種を蒔く。

種を蒔く。

ソレに至る可能性故に、

ただ種を蒔く。

その多くは、芽吹く事もないだろう。

そして碌に育ちもせずに、枯れてしまうだろう。

例え心血を注いで手入れをしても、

思い描くように育つという保障はどこにも無い。

現に幾つかの育った木は棘を備えてしまい、

随分と痛い思いもしている。

それでも、ただ、可能性故に…。

ソレは種を蒔く。

何処にでも行けて、

何時までも動ける。

だからこそ、ソレは種を蒔く。

蒔いた種の殆どを顧みる事無く、

次々と新しい種を蒔く。

だから、脆弱すぎて見限った種が、

長い長い時間をかけて芽吹き、

1本の苗木となった事を、

ソレはマダ知らない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MUVLUV ――マブしいヤツラ――

第2話

作者 くま

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


タケルが一万回目の繰り返しを始めてから2日目。

横浜基地所属の207訓練小隊へ訓練生として合流し、

そして同日中に特殊任務部隊A−01(通称ヴァルキリーズ)との顔合わせを済ませていた。

訓練小隊におけるタケルの立場は、当然にして通常の訓練生ではなかった。

香月副指令の指示の元で正規で無い軍務に従事していたタケルが、

必要に迫られ正規のルートを経て衛士となる為に訓練生となった。

と少々込み入った事情を持っている事になった。

全ての疑問を香月副指令直属の部下であるということでねじ伏せ、タケルは訓練小隊の一員となった。

無論、他の隊員からの反発はあったものの、

初体面ながらに彼女たちの事を誰よりも知るタケルに全く不安の色は無く、

彼の持つ生来の馴れ馴れしさで隊の皆をやや呆れさせてしまうほどだった。

他方、ヴァルキリーズとの顔合わせは、XM3の発案者兼テストパイロットという触れ込みで行なわれる事になった。

タケルを新OSの教官として仰ぐ事になり、やはり隊の皆からは声に出ない不満が生まれる事になる。

経験則からそれを見抜いていたタケルは、予め押さえておいたシミュレータールームでその不満を即座に解消する事にした。

そして、シミュレータ上とは言え、1対全員という圧倒的なレシオでの戦闘が行なわれる事になる。

圧倒的に不利な状況下、中空を激しく飛び交う派手な機動で圧倒し、タケルは精鋭であるヴァルキリーズに勝利を収める。

それは繰り返しを重ねてきたタケル本来の機動とは随分とかけ離れた大雑把なものでは在ったが、

その変態的とも言える機動は、ヴァルキリーズの面々にショックを与えるのには十分なものであった。

ヴァルキリーズの皆の態度はそれぞれ違ったが、皆に共通していたの思いが在った。

この見た事も聞いた事も無いこの若い男を教官として迎え入れる覚悟を決めのだ。

こうしてヴァルキリーズはより強くある為の一歩を踏み出した。

一応の決着がついた後、A−01隊長であるみちるはタケルに当然の疑問をぶつける。

どこでどうやってその機動を身に着けたのか?

その疑問に対し、タケルはシミュレータルームの見えるはずのない遠い空を見上げながら口を開く。

「詳しくは話す事が出来ないけれど、香月副司令の元でちょっと…」

答えになっていない答を返すタケルに、古参のヴァルキリースの面々からは同情の眼差しが送られたのは言うまでも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コイツは特別よ。

香月夕呼直々にそんな紹介をされたタケルは、前述のように二日目からして皆を圧倒し、

比較的短い間にもかかわらず、特別であるという言葉通りの結果を出していた。

207A訓練小隊においては、誰よりも強く、誰よりも早く、そして誰よりも上手かった。

訓練小隊の中で、一分野といえども最もタケルに近い技量を示して見せたのは、狙撃を得意とする千姫だった。

それとて、今の千姫ではなく幾多の経験を積んだ千姫より、数千回の教授を受けたタケルには及ばなかった。

ただ、狙撃にせよ、剣術にせよ、格闘技にせよ、

今のタケルが持ちうる技術の大部分は、207A小隊の皆から受け継ぎタケルが鍛え上げたモノである。

それ故に、群を抜いたタケルの技術を皆にフィードバックさせる事は、

タケルが彼女たちから学んだ時よりも容易な事でもあった。そ

れはごく短期間で訓練小隊の実力を押し上げるという結果をもたらす事になるのだった。

そしてタケルの特別さはヴァルキリーズにも影響を与えていた。

最初に見せた新しいOSであるXM3ならでは機動の実現は元より、

累計で億に迫る戦術機の搭乗時間を持つタケル本来の精密な機体運用は、

ヴァルキリーズの面々に先のものとは別の衝撃を与えていた。

シミュレーター上でXM3を搭載した設定を設けたとはいえ、

機体性能で劣るはずの撃震に乗り込み、A−01に配備されている2世代後身の不知火を次々と撃破するタケル。

特にタケルが最も得意とする両手に長刀を装備した状態での近接戦闘は、

最初に見せた変態的機動とは正反対の静の機動であるにもかかわらず、

ある一定の範囲内の敵機を全てを切り捨ててみせた。

力任せに切り裂くのでは無く、戦術機の装甲の接合部や間接を狙い的確に振るわれた長刀の一閃は、

シミュレーター上で敵対した戦術機から、容易く戦闘能力を奪い取っていったのだ。そ

れを当たり前の様に為すタケルの技量に驚嘆しながらも、みちるは一つの疑問を頭に浮かべていた。

敵機をわざわざ回りくどいやり方で無力化しなくても、コックピットを直に切り裂いた方が早いのではないのか?

同様の疑問を抱いたのか、シミュレーターから出てきたタケルに水月が疑問を投げかける。

 

「教官は何故戦術機のコックピットを直に狙わないのですか?」


「ん?理由は幾つかあるが、一番の理由はコッチの損耗を防ぐ為だ。

 コックピットは戦術機の中で一番頑強に作られてるからな。

 切り裂くにせよ突き刺すにせよ、そこを狙うと長刀と腕部に負担がかかるんだよ。

 戦闘行動が何時も短時間で終るとは限らないし、その後に十分な補給や整備が受けれるとも限らない。

 長期的な目で見て機体にかかる負担をなるべく減らす事も、生き残る為の一つのテクニックだ。

 それと、もう1つの理由は敵機を撃破するよりも、

 ああいうやり方で戦闘不能に追い込んだ方が、敵の負担が大きくなるからだ。

 BETAはともかくとして、人間を相手にしている場合なら特にな。

 なんでそうなるかは、…自分で考えてくれ」

 

誤魔化すように言葉を切るタケル。

やや、肩透かしを食らった感のある水月だったが、時には自身で考える事も重要だと、

自身に言い聞かせて、真剣な表情で考え始めた。

そんな水月に続ける形で疑問を口にしたのはみちるだった。

 

「教官は、人間が敵に回る事を考えておいでなのですか?」


「残念ながら、人類は1つにまとまれていないからな」

 

続けられたみちるの問いに、苦笑を浮かべたタケルが答える。

明確にではないが、みちるの言葉を肯定する答だった。

 

「それに、ココはそういう部隊だろう?」

 

そして唇を歪めながら更に続けられた言葉にみちるは息を飲む。

これまではBETA相手の作戦しかこなして来なかったが、今後は同じ人類を相手にした作戦がありうる。

その可能性が高いことを、シロガネタケルという人物は知っている。

香月副指令が特別と言うだけに、自分よりも機密に近い位置に居るのだろう。

タケルの言動を受けて彼の人物評をそう分析したみちる。

新OSを用いた戦術機の教官をしている目の前の男に対して、部隊長としてどう接するべきか?

改めて考えてみることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆からタケルが本当に特別だと認められたのは別の側面からだった。

タケルは自分がそっち方面においてオープンである事を皆の前で声高に公言し、

夜の相手の予約は何時でも受付中だと言い切ってみせたのだ。

無論、タケルは考えなしでそれを言ったわけでもなく、

隊の皆が抱えるストレスを行為によって解消するという目的があってのことだ。

1万回という繰り返しの中で、そっち方面のタケルの知識は常人のそれを遥かに陵ぐものがあったのだ。

経験の累積によって獲た情報を元に個人的な弱点を責める程度は言うに及ばず、

房中術と呼ばれるものをも極めていたタケルの手腕は、夕呼との件からしても確かなものだった。

もちろん、ヴァルキリーズや訓練小隊の面々はそれを容易には受け入れずに引いたが、

タケルはそれを全く気にせずこう続ける。

 

「作戦に支障をきたす様ならともかく、性欲が強い事自体は悪い事じゃない。

 それだけ種としてノ生存本能が強い、つまり生命力に満ち溢れてるって事だからな。

 いざという時に生き残るのは、生命力のある奴なのは言うまでもないだろう?

 それと、世界的な状況が状況だが、皆だってもう枯れてるような歳じゃないし、色々と興味もあるのが普通だろう?

 あんまり抑制しすぎるのも身体に毒だし、適度なガス抜きってのも必要だと思う。

 まあ、男と女じゃ色々違いは在ると思うし、

 そういうのを大事にしたい気持ちも解るから、当然無理強いするつもりもない。

 ま、モノは試しにっていう程度で覚えておいてくれ」

 

ヴァルキリーズの面々を前にした時と訓練小隊と居る時。

立場の違いによる表現の差異はあれども、同じ内容の発言をしたタケル。そ

の発言の後に訓練小隊の前ではまりもに、そしてヴァルキリーズの面々の前ではイリーナに、

親しげに同意を求めたタケルが、やや顔を赤くした両名に間髪いれずに張り倒されたのはまた別の話でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてシロガネタケルというイレギュラーを迎え入れてから、ちょうど1週間目となる日の早朝。

横浜基地は新たな来訪者を迎え入れる事になった。

来訪者といえば耳障りが良いが、要は行き倒れの男を一人保護したのだ。

黒髪の黄色人種と思しき男の服装は、黒いジャケットに黒いパンツ、

アンダーシャツの色まで基本的に黒で統一されていた。

黒以外に身に付けていたのは赤いバンダナと鈍いシルバーの光沢を放つ意匠のこらされたペンダント。

その竜のデザインを施されたペンダントは、

見る者が見ればその行き倒れの男がどういう人物なのかを示すものだったが、

横浜基地にその意味を理解する者は居なかった。

全身黒づくめでそして行き倒れという、いかにも怪しい男を横浜基地が迎え入れたのには当然にして理由が在った。

それは、先日、基地周辺を巡回する部隊により発見された十数体分のBETA小型種の破片だ。

しかもいバラされてからあまり時間の経ってないものだった。

此処一週間ほど基地周辺で掃討作戦行動が行なわれていないにも関らず、ソレらは発見されていた。

そして黒づくめの男の衣服の所々にみられる、最近付着したとおぼしきBETAの体液。

その両者を結びつけるのは容易な事だったのだ。

男からの事情聴取の必要性を認め、行き倒れた彼を基地内に迎え入れる事を決定し、

無論危険性を鑑み、男は基地の外れにある収容施設内に設けられた独房へと投獄される事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が戻らぬうちに衣服を全て剥がれ、貫頭衣に着替えさせられた男は、独房の中で目を覚ました。

即座に自身の身体をチェックし、身体的にある一点を除き不調が無い事を確認し、

そして自分の衣服などが全て取り上げられている状況に舌打ちをする。

独房の外に二人分の気配を感じ、そしてソレとは別にこちらに向けて歩いてくる足音を認識した。

やがて足音は独房の前で止まる。

が、男はその足音の主を見る事無く、その意識は差し入れ口から独房内に入れられたトレイへと向けられていた。

トレイが独房の床に置かれた次の瞬間、男はひったくるようにトレイを抱えて広くは無い独房のすみへと飛びのいた。

そして確かめるようにトレイの上の食事のにおいを嗅ぎ、

大丈夫だと判断したのか、その食事をガツガツと食べ始める。

その様子を独房の外から眺めていたのは、男に食事を運んできたタケルだった。

やはり見覚えの無い顔だと思いながらも、タケルは何故自分がここに来たのかを振り返る。

 

『シロガネ。つい今しがた正門で全身黒尽くめのの男を保護したそうよ。アンタ、この件について何か覚えが在る?』

『…いいえ、そんな変な格好の奴が居た覚えなんて無いです。というか、そんなのを基地で保護したんですか?』

『流石にメインの施設には搬入しなかったけどね。一人で兵士級とは言えBETAを十数体倒した可能性が在る男よ。

 色々聞きたいし、危険だからある意味当然の措置ね。

 しかも件のBETAの破片が散らばっていた現場には弾痕も薬莢も無かったって言うし、

 保護した黒尽くめも銃らしきものは持ってなかったそうよ』

『マジっすか?』

『実際にどうかはともかくとして、確認できる状況ではそう云う事になってるわね。

 という訳で、アンタ、その行き倒れに食事を運びつつ尋問してきなさい。

 あー指示はあたしがモニター越しにここから出すから、心配はしなくていいわよ』

『なんで俺にそんな役目を?』

『決まってるわ、アンタが適任者だからよ。

 この基地で一番経験が豊富なのはアンタだし、仮にイレギュラーが起きても、アンタなら対応できるでしょ?

 京塚曹長には話は通してあるし、PXに寄ってから別棟に行って頂戴。

 訓練小隊は座学の時間だからアンタは参加してないし、どうせ社といちゃいちゃしてるだけなら問題ないわよね?』

『いや、あの、いちゃいちゃしてるんじゃなくて、XM3の改良とコミニュケーションをですね…。

 …はぁ…まあいいです、行ってきます』

『じゃあ、よろしくね。それと、いざという時は…』

『ええ、解ってますよ』

 

夕呼との会話を思い返し、タケルは改めて腰に吊るした銃に意識を向ける。

状況によっては男の射殺も辞さない覚悟を決めていたタケルであったが、

PXのおばちゃん特製の食事をがっつく姿を見る限りではそれも不要に思えていた。

やがて男は食事を終え、食事を運んできてじっとその場で立っていたタケルへと鉄格子越しに視線を向けてきた。

やはり見覚えは無いが、随分と眼つきの悪い男だな。

それがタケルが男に懐いた第一印象だった。

 

「食事を済ませてすぐのところで悪いが、俺の上司がアンタに話を聞きたがっている。着いて来てもらえるか?」


「ああ、解った」

 

有無を言わせぬプレッシャーを与えながらのタケルの言葉に、男は臆する事無く軽く頷いて答えてみせる。

独房の鍵を開錠し、軋んだ音を響かせて出入り口を開放し、男に外へと出るように促すタケル。

男はその意を受けて素直に独房から廊下へと出た。

独房の外で控えていた兵士が警戒を強めるが、男は二人の兵士よりもタケルへと注意を向けていた。

二人の兵士に敬礼をし、男を促すように先導して歩き出すタケル。

靴すら取り上げられていた男もタケルに続いて素足のままで廊下を歩き始める。

 

「俺はシロガネタケル。アンタの名前は?」

 

夕呼が尋問場所として指定した部屋へと向かいながら、タケルは男に声をかける。

しばらく、問い掛けには答えずにタケルの後を歩いていた男は、

続く沈黙とプレッシャーに根負けしたかのようにため息を一つ吐きタケルに答える。

 

「…オーフェンだ」

 

しかめっ面のままで、眼つきの悪いその男はそう名乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、アナタはそのキースとか言う顔見知りの執事に襲われて気を失い、

 約半日前に気がついてさ迷った挙句、横浜基地の前で空腹に耐え切れずに行き倒れたってこと?」


「まあな。執事の前に『銀髪で変態の』という言葉が脱けてるのを除けば概ねその通りだ。

 …ところで、そっちの話は本当なんだよな?」

 

モニター越しに自分を尋問している夕呼の言葉を肯定しながら、オーフェンは夕呼に疑問を返していた。

 

「ええ、本当よ。

 データ上で確認できる範囲、つまり五、六百年の間に、アナタの言った大陸や都市の名前が存在した事は無いわ。

 そもそもモグリの金貸しなんて職業、今のこの世界じゃ成り立たないのよ。

 アナタが襲われて返り討ちにして食べようとしたバケモノ、アレを私達はBETAって呼称するけれど、

 今この世界の全人類はそのBETAと戦争をしているの、しかも状況は劣勢。

 戦争が始まって以降全般的に負けがこんでて、BETAどもに半分以上刈り取られ、

 総人口は今では10億を切るほどに追い詰められているのが現状ね。

 ああ、言っておくけれど、アナタの倒したBETAは兵士級と呼ばれる種類のもので、

 BETAの中でも一番弱い部類のものよ。

 アレの何倍の大きさと何十倍の重量を持つ個体は、それこそ無数に存在しているわ」


「―――」

 

モニターの向こうの夕呼が語る内容に、言葉を失うオーフェン。

昨日襲われたバケモノを駆逐するのとて、ドラゴン族と闘いとは比べようも無いが、それなりに苦労をさせられていた。

人としての戦闘能力という点ではそれなりの自負があったオーフェンだったが、

昨日のアレの何倍もの大きさのバケモノを幾体も敵に回し、そのうえ戦って勝利する光景を全く想像できなかった。

 

「…という事は、やっぱ認めるしかねぇのか…」

 

がっくりと項垂れるオーフェン。

 

「異世界からこの終焉の世界へようこそ、異邦人さん。

 歓迎する事は出来ないけれど、同情くらいはしてあげるわ」

 

テーブルの上に顎を乗せ脱力しているオーフェンへとモニター越しながら言葉をかける夕呼。

その表情は少しだけだが笑みを含んでいるようにもタケルには見えた。

 

「ああ、ありがとな。気持ちだけは受け取っておくよ。

 というか、なんでそんな簡単に異世界とかいう話を信じるんだ?」

 

モニターの向こうの夕呼に取り合えすの礼を言うオーフェン。

が、引っかかる処もあったのだろう、夕呼にそんな疑問をぶつけていた。

 

「アンタの目の前にも同じ様な境遇の男がいるからよ。

 ま、アンタと違って、シロガネは割りと近しい世界から来てるみたいだけれどね」

 

返ってきた夕呼の答えにより向けられたオーフェンの視線を受け、

タケルは苦笑をしながらも頷いて肯定の意を返す。

そのタケルに何か思う事があるのか、オーフェンは暫くタケルを見ていたが、やがて頭を振ってまたため息を吐く。

 

「で、オーフェンで良かったわよね?

 この後のアンタの身の振り方だけど、この基地であたし直属の部下にならない?

 多分だけれど、色々と常識から違うアンタを軍人に組み込むことは出来ないだろうけど、

 寝床と三食ぐらいはあたしの権限で確保できるわ。

 それと何かのついでにアンタをこの世界に連れてきたという執事の情報も集めさせる事も出来るわ。

 怪しげな風体で正体不明のアンタに対する待遇としては破格のものだと思うけどどう?」

 

やはり気落ちしたままのオーフェンに、夕呼からの提案がなされた。

唐突過ぎる展開にオーフェンは正直戸惑いを隠せない。

オーフェン自身、今の自分の立場がすこぶる弱い事を理解していたし、

ましてや今はバケモノと戦争をしている組織に囚れたも同然の状態。

目の前にいるシロガネタケルという異質な存在が多くいるとは思えないが、

それでもこの状況を力づくで解決することは出来ない、そう結論を出していたのだ。

 

「なあ、一つ聞いて良いか?

 何でオレみたいな怪しい奴を部下にしよう、なんて考えたんだ?」

 

ある意味同然の疑問をオーフェンは返していた。

しかも警戒感をまったく隠そうともせずに、普段から眼つきが悪いといわれている眼光をさらに鋭くして。

そんなオーフェンの問いかけに答えてのは夕呼ではなくてタケルだった。

 

「そんなの、眼つきの悪いアンタが怪しいからに決まってるだろう。

 眼つきの悪い怪しいアンタを野放しにせず、多少のリスクを冒してでも監視下に置く。そう不思議な話じゃない」


「流石シロガネね、あたしの考えてる事を良く理解しているわ。

 さらに補足するなら、この基地ではオルタネイティブ4とい極秘計画を遂行中なの。

 そして本来この場にいるはずの無い眼つきの悪いアンタは、計画にとって完全なイレギュラーなのよ。

 だから、ある程度の待遇を与えて監視下に置く事にした。

 それと、あたしは人類の勝利の為なら、なんだって使うつもりなのよ。例えソレが怪しくて眼つきが悪い男でもね」


「―――」

 

先のタケルに夕呼はそう続け、そして再びオーフェンは黙り込んだ。

いちいち眼つきの事を言われるのは気に喰わなかったが、

語られた理由は納得の出切るものである事に相違なかったのだ。

 

「あら、やだ、シロガネ。ちょっと大変な事になったわ。

 眼つきの悪い男の口車に乗せられて、この基地でオルタネイティブ4が遂行中だという機密を漏らしてしまったわ」


「それは大事じゃないですか、夕呼先生。

 これでは彼の返事何如では、眼つきの悪い男を殺さなければならないじゃないですか。しっかりしてくださいよ、先生」


「いやーごめん、ごめん。この処計画が順調過ぎるぐらいに推移しててね、ちょっと気が緩んじゃったのよ」


「計画が順調なのは良い事でしょうけどね。まあ、今回は俺がしっかりと対処しますから問題ないですけどね」


「あら、ごめんなさいね、内輪で話してばかりで。それでオーフェン、アナタの答を聞かせてもらえるかしら?」

 

タケルとモニター越しに会話を交わしていた夕呼が再びオーフェンへと話を振る。

しかしオーフェンはそんなタケルと夕呼を半眼で見つめていて、やがて諦めたようにため息を吐き口を開いた。

 

「いやな、その胡散臭くて白々しい芝居は置いといてだな。

 そっちの夕呼さんが言った寝床と三食の確保、それとキースの馬鹿を探すって言う条件でなら、

 しばらくの間、俺はアンタに傭われてやる。

 で、具体的にはオレに何をやらせるつもりなんだ?内容によっちゃあ全力で断らせてもらうしかないんだがな」

 

モニターの向こうの夕呼を見据えたオーフェンの言葉。

夕呼は思わず視線を逸らし、しばらく考え込んだ後に口を開く。

 

「そ、そうね、アンタには取敢えず警備員をしてもらおうかしら。

 勿論、普通の警備は基地の兵士がするから、

 アンタは基地内を適当に巡回して、アンタ的に怪しいと感じた奴を報告して頂戴。

 別の視点からのアプローチってやつね」


「アンタ、それを今考えただろう?」

 

さも当然といった表情で語る夕呼に、オーフェンは半眼のままで突っ込んだ。

 

「や、やーね、そんな訳ないじゃない」

 

笑みを浮かべ誤魔化す夕呼。

そんな夕呼にオーフェンはまたため息を吐く。

内心、なんかさっきからため息ばかり吐いてる気がするな…とか思いながら。

 

「…まあ、いいけどな。

 とにかくその程度の仕事で良いなら、そっちの提案通り、オレはアンタの部下になろう」

 

無論キースの馬鹿を締め上げて元の世界に帰るまでだけどな。

と声には出さず心の中で付け加えるオーフェン。

だが夕呼の部下になる事を承諾したのには違いなく、それを受けてタケルがオーフェンへ向けて右手を差し出してくる。

 

「じゃあ、これからはよろしく頼むな、眼つきの悪いオーフェン」


「よろしく頼むわね、眼つきの悪いオーフェン」


「ああ、解った」

 

差し出されたタケルの右手を握り返すオーフェン。

 

「…っていうか、いちいち眼つきの悪いって付けるなよ」


「「気にしてたんだ…」」

 

 

こうして、眼つきの悪い黒尽くめの男オーフェンは、夕呼直属の巡回警備員として横浜基地に就職する事になった。

 

 

続く

あとがき

ココまで読んでいただきありがとうございます。

あの男が定職に就くあたりが蹂躙に当たるんだろうなと考たり…。

次の話も読んでいただければ、幸いに思います。

では、またー。

PS 先の話の感想で誤字の指摘、ありがとうございました。訂正版の掲載をお願いしました。



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