「爆発まで後1時間。ちょうど奴らも戦闘中だろう、探し出す事ができるかな?」

「くっ!!」



俺は余裕の意味を知った、奴は確かにハッタリはしない。

優先順位を変えてその罠を何とかするしかない、歯噛みする思いで奴を見る。



「だが、そうだな……お前が強くなった褒美に一つヒントをやろう。我は郷には罠を仕掛けていない」

「……!?」

「間に合うかどうか、貴様が死なない事を祈るぞ、貴様を殺すのは我なのだからな」



そういった瞬間、北辰は掻き消えた。


俺は目を疑ったが、あれは……加速じゃない。


しかし、そんな事を考えている暇もない、俺は全力で風雷の郷に急いだ……。




Summon Night 3
the Milky Way




第八章 「臆病であるという事」第八節



「死にたい者からわらわの前に出よ! 風の餌食にしてくれようぞッ!!」



ミスミさまは、先陣を切って飛び出します。

私は思わず止めようとしたんですけど、次の瞬間驚愕とともにその手を引っ込めました。

ミスミさまは風を操り、自らが乗って敵陣まで行ったかと思うと、その風を敵にぶつけ数人まとめて吹き飛ばし、

更にはどこに閉まっていたのか、薙刀で更に数人たおしてしまいました。

瞬く間に、敵陣の一部が崩れ、私達もそこから乗り込みます。

しかし、ミスミさま……怒らせ無いようにしよう……。



「オラッぼっとしてんな、姫さんに続くぞ!」

「はい!」

「アタシだってようやっと銃が買えたんだからね! 暴れさせてもらうよ!」

「まったく、はしゃいじゃって。オニビッ、鉄砲バカをフォローしてあげて」

「ビビィ♪」



敵陣に乗り込んでからもミスミさまの勢いは止まらず、そのまま丘の上まで突き進んでいくようです。

目指すのはやはり、ヴィジュとイスラ……。

死人は出さないようにしたいと思いますけど、今のミスミさまがそれを聞いてくれるとは思えません。



「ミスミ様! お下がりください。我らの立場が……」

「ええい、うるさいわ! おぬしこそ下がっておれ。わらわは今怒り心頭なのじゃ!!」

「ムダダ、ソレヨリモ、フォローヲツヅケタホウガ、コウリツテキ」

「……」

「まあ、こういうのもいいんじゃねぇか。鬱憤も溜まっているだろうしよ」

「なら、私もいかせてもらいましょうか。自動照準……目標ロック。さあ、派手に行くわよ! 支援砲撃開始!」



丘の上は、はるか上空からの砲撃で何度も何度も爆発します。

私達は、それが収まるのを待って突撃するのですが、本陣手前までの兵士は全てミスミさまの風と支援砲撃で行動不能におちいっていました。

目を見張るほどの成果です……。

しかし、当然ながら帝国軍はそれで終わってくれるような敵ではありませんでした。



「なるほど、さすがの戦闘力だね」



丘の上の本陣には移動式の大砲が7つしつらえられています。

急場でよく持ち込めたという思いもありますが、かなりまずい状況です。

いくつかは先ほどの被害のせいか、破損しているように見受けますが、それでも十分な攻撃力です。

それに、これらの大砲が生きているのは召喚術による防御が行われた証。

少なく見積もっても5人以上の召喚師がいるという事でしょう。



「では、砲撃開始」

「へっへっへ、待ってたぜぇ! オラッ、蛆虫どもを踏み潰せっ!!」



7つのうち5つの大砲の一斉砲撃と、上からの弓の射撃、そして、それを合図に駆け下ってくる槍兵たち。

なんとか大砲だけでも黙らせないと、まずいことになりそうです。

私は、出来うる限り最高の召喚術で応戦することにします。



「来たれ、ワイヴァーン!!」

「なっ……!?」

「へぇ、大物だね」

「ブラストフレア!!」



私は召喚したワイヴァーンに命令し炎の息をたたきつけます。

本来精神を完全に支配するようなやり方はしたくないのですが、ワイヴァーンを使う場合仕方ないんです。

威力は強力なのですが、ワイヴァーンを操るのは凄く精神をすり減らします。

すぐ暴れたがるので、それを上手く誘導して相手の大砲に集中するようにするのに骨が折れました。

しかし、その甲斐あって、数回の攻撃で大砲をほぼ無力化することに成功します。



「はぁ、はぁ……っ」



息も絶え絶えになってしまいましたが、私達は丘を登りきりビジュやイスラ達の前に立つことが出来ました。

後は、彼らを無力化するだけ、とどこか私達に油断があったことは否めません。




「剣が使えないくせに、意外とがんばってくれるしゃないか」

「そんなの無くても先生は強んだよ!」

「全くですわ、普段はのほほんとしていますのに、いざと言う時は別人のように働きますのよ」



なんだか、酷い言われような気はしますが、二人とも信頼してくれているんですね。

でも、イスラはまだ余裕を崩していません、私達は身構えながら近づいていこうとしたのですが、

イスラの背後からわらわらと杖を持ち呪文を唱えながら召喚師の一団があらわれたのです。



「そんな君に敬意を表して、ご褒美だよ」

「召喚術の一斉射撃!?」

「え……っ!?」

「あはははははっ! わかった所で手遅れさ!」



イスラは高笑いをしながら引き下がり、私達の前には既に召喚呪文を終えた召喚師が10人以上。


だめ……っ!


このままじゃ、また守ることができずに終わっちゃう。


あの時と同じようになにもできないままにまた……。


イヤです……もう、目の前で誰かが傷つくのは……っ



「大切な人を奪われて悲しむのは……」

「死ねエェェェェェェッ!!」

「イヤあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「!?」

「目の前で誰かが死んでしまうのは……もう、イヤ……ッ!!」



気がついたときには、強引に剣を召喚し抜剣。

更に引き出せるだけ力を引き出して召喚師達の術にぶつけていました。

今正に召喚されようとしていた召喚獣達は私の攻撃により強制送還され、消滅していきます。

正直、体中から生きる力が抜けていくように感じます。

でも、やらないわけにはいかなかった……。



「あ……、う……っ」

「シッカリシロアティ!?」

「みんな……怪我は、ないですか?」

「アア……ブジダトモ……」

「よかっ、た……」



その言葉を聞き、私は心からの安心と共に意識を手放し、眠りにつきました……。



「先生っ!?」

「ネムッタダケダ……ムリモナイ……」



遠くで何か聞こえます……。


ただ、この無理やり引き出した力がアキトさんに影響を与えた事に私は気付いていませんでした……。





















「爆弾……北辰、そんなものまで……」



この世界にそういった物品を持ち込んだとは考えにくい。

となれば、現地調達のはずなんだが……。

もっとも、俺ですら硝酸を使った精製法くらいは知っている。

爆破テロの本家であるあいつなら、それくらい作ってもおかしくは無い。



「厄介だな……」



しかし、今回奴は俺にヒントを出していた、奴のいう事を信用できるかは微妙だが、それでも今はそれにすがるしかない。

俺が無策でつっこんで死んでは奴も困るはずだからだ。

それを前提に考えるなら、奴が爆弾を仕込んだのは動く物であり、俺やミスミではない。

理由は簡単で場所でないなら物だろうという事。

そして、今ある材料で俺達に気付かれる事無く仕掛けられるほど小型の強力爆弾を作れるはずも無いからだ。



後、重要なのは今か、もしくはもう少しで風雷の郷につくという事。

ならばある程度は目立つはず。

そう考えをめぐらせながら、風雷の郷の近辺までやってきた、所要時間は15分程度か。

奴のいうことが全面的に正しいかどうかは不明だが、残り時間は40分強といったところ。

俺はまず、戦場になっている場所へと向かう事にした。

いくら大爆発を起こすといっても核というわけじゃない、爆発半径が1kmを越す事は無いはず。

つまり、あの場を爆破しない事にはどうしようもないという事だ。

気になるのは北辰と共闘関係にあるものも巻き込む可能性が高い事。

もっとも、奴のことだ、別に死んでもかまわないと考えていてもおかしくない。



「だが……」



俺がその場に着いたときには、既に戦場は大荒れになっていた。

連続する大砲の着弾音。

また、ミスミだろう、竜巻を巻き起こすような攻撃。

そして、時折はるか上空からの支援砲撃。

あんな戦場なら爆破は簡単だろう、しかし、今の所何も爆発していないようだな……。



「爆発物となりうるものか……」



アティたちが戦っている、人質をとられ、不利な要求を受けてなお、全力で。

しかし俺は、アティたちが苦しんでいる事をあえて無視した。

彼女らなら自分達で何とかできるはずだと信じて。

爆発物は、TNT火薬やダイナマイト、ペンスリット(プラスチック爆弾)を精製するのは無理だろう。

となれば黒色火薬か綿火薬、硝安油剤爆薬あたりか。

持ち運びに不便なほど毒性が強い下瀬火薬を使うことはまず無いはずだ。



「となれば、大きさもかなりのものになるはず」



どう少なく見積もっても、一箇所に大量に仕掛けるのは無理がある。

それに、綿火薬は火力が低い、硝安油剤爆薬は爆発させるために火薬がいるほど安定した爆薬だ。

となれば黒色火薬の線が一番濃い。



「この場で黒色火薬が使われている場所といえば……」



当然大砲……まてよ、そういえば黒色火薬は爆発力を混ぜるものの比率である程度調整できる。

大砲に使われているのは普通の黒色火薬だろうが……。

黒色火薬の成分を変更すればそれだけで大規模な爆発を起こすことができるはず……。

それに、大砲やそれに付随する火薬はすべて帝国軍が持ち込んだもの。

郷に仕掛けていないという奴の言葉とも一致する。



「あの大砲が怪しいか……」



そう、さっきから使われていない大砲が二つ。

どちらも、周囲に人がいない……。

ミスミが吹き飛ばしたり、支援砲撃の餌食になった可能性もあるが……。



「結局行って確かめるしかないということだな」



俺は、仲間にも見つからないように丘の上を目指す。

あいつらが、この事を知ったら両方に対処しようとするだろう。

しかし、見た所あいつらもいっぱいいっぱい……。

俺が先に済ませてあいつらの援護に回ったほうが効率的だ。



「しかし……」



かなり派手にやっているな、近づいたら俺も巻き込まれそうだ。

そうは思いつつも、帝国軍の背後から丘を駆け上がる。

帝国兵数人を気絶させ、ルートを確保してから使われていない大砲に近づく。

一つ目……どうやら、ただ放棄されただけのようだ、火薬どころか、砲弾も残っていない。

二つ目……こちらも似たようなものか……。

となると、怪しいのは使われている大砲か、本陣にある備蓄……。

とか、考えているうちにアティが召喚したらしい3mほどの翼竜が吐く火の玉でどんどん無力化されていく。



「ちっ……もしあの中に爆弾があったら……」



俺はすばやく、5つの大砲を点検していかねばならなかった。

翼竜が火を吐く前に火薬か爆薬かの判断をしないと誘爆する恐れがある。

俺は、黒色火薬の最大爆発力など知らないが、少なくともこの丘の上は爆発半径にはいっているだろう。



「どれだ!?」



大砲の間を駆け回る、

本陣のほうにあるのなら全部破壊しても問題ないだろうが、判断がつかない以上大砲を点検するしかない。

全て翼竜に先回りするのは骨が折れる、なんといってもアティはかなりの精度であれを操っているようなのだ。

スピードが並じゃない。



「!?」



大砲の近辺にまだ使われていない火薬袋を見つける。

しかし、翼竜が来るまで時間が無い、待てと今更言っても遅いだろうから、俺はその火薬袋を担いで逃げた。

俺は、担ぎながら火薬袋を調べる。

導火線も時限発火装置も無いようだ。

ならこれは普通の火薬だな……なら、次だ。



「な!?」



俺は目を疑う、次の大砲の周囲には兵士が大量に火薬を運びこんでいる最中だった。

火薬袋が5つ……一つ一つが20kgくらいあるそれを担いで大砲に向かっている。

5人を全て気絶させる事も考えたが、それでは遅い。

俺は、仕方なく血流の加速を使う。



「持ってくれよ……」



体は悲鳴を上げていたが、ある種の魔法であるなら俺の形が崩れるまでは大丈夫なはずだと無理やり動かす。

一瞬で5人を抜き去り本陣方向へと蹴り飛ばした。

5人は放物線を描き火薬袋ごと着地する。

多分肋骨にひびくらいはいっただろうが、知ったことではない。

その間に翼竜は全ての大砲を破壊し終えたらしかった。



「これ……でもない、いや、そもそもこの程度の量で丘ごと吹き飛ぶとは思えないな……」



ならばもう、敵本陣に強襲をかけて時限装置を破壊するしかない。

恐らく残り時間は10分程度……急がないと爆発してしまう。

俺は本陣へと向かうべく一歩を踏み出した……。

が、踏み出した一歩は空をかき……いつの間にか体は地面を這っていた。



「う……ッ!? まさか……」



これは、どうやらアティが剣の力を使っているらしい……。

それも、いつもより更に強力な喪失感からすれば全力で……。

まっ……まずい、意識が混濁してきた……。



「こん……な……ところ……で……」



意識……を、手放す……わけには……。

くそ……っ!!!



「なん……とか、意識は……」



太ももにバイザーの角を突き刺し、どうにか意識を保つ。

喪失感も止まった、アティが使い終わったということか。

だが、先ほど失われた力は大きい、今の俺は立ち上がる事すら辛い状態にある……。



「爆発まで……5分といった所か」



意識の混濁でかなり時間をとったらしい、バイザーをかけなおし、時間を確認する。

このままではまずいな……本陣までの距離は200m程度だろうが今は一歩歩くのに数秒かかる。



「ちっ……せめて、誰かに言っておくべきだったか……」



己の目算の甘さを呪う……しかし、戦闘は終わろうとしている。

これならいけるかもしれない……。

そう、思ったとき。



「テンカワ・アキト……だったよね?」

「……お前はイスラ……」

「うん、君に一言、言ってあげようと思ってね。ご苦労様」

「まさか……」

「時限式のタイマーもあるんだけどね。帝国軍が引き上げ次第爆発させる。もう3分もかからないよ」

「くっ、ならば……」

「無駄無駄、起爆装置は僕が持っているわけじゃないし。じゃあ、もう見たく無いから出きれば死んでね?」



そういうと、ニコニコした表情のままイスラは駆け去っていく。

なるほど、北辰と繋がっていたのは奴だったか……。

しかし、確かに今は爆弾の起爆装置を何とかせねば。



「くそ……間に合わない。誰か……誰かいないのか!?」

「呼んだかえ?」



良く見れば、上空にミスミがいる。

風に乗って優雅に飛ぶというか、まるで歩いているようだ。

だが、この好機を逃すわけにも行かない。



「ミスミ、頼む。俺を抱えて敵の本陣まで飛んでくれ!!」

「どうしたのじゃ? えらく慌てているようじゃが?」

「恐らく本陣の中に爆薬がしかけられている。帝国兵が引き上げ次第爆破される。下手をすれば丘の上にきている者は皆死ぬぞ!!」

「ちぃっ! 全く持って殺しても飽き足らぬ奴らじゃな!! つかまるが良い。飛ばすゆえな」



ミスミは俺を抱きかかえるようにして飛んでいく。

風の能力で飛べるとはいえ、重い物を持って飛べるかどうかはまた違ってくるはず。

しかし、今の俺はそれでも構っている暇はなかった。


本陣へと飛び込んできたミスミに礼を言って、俺は土嚢のように立てかけている火薬を目指す。

黒色火薬の爆発力ならこの周辺200m程度から退避すればとりあえず死なないはずだが、

塩素酸カリウム(漂白剤・染料・医薬品などに用いられる)を加えて爆発力を上げていればその限りではない。



「起爆装置ははどこだ!?」



俺は重い体を引きずってそれらの中にあるだろう起爆装置を探す。

自分でも分かるほどよたよたとしてはいたが、とりあえず起爆装置らしき者を見つける事は出来た。



「だが……火薬の下敷きにしてある……くそ!」

「まあ、待ちな。そのくらいなら何とかするぜ」

「チカラ・シゴトナラ、マカセロ」

「へっ、水臭いぜ、アキトよお」

「微力ながらお手伝いさせていただきます」



いつの間にか、護人やカイル一家が近くまで来ていた。

当然ではある、ここを落とした直後なのだから……。

俺は、みんなに火薬をどけて下にある起爆装置を露出させるように言った。

振動で爆発する可能性もあるので慎重にするようにとも。



「帝国軍の撤退はどれ位進んでいる?」

「後4割ほど撤退すれば全てここからいなくなるわ」

「それまでに止めないとな……」



どけ終わったのは1分ほど後、イスラはまだ起爆装置を押してはいないようではある。

とはいえ時間の問題だ、あいつなら、あんな表情が出来る奴なら多少味方が巻き込まれてもやるだろう。

となれば……。



「起爆装置は……なんとか、切り離しが可能なようだな……」

「大丈夫ですの? その……」

「爆発物の処理は専門じゃないが、何とかして見るさ」



ベルフラウの心配を笑顔でいなし、爆弾を見つめる。

俺は爆発物処理の専門家ではない、しかし、ある意味何度もやってきたのも事実。

慎重にコードを切断していく、奴の作る爆弾の癖は何度か見て知っている。

質実剛健というか、無駄の無いシンプルな作りであることが多い、

奴は解除されるような状況をあまり作らないからトラップに頼るような事はしないのだ。

そういう意味ではやりやすい……しかし、タイムカウントがしっかりしているわけじゃない、俺は出来うる限り迅速に進めていった。



「しかし、こんな事に使う羽目になるとはな……」



俺は、携帯していた調理用具のセットを使っている。

最近、ようやく料理と向き合う気がおき始めたからだ。

持ち運びできるタイプのものを用意したのも偶然なら、常に持ち歩いていたのも偶然。

とはいえ、使っているのは料理バサミだけだが、ニッパとドライバーの代わりに無理やり使っている。

後で研ぎなおさないと使えなくなるかもな……。

余計なことを少し考えていたのがいけなかったのか、震える声でソノラが緊張の言葉を告げる。



「帝国軍が殆ど見えなくなった……」

「これで最後……」



ちっ、ご丁寧にお約束のコードトラップを仕掛けてやがる。

最近遊び心がついたのか?

そんな事より赤か青か……いや、分かりきっているな。

迷わず赤を切断する……。



「帝国軍……いっちゃったよ」

「爆発しねぇな……」

「解除できたみたいだな……」

「ふぃぃぃ。寿命が縮まったぜ」



奴は赤が好きだ、しかし、同時に皮肉が好きな奴でもある……。

だからこそ、赤を切断した。

きっと俺を倒せるくらい強くなれという意味だろう。

奴は死闘を欲しているのだから……。



「おい、あんちゃん大丈夫か!?」

「あ……ああ、だが暫く動けそうに無い……」

「やることはやったのじゃ、ゆっくり休むが良い。キュウマよ、アキトを頼むぞ」

「はっ、さあ背中に捕まってください」

「ああ、だが暫くここで倒れていることにする。指を動かすのも億劫なんだ……」



ミスミたちの去っていく足音を聞きながら仰向けで寝転がる。

所在無げなキュウマが立ち尽くしていたが、ほぼ全員がぼろぼろなのだろう、とどまっていようというものはいなかった。

とはいえ、当然足音もみな疲れた勢いの無いものばかりだったが……。

俺は、結局何ができたのか……北辰に踊らされただけ……せっかく戦闘力を強化できても、あの程度の罠にかかっているようでは意味が無い。


だが、それでも結局俺は俺でしかない……全力でやれることをやっていくしかないのだろう。


体がだるい……このまま寝てしまうのもいいかも知れない、そう想いはじめていた。


しかし、眠気が襲ってこない……精神的にはまだ落ち着けてなどいないという事だろうか。


結局俺は、心配してやってきたハサハがゆすり起こすまでここで体を休めていた……。


ただただ、何もかもが億劫になって……。


しかし、それでもここにいる事が嬉しいと感じていた。




















目が覚めたらベッドの中でした……。



体のあちこちがつらくて、まるで、自分の体じゃないみたいで……。



原因は、わかっています。



あんな無茶な形で剣を喚び出して、一気に力を使ったから……。



でも、後悔はしていません。



ただ、気がかりなのはイスラの事……彼は、どうして……?



窓の外はひどい雨



その音を聞きながら思いをめぐらしていると、控えめなノックの音が聞こえました……。







「よう、起きたか?」

「あっ、アキトさん。珍しい事をするからびっくりしました」



私はベッドの前に座ったアキトさんに驚き、少しして微笑みを返しました。

でも、同時に気がつきます。

私はまたアキトさんの命を危険に晒したという事に……。



「すいません、私……」

「何の事だ?」

「私が抜剣したということは、アキトさんの命が危険に晒されたという事……ですよね」

「立ちくらみがする程度の事だ。大げさに言うほどじゃない」

「それは……」



私はアキトさんではないから、本当の事は分かりません。

でも、毎回のアキトさんの状況が唯の立ちくらみ程度ではないのは間違いありません。



「まあ、今回はお互い様という事にしておこうじゃないか」

「えーっと何がです?」

「無茶をするのが、だ」

「あー……確かに、そうかもですね」



私は思わず汗を書いちゃいました。

でも確かにそうです。馬鹿なことですけど、同じ選択なら私には同じ答えしか出せないと思います。

だから、アキトさんと同じ……え?



「ちょ! アキトさん今回も無茶したんですか!?」

「うっ、やぶへびだったか……」

「もー、私とアキトさんじゃいつも無茶のレベルが違うんですから」

「そうか?」

「そうですよ!」



アキトさんのその困った様子。でも、少しどこかで微笑んでいるかのようにも見えます。

多分、私を元気付けてくれたんですね。

私は心の中で感謝して、でもなんかこういうのいいな、と思いました。



「あっ……あのですね」

「ああ」

「わっ……私、これからも……」

「アキトよ、こんな薄情者よりもわらわ所に来ぬか? わらわならおぬしをあだやおろそかにせぬぞ?」

「なっ!?」



いつの間にか、私とアキトさんの間にミスミさまが出現していました。

ちょっ! 今大事な所だったのに!!

私はほとんど無意識にふくれっつらになります。



「なーんじゃ? よもや、おぬし」

「わーわー!! いいです! また今度にしますから!!」

「とっとなんだ、修羅場だったか?」

「えー、よく見えないよ。あたしにも見せてー」

「ちょ、丸見えよ。もう、せっかく息を殺して見てた意味無いじゃない」



あ……みんなも来てたんですね……。

うっ、恥ずかしい……。



「なんにしても、元気になってよかったですねアティ」

「そうそう、しょんぼりしてる先生なんてらしくないぜ」

「いつも一生懸命なのがいいところですものね」

「ビーッ、ビビッ!」

「(こくり)」

「結局ここにいる人はみんな来てたんですね……」

「そういうことだ」



アキトさんも笑います。もしかして、皆が来てた事知ってたんじゃ……。


あーもー!! 何かはめられた感じです!



でも、確かにこういうのも楽しい。私……。



いつまでも、こんな仲間と笑っていられたらいいなって。



こんなやさしい時間が続けばいいって。



そうして、私は自分が守るべきものがこれなのだと再確認したんです……。






あとがき


がーデータ一部吹っ飛んで書き直した……。

書き直すとテンション下がるし時間は余計にかかるし……。

ろくな事が無い。


まあなんとかかんとか八章終了です。

九章は間章ですので、短めに終わらせて十章以後はなんというかイスラがいろいろしてくるようになりますw

早めに無色の派閥も出したいところですねー。

でもまだまだ先かなー。

とにかくがんばります。





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