも……」
こういった店に入るのは初めてな為、戸惑いとためらいを隠せないルリ。
「だめよ。ルリルリ素材はいいんだからきちんと着こなし方を覚えないと。実用一点主義じゃいい男は捕まんないわよ」
というか未来で間違いなく美少女になることを知っている私としては、フォーマルなスーツと連合宇宙軍の軍服、あとはシンプルな服以外着たところを見たこと が無いので絶対おめかしの仕方は教えたいと思っていたのだった。
「私、少女ですから今のままでも……」
「若いうちから覚えておかないと変なセンスの持ち主になっちゃうのよ!ルリルリみたいな可愛い子がそうなっちゃうのはお姉さん悲しすぎると思うの!もう人 類の損失になるんじゃないかってくらいに!」
腰の引けているルリルリに力説する私。
「はあ」
「判ってもらえたところで、そこのお店に入ろっか?」
私の力説にあっけに取られたルリルリの手を引っ張ってブティックに入る。

…昼前に店に入って出てきたのは閉店間際だったことは……女性の買い物としては普通だったのだろうか?。



夜のナデシコの艦内にたくさんの服の入った袋を右手に持ち、左手にはルリルリと手を繋いで歩くミナトの姿があった。
店員さんもノリノリで着せ替えてたからなぁ……。写真もいっぱい撮影したし。モデル料ということで服をかなり割り引いてもらったしね〜。
疲れた表情のルリとは裏腹にニコニコしているミナトは店員も巻き込んだおかげで予定より多く買えた事を喜びながらそんなことを考えていた。
もっとも買い込みすぎて一部寸法直しのある服は全てナデシコに直接送ってもらうことにしたので、今持っている袋の中身は練習用のドレスとゴスロリ服と靴と アクセサリーと未来での脱走騒ぎでナデシコに隠れている時に着ていた猫スーツ、それと同じ柄の猫スーツパジャマのみだった。
さあルリルリ。お姉さんがバッチリ着こなし方を教えてあげるわよ〜。
『おめかししたルリルリ』を想像し、一人悦に入るミナトであった。

……ただし最初に買った服のうち、ルリのもっともお気に入りになった服は猫スーツパジャマであったことを付け加えておく。



余談だが、ミナトとルリが服を購入したブティックにしばらくの間ゴスロリ服でおめかししたルリの写真が飾られていたという。
そして、この写真を見た某国の大使が慌てて本国に連絡を取ったのは今後に関わる結構重要なお話。



部屋に帰ったミナトはルリにおめかしの仕方を教えていた。もっともルリは面倒くさそうにしていたが……。
「いい?女の子はいつトップレディーになるかわからないんだから最低限おめかしの仕方とドレスを着たときの歩き方、それとウィンナワルツぐらいは踊れるよ うにならないといけないわ!」
「……ミナトさんって意外と教育ママさんだったんですね……」
あきれたようなルリのぼやきだが、ミナトを気に入っているため言葉ほど嫌がってはいない。

とりあえずメインで着こなし方を教えるのはピースランド行きの際のドレスとミナト&ブティック店員の趣味であったゴスロリ服であった。
ルリのツインテールを下ろし、ゴスロリ服やドレスでの歩き方の練習は、元々変な癖が付いていなかったからかすぐに上手くいくようになった。
ただ、あまりヒールの高い靴での歩き方はいまいちだったので今後の課題とされたが。
髪やお肌のお手入れについても適当だったので、ミナトの手によりきちんと教わっていくことになる。


ちなみにこの練習中の風景は記録され、某所にて大きな力となるのであった。



通常勤務時間はルリルリも私もブリッジにいる。
隣同士のため、色々と会話も交わす。
「ねえ、ルリルリ。ちょっといい?」
「なんですか?」
操舵とオペレートの連携訓練後の空き時間に私はルリルリに話しかける。
今後に発生するトラブルを回避するために。
「この間ルリルリに教えてもらったこの艦のスペックを見て思ったんだけど〜、この艦ってマスターキーが無ければ動けないのよねぇ?」
「そうです。艦長とネルガル会長以外での挿抜は無効です。強引に抜かれたときは自爆シークエンスが起動します。防犯と機密漏洩阻止措置のためですね。マス ターキー無しでは生命維持はできますけど重力制御は最低限。武装も使用できません。一部ハッチの開閉も手動です」
淡々と答えるルリ。
まるでカタログを読み上げるようだった。
『自爆』なんて事態になったら自分が死ぬことを理解しているのだろうか?それとも何時死んでもいい、とでも思っているのだろうか?
十一歳の子供にそんな考えを抱かせるような今までのルリルリの環境を私は呪った。
そんなことは絶対にさせない!貴女はもっと幸せを感じていいはずなんだから!
「それって結構やばくないかな〜ってお姉さん思うの」
そんな思いをおくびにも出さず、私はルリルリと話を続ける。
「何でですか?」
「だって常に艦長がいるとは限らないじゃない。マスターキーだって誰かに持っていかれる可能性があるわけだし」
「キーを安全に挿抜するためには艦長かネルガル会長の生体認証が必要ですよ?」
もっともな事を言うルリルリだがまだ大人のことをよく理解していない、いや大人の醜さは研究所で見てきているのだろうが、大人の汚さを知らないのだ、と私 は気づいた。
「艦長を眠らせて、その手を握って抜き取るっていうのも考えられるのよね」
「……言われてみればそうですね」
「だからキーが無くても艦長以外の権限者、例えば副長とオペレーターとか、オペレーターと操舵手とか、副長と操舵手とか、チーフメカニックの人とかでもい いけどある程度以上の権限者複数人による同時パスワード入力とかで一定時間の移動・攻撃・防御のできる緊急起動システムかなんか構築しておいたほうがいい かな〜とかって思うのよ」
「なるほど」
ルリルリが感心する。確かに艦内における最大権力者は基本的に艦長だというのは周知の事実だけど、だからといって艦長がいなければ何も出来ない戦艦など役 には立たない。
ましてやこの艦は『ナデシコ』なのだ。各個人で考えながら全体が機能する、家族のような集団。だからこそこの艦はあの蜥蜴戦争をたった二人の戦死者のみで 乗り越えられたのだ。
「でも私はプログラミングなんてできないし、そういうことはシステム的に可能かどうかルリルリに聞いてみようと思って」
「……そうですね。可能だと思います。オモイカネ、できる?」
ルリルリはオモイカネに確認する。
《条件付可能》《不可能ではない》《面倒だけどなんとかなる》《できるけどルリだけじゃだめ》
とのウィンドウが乱舞する。
「条件付って?」
ミナトが聞き返す。
「オモイカネ、条件とは?」
《ソフトだけじゃダメ》《一部バイパス回路の作成が必要》《それほど手間は掛からない》《整備班の協力がいる》
「……だ、そうです」
「ならプロスさんに申請してやってみよっか?『転ばぬ先の杖』って言うし」
「『転ばぬ先の杖』……転ぶ前に杖を用意して怪我の発生を抑えること。前もって用心していれば、失敗することが無いという例え。確かにそうですね。ではプ ロスさんを呼びましょう」
ルリはオモイカネが出したウィンドウの中の諺を確認しながら頷く。
「そうね。じゃあオモイカネ、予算の計算をお願い」
《OK!》《了解!》《まかせて!》《ラジャー!》《イエス・サー!》《Ja−!》《バッチこーい!》《ラーサ!》《しーんぱーく!》
…一部気になる台詞もあったけど……とりあえず大丈夫よね、うん。


十分後、プロスさんがブリッジに上がってくる。
「さてホシノさんハルカさん、何か緊急の用事とのことですが?」
「ええ、実は…………………………と、言うわけなんです」
「ハード側でも少し追加しなくちゃならないらしいから、資材のある地上にいるうちにやっておきたくて」
ルリとミナトの説明に眉をひそめる。
「セキュリティ上、そういったことはしたくありませんが……、確かにそうなった場合のクルーの危険度は増しますね。お見舞金なども馬鹿になりません し……。ちなみに予算は如何ほどで?」
「オモイカネ、出して」
《OK》
のウィンドウとともに出されたのは見舞金より遥かに少ない金額。下手すると子供のお年玉の方が高いかもしれない。
「物理的な方はバイパス回路の作成と取り付けだけなので部品代だけですね。元々自動化の比率が高いからごく一部の回路だけで済みますし」
「このぐらいなら問題ないでしょう。ホシノさん有難うございます」
「いえ、気づいたのは私ではなくミナトさんです」
「おや、そうでしたか?では改めて、ハルカさん有難うございます。この件は査定にプラスしておきますので。では手配してきます」
プロスさんがブリッジを出て行く。
内心でため息をつく。
これでトビウメとの一件での被害は免れそうね。
そこまで考えてルリの視線に気づく。
「どうしたのルリルリ?」
「ミナトさんすごいです。私こんな欠点気づきませんでした」
その視線はまさに尊敬。
「(歴史を知っているとは言えないし……)ん〜。やっぱ人生経験かな?ほら私、前は秘書なんてやってたから何かにつけてフォローを入れることを考える必要 があったのよね。会議に必要な書類が届かない時、他の子がミスした時、他の会社の重役のセクハラがあった時とか色々ね。それで身に付いたのよ。先手を打っ て非常時の手順を準備しておくっていうのが。まあ、お約束の台詞でいうなら『こんなこともあろうかと』ってね」
と、言ってごまかしておく。
ちょっとうつむいたルリルリ。研究所で『最高』だの『最優秀』だのと言われて、疑いもせずそう思っていた自分が恥ずかしくなってきたみたい。
それに気づいた私はルリルリに向かって微笑む。
「ルリルリもこれから出来る様になるわよ。色々経験して失敗して自己主張して衝突して和解して、そして成功して。それらが合わさってこういうことが出来る 様になるんだから」
「そうでしょうか?」
「そうよ」
「そうでしょうか?」
「そうよ」
「そうなんでしょうか……」
うつむいたルリを後ろから優しく抱きしめる。
「だから心配しないで。今は成功も失敗も自分の血肉にしなさい。お姉さん達がフォローしてあげるから」
「……はい。有難うございます」
まだちょっと元気は無いけど笑って返そうとするルリルリがとても愛おしかった。



その日はルリルリ(猫スーツパジャマ着用)と一緒に寝た。
平静を装って寝てたけど、翌朝起きてすぐにシャワーを浴びなければならないほど濡れていたのはルリルリには秘密(赤)。
用心してナプキンをつけて寝ていたからベッドを濡らすことはなかったけど、ルリルリ可愛すぎ(赤)。
特に寝言で『ミナトさん……』とか、寝返りで胸に顔を埋ませるとか、今すぐ食べちゃいたいくらい(血の涙)!
でも、今はダメ!アキト君が来てから正三角形の関係にならなきゃいけないんだから(血の滝涙)!
そんな葛藤をしているミナトの背後でルリが目を覚ます。
「……おはようございますミナトさん」
「おはよっ、ルリルリ(ウィンク)」
心の葛藤を見せずに微笑む私って結構健気?と、思ってしまう私だった。



この時よりルリルリN型装甲(猫スーツパジャマ)装備はアキトやミナトのベッドに潜り込む際の決戦兵器と化した。
そしてこの決戦兵器はその後ルリからラピスへ、ラピスからルリの娘へと受け継がれ、愛しい者のベッドに潜り込む際において絶対的な破壊力を持って使用され たことは……ごく一部の人間の秘密である。



あとがき

どうも、喜竹夏道です。
第二話をお届けします。
髪を下ろして黒系ゴスロリ服を着たルリルリ。
ちょっと見てみたいです。ツインテール以外の髪形と言うものをあまり見ないので。
あと、ウィンナワルツはウィーンのオーバンパル(舞踏会のこと。オーバーパルともいう)で必須とされる踊りです。
これが踊れないとヨーロッパでは社交界にデビューできません。
ルリルリのピースランド行きを見越した指導です。
まぁ、ルリルリの出自を明らかにした場合、二重三重の意味で危険になるので後ろ盾をはっきりさせておくほうが護衛などをつけやすく、安全につながるとミナ トさんが判断した結果ですが。(なにせマシンチャイルドで美少女でお姫様でナデシコの要であるので、地球ではロリコンのストーカーやらクリムゾンの誘拐や らの危険があり木連にとっては忌々しいナデシコのメインオペレータであり山崎にとっては面白すぎる実験材料となるのですから。公的に護衛がつくようになれ ばストーカーやクリムゾンからは身を守りやすいし、気をつけるのは木連関連だけですむようになります)
暴走気味なのは勘弁してください。

しかし『ルリルリN型装甲装備』(笑)。
私も一緒に寝てみたいです。
理性が保てるかどうか自信はありませんが(笑)。



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